ミステリ読みまくり日記 〜書評(ネタバレあり)

通勤時間に読む、日本のミステリとその他小説をとりあえず書き留める
 

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2016年07月29日

書評731 池井戸潤「陸王」

こんにちは、曹源寺です。

東京都知事選挙はいよいよ明後日を投票日に控え、各候補者も最後の追い込みにかかっています。
今回は21人の候補者が立候補していまして、事実上上位(って何やねん。誰が決めるねん)3候補の決戦と報道されていますが、その他18人の候補者が共通して主張しているのが「どうか投票所に行ってください」というやつです。

彼らには組織票という名のバックアップがありませんので、頼りになるのが4割とも言われる浮動票なわけです。4割でも400万票ありますから、総取りすれば(理論上は)知事になれるのです。

都の選管によると、前回の投票率は46.14%、前々回は62.60%、さらにその前は57.80%となっており、都知事選の投票率はだいたい15%くらいのぶれ幅があるようですので、100万票以上の死に票が生まれたり生まれなかったりということが分かります。まあ都民は気ままであるということの証左ですね。

個人的にはこの投票に行ったり行かなかったりする150万人の行動に非常に興味があります。常に投票率が安定している高齢層ではないですね、間違いなく若年層です。この若年層がどれだけ投票行動するのか、それによってどれだけ票数に影響を与えるのか、注目したいと思います。
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内容(集英社HPより)
走れ、勝利を信じろ。
足袋作り百年の老舗が、ランニングシューズに挑む。
埼玉県行田市にある「こはぜ屋」は、百年の歴史を有する老舗足袋業者だ。といっても、その実態は従業員二十名の零細企業で、業績はジリ貧。社長の宮沢は、銀行から融資を引き出すのにも苦労する日々を送っていた。そんなある日、宮沢はふとしたことから新たな事業計画を思いつく。長年培ってきた足袋業者のノウハウを生かしたランニングシューズを開発してはどうか。
社内にプロジェクトチームを立ち上げ、開発に着手する宮沢。しかし、その前には様々な障壁が立ちはだかる。資金難、素材探し、困難を極めるソール(靴底)開発、大手シューズメーカーの妨害――。
チームワーク、ものづくりへの情熱、そして仲間との熱い結びつきで難局に立ち向かっていく零細企業・こはぜ屋。はたして、彼らに未来はあるのか?


曹源寺評価★★★★★
企業小説を書かせたらもはや右に出る者なし、の池井戸センセーの最新刊は、埼玉県行田市に本社を置く零細の足袋メーカー「こはぜ足袋」が新たなビジネスに果敢にチャレンジする感動のストーリーであります。
池井戸小説の定番といえば、
・中小零細企業である
・経理担当の番頭がいる
・大手企業が妨害する
・資金繰りに窮する
・みんなの努力で開発に成功する
・一発逆転からのハッピーエンド
という王道を行くストーリーがもはや定番と化していますが、本書もまたこれに倣うものであります。
マンネリと言えばそれまでですが、読者はこれを求めています。

だから、これでいいんです。面白いですから。

困難が待ち構えていてもチャレンジする姿が見たいのです。
艱難辛苦の果てにあるハッピーなゴールが見たいのです。
主人公とともに滂沱の涙を流したいのです。

これまでの作品と微妙に異なるのは、主人公の元にやってくる様々な「縁」が微妙にリアルだったりすることです。たとえば、取引銀行。古い体質の地方銀行をメーンバンクとするこはぜ足袋は当初、非常に理解のある担当者がいましたが、支店長とぶつかった挙句に異動、さらには退職してしまいます。後任の担当者はきわめてクールで何を考えているのか良くわからない。しかし、、、
また、ソールの素材を探していた主人公宮沢の元に届いた情報で、特許を保有する男がいたが、過去に倒産歴があり、様々な名目でお金をふっかけるクセのある男だった。しかし、、、
さらに(ややネタバレ)、外資系アパレルの社長との丁々発止のやりとりや、メーンバンク支店長の言葉、などなど、小説というよりも現実の企業経営の場面をリアルに見せているかのような描写に、これまでの作品とは一線を画すリアリティを描いてくれています。
実はこの小説には実在するモデルがありまして、行田市の「きねや足袋」という企業です。本当にランニング分野に参入していて、ランニング足袋「MUTEKI」というネーミングで販売されています。ランニングシューズとはちょっと違いますが、足袋とシューズの中間のようなMUTEKI、ちょっと履いてみたくなりました。







