もしもドロップシッピング

2012年05月17日

書評385 永瀬隼介「帝の毒薬」

週刊文春がこの3月から30円値上げして380円となっています。日経新聞は駅売りが160円だっけか。たしか3年位前に値上げしているんですよね。紙媒体はなんだかどんどん高くなっているんですが、洋紙の卸価格は昨秋上がった以降は下がり続けているわけでして、このデフレの中にこの野郎サラリーマンの懐を直撃するなよ〜と腹立たしさ満開です。
購読やめようかと思いながらもこの2誌紙は、なかなかやめられまへんな。文春はいま佐々木譲センセーが「地層捜査」の第二弾である「代官山コールドケース」なぞ始めやがるし、日経は「私の履歴書」に桂三枝が出ているし(面白いですこれ。時折とんでもなく面白い話が出てくるので困ります)で、読みたいコンテンツがあると止めるに止められません。困ったモンです。


内容(朝日新聞出版HPより)
帝銀事件はなぜ起こり、葬り去られたのか? 戦後最大の闇に挑む怒濤のミステリー! 太平洋戦争が終結するまで満州で細菌兵器の研究をしていた倉田部隊は、極秘裏に中国人やロシア人 などの捕虜たちに人体実験を繰り返していた。終戦後の昭和23年1月、帝國銀行椎名町支店に1人の男が現れて「近所で集団赤痢が発生した。その家の者がこ の銀行に来ていることがわかったので」と予防薬を全行員に渡した。それを飲んだ16人中、12人が絶命、4人が 意識不明になった大量殺人事件に日本中が驚愕した。占領下の混沌たる東京で発生し、世界中に衝撃を与えた帝銀事件の真相とは?

曹源寺評価★★★★★
実在の未解決事件を小説仕立てにして独自の解釈を加える手法というのは、読み手が事前に情報収集することで理論武装することが可能になりますので、ある種のリアリティが増すことは事実ですが、逆に言えば史実との相違点などが多いといくらでも突っ込みができるということも言えると思います。その意味においては、こうしたジャンルの作品というのは著者としても未解決事件への洞察は入念な下調べや史実の見直しを含め、徹底した取材活動なしには描き得ないだろうと推測できるわけです。
もともと永瀬センセーは別のペンネームでノンフィクションも描かれていらっしゃるので、この手の作品はお手の物かもしれませんが。
本書は誰もが冤罪事件と思っている帝銀事件の真相を、永瀬センセーなりに解釈したミステリと言えなくもありません。ただ、当然のことながら永瀬小説でもありますので、血沸き肉踊る(ちょっと大げさだな)迫力満点のシーンが随所に登場します。冒頭の舞台は太平洋戦争終盤の満州で、倉田部隊(これは731部隊のことかしらん?)の歩哨であった主人公の羽生誠一が見た凄惨な実験現場から始まります。
終戦後は羽生が警視庁の捜査一課に配属され、あの恐るべき帝銀事件が発生するという設定です。捜査一課は16人に平然と毒薬を飲ませる手口や、スポイトの持ち方の特徴、それに遅効性の青酸化合物といった証拠から、戦時中に医療関係ないしは化学研究所関連施設に勤務経験のある人間と推測しますが、これとは別に、銀行の支店長に渡した実在する人物の名刺を手がかりとした「名刺班」が独自の捜査活動を展開します。この名刺班の動きが結局は平沢貞通氏の逮捕に至ることになるわけですが、読めば読むほどおかしな話であることが理解できます。歴代の法務大臣の誰もが死刑執行の判子を押さなかった平沢氏、本書もまたこの裁判を冤罪と位置づけています。
羽生は倉田部隊のいわば生き残りではありますが、当時の上官を探してその疑惑を問いただす場面などもあって、しかもその対比が「羽生=チンピラ崩れの短気な警官」、「元上官=ちょっと危ない感じの悪役」というかたちでどんな展開になるのかワクワクします。これに、羽生の元戦友であるコミュニストの山下や、同じく倉田部隊にいたものの、陸軍中野学校出身で何をしていたのか分からない(これはちゃんと伏線を回収していてすごいです)クールな片桐など、登場人物の仕立てもお見事です。
最後は「血のメーデー事件」を舞台にしたエンディングで、当時の時代背景などの描写もグイグイ引き込まれました。正直、最初は第3部ってまるまるいらないんじゃないかと思いましたが、これはこれで伏線の回収になっているし落としどころとしてはこれでいいんだなあと実感しました。
永瀬作品のなかでも渾身の力作ではないかと思います。自分にとってはある意味

