ミステリ読みまくり日記 〜書評(ネタバレあり)

通勤時間に読む、日本のミステリとその他小説をとりあえず書き留める
 

2018年07月13日

書評913 大倉崇裕「福家警部補の考察」

こんにちは、曹源寺です。

マスコミはよく「弱者に寄り添い云々」というフレーズを使います。
それはそれで結構なことであります。弱者切り捨ての社会はとかく息苦しいでしょうし、少なくとも機会の平等は与えられてしかるべしだと思います。
平等という言葉はいろいろな場面で使われていますが、自分は「結果の平等」ではなく「機会の平等」であるべきだと常に考えています。

今回の東京医科大学における不正入学事件はそんな「機会の平等」さえも奪っている、悪質な事件ではないでしょうか。合格点に達していながら不合格になっている人がいるとしたら、これほどまでに不平等なことはありません。その人の人生さえも奪っているわけですから。

読売新聞の記事には興味を持った人も多いかと思います。
東京医大が裏口入学リスト…受験生や親の名前(7/13YOMIURI ONLINE)
文部科学省の私立大学支援事業を巡る汚職事件に絡み、受託収賄容疑で逮捕された同省前局長の佐野太容疑者(58)の息子を不正に合格させたとされる東京医科大学(東京)が、過去に不正合格させた受験生やその親の名前などが書かれた「裏口入学リスト」を作成していたことが関係者の話でわかった。東京地検特捜部は、同大側から複数のリストを入手しており、同大が不正入試を繰り返していたとみて調べている。
特捜部の発表などでは、同大の臼井正彦前理事長(77)は、佐野容疑者に同省の私大支援事業の選定に便宜を図ってもらうよう依頼。その見返りとして、鈴木衛まもる前学長(69)とともに、今年2月の入試で佐野容疑者の息子の点数を加算して合格させるよう学内で指示したとされる。2人は特捜部の任意の事情聴取にこうした経緯を認めている。
(以上)

ぜひ公表していただきたいですねこのリスト。漏洩したら公開処刑ですわこれ。東京医科大学出身(あるいは学生)で親が政治家とか官僚のヤツは今頃ガクブルかもしれません。

文部科学省は罪深いなあと改めて思います。
自分たちの子息を権力によって裏口入学させるだけじゃなくて、天下りでも大学教授などの職に下っていくのは若き研究者たちの道に上からふたをする行為でありましょう。博士課程に進んだは良いけれど、そのまま無職になってしまう「博士ニート」の数が増えていて問題になっているのは、もしかしたら文科省の役人どもが立ちふさがっているからではないのでしょうか。
違法な天下りをせっせと造成したのはあのビーチ前川であります。こいつを擁護している一部勢力の気がしれません。


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内容(東京創元社HPより)
地位と愛情を天秤にかける医師、夫の機先を制する魔女めいた妻、師匠の名誉を慮ったバーテンダー、恋人の仇を討つ証券マン――透徹した眼力で犯人の思惑を見抜くシリーズ最新刊。


曹源寺評価★★★★★
「刑事コロンボ」に代表される(のか知りませんが)いわゆる「倒叙型」のミステリは、刑事(あるいは探偵)と犯人との騙しあい的な駆け引きの妙を楽しむのが楽しいので、犯人は大抵、已むに已まれず殺人を犯してしまう普通の人という設定が多いですね。だから、しれっと嘘をついても大抵はぼろを出してしまい、刑事に見破られてしまうわけです。
また反対に、刑事の側もかなり個性的なキャラクターであることが多く、そのキャラを活かして犯人を追いつめていくというスタイルが一般的です。
「福家警部補シリーズ」は本書で第5弾となりますが、小柄で年相応に見えない、しょっちゅう忘れ物をする、常に寝不足(というか寝ていない)、缶のおしるこが大好物という捜査一課には絶対に見えないキャラという設定でありまして、個人的には大好きです。
今回も連作短編で4話が収録されていますが、2話目の「上品な魔女」は犯人が上記のような一般的な設定ではなく(ややネタバレ)、ちょっと半分サイコパスみたいな感じの「魔女」が登場します。どうせなら異常なサイコ女と福家警部補を徹底的に対決させてほしかったのですが、ベクトルが違い過ぎて喧嘩にならない会話になってしまいました。まあ、

福家警部補のキャラがサイコパスみたいなものですから

しょうがないのかもしれません。
前回の書評も倒叙型の作品でありましたので、どうしても比較してしまうのですが、やはり倒叙型はリアルでロジカルな作品よりもエンタメに走っている作品の方が面白いですね。まあ、ロジカルな部分というのは松本清張センセーが見せたような鮮やかなトリックであれば読者もグッとくるのかもしれませんが、読者をも騙すようなトリックがあるならばわざわざ倒叙型にする必要もないわけでして、そうなるとどうしても本書シリーズのようにキャラクター勝負、そして会話の綻びで見破るような展開にならざるを得ないのかなあと思ってしまいます。
容疑者「それじゃ、まるでアタシが犯人みたいじゃない」
福家「違うのですか?」
この展開が大好きです。定番のセリフになりそうですね。





