ミステリ読みまくり日記 〜書評(ネタバレあり)

通勤時間に読む、日本のミステリとその他小説をとりあえず書き留める
 

2016年10月28日

書評755 相場英雄「ガラパゴス(上)(下)」

こんにちは、曹源寺です。

今年のプロやきう日本シリーズは見応えがあって面白いですね。両軍のファンにしては胃が痛いくらい緊迫した試合が続きましたからつらいとは思いますが。視聴率も関東地区17.4%ならそこいらの安物ドラマよりよほど良い数字だと思います。広島地区は27日の試合の平均視聴率が44.4%だったそうで。お化けコンテンツですな。
プロやきうというコンテンツはすでに過去の遺物だという意見は多いですが、実際のところはどうなんでしょう。日本シリーズですから多少は割り引かないといけないと思いますが、ローカルだけならまだまだ十分いけるのかもしれないですね。

そうすると、プロスポーツの中継試合はテレビ番組としてどれだけ価値があるのかという命題になってしまうのですが、やきうとサッカーは代表戦なら十分魅力的ですね。代表戦だけという観点ならばラグビーもバレーボールもいけるかなあ。テニスは個人戦でも観たいなあ。でも冗長だよなぁ。といろいろなことを考えてしまいます。
プロスポーツのなかでもマイナーな競技をEテレだけに独占させず、民放でもやってほしいなあとは思います。スポンサーがつけば問題ないわけで、卓球バドミントンの世界ツアー個人戦や体操の世界選手権レベルの試合、日本人が参加している海外メジャーゴルフあたりは真剣に観たいかもしれません。スポーツバーとかで盛り上がりたいです。

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内容(小学館HPより)
(上)
現代の黙示録『震える牛』続編!
警視庁捜査一課継続捜査担当の田川信一は、身元不明のままとなっている死者のリストから殺人事件の痕跡を発見する。不明者リスト902の男は、自殺に見せかけて都内竹の塚の団地で殺害されていた。
遺体が発見された現場を訪れた田川は、浴槽と受け皿のわすかな隙間から『新城 も』『780816』と書かれたメモを発見する。竹の塚で田川が行った入念な聞き込みとメモから、不明者リスト902の男は沖縄県出身の派遣労働者・仲野定文と判明した。田川は、仲野の遺骨を届けるため、犯人逮捕の手掛かりを得るため、沖縄に飛ぶ。
仲野は福岡の高専を優秀な成績で卒業しながら派遣労働者となり、日本中を転々としていた。田川は仲野殺害の実行犯を追いながら、コスト削減に走り非正規の人材を部品扱いする大企業、人材派遣会社の欺瞞に切り込んでいく。

(下)
平成版『蟹工船』!メモ魔の刑事、再臨場!
警視庁捜査一課継続捜査担当の田川信一は、身元不明のままとなっている死者のリストから殺人事件の痕跡を発見する。自殺に見せかけて都内竹の塚の団地で殺害されたのは沖縄県出身の派遣労働者・仲野定文だった。仲野は福岡の高専を優秀な成績で卒業しながら派遣労働者となり、日本中を転々としていた。田川は、仲野が非正規雇用労働者として勤務していた三重県亀山市、岐阜県美濃加茂市を訪れる。そこで田川が目にしたのは国際社会に取り残され、島国で独自の進化を遂げる国内産業の憂うべく実態だった。
仲野殺害の実行犯を追いながら、田川はコスト削減に走り非正規の人材を部品扱いする大企業、人材派遣会社の欺瞞に切り込んでいく。


曹源寺評価★★★★
「平成版 砂の器」と賞賛され、テレビドラマ化もされた「震える牛」の続編という触れ込みになっていますが、主人公の田川信一刑事が同じなだけで、続編というよりは「刑事・田川信一シリーズ」と呼んだ方がしっくりくるような作品です。しかし、今度は「平成の蟹工船」ときたもんだー。まあ、あながち間違いではないと思いますが。
本書は身元不明者の死体から殺人事件の痕跡と思しきものを発見した主人公の田川が、事件を発掘するうちに見えてくる、派遣労働をコストとしか見なさなくなった大手製造業の実態、工場撤退による地方都市の衰退、大手人材派遣会社の暗躍などに迫りつつも犯人を追い詰めていくストーリーであります。
相場英雄センセーは経済ネタに強いので、こうした労働問題や経済不祥事事件など時事ネタを盛り込んだ作品はお手のものであります。
上下巻600ページを超える大作にもかからわず、ぐいぐいと読ませるまでに昇華されたテクニックはさすがです。昔の相場センセーはこの辺があまりうまくなかったですが、最近の著書はいいですね。もう何の文句もありませんわ。
地味な刑事の主人公・田川もなんというか、平泉成が演じているかのような正統派の刑事なものですから、中途半端なキャラクターよりもずっと好感が持てます。疑問は徹底的に潰していくという姿勢がすごいです。三重、岐阜、愛知、埼玉、宮城、沖縄と被害者の足取りをひたすら追っていく様が刑事の執念を感じさせてくれるのです。

