ミステリ読みまくり日記 〜書評(ネタバレあり)

通勤時間に読む、日本のミステリとその他小説をとりあえず書き留める
 

カテゴリー:あ行の作家

2017年08月04日

書評825 大倉崇裕「クジャクを愛した容疑者 警視庁いきもの係」

こんにちは、曹源寺です。

積水ハウスが8月2日にプレスリリースした「分譲マンション用地の購入に関する取引事故につきまして」という文書が、久々の大型経済事件として話題を集めました。
どんな事件か、すごく簡単に言うと「わが社は不動産取引で詐欺師にまんまと67億円をだまし取られました」という内容です。
本当に久々の大型事件ですが、なぜかあまり続報がないですね。事件の背景とか犯人像とか取引内容の実態とか、いろいろ知りたいことは多いんですが、簡単に追える内容でもなさそうです。
さて、大型経済事件といえば「コスモポリタン事件」「イトマン事件」「石橋産業事件」「雅叙園観光事件」など、90年代の巨額詐欺事件が思いつきますが、2000年以降はあまり目立ったものがない(のか自分が知らないだけなのか)ですね。パナマ文書なんて、本当はめちゃくちゃすごい事件のはずですが、マスゴミが忖度して大手企業の名前を出さなかったものだからあっという間に下火になりました。
この事件をいち早く報じたのはWebニュースを配信する「東京アウトローズWEB速報版」でした。複数の地面師が暗躍しているという内容で、早くからアングラで蠢いている怪しい人脈を追求していたわけです。
たしか、昨年、新橋で大地主の女性が行方不明となった事件(その後、遺体発見)もWebニュースをメインにしている媒体がすっぱ抜いたんじゃなかったかしら。いずれにせよ、大手マスゴミでは絶対にスクープもできないような事件は、なんだか血が騒ぎます。裏社会の実態をすき間から覗き込んだような、見てはいけないものを見てしまったかのような、そんな気にさせられます。
しかし、Webを中心に活動されているジャーナリストの方々も、それこそピンからキリまでありまして、個人的な感想ですがだいたい半分以上は単なる売文屋でしかなく、調査報道をしっかり行っておられるのはほんの一握りでしょう。思想的にヤバイ人もいますが、事件を追求するという姿勢だけ見れば素晴らしいお方もいらっしゃいますので、そんな人は応援したいですね。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

内容(講談社HPより)
2017年7月から連続テレビドラマ化!
大人気「警視庁いきもの係」シリーズ待望の第4弾!
ピラニア、クジャク、ハリネズミが登場する傑作中編3作を収録!
学同院大学で起きた殺人事件の容疑者は、クジャク愛好会の奇人大学生! だが無実を信じる警視庁いきもの係の名(迷)コンビ、窓際警部補・須藤友三と動物オタクの女性巡査・薄圭子はアニマル推理を繰り広げ、事件の裏側に潜むもうひとつの犯罪を探り当てる!? 犯人確定のカギはクジャクの「アレ」!?
警視庁の「いきもの係」というべき、総務部動植物管理係の名コンビ、窓際警部補・須藤友三(すどう・ともぞう)と動物オタクの女性巡査・薄圭子(うすき・けいこ)のアニマル推理が楽しめます!


曹源寺評価★★★★
今タームでテレビドラマ化された「警視庁いきもの係」シリーズの最新刊です。須藤友三警部補が渡部篤郎、薄圭子巡査が橋本環奈という、まったく原作を無視したキャラクター設定には少々頭にくるものがありますが、まあドラマなんてこんなもんでしょう。
さて、本作では「ピラニア」「クジャク」「ハリネズミ」の中編3作を収録してあります。このシリーズは短編よりも、そして長編よりも、中編くらいの作品のほうが読みやすくて面白いなあと思います。短編だとあっさりしすぎていて、長編だと冗長に思えるのかもしれません。
「ピラニア」では、マンションの一室で発見された他殺体、その部屋にはピラニアの飼育施設があり、水槽の中にはある会社の社章があったというストーリー。
「クジャク」では、大学生が他殺体で発見される。手にはクジャクの羽根が。目白にある学同院大学の敷地内にはクジャクとその卵が孵化中であった。
「ハリネズミ」では、ある女性が襲われて大けがを負う。彼女はなぜ襲われたのか。飼っているハリネズミの生態をつぶさに追っていくと、その裏にある陰謀が隠されていた。
最後のハリネズミの章は薄圭子でなければ絶対に解くことができなかった事件として、記憶に残りそうな内容です。我が家もハリネズミを飼っていますので、楽しく読むことができました。
「クジャク」では、作者大倉センセーの母校である学習院大学が学同院大学として描かれています。また、学同院大学はセンセーの「オチケン!」シリーズの舞台でもありますので非常になつかしく、素晴らしい描写になっています。さらに、本書に登場するクジャクの名前「サカタニ」と「スカイレインボーハリケーンゴッドフェニックス」は京都大学クジャク同好会に実在するらしいですね。まんま使っているところに、大倉センセーのクジャクに対する愛情とリスペクトがうかがえます。
これだけでも十分に笑えますが、本書シリーズの楽しさはやはり薄圭子と須藤友三のボケツッコミでありましょう。日本人なのに日本語に不自由している薄圭子の天然ボケに、須藤友三が冷静にツッコミを入れるというこの会話。

回を追うごとにこのシリーズは面白さを増してきました。

ドラマなど関係なく長期で続けていただきたいシリーズです。





にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

いつもご覧いただき、ありがとうございます。
応援よろしくお願いします。。
banner2[1].gif
posted by 曹源寺 at 18:20| Comment(0) | あ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年06月20日

書評812 緒川怜「誘拐捜査」

こんにちは、曹源寺です。

JX通信社という会社の代表の方がYahoo!ニュースに寄稿された(のかはわかりませんが)記事が、なかなかに考えさせられる内容だったので。

東京新聞読者の安倍政権支持率は「5%」、対する産経新聞読者では「86%」― 都内世論調査番外編(6/20)

報道系ベンチャーのJX通信社では、6月17・18日の両日に実施した東京都内での世論調査の中で、各新聞の読者ごとに安倍政権、小池百合子東京都知事の支持率をそれぞれ調査した。調査の概要や実施方法は、本調査の詳報記事(リンク先)の通りだ。
この結果、安倍政権の支持率は各新聞毎にはっきりと分かれる傾向が見えた。
各新聞読者層別の安倍政権支持率・不支持率

特徴的なのは産経新聞と東京新聞だ。産経新聞読者のなかでの政権支持率は86%に達した一方で、東京新聞読者ではわずか5%と極端な差が表れている。不支持率は産経新聞読者が6%なのに対して、東京新聞読者は77%と、そのまま支持率を裏返した結果となった。
朝日新聞、毎日新聞の読者も政権支持率はそれぞれ14%と9%にとどまり、かなり低い。
安倍首相が国会答弁で「熟読」を求めたことで話題になった読売新聞の読者層では、政権支持率は43%と、不支持率29%を上回っている。
また、唯一の経済紙である日本経済新聞では、支持率が41%なのに対して不支持率は38%と拮抗した。
全体の傾向として、各社の社説や右・左といった報道姿勢の「立ち位置」と、政権支持率の傾向とがかなり一致していると言える。
各新聞読者層別の小池百合子東京都知事支持率・不支持率
対照的なのが小池知事の支持動向だ。産経新聞を除く全ての社の読者層で、支持が不支持を上回った。継続的に公開してきた都内世論調査でも、各政党支持層から幅広く支持を得てきた傾向を指摘しているが、「新聞読者層」という切り口でも同様の傾向が見える。 (以上)

図表などはリンク先を参照いただくとして、安倍政権の支持率、数字としては以下の通りになります。
        支持する  どちらとも言えない  支持しない
産経新聞    86     8          5
読売新聞    43     28         29
日本経済新聞  41     21         38
朝日新聞    14     16         70
毎日新聞    9     31          59
東京新聞    5     18          77
その他・答えない 30    29         48

この調査結果、サンプル数が少ないので統計的な意味はあまりないのかもしれませんが、少なくとも購読する新聞の種類によって支持層がこれだけ違うということは、新聞媒体とは少なくとも「公正・中立」ではないだろうということだと思います。
卵が先か、鶏が先か、という議論になるのも嫌ですが、「イデオロギー的に右だから産経新聞」なのか「産経新聞を読んでいるからイデオロギーが右に傾いている」のかは分からないです。ただ、少なくとも「産経新聞を読み続けていると右の思想がより強化される傾向にある」という仮説は成り立つのかもしれません。
朝日新聞や東京新聞はその逆ということになります。

もうどっちに傾いてもいいんですが、新聞媒体は「公正・中立」の看板を下ろすべきでしょう。そして、公益に資する媒体ではないということも国民全員が周知する必要がありましょう。ましてや新聞以上に公正・中立であるべきテレビ=電波媒体は新聞の影響を受けるべきではないということも言えると思います。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

内容(光文社HPより)
八王子での少女誘拐事件が発生。犯人を名乗るメールが届くが、そこには十四年目の誘拐事件の「真相」の告白が!? 二十年前の姪の行方不明事件で心に傷を負う刑事・楢橋は、強引に捜査に加わが孤立、姪の妹で通信社記者の文の協力を得ながら事件解決に奔走する。過去の事件の情報は錯綜し、浮かび上がる容疑者に翻弄される捜査本部。さらに、誘拐犯の「告白」には社会に衝撃を与えるたくらみが仕掛けられていた。ちりばめられた謎解きの妙。過去と現在を幾重にも交錯させた巧みな構成。そして明らかになる犯人の巧緻な罠と驚愕の真相。楢橋は少女を救えるのか!?


曹源寺評価★★★★★
それほど好きな作家センセーではありませんが、新作が出ると一応はチェックしています。デビュー作の「霧のソレア」はそれなりに楽しかった印象があるというのが理由ですが、近年の作品はどれもあまり高い評価をつけることができないでいます。
なぜなのか。本書を読んでちょっと分かったような気がします。
本書のおさらいから書いておきましょう。
警視庁捜査一課の楢橋邦洋は、20年前に姪の桜子が行方不明になった事件で責任を大きく感じていた。そこに八王子で少女が誘拐されるという事件が発生。犯人からのメールには14年前に発生した少女殺害事件の真相を綴った内容が書かれており、逮捕・起訴したはずの死刑囚である矢部俊夫が冤罪である可能性が浮上した。犯人の狙いは何か。楢橋はもう一人の姪である通信社勤務の文(あや)と事件解決に挑む。
これだけ読むと、なんとなく普通の警察小説っぽいですね。あまり謎解きというほど難解ではありませんが、事件の展開を追う分にはすらすらと読みやすくグイグイいけます。
ですが、緒川センセーの書き味は独特です。何が独特かといいますと、

エピソードが詳しすぎぃ!

なんですわ。新たな登場人物が出てくるたびに、主人公とのエピソードが詳細に語られます。これが微に入り細を穿ってやたらと引き込まれるような書き込みをされるので、本筋のストーリーを忘れてしまいそうになるのであります。
それが事件解決の伏線になるなら良いのですが、そうでないエピソードも結構ありますので、読者にしてみれば「このエピソードいらねえだろー」と思ってしまうこともしばしばです。
この辺をさりげなく盛り込ませることができているのが東野圭吾センセーだったり大沢在昌センセーだったりするのですが、いちいち仰々しいエピソードは作品に深みをもたらすようで実は違うのではないかと思うのです。
そのエピソードの挟み込みも、まるで取ってつけたかのようなやり方だったり、あるいはエピソードのなかにさらに回想シーンがあったりしてもう訳分かりません、という感じだったりするんです。このへんがもう少し整理されたうえで、20年前の事件なのか、14年前の事件なのか、それとも現在進行形の事件なのか、分かりやすくしないと読者がついていけなくなると思います。そのうえで、現在進行形の未解決事件については警察小説っぽく「伏線を張っている」という描写になればいいのではないかと思います。
もうひとつだけ突っ込んでおくと、緒川センセーは「冤罪死刑」でも書かれていましたが、本書でも死刑とか冤罪といったテーマを盛り込んでおられます。冤罪の可能性が少しでも存在する死刑判決や、本人あるいは支援団体が再審請求しているような判決においては、すんなりと死刑執行されていないのが実情です。執行待ちが100人を超えている現状において、そんな難しい案件を優先的に執行するなどありえないという物理的な事情もありましょうが、いずれにしても、「死刑は冤罪となったときに取り返しがつかないから反対」という死刑反対意見については運用の実態を鑑みればあまり意味を持っていないのかもしれません。





にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

いつもご覧いただき、ありがとうございます。
応援よろしくお願いします。。
banner2[1].gif
posted by 曹源寺 at 17:28| Comment(0) | TrackBack(0) | あ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年06月16日

