ミステリ読みまくり日記 〜書評(ネタバレあり)

通勤時間に読む、日本のミステリとその他小説をとりあえず書き留める
 

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2016年08月30日

書評738 今野敏「防諜捜査」

こんにちは、曹源寺です。

先日、テロとの戦い(というかテロへの予防)が戦争よりもはるかに重要になっているという主旨のコメントを書き殴りましたが、昨日はちょうど朝日新聞と毎日新聞が社説で共謀罪の成立に疑問符を投げかけています。

テロ準備罪 本当に必要性はあるか(8/30毎日新聞社説)
「テロ等組織犯罪準備罪」の新設を政府が検討している。国会で3度廃案になった「共謀罪」の内容を、成立要件を絞って盛り込むものだ。9月召集の臨時国会で、組織犯罪処罰法改正案を提出予定という。
(中略)
一方、日本の刑法では、一定の重大犯罪について、予備罪や準備罪などで、未遂より前の段階で処罰ができる規定が既にある。法律家の中には、テロに絡む犯罪でも既存の法の枠内で摘発ができ、条約締結は可能だとの意見がある。共謀罪の必要性は、改めて議論する際の重要な論点だ。
政府は今回、適用対象を絞り込む方針だ。また、合議に加え、犯罪の準備行為が行われることも要件に加えるとみられる。
だが、定義の仕方によっては、幅広い解釈が可能になる。廃案になった法案と同様、対象罪種は600を超えるとみられる。既遂の処罰を原則とする刑法の原則は大きく変わる。テロをめぐる環境変化を踏まえても副作用は大きい。


「共謀罪」法案 政権の手法が問われる(8/30朝日新聞社説)
またぞろ、というべきか。
安倍内閣が、人々の強い反対でこれまでに3度廃案になった「共謀罪」法案を、「テロ等組織犯罪準備罪」法案に仕立てなおして、国会に提出することを検討しているという。
(中略)
実際に行動に移さなくても、何人かで犯罪をおこす合意をするだけで処罰する。それが共謀罪だ。マフィアなどの国際犯罪組織を取り締まる条約を結ぶために、日本にも創設することがかねて議論されてきた。
(中略)
東京五輪をひかえ、テロ対策や国際協力の看板をかければ、多少の懸念があっても大方の理解は得られると、政権が踏んでいるのは容易に想像できる。
もちろんテロの抑止は社会の願いだ。だからこそ権力をもつ側はよくよく自制し、人権の擁護と治安というふたつの要請の均衡に意を砕かねばならない。


いずれも共謀罪から進展させた「テロ等組織犯罪準備罪」の法案成立に牽制球を投げる内容となっています。自分はテロへの予防という意味においては、この新法こそが重要だと思っています。犯罪を企てている連中を指をくわえてみているわけにはいかなくなっているのが現代です。そもそも、80年代後半の冷戦終結時にさえ、「テロのネットワーク化」という単語は存在していました@パイナップルアーミーってすげえ〜
両社説はかなりオブラートにくるんだ表現で「副作用」だの「意を砕かねば」だのといった曖昧さで終えていますが、ニュアンスとしては「反対」の立場に読めます。
ちなみに政党では社民党が明確に反対しています。

この「テロ等組織犯罪準備罪」と「スパイ防止法」のセットでまずは「テロの予防」に注力すべしと思っていますが、こうした反対勢力の声も日増しに大きくなりそうですから道のりは遠いのかもしれません。
しかし、重ねて主張したいのはやはり「戦争よりもテロに気をつけよう」という時代の流れこそをしっかりと国民共通の認識として持つべきである、ということであります。


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内容(文藝春秋HPより)
国益とプライドをかけた防諜戦争の行方は…?
ロシア人ホステスの轢死事件が発生。事件はロシア人の殺し屋による暗殺だという証言者が現れた。倉島警部補シリーズ、待望の最新刊!


