ミステリ読みまくり日記 〜書評(ネタバレあり)

通勤時間に読む、日本のミステリとその他小説をとりあえず書き留める
 

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2015年11月20日

書評665 月村了衛「影の中の影」

こんにちは、曹源寺です。

フランス・パリでの同時多発テロ事件は世界の歴史に一つの転換点を与えたのではないかと思えるほど、世界情勢が緊迫してまいりました。
すでに戦争は始まっているというような声も上がっています。そこで出てきた話題のひとつがこれです。

ダライラマ、パリ同時多発テロでコメント「神に祈っても問題は解決しない」
先週末、フランスのパリで発生した同時多発テロは、各方面に大きな衝撃を与える状況となっているが、仏教の宗教指導者となるダライ・ラマ(Dalai Lama)がこの問題に対して、非常に現実的なコメントを行ったことが関心を集めている。
この発言は、ドイツ国営放送局のDeutsche Welleのインタビューに応じたものとなる。
一部を要約するとこうなる。

人々は平和を欲しているが、テロリストは近視眼的であり、それ故に彼らは自爆テロを行う。我々は、祈るだけではこの問題は解決できない。私は仏教徒であり、信仰を信じている。問題を作り出したのは人間なのにも関わらず、問題の解決を神に委ねることは論理的なこととは言えない。神ならばこういうかもしれない「問題を作り出したのは人間なのだから、自分たちで解決しなさい」と。
我々は、人間性と協調心を育て上げるためにシステマチックなアプローチを取る必要がある。今からこれらを始めるならば今世紀は前の世紀とは異なるものとなるだろう。それを始めるかどうかは、全ての人々、一人一人の考え方にかかっている。それを成すためには、神や政府に頼るのではなく家族や社会のなかから平和のために働くことを行うべきである。(以下、略


けだし、名言であります。祈るだけではダメだと睨下はおっしゃるのでありますが、本当にその通りでしょう。ひとりひとりができることをやる。まいた種は自分で刈る。実に仏教らしい考え方です。これを似たような言葉に「人事を尽くして天命を待つ」という故事がありますが、神に祈るのは最後の最後で良いという意味にも取れますね。
自分は仏教徒だと威張れるほど熱心ではありませんが、心の根っこにはこうした仏教的な感覚みたいなものがあるのだなあと、こういう記事を読むと思うのであります。ですから、逆に「ひたすら祈るのです」とか「神の御名の下に」といった概念がピンとこないのですね。もちろん、仏教にも「他力本願」という言葉がありまして、この場合の他力は阿弥陀如来さまであるわけですから、人間の力の及ばぬところで仏様の力によって本願を成すという概念はあります。しかし、神の名を錦の御旗にしてすべてを正当化するとか、異教徒は滅ぼせとか、そういう考え方にはどうしても馴染めないですね。
キリストVSイスラムはもう2000年以上対立が続いているわけですから、話せば分かるというレベルの問題でもありませんし、どちらも仏教のような思想とは微妙に異なりますが、ダライ・ラマ睨下はもしかしたらこうした背景さえも下らぬことと一喝しておられるのではないかと思ったりもします。

内容(新潮社HPより)
国に棄てられし男たちよ、中国の暴虐に立ち向かえ! 最注目作家の最強ヒーロー誕生!
人民解放軍の生体実験で数千人が村ごと消滅――。恐るべき虐殺から逃れて日本潜伏中のウイグル人亡命団と、事件を追う女性ジャーナリストが襲われた。なぜか警察も黙認する凶行から彼らを救ったのは、闇に葬られた伝説の男、景村瞬一。次々と忍び寄る中国最強の暗殺部隊相手に、義に殉ずる男たちの熱き死闘の一夜が始まる!

曹源寺評価★★★★
土爆の花」「槐 エンジュ」に続く月村センセーのアクションヒーロー小説(!?)であります。今回は元警察庁キャリアにして抜刀術や格闘術を極めたウルトラハイスペックな「カーガー」こと景村舜一が主人公です。
敵は中国人民解放軍の精鋭部隊と警察庁警備部長で、味方が暴力団菊原組という何とも面白い設定です。新疆ウイグル自治区で人道にもとる人体実験が行われ、その証拠隠滅を図る軍と逃げる亡命団。その亡命団を取材対象にしていたフリージャーナリストの仁科曜子も暗殺団の襲撃に巻き込まれ、知己の暴力団若頭補佐とともに亡命団を匿おうとします。そこに現れたのが「カーガー」こと影村です。都会のど真ん中と川崎のタワーマンションで繰り広げる壮絶な攻防は息をつかせぬ展開で、ピンチを切り抜けるべく景村の技が冴え渡ります。
景村たちがどうやって包囲網から脱出するのか、ハラハラドキドキが止まりません。とはいえ、前作からはやや控えめになった印象もあります。どんどん派手にしていっても良いのでは、と思いますが、相手が人民解放軍ですからしょうがないのかもしれません(笑
本書のキモは何と言っても「敵が人民解放軍の精鋭」で「新疆ウイグル自治区の人権侵害の惨状」をリアルに描いた点にあるのではないかと思います。小説とはいえ(フィクションではないレベル)これって、朝日新聞とか採り上げられないでしょうに。

直木賞とか獲ったらどうなるんでしょうか

(まぁ、ありえないでしょうけれど)。
ところで、月村センセーの作品には面白く読める法則みたいなものがあって、その大きな特徴のひとつが「脇役が意外と活躍して面白い」というのがあります。黒澤明作品を意識しているのかもしれません。
「土爆の花」では7人の自衛隊員がそれぞれ活躍します。「槐 エンジュ」では教頭センセーが意外な活躍を見せてくれました。(以下、ややネタバレ)

本作では菊原組の樋口が人民解放軍のエリートたちを相手にものすごい活躍ぶりです。気配を覚られずに背後に立つ、ってそれだけでもすごいですわ。彼はそのサイコキラーぶりをスピンアウト作品で発揮していただきたかったレベルです。リアルにいたらおっかないけど。





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posted by 曹源寺 at 16:53| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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