ミステリ読みまくり日記 〜書評(ネタバレあり)

通勤時間に読む、日本のミステリとその他小説をとりあえず書き留める
 

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2015年09月29日

書評650 大沢在昌「極悪専用」

こんにちは、曹源寺です。

安倍政権は安保法案が可決されたのでさっそく経済再生に向けた動きを加速させるようです。「新・三本の矢」として掲げられたのは
(1)希望を生み出す強い経済、(2)夢を紡ぐ子育て支援、(3)安心につながる社会保障、だそうで。
おいおい、(2)と(3)は経済じゃなくて子育て支援と社会保障じゃないの。別にやるなとは言わないけど、優先順位が違うだろうに。本日の株価終値は16,930.84円でついに17,000円を割り込むところまで落ちたというのに、補正をガツンと出すとか消費税の一時的な減税とか思い切ったことでもやらないとヤバイんじゃないか、と思うレベルで下落してますよ。
優先順位を間違えたり、中途半端な施策を出したりすることが市場にとって一番ヤバイということが理解できていないと、マジでまたデフレに戻ってしまいそうですね。
国民にとって一番の敵は財務省ではないかと、本気で思うことがしばしばあります。政治家は足の引っ張り合いなどせずに、財務省と戦ってほしいですわ。

内容(文藝春秋HPより)
『らんぼう』に続く、ノワール+コメディの新たな傑作
やんちゃが少し過ぎた俺は、祖父の差し金でマンションの管理人見習いに。だがそこは、「なんでもアリ」の殺し屋専用住居だった。


曹源寺評価★★★★★
大沢センセーの最新作はノワールの連作短編でありました。主人公の望月拓馬は渋谷や六本木で名を馳せたワル。闇の勢力のドンと称される祖父の望月塔馬の威光を借りてやりたい放題だったが、ある日、その祖父に見限られて、とあるマンションの管理人助手という仕事に強制的に就かされた。
そのマンションがタイトルのとおり「極悪専用」という物件で、多摩川の河っぺりに建つ平凡なマンションにもかかわらず、月額百万円の賃料を取るガチガチのセキュリティを誇るマンションだったわけで、そのセキュリティにあやかりたい人たちが集うという特色がありました。
短編としてはその設定が非常にクリアで分かりやすいですね。いろいろな住人がいて、その人々にそれぞれクローズアップすることでさまざまな事件や物語が生まれるわけです。多少ハチャメチャなところがいいですね。でも、ハチャメチャとマジメの織り合いが曖昧で、読者からしてみれば笑うところなのか真剣に読むところなのか良くわかりませんでした。
本書は短編10作からなる単行本ですが、ひとつひとつの作品があっさりし過ぎていてちょっと拍子抜けです。出だしは良いのですが、終わり方が本当に速いです。なんだか、

乗ろうとしていたエレベーターの扉があっという間に閉まって乗れなかった

みたいな、そんな残念な感覚といったらお分かりいただけるでしょうか。
テーマは◎、キャラクター造型も◎、出だしも◎なのに、面白かった感が希薄という珍しい本です。ひとつひとつの短編をもっと膨らませて中編4作くらいにしたほうが面白かったように思えます。
とまあ、そんな感想でしたが、外部評価は高かったりします。このギャップはなんなのか?
おそらく、自分は大沢センセーに重厚長大な作品を期待し過ぎているのだと思います。さらっと読める軽いノワールなぞ、あちこちに履いて捨てるほどありますので別に大沢センセーに書いていただく必然性はないのだろうと思っているんですね。でもよく考えてみれば大沢センセーは過去にも「アルバイト探偵」シリーズみたいな作品を出しておられました。考えを改めるべきは自分だということに気付かされたのです。





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2015年09月25日

書評649 黒川博行「勁草」

こんにちは、曹源寺です。

川島なお美さんが急逝です。ご冥福をお祈り致します。激やせした姿を披露してわずか10日での逝去に日本中が驚かされました。それでも、最後の最後までアイデンティティを失うことなく媒体に露出を続けたことに彼女の女優魂を感じました。本当にすごい女優さんでした。改めて合掌。