曹源寺評価★★★★
凍土の密約」「アクティブメジャーズ」などで展開する「倉島警部補シリーズ」の最新刊であります。

ホントこのセンセーは何作シリーズを持っていらっしゃるのか、、、

今野センセーにしては数少ない公安モノというジャンルですので、所轄署の刑事モノとは毛色が異なります。警視庁の外事一課に所属する倉島警部補は公安を背負って立つ次期エースの呼び声高く、ついに「作業班」メンバーとして招集される。作業班とは公安の中でも自ら仕事をつくり、領収書の要らない金を使って事件を未然に防いだり解決に導いたりする役割を担うメンバーを指す。倉島は「ゼロ」の研修を受けて晴れて作業班の一員となったが、そこにロシア人が電車にはねられ死亡したというニュースが飛び込んだ。不審な匂いを感じ取った倉島は早速作業に取り掛かる。。。
ちなみに、「ゼロ」とは「サクラ」あるいは「チヨダ」とも呼ばれる公安捜査のための実践的訓練を積む特殊学級を指す隠語です。一番リアルかつ詳しく書かれた作品は麻生幾センセーの「ZERO」だと思います。名作です。
この倉島が公安のエースとして成長していく様子を中心にストーリーが展開していくのが本書シリーズのキモでありますが、いよいよ作業班となった倉島はチームを組織してそのリーダーとして采配を振るう立場になります。最初は慣れないチーム運営も、伊藤や片桐といった優秀な部下を引き抜き、また自称ライバルの西本もチームに加わるなどしていよいよ事件の全貌解明に注力していきます。
いつものようにどんでん返しがあるわけでもなく事件のからくりもそれほど大げさではありませんので、ストーリーはそれほどでもありません。このシリーズのよさは今野センセーの描く公安モノという希少性と、倉島の実直たる捜査の顛末を楽しむのが目的だと思います。





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2016年08月26日

書評737 呉勝浩「蜃気楼の犬」

こんにちは、曹源寺です。

8月もあと一週間を切ってしまいました。小学生の時分には夏休みの宿題が溜まっていて泣きながら片付けた記憶しかありませんので、8月の最終週は嫌な想い出しかありません(笑

個人的な感想ですが、例年8月になると想起されるのは終戦記念日(敗戦記念日と言ったほうが良いですね)とJAL123便の事故です。敗戦から71年が経過し、いったいいつまで日本は反省を繰り返さなければならないのでしょうかとよく考えるようになっています。なんだか誰かが「日本は永久に謝っていろ!」と画策しているような気がしてなりません。そろそろ「どこで区切るのか」について真剣に検討したほうが良いのではないかと思います。

いまの世界情勢を考えると、怖いのは戦争ではなくてテロリズムです。戦争とテロを比較してみればよく分かりますが、テロはいつ何時発生するのか分かりません。知っているのはテロリストだけです。しかも無差別だったりします。大勢の人が集まる場所で銃撃に遭う、爆弾が爆発する、立て篭もりが発生して人質になる。こんな怖いことはありません。そこには覚悟もなければ準備もない。ただただ理不尽に殺されるだけです。

戦争は違います。外交の行き着く先に戦争があるわけで、国民には覚悟と準備ができます。そして国際法があって無差別殺戮などは彼我の戦力差が圧倒的にならない限りは発生しませんし、一般国民が蹂躙された場合は仕掛けたほうに世界的な非難を浴びるおまけがつきます。

つまり、今の世の中では戦争よりもテロのほうがよっぽど危険だということになります。でも、戦争反対を叫ぶ人たちはテロ反対とは叫ばないんですね。なぜでしょうか。
そして思うのですが、「テロと戦う」という政府高官の話が出たりしますが、テロとは戦わないで「予防」してほしいと思います。予防こそがテロと戦うことになる、というならそれはごもっともですが。