ノンフィクションみたい

に読めましたので、収穫の多い作品でもあります。



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2012年05月14日

書評384 伊集院静「星月夜」

今日は昼ごはんにコンビニに寄って「フライドチキン」を注文したんですが、オフィスに戻って開けてみたら中身はなんとコロッケでしたよwww
そういえば、袋に入れるときにソースを入れていたんですが、ボケーっと見逃していました。店員が「フライドチキンお待たせしました」なんて言うもんですから、すっかり信用していたんですね。
なんだか50円損するのも癪でしたので、もう一度コンビニに行ってレシート見せて「コロッケだったんすけど」なんて言ってちょっとだけ横柄にしていたら、「すみませんすみませんすみません」「すぐにお持ちいたします」「もしよろしければコロッケもお持ちになってください」とやけにバカ丁寧な対応でした。Fマートさんは店員教育ができているのかいないのか。まあ、あまり腹も立たないのでこちらも「いいですよ〜」なんて。
オレも人がいいなぁ。

内容(文藝春秋HPより)
東京湾で発見された若い女性と老人の遺体はロープで繋がれていた。女性は捜索願の出ていた岩手出身の十代女性、老人は出雲の鍛冶職人と判明し、警察は双方のラインから捜査を進めていく。女性が働いていた風俗店の捜査からある被疑者が浮上する一方、老人の仕事場には最近何かを作った形跡があった。事件の鍵を握るのは、老人の孫娘、黄金色の銅鐸、そして、遥か昔の「星月夜」の美しくも哀しい記憶……。

曹源寺評価★★★★★
あの伊集院静センセーが推理小説を描いたというので話題になった本がこれです。う〜ん、どうかね〜。自分は別に伊集院ファンではないし、他の作品も良く知らないのですが、本書に関して言うなら「甘い」って感じですかね。
出だしは引き込まれるし、田舎の老人の描写や若者の生々しい生活のくだりはさすがにすばらしいです。読んでいると一瞬、その世界に足を踏み入れてしまうような錯覚さえ感じます。
ですが、ミステリとしての描写はイマイチな感じが拭えませんでした。それは、伏線の回収に抜けがあったり(なぜ彼女は監禁されなければならなかったのか?とか、銅鐸って結局なんだったのよ?とか)、犯人の過去の描写が唐突でやっつけ的だったり(この部分をもっと厚く書き込んだら、上下巻くらいになって面白かったのかもしれないです)、刑事の地道な捜査はいいけれど色々な人がその時々で主人公になったりで分かりにくかったりします。
ほんでですね、文藝春秋のホームページにはこういううたい文句が掲載されています。「1961年『砂の器』、1963年『飢餓海峡』、そして2011年、社会派推理小説の最高傑作が〜」っておいっ!また砂の器かい!なんで社会派というと砂の器なんでしょうね。「人間の証明」でも良いし、「火車」でも「理由」でも「マークスの山」でもいいんじゃないですか?

いいかげん砂の器を引き合いに出すのはやめれっ!

と叫びたくなる今日この頃でした。




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2012年05月10日

書評383 誉田哲也「レイジ」

5月は花粉症が終わって暑くもなく寒くもない、最高の月かもしれないな〜なんて思っていましたが、今度は竜巻ですか。台風のほうがなんぼかマシなくらい、おっかない存在ですね。これは気をつけましょうと言ってみても、じゃあどうやって気をつけるんかいな?というくらい唐突で、破壊力もハンパないですから、アメリカみたいに地下室でも作って逃げ込むしかないのかもしれないですね。
でも地下室ってどうなんですかね?ガレキが上に残ってしまったら地上に出られないですよね。津波に備えて地下室を作ろうとしている自治体があるそうですが、もし船でも上に乗っかろうものなら2ヵ月くらい出られないんじゃないですかね。

内容(文藝春秋HPより)
剣道女子2人から、今度は音楽男子2人の青春小説だ!
孤高の礼二と世渡り上手な航(わたる)。2人が初めて組んだバンドは成功を収めるが、それ以降互いに意識しつつも歩み寄れず、やがて……
音楽の才能は普通だが世渡り上手なワタルと、才能に恵まれるも、孤独に苦しみ続ける礼二。2人は中学最後の文化祭でバンドを組み、大成功を収めるが、礼二の突然の脱退宣言によりバンドは空中分解する。その後2人はお互いを意識しつつも相容れないまま別々の道へ。紆余曲折を経て、礼二がようやく巡り合った理想のバンドがある事件に巻き込まれてしまい……。武士道シリーズで女子を描いた著者が、今度はロックする2人の男を時代の変遷とともに描いた音楽青春小説です。