書評811 相場英雄「不発弾」

こんにちは、曹源寺です。

毎週火曜日の22時にテレビ東京系で放映している「ガイアの夜明け」で、6月13日に放送されたのが「再び、巨大“規制”に挑む!」と題したバター不足をテーマにした回でありました。巷では「神回」とまで言われるようになったこのバター問題ですが、テレ東サイドのやや恣意的な編集はさておき、問題の根っこについては非常に理解が進んだのではないかと思います。
<酪農業者側の問題>
JAに入らないと飼料の仕入れや融資ができなくなるのでやむを得ず入る
指定業者に生乳を送ることで安定した収入を得ることができる代わりに、冒険をしなくなる
どうせ他の業者の生乳と混ぜられるのだからと、品質向上に意欲が沸かなくなる
バター用の生乳は買い取り価格が飲料用より低いので、納入を嫌う
<JA、ホクレン、農水省側の問題>
バターは関税率360%という異常な高率で、酪農家保護の最たるものである
バターの輸入は独立行政法人農畜産業振興機構が仕切っており、輸入品は極めて高額になってしまっている
上記団体は農林水産省の天下り団体である
国内流通をがっしり抑えているがガチガチの固定構造になっており、それ以上に輸出に関しては及び腰である

実際にバターは不足気味でありますが、安定流通の名の下に自由度の低い操業が続いています。そこに風穴を開けようとしているのがMMJという群馬県の企業です。MMJは独自の取り組みによって、生産者側がブランド化したりニーズの高い地域に商品を送り込んだりすることをサポートしています。まだ売上高は100億円にも満たない規模ですが、着実に販路を広げています。

北海道の酪農業者がMMJと組んで新たな商品開発や流通開拓を行っている姿を特集してくれましたが、これに対してはホクレンなどの既存業者のみならず、一般の酪農家も批判の声をツイッターなどで上げているのを見ることができます。
曰く、「自分だけ買い取り価格の高いMMJに卸すのはずるい」「周りの協力があってこその酪農家なのに抜け駆けするな」「飼料だけ買えばいいってもんじゃない」等等。

しかし、消費者からみれば安定的に商品を供給してくれているホクレンなどの大手業者はうれしい存在であるものの、既得権益にまみれて新たな取り組みを否定する(どころか邪魔をする)のはいかがなものかと思ってしまいます。放映のなかにあったJAの「賦課金」問題はまったく意味が分かりません。
それに他の酪農家の発言はやっかみ以外の何者でもありません。どんなビジネスでも高リターンには高リスクが伴うものです。長年、ぬるま湯に浸かってしまっている人たちはこうしたことも忘れてしまうようです。

自分は保護貿易主義ではありませんし、ましてや新自由主義者でもありませんが、規制の壁を乗り越えてブルー・オーシャンに乗り出そうとしている人たちは応援したいなあと思います。何と言ってもヤマト運輸の小倉昌男氏(故人)が運輸省(当時)と大バトルを繰り広げて、現在のような宅配便の市場が出来上がったという前例がありますので、新たなマーケットの創造にはお役人とのバトルは避けて通れない道ではないかと思っています。
品不足が露呈して、システムとしての欠陥が浮き彫りになったのであれば、「国民への安定供給」のお題目はもはや通じません。規制あるところに成長なし。「ぬるま湯」を残しても熱湯と混ぜるべからず。バターがもっと安くなることを祈ります。
にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

内容(新潮社HPより)
日本大手の電機企業による巨額の粉飾決算。警視庁キャリア・小堀秀明は、事件の背後に、ある金融コンサルタントの存在を掴む。バブル直前に証券会社に入社し、激動の金融業界を生き延びた男が仕込んだ「不発弾」は、予想を超える規模でこの国を蝕んでいた――『震える牛』『ガラパゴス』の著者が日本経済界最大のタブーに挑む!


曹源寺評価★★★★
すっかり社会派ミステリの旗手にのし上がってきた相場センセーですが、もともと通信社の記者であり、経済関係のネタのほうが本職であります。あの池井戸潤センセーも銀行出身で半沢直樹シリーズなどが有名ですが、金融ネタや経済ネタというよりは社会問題ネタ、時事ネタのほうに行ってしまわれましたね。
相場センセーの得意分野に「警視庁捜査第二課モノ」というのがありまして、捜査一課と違って人がバンバン死ぬ世界ではないのでドラマ仕立てにしにくいという難点があるものの、本書のように経済ネタでも面白い本はあるんやねー、というお手本のような作品を出しておられます。
本書は上場の電機メーカー大手、三田電機による巨額の不正経理問題(粉飾決算問題とも言う)を立件したい警視庁捜査二課が、事件解明の為にある金融コンサルタントに目をつけ、これを追うというストーリーになっていますが、これと同時並行でこの金融コンサルタント、古賀遼なる人物にスポットを当て、彼の生い立ちからバブル期を駆け抜けていくサブストーリーが展開していきます。
じりじりと古賀の周囲を固めていく捜査二課のキャリア捜査官・小堀と、バブル崩壊後に暗躍した古賀らによる「不発弾」の正体がちらちらと見えてくるところが、金融サスペンスとしては出色の出来だと思います。
なんといってもすごいのは、実在の事件を臨場感たっぷりに描いているところでありましょう。某飲料メーカーによる巨額損失事件を含む「プリンストン債事件」をはじめ、いわゆる仕組み債による損失隠しが常態化した90年代末期ですが、金融の現場ではまさかこんなことが行われていたのかという仰天の構図を見事に浮かび上がらせています。
そして、バブル時代に実在した事件も数多く登場してきます。証券会社による「預け損失」「飛ばし」「損失補てん」といった業界特有の悪慣習にメスが入った1989年、大蔵省(当時)による「不動産総量規制」も行われた1990年、バブルはこの2つの規制から始まっています。そういえば、自分の周囲にもバブルに浮かれて金融機関に入社した人は結構いました。消息は知りませんが、聞いた話では現在も金融で働いている人は1割も残っていないようです。90年代は金融、2000年代は流通、そして2010年代は電機がいろいろと大変な時代を過ごされたように思います。これらの業界のなかには本書の指摘するように「飛ばし」や「M&A」などの手法によって損失を隠してきた企業が少なからずあって、実際に爆発してきたという経緯があります。代表的なものが本書の「ノアレ」であり、「ゼウス光学」であるということです(ゼウスはあまり描写されていませんが)。
おっと話が逸れました。
これらの「不発弾」がバブル崩壊から四半世紀を経過した今も、いくつかの企業の財務諸表のなかに埋まっているのかと思うと、

株式投資など恐くてできませんわ。

一応、備忘録として本書に登場する架空の企業を現実に置き換えておきます。
三田電機→東芝?
村田証券→野村證券
山屋証券→山一證券
国民証券→国際証券?
CBFS銀行→CSFP(クレディ・スイス・ファイナンシャル・プロダクツ)?
ヘルマン→クレスベール証券?
ノアレ→ヤクルト
ゼウス光学→オリンパス
ソラー電子→ソニー
日本逓信→日本郵便

ラストはちょっとばかり納得しにくい点がありますが、それでも日本の“裏”経済史を紐解くような迫真の展開には納得感の高い作品であると言って良いのだとおもいます。





にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

いつもご覧いただき、ありがとうございます。
応援よろしくお願いします。。
banner2[1].gif
posted by 曹源寺 at 16:34| Comment(0) | TrackBack(0) | あ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年06月09日

書評809 石持浅海「鎮憎師」

こんにちは、曹源寺です。

ゼロ戦里帰りプロジェクト」というのがありまして、先日は現代の空にゼロ戦を飛ばしている姿が話題になっていました。
そこに噛み付いたのが「AERA」の記者、竹下郁子氏であります。氏はツイッターで「TLに零戦を讃える人がたくさんいて、考え込んでしまう。「平和を考える機会」にはなってないようだけど」と書き込んで炎上してしまいました。
詳細はTogetterなどにまとめられていますのでそちらをご覧いただくとして、ここで自分が考えさせられたのは次の1点に集約されます。それは
・「兵器」と「文化遺産」の境界線と、文化遺産に精神性を求めることの是非
です。
竹下氏とその他の方々のツイートで中心となったのは「熊本城だって兵器ですよ」「ゼロ戦の復活を否定するなら熊本城の復興も否定しないのはおかしい」といったツイートに対して、竹下氏は「熊本城ゼロ戦を同一視するのは理解できない」「戦争への反省と「零戦カッコイイ〜」が両立する精神状態というのがマジで分からん」「頭が痛い...。これはきちんと記事にした方がいいな」といったやりとりです。
おそらくですが、竹下氏にとってはゼロ戦も戦艦大和も単なる殺人兵器でしかなくて、その一方で熊本城や姫路城は貴重な文化遺産という「刷り込み」がなされているのでしょう。その刷り込みは兵器に精神性を持たせていることの証左でもあると思います。
自分は日本刀であれ戦車であれ、ましてや戦闘機であれ、それらは武器・兵器であって殺人の道具であることを否定しませんが、そこに「だからこれを見て戦争を反省しろ」とか言うのはおかしいのではないかと思うのです。戦争を仕掛けるのは人間であって、兵器は道具でしかないわけです。道具=モノに精神性を持たせるのは単なるレッテル貼りであって、「象徴」を作り出したいだけの行為でしかないと思います。最近では「戦犯旗」などといっていちゃもんをつけてくる輩などがそうですね。
ツイートのなかには「ゼロ戦の技術陣は、戦後のYS11の設計にも関わり、爆撃機「銀河」の技術は、新幹線の車体の設計に応用、地対空誘導弾「奮龍」のVHFによる誘導技術は、テレビジョン放送に生かされた。」といった技術論からの反駁もありましたが、この辺はあまり論点になっていません。中心になっていたのは「熊本城とゼロ戦は同じ兵器なのだからゼロ戦復活を否定するのは熊本城復興を否定するのと同じ」「ゼロ戦と熊本城では歴史的経緯が違うのでそこを見逃していてはいけない」というように、兵器なのか文化遺産なのか、あるいは精神的な価値の違いを認めるべきなのか、といった点に集約されそうです。
深読みしていくと、「兵器が文化遺産になるためには歴史を積み重ねなければいけない」といった論調が見え隠れしていました。本当にそうなのかなあ。もしそうだとするなら、その転換点はどこにあるのかなあ。東京湾に浮かぶ猿島の砲台跡は兵器としての価値はありませんが、横須賀市は文化遺産的な扱いをしていますね。逆に兵器としての有用性を失っているから文化遺産になりうるのか。ゼロ戦はF35と戦ったらあっという間に負けるでしょうから、すでに兵器としての価値はないと思いますが。

まあ、個人的な結論としては、ゼロ戦が飛行する姿を見て元気をもらった人も大勢いらっしゃるわけで、なんでもかんでもアレルギー反応のように「戦争を賛美するな」「過去の戦争への反省が足りない!」などと目くじらを立てる人は「文化遺産」と「兵器」の境界線に関する考察が足りていないということと、技術的な意味をはじめとした多様な見方があることさえも否定して、レッテルを貼ることで思考停止しているということが言えるのではないかと思います。

※ツイッターから複数の引用をさせていただきましたこと、お許しください。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

内容(光文社HPより)
赤垣真穂は学生時代のサークル仲間の結婚式の二次会に招かれた。その翌日、仲間の一人が死体となって発見される。これは、三年前にあった“事件”の復讐なのか!?
真穂は叔父から「鎮憎師」なる人物を紹介される……。
「ちんぞうし?」
わたしは訊き返した。知らない言葉だ。
「そう」順司叔父は、前方を見ながらうなずいた。「『憎しみを鎮める人』ってくらいの意味だよ(中略)鎮魂という意味じゃない。事件の話を聞いて、上手に終わらせる方法を考えてくれる人だ」(本文より)


曹源寺評価★★★★★
石持センセー久々の長編であります。
横浜理科大学のテニスサークルOBOGが久しぶりに仲間の結婚式二次会に集結した。そこには3年前に彼氏に殺されかけた女性、熊木夏蓮がサプライズで登場した。熊木は事件後に地元の広島に帰っていたため、誰もその行方を知らなかったが、二次会幹事の桶川ひろみが探し当てたのだ。久々の邂逅に喜ぶ7人の仲間だったが、翌日、熊木は渋谷の路上で変死体となって発見された。
3年前の事件と今回の事件、人間模様がさまざまに交錯したなかで浮かび上がるのは「復讐」であった。次の殺人を止めるために真穂は弁護士の伯父に相談する。そこで紹介されたのは吉祥寺に住む「鎮憎師」なる人物だった。
うーん、久々の長編でしたが、正直イマイチかなぁ。
主人公の真穂を含め、7人のサークル仲間が容疑者になる設定ですので、本格ミステリなどにありそうな展開を期待してしまいました。容疑者の絞り込みの過程や、推理を働かせていく展開はそれなりに読めます。
しかし、タイトルの「鎮憎師」なる沖田という男(とその妹)がですね、(ネタバレ注意)

全然仕事してねえ

んですよ。
中盤とラストにちょこっと出てきただけで、ちょっと一言告げてみた、というくらいしか登場してこないんですね。なんじゃこりゃ。
中盤は非常に退屈で、中だるみという単語が浮かびます。ちっとも進まない展開にイライラです。ラストもなんだかショボーンな感じで、犯人がどうやって殺害したのかとか、紐はどうやって調達したのか、とか言及もありません。
そもそも、この事件は警察が1日で解決できる程度の謎でしかないので、何週間も引っ張るはずがないのです(容疑者全員の○○を調べれば一発というレベル)。こうしたリアリティに欠けるレベルのミステリはどうしても途中で冷めてしまいます。
オープニングはかなりショッキングな始まり方をしますので、期待してしまいましたが、

本筋とは何にも関係なかったりして

それも落胆の原因だったりします。いろいろな意味で残念な一冊でした。





にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

いつもご覧いただき、ありがとうございます。
応援よろしくお願いします。。
banner2[1].gif
posted by 曹源寺 at 16:27| Comment(0) | TrackBack(0) | あ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月19日