テロを未然に防ぐ。そのために何が必要なのか。こうした視点から議論が沸き起こることを切に願います。

JAL123便墜落事故についてはまた別途。

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内容(講談社HPより)
正義など、どうでもいい。 俺はただ、可愛い嫁から幸せを奪う可能性を、迷わず排除するだけだ。明日も明後日も。 県警本部捜査一課の番場は、二回りも年の離れた身重の妻コヨリを愛し、日々捜査を続けるベテラン刑事。周囲の人間は賞賛と若干の揶揄を込めて彼のことを呼ぶ――現場の番場。 ルーキー刑事の船越とともに難事件の捜査に取り組む中で、番場は自らの「正義」を見失っていく――。 新江戸川乱歩賞作家が描く、新世代の連作警察小説。


曹源寺評価★★★★
自分は呉センセーをあまり高く評価しておりませんが、それは「大風呂敷を敷いて読者を期待させておいて、なんだかこじんまりと終わるのが残念」という書評が続いたからであります。
しかし本書は連作短編、大風呂敷を敷いている暇もないスピーディな展開を余儀なくされるわけですから、このくらいのほうがストーリーがコンパクトにまとまり、読みやすい仕上がりになっているのも道理でありましょう。
県警(何県かは知らない)捜査一課のベテラン刑事である番場が主人公となり、若手ルーキーの船越刑事と組んで事件にあたる連作短編が本書です。
「月に吠える兎」
「真夜中の放物線」
「沈黙の終着駅」
「かくれんぼ」
「蜃気楼の犬」
の5作が収録されています。
「現場の番場」と呼ばれるようなベテラン刑事、番場の私生活(2周りも年下の女房と結婚したこと)を絡めて、心情の移り変わりと刑事としてのプライド、誇り、矜持を揺さぶる描写はやや抽象的ではありますが、その揺れ動く様は良い味付けになっていると思います。作風というか本書がかもし出す雰囲気はやや横溝、やや島田荘司、そしてやや結城充考といったところでしょうか。
自分は連作短編好きですが、なかでも本書のように最後の作品が前4作のまとめになっているような、すべてがつながっていた!みたいな作品は特に好きです。

呉センセーは連作短編で勝負すべきである

と本書を読んで切に感じました。ということで、呉センセーに対する見方は本書でだいぶ変わりましたのでもう無碍にはしません。今後のご活躍を祈念致します。





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2016年08月23日

書評736 今野敏「マル暴総監」

こんにちは、曹源寺です。

リオ五輪が終わって、今年のスポーツ観戦の興味はプロやきうにシフトしつつありますが、セ・リーグはもうほぼ広島カープでしょう。むしろパ・リーグのほうが混戦になってきました。9月の中旬くらいまでは楽しめそうですね。

さて、気になったニュースがありましたので一個だけ取り上げます。
日本の新聞ではありませんが、朝鮮新報が書いたこんな記事です。
「3.29通知」撤回と、適正な補助金交付求める/神奈川県弁護士会が会長声明神奈川県弁護士会の三浦修会長は17日、「学校法人神奈川朝鮮学園に係る補助金交付に関し、政府通知の撤回及び適正な補助金交付を求める会長声明」を発表した。声明は、文部科学省が今年3月29日に発表した「朝鮮学校に係る補助金交付に関する留意点について」と題する通知について、「各地方自治体により実施されている朝鮮学校への補助金交付を抑制する効果をもたらしかねないものであり、極めて問題があると言わざるを得ない」と指摘。(以下、略)

神奈川県弁護士会のホームページにアップされた声明はこちらから
学校法人神奈川朝鮮学園に係る補助金交付に関し, 政府通知の撤回及び適正な補助金交付を求める会長声明」(8/16)

日本のマスコミはこれを取り上げていないみたいですが、ものすごく疑問符の多い内容となっています。
・そもそもなぜ弁護士会というただの任意団体が政治的声明を発表するのか
・なぜ「会長コメント」などというスタイルで声明が発表されるのか
・このコメントは弁護士会加盟者の総意なのか。反対している人はいないのか
・なぜ憲法89条に違反する可能性の高い補助金交付を弁護士会が求めているのか

