ミステリ読みまくり日記 〜書評(ネタバレあり)

通勤時間に読む、日本のミステリとその他小説をとりあえず書き留める
 

2017年04月04日

書評793 五十嵐貴久「逸脱捜査 キャリア警部道定聡」

こんにちは、曹源寺です。

駐韓国大使を帰任させるというニュースでようやく理解しましたが、おそらく北朝鮮周辺は相当緊迫しているのだと思います。
なぜかTVの報道では「邦人保護の観点から〜」という岸田外務大臣の発言をすっ飛ばしていますが、金正恩が党委員長に就任してからの断片的な報道をつなぎ合わせれば、政治的な駆け引きが水面下で行われてきていて、今はそれが少しずつ浮かび上がっているような状況ではないかと思います。
そろそろ来るべき災害とは別の趣旨で備蓄を始めたほうがよさそうです。

さて、この前の日曜日の毎日新聞に掲載されたコラムが個人的には痛いなあと思っているので取り上げてみます。長いですが、全文です。
時代の風 森友問題の本質=中島京子・作家(4/2毎日新聞朝刊)
イデオロギー教育の危険
話題になっている森友学園問題で、いちばん私が恐ろしいと思っているのは、安倍晋三首相の妻昭恵氏が100万円渡したかとか、10万円もらったかとかいうことでは、ない。9億円が1億円になった経緯を知りたいのはもちろんだが、恐ろしいと思っているのは、そこでもない。
究極に怖いと感じているのは、事件が発覚して最初のころに流れた、塚本幼稚園の動画だ。
子どもたちが「教育勅語」を唱和する姿は、まさに「洗脳」という言葉を思わせて背筋が凍った。臣民(天皇に支配される民)として、天皇の統治する国に緊急事態(戦争)があったら、自ら志願して死ねと教える戦時中の勅語を、無邪気な声がそらんじてみせるのは、異様だった。
さらに、衝撃だったのは、園児たちが運動会の宣誓で唱えた「日本を悪者として扱っている、中国、韓国が、心改め、歴史教科書でうそを教えないよう、お願いいたします」というフレーズだ。なんてことを子どもに言わせているのだろうか。この子どもたちは大きくなって、中国や韓国の人とどう接するのか。
事件に関連して名前の挙がった人たちは、みなこの塚本幼稚園の教育を知っていたし、賛同していたという。たとえば、昭恵氏は、塚本幼稚園での講演で、この幼稚園で培われた芯が、公立の小学校へ行って損なわれてしまう危険がある、だから「瑞穂の国記念小学院」が必要だという旨の発言をしていた。首相の妻が、日本の公教育を否定する発言をしているわけで、私は、100万円寄付するより深刻だと思っている。
従来積極的に日韓交流行事に参加し、「韓国はだいじな国」と発言してきた昭恵氏なのだから、ヘイトスピーチまがいの教育はだめだと、はっきり言うべきだった。そのほうがどれだけ首相の妻らしいふるまいだったか。
森友学園=塚本幼稚園を支えてきたのが、戦時中の思想に帰ろうとする政治運動であることは、いまやもう誰も否定しないだろう。団体名も出た。「日本会議」だ。現閣僚のほとんどが参加している政治団体だということだ。
もう一つ、戦時中よく使われた言葉を紹介したい。「暴支膺懲(ぼうしようちょう)」というもので、「暴れる支那を懲らしめる」という意味だ。日本が戦争を始める理由として使ったのがこの言葉だった。塚本幼稚園の園児宣誓と似ている。
私が恐ろしいのは、戦時中の思想に帰ろうとする政治運動に賛同している人たちが、日本の教育を変えようとしている事実、そのものだ。関与が取りざたされた政治家の誰一人として、「教育勅語」を否定しなかった。それどころか擁護発言が相次いだ。園児たちのヘイトスピーチを批判する発言も、なかった。籠池泰典氏がしつこいとかうそつきとかいう話は出たし、森友学園の経営や設置認可をめぐる強引さにも批判が集中したが、教育方針を批判した発言は、渦中の政治家からは出なかった。
政権の中枢にある政治家、官僚、民間企業(学校法人)が、ある偏ったイデオロギーに染まり、国民の共有財産の使い方を勝手に決めて、「彼ら」の信奉するイデオロギー教育を実践する施設を作ろうとしていた。そういう事件に私には見える。かつて、「教育勅語」を掲げ、「暴支膺懲」を叫び、戦争に突き進んだ過去を持つこの国で。
いま、「彼ら」の心はもう森友学園とは離れた。いまやもう、あの小学校設置の件は、籠池という変な男が引き起こした変な事件だということで、「彼ら」と切り離そうと必死だ。
一方、「彼ら」、国家主義的な思想を持つ人々の悲願「道徳の教科化」が成り、検定教科書にイデオロギーを盛り込むことができるようになった。さらに、先月末、政府は「『教育勅語』を教材として使用することを否定しない」と閣議決定した。「憲法に反しない形で」と但書(ただしがき)がつくが、戦後、違憲だから衆参両院で排除・失効されたのではないか。なぜ今、と驚愕(きょうがく)する。
私たちが「昭恵氏は私人か公人か」などというさまつなことにとらわれているうちに、気がつくと日本国中が森友学園みたいな学校だらけになっているのではないかと想像して、私は怖い。森友問題が重要なのは、その危険を私たちに教える事件だったからなのだ。

