ミステリ読みまくり日記 〜書評(ネタバレあり)

通勤時間に読む、日本のミステリとその他小説をとりあえず書き留める
 

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2017年02月28日

書評785 東野圭吾「人魚の眠る家」

こんにちは、曹源寺です。

最近流行の言葉に「フェイクニュース」というのがあります。誰が発したか?米国大統領トランプ氏ですね。
ちょっと前には「ヘイトスピーチ」なる単語がネットに溢れかえりました。これを発したのはたしかNHKの人だったと思います。ちょっとしたきっかけでものすごい勢いがつくのがネットの世界です。
で、そのフェイクニュースですが、これと一対になって出回ってきている単語が「ファクトチェック」です。フェイクなのかリアルなのかを「ファクトチェック」するという作業が必要であるとしていますが、マスゴミが報道するニュースのなかにしれっとフェイクが混ざっているというのがデフォルトになってきているという背景がそこにはあります。
本来ならば、ファクトチェックがなされて初めて「報道」されるのがスジでありますが、最近の報道のなかにはフェイクが混ざっているのが当たり前だからみな気をつけましょう!という雰囲気になってしまっています。
これは本来ならばマスゴミ自身が猛省しなければならない事案であると思うのです。
しかしながら、マスゴミはフェイクを訂正しないし、謝罪もしない。垂れ流しです。だから嫌われるのに、だから部数がダダ下がりなのに、これを直そうとしない。まったくおかしな話です。

たとえば、先日の
「米大統領がCNNなどの会見不許可」というニュースが昨日(2/27)に報道されました。しかしこれはホワイトハウスの記者クラブがネットメディアなどの新規参入をさせなかったのが原因とされています。つまり、従来の会場は古くて狭いからネットメディアなどの新興勢力まで収容できないので新しい場所に代えようとしたのに、旧来のメディアが既得権益を盾にして反発したというのが真実のようです。トランプ憎しでこんなことまでゆがめて報道する米国のメディアもゴミだということが良くわかるニュースです。

「フェイクニュース」に対する「ファクトチェック」がますます重要になりつつあるなあとしみじみ思う今日この頃です。
「新聞ファクトチェック」なるブログでも開設したらPV稼げそうですかね。

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内容(幻冬舎HPより)
答えてください。
娘を殺したのは私でしょうか。
東野圭吾作家デビュー30周年記念作品
『人魚の眠る家』
娘の小学校受験が終わったら離婚する。
そう約束した仮面夫婦の二人。
彼等に悲報が届いたのは、面接試験の予行演習の直前。
娘がプールで溺れたー。
病院に駆けつけた二人を待っていたのは残酷な現実。
そして医師からは、思いもよらない選択を迫られる。
過酷な運命に苦悩する母親。その愛と狂気は成就するのか。
愛する人を持つすべての人へ。感涙の東野ミステリ。
こんな物語を自分が書いていいのか?
今も悩み続けています。 東野圭吾


曹源寺評価★★★★
東野センセーの著作のなかに、たまにですがめちゃくちゃ重いテーマを内包させたお話があります。復讐の是非を問う「さまよう刃」とか、娘を殺された親の問いかけや司法の矛盾を投げかける「虚ろな十字架」など、いずれも正解のない問いを読者に投げてくる作品です。
本書もまた、娘の死をどう受け止めるべきなのかを問いかける非常にメッセージ性の強い内容のミステリです(これをミステリと言って良いのかという疑問はありますが)。
脊椎の損傷などにより自分の身体が思い通りに動かせなくなっている人のために、磁器や電気の刺激によって運動をサポートできる医療機器を製造するハリマテクス社を経営する播磨和昌とその妻の薫子。彼ら夫婦の間には長女の瑞穂と長男の生人がいた。ある日、瑞穂がポールで溺れてしまい、植物状態になってしまった。脳死判定を受け入れれば脳死と判断されるであろうレベルにあって、これを受け入れない夫婦。ハリマテクスの技術者である星野によって、脳からの指令がなくても手足などの筋肉組織を動かせるように機械サポートを行うことで、瑞穂は3年も生きながらえる。。。
意識があるのに身体を動かせない人と、意識がないのに身体を動かして健康(!?)を維持している人、どちらも同じ人間であるなら、どちらも「生きている」ことになるのではないかという問いかけが我々に発せられるのであります。
また、
法改正により国内でも脳死患者からの臓器移植が可能になっているにもかかわらず、多くの人がそれを待ちきれずにアメリカに行くという現実があること。
さらには、
いまだ脳死からの生還は実例がないにもかかわらず、日本人の多くは心臓死をもって死と捉えていることや、また、これを改めようとする動きもないこと。
ひとつの問いかけから発展してこんなさまざまな命題を投げかけられるので、読むのをやめてしばし考えるということを繰り返しました。
だから、東野センセーの本にしては珍しく

