もしもドロップシッピング

2012年01月31日

書評363 横関大「チェインギャングは忘れない」

今日の日経新聞にはちょっと気になるニュースが2本、入っていました。
「JFEとIHI、造船事業を10月に統合」
「ドコモ、らでぃっしゅぼーや買収 成長へ異業種連携」

造船業界は21世紀に入ってから再編を繰り返してきましたが、ここ数年は中国や韓国勢に押され、厳しい環境が続いていました。この合併も一昨年ごろから噂されていたのであまり驚きませんが、市場を荒らしまくった中国・韓国のメーカーには脅威になる可能性もありますので日本勢の巻き返しに注目したいですね。
と、もっともらしいことを書きましたが、日本企業が本当に抱え込まなければならないのは部品メーカーではないかと思うのですがいかがでしょう。中国韓国のメーカーは日本の企業からプロペラを買ったりしているところもあるみたいですから、日本の部品メーカーが日本の完成船メーカーを脅かしているという構図になったりしているわけでしょう。完成船メーカーが自動車メーカーみたいにケイレツ化を進めたほうが競争力強化(というよりライバル排除)につながるのではないかと思ったりもします。

もうひとつの方ですが、こんな異業種間の買収も珍しいですね。前向きに考えれば、農業をITで進化させようとする試みとして注目されるでしょう。しかし、後ろ向きに考えれば、農業がITを進化させるわけではないでしょうと見ることもできますね。
どんな相乗効果が生まれるのかは、ひとつ様子見といこうじゃありませんか。


内容(講談社HPより)
護送車が襲撃され、五人の男が脱走した。脱走した男の一人である大貫修二は、記憶を失い停車中のトラックの前で眠っているところをドライバーの早苗に蹴り起こされた。
その頃、数日後に迫った連続殺人鬼「サンタクロース」対策配備の準備をしていた池袋署の神埼と黒木は、大貫が脱走したという知らせを聞き、秘密裏に捜査をはじめる。
忘れた者、乗せた者、恋する者、探す者――。無関係に見えたさまざまな事実がつながり、最後に待つのは意外な、されど爽快な真相!

曹源寺評価★★★★
早くも3作目に突入した横関氏ですが、氏の作品に共通するものは「読後の爽快感」ではないかと密かに思っています。前作「グッバイ・ヒーロー」も良かったですが、本書も負けないくらい爽やかに読める作品です。
読みやすいし、テンポもいいですね。護送車を襲撃するシーンから、記憶喪失の脱走犯との遭遇、彼を匿いつつ事件の真相に迫る行動、一見関係なさそうな連続殺人犯とのつながり、などなど、肝心のところを隠したまま小気味よく読ませるというテクニックは大したものです。フツーは「なんで高校生の頃会っているはずの大貫修二が分からないんだ主人公は?」とか、「ほかの脱走犯を密告しているのは誰なん?」とか、最後のほうまで引っ張るネタも多いのですが、それでも不満に思えないのはそれだけ筆力がある証ではないかと思います。
大貫修二のキャラクター造型もいいですし、彼を取り巻く絆も良いですね。意外なところにオチがあったりするのも横関作品ならではかもしれません。
この

「明るいキャラで爽やかに読ませるミステリ」

みたいなジャンルを確立していただけないかと切に願う今日この頃です。本当にありがとうございました。




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2012年01月25日

書評362 楡周平「介護退職」

ここんところ、東大の地震研究所の予測やら、尼さんの預言やら、妹の預言やら、1月から2月にかけて大地震の発生を危惧する声が高まっていますが、これまでは往々にして「騒いでいる時に地震は来ない」という過去の実績(!?)がありまして、これだけネットなどで騒がれていては地震も発生しにくいのではないかと思います。

ただ、備えだけはしておきたいですね。
我が家は電気とガス以外の熱源がないので、インフラがやられてしまうと暖を取るのに苦労しそうです。だからといって、備蓄のためだけに石油ストーブを買うのもなんだか気が引けます。直下型地震の場合、耐震性などは関係なくやられてしまうといった記事をどこかで見ましたが、そうなるとこの寒空の下で夜を過ごすのは非常に厳しそうですね。
テント、ランタン、BBQセット、寝袋、木炭、、、ってキャンプ用品大活躍ですね。さて、備蓄備蓄と。