書評803 石持浅海「殺し屋、やってます」

こんにちは、曹源寺です。

森友学園に続き、今度は加計学園の疑惑ということで盛り上がっています(別の意味で)が、学校法人というのはある意味一般人にはうかがい知ることのできない闇が広がっていそうで怖いですね。
特に大学誘致や学部誘致に関しては公明正大な手続きなのか、それとも「利権」としてうごめく何かがあるのか、非常に分かりにくい世界のように思えます。
獣医学部が50年もの間、新設されてこなかったという経緯もまた、怖いものを感じてしまうわけですが、では獣医師というのはどんな「業界」なのか、調べてみました。

農林水産省の資料によると、平成26年(2014年)現在の獣医師の届出件数は39,098人だそうです。少なっ!
どの位少ないかというと、弁護士の人数が36,415人(2015年)ですから、だいたい近い数字ですね。文系最難関の国家資格と同等の人数しか活躍していないマーケットということになりますので、獣医師の皆さんはエリートと呼んで差し障りないと思います。

日本獣医師会という団体がありまして、そこが発表している獣医師の需給に関する資料では、毎年1,000人程度の獣医師が誕生して、同じくらいの人数が引退・廃業しているらしいので、現状ではおおむね需給が安定しているという状況だそうです。
しかし、2040年の将来推計では最大で3,500人が不足するといったデータも公表しています。つまり、今は安定しているけれども近い将来は獣医師が不足する可能性があるよ、と言っているわけです。もちろん、逆に1,000人程度が余る可能性もあると指摘しています。

これは、犬や猫などのペットに対する診療回数が増加する、あるいは政府の政策目標に対して家畜に対応できる産業獣医師の需要が増加する、といったことが要因として挙げられていますが、日本獣医師会はこの需要予測に対して否定的なコメントを付け加えています。
つまり、「犬や猫がそんなに増えるわけねえだろ、産業獣医師が必要になる傾向は分からなくもないけど」というニュアンスです。

つまり、獣医師会全体では獣医学部の増設には慎重な姿勢であるという感じです。医師の世界と同様、地域的な偏在も伺えますし、医師免許を取得したにもかかわらず獣医師として活躍していない人も3,500人程度いるみたいですので、こうした問題の解決も迫られているようですね。

たとえば、医学部でも地域偏在という問題がありますが、この問題解決のために国は自治医科大や産業医科大を設置し、学費を無料にする代わりに卒業後は地方医療機関への従事を義務付けているような施策があります。
獣医学部を設置している大学はわずかに16校しかなく、四国だけでなく甲信越や北陸にもありませんし、中部には岐阜大学、近畿には大阪府立大学にしかありません。

こうした獣医師の「業界」をちょっと覗いただけでも、いまの加計学園問題の騒動がいかに本質とずれているのかがよく分かります。免許制の業界はそれなりの待遇を得られる反面、国家への貢献が求められる仕事ではないかと思いますので、現状の問題、課題の解決を優先させてほしいですし、そのための議論を国会で行っていただきたいと思います。


にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

内容(文藝春秋HPより)
安心・安全のシステムで、殺し屋、やってます。
コンサルティング会社を営む男、富澤允。
彼には裏の仕事があった。
650万円の料金で人殺しを請け負う「殺し屋」だ。
依頼を受けたら引き受けられるかどうかを3日で判断。
引き受けた場合、原則2週間以内に実行する。
ビジネスライクに「仕事」をこなす富澤だが、標的が奇妙な行動が、どうにも気になる。
なぜこの女性は、深夜に公園で水筒の中身を捨てるのか?
独身のはずの男性は、なぜ紙おむつを買って帰るのか?
任務遂行に支障はないが、その謎を放ってはおけない。
殺し屋が解く日常の謎シリーズ、開幕です。


曹源寺評価★★★★
安定の短編ミステリ作家、石持センセーの新刊(でもないですね)は殺し屋が主人公の連作短編でした。
普通に大学を出て普通に仕事をしているけれども、なぜか殺し屋を副業にしている主人公の富澤、連絡係の塚原と伊勢殿を挟み、依頼者とは直接コンタクトをしないことで身の安全と感情移入による失敗を防いでいる。一回の殺人の報酬は650万円で、前金300万円を受け取り実行後に残金を受け取る仕組みだ。なぜ650万円なのかは本書を読んでいただきたい。納得するようなしないような。
そう、石持センセーの作品はだいたいが

読んで納得できそうでできない

という展開が多いのですが、それはだいたいにおいて「殺害の動機がおかしい」というものでありました。今回は違います。なにせ殺し屋に動機は要りませんから。
本格ミステリにおいて、よく殺害の動機よりもそのテクニックに重きを置かれている作品を目にしますが、自分はもっと人間的な、というかドラマ的な、そこにストーリーを見出さないとあまり納得できない性質なものですから、トリック重視のミステリはあまり読みません。
石持センセーもよくトリック重視の作品を出されるのですが、まだ納得できるのは「状況的にこの推理意外ありえない」というところまで理屈で攻めてくる点にあると言えるのではないかと思います。
本書もまた、理屈で攻めてくる推理を分かりやすく展開されているので、「あぁ、そういうことね」と納得させられてしまうのであります。
>>なぜこの女性は、深夜に公園で水筒の中身を捨てるのか?
>>独身のはずの男性は、なぜ紙おむつを買って帰るのか?
紹介文にあるこの謎は、なるほど読めば納得できますが、よくよく考えてみればあくまでも状況証拠でしかない話だったりするので、後になって「もしかしたらセンセーに騙されているのではないか」と疑ったりもします。
ですから、本書の場合(というか石持作品全般そうですが)あまり深く考えずに読むのが正しい読み方ではないかと思います。





にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

いつもご覧いただき、ありがとうございます。
応援よろしくお願いします。。
banner2[1].gif
posted by 曹源寺 at 16:01| Comment(0) | TrackBack(0) | あ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年05月12日

書評801 太田愛「天上の葦(上)(下)」

こんにちは、曹源寺です。

本日の書評で紹介する作品「天上の葦」では、太平洋戦争の東京大空襲が回想シーンで出てきます。
民間人への無差別爆撃というのは戦争法で禁じられているにもかかわらず、戦後の東京裁判でも採り上げられることなく現在に至っています。わずか数時間で東京都民10万人が爆死あるいは焼死という、とんでもない殺戮でありましたが、かの戦争における悲惨なシーンでは「沖縄地上戦」「広島・長崎への原爆投下」「バターン死の行進」「アッツ島玉砕」「ガダルカナルの戦い」「サイパン陥落」「カミカゼ特攻隊」といった多くの戦争の悲惨さを綴るキーワードとともに埋もれてしまっているような気がするのは自分だけでしょうか。本書の回想シーンは結構生々しい描写ですので注意が必要ですが、東京大空襲の悲惨さは(米国の狡さだけではなく、B29からビラを撒いて事前警告している事実、大本営が疎開を大々的に行わなかった事実、新聞もそれを黙殺した事実、などなどすべてひっくるめて)語り継がれて然るべしだと思います。

自分の母親は1934年(昭和9年)生まれの新宿区民だったのですが、終戦間際には山梨の甲府だか勝沼だかの方へ疎開しました。終戦後に帰ってきたら案の定焼け野原で、そこには見知らぬ輩が勝手に土地を占領していたそうです。母の父(つまり祖父)はお人よしだったので、その土地を諦め、神奈川県南部に移り住んだと聞きました。あーもったいねー。

小説のネタとして「かの戦争」が採り上げられることは往々にしてありますが、さすがに2017年にもなると当時の生き証人を出すには御年90歳を超えるご老体を登場させねばならず、だいぶ苦しい展開を余儀なくされてきていますね。90歳代の方々が数多く登場する小説というのもどうなのかと思いますし、そろそろ限界な気がしなくもないです。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

内容(KADOKAWA HPより)
(上巻)
生放送に映った不審死と公安警察官失踪の真相とは?感動のサスペンス巨編!
白昼、老人が渋谷のスクランブル交差点で何もない空を指さして絶命した。正光秀雄96歳。死の間際、正光はあの空に何を見ていたのか。それを突き止めれば一千万円の報酬を支払う。興信所を営む鑓水と修司のもとに不可解な依頼が舞い込む。そして老人が死んだ同じ日、ひとりの公安警察官が忽然と姿を消した。その捜索を極秘裏に命じられる停職中の刑事・相馬。廃屋に残された夥しい血痕、老人のポケットから見つかった大手テレビ局社長の名刺、遠い過去から届いた一枚の葉書、そして闇の中の孔雀……。二つの事件がひとつに結ばれた先には、社会を一変させる犯罪が仕組まれていた!? 鑓水、修司、相馬の三人が最大の謎に挑む。感動のクライムサスペンス巨編!
(下巻)
日常を静かに破壊する犯罪。 気づいたのは たった二人だけだった。
失踪した公安警察官を追って、鑓水、修司、相馬の三人が辿り着いたのは瀬戸内海の離島だった。山頂に高射砲台跡の残る因習の島。そこでは、渋谷で老人が絶命した瞬間から、誰もが思いもよらないかたちで大きな歯車が回り始めていた。誰が敵で誰が味方なのか。あの日、この島で何が起こったのか。穏やかな島の営みの裏に隠された巧妙なトリックを暴いた時、あまりに痛ましい真実の扉が開かれる。
―君は君で、僕は僕で、最善を尽くさなければならない。
すべての思いを引き受け、鑓水たちは力を尽くして巨大な敵に立ち向かう。「犯罪者」「幻夏」(日本推理作家協会賞候補作)に続く待望の1800枚巨編!


曹源寺評価★★★★
テレビドラマの脚本家から小説デビューして三作目となった太田愛センセーの本作でありますが、今回もまた上下巻1,800枚の書き下ろしということで濃密な作品に仕上がっておりました。
デビュー作の「犯罪者 クリミナル」から登場人物が変わっていないというのもすごいことです。いつものように鑓水、修司の探偵コンビに加えて、現役警察官の相馬、カメラマンの鳥山といった面々が事件に遭遇し、これを解決していきます。
秩父の介護施設にいた老人・正光がなぜ天を指して渋谷のスクランブル交差点で倒れたのか。なぜ、正光の死の直前の行動を探る人がいるのか。このあたりの謎はとても映像的で、太田センセーらしい仕掛けが満載です。同時進行で警察官が行方不明になっているという事件を絡めてきますが、これがどうやってつながっていくのか、という展開にもワクワクです。
事件の鍵を瀬戸内海の離島に求め、濃密な人間関係を背景としたコンゲーム的な場面もありますが、こうした演出もなんとなくテレビっぽい気がします。
テレビや新聞といった媒体の特性を熟知している太田センセーは、さらにネットとのBUZZ効果も狙って主人公に騒動を引き起こそうとしているのですが、このあたりの描写はもろに

リアルすぎて生々しいので

現実の世界とリンクして考えてしまいそうです。
ちょうど、テレビドラマではフジ系列の「CRISIS(クライシス)」があの金城和紀センセー作品として放映されており、5月9日の放送ではヤクザ同士の抗争にみせかけて組を潰した政治家が、公安のリークによって児ポ法で逮捕されるという筋書きの回でありました。さらに、今週発売の週刊新潮にはジャーナリストの山口敬之氏が準強姦容疑をもみ消したといった記事が出たりしまして、なんだかとても陰謀の匂いがあちこちに漂っておりました。
本書もまた(ネタバレですが)、


公安の筋書きによる壮大な陰謀を描いたものでありましたので、なんとまあ世の中には陰謀が溢れかえっているのかとあきれてしまいます。

ストーリーに話を戻しますと、中盤の離島のシーンはもっとスペクタクルな展開をイメージしていたので、ちょっと冗長な感じがなくもないですが、それ以外は軽やかなテンポでぐいぐいと読ませてくれました。
評価はもしかしたら多少分かれるかもしれませんが、個人的には満足です。





にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

いつもご覧いただき、ありがとうございます。
応援よろしくお願いします。。
banner2[1].gif
posted by 曹源寺 at 16:43| Comment(0) | TrackBack(0) | あ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年04月28日

書評799 大沢在昌「夜明けまで眠らない」

こんにちは、曹源寺です。

マスゴミがよく定期的に記事にしているニュースってありますよね。そういうのはまともなニュースのなかにプロパガンダが混ざっていたりするなので注意が必要です。
なかでも注意したいのが「国の借金」と「報道の自由度ランキング」でしょうか。
国の借金とは財務省が定期的に発表しているやつですが、よく「国民一人当たりの借金は800万円もある!」「孫子の代までこの借金を背負わせてはいけない」とかいうおまけのコメントがついてきます。
これは明らかに間違いなので気をつけなければいけません。バランスシートで考えれば分かる話ですが、借金=負債であるならば、バランスシートの反対側にある資産はどうなんだということですね。借金が増えていてもそれ以上に資産があれば問題ないですし、そもそも国民の借金ではなくて「政府の借金」ですから、国民は関係ありません。というか、政府は国債を発行して国民に買ってもらっているのが実情ですから、国民はいわば「金を貸している」方になるわけです。それを財務省(とマスゴミ)はなぜか「国民一人当たりの借金」という表現を使って、さも日本はヤバイ!とか借金大国だ!とか騒いでいるわけですね。まったくおかしな話です。