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2016年07月26日

書評730 川瀬七緒「女學生奇譚」

こんにちは、曹源寺です。

ネットニュース配信の一角を占めるJ-CASTですが、街ネタを配信する「Jタウンネット」というサイトも運営していまして、こちらでは東京都知事選挙の泡沫候補にもスポットを当てた記事を配信しています。

主要3候補「以外」の都知事選(1)高橋尚吾さん 「選挙は戦いじゃない」他候補の応援演説続ける(7/25)

主要3候補「以外」の都知事選(2)後藤輝樹さん 軍服ポスター、「放送禁止」政見放送、素顔(7/26)


いいですねぇ、こういう情報が欲しいのですよ都民は。
無党派層が4割を占める東京都では、選挙終盤においても態度を明確にしない人が多いため、票読みが難しいわけですが、だからといって主要候補だけを報道の対称にしている大手マスゴミはこうした泡沫候補には一切焦点を当てることをしません。キワモノだというのは理由にならないんですよ。予備選挙でもあれば別ですが、そういう制度ではないのですべての候補者が機会平等であるべきですよね。
確かに、後藤候補なんてキワモノですよ。マック赤坂候補だって絶対当選圏には入ってこないというのも分かってはいるんです。
しかし、いみじくも公共の電波を借りている放送局は多くの人に広く知らしめる義務があるはずです。

山口候補は泡沫候補に呼びかけて合同で立会演説会を開催しました。
私の政策も知って!=候補12人が街頭演説会【都知事選】(時事通信7/25)

こういうことをしなければ話題にしてもらえないという現状は、果たしてどうなのかなあと思います。山口敏夫なんて完全にオワコンですが、こういう粋な計らいをされるとちょっとグッときますね。逆にこうした場にも登場しない鳥越はどんどん評価を落としています。些細なことかもしれませんが、こうした評判の積み重ねは選挙にとっては大事ですね。

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内容(徳間書店HPより)
フリーライターの八坂駿は、オカルト雑誌の編集長から妙な企画の依頼をされる。「この本を読んではいけない……」から始まる警告文と古書を、竹里あやめという女が持ち込んできたのだ。その古書の本来の持主である彼女の兄は数ヶ月前に失踪、現在も行方不明。このネタは臭う……八坂は、タッグを組むカメラマンの篠宮、そしてあやめとともに謎を追う。いたずらか、狂言か、それとも――。最後まで目が離せない、サスペンスミステリー!


曹源寺評価★★★★
川瀬センセーといえば「法医昆虫学捜査官」シリーズというややグロなミステリでちょいブレイクした乱歩賞出身作家ですが、今回はグロではなくホラーチックな作品でありました。
オカルト雑誌に寄稿するフリーライターの八坂と、タッグを組むカメラマンの篠宮。二人は編集長の依頼で竹里あやめから奇妙な古書とその本の間に挟まれていた謎のメモの解読を要請される。
その古書は依頼人であるあやめの兄が持っていたもので、兄は失踪していた。古書を読み始めた八坂は隠された手がかりから情報を集めるが、彼の周辺では怪しい動きも、、、
全体に流れる雰囲気がややオカルト的で、こんなジャンルにまで手を伸ばしている川瀬センセーの力量がハンパねえっす。
昭和3年発行の古書「女學生奇譚」はもちろん、舞台装置のひとつでしかないのですが、その内容を引用したというかたちで一部が収録されています。これがまた当時の風俗をうまく表現していて時代感溢れています。
この本に流れている一風変わった雰囲気は、横溝的というか乱歩的というか島田荘司的というか、ちょっと暗めですが味わい深いですね。キャラクター造型もなかなかに凝っているので、このメンバーで別のお話を書いて欲しいレベルです。特に主人公の八坂は遺伝子の異常により扁桃体が機能しない「ウルバッハ・ビーテ病」により、まったく恐怖を感じない体質であるという設定です。しかも一卵性双生児で弟がいて、、、
このへんのくだりがあっさりしているので、

