ミステリ読みまくり日記 〜書評(ネタバレあり)

通勤時間に読む、日本のミステリとその他小説をとりあえず書き留める
 

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2017年06月30日

書評815 永瀬隼介「凄腕」

こんにちは、曹源寺です。

東京都議会議員選挙で選挙活動に忙しい候補者のみなさま

お願いですから、夜の7時に対向車もすれ違うのに難儀する4メートル幅の狭い道路に選挙カーを乗り入れて「○山○彦です」「×野×美をよろしくお願いします」などと連呼するのはやめてください。
悪印象しか持たれないような行動であるという認識がないのでしょうか。この前時代的な悪弊、選挙活動とはこういうものであるという固定観念からいい加減に解き放たれないと、投票率は上がらないし、せっかく良い施策を打ち出していても逆効果です。

自分は先日、選挙カーとすれ違うために止まっていたら、前から来た自転車にぶつかりました。そのときに選挙カーからは「ありがとうございます」とか言われたので、怒鳴り返してやろうかと本当にぶちぎれそうになりました。

特に若い人たちはこうした古臭いやり方には染まりません。なぜなら、自分で情報を取りに行くからです。テレビしか観ないでマスゴミに洗脳されているジジババはともかく、リテラシーを持っている人たちは名前の連呼でどうにかなる層ではないと認識すべきでしょう。

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内容(文藝春秋HPより)
闇社会に迫れ! 本格警察エンタテインメント
新米刑事の高木は、闇社会の人間関係を知り尽くし圧倒的な実力で事件を解決する刑事・桜井に衝撃を受けるが――本格警察長編。


曹源寺評価★★★★★
永瀬センセーの警察小説は他のセンセーに比較してピリピリとした緊張感、特に「さあ、これから決闘が始まるでぇ」という西部劇にも似た雰囲気があるので好きですが、本書もまた安定の永瀬節が炸裂しておりました。
立川南署に刑事として配属された31歳の巡査部長、高木誠之助は配属半年の新米刑事。雑用だらけの日々に嫌気が差していたものの、管内で発生した半グレ殺人事件の捜査にきた警視庁組対本部の桜田警部補とコンビを組むことに。その桜田は敏腕ではあったが、警察の闇に飲み込まれた人物だった。。。
この桜井に心酔した高木は、桜井がリタイアしてから後継者を自認して新宿署に配置願いを出し、組対の刑事として独自のネットワークを築いていきます。
ここまでが前半です。
後半はこの新宿署管内で発生した殺人事件の捜査で幕を開けますが、捜査をしていくうちに明らかになってくる事実が

トンデモ本レベルのありえなさ

でちょっと衝撃的でありました・
あまりネタバレすぎてもいけないのですが、かいつまんで書き出しますと(以下ネタバレ注意)

犯人がとんでもない人物で長年身バレしなかったのがありえない
警察のエス(スパイ)として活動していた人物がありえない

というものであります。
まあ、ストーリーはそれなりに楽しめましたので、それほど変な作品ではないのですが、読後にじわじわと押し寄せてくる不思議な違和感に脱力間違いなしですわ。





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2017年06月27日

書評814 川瀬七緒「フォークロアの鍵」

こんにちは、曹源寺です。

東京都議会議員選挙の公示が23日(金)になされました。7月1日(土)まで選挙活動期間となっています。
誰を応援するとかしないとか、個別の活動をブログで展開することはありませんが、自分の中ですごく大切にしていることはあります。
それは、

都政と国政は別

ということであります。
「貧困対策をー」とか「条例で○○を無料にー」とかはいいですね、都政の範疇です。しかし、「加計学園ガー」とか「安倍独裁政権ガー」とか言われても、都政関係ないですわ。ましてや「憲法を守ろう」とか「戦争反対」とか「米軍基地ガー」とか連呼されても、まったく耳に入りませんわ。

仮に都議会議員選挙で都民ファーストの会が圧勝したり、自民党が惨敗したりしたらマスゴミは「安倍政権の足もとが揺らいでいます」「政権に大きな打撃となる見込みです」みたいな報道に終始するのが目に見えていますが、何度も言うように

都政と国政は別

なんですよ。過去にも社会党と共産党が支持した美濃部亮吉都知事(1967〜1979年!!)なんてのもいたわけで、その頃の国政はどうだったのかというと、安定の自民党政権だったわけですね。まあ、当然やりにくい部分はあったと思います。実際、いまの首都圏外郭環状道路なんて凍結されましたから、40年経った現在まで尾を引いているという負の側面は否定できないでしょう。また、負けたら「自民党総裁」としての責任論は湧き出ることになるのは止むを得ない話です(実際には自民党都議連の責任でしょうが)。
だからといって、国政の政権まで揺るがされるものではないわけで、その辺の境界線を強引にひっぺがして何でもかんでも政府の責任だとかまで極大化しようとする輩には決して惑わされることのないようにしていきたいものです。

だいぶ話がズレましたが、選挙演説で都政と関係ないことばかり主張しているような候補者には聞く耳を持つ必要はないということでよろしいかと。

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内容(講談社HPより)
羽野千夏は、民俗学の「口頭伝承」を研究する大学生。“消えない記憶”に興味を持ち、認知症グループホーム「風の里」を訪れた。出迎えたのは、「色武者」や「電波塔」などとあだ名される、ひと癖もふた癖もある老人たち。なかでも「くノ一」と呼ばれる老女・ルリ子は、夕方になるとホームから脱走を図る強者。ほとんど会話が成り立たないはずの彼女が発した「おろんくち」という言葉に、千夏は妙な引っ掛かりを覚える。記憶の森に潜り込む千夏と相棒の大地。二人を待っていたものは……!


