ミステリ読みまくり日記 〜書評(ネタバレあり)

通勤時間に読む、日本のミステリとその他小説をとりあえず書き留める
 

2018年06月22日

書評907 本城雅人「傍流の記者」

こんにちは、曹源寺です。

最近は「保守速報」におけるバナー撤去問題のように、言論に対する圧力を加えようとする動きが目につくようになっていますね。パヨクだけでなく、ネトウヨが朝日新聞の広告クライアントに圧力をかけたのも記憶に新しいところです。どっちもどっちとは言いませんが、少なくとも事実に基づかない報道に対しては厳しい目を向けなければいけないとは思います。
こと出版事業においては、広告収入が損益に直結する雑誌においてその圧力が直接的な打撃になるだけに、版元としてはとても痛いわけです。書籍はどうでしょうか。書籍は不買運動がとても痛いのかもしれないですね。

NHKのニュースにあるのがこんなやつでした。
障害者殺傷事件 被告の手記掲載の本出版へ 抗議の署名提出(6/21NHK WEB)
相模原市の知的障害者施設で46人を殺傷したとして起訴された植松聖被告の手記などを掲載した本が出版される見通しとなり、21日、大学教授らが出版社を訪れ、被告の主張が拡散するおそれがあるとして出版を取りやめるよう署名を提出しました。出版社は「事件を解明し風化を防ぐための議論の材料にしたい」と話しています。
この事件は、おととし7月26日、相模原市の知的障害者施設で、入所していた障害のある人たちが次々に刃物で刺され、19人が殺害され27人が重軽傷を負ったもので、殺人などの罪で起訴された元職員の植松聖被告(28)は「障害者は不幸をつくることしかできない」などと供述しました。
事件から来月で2年となるのにあわせ、東京都内の出版社が書籍化を予定していて、この中では拘置所にいる植松被告との手紙や接見でのやり取りなど、月刊誌で紹介してきた内容や新たに加筆した手記などを、専門家の意見や被害者の家族の声などとともに掲載するということです。
これに対し、21日、静岡県の大学教授や障害がある人の家族会の代表が出版社を訪れ、出版停止を求めるおよそ2000人分の署名を提出しました。
このうち、被告と接見した静岡県立大学短期大学部の佐々木隆志教授は「被告の差別的な思想が本という形で拡散すれば同調する人が増えるおそれがあり危険だ。恐怖を感じる障害のある人や家族のことを考えてほしい」と話しています。
(以下、省略)

あの相模原46人殺傷事件の被告である植松聖が手記を発刊する動きに対して、障がい者差別につながる恐れがあるとして出版反対の動きが加速しているというのがニュースの趣旨です。

さあ、この出版反対の動きをどう見たら良いでしょうか。

個人的には「出版をさせないとする動きは言論弾圧であり、これこそファシズムではないか」と思ってしまいます。
本を出したければ出させればいいのです。そのうえで徹底的に内容を論破すればいいだけの話ではないかと思うのです。

重度の障がい者は確かに意思の疎通も難しい場合がありますね。看護されている方の負担は相当なものでしょう。自分は、2007年に発生した兵庫県立龍野高校テニス部の熱中症事故を思い出します。顧問の教師に水分補給を止められて熱中症になり脳に障がいを残してしまった生徒の話は本当に可哀想で胸が詰まります。この生徒さんは重い障がいが残ってしまいましたが、こういう場合は意思の疎通が難しくなったけれど中身の人間が入れ替わったわけではないので発症前の彼女を知っている人から見たら、どちらも彼女なんですよ。その彼女を殺せばいいなどと思っている人は彼女の周囲に誰一人としていないはずだと確信します。
植松のやったことはもちろん許せないし、植松の主張していることが(まだ出版していないから分からんけど)彼女も殺していいという主張だとしたらやはり許せないですわ(これは極論で、先天的な障がい者なら殺していいという話をしているわけではないですよ、念のため)。
事実に基づいていない主張であれば、そこで堂々と訂正を求めるなりすればよろしい。単なる思い込みの主張であるならば事実に基づいて徹底的に論争すればよろしい。そういうことです。

それにしてもパヨクは言論弾圧が好きですね。ちょっと前には船橋市の図書館で焚書騒ぎがありました。気に入らない本は燃やしてしまえの根性です。マイノリティに配慮するのは結構ですが、配慮の仕方が違うのではないかと。


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内容(新潮社HPより)

優秀な記者ばかりがそろった黄金世代。しかし、社会部長になれるのはひとりだけだった。生き残っているのは得意分野が違う五人の男。部下の転職や妻との関係、苦悩の種に惑いながら出世レースは佳境を迎えるが、会社が倒れかねない大スキャンダルが男たちを襲う。組織を守るか、己を守るか、それとも正義をとるか。勝つのは、誰だ?