なおさら興味をそそるのですよ。

あと、余談になりますが、この本を持って電車に乗るとタイトルを見た人から

奇異な目で見られること請け合いです。

「女學生」という単語は中年男性と相性が悪いです。気をつけましょう。





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2016年07月22日

書評729 山田宗樹「代体」

こんにちは、曹源寺です。

東京都知事選挙は政策論争なきまま終盤を迎えようとしていますが、そんなところにあの「文春砲」が炸裂してしまったものですから大変です。文春だけでなく、新潮や週刊朝日、スポーツ紙などが同時多発テロのごとく一斉射撃を始めたのでびっくりですわ。

文春にしてみれば第一弾ですから「ジャブ」を一発放っただけですがこの有様。ネット民からすれば今回の選挙はもうズタボロですね。小池候補だって無傷じゃないし、増田候補は人気上がらないし、それ以外の候補者は全然メディアに取り上げてもらえないし(このへんはちょっとどうなのかなあと思いますが)。
こうなりゃネトウヨ代表桜井誠の演説とカウンターの漫才、鳥越俊太郎の断末魔の叫び、鳥越を候補者に押し上げた杉田秀哉と民進党幹部の嘆き、応援弁士に入っていた民進党と共産党の女性議員達の怒り、これらを酒の肴にして楽しむしかないですね。
あ、忘れていた。元船橋市議会議員の立花孝志氏による痛烈なNHK批判演説も楽しめますね。彼は絶対都知事になる気なくて、政見放送という格好の場でNHK批判を堂々と繰り広げることこそが主目的です。単に電波ジャックをしたかっただけですね。
この新手の電波ジャックは究極の自己表現といって差し支えないでしょう。供託金300万円没収を覚悟しても、自分の主張を公共の電波に乗せて東京中に流すことができるわけですから。
たとえば、ある会社の不祥事を告発したい人がいて、不祥事の証拠を持って政見放送の場ですべてをぶちまける、なんてことをしたらどうなるんですかね。想像するだけで楽しそうです。

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内容(KADOKAWA HPより)
近未来、日本。
そこでは人びとの意識を取り出し、移転させる技術が普及。大病や大けがをした人間の意識を、一時的に「代体」と呼ばれる「器」に移し、日常生活に支障をきたさないようにすることがビジネスとなっていた。
大手代体メーカー、タカサキメディカルに勤める八田は、最新鋭の代体を医療機関に売り込む営業マン。
今日も病院をまわっていた。
そんな中、自身が担当した患者(代体を使用中)の消息が不明となり、山中で無残な姿で発見される。残されたのは大きな謎と汚れた「代体」。
そこから警察、法務省、内務省、医療メーカー、研究者……そして患者や医師の利権や悪意が絡む、巨大な陰謀が動き出す。意識はどこに宿るのか、肉体は本当に自分のものなのか、そもそも意識とは何なのか……。
科学と欲が倫理を駆逐する世界で、人間として生きる意味を問う戦いが始まる!


曹源寺評価★★★★
山田宗樹センセーの近未来小説は秀逸な作品が多くていつもいつも本当に楽しみです。『百年法』は最高に面白かったですが、あの雰囲気をもう一度味わいたい!という御仁には本書がうってつけでしょう。
今回は「代わりの身体」=代体がテーマです。つまり、意識と身体の分離に成功している近未来という設定で、ある天才科学者の巻き起こす騒動がストーリーの主軸となっています。
意識と身体が分離したら、意識のない身体は一体何なのか。あるいは、ひとつの身体に二つの意識が入り込んだらどうなるのか。意識と記憶の関係とはどのようなものなのか。などなど、いろいろと考えさせられるシチュエーションが多くて興味深い内容に仕上がっています。

何というか、極めて哲学的です

『百年法』のときもそうでしたが、山田センセーは「もし未来でこんなことが起きたら世間はどうなっていくのだろう」というシミュレーションを徹底的に行って、それを物語のレベルに昇華してくれるから面白いのですが、今回もまたその期待を裏切らない面白さでありました(ちょっと難解な部分はありましたが)。
ただ、ストーリーはおそらく多くの読者を裏切る展開になったのではないかと思います。自分があらすじからイメージしていたのは
・意識と一体化できない代体が暴走する
・分離した意識が代体以外のものに乗り移る