曹源寺評価★★★★
ちょいとグロい「法医昆虫学捜査官」シリーズなどをお持ちの川瀬センセーは、時折「桃ノ木坂互助会」のようなちょいと変わった作風の作品を出されることがありまして、本書もまたちょっと変わったテーマで書き上げてこられたので読んでみました。
大学院で民俗学を専攻する羽野千夏は、口頭伝承の研究を目的に認知症の人のためのグループホーム「風の里」に通うことになった。そこで見たのは強烈な個性を持った入居者たちと、職員の過酷な労働実態、そして成功体験をもとにがんじがらめのルールで入居者を縛り上げる運営者の姿であった。
ある日、千夏はいつも壁を向いてつぶやいては夕方になると脱走を図るルリ子が発する言葉「おろんくち」に引っかかり、調べてみることにした。
一方、大学附属高校に通う立原大地は親からの強烈なプレッシャーから逃れようとして学校をサボるようになった。現実逃避する中で楽しかった思い出に浸ると浮かんでくるのは山梨県の祖父母の家の光景だった。地域のSNSに書き込みされていた「おろんくち」という言葉に反応した大地は、書き込みに返事をしたことで。。。
なーんだ、民俗学の口頭伝承で残っている言葉の謎を追うミステリかいな。最初は自分もそう思っていました。中盤まではややスローな展開であることは否めません。
しかし、後半からはなんとなくですがズレていくのです。ルリ子の見た風景とは何だったのか。時折発せられる単語だけを頼りに推理を重ね、現地と思しき場所に辿り着いたとき、そこで彼女らが目にしたものは

やべえ、やっぱり川瀬作品だったわこれ

油断していたではないか!なにこの急速にグロい展開は!
思わずちびりそうになるんですがこれ。勘弁してくださいよー。トラウマ植えつけられるレベルで怖いですわー。

長閑な民俗学から一気にホラー作品に早変わりです

そして、そのホラーな気分を引きずりながら最終章に突入すると、ここからはさらにミステリな展開になります。ホラーなところから最後までは息もつかせぬ展開で、コテンパンにやられてしまいました。なるほど、「おろんくち」の謎はここに帰結するのかと思うと、民俗学自体が壮大な伏線になっていると言っても過言ではないですね。
老人介護業界が抱えている問題や、センセーがおそらく主張したいであろう「心と病は別」というテーマなどは作品のスピード感をスポイルしているという見方もあるかもしれませんが、個人的にはほどよい味付けではないかと思います。ただ、認知症の方々がラストのほうでは健常者バリバリな発言をされているのはちょっと違和感がありました。
でも、もしかしたら本書もシリーズ化したら面白いのかもしれないですね。





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2017年06月23日

書評813 月村了衛「追想の探偵」

こんにちは、曹源寺です。

AKB48の総選挙とかいう集金イベントで、20位の須藤ナントカが突如結婚宣言をして周囲をどん引きさせた件では、一部のタレントや評論家が「アイドルだって結婚しちゃいけないわけじゃない」という結婚の是非という問題にすり替えていますが、本筋は「金を集めておいてドロン」という行為の問題であります。マツコ・デラックスは「キャバ嬢がドンペリ30本空けさせておいて結婚しますと言うようなもの」という的確なツッコミをされていました。個人的には計画倒産と同じだと思っています。
政治では加計学園の報道で、「安倍首相の指示があったかどうか」とか「安倍首相の意向に忖度したのかどうか」といった問題になっていますが、加計学園に獣医学部の設置を決めたのが2016年1月で、それ以降の行政文書(という名の怪文書を含む)に「官邸の上のほうから〜」とか書かれていたとしても、それはもうすでに時系列的に辻褄があっていない、破綻している話であります。それをいつまでもいつまでも問題として報道しているテレビと新聞は国民を騙しにかかっているとしか思えないですわ(Fラン大学の乱立とか国際医療福祉大学の医学部設置の件とか、そっちのほうが闇がありそうですが報道ありませんねー棒)。
ほかにも、朝鮮学校への補助金支給にかかる問題では「生徒たちを差別するな」とか「学問の自由を守れ」とか言う意見がありますが、これも本筋ではありません。法律でいうところの「一条校」でないために出せないだけです。朝鮮学校はいわば「私塾」であり、学習塾やサッカー教室と同じ区別なんですが、そうした本質的なところを無視して「子どもたちの教育の機会を奪うな」などと言ってくるわけです。

このように、世の中には物事の本質をわざと矮小化させたり別の問題にすり替えたりしようとする輩が腐るほどいることが分かります。
特に政治問題になると、テレビ新聞だけでなく、ネットで細々と記事を配信している自称ジャーナリストたちが湧いて出てきます。あちこちで「○○問題」という言い方をするようになると、この○○がいかにも問題であるかのような印象にさせられるわけですね。世間ではこれを「印象操作」と言います。我々はこうした印象操作に引っかかることなく、冷静に物事を見つめていく必要があります。これが「リテラシー」だと思います。

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内容(双葉社HPより)
雑誌編集者・神部実花には、人知れぬ特技がある。それは、誰も行方を知らない人物を捜しだすこと。あらゆる手段を駆使して人々の記憶の扉を開き、真実をつかみ出す。愛する雑誌を守るため、上司の無理難題や個性的な面々に挫けることなく、「日常のハードボイルド」を生きる若き女性の活躍を描いた連作短編集。


曹源寺評価★★★★★
アクション系の多い月村センセーが探偵モノを出した!と思って読んだら、主人公は探偵ではなくて雑誌編集者でした。何だこれと思いながら読み始めましたが、あぁ、これは確かに探偵モノですわ。
主人公の神部実花は黎砦社という零細?出版社の若き編集長であります。不定期雑誌「特撮旬報」をほぼ一人で切り盛りしているという設定です。昔の特撮モノ(リアルでいえば円谷プロ作品などになりましょうか)の裏側とか内幕を特集する雑誌ということで、自分のような少年時代を特撮ヒーローモノで過ごした中高年には

マニアじゃなくてもグッとくるテーマ

の雑誌なわけです。当時の監督や技術者などを掘り起こしてインタビューする記事がマニアに好評ということで、読者にも「これは読みたいかも」と思わせるような興味深い内容が綴られています。「人探しの神部」という異名を持つ彼女は、独特の嗅覚で「あの人は今」になってしまった人物を掘り起こします。その裏側に秘められた過去のエピソードもいっしょに掘り起こしてくれるので、じんわりと暖かい、そして少し哀しい、そんな物語になっています。
連作短編6作品を収録していますが、最初の2作品はやや長めの作品で、実花の執念深い捜索が実を結ぶ感動的な作品に仕上がっています。いや、