さて、先日話題になりましたのが、「ビールのCMでグビグビと音を出すのはNG」になるというニュースです。飲酒の若年化を惹起し、アルコール依存症や妊婦の飲酒習慣を増長させるのがいかんという理由だそうです。
本当に世知辛い世の中になったなあという感想しかありませんが、世知辛くしているのは誰なのか、という問題を含めていろいろ考えさせるテーマではあります。
まず、酒類に関しては広告の法的規制がないという現実があります。パチンコなどの射幸心を煽る広告には法的にも自主的にも規制がかけられていますが、アルコールや食品に関してはそういう規制がほとんどないですね。で、こういう規制をかけることによって消費行動にも影響が出るとしたらどうなんでしょう。そもそも、CMとは消費につなげて欲しいからスポンサーが作るのであって、消費につながらないCMを作って流す意味がどこにあるのか、という根源的な問いかけになってしまうわけです。
また、CMは訴求対象が違えば当然のように反応も異なるわけです。たとえば(極論ですが)、炭水化物ダイエットをしている人にとっては、おいしいお米のCMは目の毒でしょう。小麦アレルギーの人にはヤマザキ春のパン祭りのCMなどむかつくだけの存在でしかありません。子供がゲームにはまってしまって勉強してくれないと嘆く親にとって、パズドラのCMは怒りの対象でしょう。それらはいずれも少数派かもしれませんが、ビールのCMのそれと何が違うのかという問いかけに明確な答えが出せる人は果たしているのでしょうか。
それと、「グビグビ」と「ゴクゴク」はNGだけど「プハーッ」はいいのか?とか、「クーッ」はどうなんだという議論もありますね。「クーッ」がダメなら川平慈英はもうCM出られませんね(
さらに、飲酒の若年化とか言いながら、一方では選挙権の18歳引き下げと同じように飲酒喫煙も18歳解禁を目論んでいるのは矛盾ではないのか、と小一時間くらい問い詰めたい気分ですね。
ルパン三世で次元大介がタバコを吸っているシーンを糾弾することが如何に馬鹿げているかを考えれば、この手のクレーマーまがいの脅しに屈する今の映像業界は本当にクソで、自縄自縛としか言いようがないことをしているなあと思います(※酒の場合は業界団体が自主規制だそうですが、本当にいいのか?)。

内容(徳間書店HPより)
橋岡は「名簿屋」の高城に雇われていた。名簿屋とはオレ詐欺の標的リストを作る裏稼業だ。橋岡は被害者から金を受け取る「受け子」の手配も任されていた。騙し取った金の大半は高城に入る仕組みで、銀行口座には金がうなっているのだ。賭場で借金をつくった橋岡と矢代は高城に金の融通を迫るが…。一方で府警特殊詐欺班の刑事たちも捜査に動き出していた。最新犯罪の手口を描き尽くす問題作!


曹源寺評価★★★★
直木賞作家となりました黒川センセーが放つのは、オレオレ詐欺集団と大阪府警の息詰まる攻防を描いた作品であります。
主人公の橋岡は名簿屋の高城に協力し、詐欺のターゲットを捜しつつも時に「受け子」の手配も行っていた。同じく高城に雇われていた矢代とは協力関係にあったが、この矢代が曲者で、彼のしでかしたことに巻き込まれていくという不幸な役回りです。
一方、大阪府警の佐竹と湯川の凸凹コンビは現金の受け渡し現場に張り込み、仮設オフィスに張り込み、被害者に聞き込み、様々な目撃証言から犯人グループを絞り込んでいきます。
犯罪の手口に関する描写はピカイチですね。

めちゃめちゃリアル

です。電話を使った詐欺の犯罪手口をここまで緻密に描写した作品を自分は知りません。
犯人グループは次第に追い詰められていきますが、半分は自らまいた種であります。まあ、悪党の最期というのはこんなもんです。とはいえ(ネタバレ)、橋岡はちょっと可哀相ではあります。
犯罪を隠そうとしても、人と人とのつながりまでを隠すことはできません。そういう意味では本書の展開は非常に鋭い教訓を内包しているのかもしれないですね。
やはり大阪の刑事と犯罪者を描かせたら黒川センセーの右に出る人はいませんわ。






