ミステリ読みまくり日記 〜書評(ネタバレあり)

通勤時間に読む、日本のミステリとその他小説をとりあえず書き留める
 

2017年05月12日

書評801 太田愛「天上の葦(上)(下)」

こんにちは、曹源寺です。

本日の書評で紹介する作品「天上の葦」では、太平洋戦争の東京大空襲が回想シーンで出てきます。
民間人への無差別爆撃というのは戦争法で禁じられているにもかかわらず、戦後の東京裁判でも採り上げられることなく現在に至っています。わずか数時間で東京都民10万人が爆死あるいは焼死という、とんでもない殺戮でありましたが、かの戦争における悲惨なシーンでは「沖縄地上戦」「広島・長崎への原爆投下」「バターン死の行進」「アッツ島玉砕」「ガダルカナルの戦い」「サイパン陥落」「カミカゼ特攻隊」といった多くの戦争の悲惨さを綴るキーワードとともに埋もれてしまっているような気がするのは自分だけでしょうか。本書の回想シーンは結構生々しい描写ですので注意が必要ですが、東京大空襲の悲惨さは(米国の狡さだけではなく、B29からビラを撒いて事前警告している事実、大本営が疎開を大々的に行わなかった事実、新聞もそれを黙殺した事実、などなどすべてひっくるめて)語り継がれて然るべしだと思います。

自分の母親は1934年(昭和9年)生まれの新宿区民だったのですが、終戦間際には山梨の甲府だか勝沼だかの方へ疎開しました。終戦後に帰ってきたら案の定焼け野原で、そこには見知らぬ輩が勝手に土地を占領していたそうです。母の父(つまり祖父)はお人よしだったので、その土地を諦め、神奈川県南部に移り住んだと聞きました。あーもったいねー。

小説のネタとして「かの戦争」が採り上げられることは往々にしてありますが、さすがに2017年にもなると当時の生き証人を出すには御年90歳を超えるご老体を登場させねばならず、だいぶ苦しい展開を余儀なくされてきていますね。90歳代の方々が数多く登場する小説というのもどうなのかと思いますし、そろそろ限界な気がしなくもないです。

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内容(KADOKAWA HPより)
(上巻)
生放送に映った不審死と公安警察官失踪の真相とは?感動のサスペンス巨編!
白昼、老人が渋谷のスクランブル交差点で何もない空を指さして絶命した。正光秀雄96歳。死の間際、正光はあの空に何を見ていたのか。それを突き止めれば一千万円の報酬を支払う。興信所を営む鑓水と修司のもとに不可解な依頼が舞い込む。そして老人が死んだ同じ日、ひとりの公安警察官が忽然と姿を消した。その捜索を極秘裏に命じられる停職中の刑事・相馬。廃屋に残された夥しい血痕、老人のポケットから見つかった大手テレビ局社長の名刺、遠い過去から届いた一枚の葉書、そして闇の中の孔雀……。二つの事件がひとつに結ばれた先には、社会を一変させる犯罪が仕組まれていた!? 鑓水、修司、相馬の三人が最大の謎に挑む。感動のクライムサスペンス巨編!
(下巻)
日常を静かに破壊する犯罪。 気づいたのは たった二人だけだった。
失踪した公安警察官を追って、鑓水、修司、相馬の三人が辿り着いたのは瀬戸内海の離島だった。山頂に高射砲台跡の残る因習の島。そこでは、渋谷で老人が絶命した瞬間から、誰もが思いもよらないかたちで大きな歯車が回り始めていた。誰が敵で誰が味方なのか。あの日、この島で何が起こったのか。穏やかな島の営みの裏に隠された巧妙なトリックを暴いた時、あまりに痛ましい真実の扉が開かれる。
―君は君で、僕は僕で、最善を尽くさなければならない。
すべての思いを引き受け、鑓水たちは力を尽くして巨大な敵に立ち向かう。「犯罪者」「幻夏」(日本推理作家協会賞候補作)に続く待望の1800枚巨編!


曹源寺評価★★★★
テレビドラマの脚本家から小説デビューして三作目となった太田愛センセーの本作でありますが、今回もまた上下巻1,800枚の書き下ろしということで濃密な作品に仕上がっておりました。
デビュー作の「犯罪者 クリミナル」から登場人物が変わっていないというのもすごいことです。いつものように鑓水、修司の探偵コンビに加えて、現役警察官の相馬、カメラマンの鳥山といった面々が事件に遭遇し、これを解決していきます。
秩父の介護施設にいた老人・正光がなぜ天を指して渋谷のスクランブル交差点で倒れたのか。なぜ、正光の死の直前の行動を探る人がいるのか。このあたりの謎はとても映像的で、太田センセーらしい仕掛けが満載です。同時進行で警察官が行方不明になっているという事件を絡めてきますが、これがどうやってつながっていくのか、という展開にもワクワクです。
事件の鍵を瀬戸内海の離島に求め、濃密な人間関係を背景としたコンゲーム的な場面もありますが、こうした演出もなんとなくテレビっぽい気がします。
テレビや新聞といった媒体の特性を熟知している太田センセーは、さらにネットとのBUZZ効果も狙って主人公に騒動を引き起こそうとしているのですが、このあたりの描写はもろに

リアルすぎて生々しいので

現実の世界とリンクして考えてしまいそうです。
ちょうど、テレビドラマではフジ系列の「CRISIS(クライシス)」があの金城和紀センセー作品として放映されており、5月9日の放送ではヤクザ同士の抗争にみせかけて組を潰した政治家が、公安のリークによって児ポ法で逮捕されるという筋書きの回でありました。さらに、今週発売の週刊新潮にはジャーナリストの山口敬之氏が準強姦容疑をもみ消したといった記事が出たりしまして、なんだかとても陰謀の匂いがあちこちに漂っておりました。
本書もまた(ネタバレですが)、


公安の筋書きによる壮大な陰謀を描いたものでありましたので、なんとまあ世の中には陰謀が溢れかえっているのかとあきれてしまいます。

ストーリーに話を戻しますと、中盤の離島のシーンはもっとスペクタクルな展開をイメージしていたので、ちょっと冗長な感じがなくもないですが、それ以外は軽やかなテンポでぐいぐいと読ませてくれました。
評価はもしかしたら多少分かれるかもしれませんが、個人的には満足です。





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posted by 曹源寺 at 16:43| Comment(0) | TrackBack(0) | あ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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