うーん、謎だらけですわ。神奈川県内の弁護士先生たちはこういうコメントについてどう思っていらっしゃるのか真剣に聞いてみたいのですが。

実はこの問題は神奈川県だけではなくて、たしか京都府でも同じような事例があって、弁護士会会長がコメントしたことに別の弁護士が噛み付いて提訴するだの何だの騒ぎになりました。この地方の弁護士会とやらがどんな組織なのか、自分は良く知りませんが、仮にも法曹の世界に身を置く集団が法律に反する行動を促すようなコメントを正式にリリースするということが自分には俄かに信じられませんでした。
たとえば、JAがTPPに反対する声明を発表するのはまだ分かるんですよ。JA加入者の経済的利害が大筋で一致しますし、大抵は何らかの大会(会合)を開いて声明案を採択したという合議をもってリリースしているケースがほとんどですから。
ところが、弁護士会とやらはこうした手続きとか合議とかをもってこうした声明を発表しているわけでもなさそうです。何と言っても「会長のコメント」ですから。
つまり、弁護士会は会長になると勝手に声明を発表しても良いというルールになっているとしか思えないのです。いいのか?本当にいいのかそれで?民主主義社会において民主的な手続きに則っていないことをしているのは日本共産党くらいだと思っていましたが、どうやら違うようです。本当にありがとうございました。

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内容(実業之日本社HPより)
警視総監は暴れん坊!?
チンピラが路上で睨みあっているとの通報を受けて、現場に駆けつけた北綾瀬署のマル暴刑事・甘糟。人垣に近こうと思ったそのとき「待て、待て、待て」と大きな声がかかり、白いスーツを来た恰幅のいい男が割って現れた。翌日の夜、チンピラのひとりが刺殺体で発見される。捜査本部が立ち上がり甘糟とコワモテの先輩刑事・郡原も参加するが、捜査線上に浮かんだ意外すぎる人物に翻弄されることに――。
“史上最弱の刑事”甘糟の奮闘ぶりに笑って泣ける〈マル暴〉シリーズ、待望の第2弾。〈任侠〉シリーズの阿岐本組の面々も登場!


曹源寺評価★★★★
上記にあるとおり、史上最弱の刑事とされる北綾瀬署の生活安全課刑事、甘糟の活躍を描く「マル暴甘糟」に続くシリーズ第2弾です。
所轄の生活安全課はかつての4課、すなわち組織犯罪対策課や少年課などが統合されてできた組織ですので、弱そうな警察官はあまりいません。そんなところに何の因果か配属されてしまった甘糟が活躍(というほどではなくて、むしろ語り部ではありますが)するのが本書シリーズです。
今回は殺人現場の近くで目撃された白いスーツの男を捜す役回りを押し付けられるも、この男の正体が判明するや、、、
というちょっとしたドタバタストーリーで、ミステリというほどでもありませんが、まあ楽しく読めました。
そういえば、主人公が弱くて語り部的な立場、その相棒が無双で超有能、という設定は警察小説ではあまりないと思いますが、なぜなのか?
おそらく、警察小説においては主人公がヒーローでなければならないような、そんな雰囲気が求められているのではないかと思います。主人公がそこそこ強く、その相棒はもっと強いという設定はいくつもありますね。あと、主人公は語り部だけどまとも、相棒は変人で強いという設定とか。
ちょっとコメディーを入れるなら本書のような設定のほうが良いんでしょうね。本書の場合は甘糟が弱いながらも少しずつ成長を遂げていて、さらに先輩刑事の郡原が切れ者なのでストーリーに一本スジが通っていて読みやすいです。あと、任侠学園シリーズの阿岐本組が登場するコラボレーションもなかなかでした。





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2016年08月16日

書評735 長岡弘樹「赤い刻印」

こんにちは、曹源寺です。

五輪も活況でメダルラッシュが続いておりますが、何と言っても日本テニスで96年ぶりにメダル獲得というのはBIGなニュースでした。錦織圭選手、本当におめでとうございます!