曹源寺評価★★★★
誉田センセーはスカッとするくらい清冽な青春小説を描く一方で、ドロドロした猟奇的な殺人事件も描く方でいらっしゃいます(前者を「白誉田」後者を「黒誉田」というらしいですwww)。本書は白誉田に属する青春小説でありますが、ジャンルは音楽なのでとっつきにくい人も多いかもしれません。かく言う自分は小中学生時代の音楽こそ優秀(!?)でしたが、別に絶対音感があるわけではなく、楽器を演奏できるわけでもないので、専門的な用語の羅列にはちょっとついていけないところもあります。
しかし、全体のトーンは非常に何というか熱を帯びているというか、読んでいてだんだん何かが漲ってくるような感じを受けました。これぞ誉田青春小説!みたいな感じでしょうか。まあ、青春といっても最後の方はアラサーですから、

いい年こいたおっさん達がなにしてるん?

という感想もありそうです。
舞台が80年代から2000年代の設定で、ちょうど音楽業界がニューミュージック→ロック→イカ天ブーム→小室サウンド→ラップという変遷を経て、凋落への道を進んでいった時代でもありますので、こうした時代背景も的確に捉えつつ、登場人物の音楽性やポリシー、音楽への情熱みたいなものが混ざり合ってドラマが生まれているというのが非常に良く分かる展開になっています。このへんは本当にうまいな〜と思います。
軽く読めるし、音楽に造詣の深い人なら間違いなく嵌るし、音楽に詳しくなくてもドラマに引き込まれるしで、これ相当よくできてませんか?

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2012年05月02日

書評382 柴田哲孝「中国毒」

GWまっただなかですが、今年は天気が悪いですね。後半に期待しましょう。
さて、このところ交通事故が多発しているんですが、おっかないですね。いつ集団下校の列に車が突っ込んでくるか分からない世の中、いつバスの運転手が居眠りするか分からない世の中、いつアクセルとブレーキを踏み間違えた車がコンビニに突っ込んでくるか分からない世の中。つまり、いつ死ぬか分からない世の中、という風に言い換えることもできます。
私たちは常に死と隣り合わせに生きているということを実感させられる事件ばかりです。こんなファイルもみつけたので貼っておきましょう。
これはあなたの人生です.jpeg

まあ、車に関しては早く「運転免許証を差し込まないと始動しない」とか「呼気を測定してアルコール分が検出されたら始動しない」とか「睡眠時の脳波が検出されたら急ブレーキがかかる」とか、いくらでも開発できそうなもんですが、どないでしょうか。

内容(光文社HPより)
絶対にないと言い切れるか?徐々に明かされる事実から目が離せない!!
厚生労働省健康局疾病対策課の尾崎裕司が轢き逃げにあい死亡した。その三日後、東京医学大学教授・小野寺康夫が自宅で殺害される。二人はともに、近頃激増しているクロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)の特別調査研究班のメンバーだった。CJD問題を追う週刊誌記者・奈村由美子は、二つの事件のつながりを疑う。
一方、警察庁の外事情報部国際テロリズム対策課刑事・間宮貴司は、入国が伝えられるテロリスト・毒龍を追っていた。同じ手口での殺しが続く。
一連の事件は、毒龍の仕業なのか? 毒龍の背後には、誰がいるのか? 目的は?国民の気づかないところで、何かが進行している。CJD大流行の原因はいったい・・・!?

曹源寺評価★★★★
タイトル、いいですね〜。「中国毒」ですよ。なんだか「新宿鮫」みたい(笑)。かっこいいのか悪いのか。まあ、ちょっと旬を逃した感じは否めませんが、でもこれ旬の頃に出していたら中国から訴えられていたかもしれないですね。そのくらいショッキングな小説(とは思えないくらいリアルという意味で)です。本書はロシア人テロリストと公安警察官の対決を描く一方で、クロイツフェルト・ヤコブ病(CJD)の研究をめぐり関係者が続々と殺されていく事件、そしてCJDの感染源を追うジャーナリストとWHO職員などの物語が交錯する構成となっています。
最近の柴田センセーは史実とフィクションを織り交ぜるから、現実とドラマの境界線があいまいになってしまうんですよ。だから、本書も読み進めると何やら本当の出来事のように思えてくるのです。オウム真理教だの国松警察庁長官狙撃事件だの、人口硬膜による薬害事件だのが、いっぱい出てきます。
リアリティが増すなかで、さまざまな場面が交錯してはひとつになっていくというストーリーは、読んでいて