これを退屈という人は警察小説なぞ読まないほうが良いと思います。

表題の「ガラパゴス」ですが、すでに国内だけで発展してきた携帯電話がガラパゴス携帯→ガラケーとなったように、独自の進化を遂げたがゆえに世界標準から取り残されてしまった工業製品を総じてガラパゴスの名を使って揶揄することが当たり前になってしまいました。携帯電話だけでなく、洗濯機や冷蔵庫などの白物家電、テレビやカメラなどの映像・音響製品などがガラパゴス化してきています。
本書はさらに、自動車の分野においてハイブリッドモーター搭載の乗用車もガラパゴス化していると見なしていて、欧州などで主流になりつつあるディーゼルまたは小型エンジン+過給機(ターボ)の分野で日本勢は大きな後れを取っていると論破します。そのうえで、あのシャープが敗者となったことで亀山市の工業団地がとんでもないことになっている点を挙げ、自動車でもガラパゴス化によって企業城下町が過疎化してしまったら日本はどうなるのだろうと本気で心配してくれています。
主人公の田川が事件の本質に迫っていくのは下巻からでありますが、上巻もまた現代日本の縮図をさまざまな捜査過程で示してくれていますので、非常に興味深い展開です。外堀を徐々に埋めていって、後半で一気に本丸に攻め入ってくる刑事たちの迫力ある捜査は読み応えあります。
本書に登場するダーク企業は国内自動車ビッグ4の一角であるトクダモータースと、一代で大手企業にのし上がった人材派遣会社のパーソネル。トクダはハイブリッドで攻勢を仕掛けるも、バッテリーの重さゆえに燃費性能が上がらないため禁じ手を使うようになるという、笑うに笑えない企業です。コストダウンだけに血道をあげて本来の顧客満足を忘れた企業に明日はない、ということを知らしめてくれているわけですが、現実社会でもボディ鋼板裏面の塗装が雑すぎて笑えないクルマが見つかったりしていますので、乗用車というのは本当によく吟味してから乗りたいものですね。
まあ、結局のところ、

本書はリアルすぎて怖い

という点において、「震える牛」と同等、いやそれ以上に暗澹な気分にさせられること請け合いです。殺人の動機がついにここまできたか、との思いは強くなりますが、あまりにも哀しく、そしてリアルにありえそうで怖くなります。最近のミステリでは「何でこんな動機で人を殺すかね〜」と疑問符つけながら読まなければならない作品が増えてきたのですが、本書は違います。あまり考えなかったことでもありますが、この動機は現実に起きても全く不思議ではないというところにこの作品の奥深さがあるのだと思います。
国内経済は2000年代前半からの不況→内需落ち込み→企業業績悪化→そこにリーマン・ショック→円高→輸出型企業の怨嗟→デフレ進行→内需さらに落ち込みのループだったわけですが、そこにアベノミクスというカンフル剤を打ったことで円安→輸出型企業の回復→(本当なら)賃上げ→内需回復、という青写真が待っていてくれるはずでした。しかし現実には賃上げ実施には至らず、一部の大手企業のみがアベノミクスの恩恵を受けているだけにとどまっています。
どうしてこうなったのか。本書は日本経済の失速の原因が何であるのかを遠まわしに、そして比喩的に示唆しているように思えてなりません。

ラストも(以下、ネタバレ)
リアルすぎなんですよ本当に。警察の上層部と大企業の経営層による「手打ち」が現実社会で日常的にあるとは思えませんが、最期はすっきりしない展開でちょっと胸糞悪いです。どうせなら、クビになったパーソネルの高見沢女史が逮捕前に週刊誌にリーク→パーソネル森社長憤死→法廷でも田川刑事が証言台に立つ→米国でリコールの嵐→トクダ松崎社長憤死、くらいのところまで書けば読者的には溜飲が下がる思いだったのにと思います。





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posted by 曹源寺 at 18:26| Comment(0) | TrackBack(0) | あ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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