ミステリ読みまくり日記 〜書評(ネタバレあり)

通勤時間に読む、日本のミステリとその他小説をとりあえず書き留める
 

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2017年05月30日

書評806 日本推理作家協会編「警察アンソロジー 所轄」

こんにちは曹源寺です。

28日に米インディアナポリスで行われたF1レース(通称「インディ500」)において、佐藤琢磨選手が日本人として初めて優勝しました。
これがどれだけすごい快挙なのか、というコピペを探しているのですがなかなか見つからないので自作してみます。
テニスならウインブルドンで優勝するレベル
ゴルフならマスターズか全英で優勝するレベル
ボクシングなら重量級でKO勝ちでタイトル取るレベル
野球ならメジャーで最優秀選手に選ばれるレベル
陸上なら男子100mで金メダル取るレベル
自転車ならツール・ド・フランスで優勝するレベル

歴史的快挙であることがよく分かると思います。そういえば、先日は女子卓球で平野美宇選手がアジア選手権で優勝しましたね。卓球の場合、アジアナンバーワン=世界ナンバーワンでもありましょうから、事実上の世界一です。
世界を驚かす偉業を、死ぬまでにあと2つか3つくらい観ておきたいものですね。ゴルフの松山選手やテニスの錦織選手あたりに期待しましょう。


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内容(角川春樹事務所HPより)
東池袋署管内で発見された女性の白骨死体。娘が逮捕されたが……(「黄昏」)。警視庁から沖縄県警に移動した与座哲郎は、県人との対応に戸惑いもあり……(「ストレンジャー」)。佐方貞人検事は、米崎西署で逮捕した覚醒剤所持事件に疑問を持ち始め――(「恨みを刻む」)。西成署管内で、ネットに投稿されたビデオクリップのDJが病院に担ぎ込まれ……(「オレキバ」)。臨海署管内で強盗致傷事件が発生。昔の事件とリンクして――(「みぎわ」)。沖縄、大坂、東京など各所轄を舞台にした傑作警察小説アンソロジー。


曹源寺評価★★★★
警察小説の短編集として文庫化された作品がありましたので読んでみました。暇つぶしにちょうど良いボリュームであります。
黄昏・・・薬丸岳
ストレンジャー・・・渡辺裕之
恨みを刻む・・・柚月裕子
オレキバ・・・呉勝浩
みぎわ・・・今野敏
とまあ、錚々たるメンバーであります。このうち、ストレンジャーとオレキバ以外の作品はシリーズとしてキャラクター化されている主人公が登場します。薬丸センセーは「刑事のまなざし」などで登場した夏目信人刑事を、柚月センセーは「検事の本懐」などで登場した佐方貞人検事を登場させます。
今野センセーはおなじみ「安積班」シリーズのメンバーが登場、しかも安積の若い頃のエピソードも出てきますので、ファンにはたまらない作品でありましょう。
渡辺センセーは「オッドアイ」シリーズなどが有名ですが、短編は始めて読みました。沖縄県警シリーズと銘打って出していただきたいレベルです(でも高嶋哲夫センセーがいま沖縄県警シリーズやってんだよなぁ)。
呉センセーは長編より短編のほうが読みやすいかもしれないと、以前に書いた記憶があります。何でも詰め込もうとすると収拾つかなくなってしまうので、軸がぶれずにテンポ良く読ませるように仕上げればこのセンセーは良い作品に仕上げてくれるのだなあと改めて思いました。
本書のように、キャラクターの立っている警察小説の短編集というのは絶好の暇つぶしでありましょう。

軽く読めて、読後爽やか

というのが一番いいですね。





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2017年05月26日

書評805 黒川博行「喧嘩(すてごろ)」

こんにちは、曹源寺です。

明治がお菓子のロングセラー商品「カール」を中部以東で販売終了すると発表しました。明治はついこの前もロングセラー商品「カルミン」を製造中止していますので、これからも製造をやめる商品が出てきそうですね。
さっそく、メルカリやヤフオク!では転売ヤーが湧いてきていまして、そこに需要があるとみなされれば個人で売り買いに走る輩がたくさん出現していることが良く分かります。