・永遠の命を求めて意識がさまよう、あるいは代体の集団が反乱する
といった展開ですが、いずれも不正解でありました。
しかし、逆に言えば、素人に先を読まれるようではSF作家として面目が立ちません。こんな展開は予想できませんよ。山田センセーすごいわ。いい意味で裏切ってくれたセンセーに拍手です。





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2016年07月15日

書評728 下村敦史「難民調査官」

こんにちは、曹源寺です。

フランスではお祭りの見物客の列にトラックが突っ込むテロがありました。
トラック突入テロ、80人死亡=革命記念日、花火客に乱射も−仏ニース(7/15、時事通信)
【パリ時事】フランス南部のリゾート地・ニースで14日午後10時半(日本時間15日午前5時半)ごろ、フランス革命記念日を祝う花火を見物していた人の列にトラックが突っ込んだ。ほぼ同時にトラックを運転した容疑者は見物客に向かって銃を乱射した。カズヌーブ内相は15日、事件による死者が80人に上り、18人が重体だと述べた。負傷者も100人以上に達した。(以下、略)

ニースといえばフランス南部のリゾート地です。被害に遭われた方のご冥福をお祈り致します。

欧州は完全にテロリズムとの戦いが常態化しつつあります。テロというのは本当に卑劣なもので、一般人のなかに紛れ込んで無秩序を作り出そうというのですから、攻守にわたって一般人を巻き込んでいるといって間違いではないわけですよ。
例えて言うなら、日中戦争時の大陸における便衣兵のようなものです。便衣兵は軍服を着ないで戦争に参加していましたから、日本軍は油断した隙に殺されまくったわけです。
フランスが今回の事件で警備を強化するのは当たり前ですが、これをもってイスラム系移民などが住みづらい街になったとしても、それは移民社会のなかで自浄作用が働いていないならば致し方ないのではないかと思います。
つまり、移民社会のほうがテロリストと決別しなければいけないのです。

もし、ある国の日本人街に日本人テロリストが紛れ込んでその国の軍隊がやってきたら、日本人街の人たちはテロリストを炙り出して当局に突き出すでしょう。そうしないと日本人街が守れないとなれば、民族とか思想とか関係なしにそうするのではないかと勝手に思っています。

それができないイスラム系移民たちは、「内部でテロリストを飼っている」と指摘されても「いや、俺たちはテロリストとは一線を画している」と言い訳したところでその国の政府から守ってもらるわけはありません。誰が敵で誰が味方かわからない状況では、全員を一旦は敵とみなさなければこちらがやられてしまうからです。

日中戦争のことを引き合いに出しましたが、中国人は世界各国に「中華街」を形成しています。彼らは自分たちの秩序で自分たちのルールに従って行動していますが、一方でその国のルールとも折り合いをうまくつけています。だから残っているわけです。不可侵条約みたいなものですね。

移民に冷ややかな意見かもしれませんが、本日紹介する本もまた、移民、難民問題を考えるうえでよい勉強になる本だと思います。「日本も移民をもっと受け入れろ」的な意見を安易に受け入れて良いのかどうか、真剣に考えてみる良い機会になると思います。

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内容(光文社HPより)
29歳の如月玲奈は、東京入国管理局で働く “難民調査官”。補佐の高杉と共に、難民申請者が本当に母国で迫害される恐れがあるのか、調査するのが仕事だ。ある日、ムスタファというクルド人難民申請者が、合法的に来日しながらパスポートを処分し、なぜか密入国者を装っていたと発覚する。その頃、ネットカフェ難民の西嶋耕作は、自分の通報が原因で家族想いのムスタファとその妻子を引き裂いたことを悔いていた。善良そうに見える難民申請者は、一体何を隠しているのか? 現在最も注目される乱歩賞作家が難民問題に鋭く切り込んだ、怒涛のポリティカル・サスペンス小説。