前半戦ではやはり水泳、柔道、体操あたりは五輪ならではの白熱した戦いが観られて感動の嵐ですが、個人的には卓球がすげえ!と思ってしまいましたよ。

特に男子。
あれは人間のラリーではないですね。

テニスでは一流プロのサービスの速度が時速200キロ超で、あれをリターンするのは確かに人間の範囲を超えていると思いますが、あの卓球の打ち合いもまた人間の範囲を超えています。あのラリーは観る人を魅了しますね。そのうち、NHK特集がテニスで錦織選手の戦法の変化を科学的に分析してくれたように、卓球の反応速度とかを科学的に計測してくれるのではないかと期待しています。


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内容(双葉社HPより)
著者を短編ミステリーの名手として知らしめた大ヒット作『傍聞き』。その表題作の主人公、シングルマザー刑事と娘が再び登場! 長年、刑事の母親の元に届く差出人不明の御守りが導いた、ある真実とは?(「赤い刻印」)長岡ミステリー史上、最も巧緻な伏線と仕掛け。そして、最も深い人生の哀歓――。出色の完成度を誇る短編集。


曹源寺評価★★★★★
短編ミステリの名手とまで言われるようになりました長岡センセーの、近年の作品をまとめた短編集が2016年5月に刊行となりました。
タイトルの「赤い刻印」は出世作となった「傍聞き」で登場した羽角啓子・菜月親娘が再び登場します。と言われても、

「傍聞き」が古すぎて思い出せませんわ。

長岡センセーの短編の特徴は、しっかり伏線を絡めて最後にドキッとさせるお話が多い。そんな印象ですが、どことなく哀愁が漂いますのでハッピーエンドの作品はほとんどないですね。最後に救われることもある、くらいの明るさでして、むしろ暗い話のほうが多いです。その暗さも独特で、たとえば米澤穂信センセーのような「救われなくて暗いけど謎が解けてちょっとすっきりした」というものともちょっと違います。長岡センセーの作品は「暗くて謎が解けてもスッキリしない」「謎が解けるとその先にある結末にぞっとする」そんな内容が多い感じです。
本作は表題作の「赤い刻印」のほか、事故で記憶障害に陥った女子大生の話「秘薬」、いじめが原因で飛び降り自殺した子どもの親が教室に乗り込む「サンクスレター」、認知症の母と知的障害の弟の介護で精神をすり減らす主人公の話「手に手を」の3編を含む計4編を収録しています。表題作以外の3編はいずれもちょっと設定からして暗いお話ですが、読ませる力が半端ないのでぐいぐいと読ませてくれます。
でもやはり、長岡センセーは警察小説のほうがいいなあ。





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2016年08月10日

書評734 中山七里「どこかでベートーヴェン」

こんにちは、曹源寺です。

「オリンピック、どこでやるの?」
「リオでじゃねーの」

すみませんすみません。忘れてください。

えー、そのオリンピックですが、よく「文化の祭典でもある」的な発言を耳にしますが、あれは「スポーツの国別対抗戦」です。国家を挙げて各国と戦う代理戦争です。
だから勝ったらうれしいし、負けたら悔しいのです。「参加することに意義がある」とか「文化交流の場」とかそんなことはどうでもよろしい。
だから、選手のみなさんは頑張って欲しい。われわれもしっかりと与えよう。勝った選手には惜しみない拍手を。戦っている選手には精一杯の声援を。そして負けた選手には暖かい言葉を。

先日、MLBでイチロー選手が3000本安打を達成したときのインタビューの言葉がすごく印象的だったのでブルームバーグの記事から引用します。

イチローは試合後に「あんなに達成した瞬間にチームメートたちが喜んでくれて、僕が何かをすることで僕以外の人たちが喜んでくれることが、今の僕にとって何より大事なものだということを再認識した瞬間だった」とNHKが中継したインタビューで述べた。

これは多くのオリンピック出場選手にもグッときたのではないかと思います。代表選手というのはこうした使命感みたいなものを持ったほうが集中できるし活躍もできると思います。みんなで勝利を分かち合う。そこに生まれる連帯感、一体感。自分は好きです。