もうひとつの「報道の自由度ランキング」ですが、最新の調査では日本は先進国中最下位の72位だそうです。
アサヒが記事にしていました。
報道の自由度ランク、日本は72位 G7最下位に(4/26朝日新聞)
国際NGOの国境なき記者団(本部・パリ)は26日、2017年の「報道の自由度ランキング」を発表した。調査対象の180カ国・地域のうち、日本は前年と同じ72位だが、イタリア(52位)に抜かれて主要国7カ国(G7)では最下位だった。
ランキングは各地で働く記者や専門家へのアンケートをもとに作成。北欧諸国が上位で、中東シリアや北朝鮮が下位に並ぶ傾向は変わっていないが、世界各地で「民主主義が後退し、ジャーナリズムの力が弱まっている」と警告している。
日本は10年の11位から順位の低下が続く。安倍政権への辛口キャスターらの降板なども踏まえ、「メディア内に自己規制が増えている」「政権側がメディア敵視を隠そうとしなくなっている」などと問題視。特定秘密保護法については、国連の特別報告者から疑問が呈されたにもかかわらず「政権は議論を拒み続けている」とした。
43位だった米国については「トランプ大統領がメディアを民衆の敵だと位置付け、いくつかのメディアのホワイトハウスへのアクセス制限を試みた」と警戒感を示した。(パリ=青田秀樹)

■報道の自由度ランキング(カッコ内は前年との比較)
1 ノルウェー(3)
2 スウェーデン(8)
3 フィンランド(1)
4 デンマーク(4)
5 オランダ(2)
16 ドイツ(16)
22 カナダ(18)
39 フランス(45)
40 英国(38)
43 米国(41)
52 イタリア(77)
72 日本(72)
148 ロシア(148)
176 中国(176)
177 シリア(177)
178 トルクメニスタン(178)
179エリトリア(180)
180 北朝鮮(179)


同じ報道をネットニュースの「J-CASTニュース」が取り上げています。
「報道の自由度」日本は変わらず72位 英米はランク落とす(4/27J-CAST)
国際NGO「国境なき記者団」は2017年4月26日、17年の「報道の自由度ランキング」を発表した。日本は評価対象の全180か国・地域のうち、72位にランクインし、16年と同じ順位となった。16年は77位だったイタリアが52位に順位を上げたため、日本は先進7か国(G7)では最下位になった。
調査では日本の報道について、大手メディアの自主規制や記者クラブ制度によって、ジャーナリストが権力監視の役割を果たせていないことや特定秘密保護法について国連から疑問視されたにも関わらず「政権は議論を拒み続けている」などと指摘している。
また、米国はトランプ政権によるメディア批判の影響で43位と16年より2つ順位を下げたほか、英国についても「国家安全のためとしてメディアに高圧的になっている」と指摘し、16年より2つ下の40位とした。一方で、17年もトップ3はノルウェー、スウェーデン、フィンランドと北欧諸国が占め、最下位は北朝鮮だった。


はい、比較していただくと一目瞭然ですね。アサヒが書いていないキーワードがあります。「記者クラブ制度」ですね。自分たちの作った制度が批判されているのに、そのことには全く触れないで、まるですべて政府が悪いみたいな書き方をしているのがアサヒです。

そもそも、このランキングが何を基準にしているのか良くわからない時点でクソなわけですよ。定量的な評価軸があれば堂々と公表すれば良いのです。たぶんないんでしょうが。こんな「自由度」なんてものは主観的な評価しかできないでしょう。なんにもありがたがる必要はないですし、ランキングが低いのも自業自得な部分があるのは前述の通りです。これをもって「我々報道機関は政府によって弾圧されているのだ〜」とでも言いたいのならば、まったくのお門違いであると言えるでしょう。

この2つの報道は、すでに多くの識者によって化けの皮が剥がされているわけですが、マスゴミはこれに懲りずに同じ報道を繰り返しています。だから情弱はどちらも少なからず信じていたりするわけで、「嘘も百回言えば本当になる」を地で行っているのが本当に恐ろしいです。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

内容(双葉社HPより)
タクシー運転手の久我は、血の匂いのする男性客を乗せた。かつてアフリカの小国で傭兵として戦っていた久我の同僚らしい。客は車内に携帯電話を残して姿を消した。その携帯を奪おうとする極道の手が迫り、久我は縁を切ったはずの激しい戦いの中に再び呑まれていく――みなぎる疾走感がたまらない大沢ハードボイルドの新たな傑作!


曹源寺評価★★★★
タイトルから想像したのは「お、久しぶりにサラリーマン坂田勇吉シリーズ出たんかいな」という印象だったのですが、共通しているのは「夜明け」というキーワードだけでした。坂田勇吉シリーズは「走らなあかん、夜明けまで」「涙は拭くな、凍るまで」と「語り続けろ、届くまで」という3つの作品がありまして、ただのサラリーマンがなぜかあちこちでヤクザの方々の抗争に巻き込まれるというお話です。
でも全然違いました。
今回の主人公は元傭兵でタクシードライバーの久我晋。タイトルのとおり、夜が明けないと眠れないという体質になってしまっているという設定です。その久我の乗客として現れた謎の男。その男が落としたのか置いていったのか、スマートフォンが座席に残されていた。それを欲しがったのはなぜかヤクザのフロント企業であった。謎の男は何者で、なぜ久我に接触しようと思ったのか。大きな陰謀の渦に巻き込まれていく久我が足を洗ったはずの傭兵の世界に再び足を踏み入れていく。
うーん、いいなあ。やっぱり大沢センセーのハードボイルド系作品はしみじみいいなあと思います。久々に新しいハードボイルドヒーローが登場しまして、うれしいです。
大沢作品にありがちな、本筋の方々と国内で勢力を伸ばそうとする外国の勢力、そして警察と孤立した主人公という設定ですが、

もうこれでいいじゃないですか。

いつもどおりの大沢作品の王道を行く設定であっても、それは逆に読者に大いなる安心感を与えてくれるわけですよ。そのくせに、相変わらずの疾走感と全体に漂うハードボイルドな香り。最後まで気の抜けないスリル溢れる展開に、我々読者は大沢センセーの力量を改めて感じざるを得ません。





にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

いつもご覧いただき、ありがとうございます。
応援よろしくお願いします。。
banner2[1].gif
posted by 曹源寺 at 17:26| Comment(0) | TrackBack(0) | あ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年04月04日

書評793 五十嵐貴久「逸脱捜査 キャリア警部道定聡」

こんにちは、曹源寺です。

駐韓国大使を帰任させるというニュースでようやく理解しましたが、おそらく北朝鮮周辺は相当緊迫しているのだと思います。
なぜかTVの報道では「邦人保護の観点から〜」という岸田外務大臣の発言をすっ飛ばしていますが、金正恩が党委員長に就任してからの断片的な報道をつなぎ合わせれば、政治的な駆け引きが水面下で行われてきていて、今はそれが少しずつ浮かび上がっているような状況ではないかと思います。
そろそろ来るべき災害とは別の趣旨で備蓄を始めたほうがよさそうです。

さて、この前の日曜日の毎日新聞に掲載されたコラムが個人的には痛いなあと思っているので取り上げてみます。長いですが、全文です。
時代の風 森友問題の本質=中島京子・作家(4/2毎日新聞朝刊)
イデオロギー教育の危険
話題になっている森友学園問題で、いちばん私が恐ろしいと思っているのは、安倍晋三首相の妻昭恵氏が100万円渡したかとか、10万円もらったかとかいうことでは、ない。9億円が1億円になった経緯を知りたいのはもちろんだが、恐ろしいと思っているのは、そこでもない。
究極に怖いと感じているのは、事件が発覚して最初のころに流れた、塚本幼稚園の動画だ。
子どもたちが「教育勅語」を唱和する姿は、まさに「洗脳」という言葉を思わせて背筋が凍った。臣民(天皇に支配される民)として、天皇の統治する国に緊急事態(戦争)があったら、自ら志願して死ねと教える戦時中の勅語を、無邪気な声がそらんじてみせるのは、異様だった。
さらに、衝撃だったのは、園児たちが運動会の宣誓で唱えた「日本を悪者として扱っている、中国、韓国が、心改め、歴史教科書でうそを教えないよう、お願いいたします」というフレーズだ。なんてことを子どもに言わせているのだろうか。この子どもたちは大きくなって、中国や韓国の人とどう接するのか。
事件に関連して名前の挙がった人たちは、みなこの塚本幼稚園の教育を知っていたし、賛同していたという。たとえば、昭恵氏は、塚本幼稚園での講演で、この幼稚園で培われた芯が、公立の小学校へ行って損なわれてしまう危険がある、だから「瑞穂の国記念小学院」が必要だという旨の発言をしていた。首相の妻が、日本の公教育を否定する発言をしているわけで、私は、100万円寄付するより深刻だと思っている。
従来積極的に日韓交流行事に参加し、「韓国はだいじな国」と発言してきた昭恵氏なのだから、ヘイトスピーチまがいの教育はだめだと、はっきり言うべきだった。そのほうがどれだけ首相の妻らしいふるまいだったか。
森友学園=塚本幼稚園を支えてきたのが、戦時中の思想に帰ろうとする政治運動であることは、いまやもう誰も否定しないだろう。団体名も出た。「日本会議」だ。現閣僚のほとんどが参加している政治団体だということだ。
もう一つ、戦時中よく使われた言葉を紹介したい。「暴支膺懲(ぼうしようちょう)」というもので、「暴れる支那を懲らしめる」という意味だ。日本が戦争を始める理由として使ったのがこの言葉だった。塚本幼稚園の園児宣誓と似ている。
私が恐ろしいのは、戦時中の思想に帰ろうとする政治運動に賛同している人たちが、日本の教育を変えようとしている事実、そのものだ。関与が取りざたされた政治家の誰一人として、「教育勅語」を否定しなかった。それどころか擁護発言が相次いだ。園児たちのヘイトスピーチを批判する発言も、なかった。籠池泰典氏がしつこいとかうそつきとかいう話は出たし、森友学園の経営や設置認可をめぐる強引さにも批判が集中したが、教育方針を批判した発言は、渦中の政治家からは出なかった。
政権の中枢にある政治家、官僚、民間企業(学校法人)が、ある偏ったイデオロギーに染まり、国民の共有財産の使い方を勝手に決めて、「彼ら」の信奉するイデオロギー教育を実践する施設を作ろうとしていた。そういう事件に私には見える。かつて、「教育勅語」を掲げ、「暴支膺懲」を叫び、戦争に突き進んだ過去を持つこの国で。
いま、「彼ら」の心はもう森友学園とは離れた。いまやもう、あの小学校設置の件は、籠池という変な男が引き起こした変な事件だということで、「彼ら」と切り離そうと必死だ。
一方、「彼ら」、国家主義的な思想を持つ人々の悲願「道徳の教科化」が成り、検定教科書にイデオロギーを盛り込むことができるようになった。さらに、先月末、政府は「『教育勅語』を教材として使用することを否定しない」と閣議決定した。「憲法に反しない形で」と但書(ただしがき)がつくが、戦後、違憲だから衆参両院で排除・失効されたのではないか。なぜ今、と驚愕(きょうがく)する。
私たちが「昭恵氏は私人か公人か」などというさまつなことにとらわれているうちに、気がつくと日本国中が森友学園みたいな学校だらけになっているのではないかと想像して、私は怖い。森友問題が重要なのは、その危険を私たちに教える事件だったからなのだ。

(以上)

中島京子センセーはけっこう反戦的なコラムをあちこちで書かれていますので、いまさら驚きはしませんが、上記のコラムを要約するとこんな感じになってしまうのです。
・森友学園問題で最も重視するべき問題は(認可とか財務ではなく)思想教育の点である
・塚本幼稚園では教育勅語を使って洗脳していておぞましく、異様だ
・戦時中の思想に帰ろうとする動きが教育界にあって、極めて危険である
・道徳の教育化によりイデオロギーを植えつけることができるようになっていて怖い

えーっと、どこから突っ込んで良いものやら。
なるほど、思想教育はダメなんですね。同じコトを補助金寄越せと騒いでいるかの国の教育機関にも言ってください。そして、すべての私立学校に「宗教を持ち込むな」と言ってほしいものです。仏教もキリスト教も新興宗教も全部NGですね。学校内の敷地に礼拝堂を設置するなどもってのほかですね。
日教組にも共産党のポスターを貼るなと徹底させないといけません。すべての教育機関から思想を排除しなければいけません。

でも、思想と道徳の境界線はどこにあるんでしょうか。教育勅語に書かれていることはほとんど道徳です。親を大切にしろとか、そういうやつです。それに、教育勅語の公布は明治23年です。戦前も戦前、日露戦争よりも前の話です。「戦時中の悪い思想」というレッテルを貼るのはいかがなものかと。

そもそも、この文章の中から滲み出てくるもののひとつに、「戦前の思想はすべてが悪」というレッテル貼りがなされているというのがあります。中島センセーの直木賞作品「小さいおうち」では戦前の日本の家庭をリアルに描写しています。それはごく普通の家庭であり、当時の人々の日常です。悪の思想に染まった国民が戦争に突き進んだといったような描写は一切ありません。なのに中島センセーはこのコラムで戦前の教育がまるで悪の権化であるかのように指摘するのです。

当たり前ですが、戦争に突き進んだのは思想教育のせいではなくて、軍部の暴走と外交の失敗のせいです。大多数の国民はこれっぽっちも悪くありません。ましてや、教育のせいでもないはずです。
戦前の教育に染まっていた我らがご先祖様は悪なのですかね?