たいした話ではないはずなんですが、それでもちょっと泣ける

という、後になってじわじわくる味わい深い作品と言えます。
実花の周辺を囲む脇役は個性派揃いですが、それほど活躍していないのがもったいないと思います。しかしこれは次回作に期待を込めて長期シリーズとして続けていただきたいと強く願うことにします。
そういえば、特撮モノの大ファンといえば、大倉崇裕センセーがインタビューなどで自称されているのを思い出しました。作品としても「BLOOD ARM」などで怪獣(!)を本当にテーマにしておられます。おそらく大倉センセーあたりは、本書を手にして「やられたっ」と思っていらっしゃるのではないかと考えるのは、「当時を偲ぶ」という行動と「特撮モノ」というジャンルがひどく相性がよかった、という点に加え、廃れたジャンルだからこそ人探し=探偵という定番のミステリジャンルがこれまたマッチしてしまったという点にあるのだと思います。
この相性のよさに着目された月村センセーは天才ではないかと思いました。





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2017年06月20日

書評812 緒川怜「誘拐捜査」

こんにちは、曹源寺です。

JX通信社という会社の代表の方がYahoo!ニュースに寄稿された(のかはわかりませんが)記事が、なかなかに考えさせられる内容だったので。

東京新聞読者の安倍政権支持率は「5%」、対する産経新聞読者では「86%」― 都内世論調査番外編(6/20)

報道系ベンチャーのJX通信社では、6月17・18日の両日に実施した東京都内での世論調査の中で、各新聞の読者ごとに安倍政権、小池百合子東京都知事の支持率をそれぞれ調査した。調査の概要や実施方法は、本調査の詳報記事(リンク先)の通りだ。
この結果、安倍政権の支持率は各新聞毎にはっきりと分かれる傾向が見えた。
各新聞読者層別の安倍政権支持率・不支持率

特徴的なのは産経新聞と東京新聞だ。産経新聞読者のなかでの政権支持率は86%に達した一方で、東京新聞読者ではわずか5%と極端な差が表れている。不支持率は産経新聞読者が6%なのに対して、東京新聞読者は77%と、そのまま支持率を裏返した結果となった。
朝日新聞、毎日新聞の読者も政権支持率はそれぞれ14%と9%にとどまり、かなり低い。
安倍首相が国会答弁で「熟読」を求めたことで話題になった読売新聞の読者層では、政権支持率は43%と、不支持率29%を上回っている。
また、唯一の経済紙である日本経済新聞では、支持率が41%なのに対して不支持率は38%と拮抗した。
全体の傾向として、各社の社説や右・左といった報道姿勢の「立ち位置」と、政権支持率の傾向とがかなり一致していると言える。
各新聞読者層別の小池百合子東京都知事支持率・不支持率
対照的なのが小池知事の支持動向だ。産経新聞を除く全ての社の読者層で、支持が不支持を上回った。継続的に公開してきた都内世論調査でも、各政党支持層から幅広く支持を得てきた傾向を指摘しているが、「新聞読者層」という切り口でも同様の傾向が見える。 (以上)

図表などはリンク先を参照いただくとして、安倍政権の支持率、数字としては以下の通りになります。
        支持する  どちらとも言えない  支持しない
産経新聞    86     8          5
読売新聞    43     28         29
日本経済新聞  41     21         38
朝日新聞    14     16         70
毎日新聞    9     31          59
東京新聞    5     18          77
その他・答えない 30    29         48

この調査結果、サンプル数が少ないので統計的な意味はあまりないのかもしれませんが、少なくとも購読する新聞の種類によって支持層がこれだけ違うということは、新聞媒体とは少なくとも「公正・中立」ではないだろうということだと思います。
卵が先か、鶏が先か、という議論になるのも嫌ですが、「イデオロギー的に右だから産経新聞」なのか「産経新聞を読んでいるからイデオロギーが右に傾いている」のかは分からないです。ただ、少なくとも「産経新聞を読み続けていると右の思想がより強化される傾向にある」という仮説は成り立つのかもしれません。
朝日新聞や東京新聞はその逆ということになります。

もうどっちに傾いてもいいんですが、新聞媒体は「公正・中立」の看板を下ろすべきでしょう。そして、公益に資する媒体ではないということも国民全員が周知する必要がありましょう。ましてや新聞以上に公正・中立であるべきテレビ=電波媒体は新聞の影響を受けるべきではないということも言えると思います。

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内容(光文社HPより)
八王子での少女誘拐事件が発生。犯人を名乗るメールが届くが、そこには十四年目の誘拐事件の「真相」の告白が!? 二十年前の姪の行方不明事件で心に傷を負う刑事・楢橋は、強引に捜査に加わが孤立、姪の妹で通信社記者の文の協力を得ながら事件解決に奔走する。過去の事件の情報は錯綜し、浮かび上がる容疑者に翻弄される捜査本部。さらに、誘拐犯の「告白」には社会に衝撃を与えるたくらみが仕掛けられていた。ちりばめられた謎解きの妙。過去と現在を幾重にも交錯させた巧みな構成。そして明らかになる犯人の巧緻な罠と驚愕の真相。楢橋は少女を救えるのか!?


曹源寺評価★★★★★
それほど好きな作家センセーではありませんが、新作が出ると一応はチェックしています。デビュー作の「霧のソレア」はそれなりに楽しかった印象があるというのが理由ですが、近年の作品はどれもあまり高い評価をつけることができないでいます。
なぜなのか。本書を読んでちょっと分かったような気がします。
本書のおさらいから書いておきましょう。
警視庁捜査一課の楢橋邦洋は、20年前に姪の桜子が行方不明になった事件で責任を大きく感じていた。そこに八王子で少女が誘拐されるという事件が発生。犯人からのメールには14年前に発生した少女殺害事件の真相を綴った内容が書かれており、逮捕・起訴したはずの死刑囚である矢部俊夫が冤罪である可能性が浮上した。犯人の狙いは何か。楢橋はもう一人の姪である通信社勤務の文(あや)と事件解決に挑む。
これだけ読むと、なんとなく普通の警察小説っぽいですね。あまり謎解きというほど難解ではありませんが、事件の展開を追う分にはすらすらと読みやすくグイグイいけます。
ですが、緒川センセーの書き味は独特です。何が独特かといいますと、

エピソードが詳しすぎぃ!