曹源寺評価★★★★★
元産経新聞記者、サンケイスポーツ記者の本城雅人センセーの新刊はミステリではなくて、新聞記者の人間模様を描いたドラマでありました。新聞社を舞台にしたビジネス小説とも言えなくはないですね。
東都新聞社の社会部に勤務する植松、図師、城所、南雲、土肥の5人はいずれも同期入社の40代。次のデスクを狙う位置でバリバリに働くミドル層。黄金世代と呼ばれ、誰が次のデスクに一番乗りするのか、周囲も注目していたが、それ以上に彼ら自身が意識していた。スクープを狙わなければ、という意識が働き次第に組織が歪み始め、そんなところに降ってわいた事件が東都新聞社を揺るがした。。。
うーん、リアルだ。企業小説としてはあまりにもリアルすぎて、なんだか内情を暴露しているんじゃないかというくらいに思います。人物もキャラクター造型がとってもありがち(新聞記者にいそうなタイプという意味)でそれがリアルさに拍車をかけていますね。
昔から、新聞記者という仕事は激務で有名です。だから社会的な使命感みたいなものがないと務まらない仕事と言われてきました。そうなると記者もプライドを持っていて正義感が強い人が残りますね。曲がったことが嫌いで、相手を論破してでも意志を貫こうとする人なんて、結構いそうじゃないですか。そういう人って周囲から見れば偏屈であまり関わりあいたくない人だったりしますね。部下にいたらやりにくいでしょうし、有能でもマネジメントできるのか心配ですから昇進させようか迷うのかもしれません。
本書は社会的な事件ではなく、新聞記者の日常と人事という側面をつまびらかにした作品として稀有な作品であると言って良いかと思います。
しかも本書は新聞社の内部事情にも触れていますので、とても勉強になります。初めて知ったこともいくつかありました。
キャップの上のデスク(次長職相当)は競争に勝ち残った者が成れる
デスクになれなかった人のために編集委員、解説委員というポジションがある
脱税などの国税庁ネタは各社に順番でリークが入ってくるので、スクープしても評価が低い


へー

編集委員って上がりのポストなんですね。よくテレビのコメンテーターで出てくる人がいますが、管理職になれなかった人のための肩書きですので、そんなに偉い人ではないということですね。
ラストもなかなかに良くまとまっていますので、面白かったです。
ですが、一番の感想としては、「社会部と政治部の仲が悪いのは昔からだから知っているけど、いまそんなことでいがみ合っている場合じゃねえだろ。新聞ほど地位も売り上げも没落している業界はねえんだから抜いた抜かれたとかやってないで、全社を挙げて部数増加のための施策を打つとかやらないと明日はないよ」という思いが浮かんできます。古い体質を引きずったまま、新聞社はどこへ行こうとしているのか、そんな疑問が残るような小説でありました。





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2018年06月19日

書評906 川瀬七緒「紅のアンデッド 法医昆虫学捜査官」

こんにちは、曹源寺です。

昨日(6/18)の大阪地震で被害を受けられた方にお見舞い申し上げます。
と言いつつも、明日は我が身かもしれませんので備えだけはしておこうと思います。
まあ、新幹線の中で刃物に刺されることもあるご時世ですから、いつ死んでもおかしくはないわけです。死ぬのは怖くありませんが、無駄死にだけはしたくないなあ。どうせなら保険金だけでなく、家族に慰謝料とかカンパなどが残るような死に方をしたいですね。

さて、その地震関連で話題となっている二つの酷いマスゴミのネタがこちら。
【放送事故】大阪地震で9歳女児死亡のニュースでフジテレビが「無事死亡」と報道しtwitterで話題に (6/19ハムスター速報)