ページが進まない

のでした。
東野センセーの「重いテーマ」というのは大抵、「答えの出ないもの」であることと同義です。だからこそ考えさせられるし、他の人がテーマにできないものでもあります。
答えの出ないものをテーマにして、なおかつ小説としての落としどころを決めておかないといけない、という常人にはできなさそうなことをしれっとやりのけてしまうところが、東野センセーのすごいところでもあります。
本書のラストはなるほど、みんなが救われて本当に良かったなあと思える落としどころでありました。

おっと、眼から汗が

出掛かってしまいましたよ。号泣ではありませんが、グッとくるラストです。印象に残るなあこれ。





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2017年02月24日

書評784 永瀬隼介「毟り合い」

こんにちは、曹源寺です。

大阪・豊中市に建設中の小学校を巡る土地取得(払い下げ)で、周辺の地価よりも格安で売却されていたなどの疑惑が浮上しています。

ある程度のまとまった土地が、時に癒着の代償として不透明な取引がなされることは戦後のどさくさの時代から多々あったように思いますが、21世紀になってからというとあまり聞かれません。本当は掘り起こせばかなりの不透明な取引があってもおかしくはないのかもしれないですね。
本来、こうした事件(と呼べるのかは分かりませんが)は警察というよりは検察、しかも東京地検特捜部というエリート集団がその解明に着手するのが慣わしだったように思うのですが、最近はとんと聞きませんね。
検察は2010年の大阪地検特捜部による証拠改ざん事件によって信用を一気に失墜させた過去がありますが、いまだにこれを引きずっている印象がありますね。また、「特捜部不要論」も槍玉に上がっているようですね。花形部署なのに不要とまで言われるなんて、凋落も甚だしいですわ。
ちょうど週刊ダイヤモンドが2月25日号で「司法エリートの没落」と題して判事、検事、弁護士の苦境を特集しているので買ってみました。面白かったです。


司法の不祥事はさまざまな本が出ています(特に新書に多いですね)ので、そちらのほうが参考になると思いますが、本誌は変わりゆく時代の流れに司法のさまざまな制度がマッチしていないという「業界動向」を丹念に追っているのが特徴的です。特に働き方やキャリアアップなどについては業界内部の人でないと分からない、細かな点にも触れられています。5大弁護士事務所の生態みたいなものもあって、非常にユニークです。これから司法試験を受けようと考えている人には永久保存版かもしれません(かなりネガティブではありますが)。

若干話がそれました。
国有地の払い下げや、不透明な賃貸借契約みたいなものはもっともっと徹底的に追及してほしいなあと思います。おそらくはさまざまな分野に飛び火するのでしょうが、こういうものこそ調査報道がしっかりしているマスコミにやってほしいものです。民進党がここぞとばかりに追及しようとしていますが、なんというか、真実を明らかにしようとかではなくて、安倍首相を引き摺り下ろしたいだけのパフォーマンスにしか見えないんですよね。ブーメランで戻ってきそうですし。
え、朝日新聞も国有地の払い下げで恩恵を受けていたの?あぁ、そうですかぁ、、、ダメだこりゃ(いかりや長介風に)

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内容(講談社HPより)
日本犯罪史上、最高被害額の強奪事件発生! その計画、実行、逃亡、逮捕、判決までを克明に描く! 実際あった事件を基にした、文庫オリジナル書き下ろしクライムノベル。ずさんな管理の警備会社に眠るカネを狙った奴らがいた。襲撃して手にしたカネは、ワルたちも予想もしない大金。六億円――日本犯罪史上最高被害額を巡り、闇世界のワルたちが分け前にありつこうと群がる!


曹源寺評価★★★★
2011年5月に発生した「立川6億円強奪事件」をベースに書き下ろしたクライムノベルであります。国内の犯罪史上最高額の被害を受けたこの事件、昭和43年の3億円事件とは貨幣価値が違いますから本当は3億円事件のほうがすごいといえばすごいのですが、そこはまあ良いでしょう。この強奪事件を克明に描き出してクライムノベルにしたのが本書です。
主人公の小嶋秀之は元極道だが現在は埼玉県のすみっこで便利屋のような仕事の手伝いをしているだけの中年のおっさんであります。すごめばシロウトはちょっとびびるくらいの大きな体躯ですが、基本的には気の良いおっちゃんです。その小嶋は友人の日高などから金を奪えそうな杜撰な警備をしている警備会社(笑)があると聞かされます。金庫に眠る金が2億円はくだらないと聞かされた小嶋は友人らと共に計画を練りますが、自らは実行役を演じることなく、いわば「下請け」に仕事を回していくのでありました。
結局、下請けの下請け(つまり孫受け)が実行犯になるわけですが、こうなると実行犯との面識はなくなりますので、誰が金を持っていて誰がこれを分け与えるのか、分からなくなってきます。