ネット社会になって久しいですが、この転売ヤーに限らず、ブログのアフィリエイトで稼ぐ人やYouTubeで動画配信して稼ぐ人、キュレーションサイトに記事を書き連ねている人やツイッターに自分で描いたマンガを貼り付けている人などなど、インターネットでは個人で稼ぐ仕組みがだいぶ確立されてきたように思います。
それゆえに、リアル社会とネット社会の間にある種の隔たりができつつあるのではないかとも思います。たとえば、転売ヤーの個人取引においては課税がなされることはなく、この売り上げもGDPに加算されることもないわけで、一昔前ならこれは「アングラ経済」と呼ばれてもおかしくはない経済活動なわけです。個人消費の停滞とかデフレ再びとか言われつつありますが、このアングラ部分はもう無視できない存在になっているのではないかと危惧するわけです。
そろそろ財務省や国税庁あたりは課税方法を編み出してきそうな気がしますが、それはさておき、モノの売買が実体経済に隠れているのとは対照的に、情報の世界ではネットとリアルがごっちゃごちゃになってきた印象があります。

たとえば、加計学園の問題(何が問題なのかよく共有されていないのも問題ですが)に関する報道では、客観的な報道が
文科省から文書がリーク→元事務次官が本物と認める→野党が証人喚問を要求
という流れですが、その本質(というか書きたい本音)は
総理あるいは官邸が特区認定に恣意的な働きかけをしたのではないかという疑惑がこれで深まった
というものです。
しかし、一方ではこういう報道もあります。
文科省事務次官が組織的な天下りに関与していた→辞めさせられる→意趣返しとばかりに文書をリーク→でも文書の出所を明言しない→国家公務員の守秘義務違反じゃね?
また、
事務次官は出会い系バーに入り浸っていた→こんな信頼の置けない奴のリークなどフェイクかもしれないね
という主観的報道もあったります。

これまではだいたい、報道が客観的であるのに対してネットでの意見表明や書き込みが主観的あるいは感情的であることが多かったのですが、最近は報道のほうが感情的だったりするように思うわけです。
それに記事の内容もある種の「為にする」記事であることのほうが目につきます。この「為にする」報道に対してネットの書き込みのほうが客観的だったりすることがけっこうあったりしまして、すごく冷静に考えれば今回の件も、報道のほうが過熱気味でネットのほうが冷静にツッコミを入れているような、そんな気がします。

これをどう捉えたら良いのか、そろそろ社会学の先生あたりから論文が出てきそうな感じですが、個人的にはこれまでネットを見下してきたマスコミが、いつの間にかネットから見下されるようになっていた、という論調で2、3本書けそうな気がします。

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内容(KADOKAWA HPより)
売られた喧嘩は買う。わしの流儀や――。
直木賞受賞作『破門』、待望の続編。
建設コンサルタントの二宮は、議員秘書からヤクザ絡みの依頼を請け負った。
大阪府議会議員補欠選挙での票集めをめぐって麒林会と揉め、事務所に火炎瓶が投げ込まれたという。
麒林会の背後に百人あまりの構成員を抱える組の存在が発覚し、仕事を持ち込む相手を見つけられない二宮はやむを得ず、組を破門されている桑原に協力を頼むことに。
選挙戦の暗部に金の匂いを嗅ぎつけた桑原は大立ち回りを演じるが、組の後ろ盾を失った代償は大きく──。


曹源寺評価★★★★★
「疫病神」シリーズの最新刊です。前作の「破門」は2014年上半期の直木賞を受賞しました。建設コンサルタントの二宮と本職の893である桑原のコンビが巻き起こす騒動をコミカルに、かつ大胆に描いたこのシリーズは黒川センセーの出世作でもあります。
桑原は前作の最後にタイトルの通り二蝶会を「破門」になりましたので、正確にはカタギということになりますが、逆にカタギのくせに本職に喧嘩を売るというとんでもない立ち回りを続けていきますので、本書のほうが前作よりもエキセントリックです。
いつ後ろから刺されてもおかしくない状況で、悪辣な政治家秘書を脅し、議員事務所にカチコミを入れ、拉致し、殺しの現場をあつらえて(芝居ですが)相手をとことん追及する、というとんでもないカタギが桑原という男です。

「人間、首まで土に埋めたらなんでもいうことを聞く」

という桑原のセリフ、これを書ける人はもう黒川センセーしかいないのではないかと思いました。
関西ヤクザの真髄を見るかのようなこの立ち回り、痺れるほど面白いのですが、二宮との掛け合いをはさんでいるのでシリアスさがスポイルされてとってもコミカルになっているところが本書の良い所でもあろうかと思います。
それにしても、暴対法以降の厳しい環境下において、彼らの行動は大きく制限されています。金に困っている団体も多いと聞きます。そんななかで彼らの資金源となっているのは何かというと、社会福祉法人らしいです。どんなシノギなのか知りたいので、ぜひ今度はこの辺の業界をテーマにして黒川センセーに書き上げていただきたいと思います。