内容(祥伝社HPより)
“その時”あなたは、生活を、家族を、絆を守れますか?
故郷で暮らす老母が雪かき中に骨折した──
突然介護を託された男の人生に、光は射すのか?
今そこにある危機を、真っ正面から見据えた問題作!
絶望のどん底を抜け出した先に見えるもの、
それが希望であることを願う──
「この苦難は、いつ誰の身に降りかかってもおかしくないことです。特に私のような年代になれば、むしろ起こりうることとして考えておかねばならなかったのです。あえてそれに目を瞑(つぶ)り、最悪の事態への備えを怠(おこた)ってきた。仕事を行う上では、あらゆるリスクを想定し、万全の方策を講じることを常に念頭に置いていたのに、最も身近な家庭内のリスクに注意を払わなかった。それは誰の責任でもありません。私の責任です──」

曹源寺評価★★★★★
大手電機メーカーに勤める主人公の唐木栄太郎は、北米事業の部長職。あと一歩でボード(経営陣、つまり役員)に手が届くポジションにいるが、故郷に一人残した母親が足を複雑骨折したことから介護のために奔走するようになります。
とはいっても、実際に介護に奔走するのは栄太郎の妻、和恵であります。主人公は根っからのビジネスマン、つまり日本のサラリーマンとして良い面も悪い面も両方が露呈されていて、悪い報告を遅らせたり、プライドが先行したりする一方で、仕事は大好きでいい部長という設定にもなっています。
しかしですね、大手電機メーカーの部長職で手取りが1,000万円、恐らくは西荻窪あたりの3LDKマンションに住み息子を私立中学に入れるだけの財力があるわけですから、介護は

全然余裕でしょ

という感想しか浮かびません。栄太郎の弟にしても休みもないほど働いていて援助ゼロをわびていますが、自営業で夫婦で600万円稼いでいればカツカツの生活でもなさそうな気がしますがいかがでしょう。恐らくはもっと厳しい生活を余儀なくされている人はゴマンといるはずです。介護だってヨメはんにさせていた(そのヨメはんも倒れてしまうわけですが)ので、主人公は大して介護していません。
いま、本当に厳しい人は「故郷に両親を置きっぱなし」で「一人っ子」で「都内近郊でフリーターないしはアルバイト」の「40〜50代」といったシチュエーションの方々ではないでしょうか。
想像するだに恐ろしいですが。
それに比べれば「故郷に片親」を置き「兄弟がいて」「大手企業の管理職」なんて全然っすよ。しかも、主人公は最後に本当に退職しますが、なんだかんだでハッピーエンドですから、身につまされることもありません。
つまり、本書から得るものは「サラリーマンよ、せいぜい親の介護ができるくらいの準備(=蓄え、あるいは同居、嫁の説得)くらいはしておけという教訓」くらいであって、それ以上でもそれ以下でもありません。




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2012年01月20日

書評361 石光勝「テレビ局削減論」

本日は首都圏でも降雪となりました。相変わらず雪には弱いっすな、交通機関。遅刻者続出ですよ。
まあ、遅刻するほうも遅刻するほうで、こういう日は予め家を早く出るとか工夫しろよと言いたいわ。些細なことかもしれないけれど、こういう予備動作って大事ですよね。上司にしてみれば「おぉ、こいつは確か田園都市線だよな。6時ごろに人身事故があったけれどちゃんと出社しているじゃないか。感心感心。」という評価になりますわな。いつも始業ギリギリに出社していて、こういう日に必ず遅刻したりするヤツは「チッ、使えねえ」となるのはしょうがないですわな。と、一応正当化しておこう。レッテル貼りは嫌いですが、行動を修正できない人は自らレッテル貼ってくださいと言っているようなもんです、はい。