そして最後に、中島センセーは「森友学園のような学校だらけになっているのではないかと想像して、私は怖い」とまで書いてしまっています。森友学園の卒業生がこの記事を見たら悲しむでしょうね。中島センセーは森友学園の教育を否定しました。これはイコール、森友学園で学んだ人たちの精神性をも否定したと同じことです。しかも200万部を超える新聞紙上で堂々と否定したのです。「森友学園の教育は間違っているから、そこで学んだお前という人間も間違っている」と言っているに等しいのです。

このコラムに賛同する人が結構いて、ツイッターでリプライしているのを目にしたのですが、自分としてはこの方が怖いです。反戦的に振る舞う人のほうが実は差別的で好戦的なのではないかと思ってしまいますわ。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

内容(KADOKAWA HPより)
現場経験はゼロ、相方は一匹狼な美人刑事
若きエリートが、5つの完全犯罪に挑む!
『リカ』『リターン』の俊英による痛快ミステリ
東大卒キャリアとして出世街道を歩んでいた道定聡警部は、部下の不祥事により突如、経験のない捜査現場の前線に配属された。美人だがガサツな山口ヒカルとコンビを組まされ、新宿OLの高層マンション飛び降り、新興宗教の教祖殺人など、解決不可能と思われた難解奇妙な事件の担当になる。常にやる気のないヒカルだが、時に天才的な直観を発揮して事態を集束に導いていき――。 “迷”コンビの活躍を描く、爽快な連作短編集。


曹源寺評価★★★★
本書は2013年12月に単行本化されていた「キャリア警部 道定聡の苦悩」が2016年9月に文庫になったものです。単行本のときは知りませんでした。
五十嵐センセーの軽いノリで読める探偵小説とか警察小説はどれも非常に読みやすいし、きちんとオチもつけてくれるし、キャラクター造型もしっかりしているので楽しく読めます。
本書では東大卒のキャリア警察官である道定警部と、警視庁捜査一課の美人刑事山口ヒカルの迷コンビが活躍します。道定は20代だが160センチ未満の抜け毛に悩むデブ、ヒカルは抜群のプロポーションで美人のくせに大食漢でエロDVD鑑賞が趣味というものすごい設定です。
あれ、なんだかデジャブを感じるんですが、、、、
つい先日読了した矢月秀作センセーの「サイドキック」はチビデブのおっさん刑事と彼を慕う美人刑事のコンビでした。なんだか

流行ってんのか?

というくらいにたような設定ですね笑
あちらは中年のおっさんですが、こちらはキャリアで若手なのにおっさんくさい童貞(!?)警部という設定。女性刑事もあちらは美人で優秀、こちらは美人だがとてつもない変人ですから、微妙に異なりますね。
設定はまあこんなもんでしょうか。警察小説は設定よりも内容重視でいきたいですね。本書は軽く読める連作短編ですが、いずれもちょっとした謎解きが用意されていますので、それなりに楽しめます。このへんの造りこみのうまさは五十嵐センセーならではといったところでしょうか。読んで損はない作品といえるでしょう。





にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

いつもご覧いただき、ありがとうございます。
応援よろしくお願いします。。
banner2[1].gif
posted by 曹源寺 at 15:34| Comment(0) | TrackBack(0) | あ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月17日

書評790 一橋文哉「世田谷一家殺人事件 15年目の新事実」

こんにちは、曹源寺です。

森友学園のニュースはかれこれ1か月以上も続いていますが、今のところ何一つ物証が出てこないで印象操作だけが進んでいる状況ですね。よくもまあこれだけズルズルと引き伸ばせるね〜と思います。
まあ、理事長がちょっとヤバイというのは良くわかりましたが。。。
せっかくですから、これを機会に教育界の闇の部分を引きずり出してほしいなあと思います。国有地の払い下げ問題は他の学校法人へのファクトチェックをぜひやっていただきたいです。政府ではなくて文科省あたりの「闇」が炙り出されるのではないかと期待してしまいます。

あとは、大学の医学部設置問題ですね。現在進行中なのは国際医療福祉大学で、2017年4月には成田キャンパスに医学部が開学します。受験倍率はなんと27倍!すごいですね。
でもなぜこの大学に決まったのか。同志社大学や東北福祉大学なども誘致を促していたようですが、なぜ歴史と実績のある大学が蹴られてこの大学になったのか。早稲田大学はどうなったのか(どうも鎌田総長が誘致活動を見送っているらしいですが)。(ちょっと違いますが)東京女子医科大学の財務状況はどうなっているのか。そもそもなぜ1979年の琉球大学以降、設置認可が下りなかったのか、などなど、いろいろと不明なことが多くて訳分かりません。
なぜ医学部の設置が見送られてきたのか、という疑問には、どうやら「医学部ができると現場の医師が教壇に立たなくてはならず、人手不足が加速するから」という言い訳が用意されてきたようです。
でもそれっておかしいですね。そんなこと言ってたら人手不足にますます拍車がかかるじゃないですかね。高齢化社会の到来を見据えていたはずなのに、多少の定員増があったにしても1979年から医学部がずーっと設置されてこなかったのってやっぱり変ですよね。

自分はこう思います。もっと門戸を広げる代わりに、国家試験の壁を厚くして医師に向いていない奴はどんどん落とすようなシステムにするべきであると。医師国家試験の合格率は90%、かたや司法試験は23%程度です。一人前の医師を育成するまでの投資は判事・検事・弁護士の比ではないと思いますが、投資をすれば誰でも医師になれるというのもちょっと違うと思いますし、医療従事者間の競争原理もある程度働かせたほうが健全な業界になると思います。
それに、今回の国際医療福祉大学の医学部も定員はたった100名です。100名程度の医学部設置で認可までにものすごい紆余曲折があるとしたら、それはそれですごい時間の無駄遣いのような気もします。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

内容(KADOKAWA HPより)
私は真犯人に会った!
2000年12月31日、世田谷区上祖師谷の四人一家が無残な状態で発見された。現場に多数の痕跡を残しながら捕まらなかった犯人。その犯人を追って著者が向かった先とは? 真犯人がついに本書で明らかになる。

曹源寺評価★★★★
一橋センセーのノンフィクションは徹底した現場主義による綿密な取材活動と、それに裏打ちされた迫力ある筆致、臨場感溢れるインタビューが売りです。読者としては本当に「これぞジャーナリズム」とうなってしまうこと請け合いの内容です。一橋センセーのみならず、清水潔センセーや溝口敦センセーなど、リアルなジャーナリズムを背負って日々活動されている「本物」の著作はどれもこれも頭が下がる思いです。
さて、本書は2000年12月に世田谷区上祖師谷で発生した一家4人の惨殺事件を丹念に追ったルポルタージュです。謎の多いこの事件は本書以外にも多くの作品が出回っていますが、実行犯と思しき男性へのインタビューのみならず、その主犯、さらに黒幕へと網を広げて切り込んでいるのは一橋センセーだけではないかと思います。
だからこそ、リアルでホラーな事実が浮かび上がっているわけで、本作なくしてこの事件は語らしむべからずでしょう。
詳細はお読みいただくとして、本書の主張のキモである「犯人は誰?」という点において位置はしセンセーはズバリ書き込みつつも、その本人の安否が不明というかちょっとモヤモヤして終わってしまうのがなんとも歯がゆいですわ。
本書で語られることのなかった断片はセンセー自らコラムなどで追記されているようですが、犯人は東京・武蔵野市内のマンションに潜伏していたとの情報もあったりして、

ガチで怖いんですが

ただでさえ武蔵野三鷹エリアは殺人事件が増えて困っているのに、リアル殺人鬼が潜伏していたなんてみんな知ったら大変ですわこれ。
こんなやつ、何でもいいからとっとと別件で逮捕して指紋とDNAの鑑定して捕まえてくださいまし。というか、なんで野放しなの?本当に死んでないの?誰か教えてクレメンス。





にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

いつもご覧いただき、ありがとうございます。
応援よろしくお願いします。。
banner2[1].gif
posted by 曹源寺 at 17:21| Comment(0) | TrackBack(0) | あ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年03月03日

書評786 相場英雄「クランクイン」

こんにちは、曹源寺です。

NYダウ平均株価が今月に入り21,000ドルを突破しました。1か月で1,000ドルの上昇となっていて、ちょっとしたバブル状態ではありますが、バブルを差し引いてもトランプ政権の施策が経済に好影響を与えていることは事実でしょう。反トランプの動きばかり報道しているマスゴミ各社はこのニュースとの整合性を問われていますが、なんだかんだ支持率が高いという現状を報道できない(あるいはしているけどかなりさらっとにとどめている)ため、多くの日本人は米国のトランプ政権に対する本当の姿勢が理解できなくなっているのではないかと危惧します。

安倍政権に対する支持率も60%と依然として高く、森友学園の国有地売却問題も安倍首相との関連がないということが分かっているにもかかわらず報道は過熱するばかりで、今度は昭恵夫人のほうに矛先が向かっている始末です。この異常とも思えるメディアスクラムに視聴者はドン引きです。

実態とかけ離れた心象報道ほどたちの悪いものはありません。嘘も百回言えば本当になる、というのを地でやっているわけです。
個人的には森友学園を支持しませんし、教育の政治利用はNGだと思います。しかし、教育の政治利用の先頭を走っているのは日教組ですから、この問題だけをクローズアップするのは違うと思います。


にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

内容(双葉社HPより)
とある日。広告代理店に勤める根本に、ベストセラー小説を映画にするよう社命がくだる。映画好きの根本は喜び、映画製作に邁進するがトラブル続出で……果たして映画はできるのか。『震える牛』『ナンバー』の著者が満を持して放つエンタメ小説の快作! 


曹源寺評価★★★★
「震える牛」以降、快調にヒットを飛ばしてくる相場センセーですが、本作はこれまでの路線とはずいぶん違ってコメディ感満載の企業小説でありました。
京楽エージェンシーという準大手・中堅の広告代理店に勤務する根本崇は映画好きを見込まれて、社長直々の特命として映画制作の任務を持ちかけられます。最近の映画は「製作者委員会方式」というスタイルで制作するのが基本路線です。製作者委員会って良くわかりませんが、配給会社のみならず、広告代理店、出版社、制作会社、テレビ局などのほか、スポンサー各社からも人と金が入り込んでみんなで作りましょうと。その代わり、売れたらその収益はみんなで山分けしようと。つまりはそういうことですね。
また、映画制作とひとくちに言っても、原作者の口説き落としから始まって、脚本作り、監督選び、予算取りとスポンサー集め、キャスティング、ロケ地の選定や調整、などなど、ゼロからのものづくりとなればそりゃもう大変な労力が要るんですね。このへんの描写が妙に細かくて臨場感あります。
こうした制作の裏話的なストーリーとは別に、主人公の根本が幼い頃に死んだとされる母について、映画業界関係者から思いも寄らぬ情報が入ってきます。このへんがちょっとしたミステリになっていて、単調になりがちなストーリーに一本の軸を入れ込んでいるのが良いですね。おそらく、

この味付けがなかったら、ものすごく単純なドタバタ劇

で終わってしまいそうな内容です。
いや、味付けではなくてこちらが本筋なのかもしれません。根本の母は一体何者であったのか。最後のほうまで引っ張る引っ張る。
そしてラストですが、この母の正体だけでなく、本書にはちょっとした仕掛けが施されています。それは読んでのお楽しみということで。
本書を読むと映画作りってなんだか楽しそうだなあ、という思いが湧いてくるのと、昔の映画作品の描写(オープニングが高倉健の「新幹線大爆破」です)が観たことあるひとにはグッとくるものがありそうなところが相まって、未鑑賞の定番作品をもう少し押さえておかなければとの思いを新たにしました。





にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

いつもご覧いただき、ありがとうございます。
応援よろしくお願いします。。
banner2[1].gif
posted by 曹源寺 at 17:43| Comment(0) | TrackBack(0) | あ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2017年01月10日

書評772 石持浅海「パレードの明暗 座間味君の推理」

こんにちは、曹源寺です。

冬休みが終わり、学生たちは3学期に突入しました。センター試験は目の前です。今週は寒い日が続く見込みですが、風邪などひかないよう気をつけて過ごしてくださいね。

さて、我が家ではこの正月に新たな家族を迎え入れました。
ハリネズミです。

かわいいです。

娘と息子がお年玉を出し合って買ってきました。

最初は反対しました。人に懐きにくい、夜行性である、針が痛い、寒いと冬眠してしまう、というのが反対理由です。

でも、小さい頃から飼えば多少は懐く、昼もちょくちょく起きる、針は警戒させなければ逆立つことはない、25℃前後に保てばOK、ということからとりあえず理解しましたので断固反対とまではいきませんでした。

家に来ました。繰り返しますが、かわいいです。
懐くのはこれからですが、家長として懐いてもらおうと思っています。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

内容(光文社HPより)
警視庁の女性特別機動隊に所属し、羽田空港の保安検査場に勤務する南谷結月は、日々の仕事に不満を感じていた。身体を張って国民を護るのが、警察官として最も崇高な使命だ。なのに――。そんな不満と視野の狭さに気付いた上官から、結月はある飲み会に同席するように言われる。行ってみた先に待っていたのは、雲の上の人である大迫警視長と、その友人の民間人・座間味くんだった。