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2017年05月23日

書評804 佐藤究「QJKJQ」

こんにちは、曹源寺です。

ここ20年くらいで大きく変化した世の中の風潮のなかに、嫌煙権があります。どこでもタバコが吸えた時代はとうの昔に終わっており、受動喫煙対策も本格化しつつありますので愛煙家にとっては窮屈極まりない時代になりました。
自分も新入社員の時代にはオフィスのデスクで吸えたものでしたが、いまは全館禁煙です。オフィス街ではタバコが吸える建物のほうが少なくなっているかもしれませんね。

さて、自民党内における受動喫煙対策の会合で大西英男衆議院議員が「(がん患者は)働かなければいいんだよ」と発言したことが騒動に発展しました。自民党議員の舌禍事件として取り沙汰されています。
大西議員は陳謝したものの「働かなくていいのではないかというのは、ごくごく少数の喫煙可能の店でのことについてだ。がん患者が働かなくてもいいという趣旨ではない」として発言は撤回しない考えです。

これ、舌禍事件ですかね?
発言の趣旨は「喫煙可能な店で肺がん患者が働く必要はない」であって、「小麦アレルギーの人がパン屋で働く必要はない」と言っているのと同じだと思うのですが。
「お酒を飲めない人がバーテンダーをやる必要はない」
「ヘルニア持ちの人が引っ越しの仕事をする必要はない」
「花粉症の人が林業をやる必要はない」
「泳げない人がライフセーバーの仕事をする必要はない」
これらは仕事をすることによってその人の体調を壊し、あるいは症状を悪化させ、場合によっては他人にも迷惑をかけることになる事例です。職業選択の自由とか言う以前に、やったらダメでしょうという話です。
大西議員は言葉足らずだったとは思います(ヤジとしても品がないです)が、これをもって議員辞職せよとか撤回するまで許さないとかいうのは言葉狩りでしかないのではと思います。

受動喫煙対策も、小規模事業者にとっては客が減る可能性が指摘されていますので、自民党としてもどこかで抜け道がないと支持層からそっぽを向かれそうですね。個人的には、タバコを吸えるお店の名称に必ず「シガーバー」とつけなければいけないとか、そういうルールでも定めてはどうかと思います。「シガーバー和民赤坂店」とか「シガーバー塚田農場渋谷店」とか「シガーバーすしざんまい築地店」とか。
嫌煙家は絶対に来なくなると思います。


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内容(講談社HPより)
市野亜李亜(いちのありあ)は十七歳の女子高生。猟奇殺人鬼の一家で育ち、彼女自身もスタッグナイフで人を刺し殺す。猟奇殺人の秘密を共有しながら一家はひっそりと暮らしていたが、ある日、亜李亜は部屋で惨殺された兄を発見する。その直後、母の姿も消える。亜李亜は残った父に疑いの目を向けるが、一家には更なる秘密があった。
「平成のドグラ・マグラ」
「ものすごい衝撃を受けた」
選考委員たちにそう言わしめた、第62回江戸川乱歩賞受賞作。


曹源寺評価★★★★
2016年の江戸川乱歩賞受賞作品です。
90年以降の乱歩賞受賞作品はすべて読了してきましたが、その歴代の受賞作のなかでも本書はある意味衝撃的でありました。
父、母、兄、そして自分の一家4人がすべて猟奇殺人鬼という設定。
ここからしてもう異端です。
地上3階地下1階の我が家には処刑部屋があり、各々殺したいときにその部屋に連れ込んで惨殺する。なんともおどろおどろしい設定です。あぁ、なんだかとっても乱歩的ですね。
こういう奇抜な設定で思い出すのは2000年の受賞作「脳男」でしょうか。ロボットも顔負けのmm単位で精密な動きを行うことができる主人公の「脳男」。ある評者は「この設定だけでもう勝ちだ」と絶賛していたのを思い出しました。
そんな一家にある日、兄が部屋で惨殺され、母も失踪するという事件が起こります。そこからはストーリーが二転三転し、この一家の秘密が明らかになっていきます。
リアリティには欠けますが、それは初期設定のせいだけではありません。真実が明らかになったと思ったら新たな真実が浮かび上がる。普通ならひっくり返さないところをひっくり返す。登場人物の言動や行動にも仕掛けがあったりして、最後まで気の抜けない展開でありました。