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2015年09月18日

書評648 倉山満「嘘だらけの日中近現代史」

こんにちは、曹源寺です。

昨日の国会は相変わらずおかしなことだらけでありました。立法府の人間が法に従って粛々と議事を運営することができない状態というだけでもうおかしいわけですが、ミンス党は実力行使に出てきた時点で「話し合っても通じる相手ではない」という状況を自ら作り出してしまったわけです。
「話し合っても通じない」のは国会だけではなく、むしろ世界中のあちこちで見られる現象です。話し合っても通じない場合があるからこそ、こぶしを振り上げる用意をしておく必要がある、と体現してくれたのが今回のミンス党です。ミンス党はみずから、法案の必要性をそれこそ身体を張って教えてくれました。相変わらず言っていることとやっていることがちぐはぐな党だなあと、冷めた目で見るしかないですね。
そもそも、極論を言えば、自衛権というのはどんな国でも自然発生的に保有しているわけで、それに対して集団とか個別とか線引きをすること自体がどうなんだ、という理屈もあります。戦争をしない、というのは自衛権さえも放棄すると言っているのに等しいわけで、「侵略はしない」というなら話は分かりますが、戦争という外交手段と侵略という行為をごちゃまぜにしている人がいかに多いことか。

話がややそれますが、「極論を言うとその本質が見えてくる」というのはどこかの誰かからの聞きかじりではありますが、意外とその通りだなあと思うことが多いです。
以前、同じ部署の国立大卒の部下が「冷凍庫はいっぱいものが入っていたほうが節電になる」などと訳のわからないことを言い出したので、「じゃあ、空っぽと満タンではどっちが節電になる?」と聞いてみたら、「そりゃ、空っぽのほうでしょ」と言うので、「だったら、どのくらいまで入れたら節電になるの?」と言ったらやっと理解してもらえた、ということがありました。冷凍モノが自分の力で冷凍しているわけあるまい、という理屈も極論を言わないと理解されないことがあると、そのとき初めて分かりました。


内容(扶桑社HPより)
「そもそも中国は近代国家ではありません。近代国家の尺度で中国を判断するから見誤るのです」。――気鋭の憲政史研究者が「嘘にまみれた中国」の正体を明かす。


曹源寺評価★★★★★
倉山センセーの「嘘だらけの〜」シリーズは、なかなかにダイナミックですが、それ以上にエキセントリックでもありますので読むには注意が必要です。エキセントリックゆえに史実の細かな間違いを指摘されたり、冷静な分析ができていないなどと批判されたりしますが、まあ、多少は過激な意見があったとしても面白ければ良いかなぁと思ったりします。
前回は「〜の日米近現代史」を読みましたが、ウイルソンがバリバリの反日大統領だったなどの薀蓄がそれなりに楽しい作品でありました。
本書はセンセーにとってはおそらく門外漢的な中国古代史を含む内容なので、近現代はともかく、古代から中世にかけては多少浅い内容となるのは致し方ないだろうと思います。
それでも、大正デモクラシーから昭和の開戦までの細かな史実をたどっていく作業においては、倉山センセーの正論を正面から受け止める必要はあると思います。
本書と同時に、水間政憲氏の「ひと目でわかる〜」シリーズも読みましたら、ああなるほど、大日本帝国はこうやって間違ってしまったわけだなあと理解することができます。大きなミスはいろいろあったと思いますが、「大局を見誤ったこと」「プロパガンダを軽視したこと」「外交の失敗」あたりが相当の痛手となったに違いないということが分かります。
ほぼ無政府状態になっていたエリアで日本軍あるいは関東軍が統治を目的に軍事介入した事例は数多くありましたが、「通州事件」で多くの日本人が殺害されたことや、「南京事件」というありもしない事件をでっち上げられたこと(西欧諸国も当時、まったく報道などされてはいない)など、Chinaのプロパガンダに日本は負けっぱなしです。
歴史を学ぶということは、歴史を通じて同じ轍を踏まないことであると思うのですが、日本の外交をフォーカスするとどうも歴史を繰り返してはいないかと心配になるレベルです。
日本の近現代史に関する本を読むと、