内容(新潮社HPより)
いつまでつまんない番組が続くのか? 【元キー局役員による渾身のメディア論】
時間を水増しした特番、タレントが空騒ぎするバラエティ、増殖を続ける通販番組……視聴者離れに歯止めはかからず、広告費も減少の一途。メディアの帝王は瀕死の状態である。視る側も作る側も不幸なこの構造を変えるには、もはや民放ネット局の削減しかない。ビジネスモデルとしてのテレビを俯瞰して辿りついた結論は「民放3NHK1の4大ネットワーク」への大転換である。元テレビ局役員が放つ渾身のメディア論。

曹源寺評価★★★★★
テレビ東京の元常務取締役でメディアコンサルタントの石光勝氏が書いた新書です。タイトルに惹かれて速攻買いました。一気読みです。
読みやすく、分かりやすい内容ですので、万人に向けて発したメッセージであろうかと推察されます。氏の主張も明快で、「民放キー局を3局に再編し、NHKを含む4局体制にすべし」という主張です。その実現のためには放送法の改正などいくつものハードルが待ち受けているため、業界を挙げて粘り強い交渉を続けて生き残ってほしいという主張には頷けるところも多々あります。
おそらく、石光氏はテレビの市場自体がもうすでに拡大することなく、このまま縮小均衡に進んでいくのだろうと予測されていて、だからこそ総倒れになる前に手を打つべきであると主張されているのだと思います。市場縮小に向かうという予測は自分もその通りだと思います。すでに「赤坂不動産」の異名を持つTBSなどは、不動産収益なしには黒字化が不可能なレベルでしょうし、大規模なデモ活動で広告出稿が激減しているフジテレビも今期の損益が落ち込む見通しです。
しかしですね、再編して財務的に健全化が図られたらいまのテレビ局をめぐるさまざまな問題がすべて解決するかというと、決してそうは思えないんですよね。
いまのテレビの問題点はどこかというと、「公正・中立な番組制作」がなされておらず、そのチェックも甘い、という点ではないかと思うのです。テレビはほとんど見ていないのにエラそうですが、どの局も横並びで放映しなかった尖閣諸島のビデオ問題、「あるある大事典U」「真相報道バンキシャ!に代表される捏造番組、どこに需要があるのか分からない不自然な韓流押し、オカマばっかり出てくるバラエティ、某芸能事務所のタレントしか使わない「枠」の存在、隠し子がいるのに開き直っている(しかも美談にされている)ワイドショー司会者、などなど、制作や編成にかかる問題だけでもひどい有様です。
それに財務的にヤバイといっても、テレビ局の社員の高給取りは有名で、これにメスを入れないで再編なんてちゃんちゃらおかしいですね。テレビ局はもっと自らの血を流してから再編の議論に移るべきでしょう。
つまり、再編云々の前に

議論すべきことは山ほどあるのではないか?

というのが自分の感想です。石光氏は電波オークションのことなどほとんど触れていませんし、BPOがほとんど機能していない点などもスルーです。それに、クロスオーナーシップ禁止には反対していてマスコミ集中廃止原則も撤廃せよと主張されていますが、それって多様な言論を維持することと矛盾していませんか?自分は逆に、新聞社とテレビ局が資本関係を一切解消して、互いに監視するような立場になったほうが良いのではないかと思っています。
この再編論のなかには、

「電波は公共のもの」

という観念が欠落しています。完全に内輪の論理に終始していて、視聴者や国民の目線は感じられません。
なんだか石光氏の主張は、毎日新聞が社説だかで新聞社に公的資金を注入しろといった主張(「500億円で足りようキリッ」ってやつですね)がありましたが、なんだかそれに似ているなあと思った次第。




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2012年01月16日

書評360 薬丸岳「ハードラック」

クレジットカードの入った定期入れを落としてしまいましたよorz

と思ったら拾い主が現れましたよ!世の中まだまだ捨てたもんじゃないね。

しかし、落としてはいけないものを落とした時のショックといったら、ハンパないっすね。絶望感がひどくて何も手につかない感じです。もう二度と落としてはいけないと心に誓いますわ。