幻想と現実の境界線で揺れ動く主人公。

読者もまたその揺れ動く姿に幻惑されます。

この手の作風が好きな方にはたまらない作品になっているのではないかと思います。
佐藤センセーは1977年生まれ。「佐藤憲胤」の名でデビューしていましたが、乱歩賞受賞で改めて佐藤究(きわむ)としてデビューという経歴です。
本書はあの新潮社の中瀬ゆかり氏が「久しぶりに天才現る」と大絶賛しただけでなく、乱歩賞審査委員会の面々のうち有栖川有栖センセーが「平成のドグラ・マグラ」と評したほか、今野敏、池井戸潤、辻村深月の各センセーが褒めていました。
なるほど、こういう世界観でほかの作品も読んでみたいと思わせるような新人の登場かもしれません。次回作にも期待してみたいと思います。





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2017年05月19日

書評803 石持浅海「殺し屋、やってます」

こんにちは、曹源寺です。

森友学園に続き、今度は加計学園の疑惑ということで盛り上がっています(別の意味で)が、学校法人というのはある意味一般人にはうかがい知ることのできない闇が広がっていそうで怖いですね。
特に大学誘致や学部誘致に関しては公明正大な手続きなのか、それとも「利権」としてうごめく何かがあるのか、非常に分かりにくい世界のように思えます。
獣医学部が50年もの間、新設されてこなかったという経緯もまた、怖いものを感じてしまうわけですが、では獣医師というのはどんな「業界」なのか、調べてみました。

農林水産省の資料によると、平成26年(2014年)現在の獣医師の届出件数は39,098人だそうです。少なっ!
どの位少ないかというと、弁護士の人数が36,415人(2015年)ですから、だいたい近い数字ですね。文系最難関の国家資格と同等の人数しか活躍していないマーケットということになりますので、獣医師の皆さんはエリートと呼んで差し障りないと思います。

日本獣医師会という団体がありまして、そこが発表している獣医師の需給に関する資料では、毎年1,000人程度の獣医師が誕生して、同じくらいの人数が引退・廃業しているらしいので、現状ではおおむね需給が安定しているという状況だそうです。
しかし、2040年の将来推計では最大で3,500人が不足するといったデータも公表しています。つまり、今は安定しているけれども近い将来は獣医師が不足する可能性があるよ、と言っているわけです。もちろん、逆に1,000人程度が余る可能性もあると指摘しています。

これは、犬や猫などのペットに対する診療回数が増加する、あるいは政府の政策目標に対して家畜に対応できる産業獣医師の需要が増加する、といったことが要因として挙げられていますが、日本獣医師会はこの需要予測に対して否定的なコメントを付け加えています。
つまり、「犬や猫がそんなに増えるわけねえだろ、産業獣医師が必要になる傾向は分からなくもないけど」というニュアンスです。

つまり、獣医師会全体では獣医学部の増設には慎重な姿勢であるという感じです。医師の世界と同様、地域的な偏在も伺えますし、医師免許を取得したにもかかわらず獣医師として活躍していない人も3,500人程度いるみたいですので、こうした問題の解決も迫られているようですね。

たとえば、医学部でも地域偏在という問題がありますが、この問題解決のために国は自治医科大や産業医科大を設置し、学費を無料にする代わりに卒業後は地方医療機関への従事を義務付けているような施策があります。
獣医学部を設置している大学はわずかに16校しかなく、四国だけでなく甲信越や北陸にもありませんし、中部には岐阜大学、近畿には大阪府立大学にしかありません。

こうした獣医師の「業界」をちょっと覗いただけでも、いまの加計学園問題の騒動がいかに本質とずれているのかがよく分かります。免許制の業界はそれなりの待遇を得られる反面、国家への貢献が求められる仕事ではないかと思いますので、現状の問題、課題の解決を優先させてほしいですし、そのための議論を国会で行っていただきたいと思います。


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内容(文藝春秋HPより)
安心・安全のシステムで、殺し屋、やってます。
コンサルティング会社を営む男、富澤允。
彼には裏の仕事があった。
650万円の料金で人殺しを請け負う「殺し屋」だ。
依頼を受けたら引き受けられるかどうかを3日で判断。
引き受けた場合、原則2週間以内に実行する。
ビジネスライクに「仕事」をこなす富澤だが、標的が奇妙な行動が、どうにも気になる。
なぜこの女性は、深夜に公園で水筒の中身を捨てるのか?
独身のはずの男性は、なぜ紙おむつを買って帰るのか?
任務遂行に支障はないが、その謎を放ってはおけない。
殺し屋が解く日常の謎シリーズ、開幕です。