曹源寺評価★★★★
いま最も新進気鋭のミステリ作家、というほどではありませんが、最近の乱歩賞出身作家のなかでは意気盛んなセンセーの一人でいらっしゃいます下村センセーの最新作です。
なかなかにタイムリーなネタですね。タイトルの通り、入国管理局(入管)に勤務する主人公が事件(というほどのものでもないですが)の謎に迫るミステリであります。
大柄で女っ気のしない主人公、如月玲奈と難民調査官補の高杉純は難民申請者を「インタビュー」して本物の「難民」か「偽装難民」かを見極める仕事をしている。ある日、クルド人の申請者にインタビューしたが、彼はいくつかの嘘をついていた。なぜ彼はばれたら一発アウトの段階で嘘をつくのか。一方、妻と息子と別れ半ばホームレスとなっている西嶋耕作は賃金の安い外国人労働者に取って代わられていた過去から、不法入国者、違法滞在者を通報することで溜飲を下げている日々であった。ある日、クルド人の親子をふとした意識の変化から庇うことになり、、、
とまあ、終始、難民問題に関連したテーマで一貫されています。血生臭いシーンも展開もありませんが、常になぜ?がつきまとう立派なミステリに仕上がっています。

難民調査官という仕事はあまり知られていませんね。入国管理局は法務省所管の出先機関であり、ホームページにはこんな風に書かれています。
『出入国管理行政を行うための機構として,法務省に入国管理局が設けられているほか,地方入国管理局(8局),同支局(7局),出張所(61か所)及び入国管理センター(2か所)が設けられています』
すげえ、こんなにあるんですね。

本書のストーリー自体は大したことありませんが、読みどころはいっぱいあります。日本における難民認定の壁といった問題をはじめ、外国人労働力の受け入れやいわゆる「多文化共生」の問題、課題を抱えている現状について、かなりリアリティを持った議論が主人公を通してなされています。ココがキモですね。
たとえば、「ドイツは難民認定者数が4万人もいるのに日本は121人。正式な難民認定者は立った6人。オカシイ、厳しすぎる」という議題があります。これに反論するには普通「いや、ドイツは欧州で地続きなわけだから島国の日本と比較するのは違うでしょ」というのが一般的です。しかし本書ではさらに「いや、難民認定者数だけならその通りだが、不認定者数を見なはれ。ドイツにおける不認定者数は16万人、日本は3,000人だからね」と冷静に分析しています。つまり、分母が違うので比較するのがおかしいという主張です。おまけに、ドイツは難民を受け入れすぎて1兆円以上の負担がのしかかっているのが現状です。
ほかにも、難民と民族差別、マイノリティと地域社会、難民とテロリストの境目、などなど、議論のネタは尽きません。なかなかに示唆に富んだ主人公の発言(=作者の論理、主張)があちこちに散りばめられていて、もしかしたら

下村センセーはネトウヨではないか

と思わせるようなくだりもあって小説でここまで保守思想を展開されるとは思いもしませんでした。
特に171ページから174ページあたり(某団体をパクッていますが)は秀逸です。
ところで、入管職員は国家公務員でありまして、公務員を主人公にした作品といえば真保裕一センセーの小役人シリーズ3部作(「連鎖」「取引」「震源」)が有名ですね。真保センセーも当時は大して売れなくて、その後の「ホワイトアウト」でブレイクされましたので、下村センセーも本書を足がかりにして次作で大ヒットでも飛ばしてくださいまし。いや、本作でもいいんですけどね。





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2016年07月12日

書評727 渡辺裕之「叛逆捜査 オッドアイ」

こんにちは、曹源寺です。

参議院議員選挙が終わり、自民公明ほか改憲勢力で議席の3分の2以上の確保が確定しました。当座は経済対策が優先されるでしょうが、この任期内において憲法改正の是非を問う国民投票の実施まで一気に進んでいく可能性が高まりました。
自分は改憲派というか、少なくとも護憲派ではありませんが、時代に合わない条文はどんどん修正していけば良いと思っています。
しかしながら、今回の自民党の草案のすべては賛成できないですね。改正の条文については是々非々で論じていただきたいと思います。