なんですわ。新たな登場人物が出てくるたびに、主人公とのエピソードが詳細に語られます。これが微に入り細を穿ってやたらと引き込まれるような書き込みをされるので、本筋のストーリーを忘れてしまいそうになるのであります。
それが事件解決の伏線になるなら良いのですが、そうでないエピソードも結構ありますので、読者にしてみれば「このエピソードいらねえだろー」と思ってしまうこともしばしばです。
この辺をさりげなく盛り込ませることができているのが東野圭吾センセーだったり大沢在昌センセーだったりするのですが、いちいち仰々しいエピソードは作品に深みをもたらすようで実は違うのではないかと思うのです。
そのエピソードの挟み込みも、まるで取ってつけたかのようなやり方だったり、あるいはエピソードのなかにさらに回想シーンがあったりしてもう訳分かりません、という感じだったりするんです。このへんがもう少し整理されたうえで、20年前の事件なのか、14年前の事件なのか、それとも現在進行形の事件なのか、分かりやすくしないと読者がついていけなくなると思います。そのうえで、現在進行形の未解決事件については警察小説っぽく「伏線を張っている」という描写になればいいのではないかと思います。
もうひとつだけ突っ込んでおくと、緒川センセーは「冤罪死刑」でも書かれていましたが、本書でも死刑とか冤罪といったテーマを盛り込んでおられます。冤罪の可能性が少しでも存在する死刑判決や、本人あるいは支援団体が再審請求しているような判決においては、すんなりと死刑執行されていないのが実情です。執行待ちが100人を超えている現状において、そんな難しい案件を優先的に執行するなどありえないという物理的な事情もありましょうが、いずれにしても、「死刑は冤罪となったときに取り返しがつかないから反対」という死刑反対意見については運用の実態を鑑みればあまり意味を持っていないのかもしれません。





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2017年06月16日

書評811 相場英雄「不発弾」

こんにちは、曹源寺です。

毎週火曜日の22時にテレビ東京系で放映している「ガイアの夜明け」で、6月13日に放送されたのが「再び、巨大“規制”に挑む!」と題したバター不足をテーマにした回でありました。巷では「神回」とまで言われるようになったこのバター問題ですが、テレ東サイドのやや恣意的な編集はさておき、問題の根っこについては非常に理解が進んだのではないかと思います。
<酪農業者側の問題>
JAに入らないと飼料の仕入れや融資ができなくなるのでやむを得ず入る
指定業者に生乳を送ることで安定した収入を得ることができる代わりに、冒険をしなくなる
どうせ他の業者の生乳と混ぜられるのだからと、品質向上に意欲が沸かなくなる
バター用の生乳は買い取り価格が飲料用より低いので、納入を嫌う
<JA、ホクレン、農水省側の問題>
バターは関税率360%という異常な高率で、酪農家保護の最たるものである
バターの輸入は独立行政法人農畜産業振興機構が仕切っており、輸入品は極めて高額になってしまっている
上記団体は農林水産省の天下り団体である
国内流通をがっしり抑えているがガチガチの固定構造になっており、それ以上に輸出に関しては及び腰である

実際にバターは不足気味でありますが、安定流通の名の下に自由度の低い操業が続いています。そこに風穴を開けようとしているのがMMJという群馬県の企業です。MMJは独自の取り組みによって、生産者側がブランド化したりニーズの高い地域に商品を送り込んだりすることをサポートしています。まだ売上高は100億円にも満たない規模ですが、着実に販路を広げています。

北海道の酪農業者がMMJと組んで新たな商品開発や流通開拓を行っている姿を特集してくれましたが、これに対してはホクレンなどの既存業者のみならず、一般の酪農家も批判の声をツイッターなどで上げているのを見ることができます。
曰く、「自分だけ買い取り価格の高いMMJに卸すのはずるい」「周りの協力があってこその酪農家なのに抜け駆けするな」「飼料だけ買えばいいってもんじゃない」等等。

しかし、消費者からみれば安定的に商品を供給してくれているホクレンなどの大手業者はうれしい存在であるものの、既得権益にまみれて新たな取り組みを否定する(どころか邪魔をする)のはいかがなものかと思ってしまいます。放映のなかにあったJAの「賦課金」問題はまったく意味が分かりません。
それに他の酪農家の発言はやっかみ以外の何者でもありません。どんなビジネスでも高リターンには高リスクが伴うものです。長年、ぬるま湯に浸かってしまっている人たちはこうしたことも忘れてしまうようです。

自分は保護貿易主義ではありませんし、ましてや新自由主義者でもありませんが、規制の壁を乗り越えてブルー・オーシャンに乗り出そうとしている人たちは応援したいなあと思います。何と言ってもヤマト運輸の小倉昌男氏(故人)が運輸省(当時)と大バトルを繰り広げて、現在のような宅配便の市場が出来上がったという前例がありますので、新たなマーケットの創造にはお役人とのバトルは避けて通れない道ではないかと思っています。
品不足が露呈して、システムとしての欠陥が浮き彫りになったのであれば、「国民への安定供給」のお題目はもはや通じません。規制あるところに成長なし。「ぬるま湯」を残しても熱湯と混ぜるべからず。バターがもっと安くなることを祈ります。
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内容(新潮社HPより)
日本大手の電機企業による巨額の粉飾決算。警視庁キャリア・小堀秀明は、事件の背後に、ある金融コンサルタントの存在を掴む。バブル直前に証券会社に入社し、激動の金融業界を生き延びた男が仕込んだ「不発弾」は、予想を超える規模でこの国を蝕んでいた――『震える牛』『ガラパゴス』の著者が日本経済界最大のタブーに挑む!