『報道ステーション』の大阪地震報道が大炎上 配慮のないインタビュー、最後は政権批判の材料に…(6/19リアルライブ)

フジテレビはもう停波でいいねこれ。中にいる人があまりにも人としてレベル低いよ。
テレ朝は何が何でも政権批判に結び付けたいだけのコメントに飽き飽きです。人間の中身が相当歪んでいるね。

それにしても震度6弱の地震って本当なら死者が何百人も出るレベルの震災なのに、日本ってすごいね。しかも翌日には仕事も通常営業ですよ。首都圏で震度6弱が発生しても「大阪を見習え」になりゃしないか、ちょっと怖いですわ。


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内容(講談社HPより)
東京都内の古民家で、おびただしい血痕と3本の左手の小指が見つかった。住人の遠山という高齢夫婦とその客人のものと思われたが、発見から1ヵ月経っても死体は見つかっていない。いっこうに捜査が進展しない中で岩楯警部補は、相棒の鰐川と事件現場を訪れ近所の聞き込みを始める。他方、法医昆虫学者の赤堀は科捜研を再編成した「捜査分析支援センター」に配属されていた。法医昆虫学と心理学分野、技術開発部の三つが統合された新組織だ。所属のせいで事件現場には立ち入れなくなったものの、同僚のプロファイラーと組んで難事件に新たな形で挑戦を!


曹源寺評価★★★★★
法医昆虫学捜査官シリーズの第6弾(!)です。もうすっかり大人気シリーズになりましたね。
今回から、赤堀涼子博士は科捜研の組織編成により「捜査分析支援センター」なる部署に配属され、公務員(というか正式に警視庁の捜査員)に転身しています。もちろん、大学の講義も続けています。そのセンターではプロファイラーの広澤春美がおり、法医昆虫学とプロファイリングという二つの武器が警視庁に加わります。もっとも、この二つの武器は古くからの捜査員にとって異物でしかなく、捜査を混乱させるだけの存在として忌み嫌われます。とまあ、ここまではお約束ですね。
今回の事件は、杉並区内で発生した死体なき殺人事件であります。3本の小指と大量の血痕だけが残された異様な事件現場。赤堀は小指に付着する蛆虫から死亡推定時刻を割り出しますが、一本だけ腐敗の進行が遅い指があったのです。学者としてはこの謎を解き明かさなくてはなりません。いつものように、岩楯刑事と鰐川刑事のコンビが加わり、少しずつ謎に迫っていきます。
今回は蛆虫くんの活躍ではなくて、やけど虫(アオバアリガタハネカクシ)くんの活躍が光るのですが、自分は虫がそれほど得意ではありませんのでやけど虫くんの存在も知りませんでした。こんなのに刺されたら嫌ですね。しかも大量発生www怖すぎwww
6作目となりまして、本書シリーズもある程度パターン化してきたように思いますが、これはこれで良いのだろうと思います。だいたい、昆虫相の変化なぞ素人には分からない世界ですし、「虫は嘘をつかない」という大前提が正義ですから、これがひっくり返ることもないでしょう。じゃあマンネリ化するのかと言えば、それはないだろうということです。

常に新鮮なグロさを出してくる、それが本書シリーズ笑

話はちょっと変わりますが、川瀬七緒センセーの作品に流れているある共通項みたいなものを垣間見ることができました。それは「中高年のクソジジ、クソババっぷりを描くのが本当にうまい」というやつです。
桃ノ木坂互助会」や「フォークロアの鍵」「テーラー伊三郎」などの過去作品においてもやたらと老人が出てきます。偏屈だったり意地悪だったり頑固者だったりするのですが、大抵は人間の嫌なところを凝縮させたような人物が登場するのです。よくもまあこんだけクソ老人を描けるものだなあと感心します。川瀬センセーは老人に何か恨みでもあるんじゃないかと思ってしまうレベルです。
本書においても然りで、こんな人が近所にいたらすんごく嫌だなあと思うキャラクターが登場してきます。自分の意に沿わないと泣き落としを使ったり、あるいは急にヒステリックになったり、どうにかしてマウンティングしようとする人。半径1キロ以内の住人が巻き込まれる怖ろしい人です。
もしかしたら川瀬センセーはすごく人間観察が得意で、人間の悪い意味での本質を突くのがうまいんじゃないかと改めて感心した次第。





