ミステリ読みまくり日記 〜書評(ネタバレあり)

通勤時間に読む、日本のミステリとその他小説をとりあえず書き留める
 

2017年05月09日

書評800 柚月裕子「慈雨」

こんにちは、曹源寺です。

GW中はすっかり更新をさぼってしまいました。ほとんど家にいたのですが、プチリフォームみたいなことばかりしていて、毎日ヘロヘロになっていました。
5月最初の投稿は祈念すべき800回目の更新ということになります。888888888888

えー、このところ森友学園問題やら北朝鮮問題やら、世間をにぎわせてきた話題は着地点が見当たらないまま浮遊しているようなものが多くて、マスゴミさんはさぞ悩んでいらっしゃると思いますが、そんななかで今度は安倍首相が(というか政府が)改憲を期限付きで実行すると明言し始めました。
ただ、その手法は「憲法第9条の1項と2項を維持して、新たに自衛隊を合憲とするべく3項を追加する」といった手法だったり、あるいは「高等教育無償化を明記する」といった野党も反対しないだろうという改憲案だったりするわけです。
ちょっと姑息な気がしないでもないですが、まずは改憲の実績を作ろうとする試みはダメとは言いにくいですね。なにせ、70年間も放置されてきたわけですから。
衆参両議院でいずれも改憲に必要な3分の2以上の議席を確保している現在、「改憲するか否か」の議論ではなくて、「どこをどうやって改憲するか」の議論になるのは当然といえば当然です。この背景を無視して「議論が深まっていない」とかいろいろ抜かして改憲そのものを阻止しようとする勢力が妨害工作を仕掛けようとするのは目に見えていますが、少なくとも「議論を深めよう」とする動きだけは止めないでいただきたいものです。
マスゴミにお願いしておきたいことは、議論を深めるということは一方的な意見のみを紹介するのではなく、両論をきちんと併記して、その判断は読者あるいは視聴者にゆだねて欲しいということです。
まあ、新聞社は自分たちの意見を載せるのは良いですが、テレビはダメでしょう。電波は国民の財産であるということを忘れずに。

個人的には、自衛隊の存在が違憲であるとする判断も憲法学者らに根強くあるという現状において、せめて自衛隊の存在を認め、自衛権を明記する、ということくらいはやってほしいと思っています(だから3項の追加などという手段はちょっとどうかと思うのです)。


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内容(集英社HPより)
16年前の幼女殺害と酷似した事件が発生。かつて刑事として捜査にあたった神場は、退職した身で現在の事件を追い始める。消せない罪悪感を抱えながら──。元警察官の魂の彷徨を描く傑作ミステリー。


曹源寺評価★★★★★
孤狼の血」で「第69回日本推理作家協会賞」「本の雑誌が選ぶ2015年度ベスト10」第2位、「2016年度このミステリーがすごい!」第3位にランクインした柚月センセーですが、自分もこの作品で一気にファンになってしまいました。「孤狼の血」は映画化もされるそうですね。
こういう時流に乗ってしまった作家というのは、だいたい次もはずさないものですね。本書はやはりミステリ色満載の作品ですが、異色なのは定年退職した元警察官が四国八十八箇所の巡礼を行いながら、現在進行中の犯罪を通して自分を見つめなおしつつも事件を解決に導いていくという、なんとも珍しい設定となっているところでしょうか。
事件は主人公の地元・群馬で発生していますが、主人公の神場はお遍路真っ最中であります。そして、お遍路の最中に出会った人たちや、妻との会話を通して過去の事件、過去の自分と向き合います。そこには駐在所に半ば島流し的に送り込まれても耐え忍び、県警の捜査一課に抜擢されて定年を迎えた神場の姿が見えます。その一方で、16年前の女児誘拐事件ではまだ信憑性の薄いDNA鑑定に頼りすぎて誤認逮捕=冤罪を生み出してしまったのではないかという疑念を抱えながら生きてきた葛藤も浮かび上がってきます。
そして現在、16年前と同じような女児誘拐殺人事件が発生してしまい、過去の苦悩と戦いながら巡礼を続ける神場、そして神場の娘と交際している優秀な元部下の緒方刑事。神場に事件解決を託された緒方もまた、自分の父親になろうとする男の犯した過去を糾弾せざる得ない立場に苦悩します。
事件をひとつの大きな柱とするならば、こうしたサイドストーリーは単なる味付けに過ぎない場合が多いのですが、本書はこれらこそが重厚なテーマを持った問いかけであり、単なる味付けに終わらない骨太なヒューマンドラマとして描かれています。
食べ物に例えるなら、ローストビーフですね。ソースのないローストビーフは大してうまくないですが、たまねぎ系のさっぱりしたソースが加わると至高の味になるのと同じです。本書も事件そのものは大して珍しくもないのですが、そこに数十年間熟成を重ねた太いエピソードが混ざることによってストーリー全体をものすごい深いものにしているわけです。

過去のエピソードがあまりにもドラマチックでグッとくるストーリー

ですので、お遍路さんの動きそのものがあまり面白くもないのに、全体としてはカッチリとまとまっているのは、構成もさることながら、柚月センセーの筆力もまた素晴らしいからにほかならないのでしょう。泣けるとか、そういうのではないけれども、グッとくるものがある。そんな作品でした。





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posted by 曹源寺 at 16:16| Comment(0) | TrackBack(0) | や行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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