参院選挙では受かって欲しい人が落選し、落選して欲しい人が当選したりします。まあこればかりは民意ですからしょうがないですね。

ただ、この「民意」についてはマスゴミのほうが警戒感をあらわにしています。

(社説)自公が国政選4連勝 「後出し改憲」に信はない(7/11朝日新聞)
歴史的な選挙となった。
1956年、結党間もない自民党が掲げた憲法改正を阻むため、社会党などが築いた「3分の1」の壁。これが、60年たって参院でも崩れ去った。
自民、公明の与党が大勝し、おおさか維新なども含めた「改憲4党」、それに改憲に前向きな非改選の無所属議員もあわせれば、憲法改正案の国会発議ができる「3分の2」を超えた。衆院では、自公だけでこの議席を占めている。
(中略)
首相はまた、改憲案を最終的に承認するのは国民投票であることなどを指摘して「選挙で争点とすることは必ずしも必要ない」と説明した。
それは違う。改正の論点を選挙で問い、そのうえで選ばれた議員によって幅広い合意形成を図る熟議があり、最終的に国民投票で承認する。これがあるべきプロセスだ。国会が発議するまで国民の意見は聞かなくていいというのであれば、やはり憲法は誰のものであるのかという根本をはき違えている。
「どの条項から改正すべきか議論が収斂(しゅうれん)していない」と首相がいうのも、改憲に差し迫った必要性がないことの証左だ。
この選挙結果で、憲法改正に国民からゴーサインが出たとは決していえない。


えーっと、改憲を選挙の争点にしようとしていたのはまさに野党とマスゴミ各紙でありまして、それが否定されたのならば国民からゴーサインが出たと言っても良いのではないかと思いますよ。

参院選 改憲勢力3分の2 まず自民草案の破棄を(7/11毎日新聞社説)
(前略)
憲法は国民全体で共有する最重要の合意だ。したがってそのあり方を点検することに異論はない。
ただし、審査会の再開にあたっては条件がある。自民党が野党時代の12年にまとめた憲法改正草案を、まず破棄することだ。
自民党草案は、前文で日本の伝統を過度に賛美し、天皇の国家元首化や、自衛隊の「国防軍」化、非常時の国家緊急権などを盛り込んでいる。さらに国民の権利を「公益及び公の秩序」の名の下に制限しようとする意図に貫かれている。明らかに近代民主主義の流れに逆行する。
(中略)
首相は「条文の改正を決めるのは国民投票だ」と語っている。確かに憲法の改正には国民投票で過半数の賛成が必要だ。ただし、それは最後の確認と考えるべきだろう。英国のように国民投票が国民を分断するようでは、憲法が国民に根付かない。最低でも、与党と野党第1党が合意している必要がある。
(以下、略)


毎日新聞、何様だよこれwwwチョー上から目線ですな。
>>明らかに近代民主主義の流れに逆行する。
どこらへんがそうなんだ?国家緊急権なんて早く制定したほうが良い事案でしょうに。

>>英国のように国民投票が国民を分断するようでは、憲法が国民に根付かない。
民意の否定までしてるし。過半数の合意ではダメだとでも言うのかねえ。それこそ近代民主主義の流れに逆行していませんかね〜。

昨日の報道ステーション(テレビ朝日系)では富川アナウンサーがヘンテコリンな発言をしたとかで話題になりました。
富川アナ「発議する前に国民の真意を問うということはしないのでしょうか?」
安倍首相「発議した後に国民投票するんですから。その議論はおかしいんじゃないですか?」
富川アナ「英EU離脱もありました。国民投票の危うさも感じませんか?」
安倍首相「民主主義を疑うのですか?国民投票の結果を疑うと言うのであれば、憲法の条文を疑うことになる」
富川アナ「国民が民意を問われていないと感じながらも発議が進んでしまうんじゃないか、と思ったから聞いたんですけれど。」
安倍首相(苦笑)


こうした報道姿勢を鑑みると、マスゴミというのは

「国民はバカ」だと思っている

のではないかと本気で疑うレベルにありますね。国民はもっと怒って良いと思います。

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内容(中央公論新社)
捜一の刑事・朝倉は自衛官の首を切る猟奇殺人事件を担当する。古巣の自衛隊と米軍も絡み、国家間の隠蔽工作が事件を複雑にする。そこに新たな事件が......。警察小説の新地平!