曹源寺評価★★★★
すっかり社会派ミステリの旗手にのし上がってきた相場センセーですが、もともと通信社の記者であり、経済関係のネタのほうが本職であります。あの池井戸潤センセーも銀行出身で半沢直樹シリーズなどが有名ですが、金融ネタや経済ネタというよりは社会問題ネタ、時事ネタのほうに行ってしまわれましたね。
相場センセーの得意分野に「警視庁捜査第二課モノ」というのがありまして、捜査一課と違って人がバンバン死ぬ世界ではないのでドラマ仕立てにしにくいという難点があるものの、本書のように経済ネタでも面白い本はあるんやねー、というお手本のような作品を出しておられます。
本書は上場の電機メーカー大手、三田電機による巨額の不正経理問題(粉飾決算問題とも言う)を立件したい警視庁捜査二課が、事件解明の為にある金融コンサルタントに目をつけ、これを追うというストーリーになっていますが、これと同時並行でこの金融コンサルタント、古賀遼なる人物にスポットを当て、彼の生い立ちからバブル期を駆け抜けていくサブストーリーが展開していきます。
じりじりと古賀の周囲を固めていく捜査二課のキャリア捜査官・小堀と、バブル崩壊後に暗躍した古賀らによる「不発弾」の正体がちらちらと見えてくるところが、金融サスペンスとしては出色の出来だと思います。
なんといってもすごいのは、実在の事件を臨場感たっぷりに描いているところでありましょう。某飲料メーカーによる巨額損失事件を含む「プリンストン債事件」をはじめ、いわゆる仕組み債による損失隠しが常態化した90年代末期ですが、金融の現場ではまさかこんなことが行われていたのかという仰天の構図を見事に浮かび上がらせています。
そして、バブル時代に実在した事件も数多く登場してきます。証券会社による「預け損失」「飛ばし」「損失補てん」といった業界特有の悪慣習にメスが入った1989年、大蔵省(当時)による「不動産総量規制」も行われた1990年、バブルはこの2つの規制から始まっています。そういえば、自分の周囲にもバブルに浮かれて金融機関に入社した人は結構いました。消息は知りませんが、聞いた話では現在も金融で働いている人は1割も残っていないようです。90年代は金融、2000年代は流通、そして2010年代は電機がいろいろと大変な時代を過ごされたように思います。これらの業界のなかには本書の指摘するように「飛ばし」や「M&A」などの手法によって損失を隠してきた企業が少なからずあって、実際に爆発してきたという経緯があります。代表的なものが本書の「ノアレ」であり、「ゼウス光学」であるということです(ゼウスはあまり描写されていませんが)。
おっと話が逸れました。
これらの「不発弾」がバブル崩壊から四半世紀を経過した今も、いくつかの企業の財務諸表のなかに埋まっているのかと思うと、

株式投資など恐くてできませんわ。

一応、備忘録として本書に登場する架空の企業を現実に置き換えておきます。
三田電機→東芝?
村田証券→野村證券
山屋証券→山一證券
国民証券→国際証券?
CBFS銀行→CSFP(クレディ・スイス・ファイナンシャル・プロダクツ)?
ヘルマン→クレスベール証券?
ノアレ→ヤクルト
ゼウス光学→オリンパス
ソラー電子→ソニー
日本逓信→日本郵便

ラストはちょっとばかり納得しにくい点がありますが、それでも日本の“裏”経済史を紐解くような迫真の展開には納得感の高い作品であると言って良いのだとおもいます。





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2017年06月13日

書評810 黒川博行「果鋭」

こんにちは、曹源寺です。

そういえば、今月の5日にサウジアラビアとエジプト、バーレーン、UAE、イエメンの5カ国がカタールとの国交を断絶しました(その後、モルディブも加わって6カ国に)。これって国際的にはすげえニュースなはずですが、国内ではあまり大きな扱いになっていません。中東の危機は日本の危機に直結する大きな問題ですので、引き続きウォッチしていきたいですね。
国交が途絶えると、陸路、空路、海路のすべてが封鎖され、国境も封鎖されます。そして外交官は国外に追放されます。上空を飛ぶ飛行機も迂回しなければいけません。
断交とはそういうものです。
話し合っても分かり合えないということは往々にして起こりうるという、ごく当たり前のことが分からない人たちというのも存在します。現にこうやって国交を断絶させている国々に対して「話し合いが足りないのだ!もっともっと話し合え!」というのは愚かなことです。話し合ったから決裂したのであって、結論が出たから断交したのであります。
逆に言えば、決裂するまで話し合っていないほうがおかしい、ということも言えるのではないでしょうか。ビジネスの世界では普通に決裂しますよね。価格が折り合わなかったり、納期が間に合わなかったりで。それと同じことが外交にも言えるのですが、脳みそがお花畑な人たちは「話し合えばなんでも分かり合える」と思っているのかもしれません。分かり合う必要はなくて、結論が出せればそれでよいのではないかと思います。
戦争反対を口にする人のなかには「戦争が何の前触れもなくいきなり起こる」と思っている人がたまにいるようですが、断交は戦争の一歩か二歩手前の場合が多いのであります。
こうした動きのほうが北朝鮮の話題とか共謀罪などといって騒いでいるよりよっぽど「戦争の危機」であると思うのですが。


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内容(幻冬舎HPより)
右も左も腐れか狸や! 元刑事の名コンビがマトにかけたのはパチンコ業界。 出玉の遠隔操作、極道顔負けの集金力、警察との癒着……。 我欲にまみれた20兆円産業の闇を突く。 堀内信也、40歳。元々は大阪府警の刑事だが、恐喝が監察にばれて依願退職。不動産業界に拾われるも、暴力団と揉めて腹と尻を刺され、生死の境をさまよった。左下肢の障害が残り、歩行に杖が欠かせなくなる。シノギはなくなり、女にも逃げられる……。救ったのは府警時代の相棒、伊達誠一。伊達は脅迫を受けたパチンコホールのオーナーを助けるため、堀内に協力を求めてきた。パチンコ業界――。そこには暴力団、警察も入り乱れ、私腹を肥やそうとする輩がうごめいていた。堀内は己の再生も賭け、伊達とともに危険に身をさらしながら切り込んでいく。