内容(徳間書店HPより)
人生をやり直したい、と願ったネットカフェ難民相沢仁(26)は、闇の掲示板で仲間を募り、応じてきた四人の男女と話すうち金満家襲撃話が持ち上がった。が、決行中に相沢は頭を殴られて昏倒。結局一人逃げるはめになった彼は、報道で邸から三人の他殺体が発見されたと知る。家人には危害を加えないはずが、俺は仲間にはめられた。三人殺しでは死刑は確実。得体の知れない仲間を彼は自力で見つけねばならなくなった……。

曹源寺評価★★★★★
派遣切りに遭いネットカフェ難民となった主人公が、ネットで仲間を募り強盗を計画したものの、いつの間にか現場が殺人事件の場と化していて、濡れ衣を着せられ逃亡しながらも真犯人を見つけるというストーリーです(紹介文のとおりでしたね)。まずはこの

基本設定からしてすばらしい

と思います。なぜかって?それはもう現代社会の暗部を抉り出す、誰もが一歩間違えれば嵌りかける地獄への落とし穴みたいな社会問題をテーマにしているからでしょう。高卒→就職→クビ→派遣→派遣切り→ネットカフェ難民という構図は現実に存在していて、ギリッギリの生活を余儀なくされている人が数多くいらっしゃるという事実が背景となって、ストーリーにリアリティが生まれています。
恐らくこの主人公の相沢仁は短気で切れやすく、空気の読めないうえにお人よしという性格ではないかと想像されますが、その辺の描写はちょっとあいまいなうえ、母親が再婚で義理の兄弟が優秀でその兄弟が結婚して嫁さん同居して家に居場所がなくなってなんて、ちょっと可哀想な展開ですから、読み進めるといつの間にか主人公に感情移入してしまいます。だから、同居を持ちかけられてなけなしの貯金を持ち逃げされたり、所持金が数千円になって怪しいバイトに精を出すようになったりと、不幸にどっぷり浸かるようになると読み進めるのがつらくなります。
そして、濡れ衣を着せられて逃亡、自力で真犯人を探すくだりはなかなか読み応えがあります。伏線を張っていて、なるほどこういう展開だったのねとラスト30ページくらいで結末が読めるようになりますが、この手の作品としては誰が真犯人なのか分かりづらい構成になっているほうだと思います。勘の良い人は分かるかもしれませんが。




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2012年01月10日

書評359 貴志祐介「鍵のかかった部屋」

食べログのやらせ問題に端を発した「ステマ」なる単語が飛び交う今日この頃ですが、ステルスマーケティングなどとエラそうなことを言っても、ネットでの口コミなんてもうずっと前からみんなやっていることじゃないですか。Amazonの評価だってそうだし、「@コスメ」を運営するアイスタイルなんて会社は化粧品の口コミだけで会社が成り立っているんですから。
ましてや、このブログだってステマといえばステマかもしれないですね。疑いだしたら切りがありません。
いや別に、やらせの片棒を担ぐつもりは毛頭ありませんが、ネットでの風評だの何だのなんてえのはそれこそいつも言っているように「リテラシー」をもって臨まないと、それこそいいように毟り取られるだけだということですね。


内容(角川書店HPより)
著者がしかけた4つの超絶密室トリック、貴方は解くことができるか!?
防犯コンサルタント(本職は泥棒?)・榎本と弁護士・純子のコンビが、4つの超絶密室トリックに挑む。表題作ほか「佇む男」「歪んだ箱」「密室劇場」を収録。防犯探偵・榎本シリーズ、待望の最新刊登場!