教科書レベルで知っているだけでは何の理解にもなっていない

ということが非常に良くわかります。特に、明治維新から50年で英米露独日という大国の立場にまでのし上がった日本が、なぜ国際連盟を脱退したのか、とか、なぜChinaでずるずると戦闘行為が続けられていたのか、とか、なぜ勝ち目の薄い米国にケンカを売ったのか、など、学校では教えてくれないことをさまざまな書物から学ぶ必要はあると思います。いきなり本書から行くのはどうかと思うレベルですが、読むべき本の一冊になれば面白いかなあとも思います。






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2015年09月15日

書評647 楡周平「砂の王宮」

こんにちは、曹源寺です。

日曜日に行われた山形市長選挙では50年ぶりに保守系の市長が誕生したというニュースがありました。
逆に驚いたのは、50年間も共産系の市長が市政を行っていたという事実です。まあ、土地柄というのはいろいろあるわけですからそれはいいか。うちのある市もその隣の市も革新派みたいな市長が何期もやってますよ。
それにしてもこのタイミングで(=安保法案審議真っ只中で)自民が勝つというのはすごいなあ。
ひとつ言えるのは、市政と安保は直接関係のないことであって、そもそも争点が違うのにリベラル連中は反安保一色だったから敗れたのだろうということです。
山形市民はその点、冷静だったわけですが、それ以上にリベラルの自爆だったということです。おそらくは市長選に勝利して「民意の反映だ!安保法案撤回しる!」とでも騒ぎたかったのでしょうが、市民の生活についてこれっぽっちも考えなかったツケが回って見事に敗戦です。そんな奴らに市政を任せても市民のことなど考えてくれませんからね。
同じように昨日の国会周辺のデモでは、どこかの教職員組合の幟が立っていましたが、生徒のことなどこれっぽっちも考えないでデモ行進ばかりやっている教師どもがいかに多いかを物語っていますね。授業さぼってデモ行進しているやつって、クビにはできないものかね?

内容(集英社HPより)
闇市で薬屋を営む塙太吉は、持ち前の商才を発揮し、流通業界日本一の大企業の会長まで上り詰める。己の信念を愚直なまでに遂行しようとする男が作り上げた砂の王宮の行方は。著者渾身の経済小説。


曹源寺評価★★★★
楡周平センセーの新作です。今度は戦後のどさくさから成り上がり、たった一代で国内最大手の流通企業グループを作り上げた男の物語であります。モデルはダイエー創業者の中内齊≠ナ、戦後の焼け跡からのスタートという点においても「海賊と呼ばれた男」を意識しておられるような作り込みです。
しかし、冒頭からキナ臭い展開でサスペンス色が加えられておりますので、単なる経済小説ではないところが楡センセーの面目躍如といったところでしょうか。
主人公の塙太吉は家業の薬局からスタートして、戦後に米軍の備蓄横流しで大儲け。薬局をやめてスーパー経営に乗り出し、これもまた大儲け、同業他社の乱立で安売り合戦に火がつき、差別化のために牛肉を安く売る仕組みを開発、東京へも進出して巨大流通チェーンを構築。
と、ここまでは成功譚なのですが、二部構成からなる本書のキモはこうした成功譚ではなくて、第二部に書かれた「経営の陥穽」とでもいうべきちょっとした落とし穴にこそありましょう。
それはもろにネタバレなので書きませんが、

現在のダイエーグループがどうなっているのか

をみれば大体のことは予想がつきますね。
それと、例によって楡センセーお得意の「流通改革」案がここでも提示されているのが興味深いですね。「再生巨流」あたりから始まり「ラストワンマイル」や「プラチナタウン」「ミッション建国」などでプランニングされている現代日本の問題解決のアイデアはひとつひとつが秀逸です。誰かが本当にひとつくらいトライしてみたら面白いと思うのですが。






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2015年09月11日

書評646 曽根圭介「工作名カサンドラ」

こんにちは、曹源寺です。

関東から東北にかけて大雨が続いたことで、栃木県と宮城県では堤防の決壊や河川の氾濫が相次ぎました。被害に遭われた方にはお見舞い申し上げます。治水は国の一大事であり、たとえ自然堤防になっていた場所がたまたま民間の所有で削られていたとしても、国の責任は免れることができないと思います。すでに10年前くらいからゲリラ豪雨が活発化していたわけですから、いままで以上に治水対策を強化すべきであったことは明白であります。
まあ、そんな責任論はさておき、まずは被害に遭われた方々の一刻も早い救出を祈念致します。先の大震災のときもそうでしたが、やはり自衛隊の活躍なしには国民の安全は担保できないですね。こんなに自然災害の多い国も世界にそれほど多くはないでしょう。だからこそ、いざというときのための備えや、生命の危機に遭遇したときの頼りが必要になるわけで、有名な自衛隊のコピペを貼って応援させていただきます。