曹源寺評価★★★★
悪果」「繚乱」に続く大阪の元悪徳警察官、堀内&伊達のコンビが活躍するシリーズ第3弾です。この「堀内&伊達」シリーズと「疫病神」シリーズが黒川センセーの本領発揮ではないかと思うのですが、この2つのシリーズに共通するのは「悪には悪で」というガチンコの駆け引きであり、裏社会のルールに則りながらもしつこいくらいに金に群がる構図であり、身体(時には命)を張って勝負に出るという男の世界であります。
前作のラストでチンピラに撃たれ、杖をつくはめになった堀内と、競売物件でサバキを精力的に行っている伊達。半ば引きこもりのようになってしまった堀内に対して、伊達は何かと世話を焼いてくれます。
伊達のあいさつは「堀やん、メシ食いに行こ」であります。
その伊達がいわゆる「シノギ」の案件を堀内とともに譲り受け、人の弱みに付け込んで金を脅し取ろうとしている奴らと対峙するといういつものパターンであります。
今回はパチンコ業界を舞台に、裏で悪徳の限りを尽くしている輩どもを成敗(!という名のゆすり、たかり、脅し)していく痛快なストーリーとなっています。
まあ、パチンコ業界が警察とずぶずぶの関係であるとか、北朝鮮への送金ルートになっているとか、出玉の調整がコンピュータ化されていて「遠隔操作」も日常的になっているとか、もう自分のなかでは旧知の事実でありましたが、それでも黒川センセーは綿密な取材に裏打ちされた膨大な「業界の闇」をさくっと切り取っていただきました。非常に分かりやすいです。

それにしてもこの二人のフットワークの軽さといったら、、、、、

警察の看板がなくても怖いもの知らず、悪い奴には容赦しない、この二人も十分に「悪」なのですが、そこはラストにきちんと帳尻が合うようにできております。
決してハッピーエンドになることはありませんが、かといってムナクソ悪いバッドエンドでもない。登場人物のほとんどが悪人なので、マイナス×マイナス=プラスのような図式で、それはそれで納得できる結末でありました。





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posted by 曹源寺 at 18:23| Comment(0) | TrackBack(0) | か行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年06月09日

書評809 石持浅海「鎮憎師」

こんにちは、曹源寺です。

ゼロ戦里帰りプロジェクト」というのがありまして、先日は現代の空にゼロ戦を飛ばしている姿が話題になっていました。
そこに噛み付いたのが「AERA」の記者、竹下郁子氏であります。氏はツイッターで「TLに零戦を讃える人がたくさんいて、考え込んでしまう。「平和を考える機会」にはなってないようだけど」と書き込んで炎上してしまいました。
詳細はTogetterなどにまとめられていますのでそちらをご覧いただくとして、ここで自分が考えさせられたのは次の1点に集約されます。それは
・「兵器」と「文化遺産」の境界線と、文化遺産に精神性を求めることの是非
です。
竹下氏とその他の方々のツイートで中心となったのは「熊本城だって兵器ですよ」「ゼロ戦の復活を否定するなら熊本城の復興も否定しないのはおかしい」といったツイートに対して、竹下氏は「熊本城ゼロ戦を同一視するのは理解できない」「戦争への反省と「零戦カッコイイ〜」が両立する精神状態というのがマジで分からん」「頭が痛い...。これはきちんと記事にした方がいいな」といったやりとりです。
おそらくですが、竹下氏にとってはゼロ戦も戦艦大和も単なる殺人兵器でしかなくて、その一方で熊本城や姫路城は貴重な文化遺産という「刷り込み」がなされているのでしょう。その刷り込みは兵器に精神性を持たせていることの証左でもあると思います。
自分は日本刀であれ戦車であれ、ましてや戦闘機であれ、それらは武器・兵器であって殺人の道具であることを否定しませんが、そこに「だからこれを見て戦争を反省しろ」とか言うのはおかしいのではないかと思うのです。戦争を仕掛けるのは人間であって、兵器は道具でしかないわけです。道具=モノに精神性を持たせるのは単なるレッテル貼りであって、「象徴」を作り出したいだけの行為でしかないと思います。最近では「戦犯旗」などといっていちゃもんをつけてくる輩などがそうですね。
ツイートのなかには「ゼロ戦の技術陣は、戦後のYS11の設計にも関わり、爆撃機「銀河」の技術は、新幹線の車体の設計に応用、地対空誘導弾「奮龍」のVHFによる誘導技術は、テレビジョン放送に生かされた。」といった技術論からの反駁もありましたが、この辺はあまり論点になっていません。中心になっていたのは「熊本城とゼロ戦は同じ兵器なのだからゼロ戦復活を否定するのは熊本城復興を否定するのと同じ」「ゼロ戦と熊本城では歴史的経緯が違うのでそこを見逃していてはいけない」というように、兵器なのか文化遺産なのか、あるいは精神的な価値の違いを認めるべきなのか、といった点に集約されそうです。
深読みしていくと、「兵器が文化遺産になるためには歴史を積み重ねなければいけない」といった論調が見え隠れしていました。本当にそうなのかなあ。もしそうだとするなら、その転換点はどこにあるのかなあ。東京湾に浮かぶ猿島の砲台跡は兵器としての価値はありませんが、横須賀市は文化遺産的な扱いをしていますね。逆に兵器としての有用性を失っているから文化遺産になりうるのか。ゼロ戦はF35と戦ったらあっという間に負けるでしょうから、すでに兵器としての価値はないと思いますが。

まあ、個人的な結論としては、ゼロ戦が飛行する姿を見て元気をもらった人も大勢いらっしゃるわけで、なんでもかんでもアレルギー反応のように「戦争を賛美するな」「過去の戦争への反省が足りない!」などと目くじらを立てる人は「文化遺産」と「兵器」の境界線に関する考察が足りていないということと、技術的な意味をはじめとした多様な見方があることさえも否定して、レッテルを貼ることで思考停止しているということが言えるのではないかと思います。