「あぁ、つながったわ〜」

と少し感動したりしますね。こういうの好きです。
ただ、ストーリーはちょっともったいないと言うか、結論としてはかなり面白いのですが、まあ、こうした事件(CJDの方ね)はいわゆる「後の祭り」状態ですから、いまさら汚染ルートが解明されてもどうしようもないわけで、誰も救われないという虚しさだけが残りますね。これはテーマ的にしょうがないとして、じゃあ毒龍は誰の依頼を受けて何のために殺人を繰り返していたのか?このへんがやけに曖昧で、ちょっと煮え切らないですね。
でも、「GEQ」とかでリアリティ溢れる陰謀物(!?)を世に問う柴田センセーならではの、脳みそにサイダーを注ぎ込まれるかのような感覚は健在です。「震える牛」を読んだ次が本書だったものですから、もうね、怖くて肉食べられません。「震える牛」は牛肉でしたが、本書は中国産の豚肉(あら、ちょっとネタバラシ)です。こうなったら自分で鶏でも飼うしかないのか〜?




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2012年04月25日

書評381 相場英雄「震える牛」

平日は毎朝4時40分くらいに起床して、夜11時くらいに就寝。仕事もストレス溜まりっぱなしで時間に終われる毎日。土日も起床時間が同じで、テニス漬けにより肉体をいじめ抜き夜も遅い。こんな生活が3週間も続くと、蓄積した疲労がいつまで〜も抜けないですね。眼の焦点が合わないときがあるんですが、ヤバイかしらん。GWまではガマンの日々だな〜。


内容(小学館HPより)
平成版『砂の器』誕生!
警視庁捜査一課継続捜査班に勤務する田川信一は、発生から二年が経ち未解決となっている「中野駅前 居酒屋強盗殺人事件」の捜査を命じられる。初動捜査では、その手口から犯人を「金目当ての不良外国人」に絞り込んでいた。田川は事件現場周辺の目撃証言を徹底的に洗い直し、犯人が逃走する際ベンツに乗車したことを掴む。ベンツに乗れるような人間が、金ほしさにチェーンの居酒屋を襲うだろうか。同時に殺害されたのは、互いに面識のない仙台在住の獣医師と東京・大久保在住の産廃業者。田川は二人の繋がりを探るうち大手ショッピングセンターの地方進出、それに伴う地元商店街の苦境など、日本の構造変化が事件に大きく関連していることに気付く。
これは、本当にフィクションなのか?
日本の病巣、日本のタブーに斬り込んだ、衝撃のエンターテイメント大作!

曹源寺評価★★★★★
この相場英雄という方は元々、時事通信社の記者をやっていらした方で、ダイヤモンド社の「経済小説大賞」を受賞した経歴がおありだそうです。受賞作の「デフォルト(債務不履行)」は読んだ記憶があります。
それ以来ということになりますので、7年ぶりですね。本書は新聞の5段ぶち抜きで広告が掲載されていたのでインパクトが強かったのを覚えています。
タブーに挑戦した内容だという触れ込みでしたので、業界の裏話が中心になるのかなあと思っていましたが、内容は捜査一課の田川刑事を中心としたミステリで、これに元新聞記者でWebニュースサイト記者に転身した鶴田真純のストーリーが交錯しながら、事件の真相に迫るという展開になっています。
ただの警察小説ではなく、むしろ奥深いテーマが見え隠れします。それは「巨大SCの繁栄と商店街の没落」であったり、「食肉業界の深い闇」であったり、「地方都市の衰退」であったり、ということで、なるほど、郊外の幹線道路沿いは確かに大手小売チェーンの巨大店舗ばかりになり、地方出張しても金太郎飴のような同じ光景が眼前に広がります。巨大なショッピングセンターがオープンするとなれば、一応地元の企業や店舗にも声がかかりますが、割高なテナント料から出店もままならず、結局安さに惹かれた客がSCに流れ込んで地元の商店街がどんどん衰退していき、シャッター通りになります。しかし、ちょっとでも売り上げが落ちればテナントも撤退するでしょうし、目玉のテナントがいなくなればSC自体の集客力も落ちるでしょう。SC全体では成長を見込むことが出来なくなり、結局SC自体が撤退となれば、残された住民は買い物難民になるわけです。つぶされた商店街もたやすく復活は出来ないでしょう。おそらく、SCには「社会インフラ」としての自覚などなく、まるで焼き畑農業のように市場を荒らして去っていくだけの存在なのかもしれません(本書はこのような「悪」としてのSCを強調しています)。商店街は地方都市より、むしろ東京のほうが頑張っているのかもしれないですね。本書では中野区の商店街を人情味溢れる街として描いていますし、自分の住む街も南北と東西の2本の商店街モールがあって元気です。本書を読むと、商店街のよさを再認識させられます。
食肉業界のほうは、その昔にTV番組でミー○ホープ事件を再現したVTRを流していたのを食い入るように観てしまったために、非常に印象に残っています。あの事件は本当に胸糞悪かったです。挽き肉に古いパンを入れていたとか、水を足して重量をごまかしていたとか、いまでも信じられないようなことを平気でやっていたんです。うちの息子は小麦アレルギーですから、そんな挽き肉食べようものならアナフィラキシー起こして救急車もんですよ。そんなあくどい業者も、本書には登場します。
あと、「食品の裏側〜みんな大好きな食品添加物」という本がベストセラーになりましたが、「古い肉」と「混ぜ物」と「添加物」でできた成型肉は本書でも登場します。本書を読むだけで、安いだけのレストランとかスーパーで買い物できなくなります。この本とミートホー○事件を反面教師として、我が家は未だに野菜は無農薬野菜のお店で、肉は信頼の置ける肉屋か生協だけでしか買いません。
本に戻りましょう。難しいことを専門用語を交えて書いているわけではありません。むしろ、難しい表現や経済用語などを避けて平易に書かれていますので読みにくくはないし、展開が速いからどんどん読み進めることができます。どことなくミート○ープやイ○ンを髣髴とさせる設定で、現実と照らし合わせながらイメージすることもできます。
ただね、「平成の砂の器」とかオビに入れるのやめましょうよ。本作は砂の器とは似て非なるものですよ。地道な捜査の積み重ねによって犯人像をとことんまで絞り込んでいく展開はお見事ですが、砂の器はまたちょっと違うテーマが内包されていますし、本作は警察小説と経済小説の高次元での融合と呼べる、新たな頂点に立つ作品ではないかと思います。社会派ミステリという言い方でも通じるかもしれませんが、このくくりに入れるのはちょっと憚られるような感じがします。
あと、最後がちょっと後味悪いなあ。警察の闇まで加わって、著者は