これだけでもうぐちゃぐちゃです。

実際に奪った金も2億円ではなく6億円。実行犯の二人は防犯カメラにもばっちり映るし車の処分も杜撰だし、刑事たちに泳がされた実行犯らは芋づる式にそのつながりがばれてしまい、総勢23名が逮捕されるという大掛かりな捕り物になりました。
要するに、自分で強奪を実行しないヘタレだった連中が勢揃いしたというわけですね。そんでもって、この噂がブラックな人脈に触れてしまい、さまざまな連中から金を寄越せと脅されたり追われたりすることになるのですが、これも警察はすべてお見通しだったというオチまでついて最終的には関わった全員が逮捕されるという結末です。
この最高額を奪った事件にしては

あまりにもしょぼい実態に読んでいてあきれ返ること請け合いです。

こいつら本当にバカだな〜と。
ただ、ラストはなかなかに読ませるし、考えさせられる内容です。実際に6億円のうち、2億4,000万円は行方が分かっていますが、残る3億6,000万円はどうなったのか、あちこちにばら撒いているのが確認できていますが、それでも分かっていない金額が大きすぎるので、このあたりの謎に迫ったところも本書の大きな魅力のひとつではないかと思います。
永瀬センセーは元々ノンフィクションライターから出発されていますので、こうした実話ベースのお話には他の作家センセーより一日の長があります。センセーにはこのジャンル(つまり、アウトローが起こした事件のリアルなやつ)でもガンガン攻め込んでほしいなあと思います。





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2017年02月21日

書評783 今野敏「去就 −隠蔽捜査6−」

こんにちは、曹源寺です。

最近は大手ファミレスが24時間営業をやめるというニュースがありました。
過剰サービスに歯止めをかけようとする動きが活発になってきたのは果たして良いことなのか、それとも悪いことなのか、議論の分かれるところだと思います。

個人的な感想をいえば、賃金が上がらなければサービスをレベルダウンされてもしょうがないと思います。
「お客様は神様です」の時代は終わったのではないかとも思います。客の側がつけ上がるケースは後を絶ちませんので、少しサービスが悪いくらいが当たり前、という風潮にしても良いのではないかと。
「客がつけ上がるケース」というのが本当にみっともないレベルで発生しています。ちょっと接客が遅いだけで「土下座しろ!」とか、お前本当に日本人かよ?と疑うレベルですね。
日本流の「おもてなし」も過剰なものは排除して、すこしスッキリとさせたほうがスマートになるのではないでしょうか。

とりあえず
・コンビニとファミレス、ファストフードは24時間営業を禁止
・どうしても夜に営業したければ、その店舗は昼間の営業を禁止
あたりから始めてみてほしいものです。

これだけでも社会は大きく変わるのではないかと思います。

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内容(新潮社HPより)
続発するストーカー殺傷事件を防ぐべく、大森署にも対策チームが新設された。だがその矢先に管内で女性連れ去り事件、さらに殺人が勃発。ストーカーによる犯行が濃厚になる中、捜査の過程で署長・竜崎は新任の上役と対立してしまう。家庭でも娘にストーカー騒動が発生、公私で勇断を迫られた竜崎の去就は……激震走る第八弾。


曹源寺評価★★★★★
今野センセーもまさかここまでのロングランになるとは思ってもいなかった「隠蔽捜査」シリーズでありますが、ついに8作目(スピンアウトを含む)に突入です。やはり、主人公・竜崎の超合理主義ともいえる、官僚社会、階級社会にあって型破りなキャラクターが多くの共感を得たことが成功要因であろうと思います(みんな思っています)。
幼馴染の警視庁刑事部長、伊丹や第二方面本部の野間崎管理官、大森署の戸高刑事などなど個性的な脇役も固まり、

こうなるともうキャラクターが勝手にしゃべりだすレベル

で話が書けるみたいですね。「ST」シリーズや「安積班」シリーズに匹敵する(あるいはそれ以上の)今野センセーの代表作品になりました。
今回は家族と仕事の両方でストーカー騒動が巻き起こるというストーリーです。家族のほうは広告代理店に勤務する娘の婚約者が半ばストーカー化して大変という話、事件のほうは管内で殺人事件が発生、容疑者がストーキングしていた女性を連れて立て篭もるという話。いずれも竜崎の決断力が試されます。
署長という立場からの目線が多いため、事件は決して臨場感溢れるものではありません。むしろ安楽椅子探偵のようにさまざまな情報が入ってくるところを整理し、まとめ、自分の解釈で仮説を打ち立てなければならないわけです。
今回も事件の構図が従来の常識から外れ、そのために警察が振り回されることになります。そしてそのリカバリーを独自の判断で行うわけですが、そこにひと悶着ありまして表題の「去就」ということになるわけです。
タイトルから考えれば

ついに竜崎伸也も異動か!?

