購読やめようかと思いながらもこの2誌紙は、なかなかやめられまへんな。文春はいま佐々木譲センセーが「地層捜査」の第二弾である「代官山コールドケース」なぞ始めやがるし、日経は「私の履歴書」に桂三枝が出ているし(面白いですこれ。時折とんでもなく面白い話が出てくるので困ります)で、読みたいコンテンツがあると止めるに止められません。困ったモンです。
内容(朝日新聞出版HPより)
帝銀事件はなぜ起こり、葬り去られたのか? 戦後最大の闇に挑む怒濤のミステリー! 太平洋戦争が終結するまで満州で細菌兵器の研究をしていた倉田部隊は、極秘裏に中国人やロシア人 などの捕虜たちに人体実験を繰り返していた。終戦後の昭和23年1月、帝國銀行椎名町支店に1人の男が現れて「近所で集団赤痢が発生した。その家の者がこ の銀行に来ていることがわかったので」と予防薬を全行員に渡した。それを飲んだ16人中、12人が絶命、4人が 意識不明になった大量殺人事件に日本中が驚愕した。占領下の混沌たる東京で発生し、世界中に衝撃を与えた帝銀事件の真相とは?
曹源寺評価★★★★★
実在の未解決事件を小説仕立てにして独自の解釈を加える手法というのは、読み手が事前に情報収集することで理論武装することが可能になりますので、ある種のリアリティが増すことは事実ですが、逆に言えば史実との相違点などが多いといくらでも突っ込みができるということも言えると思います。その意味においては、こうしたジャンルの作品というのは著者としても未解決事件への洞察は入念な下調べや史実の見直しを含め、徹底した取材活動なしには描き得ないだろうと推測できるわけです。
もともと永瀬センセーは別のペンネームでノンフィクションも描かれていらっしゃるので、この手の作品はお手の物かもしれませんが。
本書は誰もが冤罪事件と思っている帝銀事件の真相を、永瀬センセーなりに解釈したミステリと言えなくもありません。ただ、当然のことながら永瀬小説でもありますので、血沸き肉踊る(ちょっと大げさだな)迫力満点のシーンが随所に登場します。冒頭の舞台は太平洋戦争終盤の満州で、倉田部隊(これは731部隊のことかしらん?)の歩哨であった主人公の羽生誠一が見た凄惨な実験現場から始まります。
終戦後は羽生が警視庁の捜査一課に配属され、あの恐るべき帝銀事件が発生するという設定です。捜査一課は16人に平然と毒薬を飲ませる手口や、スポイトの持ち方の特徴、それに遅効性の青酸化合物といった証拠から、戦時中に医療関係ないしは化学研究所関連施設に勤務経験のある人間と推測しますが、これとは別に、銀行の支店長に渡した実在する人物の名刺を手がかりとした「名刺班」が独自の捜査活動を展開します。この名刺班の動きが結局は平沢貞通氏の逮捕に至ることになるわけですが、読めば読むほどおかしな話であることが理解できます。歴代の法務大臣の誰もが死刑執行の判子を押さなかった平沢氏、本書もまたこの裁判を冤罪と位置づけています。
羽生は倉田部隊のいわば生き残りではありますが、当時の上官を探してその疑惑を問いただす場面などもあって、しかもその対比が「羽生=チンピラ崩れの短気な警官」、「元上官=ちょっと危ない感じの悪役」というかたちでどんな展開になるのかワクワクします。これに、羽生の元戦友であるコミュニストの山下や、同じく倉田部隊にいたものの、陸軍中野学校出身で何をしていたのか分からない(これはちゃんと伏線を回収していてすごいです)クールな片桐など、登場人物の仕立てもお見事です。
最後は「血のメーデー事件」を舞台にしたエンディングで、当時の時代背景などの描写もグイグイ引き込まれました。正直、最初は第3部ってまるまるいらないんじゃないかと思いましたが、これはこれで伏線の回収になっているし落としどころとしてはこれでいいんだなあと実感しました。
永瀬作品のなかでも渾身の力作ではないかと思います。自分にとってはある意味
ノンフィクションみたい
に読めましたので、収穫の多い作品でもあります。
いつもご覧いただき、ありがとうございます。
たまにはクリックしていただけるとうれしいです。
【日記の最新記事】