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2018年07月10日

書評912 香納諒一「刑事花房京子 完全犯罪の死角」

こんにちは、曹源寺です。

自分はバブル世代です。70年代から80年代にかけては「ノストラダムスの大予言」がベストセラーになり、世紀末思想にかぶれる青春時代を過ごしたのも我々世代の特徴であります。
ですから、オウム真理教に走った若者の心理が分からないわけではありません。自分の兄はnonブックスだったかワニブックスだったかのサイズで麻原の本が出ていたのを買ってきていました。自分は胡散臭くて読みませんでしたが。
阿含宗の本は読んだことがあります。「チャンネルをまわせ」とか「人間改造の原理と方法」(すげえタイトルですね笑)とかの初期の著作を読みました。修行すれば解脱できると説いたのは実は阿含宗ですが、阿含宗の桐山某教祖は文章が実にうまくて、解脱=超能力的な話を脳科学とかいろいろ交えて説いていたので、オウム真理教もそれをまねて世のインテリ層から支持を得たのだろうと推測します。

しかしオウムは進むべき道を誤りました。実際にやったことはテロリストの破壊活動です。

毒ガスを製造し、銃器を試作し(実は大量生産する一歩手前まで進んでいました)、ヘリコプターを調達して空からの攻撃を準備しました。敵対する弁護士一家や公証人役場の事務長を拉致して殺害し、自分たちに批判的なジャーナリストを殺害しようとし(これは失敗)、複数の地下鉄の車内で毒ガスを散布しました。新宿駅でも毒ガスを散布する一歩手前までいきましたし、本当にタイミングが悪ければ3桁か4ケタの犠牲者が出るところだったのです。
自分もあの日は日比谷線に乗車していて、サリンが散布された列車の2本前に乗っていたので、文字通り間一髪でした。
ですから、本来は破壊活動防止法の適用によって壊滅させる必要があったのだろうと思います(適用しなかったのは野中広務のせいです)。
今回の死刑執行を「真相究明が閉ざされた」「精神鑑定を行わないで執行したのはおかしい」「7人もいっぺんに執行したのは見世物」などと批判している人たちがいますが、いずれも江川紹子センセーに間違いであると論破されていました。江川紹子センセーは本件に関して言えば最も取材活動を続けてこられたいわば大御所でありましょう。彼女のツイートなどは本当に参考になります(ほかの事案はヘタレですが)。

麻原以下実行犯の死刑執行に関しては、まさか死刑反対運動が起きるわけないよな、と思っていましたが、あの日弁連までもが死刑執行に反対していてちょっとドン引きでした。たしか死刑判決が出た時でさえ、死刑反対活動家は沈黙していたように記憶しているのですが、23年経ってしまったが故に世間の風向きも変わったと思ったのでしょうか。
流されてはいけません。思い返せば、彼らのやったことがものすごいテロ活動であると再認識できます。我々はこの事件を風化させてはならないのだと改めて深く思うのでありました。


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内容(光文社HPより)
沢渡留理は亡き父親から引き継いだ会社“沢渡家具”を守ろうと必死だった。そのためには、志を異にする兄・要次と、その愛人でもある秘書の福田麻衣子を排除するしかない。留理は綿密に計画を練り、痴情のもつれを装ってふたりを殺した。偽装工作は完璧だったはずなのに、翌朝、家政婦から、家に強盗が入り、その強盗に兄が殺されたようだという連絡を受ける。いったい何が……。想定外の出来事に混乱しつつ現場に戻った留理は、子供のように捜査に没頭している長身の女刑事と出会った。その女は、花房京子と名乗った――。


曹源寺評価★★★★
久々の香納センセーの新刊、2年ぶりくらいでしょうか。おそらく2017年は単行本ゼロですよね。
その新刊はまたしても新たなキャラクターの登場でありました。このセンセーはシリーズものをあまり書かないですよね。「K・S・Pシリーズ」は第4弾まで出ましたが、非常に珍しいです。
本書はいわゆる「倒叙型」の作品で、犯人が分かっているけれども刑事が真相を明らかにしようと駆けずり回るスタイルです。刑事コロンボや古畑任三郎ですね(香納センセーはコロンボファンということですが、あまり倒叙型の作品にお目にかかったことがないですねw)。
ストーリーは家具小売業が舞台です。沢渡家具の二代目社長である沢渡留理は、異母兄の要次とその愛人である福田麻衣子を殺害した。偽装工作は完璧だったはずだが、翌朝、家政婦が発見した現場は自分が工作したものとは異なり、強盗被害に遭っていたのだった。
これに対峙する刑事は本庁捜査一課(本書の舞台が東京ですので警視庁ということでOK?)の花房京子。30代の大台に乗った長身の女刑事です。部署内でのあだ名は「のっぽのバンビ」、小鹿のように無邪気であちこち飛び回っている印象からきたということです。しかし、一度疑問を持ったらとことん追究する姿勢が上司からも認められています。
花房は果たして留理の編み出した偽装工作を見破ることができるのか。
倒叙型の長編というのは時として冗長な感じを強くしてしまうことがありますので、どれだけ間延びしないように見せるのかが問われます。キャラクターの細かな「気づき」を積み重ねたり、あるいは犯人の日常の描写の中から綻びを見え隠れさせるという手段もあったりしますが、本書の場合は両者を織り交ぜながら真相に近づいていくスタイルでしょうか。個人的には間延びした感じは受けませんでしたが、犯人である留理に対する共感めいたものがこれっぽっちもなくて、なんだかキャラクターとしてはかなり中途半端な印象でした。もっと悪女にするのか、それとも有能で切れ味抜群の経営者にするのか、どっちつかずの印象が犯人像をぼやけさせてしまったように思います。
香納センセーの作品は総じて、リアルな捜査現場とか濃密な人間関係とかエグイ人生を背景にした事件とか、そんな感じの作品が多いのですが、こと倒叙型の作品となるとこうした