と思うのは必然ですね。警察という巨大組織において、竜崎のような人材を「合理性に執着するただの変人」と捉えるのか、あるいは「旧来の悪習をぶち破ることができる逸材」と捉えるのかによって、その未来は大きく変わっていくのだろうと思います。
これをわが身に置き換えて、いわんや一般企業においては、ということになりましょうか。世の中は「ダイバーシティ」とか言いながら、異端児をはじき出そうとする悪しき日本的慣習(これを村八分と言います)が根強く残っております。農耕民族のムラ社会というのは共同体としての一体感を強要するわけですから、我々日本人の中にDNAレベルで存在しているのかもしれません。一方、同じ日本的慣習のひとつに「お上には逆らわない」というのもありまして、竜崎のような管理職が上にいたなら、その部下は素直に従うことでしょう。本書に登場する第二方面本部の野間崎管理官は中間管理職の悲哀を体現しつつも、竜崎の判断や行動に少しずつ共感するようになってきました。
その意味においては、「組織は上から変わる」というのは間違いないわけで、これからも多少変わり者だけど強いリーダーシップを発揮するこの竜崎伸也というキャラクターに活躍して欲しいものであります。






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2017年02月17日

書評782 長岡弘樹「白衣の嘘」

こんにちは、曹源寺です。

我が家は都内にあるので、この夏は東京都議会議員選挙が待ち構えています。
すでに立候補予定者は戸別訪問(選挙期間中はできませんので)を行って、地道に票を取り込んでいこうとしています。先日は我が家にも民○党の候補予定者がきましたよ。

国会と違って、自治体の長を選ぶ選挙や地方議会選挙は必ずしも自民党一色ではありません。場所によっては共産党の首長もいます。やはり、自分の生活にとってより身近な話題では「子育てに手厚い」とか「老人に優しい」とか「環境に優しい」といった、さまざまな殺し文句が票につながりやすいのでしょう。
本来ならば「道路を拡張して渋滞をなくしましょう」とか「老朽化したインフラを修理するのにこれだけかかるからよろしくね」とか「少子化で学校を統廃合せざるを得ないけどガマンしてね。その代わりここに老人養護施設造るから」といったような、よりリアルで予算執行に直結するような話のほうが重要なはずなのですが、なかなか耳障りが良くないのか、都議会レベルになるとこういう話をする候補者が極めて少ないですね。
「エコキャップ推進運動を強化しましょう」みたいな何の意味もない(むしろ害悪とさえ言える)お花畑な施政方針のほうが、「こいつ馬鹿か」と思ってしまうのは自分だけでしょうか。

我が家に来た民○党候補予定者は、前回落選していたみたいなのでリベンジを果たしたいのでしょう、かなり必死なようです。都議会は自民党もぐちゃぐちゃですし、民○党は国会からしてぐちゃぐちゃですからどうなることやら。夏が楽しみです。

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内容(KADOKAWA HPより)
短編名手が放つ、珠玉のミステリ六編!
もくじ
第1話 最後の良薬
第2話 涙の成分比
第3話 小医は病を治し
第4話 ステップバイステップ
第5話 彼岸の坂道
第6話 小さな約束


曹源寺評価★★★★

相変わらずKADOKAWAはホームページでの紹介が雑すぎですね笑

長岡センセーが短編の名手は確かで、ちょっとしたキーワードが伏線になっていて、ラストに必ず回収するという作業が行われますので読んで納得感がものすごいです。最近は何ともほろ苦くて切ないラストが多いですが、絶望ではなくてそこにはわずかな希望が見えているという作品が富に目立ちます。
本書はお得意の警察小説ではなく、医療現場がテーマのミステリとして短編6作品が収録されています。連作ではありませんが、第1話から第6話と表記されているように医療従事者のちょっとした「嘘」がテーマになっています。
個人的には第1話と第5話、そして第6話あたりが好きですが、いずれも長岡センセーらしい短編と言えるのではないかと思います。





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2017年02月14日

書評781 宮部みゆき「希望荘」

こんにちは、曹源寺です。

本日(2/14)、東芝が第3四半期の決算発表を延期することを発表しました。すでに債務超過ではないかと噂されており、法的整理も秒読みなんて言われていますが、真偽のほどはさておき、自分が社会人になった四半世紀前を見渡しますと、なんと多くの有名企業が潰れたり大リストラしたり外資の手に落ちたりしたものかと、なんともいえない気持ちになります。
2000年以降の大型倒産だけを見ても、
金融:千代田生命保険、協栄生命保険、東京生命保険、ライフ、武富士、ロプロ(日栄)ほか
建設:日産建設、青木建設、殖産住宅相互、佐藤秀、ダイア建設、穴吹工務店ほか
住宅:セザール、ゼファー、ダイナシティ、アーバンコーポレーション、モリモト、日本綜合地所ほか
製造:赤井電機、新潟鐵工所、日本重化学工業、福助、山水電気、エルピーダメモリほか
流通:そごう、はるやまチェーン、第一家庭電器、マイカル、マツヤデンキほか
運輸:日本航空、スカイマーク、第一中央汽船
サービス:第一ホテル、ノヴァ、55ステーション、インデックス、ラ・パルレほか
書ききれませんわ。

