ミステリ読みまくり日記 〜書評(ネタバレあり)

通勤時間に読む、日本のミステリとその他小説をとりあえず書き留める
 

2017年06月16日

書評811 相場英雄「不発弾」

こんにちは、曹源寺です。

毎週火曜日の22時にテレビ東京系で放映している「ガイアの夜明け」で、6月13日に放送されたのが「再び、巨大“規制”に挑む!」と題したバター不足をテーマにした回でありました。巷では「神回」とまで言われるようになったこのバター問題ですが、テレ東サイドのやや恣意的な編集はさておき、問題の根っこについては非常に理解が進んだのではないかと思います。
<酪農業者側の問題>
JAに入らないと飼料の仕入れや融資ができなくなるのでやむを得ず入る
指定業者に生乳を送ることで安定した収入を得ることができる代わりに、冒険をしなくなる
どうせ他の業者の生乳と混ぜられるのだからと、品質向上に意欲が沸かなくなる
バター用の生乳は買い取り価格が飲料用より低いので、納入を嫌う
<JA、ホクレン、農水省側の問題>
バターは関税率360%という異常な高率で、酪農家保護の最たるものである
バターの輸入は独立行政法人農畜産業振興機構が仕切っており、輸入品は極めて高額になってしまっている
上記団体は農林水産省の天下り団体である
国内流通をがっしり抑えているがガチガチの固定構造になっており、それ以上に輸出に関しては及び腰である

実際にバターは不足気味でありますが、安定流通の名の下に自由度の低い操業が続いています。そこに風穴を開けようとしているのがMMJという群馬県の企業です。MMJは独自の取り組みによって、生産者側がブランド化したりニーズの高い地域に商品を送り込んだりすることをサポートしています。まだ売上高は100億円にも満たない規模ですが、着実に販路を広げています。

北海道の酪農業者がMMJと組んで新たな商品開発や流通開拓を行っている姿を特集してくれましたが、これに対してはホクレンなどの既存業者のみならず、一般の酪農家も批判の声をツイッターなどで上げているのを見ることができます。
曰く、「自分だけ買い取り価格の高いMMJに卸すのはずるい」「周りの協力があってこその酪農家なのに抜け駆けするな」「飼料だけ買えばいいってもんじゃない」等等。

しかし、消費者からみれば安定的に商品を供給してくれているホクレンなどの大手業者はうれしい存在であるものの、既得権益にまみれて新たな取り組みを否定する(どころか邪魔をする)のはいかがなものかと思ってしまいます。放映のなかにあったJAの「賦課金」問題はまったく意味が分かりません。
それに他の酪農家の発言はやっかみ以外の何者でもありません。どんなビジネスでも高リターンには高リスクが伴うものです。長年、ぬるま湯に浸かってしまっている人たちはこうしたことも忘れてしまうようです。

自分は保護貿易主義ではありませんし、ましてや新自由主義者でもありませんが、規制の壁を乗り越えてブルー・オーシャンに乗り出そうとしている人たちは応援したいなあと思います。何と言ってもヤマト運輸の小倉昌男氏(故人)が運輸省(当時)と大バトルを繰り広げて、現在のような宅配便の市場が出来上がったという前例がありますので、新たなマーケットの創造にはお役人とのバトルは避けて通れない道ではないかと思っています。
品不足が露呈して、システムとしての欠陥が浮き彫りになったのであれば、「国民への安定供給」のお題目はもはや通じません。規制あるところに成長なし。「ぬるま湯」を残しても熱湯と混ぜるべからず。バターがもっと安くなることを祈ります。
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内容(新潮社HPより)
日本大手の電機企業による巨額の粉飾決算。警視庁キャリア・小堀秀明は、事件の背後に、ある金融コンサルタントの存在を掴む。バブル直前に証券会社に入社し、激動の金融業界を生き延びた男が仕込んだ「不発弾」は、予想を超える規模でこの国を蝕んでいた――『震える牛』『ガラパゴス』の著者が日本経済界最大のタブーに挑む!


曹源寺評価★★★★
すっかり社会派ミステリの旗手にのし上がってきた相場センセーですが、もともと通信社の記者であり、経済関係のネタのほうが本職であります。あの池井戸潤センセーも銀行出身で半沢直樹シリーズなどが有名ですが、金融ネタや経済ネタというよりは社会問題ネタ、時事ネタのほうに行ってしまわれましたね。
相場センセーの得意分野に「警視庁捜査第二課モノ」というのがありまして、捜査一課と違って人がバンバン死ぬ世界ではないのでドラマ仕立てにしにくいという難点があるものの、本書のように経済ネタでも面白い本はあるんやねー、というお手本のような作品を出しておられます。
本書は上場の電機メーカー大手、三田電機による巨額の不正経理問題(粉飾決算問題とも言う)を立件したい警視庁捜査二課が、事件解明の為にある金融コンサルタントに目をつけ、これを追うというストーリーになっていますが、これと同時並行でこの金融コンサルタント、古賀遼なる人物にスポットを当て、彼の生い立ちからバブル期を駆け抜けていくサブストーリーが展開していきます。
じりじりと古賀の周囲を固めていく捜査二課のキャリア捜査官・小堀と、バブル崩壊後に暗躍した古賀らによる「不発弾」の正体がちらちらと見えてくるところが、金融サスペンスとしては出色の出来だと思います。
なんといってもすごいのは、実在の事件を臨場感たっぷりに描いているところでありましょう。某飲料メーカーによる巨額損失事件を含む「プリンストン債事件」をはじめ、いわゆる仕組み債による損失隠しが常態化した90年代末期ですが、金融の現場ではまさかこんなことが行われていたのかという仰天の構図を見事に浮かび上がらせています。
そして、バブル時代に実在した事件も数多く登場してきます。証券会社による「預け損失」「飛ばし」「損失補てん」といった業界特有の悪慣習にメスが入った1989年、大蔵省(当時)による「不動産総量規制」も行われた1990年、バブルはこの2つの規制から始まっています。そういえば、自分の周囲にもバブルに浮かれて金融機関に入社した人は結構いました。消息は知りませんが、聞いた話では現在も金融で働いている人は1割も残っていないようです。90年代は金融、2000年代は流通、そして2010年代は電機がいろいろと大変な時代を過ごされたように思います。これらの業界のなかには本書の指摘するように「飛ばし」や「M&A」などの手法によって損失を隠してきた企業が少なからずあって、実際に爆発してきたという経緯があります。代表的なものが本書の「ノアレ」であり、「ゼウス光学」であるということです(ゼウスはあまり描写されていませんが)。
おっと話が逸れました。
これらの「不発弾」がバブル崩壊から四半世紀を経過した今も、いくつかの企業の財務諸表のなかに埋まっているのかと思うと、

株式投資など恐くてできませんわ。

一応、備忘録として本書に登場する架空の企業を現実に置き換えておきます。
三田電機→東芝?
村田証券→野村證券
山屋証券→山一證券
国民証券→国際証券?
CBFS銀行→CSFP(クレディ・スイス・ファイナンシャル・プロダクツ)?
ヘルマン→クレスベール証券?
ノアレ→ヤクルト
ゼウス光学→オリンパス
ソラー電子→ソニー
日本逓信→日本郵便

ラストはちょっとばかり納得しにくい点がありますが、それでも日本の“裏”経済史を紐解くような迫真の展開には納得感の高い作品であると言って良いのだとおもいます。





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posted by 曹源寺 at 16:34| Comment(0) | TrackBack(0) | あ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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