曹源寺評価★★★★
貴志祐介氏といえばホラーですが、この防犯探偵榎本径シリーズは本格ミステリに挑んだ作品としてそれなりに評価されているようですね。一部には酷評もあるようですが。自分としては、よくもまあこんなトリックを考え付くもんだなあと半ば呆れるような感心するような気分ですが、いわゆる密室ものというのは得てしてこんな奇天烈なトリックに満たされているようですね。
本書もさまざまな仕掛けで密室づくりがなされていますが、実現可能性としてはどうなんでしょう?表題の「鍵のかかった部屋」のトリックは本当に可能なんでしょうか?誰かに教えて欲しいです。
本書は密室トリックとその解決にかなりのページを割いているため、本来の主人公である榎本の人となりの描写(泥棒みたいな、とか、胡散臭い、とかで終始している)があまりなくてやや消化不良の感がなきにしもあらずですが、それを差し引いても密室の謎解きとしては

まだこの手法が残されていたのか〜

という驚きに包まれること請け合いです。
とはいっても、自分は密室ものにそれほど精通しているわけではありません。。。エラそうなことを言ってスンマセン。。。




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2012年01月05日

書評358 樋口有介「ピース」

あけおめ、ことよろです。
正月早々、震度4ですよ。初詣の最中だったので神社のガラスがピシピシと鳴ってちょっと怖かったわ。年末から1月にかけて関東地方は地震に注意だそうなので、気をつけましょう。
まあ、それは良いとして、新年は相変わらず両家の一同がそれぞれ集まりまして、6日間の休暇があっという間に終了します。年に一度だけでもこうやって顔を合わせるのはいいことですね。こうやって来年もまたみんな元気に集まることができればいいのだ、としみじみ思います。
こんなのもありました。
NHKブログ 『"絆志向"か 正月の同窓会が急増』
http://www.nhk.or.jp/seikatsu-blog/700/105425.html
みんな感じていることは同じですね。

内容(中央公論新社HPより)
連続バラバラ殺人事件に翻弄される警察。犯行現場に「平和」は戻るのか。いくつかの「断片」から浮かび上がる犯人。事件は「ピース」から始まった!?

曹源寺評価★★★★
初版が2009年2月で、文庫が2011年5月のやつですが、なんだか文庫でエライ売れているということなので読んでみましたよ。
舞台は秩父で、東京の歯科医と秩父に移住しはじめた元ピアニストが相次いでバラバラにされるという連続殺人事件が発生。警察の捜査にもかかわらず3件目が発生するが、地元の農家の独身青年ということで、無差別殺人の様相を呈するものの、そこには意外な接点があった――というのが事件の大筋です。そして、その秘密はタイトルの「ピース」にあったわけです。読み返して表紙をもう一度見ると、あぁ、なんということだ。つまりこういうことだったのか!とうなずかざるを得ないのです。うーん、なんという構図。

読み終えてから表紙を見て寒気を覚える

なんて、これまで多くの本を読んできましたが初めての経験です。
この被害者同士の接点が途中まではほとんどわかりませんし、読者をミスリードする仕掛けがありますので、ある意味(帯にも記載されている)「どんでん返し」があるにはありますが、このどんでん返しがすごいというのではないですね。これくらいのどんでんではもうだれも驚かない。それに、ラストの描写はかなり淡々としていて、犯人の行く末やその後の刑事のセリフなどはクライマックスとは思えないほど朴訥としていて(秩父訛りがそうさせているというのもありますが)、盛り上がって終わるオーケストラのようなラストではなく、妙な余韻を残すアカペラのようなラストとも言うべき作品に仕上がっています(うーん、自分で書いていて微妙な表現だなぁ)。
ミステリとしてはかなり秀逸な出来だと思います。
思いますが、回収し切れていない伏線がいくつか散見されるのがちょっと残念です。梢路はなぜ過去の事件を起こしたのか?とか、その同級生であるアル中みたいな女は何だったのか?とか、なぜバラバラ殺人でなくてはならなかったのか?とか、なぜ20年以上前の出来事が今になって殺人というかたちで決着しなければならなかったのか?とか。まぁ、細かいこと気にしなければ面白い作品です。




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2011年12月26日

書評357 奥田英朗「我が家の問題」

そういえば今年は後厄だったんだけれど、ちゃんとお参りに行ったご利益なのか、たいした怪我も事故も病気もトラブルもなく、乗り切れそうです。
細木数子センセーによると、来年はかなりいい年になるはずなんだが、世界情勢とか景気とか悪すぎて期待が持てないなあ。宝くじでも買うか。。。