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内容(宝島社HPより)
天才ピアニスト・岬洋介、最初の事件!
豪雨によって孤立した校舎に取り残された音楽科クラスの面々。
そんな状況のなか、クラスの問題児が何者かに殺された。
17歳、岬洋介の推理と行動力の原点がここに。
“どんでん返しの帝王”が仕掛けるラスト一行の衝撃。


曹源寺評価★★★★★
中山センセーのシリーズものとしては本作の「岬洋介シリーズ」と「弁護士御子柴礼司シリーズ」が結構好きですが、この岬洋介シリーズは当たりハズレが多くて時にビミョーな感想になってしまいます。
本作は岬の高校時代の友人である鷹村亮を主人公にして、岬が遭遇した初めての事件とその解決までをエピソード的に振り返った内容になっています。
新設された県立加茂北高校は山腹を切り開いて造成した土地に建っていて、ある日の大雨で橋が流され孤立してしまった。岬は意を決して救助を求めるべく増水した川の上を越えていったが、岬に反目していた同級生の岩倉が他殺体で発見された。岬は筆頭容疑者扱いとなり、クラスから孤立していったため自ら身の潔白を証明しようとした。
ミステリとしてはそれほど複雑ではなく、犯人もなんとなく見えてきますのでもう一ひねりほしいくらいです。全体に広がっているのは、岬の別格過ぎる才能とそれを羨み嫉妬し攻撃に転じる幼い精神性の持ち主たちのクソむかつく言い訳であり、こと音楽(など芸術全般)に関しては努力だけでは決して埋めきれることはない圧倒的な才能の壁であり、その壁にぶち当たる前に否定される人格であるという、

なんともやりきれない青春残酷物語でありました。

まあ、でも芸術に限らず、スポーツだってプロ選手として活躍できるのはほんの一握りでしかないわけで、99%以上の人が(つまり100人に1人以下の割合でしか)凡人としてその一生を終えるのであります。だから、本文中でそのことを生徒たちにずばりと言い切った担任の棚橋先生はある意味すばらしい教師だと思います。
そうした残酷でエグイ音楽科のクラスを背景にして、やや単純な事件の解決という本筋が交錯しているわけですが、最後がちょっと救われたので良しとしなければいけないでしょう。ただ、このラストは別に「どんでん返し」というものとはちょっと違うと思います。このラストは(ネタバレ注意)



20年以上前ですが真保裕一センセーが「奪取」という作品で見せたような展開ですわ。あれは伏線もしっかり張っていたのでこれよりもずっと衝撃的でした。中山センセーの頭脳にこれが刻まれていたかは知りませんが、どうせなら伏線張ってくれれば良かったのに、と思うとやや残念です。


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2016年08月05日

書評733 一橋文哉「国家の闇」

こんにちは、曹源寺です。

あぢぃ〜 夏本番ですね〜
今夜辺りから相当寝苦しい夜になりそうです。

さて、自分はアラフィフですが、この世代は小さい頃にロッキード事件があり、その後成人を迎える前後にリクルート事件があったりして、いわゆる汚職・疑獄といった政治事件を強く記憶に留め置いています。
また、UFOやUMAなどミステリ関連、ノストラダムスの大預言、「あなたの知らない世界」や&ロ愛子センセーのような霊能関連にも興味を注がれる時代を過ごしてきました。
ですから、反権力志向をとどめつつも陰謀論にも加担しているという歪んだ精神構造を持っている人が多いのかもしれません。自分もその一人です笑