40 ヘラオオバコ(四国) 投稿日:2009/06/16(火) 18:49:20.05 ID:TSDiOufy
ある日曜の午後、街を歩いているとデカデカと『自衛隊反対』と書かれた横断幕を持った
10人ぐらいの集団が演説をしていた。
先頭に立ちマイクで「自衛隊ハンターイ」「自衛隊は即刻、解体しろー」
と叫んでいるのは50代後半と見られる中年の男性だ。
あの男性見覚えがある。確かTV番組で
「敵が攻めて来たら、殺すぐらいなら殺される方がマシだ」などとバカなことを言っていた人だ。
バカだなぁと思いながら演説を聞いていると、1人の若い男性がつかつかと
その演説をしている中年男性の元に歩みよりいきなり拳を振り上げた。
咄嗟に中年男性は両手を上げ、身を守ろうとした。
すると若い男性は言った、「それが自衛隊や。あんたを傷つけようと振りかざしたこの右手やなく、
それから身を守ろうとあんたが咄嗟に出したその両手が自衛隊や。」
「あんたは日本からその両手を奪おうとしてるんやで。」

その瞬間まわりで事の一部始終を見ていた人達から拍手が起こり、
何も言い返すことが出来なかった中年男性の
声にならない声がマイクを通して辺りに虚しく響いた。



内容(朝日新聞出版HPより)
奥多摩山中で両耳と鼻を削ぎ落とされた男性が発見された。青梅西署の刑事・荻大二郎は事件を追う。やがて、ある「機密文書」をめぐり、政治家、スパイ、狙撃手が生死を賭けた攻防へと発展していく。ベストセラー『沈底魚』の著者による書き下ろし大作!!


曹源寺評価★★★★★
デビュー作「沈底魚」以外はどちらかというとシニカルな内容の小説が多い印象の曽根センセーですが、本来の曽根圭介というお方はこうしたミステリやサスペンスの分野でがっつりと読ませてくれる数少ない書き手ではないかと思っていました。
本書は久々のディープなミステリでありまして、まさにこういうのを待っていました!という内容でした。
冒頭からリンチ暴行シーンですが、以降は凄惨なシーンがありませんので大丈夫です。
警視庁捜査一課から青梅西署に移動した荻大二郎警部補と、自衛隊の狙撃手として優秀な成績を収めながらも隊をを辞めざるを得なくなった佐々岡啓志を中心にストーリーは展開していきます。
荻は奥多摩の青梅街道で自動車事故に遭った車両から発見された意識不明の男性が発見された事件で、その男性の正体と周辺を明らかにしていく中で露見されつつある大きな陰謀に気付きます。
佐々岡は新たな職を探すも難航し、自暴自棄になる寸前で自衛隊の情報保全隊からオファーを受け、ある保守系団体にもぐりこんでスパイ活動を行います。
ふたつのストーリーが一つになるとき、事件は大きく動き出すのですが、ラスト20ページくらいまで混沌が続きますので予測がつきにくいです。
最後の最後でうま〜くまとめる手法は「藁にもすがる獣たち」でも披露していただきましたが、このへんのうまさは大沢在昌センセーか奥田英朗センセーにも匹敵するのではないかと思います。
ただね、ラストは微妙ですね。

このエピローグは不要なのではないかという意見

がそれなりにあるようです。自分としましては、まああっても良いかなとは思いますが、これを入れるならば前段のエピソードをもうちょっと膨らませておかないといけないのではないかとも思います。