とことんタブーに挑戦しているなあ

と感じた次第(あと、新聞業界の闇も書かれているかもしれません)。




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2012年04月20日

書評380 佐々木譲「地層捜査」

石原東京都知事の尖閣諸島買い上げ発言は、非常に興味深いですね。特に新聞各紙の反応が。

朝日新聞(2012/4/18)
尖閣買い上げ―石原発言は無責任だ
http://www.asahi.com/paper/editorial20120418.html
 
毎日新聞(2012/4/19)
石原氏の尖閣発言 都が出るのは筋違い
http://mainichi.jp/opinion/news/20120419k0000m070139000c.html

読売新聞(同上)
石原氏尖閣発言 領土保全に国も関与すべきだ
http://mainichi.jp/opinion/news/20120419k0000m070139000c.html

産経新聞(同上)
尖閣「購入」 石原構想で統治強化を 対中危機意識を共有したい
http://www.iza.ne.jp/news/newsarticle/column/opinion/557351/

いや、確かに国がやるべき仕事かもしれないけど、新聞は批判する前に「国が責任を持って買い取れ」と主張したことがただの一度でもあるかね?国土保全、安全保障などの観点から離島の管理をどうするのか?という趣旨で、社説でも書いてみてほしいわ。
それに、地権者は「国が信頼できない」から都と契約すると言う話であって、都知事を責めるいわれはどこにもないですね。責めを負うべきは政府だと思いますが、そうした論調がどこにもないのが不気味です。まあ、読売と産経はまだいいか。朝日と毎日は相変わらず酷いなあ。


内容(文藝春秋HPより)
2010年、時効撤廃。刻まれた悲劇の古層に迫る
時効撤廃で再捜査となった東京・荒木町の殺人事件。封印を解かれた町の記憶、人の記憶が照らしだす事件の真相は? 新シリーズ開幕
1995年に東京・荒木町で起きた老女殺人。確たる手がかりもなく、未解決のままだったこの事件が、2010年の公訴時効撤廃を受けて、再捜査の対象となる。捜査一課の水戸部と、以前この事件を担当していた地域指導員加納は、当時の捜査本部が着目した土地トラブルを追いながら、かつては芸妓、後に置屋の女将として生きた老女とこの街の記憶に目を向けていく。そう、事件の「地層」を掘り起こすのだ――。2010年に『廃墟に乞う』で直木賞を受賞した警察小説の名手が放つ待望の新シリーズ、いよいよ開幕です。