謀略とか謀殺といった単語にも反応してしまいまして、これを強化してしまったのが松本清張センセーの「日本の黒い霧」という著作であります。下山事件の詳細を知ったのは20代後半、本書を読んでからでした。ちょうどその頃はバブルの後始末で日本中が大騒ぎの最中でした。おまけにオウム真理教関連事件が立て続けに発生し、世はまさに世紀末でありました。イトマン事件や住専問題、住友銀行名古屋支店長射殺事件などは日本経済の闇の深さを我々に教えてくれたものでした。
20年後の現在、政治事件に関しては東京地検特捜部のパワーが大きく下落し、政治資金収支報告書の重箱の隅を突いてはやれガソリン代がどうだとか、コーヒー代が異常だとか、そんな話ばっかりです。
デジタルの時代になって心霊写真もなんだかぱっとしないし、預言みたいなやつはネットに「降臨」してくる怪しげな未来人とか地震を予知できるお母さんとかそんな話で盛り上がっては消えていく。退屈しのぎのネタになっているだけですね。

なんだか、国民全員が不感症みたいになっていて、もうちょっとやそっとじゃ驚かなくなっていませんか。たまに盛り上がるのは「文春砲」くらいなもので、なんというか「モラル的におかしいけど徹底的に追求するには至らない」みたいな話が多すぎますね。
う〜ん、話が抽象的すぎてうまく伝えられないなあ。

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内容(KADOKAWA HPより)
日本の犯罪史を本質を抉るノンフィクション
戦後を代表する重大事件がいかにして起こり、人々にどう受け止めてきたのか。また、その後の日本にどのように影響を与えたか。犯罪史を総括する。


曹源寺評価★★★★
先日読了した「人間の闇」の姉妹作です。一橋センセーは本書のほかにも「マネーの闇」を上梓されていて、角川新書「闇シリーズ3部作」とでもいうかたちになっています。
本書ではロッキード事件、佐川急便事件、リクルート事件といった政財界関連の疑獄事件にはじまり、オウム真理教関連事件とロシアのつながり、古いところでは国鉄3大事件(下山事件、三鷹事件、松川事件)や帝銀事件、また、豊田商事事件の残党と「指南書」の行方など、昭和から平成にかけて世間をにぎわせた事件を幅広く取り上げています。
「国家」というタイトルですが、実際に国家というか政権というか純粋に政治マターといえるのはいわゆる疑獄事件関連に留まりますが、逆に「国家が手を出せないタブー」というのもある意味「国家の闇」と言えなくもないですね。本書後半に書いてある○○利権関連などはもうすでに誰も手を出すことができなくなっているのかと思うと暗澹たる気持ちになります。闇深すぎるわ。。。
読了して思うのは、一橋センセーの取材範囲の広さと、仮説組み立てのうまさが際立っているということです。取材範囲が広いゆえに、他の未解決事件との関連性などにも言及されていまして、

まさか豊田商事事件とライブドア事件がつながっているとは思いませんよ。

つまり、我々一般庶民が事件を聞きかじっていても、それはほんのわずかな踏み跡でしかなくて、

ナスカの地上絵のように、地面にはいつくばっているだけの人間には全体像が理解できない

のでありましょう。
その地上絵の、ほんの一部でも一般庶民に理解してもらおうとする一橋センセーの取材活動に、心から敬意を表したいと思います。せっかくですから、センセーの古い著作から読み返そうかと思います。





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2016年08月02日

書評732 一橋文哉「人間の闇」

こんにちは、曹源寺です。

東京都知事選挙は小池百合子の圧勝に終わり、増田と鳥越は男を下げました。それ以上に男を下げたのは石原伸晃都連会長でした。政治家の発言というものは一般人のそれとは大きく異なり、あっという間に伝播し、多くの人に影響を与えるのだということが良くわかります。
都議会自民党はどうやらクソだということらしいので、これを機会にある程度の膿を出さないといけません。小池氏の手腕に期待しましょう。

最近思うのは、こうした腐れ組織、クソッタレな既得権益団体、トンデモ思想にかぶれて毒を撒き散らしている団体、こうしたものが日本を腐らせているのだなあということであります。
一般企業であれば客が離れ、人材が離れ、組織は瓦解していきます。時代の波に取り残された企業もやがては淘汰されていきます。
しかし、役所や議会は別です。決して潰れることはありません。そこに権力などを与えられているわけですから増長しないわけがないんです。権力は必ず腐る。これは古今東西の不変の真理です。ある程度の新陳代謝がないと本当に腐れていくんですね。
都議会のみならず、全国の地方議会もいろいろありそうです。そろそろメスを入れるべき時が来たのかもしれません。