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2015年09月08日

書評645 笹本稜平「強襲 所轄魂」

こんにちは、曹源寺です。

どこかのマスゴミの調査によると、今国会での安保法案の成立には61%くらいの人が反対しているという報道がありました。
大局に立てば、抑止力としての集団的自衛権は必要だと思います。日本が集団的自衛権を保持することに反対しているのは中国と韓国だけで、他の世界中の国々は賛成していますし、隣国で人が死にまくっているのに日本だけ高みの見物となれば、それこそ国際的な立場を失うのではないかと思います。そう考えると、日本人て本当に平和を通り越して呑気というかお花畑だなあとつくづく思います。
まあ、そんな日本にしたのは米国です。いまの憲法も米国が(GHQが)作ったものですからね。そんな日本国憲法を盾に、日本を戦争のできない骨抜きの国にしたわけですが、その後、米ソの冷戦が示すとおり、米国の本当の敵は日本ではなくてコミュニストだったことに気付いた時はもう後の祭りだったので、仕方なく軍事を肩代わりしながら共産主義の封じ込めに使ったというのが、戦後の歴史です。
その米国ではついに軍事費が底を尽きかけてきたために、日本も武装して集団自衛権で手伝え!というのが現在の状況ですので、ある意味「米国ザマァ」な状況だと言っても良いかもしれません。これまで散々非武装にさせておいて、自分たちが都合悪くなったら金出せ人出せと。ふざけんなゴルァ!
おそらく、純粋左翼の方たちはこういう理論なのだと思います。だから安保反対、という理屈は理解できます。しかし、そうではなくてただ単純に戦争したくなくて震えてるどこかの学生とか、子供を戦場に送らせないとかのたまう母親たちは、感情だけで動いていますのでこうした左翼の理論も通じていないですね。外交と防衛は感情だけで動くべきではない。これだけは明言できます。だから、感情だけでデモをしている人の気持ちは、政治家には絶対に届かないとも言えるでしょう。つまり、デモは無駄です。無意味です。意味があるとしたら、それは大衆を扇動するためには一定の効果があるという点ではないかと思います。しかしそれは、感情で動く人を増産させるだけですので、言い方は悪いですが「愚民化」が加速するだけ、とも言えるでしょう。自分(に限らず多くの人)がデモを冷めた目で見ているのはこういう理屈なのだろうなあと書きながら思った次第。

内容(徳間書店HPより)
江東区で立て籠もり事件が発生した。犯人は三年前まで立て籠もり事件を専門に扱う特殊犯捜査係(SIT)に所属していた元警察官・西村國夫。膠着状態が続く中、葛木の携帯に西村から一本の電話が。「この国の警察を自殺に追い込みたい。警察組織の浄化を要求する」と言う。いったい何が犯人を駆り立てるのか。犯罪を防ぐことを正義とする葛木と所轄の面々、そして葛木の息子のキャリア警視・俊史が、立て籠もり犯と対峙する!

曹源寺評価★★★★
笹本稜平センセーの警察小説シリーズ「所轄魂」も3作目を迎えました。そして、9月にはテレビ朝日系列で初のドラマ化ということでおめでとうございますぅ!
主人公の葛木邦彦警部補は時任三郎だそうで、もう時任三郎も地味な中年刑事の役をやるようになったのだねえ(遠い目)
所轄魂シリーズの特徴は何と言っても「父子鷹」のような設定にありましょう。父の葛木は元警視庁捜査一課の敏腕刑事、家庭を顧みるようになって所轄に異動願いを出した変わり者ですが、息子の俊史は警察庁刑事企画課のキャリア官僚、息子のほうが父親よりも偉いという珍しい設定です。そんでもって、いつものテーマは「腐敗した警察官僚の闇を暴く」的な内容になっており、本書もまた然りでありました。
先日の「越境捜査」シリーズもそうなんですが、どうも笹本センセーは「腐った官僚組織」vs「地道に頑張っている現場」という構図がお好きなようでして、登場人物のセリフがクサいのはご愛嬌としても、その正義感たっぷりのセリフの多さにはちょっとだけ辟易してしまいます。
それと、本書はのっけから立て篭もりのシーンでスタートし、(以下、ややネタバレ)


制圧して終わります。つまり、現場が膠着するのでアッチに行ったりこっちに行ったりということがありません。

ですので、本来ならば中編くらいのボリュームで終わらせられる内容なのですが、これを無理やり引き伸ばしているように思えます。
ムダに長いので

途中すっ飛ばしても大丈夫ですね(白目)