倒産ではありませんが、製造業ではものすごい勢いで勢力図が変わりました。
日産自動車(仏ルノーグループへ)とか三菱自動車工業(脱輪攻撃→大規模リコール→リコール隠しで大変)とか三洋電機(パナソニックの子会社に)とかシャープ(鴻海精密工の傘下へ)とかアイワ(ソニーと合併)とかケンウッド(日本ビクターと合併)とかミノルタ(コニカと合併してカメラはソニーへ)とか
こっちもきりがないわww

IBMに入社してもパソコン事業部にいた人は切り離されて今LENOVO社ですし、ソニーだってVAIO事業は別会社になっています。何というか盛者必衰の理とはまさにこういうことを指すのでありますね。

こんな話を娘にしていたら、「要するに、大企業に頼らずに生きていければいいのね」ということで、大学に入ったら資格を取るらしいです。日本という国がある限りは大丈夫という資格でも取ってくれれば親としては言うことありません。


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内容(小学館HPより)
探偵・杉村三郎シリーズ、待望の第4弾!
その部屋には、絶望が住んでいた――。
宮部ファン待望の14か月ぶりの現代ミステリー。特に人気の「杉村三郎シリーズ」の第4弾です。
本作品は、前作『ペテロの葬列』で、妻の不倫が原因で離婚をし、義父が経営する今多コンツェルンの仕事をも失った杉村三郎の「その後」を描きます。
失意の杉村は私立探偵としていく決意をし、探偵事務所を開業。ある日、亡き父・武藤寛二が生前に残した「昔、人を殺した」という告白の真偽を調査してほしいという依頼が舞い込む。依頼人の相沢幸司によれば、父は母の不倫による離婚後、息子と再会するまで30年の空白があった。果たして、武藤は人殺しだったのか。35年前の殺人事件の関係者を調べていくと、昨年に起きた女性殺人事件を解決するカギが……!?(表題作「希望荘」)
 表題作の他に、「聖域」「砂男」「二重身(ドッペルゲンガー)」の4編を収録。


曹源寺評価★★★★
杉村三郎シリーズがなぜかこじれて「探偵・杉村三郎」となってしまいました。このことに違和感を持つ人は少なくないのではないかと思いますが、面白ければ文句は言いますまい。
宮部みゆきセンセーが描く探偵もの、人探しものは好きなんですよ。何と言っても「火車」の圧倒的な存在感がありますからね、読んでいくのが本当にワクワクします。他のセンセーと何が違うのかなあと考えてみたのですが、おそらくは依頼人、捜索人、探偵、そして関係者、

それぞれにドラマがあって真実が見えた時にすべてつながる

一本の線ができあがるような感覚。人間臭さというかちょっとだけドロッとしたような裏話というか、そんな背景を見せつつも最後は筋の通ったラストに仕上げていく。それが多少陰鬱なラストであったとしても、すべてが救われないかというとそんなことはない。そして、主人公も読者も推理する「おそらくはこういう見立て」が、実は全然違っていて、それでもすべてがすっぽりとはまっているというストーリーテリングはものすごい技巧であったりするわけです。ちょっと抽象的なところもありますが、そんな感じです。
本書はこれに主人公の杉村三郎が持つ、実直で人当たりの良い人物が行う探偵という仕事が、これまでの探偵像とは異なる雰囲気をかもし出しているのもいいですね。
本書は連作短編4作品(中編に近い)が収録されていますが、個人的には表題の「希望荘」が良かったです。あと「砂男」も。砂男は前作「ペテロの葬列」で妻子と別れた後の杉村が、どのようにして探偵事務所を開くまでになったのかを事件とともに綴っていますので、本来であれば本編が最初にこなければいけないはずなのです(あえてそうしていないところが宮部みゆきセンセーです)。
宮部センセーの探偵モノのシリーズというのがひとつくらいあっても良いのではないかと思いますので、ぜひこの杉村三郎シリーズを続けていただきたいと思います。切なる願いです。





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2017年02月10日

書評780 前川裕「イアリー」

こんにちは、曹源寺です。

昨日ニュースになった「信長読本」騒動ですが、なんかもうすごいですね。
「信長読本」ミスだらけ 岐阜市は三重県?(2/9岐阜新聞Web)
岐阜市が編集に協力した歴史雑誌「岐阜信長 歴史読本」に地図の表記や年号の間違い、誤字脱字など約30カ所もの不備があることが8日、分かった。市は「これほどたくさんの間違いがあるのは遺憾」として、発行元の出版社「KADOKAWA」に対応を求めている。
史跡・観光スポットを紹介する地図で、岐阜市が三重県、羽島郡岐南町と笠松町が愛知県と記載されていた。ホテル名の間違いや「廃グレードホテル」との記述もあった。「美濃人物伝」では人物名と紹介文が入れ違い、金華山のコーナーでは昭和4年が1828年と記してあった。
岐阜市教育委員会は校正補助をしたが、確認時とは違う状態で印刷された箇所もあった。KADOKAWAに対し「十分な確認を怠っており大変残念」とコメント。図書館や学校向けに購入した240冊は「この状態での配布は考えられない」としている。
同社の担当者は取材に「連絡いただいた人には正誤表を送る。現段階での回収は考えておらず、重版となれば直すべき所は直したい」と答えた。
雑誌は先月30日に発売。全国の書店で販売されており、すでに2千部近くを売り上げるほどの好評ぶり。