曹源寺評価★★★★
安定の短編ミステリ作家、石持センセーの新刊(でもないですね)は殺し屋が主人公の連作短編でした。
普通に大学を出て普通に仕事をしているけれども、なぜか殺し屋を副業にしている主人公の富澤、連絡係の塚原と伊勢殿を挟み、依頼者とは直接コンタクトをしないことで身の安全と感情移入による失敗を防いでいる。一回の殺人の報酬は650万円で、前金300万円を受け取り実行後に残金を受け取る仕組みだ。なぜ650万円なのかは本書を読んでいただきたい。納得するようなしないような。
そう、石持センセーの作品はだいたいが

読んで納得できそうでできない

という展開が多いのですが、それはだいたいにおいて「殺害の動機がおかしい」というものでありました。今回は違います。なにせ殺し屋に動機は要りませんから。
本格ミステリにおいて、よく殺害の動機よりもそのテクニックに重きを置かれている作品を目にしますが、自分はもっと人間的な、というかドラマ的な、そこにストーリーを見出さないとあまり納得できない性質なものですから、トリック重視のミステリはあまり読みません。
石持センセーもよくトリック重視の作品を出されるのですが、まだ納得できるのは「状況的にこの推理意外ありえない」というところまで理屈で攻めてくる点にあると言えるのではないかと思います。
本書もまた、理屈で攻めてくる推理を分かりやすく展開されているので、「あぁ、そういうことね」と納得させられてしまうのであります。
>>なぜこの女性は、深夜に公園で水筒の中身を捨てるのか?
>>独身のはずの男性は、なぜ紙おむつを買って帰るのか?
紹介文にあるこの謎は、なるほど読めば納得できますが、よくよく考えてみればあくまでも状況証拠でしかない話だったりするので、後になって「もしかしたらセンセーに騙されているのではないか」と疑ったりもします。
ですから、本書の場合(というか石持作品全般そうですが)あまり深く考えずに読むのが正しい読み方ではないかと思います。





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2017年05月16日

書評802 呉勝浩「白い衝動」

こんにちは、曹源寺です。

本日の書評で紹介する「白い衝動」では、人を殺したくてしょうがないという衝動を抱えた少年が登場します。人と違った反応を示すことで社会生活が困難になってしまうことを「パーソナリティ障害」と呼びますが、単にその人が生活しにくいというだけならまだしも、他人に危害を与えかねないほどの衝動を持ってしまうと、その処方箋は「隔離」か「洗脳」といった手段しか残されていないのではないかと考え込んでしまいました。
パーソナリティ障害には「妄想」や「脅迫」といったものだけでなく、統合失調型のものもあれば反社会性といったものもあるようですね。反社会性の障害には「平気で嘘をつく」「法律を守らないことに躊躇しない」「罪の意識がない」といった特徴があるようです。
パーソナリティ障害について調べてみると、どうやら人口の2%程度いるといった推計があるようですが、反社会性パーソナリティ障害だけに限ったらどのくらいの数になるのでしょうか。1%もいたらやばそうですね。
でも、知能や学習能力とはあまり関係ないという説もありますので、「隠れ反社会性パーソナリティ障害」みたいな人もいたりするのかもしれません。
もしかしたら、「平和のためなら断固として戦う!」とか「私は差別と黒人が嫌いです」とか一行で矛盾したことを言っている人たちはこうした障害をお持ちなのかと思ってしまいました。ほかにも職業的にこの障害をこじらせている人たちがいるような気もします。どんな職業かは書きませんが、もしかしたらこうした障害をこじらせやすい職業もあったりするのかもしれません。

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内容(講談社HPより)
小中高一貫校でスクールカウンセラーとして働く奥貫千早のもとに現れた高校1年の生徒・野津秋成は、ごく普通の悩みを打ち明けるように、こう語りだす。
「ぼくは人を殺してみたい。できるなら、殺すべき人間を殺したい」
千早の住む町に、連続一家監禁事件を起こした入壱要が暮らしていることがわかる。入壱は、複数の女子高生を強姦のうえ執拗に暴行。それでも死に至らなかったことで、懲役15年の刑となり刑期を終えていた。
「悪はある。悪としか呼びようのないものが」
殺人衝動を抱える少年、犯罪加害者、職場の仲間、地域住民、家族……そして、夫婦。
はたして人間は、どこまで「他人」を受け入れられるのか。
社会が抱える悪を問う、祈りに溢れた渾身の書き下ろし長編。