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posted by 曹源寺 at 17:14| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2018年06月15日

書評905 倉知淳「豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件」

こんにちは、曹源寺です。

大学の改革とかに関するニュースが増えてまいりました。

「国立大の数を適正に」経団連が提言(6/13産経ニュース)
経団連は13日、国立大学の数と規模を適正化し、大学の質の向上や国際競争力を高めるべきとする大学改革に向けた提言をまとめた。中央教育審議会(文部科学相の諮問機関)などに提出し、検討中の大学改革に反映させたい考え。
 少子化の中で国立大86校、公立大89校、私立大604校が共存し、私大の4割が定員割れする現状を憂慮。省庁横断の組織を設置し、大学関係者や経済界なども参画し、地方のニーズを考慮した形の大学再編を含めた全体像を策定すべきと提言した。
 一つの法人が複数の国立大を傘下にして運営できるよう法改正の必要性を強調。また、経営が悪化する私大の早期合併や撤退を促す対策として、学部、学科単位での事業譲渡を可能にし経営の自由度を高めることも提言した。経済同友会も今月、経営上の問題を抱える私大の再生・再編を促す第三者機関「私立大学再生機構」(仮称)の設立を文部科学省などに求める提言を発表している。


タイトルだけ見ると「国立大学の数を減らせ」というニュアンスに見えますが、そうではないですね。国公立大学は合体させろという感じでしょうか。たとえば、浜松医科大学と静岡大学を統合するとか、新潟大学と新潟県立看護大学をくっつけようとか、そういう趣旨だと思います。企業でいうところの持ち株会社みたいなものを設立して、その下に現在の大学をぶら下げるような仕組みにすることで、まずは人材交流や学部間の調整をしやすくする狙いがあるようです。
私大に関しては、経営が悪化したときに学部単位で切り離して統廃合することができるようにする、なんてのもありますので、赤字経営の私大はこれから戦々恐々かもしれません。

経団連にしてみれば、おバカなFラン大学などでモラトリアム食んでいるより即戦力になりそうな専門学校卒とか高卒のヤツの方が使えるということが分かっていますので、人手不足解消のためにもぜひ進めてほしい事案なのだろうと思います。
レジャーランドと化したFラン大学など不要じゃ!、というのが世の趨勢でありましょう。外国人留学生のための大学になっているところ、定員割れが3年続いているところ、偏差値が40を割り込んでいるところ、いずれも存続の意味はありません。

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内容(実業之日本社HPより)
倉知淳を知るうえで格好の一冊
空前絶後の密室殺人。
真夜中の実験室で起きた世にも奇妙な事件の真相は――!?
ユーモア&本格満載。
猫丸先輩シリーズ最新作収録のミステリ・バラエティ!

戦争末期、帝國陸軍の研究所で、若い兵士が倒れていた。
屍体の周りの床には、なぜか豆腐の欠片が散らばっていた。
どう見ても、兵士は豆腐の角に頭をぶつけて死んだ様にしか見えなかったが――?
驚天動地&前代未聞&空前絶後の密室ミステリの真相は!?
倉知淳を知るうえで格好の一冊。
こういう作品集を読みたかったのだ。
――村上貴史(文芸評論家)


曹源寺評価★★★★

このタイトルに惹かれない人はいないんじゃないか

と思うくらい素晴らしいネーミングですね。
この倉知センセーの最新刊は短編集ではありますが、いずれもなかなかの作品が揃っています。
変奏曲・ABCの殺人
社内偏愛
薬味と甘味の殺人現場
夜を見る猫
豆腐の角に頭ぶつけて死んでしまえ事件
猫丸先輩の出張
の6編です。
そうです、あの猫丸先輩が帰ってきました。10年以上の御無沙汰だったのではないかと思いますので、往年の倉知ファンにはたまらないでしょう(と言っても、自分は未読ですが)。
個人的には「社内偏愛」がとてもシニカルでかつ星新一的で好きですが、ラストのオチは逆の方が良かったような気がします(何が逆なのかは読んでのお楽しみ)。
表題作は戦時中の松代大本営にある実験室内で発生した殺人事件ですが、ちょっと予想外の展開で、賛否が分かれそうな感じがします。





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posted by 曹源寺 at 17:06| Comment(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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