(以上)

中島京子センセーはけっこう反戦的なコラムをあちこちで書かれていますので、いまさら驚きはしませんが、上記のコラムを要約するとこんな感じになってしまうのです。
・森友学園問題で最も重視するべき問題は(認可とか財務ではなく)思想教育の点である
・塚本幼稚園では教育勅語を使って洗脳していておぞましく、異様だ
・戦時中の思想に帰ろうとする動きが教育界にあって、極めて危険である
・道徳の教育化によりイデオロギーを植えつけることができるようになっていて怖い

えーっと、どこから突っ込んで良いものやら。
なるほど、思想教育はダメなんですね。同じコトを補助金寄越せと騒いでいるかの国の教育機関にも言ってください。そして、すべての私立学校に「宗教を持ち込むな」と言ってほしいものです。仏教もキリスト教も新興宗教も全部NGですね。学校内の敷地に礼拝堂を設置するなどもってのほかですね。
日教組にも共産党のポスターを貼るなと徹底させないといけません。すべての教育機関から思想を排除しなければいけません。

でも、思想と道徳の境界線はどこにあるんでしょうか。教育勅語に書かれていることはほとんど道徳です。親を大切にしろとか、そういうやつです。それに、教育勅語の公布は明治23年です。戦前も戦前、日露戦争よりも前の話です。「戦時中の悪い思想」というレッテルを貼るのはいかがなものかと。

そもそも、この文章の中から滲み出てくるもののひとつに、「戦前の思想はすべてが悪」というレッテル貼りがなされているというのがあります。中島センセーの直木賞作品「小さいおうち」では戦前の日本の家庭をリアルに描写しています。それはごく普通の家庭であり、当時の人々の日常です。悪の思想に染まった国民が戦争に突き進んだといったような描写は一切ありません。なのに中島センセーはこのコラムで戦前の教育がまるで悪の権化であるかのように指摘するのです。

当たり前ですが、戦争に突き進んだのは思想教育のせいではなくて、軍部の暴走と外交の失敗のせいです。大多数の国民はこれっぽっちも悪くありません。ましてや、教育のせいでもないはずです。
戦前の教育に染まっていた我らがご先祖様は悪なのですかね?

そして最後に、中島センセーは「森友学園のような学校だらけになっているのではないかと想像して、私は怖い」とまで書いてしまっています。森友学園の卒業生がこの記事を見たら悲しむでしょうね。中島センセーは森友学園の教育を否定しました。これはイコール、森友学園で学んだ人たちの精神性をも否定したと同じことです。しかも200万部を超える新聞紙上で堂々と否定したのです。「森友学園の教育は間違っているから、そこで学んだお前という人間も間違っている」と言っているに等しいのです。

このコラムに賛同する人が結構いて、ツイッターでリプライしているのを目にしたのですが、自分としてはこの方が怖いです。反戦的に振る舞う人のほうが実は差別的で好戦的なのではないかと思ってしまいますわ。

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内容(KADOKAWA HPより)
現場経験はゼロ、相方は一匹狼な美人刑事
若きエリートが、5つの完全犯罪に挑む!
『リカ』『リターン』の俊英による痛快ミステリ
東大卒キャリアとして出世街道を歩んでいた道定聡警部は、部下の不祥事により突如、経験のない捜査現場の前線に配属された。美人だがガサツな山口ヒカルとコンビを組まされ、新宿OLの高層マンション飛び降り、新興宗教の教祖殺人など、解決不可能と思われた難解奇妙な事件の担当になる。常にやる気のないヒカルだが、時に天才的な直観を発揮して事態を集束に導いていき――。 “迷”コンビの活躍を描く、爽快な連作短編集。


曹源寺評価★★★★
本書は2013年12月に単行本化されていた「キャリア警部 道定聡の苦悩」が2016年9月に文庫になったものです。単行本のときは知りませんでした。
五十嵐センセーの軽いノリで読める探偵小説とか警察小説はどれも非常に読みやすいし、きちんとオチもつけてくれるし、キャラクター造型もしっかりしているので楽しく読めます。
本書では東大卒のキャリア警察官である道定警部と、警視庁捜査一課の美人刑事山口ヒカルの迷コンビが活躍します。道定は20代だが160センチ未満の抜け毛に悩むデブ、ヒカルは抜群のプロポーションで美人のくせに大食漢でエロDVD鑑賞が趣味というものすごい設定です。
あれ、なんだかデジャブを感じるんですが、、、、
つい先日読了した矢月秀作センセーの「サイドキック」はチビデブのおっさん刑事と彼を慕う美人刑事のコンビでした。なんだか

流行ってんのか?

というくらいにたような設定ですね笑
あちらは中年のおっさんですが、こちらはキャリアで若手なのにおっさんくさい童貞(!?)警部という設定。女性刑事もあちらは美人で優秀、こちらは美人だがとてつもない変人ですから、微妙に異なりますね。
設定はまあこんなもんでしょうか。警察小説は設定よりも内容重視でいきたいですね。本書は軽く読める連作短編ですが、いずれもちょっとした謎解きが用意されていますので、それなりに楽しめます。このへんの造りこみのうまさは五十嵐センセーならではといったところでしょうか。読んで損はない作品といえるでしょう。





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posted by 曹源寺 at 15:34| Comment(0) | TrackBack(0) | あ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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