曹源寺評価★★★★★
「月の扉」に始まり、「心臓と左手」「玩具店の英雄」と続く「座間味君シリーズ」の第4弾であります。いつの間にか「呑み屋探偵」というあだ名がついているようですが、要するに座間味君が警察幹部と食事をしながら事件の真相を明らかにしていくというストーリーなんですね。安楽椅子探偵の呑み屋バージョン、それもかなりあっさりした短編です。
本書のパターンは、警視庁の大物警視長である大迫と、女性特別機動隊所属の南谷結月巡査、これに座間味君が加わった3名で新宿駅東口近くにある大型書店で待ち合わせ、居酒屋や焼肉、そば店などに入って談義をするというところから話は始まります。
大迫が「こんな事件があってね〜」とちょっとした話題を振り、それを結月が「教訓になります」とかしこまったところに座間味君が意外な一言を言います。
静まり返る場。一瞬言葉に詰まる二人。座間味君はしれっと続けます。「どうもこうも」と。そして明かされる真相。事件を裏返してみてみたら、実はこういうことも考えられますね〜という真相。でも正論でもあったりする。ややこじつけでもあるけれど、なるほどこの見方は正しいのだろうと。
事件の概要を聞いただけで真相に辿り着くという恐るべき離れ業を駆使する座間味君。実在したらどんな感じなのでしょうか。小説の中では子煩悩でおとなしい、しかも礼儀をしっかりわきまえている背筋の伸びた青年という描き方をされています。でも、こんな会話をリアルに聞かされたら

ちょっと嫌味な奴に見えなくもなさそうです。

あと、本書のシチュエーションとして警察の大物幹部と下っ端が飲み会を開き、そこに一般青年が加わるという極めて不可解な、現実にはありえそうにない設定が笑いのポイント(?)なのかもしれません。警視庁の警視長なら役職は方面本部長か主要参事官クラスですからやはり大物です。そんな大物がたかが巡査に声かけして何度も食事に行ったりはしないでしょう。
座間味君も座間味君としか扱われていませんが、座間味君は本名ではなかったような。





にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

いつもご覧いただき、ありがとうございます。
応援よろしくお願いします。。
banner2[1].gif
posted by 曹源寺 at 18:39| Comment(0) | TrackBack(0) | あ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年11月29日

書評762 五十嵐貴久「7デイズ 日韓特命捜査ファイル」

こんにちは、曹源寺です。

シャブ&ASKAのASKAがまたしても覚醒剤使用の疑いで逮捕されました。50歳を過ぎると覚醒剤の再犯性が高まるそうで、最初の逮捕前から週刊文春であれだけラリッていた姿を写されたにもかかわらず自宅療養していたなんて、普通に考えたらありえないでしょう。なんで田代まさしのような療養施設に行かなかったのでしょうかねぇ。
自分の世代ではあの昔の漫画「ドーベルマン刑事」の中に覚醒剤患者の描写があって、たしか「生きていても死臭がする」とか「死んで火葬すると骨が残らない」とか、かなりエグイ表現で覚醒剤の危険性を読者に訴えていたのを覚えています。あれは絶対に我らの世代に抑止力となって働いていると思います。平松センセーに感謝ですね。
でも、小学生にはドーベルマン刑事、かなりキツイです。今思えば、ヤクザ、マフィア、暴力、レイプ、爆弾魔、シャブ、などなどヒャッハー!な世界がバリバリ描かれていましたわ。加納刑事のぶっ放す44マグナム「ブラックホーク」なんて実際に当たったら一発で人間粉々ですよ。「ド外道がー!」と言いながら人間を粉々に破壊する銃を街中で撃ちまくる刑事。。。西部警察も真っ青です。
でもこうやって思い出しながら書いていると読み返したくなりますね。しかし、もう我が家にコミックを置くスペースはありませんので買うのはあきらめよう。。。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

内容(PHP研究所HPより)
日本と韓国を揺るがす、最強の“相棒”登場!
韓国の麻薬王・インチェルの死体が、隅田川で見つかった。エリート女刑事・ジヒョンが捜査のためソウルから来日する一方、警視庁の新米刑事・後藤陽平は、ジヒョンに捜査の邪魔をさせないよう上司から“特命”を受ける。初対面からぶつかり合う二人だが、事件の裏には日本と韓国を巻き込むある陰謀が隠されていて……。
何から何まで違いすぎる二人が繰り広げる、ノンストップ警察小説!


曹源寺評価★★★★★
エンタメ系作品を次々と発表される五十嵐センセーの量産ペースは衰えることを知りませんな。今回は韓国のエリート女刑事と警視庁の新人刑事がぶつかり合う警察小説でありました。
日本に潜伏していた韓国の麻薬王が水死体で発見され、警視庁は事故死と認定していた。そこに韓国からソウル大学主席卒業、テコンドーの達人にして弱冠29歳の警部補クラスのエリート刑事、ジヒョンが来日し、捜査をさせろと要請してくる。警視庁はできるだけ穏便に済まそうとして新米の後藤に警護役を命じジヒョンをもてなすが、一刻も早く捜査を行いたいジヒョンとの間で諍いが。他殺の疑いが濃くなってきたため、後藤も捜査に加わろうとするが、そこには、、、
前半の二人のすれ違いと後半の犯人との攻防の間にものすごい落差を感じてしまいますが、それ以外はだいぶ素直に読めます。最初の100ページはある意味ムダかもしれませんが、後半の味付けのためだと思えばまあ納得できなくもありません。

ただねぇ、この主人公2人のキャラはねぇ、どうなんだろぅ。

日本を見下しているだけでなく、誰に対しても上から目線でバリバリの国粋主義者であるジヒョンと、刑事になって半年、公務員気質が抜け切れない刑事っぽくない後藤のやりとりはあまり面白いものではありません。
それと、五十嵐センセーにありがちなのですが、軽くて読みやすい反面、派手なアクションシーンなどは描写が雑ですのでのめりこんで読むとちょっとがっかりします。ここはさらっと流して展開だけを楽しむのがコツなのかもしれないですね。





にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

いつもご覧いただき、ありがとうございます。
応援よろしくお願いします。。
banner2[1].gif
posted by 曹源寺 at 17:33| Comment(0) | TrackBack(0) | あ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年11月01日

書評756浅井建爾「知らなかった!驚いた!日本全国「県境」の謎」

こんにちは、曹源寺です。

東京都民としましては五輪を控え、古い建物が壊されたり新しい道路ができたりするとすごく新鮮な気分になります。新たなインフラ整備は大歓迎なのですが、今年4月に開業した新宿バスタがひどい状態ということで残念な記事が増えてきました。

バスタ新宿前「渋滞改善と発表は間違い」と国交省謝罪 バス会社120社に違法駐車の改善要請(2016/11/1産経新聞)
全国最大のバスターミナル「バスタ新宿」(東京)の渋滞問題で、国土交通省は1日、過去に公表した「渋滞が改善した」とする調査結果が間違いだったことを明らかにし、謝罪した。同施設周辺の違法駐車問題に対しては、バス会社に文書で改善を要請した。
国交省はバスタ新宿開業1カ月後の今年5月、施設前の国道20号のタクシー乗降場を施設内に収容したことで「渋滞が改善した」と発表していたが、「改善がみられない」と訂正した。昨年11月と今年5月のそれぞれ1日分だけの渋滞の最大延長を目視確認した不十分なデータで比較したことが原因という。
膨大な情報を分析する「ビッグデータ」で昨年と今年の4〜9月分の渋滞状況を解析した結果、ほとんど改善しておらず、時間帯によっては悪化していた。今後、渋滞解消に向けた取り組みを強化する方針。
一方、国交省は10月下旬、西新宿地区で路上駐車し、時間調整している高速バスを確認。同月28日にはバスタ新宿を運営する「新宿高速バスターミナル」(東京)を通じ、バス会社約120社に路上駐車をしないよう口頭で要請したが、状況が変わらなかったことから再発防止策の提出とともに改めて文書で求めた。10月下旬の3日間の午前中だけで、約30台が路上駐車していたという。


新宿駅西口に分散していたあれだけのバスを一箇所に集めたらどうなるのか。しかも国道20号(甲州街道)沿いという東京屈指の動脈に隣接したらどうなるのか。こうした思考が働かずに、あるいは働いたのかもしれないが机上の計算だけにとどまったりすると、こうした弊害が起こるという悪い見本のような有様になりました。
渋滞だけでなく、トイレが少ないとかコンビニを誘致できていないとか、利便性にも知恵が働いていないという酷さ。お役所仕事の真髄を垣間見ることができました。
なぜ、頭のいいはずの役人(今回の場合は国土交通省)がこうした無様な結果をさらけ出すのか。これを学問にして研究を重ねても良いのではないかと思えるレベルです。

かつての新宿駅西口は停留所が分散しすぎていて、中央高速方面ならヨドバシ前だとか、山陽方面ならスバルビルの方だとかいろいろ知っていないと乗るまでに大変という有様でした。それが一箇所に集まれば道に迷う人はいなくなります。大きなバスターミナルができれば便利は便利です。
しかし、新宿駅西口は大きなターミナルがあって、北にも南にも西にも抜けられるように設計されていました。北に行けば青梅街道、南にいけば甲州街道、西からちょっと行けば首都高速4号線といずれの方向にもスムーズなアクセスができる場所なんですね。それを甲州街道だけにしてしまえば当然渋滞するわけです。

バスタの立地は素晴らしいのですが、どうせなら首都高に抜けられる専用道路か、あるいは甲州街道の車線を1〜2車線増やすくらいのことをしなければいけなかったのだろうと思います。ホント、これどうするんでしょうね。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

内容(実業之日本社HPより)
好奇心や旅心をくすぐるネタ満載!
四国には、愛媛県と高知県しかなかった?
日本一人口の多い県は、石川県だった?
時代とともに、めまぐるしく移り変わったのが日本の「県境」でした。明治維新から140年を経たいまでも、全国47都道府県のうち、およそ半数の23都県に「県境未定地」があるなんて、信じられますか? 県境は単なる行政上の境界線、と思いきや、この曲がりくねった一筋の線が引かれるまでには、全国各地に悲喜こもごものドラマがありました。たかが県境、されど県境――思わずだれかに話したくなるようなエピソード満載の面白本、日本の地理や歴史を見る目が変わります!


曹源寺評価★★★★★
最近の新書は粗製乱造が甚だしいのであまり書店の新書コーナーに立ち寄らなくなっていましたが、本書は息子の通う塾の先生がお勧めしていたので親が先に読んでみた次第。
本書は2007年9月の発刊ですから、かれこれ9年も経過しています。いまさら感満載ですが、教養として学ぶものですから勘弁しておくんなまし。
なるほど、タイトルの通り「県境」ってどんな理由で構築されたのだろうという疑問には十分応えてくれる内容です。都道府県の成り立ちを知る上で本書の記述はかなり役に立ちます。東京都の多摩地区は神奈川県から分離された、とか、四国は2県しかなかった時代がある、とか、石川県が一時、国内最大の人口を誇る県だった、とか、知らないことだらけで一気読みでした。
高校日本史の教科書にさえ載っていない話って、いいですね。
個人的にはこの幕末から明治にかけて、あるいは明治から大正、昭和初期あたりまでの歴史というものが教養的にまったく不十分なので、一時期ちょっとだけ読み漁ったのですが、難しすぎる本を手にとってしまうとそこでお勉強がストップしてしまうわけですよ。
それでもWebサイトなどで面白そうな雑学を得られるところはブックマークしてたまに閲覧するようにしています。「東京DEEP案内」とか「探検コム」(ここの管理人さんは本当にすごい人)などは良く知られるサイトですが、日本史の裏とか現代の闇とか本当に奥が深いですね。
さて、本書に戻りますが、江戸から明治にかけては廃藩置県というものすごい大規模な行政改革がありました。県境が変われば行政管轄も変わるということで、住民にとっては生活の基盤そのものが大きく揺らいだ時代でもあったわけです。しかし、長い歴史を経て統治されてきた藩という制度は住民生活と密接につながっていたため、県を置いたところで旧藩の制度をまったく無視するわけにはいかなかったというのが実情のようですね。
読んで楽しかったのは事実ですが、編集にはちょっと疑問が残りました。

何というか、整然としていないんですよ。

北海道から順に南下するわけでなく、時系列に並んでいるわけでもなく、マメ知識がずらりと並んでいるだけという感じで、ひとつひとつの単元もつながりがないのでもうちょっと理路整然と並んでいて欲しかったなあという印象です。もちろん、少しは並んでいる(たとえば、どちらの県にも属していない地域の話とか)のですが、編集にはもう一工夫あっても良かったのではないかと思います。
あ、あと本書には続編もあるみたいなので探してみようと思います。





にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

いつもご覧いただき、ありがとうございます。
応援よろしくお願いします。。
banner2[1].gif
posted by 曹源寺 at 18:39| Comment(0) | TrackBack(0) | あ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年10月28日