でもまあ、シリーズのなかではまずまずの出来だと思います。






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2015年09月04日

書評644 東野圭吾「虚ろな十字架」

こんにちは、曹源寺です。

佐野エンブレム事件は本人の取り下げによって一応の幕引きが図られていますが、いろいろと残ってしまった疑惑が多すぎて、いまいち釈然としない人も多いのではないかと思います。
なぜ審査費用に50億円もかかっているのか、とか
なぜ修正の必要な佐野案が残ったのか、とか
なぜ修正してまでこの案に固執したのか、とか
なぜ審査委員は何も言わないで黙りこくっているのか、とか
なぜ佐野のデザインにはパクリ疑惑が多いのか、とか
なぜ一部のマスゴミは佐野を擁護しているのか、とか

デザイン業界が受難、とか訳のわからない問題のすり替えに走っている人とかもいますね。佐野の問題は「劣化パクリ」なのが問題なんであって、業界の話しに摩り替えるのは卑怯です。あのパクリはオマージュでもインスパイアでもないですわ。あれは「やっつけ仕事」でしかないですね。横手市の「涼」のデザインがまさに象徴的です。あれは本当に酷い。サントリーのトートバッグとこの横手市のポスターが彼の力量を物語っているのではないかと思います。






内容(光文社HPより)
動かない事実がある。彼女は、もう戻らない。
別れた妻が殺された。もし、あのとき離婚していなければ、私はまた遺族になるところだった。
東野圭吾にしか書けない圧倒的な密度と、深い思索に裏付けられた予想もつかない展開。
私たちはまた、答えの出ない問いに立ち尽くす。


曹源寺評価★★★★
東野センセーの作品群には時折、非常に重いテーマで書き上げる作品があります。過去には「白夜行」とか「殺人の門」「さまよう刃」あたりがそうでしょう。最近では「麒麟の翼」あたりがやや重い内容になりましょうか。本書はそのなかでも久々の陰鬱な、暗く重いテーマと内容の作品と言えましょう。
強盗殺人の被害でわが子を失った過去のある主人公の中原は、別れた妻が殺人事件の被害者となったことを知ります。あぁ、これだけでもう「どんだけ不幸なんや」と思ってしまうのですが、中原は分かれた妻、小夜子の遺稿を読んだことでこの事件に違和感を持ち始めます。
登場人物がバラバラに動いていて、それが本書の半分を過ぎた辺りから徐々に結合を始めていきます。そして後半は一気に真相に突き進んでいき、ラストに待っていたのは

ビミョーな過去の事実でなんだかなー状態

でありました。確かに、一人の命を奪ったら、奪ったやつの命で償わなければならない、とするのが死刑原理主義とでもいえる理屈になりますが、

(以下、ネタバレ的)じゃあそれが胎児だっだらどうなのか、とか、1,000人で一人の命を奪ったらどう償えばいいのか、とか、あるいはその逆に、一人で数百人の命を奪ったヤツはどう制裁すれば良いのか、とか、いろいろ考えさせられるわけです。
今の法律では極刑が死刑しかありませんし、その次は無期懲役しかありません。事実上の二択なわけでありまして、この少ない選択肢のなかから量刑を選択しなければならない現実をどう捉えたら良いのか、という命題も浮かび上がります。なるほど、単純に死刑に賛成か反対かといった二元的な議論ではなく、犯罪や償いに対する様々な量刑の選択ができるシステムみたいな、そんな法体系もあって良いのかもしれないですね。

と、いろいろなよしなしごとが思いつくのですが、それはさておき、本書は死刑は人を幸せにするのか、あるいは死刑廃止で人は救われるのか、という本質の部分においていろいろと考えさせられます。そして、本書の記述(なかでも死刑囚の気持ち)は死刑賛成論者も反対論者も胸に突き刺さるのではないかと思います。