曹源寺評価★★★★
2015年の乱歩賞受賞作家、呉センセーもまた受賞後に積極的な執筆活動をされているお一人です。ただ、その内容は一貫しているわけではなく、前向きに言えば、さまざまなジャンルに挑戦しているように思えます(逆に、薬丸岳センセーなどはテーマが首尾一貫していますが、たまに違うテーマで書き下ろしたりされるとオカシイとか言われてしまって可哀相ではあります)。
本書は殺人衝動を抑えて苦しんでいる高校生、野津秋成と向き合うスクールカウンセラーの奥貫千早を主人公に、ちょっとだけミステリを加えた社会派作品に仕上げています。
テーマは奥深く、
「社会に受け入れられない衝動を持つ人物は、社会とどう向き合っていくべきなのか」
あるいは
「社会に受け入れられない衝動を持つ人物と、近隣住民はどう向き合うべきなのか」
そして
「普通と異常の境界線はどこにあるのか」
みたいな深く考えさせられる問いかけも含んでいます。
そんな作品ではありますが、自分は多少なりとも心理学をかじってきていますので内容についていけるものの、心理学を知らない人はちょっと専門的な部分に突っ込んでいるので分かりにくいところもありそうです。
本書には二人の異端な人物が登場します。一人が上述の野津秋成で、もう一人は連続一家監禁事件を引き起こして15年の刑期を終えて出所した入壱要です。入壱は殺人こそ犯していないものの、その犯した所業はちょっとムナクソ悪いのです。しかし、刑期を終えた人間は一般社会に戻る権利があるのも事実です。この人物像があの神戸連続殺人事件の少年Aとかぶるので、出所したとはいえ被害者の心情的には娑婆に出てきやがってこの野郎!と思ってもしょうがない部分がありましょう。そんなヤツが近所に引っ越してきたら、やはり反対運動が起こるのも分かる気がします。
そんな騒動が本書のなかでも巻き起こりますガ、騒動の渦中で野津と向き合う千早は彼をどのように導くべきなのか、苦悩を重ねます。そして騒動は新たな局面を迎えます。
導入部からはとっても猟奇的な展開を期待してしまいますが、実際には

哲学的な内容を多分に含んでいます

ので、乱歩的な何かを期待している人にはあまりお勧めできません。しかし、犯罪者と犯罪予備軍、そして一般の市井の人々の間にある、超えてはいけない一線がどこにあるのか、さらに、普通でない人たち(これをマイノリティを呼ぶべきなのかは分かりませんが)と社会のあり方などについてはいろいろと考えさせられる作品であることは間違いないと思います。





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2017年05月12日

書評801 太田愛「天上の葦(上)(下)」

こんにちは、曹源寺です。

本日の書評で紹介する作品「天上の葦」では、太平洋戦争の東京大空襲が回想シーンで出てきます。
民間人への無差別爆撃というのは戦争法で禁じられているにもかかわらず、戦後の東京裁判でも採り上げられることなく現在に至っています。わずか数時間で東京都民10万人が爆死あるいは焼死という、とんでもない殺戮でありましたが、かの戦争における悲惨なシーンでは「沖縄地上戦」「広島・長崎への原爆投下」「バターン死の行進」「アッツ島玉砕」「ガダルカナルの戦い」「サイパン陥落」「カミカゼ特攻隊」といった多くの戦争の悲惨さを綴るキーワードとともに埋もれてしまっているような気がするのは自分だけでしょうか。本書の回想シーンは結構生々しい描写ですので注意が必要ですが、東京大空襲の悲惨さは(米国の狡さだけではなく、B29からビラを撒いて事前警告している事実、大本営が疎開を大々的に行わなかった事実、新聞もそれを黙殺した事実、などなどすべてひっくるめて)語り継がれて然るべしだと思います。

自分の母親は1934年(昭和9年)生まれの新宿区民だったのですが、終戦間際には山梨の甲府だか勝沼だかの方へ疎開しました。終戦後に帰ってきたら案の定焼け野原で、そこには見知らぬ輩が勝手に土地を占領していたそうです。母の父(つまり祖父)はお人よしだったので、その土地を諦め、神奈川県南部に移り住んだと聞きました。あーもったいねー。

小説のネタとして「かの戦争」が採り上げられることは往々にしてありますが、さすがに2017年にもなると当時の生き証人を出すには御年90歳を超えるご老体を登場させねばならず、だいぶ苦しい展開を余儀なくされてきていますね。90歳代の方々が数多く登場する小説というのもどうなのかと思いますし、そろそろ限界な気がしなくもないです。