曹源寺評価★★★★★
「オッドアイシリーズ」というのがありまして、自分も未読だったわけですが、すでに3冊くらい出ていましたので最初から読むことにしました。
主人公の朝倉は自衛隊上がりの警視庁捜査一課刑事という、ありそうでなかった設定です。元陸上自衛隊空挺団の精鋭。37歳で巡査。昇進に興味なし。183センチの体躯に左目が事故の後遺症で青みがかっていていわゆる「オッドアイ」になっている。新橋の潰れた焼き鳥屋に住んでいる。
うーん、ワイルドな刑事だねえ。ここまでワイルド感を前面に押し出した警察小説は久しぶりですわ。
ただ、人間くさいというか、粗野で一途なところがあったり、大家のババアが朝倉に迫ったりします(笑)ので、

ハードボイルドのようで実はそうでもないという

やや中途半端な印象もありますね。
そんな朝倉刑事が連続殺人事件の捜査を担うのですが、被害者は自衛官でいずれもトラップに引っかかって死ぬという、これもまたトラウマチックなお話になっています。発見者が倒れている被害者を救助しようとしたらトラップが発動して首を斬られるとか、もうマンガの世界ですわ。
事件は自衛官のみならず、米兵をも巻き込んで猟奇連続殺人の様相ですが、自衛隊の警察である警務隊、海軍犯罪捜査局NCISなども登場してすんごいことになっていきます。
ラストはなんだか消化不良ですが、まあこれもありかなあと思えば納得です。しかし、納得できないのは171ページから172ページにかけてです。ネタバレになるので書きませんが、この描写ではおかしいのであります。ラストというか

後半のすべてと辻褄が合いません。

読み進めていくうちに募る不安。あれ、あれ、おかしいなあと思いながら読む本はつまらないですわ。素材が良いだけにもったいない感じです。





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2016年07月08日

書評726 島田ゆか、八木佳奈「バムとケロのおいしい絵本」

こんにちは、曹源寺です。

英国のEU離脱問題の根本にあるものは移民問題である、との主張はマスゴミが書きたくても書けないタブーのような状態になっておりますが、今度は米国で警察官による黒人射殺問題がクローズアップされてきました。黒人サイドによる報復が始まっています。
人種差別問題だけでなく、そもそも移民国家な米国ではマイノリティとマジョリティの格差などが根底にあるわけで、こればかりは一朝一夕で解決できる話ではありません。勝手に作り上げたタブーも社会情勢の急激な変化には耐えられそうにありませんね。

先日は国連が「日本には1,700万人の移民受け入れが緊要」とか言い出したらしいですが、1,700万人てあーた、全人口の10%以上じゃないですか!移民が1割いたらもうその時点でマイノリティではないですね。完全に移民国家になっています、はい。

橋下徹前大阪市長がツイッターでつぶやいたのが「パスポート審査なしで中国人、韓国人、さらには東南アジアの人々が大量に日本にやってきて自分たちの生活習慣で生活をし、低賃金で仕事をする日本社会に耐えられるか」と、移民が大量にやってきた時の日本人の想像力のなさを疑問視しました。
まあ、もっとも橋下氏は府知事時代に「移民はどんどん受け入れよ」的な発言もしていましたので、どっちが本音か良くわかりませんが。。。

ただ、ひとつ言えることは、

「グローバル化こそが人類の進歩であり、日本も率先してグローバル化するべき」

とか

「国際社会の一員として移民を受け入れることこそが大事である」

といった論調が「正義ヅラ」しているのではないかと。
パスポートなしで国境を越えることができることが絶対的に正しいなんて、お花畑もいいところではないかと思うのですが。
こうした論調を崇め奉っている自称進歩人たち、特に還暦過ぎた辺りの人たちに多いのですが、まったくもって勘弁してください。

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内容(絵本ナビHPより)
(出版社より)
バムとケロは、食べるのも料理するのも大好き! だから、絵本にはたくさん料理シーンが登場します。作者の島田ゆかさん監修のもと、忠実に絵本のおやつや料理を再現したレシピは、本著のみ! レシピの他に、料理シーンにまつわる楽しいエピソードも満載! 付録として、バム、ケロ、おじぎちゃんの3種類のステンシルプレートや、クッキーやドーナツの実物大型紙付き。手軽に作れる料理も載っているから、ぜひ親子で料理にチャレンジしてみてください!