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内容(KADOKAWA HPより)

グリコ事件、世田谷事件、他、戦後を代表する重大事件がいかにして起こり、日本人にどう影響を与えたか。未解決事件の本質の闇を覗く。


曹源寺評価★★★★
つい先日、相模原市の介護施設において元職員による大量殺人事件が発生しました。抵抗できない重度障害者を真夜中に刺し殺すという大変ムナクソ悪い事件です。大量殺人事件といえば明治の津山三十人殺しをはじめ、深川通り魔事件、宮崎勤事件、埼玉愛犬家連続殺人事件、酒鬼薔薇聖斗事件、北九州監禁殺人事件、大阪教育大学附属池田小事件、池袋通り魔殺人事件、土浦連続殺傷事件、下関通り魔殺人事件、そして秋葉原連続殺傷事件、と思いつくだけでもこんなにあります。通り魔事件多すぎ。

今回の事件は通り魔のように「無差別」に人を殺して回る事件とは性質が違うと思いますが、「差別殺人事件」とは誰も言わないですね。無差別殺人は時に模倣犯を生み出しましたので、差別殺人を大々的に報道すると同じように模倣犯を生み出しかねないから自粛しているのかもしれません。
たとえば、糖尿病で人工透析患者にでもなれば年間500万円以上の医療費がかかりますが、人工透析は自己負担ゼロです。糖尿病患者310万人のうち、人工透析は10万人。人工透析にかかる国費はざっと5,000億円です。
「暴飲暴食を重ねた奴の医療費など国が出すのはおかしいやろ!」
というような意見がまかり通れば、人工透析患者を刺し殺してもええやろ、といった極論が正当化されることになります。糖尿病は暴飲暴食だけが原因ではありませんので、こんな意見でもネットで盛り上がろうものなら大変な世の中になってしまいます。

本書に戻りますが、事件の裏を探り真相に迫るジャーナリスト、一橋文哉センセーが過去の重大事件を紐解き、事件に至る犯人の心理描写や証言、生い立ちなどの背景からその病理の根源に迫るノンフィクションを書き上げたものです。
マスコミや警察が発表しているような上っ面だけの背景では分からなかった「闇」の部分を浮かび上がらせているのが、本書を読むと良くわかります。たとえば、世田谷一家4人殺害事件では、上層部が秘密保持を重視しすぎて現場に伝わらず、犯人が逃走する前の時間帯の目撃証言を集めていた(!)とか、秋田児童連続殺害事件の畠山鈴香被告は小学校時代からのいじめ被害者で、その内容が(実に東北らしい)えげつないものだった、とか、実際には事件当日の供述が曖昧なまま審理が進んでいたことなどなど、不可解だったりムナクソ悪い話だったりいろいろですが、上っ面だけのテレビ新聞とは異なる非常にディープな内容がそこにはありました。

未解決事件という単語だけで普段からゾクゾクするような自分ですが、考えてみれば解決済みの事件であっても実際には謎な部分が残っているような話はあちこちにあります。オウム真理教の村井副代表が視察された事件は、犯人の徐裕行は2007年に出所しています。本当は誰に頼まれて村井を殺したのか?彼は明確にヒットマンを否定していますが、真相はどこにあるのでしょうかね。
また、新潟少女監禁事件なんて、2000年に逮捕、2003年に実刑判決で懲役14年だから、未決拘留期間を考慮すると実質的に犯人の佐藤宣行は出所していることになりますね。
(((((((( ;゚Д゚))))))))ガクガクブルブルガタガタブルブル

マジで怖いんですが。






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posted by 曹源寺 at 17:32| Comment(0) | TrackBack(0) | あ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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