※ツイッターから複数の引用をさせていただきましたこと、お許しください。

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内容(光文社HPより)
赤垣真穂は学生時代のサークル仲間の結婚式の二次会に招かれた。その翌日、仲間の一人が死体となって発見される。これは、三年前にあった“事件”の復讐なのか!?
真穂は叔父から「鎮憎師」なる人物を紹介される……。
「ちんぞうし?」
わたしは訊き返した。知らない言葉だ。
「そう」順司叔父は、前方を見ながらうなずいた。「『憎しみを鎮める人』ってくらいの意味だよ(中略)鎮魂という意味じゃない。事件の話を聞いて、上手に終わらせる方法を考えてくれる人だ」(本文より)


曹源寺評価★★★★★
石持センセー久々の長編であります。
横浜理科大学のテニスサークルOBOGが久しぶりに仲間の結婚式二次会に集結した。そこには3年前に彼氏に殺されかけた女性、熊木夏蓮がサプライズで登場した。熊木は事件後に地元の広島に帰っていたため、誰もその行方を知らなかったが、二次会幹事の桶川ひろみが探し当てたのだ。久々の邂逅に喜ぶ7人の仲間だったが、翌日、熊木は渋谷の路上で変死体となって発見された。
3年前の事件と今回の事件、人間模様がさまざまに交錯したなかで浮かび上がるのは「復讐」であった。次の殺人を止めるために真穂は弁護士の伯父に相談する。そこで紹介されたのは吉祥寺に住む「鎮憎師」なる人物だった。
うーん、久々の長編でしたが、正直イマイチかなぁ。
主人公の真穂を含め、7人のサークル仲間が容疑者になる設定ですので、本格ミステリなどにありそうな展開を期待してしまいました。容疑者の絞り込みの過程や、推理を働かせていく展開はそれなりに読めます。
しかし、タイトルの「鎮憎師」なる沖田という男(とその妹)がですね、(ネタバレ注意)

全然仕事してねえ

んですよ。
中盤とラストにちょこっと出てきただけで、ちょっと一言告げてみた、というくらいしか登場してこないんですね。なんじゃこりゃ。
中盤は非常に退屈で、中だるみという単語が浮かびます。ちっとも進まない展開にイライラです。ラストもなんだかショボーンな感じで、犯人がどうやって殺害したのかとか、紐はどうやって調達したのか、とか言及もありません。
そもそも、この事件は警察が1日で解決できる程度の謎でしかないので、何週間も引っ張るはずがないのです(容疑者全員の○○を調べれば一発というレベル)。こうしたリアリティに欠けるレベルのミステリはどうしても途中で冷めてしまいます。
オープニングはかなりショッキングな始まり方をしますので、期待してしまいましたが、

本筋とは何にも関係なかったりして

それも落胆の原因だったりします。いろいろな意味で残念な一冊でした。





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posted by 曹源寺 at 16:27| Comment(0) | TrackBack(0) | あ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年06月06日

書評808 薬丸岳「ガーディアン」

こんにちは、曹源寺です。

お隣の国、韓国ではまたしても鶏インフルエンザが猛威を振るっているようです。
世界的に見ても、この20年くらいは動物の感染症が人に転移して新たな病原菌となる、あるいはなる危険性が高まっているといった事例が後を絶ちません。動物と人間の距離は縮まっているようには思えませんが、免疫学や獣医学のような分野の研究は引き続き高い需要が見込まれるのではないかと思います。

国会では加計学園の問題(何が問題なのか分かりませんが)が尾を引いていますが、少なくとも獣医学部の新設に関する疑義(なぜ加計学園なのか)は完全にでっちあげです。いまだに大手マスゴミが騒いでいるのが信じられません。
大手が報じていないことを列挙してみましょう。
・(菅官房長官がコメントしていますが)特区による誘致はそもそも民主党政権時代に決まっていること
・それを文科省が怠慢で何にもやっていなかったから「早くしろ」と自民党政権が急かしていたこと
・加計学園は15年も誘致活動を行ってきたこと
・愛媛新聞は長年の努力によって誘致に成功したことを成果として報道していること
・愛媛県の前知事も実績として胸を張っていること(前川喜平前事務次官を批判していること)
・メールを追及している民進党玉木雄一郎議員本人が日本獣医師会から100万円の献金を受けていること
・四国の高校生が獣医師になろうとしたら、どんなに近くても鳥取大学か山口大学、大阪府立大学を目指さなければならないこと

特に最後の件は、教育機会の平等をうたう民進党においては自民党以上に進めるべき案件であるはずだと思うのですが、なぜか四国の学生のことはどうでもいいですかそうですか。
地方の学生が実家を離れ、大学のある都市で一人暮らしをしようとすれば、下宿代、光熱費、食費、その他雑費等々で毎月いくらかかると思っているのか。まあ、医学系の場合はその投資に見合うリターンが期待できますけれども、それでも結構な費用です。
大学の無償化を法整備しようとしている野党は、言っていることとやっていることがだいぶ違うのではないかと思います。また、それを報じないマスゴミもふだんは「弱者に寄り添う」とか言いながら、こういうときは寄り添わないですね。

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内容(講談社HPより)
匿名生徒による自警団「ガーディアン」が治安を守る中学校に赴任した秋葉は、問題が少なく安堵する。ガーディアンのメンバーは、問題のある生徒らに「制裁」を行っていた。相次ぐ長期欠席を怪しんだ秋葉が生徒の身を案じるが、同僚は激務に疲弊し事なかれ主義だ。秋葉が学校の秘密に気づくと、少年少女は一変し、天国から地獄に叩き落とされる。大人と子供の思惑が幾重にも交差し――薬丸岳史上最大級の衝撃があなたの胸を打つ!