内容(集英社HPより)
平成の家族小説シリーズ第2弾!
完璧すぎる妻のおかげで帰宅拒否症になった夫。両親が離婚するらしいと気づいてしまった娘。里帰りのしきたりに戸惑う新婚夫婦。誰の家にもきっとある、ささやかだけれど悩ましい6つのドラマ。

曹源寺評価★★★★
2007年に刊行した「家日和」に続く奥田ファミリー小説であります。6つの短編から構成されていて、6つともそれぞれごく普通の家庭が抱える問題をテーマにしていますが、なるほど、些細なことでもその家庭にとっては大問題となることがままあるということを再認識させてくれます。
「甘い生活?」では良くできた妻に対して息詰まりを感じる新婚の夫を描き、「ハズバンド」では自分の夫がもしかしたら会社で「ダメ男」のレッテルを貼られているのではないかと気に病む主婦を描き、「絵里のエイプリル」では両親が離婚するのではないかとの疑念が拭えない女子中学生が主人公となり、「夫とUFO」では夜中に河原でUFOと交信する夫を心配する妻が、実は会社でものすごいストレスを抱えている夫の実態を知り、「里帰り」では北海道と名古屋をそれぞれ故郷に持つ新婚の夫婦が面倒くさいと思いながらも里帰りをこなし、「妻とマラソン」ではN木賞を受賞した売れっ子作家の妻がジョギングにはまり、とまあこんな具合でそれぞれのストーリーが進行していきます。
そこにあるのはオチのないストーリーですが、なぜか

オチがなくても面白い

という不思議な体験でした。
決して問題が解決するわけではないのですが、とてもほのぼのしていてなんだか「これでいいのだ」という赤塚不二夫先生の声が聞こえてきそうな読後感を感じることができます。
個人的には「ハズバンド」と「夫とUFO」がお気に入りです。
前作「家日和」は2007年の柴田練三郎賞を受賞したらしいのですが、柴田練三郎賞ってあまりよく知りません。直木賞と山本周五郎賞は面白い作品が多いですね。乱歩賞は登竜門だから当たり外れがありますね。まあ、奥田センセーは直木賞も獲っていらっしゃるので、いまさら受賞作だ何だと言ってもあまり意味はないかもしれませんが。




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2011年12月20日

書評356 石渡嶺司「転職は1億円損をする」

2011年ももうすぐ終わり。こんなに激動の年はないんじゃないかというくらい、いろいろなことがありました(個人的には95年なんかも凄かった希ガス)。
1月  バードカフェおせち、グルーポン、伊達直人、新燃岳噴火、ジャスミン革命
2月  大相撲八百長問題、カンニング、NZカンタベリー地震
3月  東日本大震災、福島第一原発事故、iPad2登場、ドバイWCヴィクトワールピサが優勝、坂上二郎死亡
4月  ユッケ、PSN障害、英王子結婚、栃木でクレーン車が小学生にアタック
5月  上原美優自殺、児玉清・ビンラディン死亡、
6月  NHK教育がEテレに、PS Vita・Wii U発表、高速1000円終了
7月  なでしこ優勝、中華鉄道脱線事故、ノルウェー連続テロ事件、アナログTV放送終了、新潟・福島豪雨、伊良部自殺、宮瀬退社
8月  野田首相誕生、セシウムさん、紳助引退、松田直樹死亡 俺の誕生日
9月   高橋愛 モーニング娘。、卒業 台風12号によって集中豪雨に見舞われた紀伊半島では、奈良県と和歌山県の山間部を中心に、死者・行方不明者あわせて100人を超す被害となった。平成では最悪クラスの台風被害
10月  iPhone4S登場、ウォール街デモ、タイ大洪水、ギリシヤ危機、トルコ地震、ジョブズ・カダフィ死亡
11月  玄海原発4号機再稼働 大塚キャスター白血病 天皇陛下39度の高熱 大橋のぞみ引退発表
12月  金正日死亡


なんだこのコピペ。9月ワロタwww
12月にはもう何もないよね。。。

内容(角川書店HPより)
転職すると損をする」。転職業界の関係者、ほぼ全員が知っている事実だ。しかし、知らない人がただ一人いる……。転職希望者だ。転職ビジネスのカラクリを暴き、「一体いくら損をするのか?」数字で初めて示す!!