曹源寺評価★★★★★
絵本界のロングセラーは数あれど、大人たちのハートもグッと掴んだ本は少ないですね。本書はあの不朽の名作「バムとケロ」シリーズのなかで紹介されたおやつなどのレシピを紹介した本でありまして、2015年に刊行しています。
え、バムとケロを知らないって?それはいけません。
何度読んでも面白い絵本なんてそうそうあるものではありません。主人公のふたりが巻き起こす騒動が楽しいですが、本書の魅力はそれだけでなく、サイドストーリーが充実しすぎているという点にもあります。シリーズ5作品、すべてがつながっています。それだけでなく、「かばん売りのガラゴ」という作品シリーズもありまして、そちらにもバムとケロのおともだちが登場しますので必読です。
最初に発行された「バムとケロのにちようび」からもう20年以上が経つのですね。。。早いなあ。







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2016年07月05日

書評725 古野まほろ「新任巡査」

こんにちは、曹源寺です。

参院選真っ盛りですね。連日、8時になると選挙カーからやかましい連呼が鳴り響いてホントにウザイです。

でも公職選挙法で選挙カーでの連呼は禁じられていませんし、逆に選挙カーでの演説は禁止ですから、公職選挙法って何なのよという話になります。

先日の更新でも書きましたが、選挙公報とか本人のブログ、Facebookといったツールだけを眺めていては候補者の本質を測ることはできません。
自分は
・とにかくキーワードを入れて検索をかます(「候補者名 スペース 発言」とか「候補者 スペース 事件」とか)
・理念は無視する(障害者に優しい日本を、とか、立憲主義をうんたら、とか)
・政策の実現可能性を考える(実現に至るプロセスが明示されているか、とか)


ということをやっています。
わが東京選挙区はヤバイ人が多いので、候補者をきちんと見分けるには情報が不可欠なだけでなく、その情報を受け取った側もそれをきちんと分析することが求められます。大事な一票を無駄にしないよう、情報を取得・分析して理解するというプロセスをしっかりやっておきましょう。


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内容(新潮社HPより)
あなたは交番のことを、警察官というお仕事のことを、何も知らない――。
凡庸にして心優しい頼音(ライト)。ある能力を備えた男勝りの希(アキラ)。ふたりの新任巡査の配属先は駅の東と西にある交番だった。毎秒成長し続けなければ、警察官としてやっていけない――。元キャリアの著者にしか描きえない圧倒的ディテイル。深淵を知る者だからこそつける嘘。最前線をぶっちぎりでかけぬける、まったく新しい警察小説、誕生!


曹源寺評価★★★★
東大卒、国家公務員試験T種合格のキャリア警察官出身というとんでもないご経歴をお持ちのセンセーがこの古野センセーでいらっしゃいます。その古野センセーの著作は恥ずかしながら未読でありましたので、新刊を読むことにしました。
本書は653ページの大作です!普通なら上下巻にしてもおかしくはないボリュームです。タイトルのとおり、新入社員ならぬ新任警察官、しかも交番勤務からのノンキャリア巡査をリアリティたっぷりに書き上げておられます。
警察官ホヤホヤの新人を題材にした小説といえば長岡弘樹センセーの「教場」シリーズなどが有名ですが、本書はこのリアルっぷりが比類なき仕上がりになっています。交番勤務のイロハが本書にはぎっしりと詰まっていまして、職務質問のやり方とか巡回カードの書かせ方(!)とか、あるいは交番勤務における日常のノウハウとか、本当に細かなことまでびっしりと書かれていて、

これはまるでマニュアルではないか

とさえ思わせてくれるレベルです。
作りこみは、前半が教科書で後半が警察小説です。
後半のライトとアキラ二人による捜査はなかなかにいいコンビネーションを発揮していますので、やや固めの文体はやむなしとしても読み応えがあります。
最後もちょっとだけどんでんあり、お涙あり、で読後感すごく良いです。リアル警察官体験をしながら事件を解決に導くことができる小説なんて、本書のほかにあるでしょうか。職業小説であり青春小説であり、はたまた成長物語でもある、そんな作品でした。





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