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内容(KADOKAWA HPより)
(上巻)
生放送に映った不審死と公安警察官失踪の真相とは?感動のサスペンス巨編!
白昼、老人が渋谷のスクランブル交差点で何もない空を指さして絶命した。正光秀雄96歳。死の間際、正光はあの空に何を見ていたのか。それを突き止めれば一千万円の報酬を支払う。興信所を営む鑓水と修司のもとに不可解な依頼が舞い込む。そして老人が死んだ同じ日、ひとりの公安警察官が忽然と姿を消した。その捜索を極秘裏に命じられる停職中の刑事・相馬。廃屋に残された夥しい血痕、老人のポケットから見つかった大手テレビ局社長の名刺、遠い過去から届いた一枚の葉書、そして闇の中の孔雀……。二つの事件がひとつに結ばれた先には、社会を一変させる犯罪が仕組まれていた!? 鑓水、修司、相馬の三人が最大の謎に挑む。感動のクライムサスペンス巨編!
(下巻)
日常を静かに破壊する犯罪。 気づいたのは たった二人だけだった。
失踪した公安警察官を追って、鑓水、修司、相馬の三人が辿り着いたのは瀬戸内海の離島だった。山頂に高射砲台跡の残る因習の島。そこでは、渋谷で老人が絶命した瞬間から、誰もが思いもよらないかたちで大きな歯車が回り始めていた。誰が敵で誰が味方なのか。あの日、この島で何が起こったのか。穏やかな島の営みの裏に隠された巧妙なトリックを暴いた時、あまりに痛ましい真実の扉が開かれる。
―君は君で、僕は僕で、最善を尽くさなければならない。
すべての思いを引き受け、鑓水たちは力を尽くして巨大な敵に立ち向かう。「犯罪者」「幻夏」(日本推理作家協会賞候補作)に続く待望の1800枚巨編!


曹源寺評価★★★★
テレビドラマの脚本家から小説デビューして三作目となった太田愛センセーの本作でありますが、今回もまた上下巻1,800枚の書き下ろしということで濃密な作品に仕上がっておりました。
デビュー作の「犯罪者 クリミナル」から登場人物が変わっていないというのもすごいことです。いつものように鑓水、修司の探偵コンビに加えて、現役警察官の相馬、カメラマンの鳥山といった面々が事件に遭遇し、これを解決していきます。
秩父の介護施設にいた老人・正光がなぜ天を指して渋谷のスクランブル交差点で倒れたのか。なぜ、正光の死の直前の行動を探る人がいるのか。このあたりの謎はとても映像的で、太田センセーらしい仕掛けが満載です。同時進行で警察官が行方不明になっているという事件を絡めてきますが、これがどうやってつながっていくのか、という展開にもワクワクです。
事件の鍵を瀬戸内海の離島に求め、濃密な人間関係を背景としたコンゲーム的な場面もありますが、こうした演出もなんとなくテレビっぽい気がします。
テレビや新聞といった媒体の特性を熟知している太田センセーは、さらにネットとのBUZZ効果も狙って主人公に騒動を引き起こそうとしているのですが、このあたりの描写はもろに

リアルすぎて生々しいので

現実の世界とリンクして考えてしまいそうです。
ちょうど、テレビドラマではフジ系列の「CRISIS(クライシス)」があの金城和紀センセー作品として放映されており、5月9日の放送ではヤクザ同士の抗争にみせかけて組を潰した政治家が、公安のリークによって児ポ法で逮捕されるという筋書きの回でありました。さらに、今週発売の週刊新潮にはジャーナリストの山口敬之氏が準強姦容疑をもみ消したといった記事が出たりしまして、なんだかとても陰謀の匂いがあちこちに漂っておりました。
本書もまた(ネタバレですが)、


公安の筋書きによる壮大な陰謀を描いたものでありましたので、なんとまあ世の中には陰謀が溢れかえっているのかとあきれてしまいます。

ストーリーに話を戻しますと、中盤の離島のシーンはもっとスペクタクルな展開をイメージしていたので、ちょっと冗長な感じがなくもないですが、それ以外は軽やかなテンポでぐいぐいと読ませてくれました。
評価はもしかしたら多少分かれるかもしれませんが、個人的には満足です。





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2017年05月09日

書評800 柚月裕子「慈雨」

こんにちは、曹源寺です。

GW中はすっかり更新をさぼってしまいました。ほとんど家にいたのですが、プチリフォームみたいなことばかりしていて、毎日ヘロヘロになっていました。
5月最初の投稿は祈念すべき800回目の更新ということになります。888888888888