書評755 相場英雄「ガラパゴス(上)(下)」

こんにちは、曹源寺です。

今年のプロやきう日本シリーズは見応えがあって面白いですね。両軍のファンにしては胃が痛いくらい緊迫した試合が続きましたからつらいとは思いますが。視聴率も関東地区17.4%ならそこいらの安物ドラマよりよほど良い数字だと思います。広島地区は27日の試合の平均視聴率が44.4%だったそうで。お化けコンテンツですな。
プロやきうというコンテンツはすでに過去の遺物だという意見は多いですが、実際のところはどうなんでしょう。日本シリーズですから多少は割り引かないといけないと思いますが、ローカルだけならまだまだ十分いけるのかもしれないですね。

そうすると、プロスポーツの中継試合はテレビ番組としてどれだけ価値があるのかという命題になってしまうのですが、やきうとサッカーは代表戦なら十分魅力的ですね。代表戦だけという観点ならばラグビーもバレーボールもいけるかなあ。テニスは個人戦でも観たいなあ。でも冗長だよなぁ。といろいろなことを考えてしまいます。
プロスポーツのなかでもマイナーな競技をEテレだけに独占させず、民放でもやってほしいなあとは思います。スポンサーがつけば問題ないわけで、卓球バドミントンの世界ツアー個人戦や体操の世界選手権レベルの試合、日本人が参加している海外メジャーゴルフあたりは真剣に観たいかもしれません。スポーツバーとかで盛り上がりたいです。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

内容(小学館HPより)
(上)
現代の黙示録『震える牛』続編!
警視庁捜査一課継続捜査担当の田川信一は、身元不明のままとなっている死者のリストから殺人事件の痕跡を発見する。不明者リスト902の男は、自殺に見せかけて都内竹の塚の団地で殺害されていた。
遺体が発見された現場を訪れた田川は、浴槽と受け皿のわすかな隙間から『新城 も』『780816』と書かれたメモを発見する。竹の塚で田川が行った入念な聞き込みとメモから、不明者リスト902の男は沖縄県出身の派遣労働者・仲野定文と判明した。田川は、仲野の遺骨を届けるため、犯人逮捕の手掛かりを得るため、沖縄に飛ぶ。
仲野は福岡の高専を優秀な成績で卒業しながら派遣労働者となり、日本中を転々としていた。田川は仲野殺害の実行犯を追いながら、コスト削減に走り非正規の人材を部品扱いする大企業、人材派遣会社の欺瞞に切り込んでいく。

(下)
平成版『蟹工船』!メモ魔の刑事、再臨場!
警視庁捜査一課継続捜査担当の田川信一は、身元不明のままとなっている死者のリストから殺人事件の痕跡を発見する。自殺に見せかけて都内竹の塚の団地で殺害されたのは沖縄県出身の派遣労働者・仲野定文だった。仲野は福岡の高専を優秀な成績で卒業しながら派遣労働者となり、日本中を転々としていた。田川は、仲野が非正規雇用労働者として勤務していた三重県亀山市、岐阜県美濃加茂市を訪れる。そこで田川が目にしたのは国際社会に取り残され、島国で独自の進化を遂げる国内産業の憂うべく実態だった。
仲野殺害の実行犯を追いながら、田川はコスト削減に走り非正規の人材を部品扱いする大企業、人材派遣会社の欺瞞に切り込んでいく。


曹源寺評価★★★★
「平成版 砂の器」と賞賛され、テレビドラマ化もされた「震える牛」の続編という触れ込みになっていますが、主人公の田川信一刑事が同じなだけで、続編というよりは「刑事・田川信一シリーズ」と呼んだ方がしっくりくるような作品です。しかし、今度は「平成の蟹工船」ときたもんだー。まあ、あながち間違いではないと思いますが。
本書は身元不明者の死体から殺人事件の痕跡と思しきものを発見した主人公の田川が、事件を発掘するうちに見えてくる、派遣労働をコストとしか見なさなくなった大手製造業の実態、工場撤退による地方都市の衰退、大手人材派遣会社の暗躍などに迫りつつも犯人を追い詰めていくストーリーであります。
相場英雄センセーは経済ネタに強いので、こうした労働問題や経済不祥事事件など時事ネタを盛り込んだ作品はお手のものであります。
上下巻600ページを超える大作にもかからわず、ぐいぐいと読ませるまでに昇華されたテクニックはさすがです。昔の相場センセーはこの辺があまりうまくなかったですが、最近の著書はいいですね。もう何の文句もありませんわ。
地味な刑事の主人公・田川もなんというか、平泉成が演じているかのような正統派の刑事なものですから、中途半端なキャラクターよりもずっと好感が持てます。疑問は徹底的に潰していくという姿勢がすごいです。三重、岐阜、愛知、埼玉、宮城、沖縄と被害者の足取りをひたすら追っていく様が刑事の執念を感じさせてくれるのです。

これを退屈という人は警察小説なぞ読まないほうが良いと思います。

表題の「ガラパゴス」ですが、すでに国内だけで発展してきた携帯電話がガラパゴス携帯→ガラケーとなったように、独自の進化を遂げたがゆえに世界標準から取り残されてしまった工業製品を総じてガラパゴスの名を使って揶揄することが当たり前になってしまいました。携帯電話だけでなく、洗濯機や冷蔵庫などの白物家電、テレビやカメラなどの映像・音響製品などがガラパゴス化してきています。
本書はさらに、自動車の分野においてハイブリッドモーター搭載の乗用車もガラパゴス化していると見なしていて、欧州などで主流になりつつあるディーゼルまたは小型エンジン+過給機(ターボ)の分野で日本勢は大きな後れを取っていると論破します。そのうえで、あのシャープが敗者となったことで亀山市の工業団地がとんでもないことになっている点を挙げ、自動車でもガラパゴス化によって企業城下町が過疎化してしまったら日本はどうなるのだろうと本気で心配してくれています。
主人公の田川が事件の本質に迫っていくのは下巻からでありますが、上巻もまた現代日本の縮図をさまざまな捜査過程で示してくれていますので、非常に興味深い展開です。外堀を徐々に埋めていって、後半で一気に本丸に攻め入ってくる刑事たちの迫力ある捜査は読み応えあります。
本書に登場するダーク企業は国内自動車ビッグ4の一角であるトクダモータースと、一代で大手企業にのし上がった人材派遣会社のパーソネル。トクダはハイブリッドで攻勢を仕掛けるも、バッテリーの重さゆえに燃費性能が上がらないため禁じ手を使うようになるという、笑うに笑えない企業です。コストダウンだけに血道をあげて本来の顧客満足を忘れた企業に明日はない、ということを知らしめてくれているわけですが、現実社会でもボディ鋼板裏面の塗装が雑すぎて笑えないクルマが見つかったりしていますので、乗用車というのは本当によく吟味してから乗りたいものですね。
まあ、結局のところ、

本書はリアルすぎて怖い

という点において、「震える牛」と同等、いやそれ以上に暗澹な気分にさせられること請け合いです。殺人の動機がついにここまできたか、との思いは強くなりますが、あまりにも哀しく、そしてリアルにありえそうで怖くなります。最近のミステリでは「何でこんな動機で人を殺すかね〜」と疑問符つけながら読まなければならない作品が増えてきたのですが、本書は違います。あまり考えなかったことでもありますが、この動機は現実に起きても全く不思議ではないというところにこの作品の奥深さがあるのだと思います。
国内経済は2000年代前半からの不況→内需落ち込み→企業業績悪化→そこにリーマン・ショック→円高→輸出型企業の怨嗟→デフレ進行→内需さらに落ち込みのループだったわけですが、そこにアベノミクスというカンフル剤を打ったことで円安→輸出型企業の回復→(本当なら)賃上げ→内需回復、という青写真が待っていてくれるはずでした。しかし現実には賃上げ実施には至らず、一部の大手企業のみがアベノミクスの恩恵を受けているだけにとどまっています。
どうしてこうなったのか。本書は日本経済の失速の原因が何であるのかを遠まわしに、そして比喩的に示唆しているように思えてなりません。

ラストも(以下、ネタバレ)
リアルすぎなんですよ本当に。警察の上層部と大企業の経営層による「手打ち」が現実社会で日常的にあるとは思えませんが、最期はすっきりしない展開でちょっと胸糞悪いです。どうせなら、クビになったパーソネルの高見沢女史が逮捕前に週刊誌にリーク→パーソネル森社長憤死→法廷でも田川刑事が証言台に立つ→米国でリコールの嵐→トクダ松崎社長憤死、くらいのところまで書けば読者的には溜飲が下がる思いだったのにと思います。





にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

いつもご覧いただき、ありがとうございます。
応援よろしくお願いします。。
banner2[1].gif
posted by 曹源寺 at 18:26| Comment(0) | TrackBack(0) | あ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年10月11日

書評750 伊坂幸太郎「サブマリン」

こんにちは、曹源寺です。

東京はようやく秋らしい気候になりました。朝晩の気温が15℃くらいになるとちょっと肌寒いのですが、自分はこのくらいがとても好きです。テニスの格好だと、上下ウォームアップを羽織って打ち始め、少し暖かくなったら脱いで試合開始、くらいの感覚が一番いいですね。

さて、いま国会では予算審議が行われていますが、実は憲法改正に必要な3分の2以上の議席を持った初めての論戦ということもあって、民進党が警戒を強めています。
予算の審議のはずなのに、なぜか憲法改正のことばかり聞く民進党。そんなに議論したいんですかね。予算の話をして欲しいのですが、矛先はなぜか憲法だったり稲田防衛相のことだったり訳分かりません。民進党は本当に政権を取りに行く気持ちがあるのか?単なる揚げ足取りだけに終始するだけなら、最大野党でいてほしくないですね。まあ、全然期待はしていないんですが、自分の周囲には民進党ファン(というよりアンチ自民党)がそれなりにいまして、たとえば都議会自民党のような伏魔殿をつくらせないために二大政党制のほうが良いと本気で思っている人はそれなりにいるわけです。

しかし、いまの民進党に政権担当能力はないと思います。

維新にも生活にもないでしょう。共産党なぞもってのほかです。
日本は長年、自民党の一党独裁体制が続きましたが、それは右派も左派も自民党内に取り込んでいたからこそであり、中曽根政権と宮沢政権ではその政策の中身がだいぶ違うように、自民党内で二大政党制が行われていたようなものだったわけです。
ですから、日本の政治をクリーンにしたいのならば、自民党を二つに分けたほうが早いと思うのです。石破、二階、谷垣(もう死に体ですが)あたりが党を割って中道左派政権をめざしたほうがよっぽど日本のためになると思います。実際のところ歴史は逆で、保守系の議員が党を割って保守党→日本のこころ、とか一部が維新になったりしているわけで、本来の保守を考えるならもう少し多めの議員が割っていても良かったのではないかと思います。ということは、つまり自民党は中道より若干左寄りであると言って良いのかもしれません。だとすると、少し右寄りの方にはいまの自民党は物足りなく感じるわけです。たまに出てくる自民党からのフザケンナッ!的な政策はそのせいだと思っています。このへんを何とかして欲しいなあ。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

内容(講談社HPより)
陣内さん、出番ですよ。
『チルドレン』から、12年。
家裁調査官・陣内と武藤が出会う、新たな「少年」たちの物語。
伊坂幸太郎、書き下ろし長編。


曹源寺評価★★★★
家庭裁判所の調査官である陣内と武藤。この二人を主人公に添えた「チルドレン」という作品が上梓されたのは2004年でありました。あれから12年が経過し、似たような装丁で再び書き下ろしてこられたのが本書であります。
先日の「陽気なギャング」シリーズも第2作目と第3作目の間に9年の歳月が流れておりました。伊坂センセーはよう分かりまへん。チルドレンの印象は「陣内とかいうちょっと変わった公務員がいて、それを武藤が語り部的に付き添っていて、二人でいろいろやらかした本」というくらいのものでしたので、他の作品と比較してしまうとどうしても薄い印象でした。
そこで本書ですが、家裁調査官ということでどうしてもテーマが少年犯罪になってしまうのはしょうがないとして、本書で書かれているテーマは重いです。すごく重いので

簡単に結論が出せるものではありません。

事件関係者や陣内、武藤、それぞれが本作で主張していることや疑問に思っていることなどは現実社会でも重厚なテーマとして議論が尽きないものだと思います。ですから、彼らの主張はそのひとつとして受け止めておけば良いのかもしれませんが、自分がいま言えることは「日本は法治国家であり、仇討ちは法律で認められていない」ということくらいでしょうか。
作中の陣内はこうした難しいテーマをしっかりと受け止めながら、自分にできる最良のことをする。先頭切って行動する。そして結果を出す。このフットワークの軽さと有限実行の力が読者的には心を惹かれるのだと思います。家裁調査官陣内シリーズとして、できればまた出していただきたい作品ですが、伊坂センセーはインタビューでもうやらない宣言をしておられるようです。残念です。





にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

いつもご覧いただき、ありがとうございます。
応援よろしくお願いします。。
banner2[1].gif

posted by 曹源寺 at 18:24| Comment(0) | TrackBack(0) | あ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月30日

書評747 伊坂幸太郎「陽気なギャングは三つ数えろ」

こんにちは、曹源寺です。

28日の話ですが、上毛新聞という地方紙が誤報をやらかしてしまったことがありました。
【おわび】「格闘ゲーム優勝」は虚偽(9/28上毛新聞)
27日に掲載した「仏で格闘ゲーム世界大会」の記事で、群馬県太田市臨時職員の男性(23)が渡仏して大会に出場した事実はなく、格闘ゲーム部門で優勝したとする報道は事実無根だったことが分かりました。読者の皆さまに深くおわび申し上げます。(以下、略)