曹源寺評価★★★★
公訴時効の撤廃という、警察官にとっては負担の大きな法改正がありました。これを受けて、再捜査のための特別チームを警視庁内に作って時効になりかけた事件を掘り起こす−
なるほど、時流に乗ったテーマですね。
場所が新宿区荒木町というのもいいですね。地下鉄丸の内線四谷三丁目駅から北東に数十歩あるけば、そこはもう昔の遊郭街です。自分もそれほど遠くない場所に勤務しているだけに、何度か足を運んだ事はありますが、歴史的な背景は知りませんでした。「昔、この辺はこういう街だったんだよー」といったブラタモリ風味な薀蓄は非常にためになります。四谷界隈というのは意外とDEEPな街でして、明治時代などはちょっとアングラな場所もあったそうですね(なんせ「谷」だったわけで)。
また、捜査を担当する若い刑事・水戸部裕と、引退した刑事で元相談員の加納良一(わあぉ、香納諒一とかけているのか?)が、異なる視点で捜査を掘り起こすという展開も興味深いです。
わずか6日間で捜査が完了してしまう違和感と、ラストの拍子抜け感が

少〜しだけ残念

ですが、聞き込みを中心とした地道な捜査から犯人像を絞り込んでいく展開は、警察小説ファンにはたまりませんね。現在進行形の事件と異なり、昔の事件を掘り起こすプロセスというのが、今までの警察小説にはなかった(もしかしたらあったのかもしれないですが)ということで、ちょっと新鮮な気分になれるかもしれません。
これ、新シリーズになるということですが、本当ならうれしいですね。「警官の血」シリーズは3部でおそらく完結でしょうし、北海道警シリーズはちょっと堅いイメージがあるので「制服捜査」シリーズくらいがちょうど良いと思っていました。次の作品にも期待しましょう。




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2012年04月17日

書評379 翔田寛「築地ファントムホテル」

さて、いよいよAmazonが日本市場で動き出しました。
アマゾン電子書籍、40社と配信合意 学研・PHPなど
電子書籍のプラットフォームを席巻させるのはどの企業になるのか、本当に見ものですね。コンテンツ配信で一日の長があるAmazonは本当に脅威だと思います。学研や主婦の友社、PHP研究所などが動き出したわけですが、大手版元はまだ動いていませんので、「虚空の冠」状態です。楡周平先生の予言どおりになったらすごいかもしれません。


内容(講談社HPより)
乱歩賞作家渾身のミステリー快作!
焼け落ちた巨大な館。そこには“魔人”がいた。
高さ約36メートルの望楼付き2階建て、間口約73メートルに全102の客室を擁する日本初の西洋式ホテル。明治初頭の東京にその偉容を現した築地ホテル館は、わずか数年後に灰燼と帰した。
明治5(1872)年の銀座大火でこの大建築が焼失するところから物語は始まる。クリミア戦争、インド大反乱、アロー号事件など、19世紀後半に世界を旅して歴史的報道写真を多数残したイギリス人写真家、フェリックス・ベアトが、焼け跡から発見された刺殺死体の謎を追う。
時代の狭間に現れた亡霊は、なぜ生まれ、どこへ消えたのか?

曹源寺評価★★★★
乱歩賞作家のなかではそれほど注目していたわけではないのですが、「参議怪死ス」でも歴史ミステリーを披露してくださった翔田寛センセー、今回も明治5年という維新真っ盛りの時代を背景として実際にあった事件をモチーフになかなかの作品をあげていただきました。
築地ホテル館というのが本当にあったんですね。知りませんでした。そして、わずか数年で焼失してしまったのも歴史上の事実です。ここに主人公を日本語の達者なイギリス人写真家を置き、助手に元旗本の子孫(つまり落ちぶれた侍ということですかね)の東次郎を据えるという見事なプロット。さらには、当時の時代背景としての廃仏毀釈、外国人の移動の自由制限、新政府の思惑と反勢力の動き、さらには維新のドサクサにまぎれてうごめく輩達。事件の裏側を探ると飛び出してくる様々な真相。なかなか読ませてくれました。
読みづらいとか理解できないとか、否定的なコメントも書評サイトにはいくつか散見されますが、自分にとっては全然そんなことありませんでした。

