ミステリ読みまくり日記 〜書評(ネタバレあり)

通勤時間に読む、日本のミステリとその他小説をとりあえず書き留める
 

2017年06月09日

書評809 石持浅海「鎮憎師」

こんにちは、曹源寺です。

ゼロ戦里帰りプロジェクト」というのがありまして、先日は現代の空にゼロ戦を飛ばしている姿が話題になっていました。
そこに噛み付いたのが「AERA」の記者、竹下郁子氏であります。氏はツイッターで「TLに零戦を讃える人がたくさんいて、考え込んでしまう。「平和を考える機会」にはなってないようだけど」と書き込んで炎上してしまいました。
詳細はTogetterなどにまとめられていますのでそちらをご覧いただくとして、ここで自分が考えさせられたのは次の1点に集約されます。それは
・「兵器」と「文化遺産」の境界線と、文化遺産に精神性を求めることの是非
です。
竹下氏とその他の方々のツイートで中心となったのは「熊本城だって兵器ですよ」「ゼロ戦の復活を否定するなら熊本城の復興も否定しないのはおかしい」といったツイートに対して、竹下氏は「熊本城ゼロ戦を同一視するのは理解できない」「戦争への反省と「零戦カッコイイ〜」が両立する精神状態というのがマジで分からん」「頭が痛い...。これはきちんと記事にした方がいいな」といったやりとりです。
おそらくですが、竹下氏にとってはゼロ戦も戦艦大和も単なる殺人兵器でしかなくて、その一方で熊本城や姫路城は貴重な文化遺産という「刷り込み」がなされているのでしょう。その刷り込みは兵器に精神性を持たせていることの証左でもあると思います。
自分は日本刀であれ戦車であれ、ましてや戦闘機であれ、それらは武器・兵器であって殺人の道具であることを否定しませんが、そこに「だからこれを見て戦争を反省しろ」とか言うのはおかしいのではないかと思うのです。戦争を仕掛けるのは人間であって、兵器は道具でしかないわけです。道具=モノに精神性を持たせるのは単なるレッテル貼りであって、「象徴」を作り出したいだけの行為でしかないと思います。最近では「戦犯旗」などといっていちゃもんをつけてくる輩などがそうですね。
ツイートのなかには「ゼロ戦の技術陣は、戦後のYS11の設計にも関わり、爆撃機「銀河」の技術は、新幹線の車体の設計に応用、地対空誘導弾「奮龍」のVHFによる誘導技術は、テレビジョン放送に生かされた。」といった技術論からの反駁もありましたが、この辺はあまり論点になっていません。中心になっていたのは「熊本城とゼロ戦は同じ兵器なのだからゼロ戦復活を否定するのは熊本城復興を否定するのと同じ」「ゼロ戦と熊本城では歴史的経緯が違うのでそこを見逃していてはいけない」というように、兵器なのか文化遺産なのか、あるいは精神的な価値の違いを認めるべきなのか、といった点に集約されそうです。
深読みしていくと、「兵器が文化遺産になるためには歴史を積み重ねなければいけない」といった論調が見え隠れしていました。本当にそうなのかなあ。もしそうだとするなら、その転換点はどこにあるのかなあ。東京湾に浮かぶ猿島の砲台跡は兵器としての価値はありませんが、横須賀市は文化遺産的な扱いをしていますね。逆に兵器としての有用性を失っているから文化遺産になりうるのか。ゼロ戦はF35と戦ったらあっという間に負けるでしょうから、すでに兵器としての価値はないと思いますが。

まあ、個人的な結論としては、ゼロ戦が飛行する姿を見て元気をもらった人も大勢いらっしゃるわけで、なんでもかんでもアレルギー反応のように「戦争を賛美するな」「過去の戦争への反省が足りない!」などと目くじらを立てる人は「文化遺産」と「兵器」の境界線に関する考察が足りていないということと、技術的な意味をはじめとした多様な見方があることさえも否定して、レッテルを貼ることで思考停止しているということが言えるのではないかと思います。

※ツイッターから複数の引用をさせていただきましたこと、お許しください。

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内容(光文社HPより)
赤垣真穂は学生時代のサークル仲間の結婚式の二次会に招かれた。その翌日、仲間の一人が死体となって発見される。これは、三年前にあった“事件”の復讐なのか!?
真穂は叔父から「鎮憎師」なる人物を紹介される……。
「ちんぞうし?」
わたしは訊き返した。知らない言葉だ。
「そう」順司叔父は、前方を見ながらうなずいた。「『憎しみを鎮める人』ってくらいの意味だよ(中略)鎮魂という意味じゃない。事件の話を聞いて、上手に終わらせる方法を考えてくれる人だ」(本文より)


曹源寺評価★★★★★
石持センセー久々の長編であります。
横浜理科大学のテニスサークルOBOGが久しぶりに仲間の結婚式二次会に集結した。そこには3年前に彼氏に殺されかけた女性、熊木夏蓮がサプライズで登場した。熊木は事件後に地元の広島に帰っていたため、誰もその行方を知らなかったが、二次会幹事の桶川ひろみが探し当てたのだ。久々の邂逅に喜ぶ7人の仲間だったが、翌日、熊木は渋谷の路上で変死体となって発見された。
3年前の事件と今回の事件、人間模様がさまざまに交錯したなかで浮かび上がるのは「復讐」であった。次の殺人を止めるために真穂は弁護士の伯父に相談する。そこで紹介されたのは吉祥寺に住む「鎮憎師」なる人物だった。
うーん、久々の長編でしたが、正直イマイチかなぁ。
主人公の真穂を含め、7人のサークル仲間が容疑者になる設定ですので、本格ミステリなどにありそうな展開を期待してしまいました。容疑者の絞り込みの過程や、推理を働かせていく展開はそれなりに読めます。
しかし、タイトルの「鎮憎師」なる沖田という男(とその妹)がですね、(ネタバレ注意)

全然仕事してねえ

んですよ。
中盤とラストにちょこっと出てきただけで、ちょっと一言告げてみた、というくらいしか登場してこないんですね。なんじゃこりゃ。
中盤は非常に退屈で、中だるみという単語が浮かびます。ちっとも進まない展開にイライラです。ラストもなんだかショボーンな感じで、犯人がどうやって殺害したのかとか、紐はどうやって調達したのか、とか言及もありません。
そもそも、この事件は警察が1日で解決できる程度の謎でしかないので、何週間も引っ張るはずがないのです(容疑者全員の○○を調べれば一発というレベル)。こうしたリアリティに欠けるレベルのミステリはどうしても途中で冷めてしまいます。
オープニングはかなりショッキングな始まり方をしますので、期待してしまいましたが、

本筋とは何にも関係なかったりして

それも落胆の原因だったりします。いろいろな意味で残念な一冊でした。





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posted by 曹源寺 at 16:27| Comment(0) | TrackBack(0) | あ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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