この後、KADOKAWAは刷り直しを表明しています。さすがに30ヵ所のミスは洒落にならなかったわけで。
それにしても酷いですね。出版社がネットの掲示板レベルに落っこちているという現実を目の当たりにしました。「廃グレードホテル」なんて書かれた方はたまったもんじゃありませんし、「三重県岐阜市」とか日本の出版社じゃ考えられないレベルの事故です。校正、校閲が機能していない出版社など無用の長物でしかないと思います。

でも、この手の本は編集プロダクションに丸投げしているケースが大半だろうなぁ。編プロが校閲費用ケチったのかもしれないなぁ。ケチったおかげで契約切られたりしたら可哀相だなぁ。数百万円の損害は間違いないもんなぁ。
など、いろいろと思うところはありますが、KADOKAWAしょうがねえなあという気持ちと、編プロさんがどうか無事でありますようにと願う気持ちが交錯しています。

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内容(KADOKAWA HPより)
大学教授の私が妻の葬儀を終えた夜、自宅のインターホンが鳴った。「奥様はご在宅ですか?」。モニターに映っていた女の姿は、私が外に出たときには消えていた。それから、私の周囲では不審な出来事が続き――。


曹源寺評価★★★★
前川センセーの最新刊はまたしても大学教授が主人公のホラー系小説でありました。ホント好きですね、この設定。ちなみにこれまでの著作のうち、英語のタイトルを整理しておきましょう。
クリーピー:creepy:ぞっとするさま、ぞくぞくするさま
アトロシティー:atrocity:極悪非道、残忍性、残虐行為
ハーシュ:harsh:耳障りな、不快な、ざらざらした
アパリション:apparition:幻影、幽霊、(突然現れる)おばけ
インザダーク:in the dark:暗闇の中
クリーピー スクリーチ:creepy screech:(スクリーチ)恐怖・苦痛などのために)聞き苦しい鋭い叫び声をあげる、キーキー鳴く、
そして本書のイアリー:eerie:不気味な、ぞっとするような
です。英語の勉強になりますね。
今回は前川センセー恒例の「ご近所サイコパス」に加えて、同時進行で大学内の総長選挙に暗躍する黒幕という不気味な存在がクローズアップされてきます。
恒星学院大学教授の広川は妻に先立たれて間もなかったが、ご近所でごみ収集所に男性の遺体が捨てられるという事件が発生する。また、主人が自殺したとされる近所の家にはその妻と思しき女性がいたが、広川は奇妙な違和感を覚える。
広川の勤める大学では総長選挙が控えており、文学部から総長を輩出したい教授たちが策謀を練るが、広川は乗り気がしない。ひとつ違いの石田教授が策略を練るが、広川はどんどんと巻き込まれていくことに。
この総長選挙に暗躍する石田とのやりとりがなんとなくサイコパスっぽくていいですね。小説全体から滲み出るこの薄暗さ、不気味さがなんともいえません。
勤務先で起こっている出来事と、ご近所で起こっている不思議な事件が後半からラストにかけて収束していくのですが、「クリーピー」から読破している自分としてはこのあたりのまとめ方が作品を重ねていくうちに研ぎ澄まされていくのがよく分かります。なんといっても、

ラストの意外性はいままでの作品とは趣を異にしている

ところがいいですね。
本書全体に漂う陰鬱な設定、主人公にしてみれば職場でも家でも安息の場がないという絶望、悪意の渦に巻き込まれていくやるせなさ、そして事件が解決したのに実は何一つ解決していないのではないかと思わせるサイコな人物像。そしてなにより

怖えぇ、という感想で閉じられる読後感。

前川センセーの作品がどんどん面白くなってきました。今後にも大いに期待しましょう。





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2017年02月07日

書評779 歌野晶午「Dの殺人事件 まことに恐ろしきは」

こんにちは、曹源寺です。

この時期は高校受験の真っ最中ですね。我が家も3年前は大変でした。そういえば3年前は東京でも大雪が降って、交通機関が大幅にマヒしたのを思い出します。家から脱出するのにも一苦労だったくらいの大雪でしたので、さすがに受験は中止だったり延期になったりしました。我が家では娘が私立高校の2次試験でしたが、中止になったおかげで(?)無事合格しました。
春からは大学生ですよ。早いものですね。

さて、その受験ですが、東京では高校受験のほうがお得なのか、あるいは中学受験のほうが後々有利なのか、といった命題があります。資金的な余裕があれば後者なのかもしれませんが、いまや公立高校は無償化の時代ですから一般家庭では教育費の負担は少ないほうが良いでしょう。

個人的感想ですが、将来的にMARCH以上の私立大学を狙うなら附属高校はありだと思います。大学の附属中学もけっこうありますが、高校より門戸は狭いです。我が家は高校受験でリベンジして、中学で落ちたところを全部合格しました。特待生で入学金免除というところもありました。
高校生活も附属だといろいろなことをやります。英語のプレゼンテーションや短期留学、卒業論文なんかもあります。TOEICも取らされました。赤点が続けば留年もあります。一昔前は「附属はバカ」というレッテル張りをされることもありましたが、いまは「ちょっとおバカではあるが、受験勉強だけやってきた奴よりは経験値が高い」と思います。

国公立大学狙いだと、中学高校の5年で通常の6年間のプログラムを終えて、あとの1年を受験対策に費やすくらいのことをする私立高校もありますので、高校からそういったところに入るのは後で苦労することがありますね。大学受験の面倒見が良い高校は相変わらず人気が高いです。しかし、高校の授業だけではダメみたいで、結局進学塾に行ったりするわけで、私立の中高一貫校+進学塾で一体授業料はいくらになるのか、、、親にしてみれば子どもが幸せになれるならと思って頑張りますが、本人のやる気がくっついてこなければ無駄な投資になるのが教育費です。博打だとは思いたくありませんが、難しいものですね。


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内容(KADOKAWA HPより)
トリックと幻想は紙一重。ミステリの鬼才×乱歩、驚愕のミステリ短編集!
歌野晶午×江戸川乱歩――貴方を「非日常の興奮」に導く、超ミステリが誕生!
『葉桜の季節に君を想うということ』の異才が、刺激的なサプライズと最新テクノロジーで現代に蘇らせる乱歩ミステリ集!
カメラマンの「私」が渋谷の道玄坂で出会い、交流するようになったのは、賢いが生意気な少年・聖也。
その日も私は道玄坂のダイニングバーで聖也と話していたが、向いの薬局の様子がおかしい。駆けつけた私たちが発見したのは、カーペットの上に倒れた、上半身裸の女性だった。
その後、私と聖也は事件を探り始める。しかし、私はあることに気がついてしまい、元の世界には戻れなくなっていた――(表題作)。
「人間椅子」「押絵と旅する男」「D坂の殺人事件」「お勢登場」「赤い部屋」「陰獣」「人でなしの恋」「二銭銅貨」……サプライズ・ミステリの名手が、新たな魅力を吹き込む!
もくじ
「椅子? 人間!」
「スマホと旅する男」
「Dの殺人事件、まことに恐ろしきは」
「「お勢登場」を読んだ男」
「赤い部屋はいかにリフォームされたか?」
「陰獣幻戯」
「人でなしの恋からはじまる物語」


曹源寺評価★★★★★
歌野センセー、久しぶりでした。最近は技巧に走りすぎていないかと評されることも多い歌野センセーですが、全然そんなことは思っていなくて、とても読みやすいし展開も驚きが多くて好きです。後味の悪い作品が多いのがちょっと残念なくらいで。
さて本書は短編集ですが、上記HPの紹介文のように、あの江戸川乱歩センセーの作品をオマージュしたと思われるタイトル7作品が収録されております。
いずれも江戸川作品のタイトルから持ってきたのが一発で分かるのと、乱歩の作風をどことなく感じられるところが歌野センセーのテクニックだなぁと思わせてくれます。
我が家には母親から譲り受けた「江戸川乱歩全集」15巻が揃っていて、大学時代にチャレンジしたのですが、著名な作品をいくつか読んだだけで挫折してしまいました。以来、書棚に眠ったままの状態です。
7作品のなかにはドキッとさせられる展開もあれば、ムナクソ悪いラストの作品、なるほどこれはキツイという作品などがあります。個人的には「スマホと旅する男」の不思議なお話や、表題作「Dの殺人事件、まことに恐ろしきは」の後味の悪さなどが良かったです。表題作は

こんな小学生いねえよ

というツッコミを無視して読み進めてほしいです。





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posted by 曹源寺 at 17:48| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年02月03日

書評778 本城雅人「紙の城」

こんにちは、曹源寺です。

米国はトランプ大統領が就任からわずか2週間で公約どおりの大胆な政策を行動に移していて、「まさか本当にやるなんて」と世界各国を驚かせています。
この調子だと本当にメキシコとの間に巨大な壁を作ることになりそうです。

マスゴミは連日、トランプ大統領のこうした行動を否定的に報道していて、日本への影響も広がりそうだと懸念しています。影響というか、悪影響ですね。
でも、暗殺でもされない限り、こうした動きは止まることはないわけですから、日本は日本で国益を追求していけば良いだけの話です。いまさらビビッてもしょうがないのです。
米国がグローバリズムを捨てて国益に走るなら、日本だって搾取されないように強力なリーダーシップを発揮できる政治家を後押ししていけば良いのです。同盟国をないがしろにすることは却って国益を損ねることになる、ということをトランプ大統領が学ぶにはもう少し時間がかかるかもしれませんが、粘り強く交渉を重ねていくことで相互理解を深めていくことが重要でしょう。

テレビのコメンテーターならこんな感じのコメントで終わるのでしょうが、そこにはなんの具体策も方法論もありません。トランプがこんなことをした、あんなことを言った、と報道するだけでは国民が感情的になるだけです。トランプやるなあとか、トランプ頭がおかしいとか、そんな感想を持たせるためだけの報道ならしないほうがましです。視聴者も観ないほうがましです。
そろそろこうした報道だけではなく、本質的な政策議論を中心とした「いま日本がなすべき施策」について提言を重ねていく時期にきていると思います。

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内容(講談社HPより)
新聞社が消滅する――。
東洋新聞はIT企業から買収宣告を受けた。経営権が移れば、宅配数の少ない営業所は閉鎖、ニュースはウェブファーストに移行し、海外特派員制度もなくなる。しかし日刊新聞法に守られた新聞社は世論を味方につけられない。
東洋新聞社会部デスクの安芸は、昔ながらの記者だ。パソコン音痴で、飲み会の店も足で探す。IT企業を裏から操るのは、かつて東洋新聞の記者だった権藤だ。
時代の流れは止められないのか。旧いものは悪なのか? 安芸とともに働く者達の、記者魂を懸けた攻防戦が始まる。
発売後、続々重版出来! 「産経新聞」「日経ビジネスオンライン」「サンデー毎日」「週刊朝日」「アサヒ芸能」「J-novel」ほか新聞25紙で紹介された話題沸騰の話題作!!


曹源寺評価★★★★
先日「ミッドナイト・ジャーナル」が初読でした本城雅人センセーの最新刊は、やはり新聞社を舞台としたリアルシミュレーション小説でありました。
東洋新聞社の社会部ベテラン記者である安芸稔彦を主人公に据え、東洋新聞社の買収に動き出したITベンチャー企業との攻防戦を描き出しています。
新聞業界の暗部というか、ガチな現状を浮かび上がらせているという小説は珍しいです。本書に出てくる新聞業界の課題や問題点を列挙してみましょうか。

日刊新聞法という名の既得権益
記者クラブとかいう閉鎖集団
テレビ局の傘下にある(あるいはその逆)という海外では禁止されている系列制度(クロスオーナーシップ)
速報性という意味で時代遅れになってしまった紙媒体と宅配制度
ゴシップは週刊誌に流して高みの見物という報道貴族主義
調査報道が廃れ単なる政府発表の御用聞きになった社会の木鐸


こんなのが山盛りですよ。新聞業界のドロッとした部分がこれでもかというほど出てきますので、

業界研究にはもってこいですね爆

さらにすごいのは、IT企業に買収されまいとした現場の記者集団がIT企業の社長周辺を嗅ぎまわり、過去の犯罪を暴きたてようと躍起になるというストーリー展開であります。

すごいなあ、こんな書き方しちゃって平気ですかぁ?

比喩的にみれば、これってまさにホリエモンの事件と同じじゃないの?と感じてしまうのですがいかがでしょう。マスコミを買収しようとすると総力を挙げて潰しにかかる構図がそこにはあるということがよく分かります笑
まあ、そんな思い切った作品ではありますが、いろいろと考えさせてくれる内容ではあります。たとえば、もし新聞社が90年代後半からインターネット戦略を掲げていたら、いまごろポータルサイトの2つや3つは新聞社の系列下にあったのではないかという推測はあながち間違いではないと思います。また、右開き縦書きから左開き横書きに新聞のレイアウトが変わったらどうなるか、とか、タブレットを無料で配る戦略とか、海外の新聞社とのボーダーレスな関係のあり方とか、業界が生き残っていくためにはどんな変化が必要なのだろうと考えるのはそれなりに楽しいです。
ダーウィンの有名な言葉を思い出します。「強い者、頭の良い者が生き残るのではない。変化するものが生き残るのだ」という言葉です。新聞業界はすでに進化の袋小路にはまっているのはないかと感じることができる一冊でありました。
そう考えると、本書は単にIT企業=悪、新聞記者=正義といった単純な構図ではないことが理解できます。この単純な構図の裏に仕掛けられているのは、すでにネットに負けている紙媒体の未来を嘆きつつ、現場の記者が足で稼いだ記事には一定の評価を与え、そのくせ己の保身のためには休日返上で個人のプライバシーを漁る恐るべき悪の集団という位置づけであり、表面的な結末だけに目を奪われてはいけないのだぞという本城センセーのメッセージを感じてしまうのであります。ちょっと穿ちすぎかなとも思いますが、

古巣の新聞社をこれだけ間接的にけなしている

わけですから、あながち間違いでもないのかもしれません。
ラストはちょっとがっかりな終わり方でしたのが少々残念です。





(以下、ネタバレ)
親会社のテレビ局から新聞社の株式を譲り受けるチャンスをみすみす逃した黒幕の真意が読み取れませんでした。

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posted by 曹源寺 at 16:56| Comment(0) | TrackBack(0) | 日記 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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