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2015年09月01日

書評643 柴田哲孝「下山事件 暗殺者たちの夏」

こんにちは、曹源寺です。

五輪エンブレム事件(あえて事件と言おう)はネット住民の執念によりあちこちでパクリが暴露されるという状況になり、久しぶりのお祭り状態になりました。
嘘に嘘を重ねると辻褄が合わなくなり、最終的にはすべて露呈されてしまうという、まさに道徳の教科書みたいなストーリーです。
ネットで「佐野 まとめ」でググると出てくるまとめサイトを見ると、えっ、こんなにパクッているの?と驚くレベルです。そのまとめサイトもネット住民の暴露に追いついていないですね。どんだけパクッているんだこいつはwww

と思っていたら、今日の速報で「エンブレムの使用を中止する方針」と報道されましたよ、っと。
キターッ!
組織委員会がどんな言い訳するのか楽しみです。おそらくは「五輪エンブレムは潔白だが、サントリーをはじめとした一連の疑惑が持ち上がったことから、ここは一旦白紙に戻すことが賢明と判断」とかなんとか言うのでしょう。
佐野教授については「自らクリエイトすることなく、ネット上に転がっているネタを拾って適当に仕上げているだけの常習的なパクリデザイナー」というレッテルを貼られてしまったわけで、そんな人のデザインを使い続けること自体がリスクになってしまいました。信頼の置けない大工に家を建てさせることはしない、つまりはそういうことです。もっと傷の浅いうちに取り下げておけば、佐野教授も(多摩美術大学と佐野を擁護したデザイナーたちも)生き永らえることができたのかもしれないのにねえ。。。





内容(祥伝社HPより)
小説だからこそ、書けることがある。
『下山事件 最後の証言』の衝撃から10年…
いま昭和史最大の謎の“真実”が明かされる。
戦後間もないGHQ占領下の日本で、ある事件が起きた。昭和24年7月5日、初代国鉄総裁が失踪。翌6日未明、線路上で礫死体となって発見された。
いわゆる「下山事件」である。
私はここに、小説『下山事件 暗殺者たちの夏』によって、再び事件の“真相”を問う──著者(「あとがき」より)


曹源寺評価★★★★★
下山事件 最後の証言」で自身の身内が事件に関与した疑いがあることをほのめかした柴田センセーが、今度は小説仕立てで真実に迫ったというので、さっそく読みましたよ。あぁ、もう「最後の証言」から10年が経つのですね。この本はけっこう衝撃的だったのですごく覚えています。間違いなく真実に迫った本だったと思います。
昭和24年7月5日に発生したこの事件を、精密かつリアルに小説風に仕立て上げたのが本書ですが、他の本にないのが「主犯格とされる犯人グループの動きを同時並行で書き連ねた」ことでありましょう。
当時の国鉄総裁である下山貞則氏を誘拐し、拷問のうえ血を抜いて殺害、死体を五反野付近のレールに置き轢断させるという恐ろしい殺人のプロセスまで緻密に書き上げた柴田センセー、

あなたはタイムスリップでもしたのかい?

と思えるくらい史実にも忠実で、しかも実名と仮名が入り混じった書き方をあえてされています。
少しでもこの事件のことを勉強した人は絶対に読むべきだと思う反面、

下山事件を知らない人にはハードルが高すぎです

知らない人はまず、松本清張の「日本の黒い霧」から読むことをお勧めします。清張センセーはあの時代にGHQがらみの犯罪であることを看破しておられますので、本当にすごい作家センセーだったなあといまさらながらに感激できます。そのうえで、「最後の証言」や矢田喜美雄センセーの「謀殺 下山事件」などを読み、本書に入っていただくのがよろしいかと思います。
ただ、本書の場合、迷宮入り事件をリアルに描くということは、

イコール胸糞悪い結末

ということと同義であるのは論を待ちません。それを承知した上でしっかりと柴田推理を楽しむのがスジではないかと思います。
そして、読後に思うのは、もう一度「最後の証言」を読まなければ、という衝動でした。「最後の証言」ではあの矢板玄本人にインタビューしていたのを思い出したからです。本書では「八板玄士」の名で黒幕中の黒幕として描かれていますので、この辺の、というか亜細亜産業自体の関わり度合いが気になるところです。

(以下、ネタバレですが)亜細亜産業が最後どうなったのか、についてはあまり触れられてはいませんでしたが、下山事件後に解散してしまったのでしょうか?Wikipedia見てもあっさりしすぎていて全然分かりませんでした。






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posted by 曹源寺 at 14:06| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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