曹源寺評価★★★★★
少年犯罪をテーマにすることの多い薬丸センセーが、実は初めて学校を舞台にして書き上げたのが本書であります。
そういえば、石持浅海センセーが同名の小説を出しておられますが、その内容はもっとホラーというか非現実的だったような気がします。
本書は都内の石原中学校に赴任した教師、秋葉悟郎を主人公として、学校内に組織されている謎の自警団「ガーディアン」と対峙するお話です。
秋葉は赴任して半年、平和で問題の少ない学校であることにかえって違和感を覚えていた。ある生徒が学校を休み、それが数日も続いていたことからその奇妙な違和感の正体に気がついた。長期で休んでいる生徒が18人もいるというのだ。そう、彼らはガーディアンによって制裁を加えられていたのであるが、秋葉はその存在に気付くのは自分が顧問を務める演劇部の部員が欠席となったからであった。
秋葉はガーディアンの正体を突き止めようとするが、そこには教師と生徒、それぞれに思惑と深謀があった。。。
教師が信用できないから自警団を結成した――とあれば、教師の取るべき態度は次の2通りになるのでしょうか。
「ならば信用されるようにがんばろう」

「ならばこっちも自警団を利用してやろう」
か。
こうした思いが交錯するなかで、学校全体を巻き込んで教師たちが苦悩と煩悶を打ち明けていきます。
でもなぜか、最後はちょっといい話でするっと終わっていきます。

ん、あれ、なんか予想していたのと違うなあ

という印象でした。なんというか、違和感みたいなものを覚えたんですが、これなんだろう。
おそらくですが、作者の本当に言いたいことと読者が読みたかったことがずれているのではないか。
(以下、ややネタバレ)薬丸センセー的には、ガーディアンによる統治によって起こるリスクは学校の平和と引き換えになるものではないだろう、というものなのかもしれませんが、この前半から中盤にかけてのストーリー展開では読者として「ガーディアンの自滅」か「夏目刑事による事件解決」なのではないかと思うのであります。
せっかく(ファンにはおなじみの)夏目刑事まで登場させておいて、ほんのチョイ役でしかなかったこの扱いに、ちょっと落胆してしまうのです。
それにしても、ラストの4行は何を意味するのだろうか?最後の最後にひっくり返したのか?いい話だと思ったら実は違っていたのか。なんとも言えない気持ちにさせられてしまいました。





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posted by 曹源寺 at 14:49| Comment(0) | TrackBack(0) | や行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年06月02日

書評807 中山七里「翼がなくても」

こんにちは、曹源寺です。

東京都議会議員選挙が6月23日公示、7月2日投票で行われます。
今回の選挙の目玉はやはり、都民ファーストの会がどれだけ議席を獲得するのかという点にあるでしょう。ただ、小池都知事は豊洲問題や五輪費用負担問題などでだいぶミソをつけたので、大フィーバーという感じでもないところが面白いですね。
都民ファーストの会のホームページを参照すると、今回の選挙に立候補する予定の方々の情報が掲載されています。一覧では参照できなくて、お住まいの市区町村から検索するかたちですので見づらいのですが、どんな方が立候補されるのか事前に把握することができます。
新人の方でもすでにご自身のホームページを立ち上げていらっしゃる方もいますが、新人の方は政策を細かく見ていかないと方向性が見えてこないのが難点です。
一方、「元都議」という肩書きの方もいらっしゃいます。
元都議の場合は、所属していた政党の色からある程度のポリティカルカラーが分かりますので、これは必ずチェックしておきたいところですね。

正直、都議会議員選挙は自分も誰に投票したら良いのか非常に悩みます(「投票したいという人がいない」という極めて後ろ向きな理由ですが)。
できる限り情報を集めていかなければ後で後悔することが目に見えていますので、気をつけたいと思います。
その場の雰囲気に流されぬよう、リテラシーを大事にしたいですね。特に「政党ロンダリング」している候補者や「後で寝返る確率100%」のカメレオン候補者、それに「抽象的過ぎて何言っているのか全然分からない公約」をうたう候補者などには気をつけましょう。

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内容(双葉社HPより)
陸上200m走でオリンピックを狙う沙良を悲劇が襲った。交通事故に巻きこまれ、左足を切断、しかも加害者は幼馴染みの泰輔だった。アスリート生命を絶たれた沙良は恨みを募らせる。そんな泰輔が殺害され、高額な保険金が支払われた。犯人は誰なのか? また、絶望の底から再起を図る沙良の運命は? どんでん返しの先に感涙のラストが待つ傑作長編ミステリー!


曹源寺評価★★★★★
どんでん返しの帝王と呼ばれるようになった中山センセーですが、本書もまたちょっとしたどんでんがありまして、それも「泣けるどんでん」でありまして、深く胸に突き刺さるお話に仕上がっています。
主人公の市ノ瀬沙良は陸上短距離200メートル走で実業団チームに所属しているが、ある日、隣人の相楽泰輔にクルマで撥ねられ、左足の膝から下を切断することになってしまう。泰輔は若くして父を亡くし無職の引きこもり。事故の謝罪も補償もなく、弁護士にすべてを任せて頬かむりの相楽家に対して怒りを募らせる市ノ瀬一家だったが、そんななかで泰輔が自宅で殺害されるという事件が発生する。
さあ、その殺人事件の捜査には中山センセーのシリーズでおなじみ、犬飼隼人刑事が登場します。おぉ、これは犬養シリーズだったのか!と思っていたら、相楽家が一任した弁護士がなんと御子柴礼司!こちらもシリーズでおなじみですね。そう、本書は犬養と御子柴が対面するという

ファンにはたまらないストーリーになっているのです。

泰輔を殺したのは誰なのかという謎に犬養刑事が挑む一方で、御子柴弁護士が何をたくらんでいるのか、そして沙良はつらい運命に立ち向かっていけるのか。ストーリーは三者一体となってスピーディーに進んでいきます。
この沙良のキャラクターがものすごくステキなんですよ。感情の変遷はとても人間的でありますが、生半可でない行動力と負けん気が、読む人に勇気を与えてくれます。
なんとなく結末は見えてきますので、ミステリとしての出来栄えやいつものようなどんでん返しはやや弱いかもしれませんが、それでも読む人を惹きつけるテンポの良さと、犬養vs御子柴の対決を心待ちにしていたファンには十分すぎる価値のあるストーリーではなかったかと思います。





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posted by 曹源寺 at 16:49| Comment(0) | TrackBack(0) | な行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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