最後がちょっとくどいけど許す

って感じです。
本書のような歴史ミステリーがちょっと好きになりそうです(明治以降に限る)。




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2012年04月12日

書評378 今野敏「防波堤 横浜みなとみらい署暴対係」

日経新聞を読み始めて、はや15年、いやもっとか、経過しておりますが、最近になっていい加減やめてしまおうかと思うようになりました。
その理由は
・一面記事はうそばっかり(何回だまされたことか)
・政治記事は政局ばっかり(政党に「政策を語れ」とか抜かすくせに、政策を記事にしないのは卑怯)
・経済記事は誇張ばっかり(財務省の言いなり記事が目立つね)
・産業記事は広告ばっかり(プレスリリース読めば十分だし、カネもらってんのか?という記事もあるね)
・スポーツ記事はちっちゃい(記事は他紙よりかなりまともだが、ボリュームがほしいね)
・社会記事はネタばっかり(スクープとかないの?)
まあ、日経に限らず、大新聞はたいていこんな感じでしょうが、日経の場合は「経済新聞」を名乗るだけに、経済ネタが命であるはずです。ですから、スポーツ記事が少ないとか言うのはある意味反則です。ケチつけるレベルとしては間違っていますね、と自己反省。
ですが、その経済記事はどうかというと、最近でもひどい記事があったと話題になりました。
任天堂が日経にブチ切れ(まとめサイトにリンク)
日経やめれば年に5万円浮くなぁ。ちょっと真剣に考えようかな。

内容(徳間書店HPより)
神奈川県警みなとみらい署の暴対係長・諸橋は「ハマの用心棒」と呼ばれ、暴力団から恐れられている。昔馴染みのやくざ・神野の唯一の組員・岩倉が身柄を拘束された.素人に手を出したという。神野がそんなことをするはずがない。陽気なラテン系の相棒・城島とともに諸橋は岩倉の取調に向かった。 表題作「防波堤」他、横浜を舞台に悪と戦う諸橋班の活躍を描く6篇を収録。

曹源寺評価★★★★
「禁断 横浜みなとみらい署暴対係」の続編というかシリーズもので、今回は短編集です。主人公の暴対係長・諸橋とその相棒である城島、部下の浜崎、日下部、倉持、八雲の面々、また、組員が一人しかいない神野組、などなど、いつもの登場人物がいつものように事件を追う。6篇収録されているんですが、なんだか同じようなセリフ、同じような展開、同じような結末が読者を襲います。なんだかデジャブーのように襲います。
そう、

まるで水戸黄門です。

娘が悪者に襲われ、黒幕の越後屋が悪代官と組んで、そこへ助さん格さんが乗り込んで暴れて、頃合を見て「この紋所が目に入らぬか」と一喝してみんなが平伏す。黄金のパターンですね。本書もまさしくそれであります。一触即発の横浜で、暴力を未然に防ぐために街を歩き、情報を集め、ときには強引な捜査も行う。そして誰かが一言「さすがハマの用心棒」。それに対して諸橋が「オレはそう呼ばれるのが大嫌いなんだ」。ウゼーッと思う人も多いでしょうが、しつこいくらいに繰り返される名セリフ。奇妙な安心感。それでも面白いと感じるのは、まさしく今野センセーの筆力にほかなりません。
まあ、連載を単行本にすると時にこういう弊害も出てきますが、これって

再編集したほうがいいんじゃないすか?

この水戸黄門状態をわざと狙ったのだとすると、ある意味たいしたものだとは思いますが。




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2012年04月06日

書評377 皆川博子「開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―」

ウチの会社は例年の半分ですが新入社員が入社してきました。彼らの正式な配属は5月になってからですが、昨年度と同様、自分のいる部署には恐らく一人も入ってきません。残念です。
ウチの会社はもともと営業重視の風潮がありますので、頭でっかちの人間には勤めにくい環境かもしれませんが、ここのところは旧帝大やら早慶上理やらがわんさと入ってきていました。そんな高学歴な人でもコミュ力のない人はたまにいますね。今年の新人は少数精鋭で採用したと信じて、期待することにします。

内容(ハヤカワ・オンラインHPより)
開かれたのは、躰、本、謎。作家生活40年のキャリアを誇る著者の集大成にして新境地! 18世紀ロンドン。増える屍体、暗号、密室、監禁、稀覯本、盲目の判事……解剖医ダニエルとその弟子たちが辿りついた真実とは?
18世紀ロンドン。外科医ダニエルの解剖教室から、あるはずのない屍体が発見された。四肢を切断された少年と顔を潰された男性。増える屍体に戸惑うダニエルと弟子たちに、治安判事は捜査協力を要請する。だが背後には、詩人志望の少年の辿った稀覯本をめぐる恐るべき運命が……解剖学が先端科学であると同時に偏見にも晒された時代。そんな時代の落とし子たちがときに可笑しくときに哀しい不可能犯罪に挑む。

曹源寺評価★★★★★
読書ジャンルが偏っている自分は皆川博子さんという作家先生を寡聞にして知りませんでしたが、作家歴40年を超える大ベテランでいらっしゃいます。自分の不勉強を恥じるばかりです。

しかも御年81歳!