曹源寺評価★★★★★
久しぶりに新書を手に取ったんですが、粗製乱造が叫ばれて久しい新書市場において、まあ類書が少ないという点では評価して良い内容ではないかと思います。なぜ本書を読むに至ったのかというと、まあ、ご他聞に漏れず辞めていくわけですよ、周りが、後輩が。彼らを説得するための材料探しというのが目的でした。
タイトルはややセンセーショナルで、本当に1億円損をするのかというと、まあケースバイケースということになろうかと思います。本書での比較は「新卒で定年まで勤め上げた場合」と「途中で転職した場合」の生涯賃金の単純比較です。
1億円損をするかどうかという点よりも、本書で(恐らく筆者が)強調したい点は

「転職がブームとなったこと自体がおかしい」

ということだろうと思います。転職ビジネスを拡大させたい業者(リク○ートとかエン・○ャパンとか)の思惑に安易に乗っかるな!という警鐘は、なんだかある意味タブーになっていたのかもしれないと思うと、マスゴミに膨大な広告費を払っている企業(業界)がいかに社会的批判に晒されていないかということが良く分かります(もっとも、銀行や街金などのように一度水に落ちると棒で一斉に叩かれますが)。
恐らく、大半の人は転職してもそうそう年収が上がるわけもなく、場合によっては契約社員→派遣→バイト→ニートへの転落コース一直線といった感じになっているのかもしれません。怖い。
振り返れば、日本にはたくさんあった「従業員を大切にする企業」がどんどん少なくなっていて、たまにそういう企業が紹介されると「あぁ、なんていい会社なんだ」と賞賛されることしばしばです。いつからこんなに従業員に冷たくなったんでしょうか、日本の企業は。




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2011年12月15日

書評355 香納諒一「心に雹の降りしきる」

先週末にその同窓会に行ってきましたよ。結構地元に残っているメンバーが揃っていて、女の子も結婚しているくせにみんな午前3時まで騒ぎまくってすごいパワーでした。
大工、ペンキ屋、木材屋、公務員、、、野郎たちもサラリーマンやっていると会わなそうな職種の面々がズラリで新鮮でしたわ。昔ワルかったヤツが実家継いで社長やっているとか、勉強全然できなかったけれど自治体から表彰される腕前の職人になっていたとか、柔道ハンパなく強かったヤツが県警のお偉方になっていたとか、もうね、ひとつひとつが驚きでしたよ。

28年ぶりだったから、再来年に30周年ということで大々的に招集かける話になり、なぜか地元民でもないのにスタッフ状態になってしまったわ。。。orz


内容(双葉社HPより)
年前に行方不明になった少女の遺留品が発見された。まったく期待せずに捜査を再開した県警捜査一課の都筑だが、数日後、情報をもたらした探偵・梅崎の死体が発見される。梅崎はいったい何を掴んでいたのか? 都筑は足取りを追う……。

曹源寺評価★★★★
「このミステリがすごい!2012年版」で堂々の9位にランクインした作品です。
香納諒一というお方はおそらく、読者を選ぶのではないかと思われますが、多くの著作に共通する「心に傷を負った刑事によるハードボイルドタッチのミステリ」が好きな人には堪らない作品であることは間違いないでしょう。
本書もまた、そんなダメ刑事のお手本である山下県警捜査一課都筑刑事が、角材で殴られ、首を絞められ、ボコボコに殴られて車のトランクに押し込められながらも執念の捜査で複数の事件を解決に導いていく様は、スリルとスピードに溢れた筆致で読者を引き込んでくれます。
ダメ刑事や偏屈刑事を描かせたら右に出る人はいないのではないか(永瀬隼介氏もけっこううまいですね)と言わせんばかりの