えー、このところ森友学園問題やら北朝鮮問題やら、世間をにぎわせてきた話題は着地点が見当たらないまま浮遊しているようなものが多くて、マスゴミさんはさぞ悩んでいらっしゃると思いますが、そんななかで今度は安倍首相が(というか政府が)改憲を期限付きで実行すると明言し始めました。
ただ、その手法は「憲法第9条の1項と2項を維持して、新たに自衛隊を合憲とするべく3項を追加する」といった手法だったり、あるいは「高等教育無償化を明記する」といった野党も反対しないだろうという改憲案だったりするわけです。
ちょっと姑息な気がしないでもないですが、まずは改憲の実績を作ろうとする試みはダメとは言いにくいですね。なにせ、70年間も放置されてきたわけですから。
衆参両議院でいずれも改憲に必要な3分の2以上の議席を確保している現在、「改憲するか否か」の議論ではなくて、「どこをどうやって改憲するか」の議論になるのは当然といえば当然です。この背景を無視して「議論が深まっていない」とかいろいろ抜かして改憲そのものを阻止しようとする勢力が妨害工作を仕掛けようとするのは目に見えていますが、少なくとも「議論を深めよう」とする動きだけは止めないでいただきたいものです。
マスゴミにお願いしておきたいことは、議論を深めるということは一方的な意見のみを紹介するのではなく、両論をきちんと併記して、その判断は読者あるいは視聴者にゆだねて欲しいということです。
まあ、新聞社は自分たちの意見を載せるのは良いですが、テレビはダメでしょう。電波は国民の財産であるということを忘れずに。

個人的には、自衛隊の存在が違憲であるとする判断も憲法学者らに根強くあるという現状において、せめて自衛隊の存在を認め、自衛権を明記する、ということくらいはやってほしいと思っています(だから3項の追加などという手段はちょっとどうかと思うのです)。


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内容(集英社HPより)
16年前の幼女殺害と酷似した事件が発生。かつて刑事として捜査にあたった神場は、退職した身で現在の事件を追い始める。消せない罪悪感を抱えながら──。元警察官の魂の彷徨を描く傑作ミステリー。


曹源寺評価★★★★★
孤狼の血」で「第69回日本推理作家協会賞」「本の雑誌が選ぶ2015年度ベスト10」第2位、「2016年度このミステリーがすごい!」第3位にランクインした柚月センセーですが、自分もこの作品で一気にファンになってしまいました。「孤狼の血」は映画化もされるそうですね。
こういう時流に乗ってしまった作家というのは、だいたい次もはずさないものですね。本書はやはりミステリ色満載の作品ですが、異色なのは定年退職した元警察官が四国八十八箇所の巡礼を行いながら、現在進行中の犯罪を通して自分を見つめなおしつつも事件を解決に導いていくという、なんとも珍しい設定となっているところでしょうか。
事件は主人公の地元・群馬で発生していますが、主人公の神場はお遍路真っ最中であります。そして、お遍路の最中に出会った人たちや、妻との会話を通して過去の事件、過去の自分と向き合います。そこには駐在所に半ば島流し的に送り込まれても耐え忍び、県警の捜査一課に抜擢されて定年を迎えた神場の姿が見えます。その一方で、16年前の女児誘拐事件ではまだ信憑性の薄いDNA鑑定に頼りすぎて誤認逮捕=冤罪を生み出してしまったのではないかという疑念を抱えながら生きてきた葛藤も浮かび上がってきます。
そして現在、16年前と同じような女児誘拐殺人事件が発生してしまい、過去の苦悩と戦いながら巡礼を続ける神場、そして神場の娘と交際している優秀な元部下の緒方刑事。神場に事件解決を託された緒方もまた、自分の父親になろうとする男の犯した過去を糾弾せざる得ない立場に苦悩します。
事件をひとつの大きな柱とするならば、こうしたサイドストーリーは単なる味付けに過ぎない場合が多いのですが、本書はこれらこそが重厚なテーマを持った問いかけであり、単なる味付けに終わらない骨太なヒューマンドラマとして描かれています。
食べ物に例えるなら、ローストビーフですね。ソースのないローストビーフは大してうまくないですが、たまねぎ系のさっぱりしたソースが加わると至高の味になるのと同じです。本書も事件そのものは大して珍しくもないのですが、そこに数十年間熟成を重ねた太いエピソードが混ざることによってストーリー全体をものすごい深いものにしているわけです。

過去のエピソードがあまりにもドラマチックでグッとくるストーリー

ですので、お遍路さんの動きそのものがあまり面白くもないのに、全体としてはカッチリとまとまっているのは、構成もさることながら、柚月センセーの筆力もまた素晴らしいからにほかならないのでしょう。泣けるとか、そういうのではないけれども、グッとくるものがある。そんな作品でした。





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