博学にして深い洞察力に裏打ちされたミステリとしても一流ですが、ただの謎解きではなく、18世紀のイギリスを舞台にしたロマンティックな時代小説でもあります。
外科医にして解剖教室を開くダニエル・バートンとその弟子たちが、自分たちの教室から発見された死体をめぐって推理を働かせるストーリーと、地方から出てきた詩人志望の少年ネイサン・カレンの周辺で起こる不幸な出来事が交錯して始まります。
最初は読みにくいです。自分はタダでさえカタカナの名前を覚えられなくていつも翻訳物で苦労させられるのですが、なんつうか世界に入りにくい。キャラクターはそれなりに際立っているのですが、なかなか頭に入らない。解剖シーンも精緻すぎてちょっとグロいレベルです。途中でやめようかとも思いましたが頑張って80ページは読みましょう。
するとなんということでしょう。いつのまにか本書の世界に浸っている自分がいました。ちょっと新鮮な驚きです。中盤からはもうどっぷりと浸れます。

読了まで浸りっぱなしです。

これはやはり作者の筆力でしょう。時代背景を精密に描写する表現力だったり、ユーモアを聞かせた会話の妙だったり(盲目の治安判事ジョン・フィールディングのやりとりだけは間に「眼」を担当する付き人アンのセリフが入ったりするので分かりにくいのですが)、ベテランならではのうまさが光ります。
そして終盤にかけてのどんでん返しのオンパレード。誰のセリフを信じてよいのやら、困ってきますが、後半の主役の一人は治安判事のジョンであります。ジョンのセリフに張られた伏線を、あざやかに回収していく展開は爽快の一言です。2011年の「このミス」4位は伊達ではありませんでした。




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2012年04月03日

書評376 佐々木譲「警官の条件」

今日は風がすごかったですね〜
昨年の秋、台風が関東を直撃しましたが、その時も交通がだいぶマヒしました。震災の時の衝撃ほどはありませんが、交通マヒもだいぶ慣れてしまった感じがありますね。こういうときは無理して帰宅しなくても、電車が動き出すまであわてずに時間をつぶしたほうが得策です。

内容(新潮社HPより)
『警官の血』の裏切りから9年。再会した二人を駆るのは憎悪か、誇りか――。
芸能人の薬物事件が注目される傍らで、裏社会の変化に対応できない警視庁。安城和也警部が率いるチームも、致命的な失策を招いてしまう。折しも復職した元刑事。彼こそは、かつて安城の内偵によって警察を追われた、加賀谷仁その人だった。交錯する不信、矜持、ラストシーンで迸る激情。『警官の血』の主題を極限まで追求した傑作!

曹源寺評価★★★★★
2008年に刊行された佐々木氏の「警官の血」は、戦後の駐在警官である祖父・安城清二と公安の潜入捜査官だった父・安城民雄、そして三代目として警視庁に入庁した安城和也をつなぐ壮大なドラマでした。
本書はその三代目と、その上司(というか元上司)の加賀谷仁の人間模様をこれまた壮大な展開で描いた続編であります。
なぜ元上司かというと、暴力団との癒着を苦々しく思う上層部の命令で、和也が上司の加賀谷を“売った”のであります。本書はその9年後、依願退職→薬物所持で逮捕→公判で無実を訴え→無罪、となった加賀谷と、若くして警部に昇進した和也が邂逅するストーリーとなっています。
潜入捜査によって部下(別の班ですが)を一人失ってしまう和也。薬物捜査で情報が錯綜して混乱する警視庁。見かねた警務部が加賀谷の復帰を要請。同じ課でも担当班が違えば情報は交換されない縦割りすぎる現場。
なんといいますか、単調なようで単調でない。何気ない捜査現場の描写でも佐々木氏の手にかかれば圧倒的にシリアスな場面に変身します。そして、セリフがカッコイイ。加賀谷の「戻る」という一言だったり、ラストの泣ける一言だったり。ちょっと加賀谷警部かっこよすぎです。逆に和也が平凡すぎるというか、お前主人公だろ?みたいな感じです。
安城家三代の系譜がなんだか日本の警察官の縮図のような、それぞれが警察官の矜持とプライドと誇りと信念を持っていた(和也の場合は本書の最後にその誇りと信念を加賀谷から受け取った、みたいな感じですが)、そんな熱いストーリーが共感を呼び起こしてくれます。
警察小説の

新たなる金字塔

と呼んでも過言ではない!と思ってしまうくらい、本書の出来栄えは良いと思います。異論は認めます。




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