リアルさだけでは中途半端になるのかもしれません。

もっと刑事のキャラクターがぶっ飛んでいるとか、犯人が異常な思考や性癖を持っているとか、エンタメ的になった方が読者の心をつかめるのかもしれないなあと思った次第。





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2018年07月06日

書評911 深木章子「消人屋敷の殺人」

こんにちは、曹源寺です。

今日はオウム真理教の死刑囚7人が死刑執行されたり、関西地方が記録的な大雨で大変だったり、タイの洞窟で救助に向かったダイバーが死んだり、松戸女児殺害事件の判決で無期懲役が出たり、さらには水道民営化法が衆議院を通過したり、とやべえニュースが相次ぎました。オウムはいずれ総括が必要になりましょう。水道の民営化は実はやべえ法律だと思うので、ちょっと調べてみようと思います。

しかし、自分がもっとも気になったのは昨日の文部科学省幹部による医大不正入学事件です。パヨク界隈が「これはモリカケと同じだ」とか言っていますが、この事件は検察が容疑者を逮捕していますので、おそらくは明確な証拠が見つかっているのでしょう。それに、贈賄側である東京医科大学の理事長や学長に関してもニュースが飛び交いつつありますので、事件の構図とその証拠がかなり挙がっていることがうかがえます。

この事件、注目すべきは「公権力を利用して自分の息子を有名大学に入れた」という、そんじょそこらの裏口入学とは異なるレベルの悪質な事件であるという点でしょう。まさに「行政が教育を歪めた」事件なのです。
事務次官候補が引き起こした犯罪にしてはモロバレで、情けないうえに昭和の香りが漂う古臭さであることも注目すべきポイントかもしれませんが、文部科学省自体が三流官庁であることを如実に表した事件であるとも言えましょう。さすがにビーチ前川をトップに据えたこともある組織です。ろくな人材を輩出しません。こんな組織には自浄作用を期待してはいけないでしょう。解体に近いレベルで改革しないと、日本の教育が危ういと言わざるを得ません。

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内容(新潮社HPより)
その昔、包囲された館から一族が忽然と姿を消した――。奇怪な伝承に彩られた岬の突端の武家屋敷、人呼んで「消人屋敷」。ここに隠遁する覆面作家を訪ねた女性編集者が失踪し、三ヵ月後、謎の招待状によって五人の関係者が集められた。嵐が巨大な密室を生み出し、新たに不可能な人間消失が! 読者を挑発する本格ミステリ長篇。


曹源寺評価★★★★
深木センセーってどちらかというと軽めの作品かリーガルサスペンス系の作品のイメージがありましたが、本書ではいわゆる「嵐の山荘モノ」のミステリに挑戦されています。
Q県の軽磐岬の突端に建つ「日影荘」。江戸末期に建てられたこの屋敷は「消人屋敷」と呼ばれ、実際に人が消えたという逸話も残されている。
黒木冬華というペンネームで活躍している作家のタイトルにデジャブを感じた幸田真由里は、失踪した兄の幸田淳也のパソコンに残っていた未発表の小説がそれと同じものであったことを知る。黒木冬華は兄なのか。疑問を抱いていると、真由里の許に一通の招待状が届く。それが日影荘に集まれば真相が分かるというものだった。
本書は読者をいろいろとミスリードする仕掛けが施されていますので、読み進めていくうちに「?」があちこちで浮かんできます。「わたし」という一人称で語っている節がいくつかありますが、それが果たして誰なのか、とか、「日影荘の五人」という章のタイトルも「あれ、なんで五人なんだ?」となったりしますので、その疑問を大事に抱えて読み進めないといけません。

それにしてもよくできているなぁこれ

と唸ってしまいました。これは絶対に読み返すわ。この節はだれが語り部で、いつのことなのか。事件の時系列とその主体がこんがらがりそうになりますが、読み進めれば納得ですので、最後はすっきりします。この仕掛けは「意地の悪いひっかけ」というよりは「なるほどこれはうまいミスリードだわ」という感じですので、本書はもうちょっと評価されても良いんじゃないですかね。少なくとも、自分は本書を支持します!





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