屈折ぶりがたまりません。

あぁ、偉大なるマンネリ。だがそれがたまらんのです。
その複数の事件というのが、7年前の少女失踪事件、元新聞記者の探偵が死体で見つかった事件、探偵社の社長も死体で見つかった事件、誰かを強請ってホテル住まいを続けていた男が死んだ事件、元県知事の贈収賄疑惑事件、DV夫から逃げ回っている母娘を匿う件、とまあこんなに盛りだくさんで果たしてすべてきちんと終わらせられるのか?というくらい慌しく事件が進行していきます。ですから、クライマックスが二度、三度と続いてくるわけでして、「あぁ、そういえばまだこの事件が残っていたわ」と一息つく暇がないくらいスピーディな展開です。ですから、読むのに疲れます。疲れますが、読了した時の気分は

ちょっと爽やか

であります。
ひとつ難があるとすれば、謎解きが唐突すぎて読者に考えさせていないことでしょうか。もうちょっと伏線張っていたら、このミス2位くらいになってもおかしくないと思います。




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2011年12月09日

書評354 川瀬七緒「よろずのことに気をつけよ」

Facebookで中学時代の同級生に出くわしたら、同窓会のお知らせがやってきましたよ。。20ン年も会っていない人たちばかりでいまからワクワクですが、自分のいた中学校は40名学級が10クラスで400名いましたので、同じクラスや部活動でなかった人たちは全然知らんがな状態ですよ。そんな奴らと再会しても話弾まないだろうし、同じクラスだったヤツがどれだけ来るのか分からんしで、期待と不安が入り乱れてコサックダンスを踊っています。


内容(講談社HPより)
第57回江戸川乱歩賞受賞作
被害者は呪い殺されたのか?
変死体のそばで見つかった「呪術符」とは。殺人と呪いの謎に文化人類学者が挑む!
呪術研究が専門の文化人類学者・仲澤大輔の許へ、砂倉真由という少女が訪ねてくる。彼女の祖父は1ヵ月前に何者かに惨殺されていた。事件後に自宅の縁の下で見つけたという札を彼女は差し出した。札に捺された三人分の血判を見て、本物の呪術符だと仲澤は断言する。真由は驚き、仲澤に事件の真相を暴く手助けを依頼するが――。

曹源寺評価★★★★
「完盗オンサイト」と並び、今年度の乱歩賞を受賞した作品です。どっちが良かったかというと、本書の方ですかね。こちらのほうが話のテンポやストーリー構成、登場人物などの面で一枚上手だったような気がします。
なぜ犯人は相手を呪い殺すつもりだったのに殺人を実行したのか?という難しい謎に迫っていくのですが、真相に迫っていく過程はなかなか読み応えがあります。また、周辺の人物についても個性的なプロットが良く出ていて、読む人を惹きつけるテクニックがあると思います。
事件の真相については、何十年も呪い続けるエネルギーの源泉とやらは一体どこにあるのか?とワクワクしながら読みましたが、なんだか少し拍子抜けな気がしないでもないです。人を恨み続けるって普通の人にはかなりエネルギーが必要なのではないか?と思いますが、その理由がこれっていうのはどうなんですかね。
しかし、特に主人公の仲澤大輔は今後も活躍してくれそうなキャラクターですね。もう少し毒があっても良いのかもしれませんが。
それにしても、乱歩賞については巻末に必ず審査員による評価がついてくるのですが、今回はみんな結構辛辣でした。本作については

京極夏彦氏がかなりダメ出し

していてワロタwww。そりゃあ呪術に関してはセンセーの右に出る人はいないでしょうに。仲澤大輔を京極堂こと中禅寺秋彦の域に持ち上げるためには、著者自身の修行が必要になるかもしれませんが、せっかく呪術関連で受賞したわけですから、そこは磨き上げてさらに上を目指していただければ読者としてもうれしいです。




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posted by 曹源寺 at 17:14| Comment(0) | TrackBack(0) | か行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする