ミステリ読みまくり日記 〜書評(ネタバレあり)

通勤時間に読む、日本のミステリとその他小説をとりあえず書き留める
 

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2017年03月31日

書評792 吉川英梨「烈渦 新東京水上警察」

こんにちは、曹源寺です。

まだまだ続く森友学園問題。国会議員の関与はほぼほぼゼロの状況であることが見えてきたので、ここからは大阪府議会で続きをやってほしいのですが、政争の具にしかなっていないので国会の貴重な時間が浪費されています。
明確な証拠が見つかっていないのに疑惑があるとして「潔白というならそれを証明せよ」という民進党は、いわゆる「悪魔の証明」を迫っているわけです。ないものを証明せよ!というのは到底無理な話で、このできもしないことを迫っている野党に追随して矛盾を一切追及しないマスゴミにもあきれ返ります。

そうこうしているうちに、またしてもいつものブーメランが炸裂して、辻元清美議員に対する数々の疑惑が浮上してきました。
マスゴミはいつものように「報道しない自由」を振りかざしていますが、ネットは大荒れです。このギャップの激しさが今の報道の現状を如実に表していると言っていいと思います。

そもそもですが、新聞やテレビの「政治部」といわれるセクションは、政策の是非やその詳細に関する調査報道よりも、「政局」といわれる報道のほうに重きを置く悪弊があります。だから、政府がぐらつくようなネタにはタイムリーに食いつき、倒閣運動には積極的に関与するわけです。まあ、そのほうが販売部数が伸びるのは自明でしょう。あわよくば解散総選挙にまで至ってくれれば万々歳なわけです。
スキャンダルの収集には力を入れるわりに、その政策や法改正の内容、是非についてはきちんと報じないし、野党も政策論争をしない。それを否定的に論じているのはネットだけという状況。これでは健全な世論形成などできるわけありません。
まあ、今回の件ではだいぶ森友の報道にはネット民だけではなく多くの国民が辟易としてきているのは事実でしょう。ネットによる世論形成のほうが一般的になってきているような、そんな時代になりつつあるのを感じますね。

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内容(講談社HPより)
東京湾に係留されている「宗谷」の 船室で腐乱死体が発見された。東京水上警察は現場に急行するが、湾岸署との捜査権争いに負け、熱血刑事・碇拓真はいきり立つ。最大級の台風が迫る中、都政に絡む陰謀の存在を掴む碇。暴風荒れくるう東京湾で、命がけの闘いが始まる!


曹源寺評価★★★★
「波動」に続く東京水上警察シリーズの第2弾です。「波動」はキャラクター設定以上に、海の上での逮捕劇の激しさに「ダイハードかよ」と突っ込みを入れたくなるほどのアクション大盛りで、楽しいといえば楽しい、でもちょっと現実感乏しいなあ、という感想でした。
本書もまた五港臨時署、略して五臨署の個性溢れるメンバーが勢揃いです。
マッチョなソース顔の碇拓真刑事は幼い頃のトラウマで海が苦手というキャラクターですが、例によって海上での戦いを迫られます。台風が荒れ狂うなかでのアクションシーンは映像化も苦しいほどです。
若手でクールな日下部峻刑事は東京を直撃した台風により江東区が水没するなかで犯人確保だけでなく、多くの被災者救出にあたります。
そして美人でマジメな海技職員の有馬礼子は前回ほどの活躍ではありませんが、恋愛話も盛り込んでこの男子二名の間で揺れ動いてくれます。
しかし何だね、東京が一部とはいえ水没ですよ。マンションの4階まで水に沈みましたよ。

こっちのほうがインパクト大きすぎで、

犯人との対決・格闘が小さく見えますよ。
巷ではこれまでも荒川の堤防が決壊したら江東区や台東区の一部は水没するのではないかといわれてきましたが、捕物帳としてこの水没を利用した作品は個人的に初めてでしたので面白かったです(臨場かとしては微妙ですが)。
それにしても、東京が水没したときの水上警察って、犯人逮捕がやっぱり優先されるんですかね。海上保安庁と連携して被災者救出を優先しないとやばそうですが。
話は飛びましたが、つまり、今回もアクションから恋愛まで盛りだくさんの内容でおなかいっぱいというやつでした。読者をとにかく楽しませようとする吉川センセーの意気込みが、本当にひしひしと感じられます。





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2017年03月28日

書評791 下村敦史「告白の余白」

こんにちは、曹源寺です。

1週間、更新を止めてしまいました。久しぶりにまとめて有給休暇をいただきまして、ちょいと花粉症のないところまで行ってきたので東京に帰ってきたら寒いわ喉は荒れるわで大変でした。
そんな花粉症のないところ=沖縄県ですが、観光目的では初めてでしたので楽しかったです。3月の沖縄はまだちょっとだけ肌寒いので長袖シャツ1枚、夜はその上に羽織るものが必要でした。でも、シュノーケリングもできたし、安かったのでまずまずの旅行でした。

しかし、自分のなかには沖縄のイメージとして「ちょっと前までアメリカだった沖縄」と「ドーベルマン刑事の沖縄コネクション編」というのがあります(知らない人はググってくださいまし)。小さい頃のトラウマみたいなもので、沖縄=地上戦のあった悲惨な土地、沖縄=アメリカに蹂躙されてきた土地、という変な刷り込みがなされていました。特にトーベルマン刑事は単行本11巻あたりがもう最初から最後までバイオレンスの塊みたいな作品でしたから、ひどく印象に残っています。
やはり沖縄に来たからにはそんな戦争の記録も見なければなるまい、ということで「ひめゆりの塔」に行ってきました。ひめゆりの塔は那覇空港から南東に向かってクルマでだいたい40分くらいかかる場所にあります。
記念館の展示はかなり詳細で、お亡くなりになった学徒と教員200余名の記録が詳細に展示されています。誰がいつ、どこでどんな死に方をした(!)まで記録されているので、おいおい個人情報保護法はどうしたwwwていうくらいすごいです。
映像記録もこれまたすごいです。海岸に広がる死体の山とかダダ流しなので小さな子どもにはトラウマレベルです。たぶんですが、米兵を嫌いになることはあっても好きになることは絶対にない、といえるレベルで刷り込みさせる映像です。
記念館の展示は比較的感情抜きで淡々と事実を述べているものが多かったのですが、映像はショッキングだと思います。
沖縄県民が屈折した感情を持ってもしょうがないのかもしれないなあ、と思いました。

沖縄戦における学徒動員はひめゆりだけではなく、ずゐせん学徒隊や白梅学徒隊などが組織されていましたし、沖縄戦の期間がおよそ6か月であったこと、米軍の動員数が述べ50万人であったことを鑑みれば、こうした学徒の方々による活躍がなければ沖縄陥落はもっと早かった可能性があります。当初、米軍は1か月くらいで陥落できると見込んでいたようですので、もし沖縄陥落が早かったならば沖縄が拠点となって本州への攻撃がさらに激化した可能性もあったでしょう。
我々本土人は、彼女たちに深く頭を垂れて感謝をしなければいけないし、彼女たちのような悲劇を二度と繰り返してはならないということを誓わなければならないと思いました。
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内容(幻冬舎HPより)
「京女の言うことは、言葉どおりに受け取ったほうが幸せえ?」 家を出た兄が実家の農地の生前贈与を求めて突然帰ってきた。しかし、「2月末までに清水京子という女性が来たら土地を譲渡してほしい」という遺書を記し自殺。兄はなぜ死んだのか。そして、女は何者なのか。期限の意味は。 死の真相を知るため、弟の英二は一人京都へ向かうがーーそこは老舗女将、京美人、狡猾な老職人など曲者渦巻く町。腹黒、嫌味、皮肉が飛び交う町が真実を覆い隠し謎は深まるばかり……。 会話すべてが伏線! 一人一人の“本音"を見過ごすことなく、あなたは真相に辿り着けるか。 大注目の乱歩賞作家が「言葉」に罠を仕掛けるノンストップミステリ。 次々と表裏、黒白、真偽が逆転。最後の1ページまで気が抜けない!


曹源寺評価★★★★★
本当に続々と出るなぁと感嘆の言葉しか出てこない下村センセーの著作ですが、今度は京都を舞台にしたミステリです。
4年間も放浪したあげく、ふらっと高知の実家に帰ってきた双子の兄、英一。農家の土地を生前贈与して欲しいと訴え、実現したらその翌日に自殺するという不可解な行動に、弟の英二がその謎を解き明かすため京都に行く。なぜ兄は自殺したのか。遺書に込められた兄の思いは何だったのか。
うーん、最初の導入からあまり面白くないなあ。ガマンして読み進めたら中盤辺りから面白くなってきましたが、ラストもなんだかよく分からなかった。
京都の人とのつきあいはよく「『ぶぶ漬けでも食べていきなはれ』と言われたらすぐにお暇しなければいけない」というよくわからん作法があります。言葉とその真意が真逆だったりすることがままある、ということの例えですが、

そんなん関東人にはわかりません。

「この前の戦」といったら応仁の乱だとか、同じ京都市内でも山科区は京都ではないとか、いつまでも日本の中心地であることのプライドが残っている街であるということは理解できなくはないですが、それって完全に内輪の話ですね。
そんな京都人のどうでもいい慣習の内輪話が延々と続き、でもじつはそれがミステリの伏線になっているというお話ですので、正直

そんなん知るか

という感想です。あとは、それ以上に

京都人怖えぇ

という感想でしょうか。真に受けると京都人と会話ができなくなりそうです。
一応、フォローしておきますと、京都の人たちが婉曲的に表現するのは「直接的な表現をすることで相手が傷つくのを避ける」という大義名分がありますので、嫌味なのではなくて優しさゆえということが真実です。
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2017年03月17日

書評790 一橋文哉「世田谷一家殺人事件 15年目の新事実」

こんにちは、曹源寺です。

森友学園のニュースはかれこれ1か月以上も続いていますが、今のところ何一つ物証が出てこないで印象操作だけが進んでいる状況ですね。よくもまあこれだけズルズルと引き伸ばせるね〜と思います。
まあ、理事長がちょっとヤバイというのは良くわかりましたが。。。
せっかくですから、これを機会に教育界の闇の部分を引きずり出してほしいなあと思います。国有地の払い下げ問題は他の学校法人へのファクトチェックをぜひやっていただきたいです。政府ではなくて文科省あたりの「闇」が炙り出されるのではないかと期待してしまいます。

あとは、大学の医学部設置問題ですね。現在進行中なのは国際医療福祉大学で、2017年4月には成田キャンパスに医学部が開学します。受験倍率はなんと27倍!すごいですね。
でもなぜこの大学に決まったのか。同志社大学や東北福祉大学なども誘致を促していたようですが、なぜ歴史と実績のある大学が蹴られてこの大学になったのか。早稲田大学はどうなったのか(どうも鎌田総長が誘致活動を見送っているらしいですが)。(ちょっと違いますが)東京女子医科大学の財務状況はどうなっているのか。そもそもなぜ1979年の琉球大学以降、設置認可が下りなかったのか、などなど、いろいろと不明なことが多くて訳分かりません。
なぜ医学部の設置が見送られてきたのか、という疑問には、どうやら「医学部ができると現場の医師が教壇に立たなくてはならず、人手不足が加速するから」という言い訳が用意されてきたようです。
でもそれっておかしいですね。そんなこと言ってたら人手不足にますます拍車がかかるじゃないですかね。高齢化社会の到来を見据えていたはずなのに、多少の定員増があったにしても1979年から医学部がずーっと設置されてこなかったのってやっぱり変ですよね。

自分はこう思います。もっと門戸を広げる代わりに、国家試験の壁を厚くして医師に向いていない奴はどんどん落とすようなシステムにするべきであると。医師国家試験の合格率は90%、かたや司法試験は23%程度です。一人前の医師を育成するまでの投資は判事・検事・弁護士の比ではないと思いますが、投資をすれば誰でも医師になれるというのもちょっと違うと思いますし、医療従事者間の競争原理もある程度働かせたほうが健全な業界になると思います。
それに、今回の国際医療福祉大学の医学部も定員はたった100名です。100名程度の医学部設置で認可までにものすごい紆余曲折があるとしたら、それはそれですごい時間の無駄遣いのような気もします。

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内容(KADOKAWA HPより)
私は真犯人に会った!
2000年12月31日、世田谷区上祖師谷の四人一家が無残な状態で発見された。現場に多数の痕跡を残しながら捕まらなかった犯人。その犯人を追って著者が向かった先とは? 真犯人がついに本書で明らかになる。

曹源寺評価★★★★
一橋センセーのノンフィクションは徹底した現場主義による綿密な取材活動と、それに裏打ちされた迫力ある筆致、臨場感溢れるインタビューが売りです。読者としては本当に「これぞジャーナリズム」とうなってしまうこと請け合いの内容です。一橋センセーのみならず、清水潔センセーや溝口敦センセーなど、リアルなジャーナリズムを背負って日々活動されている「本物」の著作はどれもこれも頭が下がる思いです。
さて、本書は2000年12月に世田谷区上祖師谷で発生した一家4人の惨殺事件を丹念に追ったルポルタージュです。謎の多いこの事件は本書以外にも多くの作品が出回っていますが、実行犯と思しき男性へのインタビューのみならず、その主犯、さらに黒幕へと網を広げて切り込んでいるのは一橋センセーだけではないかと思います。
だからこそ、リアルでホラーな事実が浮かび上がっているわけで、本作なくしてこの事件は語らしむべからずでしょう。
詳細はお読みいただくとして、本書の主張のキモである「犯人は誰?」という点において位置はしセンセーはズバリ書き込みつつも、その本人の安否が不明というかちょっとモヤモヤして終わってしまうのがなんとも歯がゆいですわ。
本書で語られることのなかった断片はセンセー自らコラムなどで追記されているようですが、犯人は東京・武蔵野市内のマンションに潜伏していたとの情報もあったりして、

ガチで怖いんですが

ただでさえ武蔵野三鷹エリアは殺人事件が増えて困っているのに、リアル殺人鬼が潜伏していたなんてみんな知ったら大変ですわこれ。
こんなやつ、何でもいいからとっとと別件で逮捕して指紋とDNAの鑑定して捕まえてくださいまし。というか、なんで野放しなの?本当に死んでないの?誰か教えてクレメンス。





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2017年03月14日

書評789 神家正成「七四」

こんにちは、曹源寺です。

3月10日から13日にかけて、新聞各紙がいっせいに同じような社説を掲載したと話題になりました。

【毎日新聞】大使帰国1カ月 正常化へ日韓で努力を[3/10]

【北海道新聞/社説】韓国大統領罷免、政治空白の解消を急ぐ時だ。新政権発足に備え、大使を帰任させるべき[03/11]

【京都新聞/社説】韓国は重要なパートナー。日韓関係の再構築へ踏み出すためにも大使を帰任すべき[03/11]

【山陰中央新報】韓国の次期政権とのパイプづくりのためにも、帰任に向けての条件整備を検討する時期に来ている[3/11]

【西日本新聞/社説】政争の中で、日韓関係をうまく制御し、日韓合意を維持することが重要課題。司令塔となる駐韓大使の帰任を[03/12]

【河北新報/社説】韓国の安定は、北朝鮮に連携して対処する上で不可欠。新政権との対話を見据え、駐韓大使の帰任を急ぐべき[03/12]

【福井新聞】約束が守られなければ日韓関係は前途多難だが、次期政権とのパイプづくりを強めるためにも大使の帰任を検討する時期 [3/13]

【中國新聞/社説】日韓関係は悪化している。次期政権とのパイプづくりを図り、合意履行を求める必要がある。駐韓大使帰任の時[03/13]

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中身をご覧いただければお分かりですが、結論の大半は「朴大統領も罷免されたことだし、そろそろ大使の帰任を検討してもよい頃合ではないか」というものであります。つまり、帰国している駐韓大使を早く戻せと言っているのですね。

この横並び体質というか、社説のくせに金太郎飴のような記事を平然と載せていることが本当に気持ち悪いなあと思います。まあ、種を明かせば共同通信あたりの記事をそれぞれの社が少しだけ文章をいじくって配信しているだけなんですがね。

社説の中身自体がどうこうではなくて(もちろん、それもありますが)、この剽窃まがいの行為が堂々となされているのが新聞社の体質であるということ、通信社が親元となって横並びの記事がずらりと揃うカルテルのような行為が業界の当然の慣わしになっているということ、他の業界ならありえないことが普通になっていて誰もそれを恥じようとしないことが怖いなあと思うのです。


内容(宝島社HPより)
自衛隊内の警察組織である警務隊に所属する、女性自衛官・甲斐和美三等陸尉。突然の命令を受けた彼女は、事件の起きた富士駐屯地に急行する。
圧倒的リアリティで読ませる、ミリタリー捜査サスペンス!
自衛隊内の犯罪の捜査および被疑者の逮捕を行なう部署である中央警務隊。隊長・大曽根より、突然の命を受けた甲斐和美三等陸尉は、富士駐屯地に向かい、第百二十八地区警務隊の捜査に協力することになった。それは単なる自殺と思われた事件だったが、内部からの告発により、殺人の可能性があるという……。完全密室である七四式戦車(ナナヨン)の車内で見つかった遺体。自殺したと思われる人間の執務席の内線電話機から、自殺ではなく殺人との内部告発。甲斐和美は富士駐屯地に急行し、自衛隊組織の暗部に迫っていく――。元自衛官&『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞受賞作家が描く、ミリタリー捜査サスペンス!

曹源寺評価★★★★★
このミス大賞でデビューした作家センセーの作品をあまり真剣に追ってはいませんので、神家センセーも初読ですが、本書は装丁がかっこいいので書店でも目立っていました。タイトルもかっこいいですね。
自衛隊を舞台にしたミステリといえば福田和代センセーあたりがお得意でしょうか。あとは今野敏センセーも作品があったように思います。最近では未須本センセーの「推定脅威」などが面白かったです。福井晴敏センセーもデビュー作から「市ヶ谷」について触れていますが、かの作品群はちょっと特殊ですね。
さて、本書の舞台は陸上自衛隊富士駐屯地です。
主人公は警務隊に所属する甲斐和美三等陸尉です。警務隊は自衛隊内部にある警察組織のようなもので、内部で発生した不祥事や犯罪を取り締まる役割を担っています。本作は戦車の中で発見された凍死体が自殺ではなく他殺であるとの告発を受けて警務隊が動き出すという設定。戦車を密室に仕立てたのは珍しいと思いますですが、ほかに事例はあるのでしょうか。この事件の解明のために甲斐が派遣されます。
同時進行で、自衛隊納入向けにソフトウェアの開発を受託する企業を経営する坂本が、元請の芝浦ソフトウェア(東芝っぽいね)から突然の取引停止を告げられる。納得の行かない坂本は自らの出身でもある陸自に単身、乗り込んでいくが、、、
このふたつの事件がクロスして、最後はひとつにシンクロしていきますが、これに坂本自身の過去の記憶として、陸自時代の演習場における事故とか少年工科学校時代のエピソードとかが混ぜ込まれていますので、話があっちこっちに飛んで飛びまくっています。
ただでさえ複数のストーリーがあるところに、「自衛隊とはなんぞや?」と問いかけるような哲学やら薀蓄やらがこれでもかっ!と積み上げられてしまっているものですから大変です。自衛隊の階級制度や昇進昇格のルート、少年工科学校(いまは高等工科学校と言うらしいですね)の実態、戦車の構造、組織の詳細などなど、

こんなにいらない

というくらい細部にわたって描写されるので、しっかり読めばその臨場感にどっぷり浸れること間違いなしでしょう。
しかし、本筋のミステリの方はとんと進まないものですから、ちょっとじれったいです。本筋の味付けであるべきはずの薀蓄が、ちょっと多すぎておなかいっぱいになってしまうのは果たしてどうなんでしょう。ステーキを腹いっぱい食べたいのに、前菜のサラダとポテトがてんこ盛りな状態といえば分かりやすいでしょうか。文字をみっちり詰め込んだ400ページを超える単行本、これは

時間がない人にはお勧めできません。

しっかり読んでこその濃密な軍事ミステリといえるでしょう。





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2017年03月10日

書評788 中山七里「セイレーンの懺悔」

こんにちは、曹源寺です。

森友学園に関するマスゴミ報道が止まらないですね。徹底的にあら捜しして安倍首相を引きずり降ろしたいというマスゴミの願望がよく分かります。安倍がダメならせめて森友だけでもという感じも露骨に見えますね。

煽り耐性のない理事長の狼狽振りはマスゴミの格好の餌食となっています。おそらく多くの人が「理事長は胡散臭いなぁ」と思っているでしょう。自分もそう思います。

ただ、マスゴミがやらかしてしまっている一番の問題点は、学園の教育内容に関する批判であります。これはダメでしょう。たとえば教育勅語の件ですが、戦後の衆参両議院でこれを放棄する宣言がなされたから絶対に復活させてはダメ!という論調の社説が新聞各紙から勢揃いで出されたりしています。

教育勅語肯定 稲田大臣の資質を問う(2017/3/10朝日新聞社説)
稲田防衛相に閣僚としての資質があるのか。重大な疑義を抱かざるを得ない発言である。
稲田氏は8日の参院予算委員会で、戦前の教育勅語について次のように語った。
「日本が道義国家を目指すというその精神は今も取り戻すべきだと考えている」
「教育勅語の精神である道義国家を目指すべきであること、そして親孝行だとか友達を大切にするとか、そういう核の部分は今も大切なものとして維持をしているところだ」
天皇を頂点とする国家をめざし、軍国主義教育の根拠となったのが教育勅語だ。明治天皇直々の言葉として発布され、国民は「臣民」とされた。
親孝行をし、夫婦仲良く。そんな徳目が並ぶが、その核心は「万一危急の大事が起こったならば、大儀に基づいて勇気をふるい一身を捧げて皇室国家の為(ため)につくせ」(戦前の文部省訳)という点にある。
いざという時には天皇に命を捧げよ――。それこそが教育勅語の「核」にほかならない。
稲田氏のいう「道義国家」が何なのかは分からない。ただ、教育勅語を「全体として」(稲田氏)肯定する発言は、国民主権、平和主義、基本的人権の尊重という憲法の理念と相いれない。
教育勅語は終戦後の1948年、衆院で排除の、参院で失効確認の決議がされた。衆院決議は勅語の理念は「明らかに基本的人権を損ない、且(か)つ国際信義に対して疑点を残す」とした。
当時から、「いいことも書いてある」などとする擁護論もあった。これに対し、決議案の趣旨説明に立った議員は「勅語という枠の中にある以上、勅語そのものがもつ根本原理を、我々は認めることができない」と言い切っている。
当時の文相も「教育勅語は明治憲法を思想的背景としており、その基調において新憲法の精神に合致しないのは明らか」と本会議で答弁した。
こうした議論を踏まえることなく、勅語を称揚する姿勢は閣僚にふさわしいとは思えない。
まして稲田氏は自衛隊を指揮監督する立場の防衛相である。軍国主義の肯定につながる発言は国内外に疑念を招く。
安倍政権では、教育勅語を擁護する発言が続く。2014年に当時の下村博文・文科相は、勅語が示す徳目について「至極まっとう。今でも十分通用する」などと語った。
こうした主張は政権全体のものなのか。安倍首相は明確な説明をすべきだ。


アサヒだけでなく、信濃毎日新聞なども動揺の論調ですし、尾木直樹のような教育学者も批判的です。
教育勅語の12の徳目を抜粋しますと
12の徳目
1. 父母ニ孝ニ 
(親に孝養を尽くしましょう)
2. 兄弟ニ友ニ 
(兄弟・姉妹は仲良くしましょう)
3. 夫婦相和シ 
(夫婦は互いに分を守り仲睦まじくしましょう)
4. 朋友相信シ 
(友だちはお互いに信じ合いましょう)
5. 恭倹己レヲ持シ 
(自分の言動を慎みましょう)
6. 博愛衆ニ及ホシ 
(広く全ての人に慈愛の手を差し伸べましょう)
7. 学ヲ修メ業ヲ習ヒ 
(勉学に励み職業を身につけましょう)
8. 以テ智能ヲ啓発シ 
(知識を養い才能を伸ばしましょう)
9. 徳器ヲ成就シ 
(人格の向上に努めましょう)
10. 進テ公益ヲ広メ世務ヲ開キ 
(広く世の人々や社会のためになる仕事に励みましょう)
11. 常ニ国憲ヲ重シ国法ニ遵ヒ 
(法令を守り国の秩序に遵いましょう)
12. 一旦緩急アレハ義勇公ニ奉シ以テ天壌無窮ノ皇運ヲ扶翼スヘシ 
(国に危機が迫ったなら国のため力を尽くし、それにより永遠の皇国を支えましょう)


最後の「永遠の皇国」あたりはちょっとどうかなと思いますが、それ以外は普通に良いですね。むしろ、行き過ぎた個人主義を是正したい人たちからは大いに支持されそうです。
この12の徳目を現代語にして暗誦させる程度なら全く罪はないのではないかと思います。いわゆる「道徳」として必要なくらいではなかろうかと。
周りを見渡せば、特定の宗教によって設立された学校があちこちにあります。仏教もキリスト教も国内の新興宗教もみ〜んな学校を持っています。果たして、彼らの説いている教えの一言一句が教育基本法に則っているか否かを誰か検証でもしたのでしょうか。北の国の学校は一条校ではなく各種学校ですから別にどうでもいいですけど(その代わり補助金など出さなければ良い)、学校法人として設置されているすべての学校の、すべての根本教義を法律と照らし合わせているのかと問いたい。もしそうならば話は別ですが、そうでなければ教育勅語の現代語訳くらいどうってことはないんじゃないかと思います。

マスゴミがさらにやらかしてしまっている部分としては、戦前から戦中のすべての教育が悪とする風潮を醸成している点でしょう。言葉の内容ではなくその成り立ちを問題にしているんですね。これはアウトでしょう。ヒトラーの発言はすべて悪であるとするのは言葉狩りではないのかと(逆に、毛沢東やスターリンの発言をこれっぽっちも悪とはしていないのも逆の意味で怖いですね)。
「誰」のことばなのかによって優劣をつける、これこそ差別にほかなりません。もし学校で、クラスメートのA君がいじめを受けていて、そのA君が何か発言しようものならその内容は一切吟味されずに「Aがまた何か言ってら」と馬鹿にされたりしていたらどうでしょう。これと同じことをマスゴミはやらかしているわけです。

最も性質の悪いのは、教育内容をいっせいに批判することがイコールその教育を受けている子どもたちをも批判していることに、マスゴミ自身が気付いていないことではないかと思います。チミたちに子どもを批判する権利はないよ。

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内容(小学館HPより)
少女を「本当に殺した」のは誰なのか――?
葛飾区で発生した女子高生誘拐事件。不祥事によりBPOから度重なる勧告を受け、番組存続の危機にさらされた帝都テレビ「アフタヌーンJAPAN」の里谷太一と朝倉多香美は、起死回生のスクープを狙って奔走する。警察を尾行した多香美が廃工場で目撃したのは、暴行を受け、無惨にも顔を焼かれた被害者・東良綾香の遺体だった。
クラスメートへの取材から、綾香がいじめを受けていたという証言を得た多香美。主犯格と思われる少女は、6年前の小学生連続レイプ事件の犠牲者だった。
少女を本当に殺したのは、誰なのか――?
"どんでん返しの帝王"が現代社会に突きつける、慟哭のラスト16ページ!!


曹源寺評価★★★★★
中山センセーが今度はマスコミ報道に焦点を当てたミステリを出してこられました。帝都テレビの報道部に所属する朝倉多香美とその先輩社員の里谷太一は、東京・葛飾区で発生した女子高生の誘拐事件を追う。誘拐事件だから報道協定が結ばれていて、周辺取材も限定的にならざるを得ない状況にあるが、帰宅途中の生徒から情報を得て主犯格の可能性のある同級生を探り当てる。スクープを取って不祥事の雪辱を果たしたい報道部は、重要参考人として映像を公開するが、、、
なるほど、これは一気読みですわ。ストーリーはほぼ一貫して朝倉多香美の視点から書かれているので分かりやすいし、事件の構造もそれほど複雑ではないので焦点を絞りやすいですね。テレビは映像を映してなんぼの商売ですから、誤報などしようものならそのインパクトは強烈です。だから本当は慎重に慎重を重ねなければいけないはずなのに、こんな勇み足をしたら本来なら間違いなく停波です(でも停波されたためしがないですね)。
まあ、裏取りもしないで犯人と決め付けるような映像を流すなんぞ、現実のマスコミはここまでおバカではないと思いますが、最近のマスゴミは本当に裏取りしないで記事にしたりするものですから、

さもありなん、と思ってしまいそうです。

本作はミステリと言っても、真犯人は誰なのか?と気張って読んでもいけないのですが、中山センセーらしく最後にちょっとしたどんでんもありますので、作品のほうが読者をぐいぐい引っ張ってくれます。

それにしても、最近の中山センセーの著作は面白い。何が面白いかというと、センセーの世相感というか世の中の理不尽なところや憤慨しているところなどがその作品に反映されているなあというのが良くわかるからです。
「作家刑事毒島」では、書評ブロガーども(この私を含む)を徹底的にこき下ろし、嫌味な編集者も大御所と呼ばれる威張り腐った大先生も露骨にぶった切ってくれました。
本作でもマスコミのマスゴミたる所以を具体的な事例とともにぶち上げて、反省はしても謝罪はしない古臭い権威主義にまみれたハイエナ以下の存在として徹頭徹尾、批判をしています(最後はちょっとだけ持ち上げていますが)。
なによりすごいのは、あの朝日新聞が引き起こした天下の虚報「従軍慰安婦の吉田証言」を引き合いに出して、証言自体が捏造であったにもかかわらず、依然として検証も訂正も謝罪もないと小説の中でぶち上げてしまっていることです(正確に言うと、社長が謝罪していますが記事を書いた本人がまったく開き直っているという始末)。すげえ、

完全に喧嘩売ってんじゃん

今度はぜひ南京事件を引き合いに出していただいて、「騎士団長殺し」のなかで事実認定しちゃった村上春樹と真正面から斬り合ってほしいなあと思います。





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2017年03月07日

書評787 真保裕一「脇坂副署長の長い一日」

こんにちは、曹源寺です。

ネットで話題になっていることとテレビで報道されていることのギャップが最近、富に激しくなってきたと思っているのは自分だけではないと思います。
WBCで韓国がイスラエルに負けたというニュースはテレビでガンガン放映されていますが、その韓国がTHAADを批准したことで中国から経済制裁を加えられていることはあまり報道されていません。
国会の動画も、福山哲郎や蓮舫(R4)の威勢のいい啖呵を流しても、維新の足立議員によるR4を糾弾する動画はニュースで報じられることは一切ありません。

民進党のR4二重国籍問題と山尾しおりのガソリン問題は今話題の森友学園よりも個人的関心度が高いんですが、どこの報道機関も報じてはくれません。森友学園は役人と学園の癒着の可能性はあるものの、政治家が関わったかどうかは不明であります。R4と山尾は政治家本人の問題ですので、真相をはっきりさせておかないといけない問題ではないかと思います。というか、これ、自民党だったら自殺まで追い込まれていてもおかしくない案件ですね。


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内容(集英社HPより)
アイドルが一日署長を務める当日、賀江出署は不測の事態に直面する。謎また謎、次々と連鎖する事件。捜査に奔走する副署長の脇坂が、最後に辿り着く真相とは? 予測不能! 分刻みの傑作ミステリー!


曹源寺評価★★★★
真保裕一センセーが警察小説なんて書いたことありましたっけ?と思って探したのですが、やはり見当たりませんでした。あったのは食品衛生監視員と公取委と気象庁地震研究所と、、、あぁ、これは小役人シリーズやん。あとは外交官くらいか。ということで、ついに真保センセーも警察小説に殴りこみです。
本書はタイトルの通り、副署長の脇坂を主人公とした警察小説です。文字通り、長い一日という分刻みの動きで事件と謎に迫っていきます。
この日の夜明け前から事件は始まり、息子の突然の失踪、地域課警察官の事故と失踪、アイドルタレントの一日署長就任、と朝方までに3つの大きな事案を抱え、ドタバタの一日となることが確定的となります。
これらの事件を調べるうちに、謎が謎を呼びもつれにもつれ、ついには、、、
ばらばらに動いていたものが最後、ひとつに収斂していき、張ってあった伏線もすべて回収するというお話は、以前もどこかで読んだような気がしますが、本書のレベルはかなり高次元です。それを、副署長という立場の人物を中心に据えて書き上げるというのもまた、高度な技だと思うのです。所轄の副署長というのは上に署長を置き、時には神輿として担ぎ上げなければならないという立場である一方、下にはたたき上げの課長や現場一筋の部下がわんさかいる職場で責任だけが重くのしかかる職位です。そこに県警内の派閥争いも加わってくるわけで、文字通りの「長い一日」がノンストップでやってきます。

まるで「24」のような慌しさです。

県警の管理官まで歴任しながら、不祥事の責任を取って所轄の副署長にスライドさせられた脇坂ですが、現場感覚を失わずに推理を働かせ、みずから行動して事件に迫っていくというちょっとかっこいい主人公であります。せっかく警察小説書き上げたのですから、シリーズ化してもらっても全然ウェルカムですね。





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posted by 曹源寺 at 17:34| Comment(0) | TrackBack(0) | さ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月03日

書評786 相場英雄「クランクイン」

こんにちは、曹源寺です。

NYダウ平均株価が今月に入り21,000ドルを突破しました。1か月で1,000ドルの上昇となっていて、ちょっとしたバブル状態ではありますが、バブルを差し引いてもトランプ政権の施策が経済に好影響を与えていることは事実でしょう。反トランプの動きばかり報道しているマスゴミ各社はこのニュースとの整合性を問われていますが、なんだかんだ支持率が高いという現状を報道できない(あるいはしているけどかなりさらっとにとどめている)ため、多くの日本人は米国のトランプ政権に対する本当の姿勢が理解できなくなっているのではないかと危惧します。

安倍政権に対する支持率も60%と依然として高く、森友学園の国有地売却問題も安倍首相との関連がないということが分かっているにもかかわらず報道は過熱するばかりで、今度は昭恵夫人のほうに矛先が向かっている始末です。この異常とも思えるメディアスクラムに視聴者はドン引きです。

実態とかけ離れた心象報道ほどたちの悪いものはありません。嘘も百回言えば本当になる、というのを地でやっているわけです。
個人的には森友学園を支持しませんし、教育の政治利用はNGだと思います。しかし、教育の政治利用の先頭を走っているのは日教組ですから、この問題だけをクローズアップするのは違うと思います。


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内容(双葉社HPより)
とある日。広告代理店に勤める根本に、ベストセラー小説を映画にするよう社命がくだる。映画好きの根本は喜び、映画製作に邁進するがトラブル続出で……果たして映画はできるのか。『震える牛』『ナンバー』の著者が満を持して放つエンタメ小説の快作! 


曹源寺評価★★★★
「震える牛」以降、快調にヒットを飛ばしてくる相場センセーですが、本作はこれまでの路線とはずいぶん違ってコメディ感満載の企業小説でありました。
京楽エージェンシーという準大手・中堅の広告代理店に勤務する根本崇は映画好きを見込まれて、社長直々の特命として映画制作の任務を持ちかけられます。最近の映画は「製作者委員会方式」というスタイルで制作するのが基本路線です。製作者委員会って良くわかりませんが、配給会社のみならず、広告代理店、出版社、制作会社、テレビ局などのほか、スポンサー各社からも人と金が入り込んでみんなで作りましょうと。その代わり、売れたらその収益はみんなで山分けしようと。つまりはそういうことですね。
また、映画制作とひとくちに言っても、原作者の口説き落としから始まって、脚本作り、監督選び、予算取りとスポンサー集め、キャスティング、ロケ地の選定や調整、などなど、ゼロからのものづくりとなればそりゃもう大変な労力が要るんですね。このへんの描写が妙に細かくて臨場感あります。
こうした制作の裏話的なストーリーとは別に、主人公の根本が幼い頃に死んだとされる母について、映画業界関係者から思いも寄らぬ情報が入ってきます。このへんがちょっとしたミステリになっていて、単調になりがちなストーリーに一本の軸を入れ込んでいるのが良いですね。おそらく、

この味付けがなかったら、ものすごく単純なドタバタ劇

で終わってしまいそうな内容です。
いや、味付けではなくてこちらが本筋なのかもしれません。根本の母は一体何者であったのか。最後のほうまで引っ張る引っ張る。
そしてラストですが、この母の正体だけでなく、本書にはちょっとした仕掛けが施されています。それは読んでのお楽しみということで。
本書を読むと映画作りってなんだか楽しそうだなあ、という思いが湧いてくるのと、昔の映画作品の描写(オープニングが高倉健の「新幹線大爆破」です)が観たことあるひとにはグッとくるものがありそうなところが相まって、未鑑賞の定番作品をもう少し押さえておかなければとの思いを新たにしました。





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posted by 曹源寺 at 17:43| Comment(0) | TrackBack(0) | あ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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