経緯としては(コピペですが)、
(1)同僚に格闘ゲームの世界大会に選抜されたと自慢する
(2)フランスの大会に参加するという名目で上司に休みを申請(休む日は連休になるように選んでいた)
(3)ウェブ上にある海外の写真をパクってFacebookに投稿することで海外にいるように偽装工作を図る
(4)出社後、「優勝した」と自慢する
(5)上司が賞金を使っての祝賀会&記者会見を勧める
(6)記者会見の資料を自分で用意し「300万円を放棄して次のシード権を選びました」と発表
(7)虚言疑惑が浮上するも「ゲームセンターレベルの小さな大会だった。携帯は壊れたので証拠はない」と話す
(8)嘘を認める


本人の知らぬ間に話が大きくなってしまい、引くに引けない状況になってしまったという感じですね。
まあ、こんな嘘までついて長期休暇を取ろうとしたクズはとっとと処分されてください。

問題はマスゴミのほうですね。いくら市役所の公式なリリースとはいえ、賞金300万円の大会って結構大きいはずなんですが、現地への確認も一切しないまま写真入で記事を垂れ流すということが許されているということのほうが気になります。
しかも、上毛新聞だけでなく、朝日新聞もこれを転載しているというから驚きです。

いまはこういう「何の裏も取らない記事」=「下手すりゃ捏造記事」が審査校閲をスルーして本紙に載ってしまう時代なんですかね。時代じゃなくて昔からの慣習だったらすごいですね。いや、むしろそうなのかもしれないですね。

こういうのも何のお咎めもなく、運が悪かったね〜で済まされるなら新聞社に未来はないですね。ご愁傷様でした。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

内容(祥伝社HPより)
陽気なギャング一味の天才スリ久遠は、消えたアイドル宝島沙耶を追う火尻を、暴漢から救う。だが彼は、事件被害者のプライバシーをもネタにするハイエナ記者だった。正体に気づかれたギャングたちの身辺で、当たり屋、痴漢冤罪などのトラブルが頻発。蛇蝎のごとき強敵の不気味な連続攻撃で、人間嘘発見器成瀬ら面々は断崖に追いつめられた! 必死に火尻の急所を探る四人組に、やがて絶体絶命のカウントダウンが! 人気シリーズ、九年ぶりの最新作!


曹源寺評価★★★★★
実に9年ぶりだそうです。「陽気なギャングが地球を回す」「陽気なギャングの日常と襲撃」に続く第3弾といわれましても、もうすっかり忘れておりますがな。
と思いつつ読み進めていくと何となく思い出しました。「陽気なギャング」は銀行強盗を生業とする4人組で、演説の天才である喫茶店店主の響野、相手の嘘を一瞬で見破る公務員の成瀬、動物をこよなく愛するスリの天才の久遠、正確な体内時計を持ち抜群のドライビングテクニックを持つ雪子、の4人でした。今回は彼らの強盗団としての活躍ではなく、彼らの正体を暴き出そうとした週刊誌記者、火尻との対決というストーリーです。
4人の持ち味が十分に発揮されただけでなく、いつもの伊坂ワールドも存分に展開されていますので、ラスト、特に200ページ以降の伏線を回収しにいくところからの半端ない展開に読んで納得の一作になりました。すべてがラストを迎えるための仕掛けだったのではないかと思うくらい、あれもこれも盛り込んでくれています。

こんなどうでもいいサイドストーリーさえ伏線になっていたんかい!

という驚きは「ゴールデンスランバー」以来かもしれません。読み返しは必至ですわ。
(以下、ちょっとネタバレ)
伊坂作品のラストの傾向として、悪党が最期に因果応報的にやられてしまう、特に主人公が自ら手を下さずとも地獄に落ちてしまう、というのがここ最近のトレンドです。「死神」シリーズや「殺し屋」シリーズなどにもこんなラストが見受けられました。
読者としてはスカッとするような、ちょっとだけもやもやが残るような、何とも言えない気分にさせられますね。
でも、それこそが伊坂作品なのだ!と思えばその通りです。死神だの殺し屋だの、あるいはギャングだの、「ちょっと道を踏み外せばそこは畜生道な連中」がわんさか登場する作品において、おどろおどろしい復讐譚など伊坂作品にはそぐわないですもんね。ちょっとあっけないくらいがちょうど良いのかもしれません。本書もまた、ちょっとあっけないのですが、それもまた良し!でありましょう。





にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

いつもご覧いただき、ありがとうございます。
応援よろしくお願いします。。
banner2[1].gif

posted by 曹源寺 at 16:21| Comment(0) | TrackBack(0) | あ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月09日

書評741 大倉崇裕「スーツアクター探偵の事件簿」

こんにちは、曹源寺です。

今週は蓮舫議員(以下、R4)の二重国籍疑惑が政治ネタの中心にありましたが、早く幕引きを図りたい民進党となぜか民進党を執拗に擁護する一部マスゴミが議論をすり替えたり、あるいは意味不明な擁護発言をしたりと、いろいろややこしい状態になっています。

整理しますと、
・国籍法において、二重国籍は違法である
・しかし、その運用についてはほとんどザルである
・被選挙権を規定する公職選挙法においても特段の規定はない

と、ここまでが客観的事実です。
以降は議論が分かれるところです。
・規定がないなら別にいいじゃん
・違法ではないが不適切である →枡添のときと同じセリフが再び〜
・外務省や国会議員など、二国間あるいは多国間の利害調整を行う職業においては、厳しく取り締まるべきである
・そうだ、法律で制限しよう →維新の党が動議(!)

実際には二重国籍者は外交官になれないようですね。当たり前といえば当たり前です。しかし、議員についてはこれまであまり議論されてこなかったわけで、そのツケがいま廻ってきているのでしょう。ちょうど良い機会ですから、しっかりと規定し、厳格に運用していただきたいものです。
いっそのこと、帰化一世は議員になれないとするくらい厳格な規定を設けても良いと思います。米国がそうですからね。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村


内容(河出書房新社HPより)

ひょんなことから、怪獣に入って演技する「スーツアクター」のコンビを組むことになった、椛島雄一郎と太田太一。映画撮影所で次々とおこる謎の事件を、この凸凹なふたりが解決する!


曹源寺評価★★★★
大倉崇裕センセーの最新刊です。
本書は着ぐるみの中に入って演じるスーツアクターを志望する青年、椛島雄一郎を主人公にして、その相棒である太田太一とともに特撮映画の撮影現場で巻き起こす事件、騒動を解決していく、というお話です。
映画「シン・ゴジラ」は完全CGですから、着ぐるみというのはいわば斜陽産業であるのかもしれません。ヒーローならウルトラマンも仮面ライダーも依然として着ぐるみですが、怪獣となるとどうなんでしょうかね。破壊されるためだけに作られたミニチュアセットとか重くてしょうがない着ぐるみとか、前時代的な匂いがしてしょうがないのですが。
これが怪獣ではなくてゆるキャラであれば最先端の業界と言えるのかもしれませんが。
ストーリーは連作短編形式で4作品を収録していますが、謎解きとしては読み進めるうちに高度になっていくという仕上がりを見せています。短いストーリーのなかで伏線を張り巡らせながら、きちんと回収していくというのはなかなか高度な技だと思いますが、この伏線が分かりやすいものだと読者にバレバレになってしまいますのでこのさじ加減が難しいですね。
本書はまた登場人物のキャラが際立っているのも特徴的です。スーツアクターを志望しつつも、ちょっとした事故から着ぐるみを着ることができなくなってしまった主人公の椛島。怪獣のことなどさっぱり知らないのに天性の才能を発揮する太田。自尊心の塊で友達がいない布施。おとなしい助監督なのに実はとんでもない人だった小川。さっぱりとした男っぷりを見せつける女編集者の飛田。などなど。分かりやすいキャラ設定で会話の妙も楽しめます。
大倉センセーは最近、怪獣オタクであることを隠さなくなっていて、近著「BLOOD ARM」では未知の怪獣をネタにした作品を挙げてこられました。読者としては

この大倉センセーの怪獣愛をどう受け止めようか

と思案してしまいますが、同世代の人間としましては怪獣ネタどんとこい!という気分にさせられてしまいます。





にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

いつもご覧いただき、ありがとうございます。
応援よろしくお願いします。。
banner2[1].gif
posted by 曹源寺 at 16:58| Comment(0) | TrackBack(0) | あ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年09月06日

書評740 奥田英朗「向田理髪店」

こんにちは、曹源寺です。

残暑が続きますね。西日本はずっと酷暑だそうですが、いま日本で最も暑いのは広島かもしれません。
真っ赤に染まる広島 25年ぶりV「夢の瞬間」心待ち(9/6朝日新聞デジタル)
スタジアムだけではない。まちも、人も、広島は「赤」に染まっている。広島カープの25年ぶりのセ・リーグ優勝が目の前に迫ってきた。思い返せば万年Bクラスの暗黒時代もあった。「メークドラマ」されたこともあった。でも、もうそんなことはどうでもいい。「その瞬間」まで、マジックわずか4だ。(以下、略)

25年ぶりのセ・リーグ優勝はほぼ確実なところまできました。マジック点灯から試合のある日はほとんどマジックを減らしてきているという驚異的なスピードで一気に「残り4」まできましたので、地元民はお祝いの準備に大わらわだそうです。
東京にいるカープファンはどこでお祝いしたら良いんでしょうかね。黒田投手や新井選手が間違いなく泣くでしょうから、そのときはもらい泣きしようと思います。
さあ、いよいよカウントダウンです!

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

内容(光文社HPより)
・札幌で就職した息子がわずか一年で帰郷。理髪店を継ぐと言い出した。
・幼馴染の老父が突然倒れた。残された奥さんは大丈夫?
・異国の花嫁がやって来た。町民大歓迎。だが新郎はお披露目を避け続ける。なぜ?
・町に久々のスナック新規開店。妖艶なママにオヤジ連中、そわそわ。
・映画のロケ地になり、全町民大興奮。だけどだんだん町の雰囲気が……。
・地元出身の若者が全国指名手配犯に! まさか、あのいい子が……。
──心配性の理髪店主人が住む過疎の町で起こる騒動を描いた極上の一冊。


曹源寺評価★★★★★
北海道の中央に位置する苫沢という町で巻き起こる騒動をコミカルに描いた作品です。奥田テイスト満載の連作短編ですから、まあハズレはありません。過疎に苦しむ財政破綻の町という設定で、主人公は理髪店の2代目店主、向田康彦。ご近所のガソリンスタンド経営者や農業従事者、町の助役などさまざまな人たちのストーリーに絡みながら、濃密な人間関係からくるヒューマンなドラマを描いてくれています。そう、田舎町だから濃密なんです。でも田舎なので人口がどんどん減っているわけです。リアルな現実を突きつけられながらも、若い人たちが町の活気を取り戻そうと奮闘したりするなかで、未来に希望も何も持っていない主人公の康彦、という対照的な設定にもまさに現実の平成日本社会を炙り出しています。ですから、

これは平成における昭和のお話

といっても良いかと思います。

テレビドラマ化決定ですわ(願望)

話をじんわりと広げていき、着地点がないようにみえて実はある。読み終わればなぜかほっこりする。こんな文章を書く奥田センセーはやっぱり神ですわ。





にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

いつもご覧いただき、ありがとうございます。
応援よろしくお願いします。。
banner2[1].gif
posted by 曹源寺 at 16:58| Comment(0) | TrackBack(0) | あ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月05日

書評733 一橋文哉「国家の闇」

こんにちは、曹源寺です。

あぢぃ〜 夏本番ですね〜
今夜辺りから相当寝苦しい夜になりそうです。

さて、自分はアラフィフですが、この世代は小さい頃にロッキード事件があり、その後成人を迎える前後にリクルート事件があったりして、いわゆる汚職・疑獄といった政治事件を強く記憶に留め置いています。
また、UFOやUMAなどミステリ関連、ノストラダムスの大預言、「あなたの知らない世界」や&ロ愛子センセーのような霊能関連にも興味を注がれる時代を過ごしてきました。
ですから、反権力志向をとどめつつも陰謀論にも加担しているという歪んだ精神構造を持っている人が多いのかもしれません。自分もその一人です笑

謀略とか謀殺といった単語にも反応してしまいまして、これを強化してしまったのが松本清張センセーの「日本の黒い霧」という著作であります。下山事件の詳細を知ったのは20代後半、本書を読んでからでした。ちょうどその頃はバブルの後始末で日本中が大騒ぎの最中でした。おまけにオウム真理教関連事件が立て続けに発生し、世はまさに世紀末でありました。イトマン事件や住専問題、住友銀行名古屋支店長射殺事件などは日本経済の闇の深さを我々に教えてくれたものでした。
20年後の現在、政治事件に関しては東京地検特捜部のパワーが大きく下落し、政治資金収支報告書の重箱の隅を突いてはやれガソリン代がどうだとか、コーヒー代が異常だとか、そんな話ばっかりです。
デジタルの時代になって心霊写真もなんだかぱっとしないし、預言みたいなやつはネットに「降臨」してくる怪しげな未来人とか地震を予知できるお母さんとかそんな話で盛り上がっては消えていく。退屈しのぎのネタになっているだけですね。

なんだか、国民全員が不感症みたいになっていて、もうちょっとやそっとじゃ驚かなくなっていませんか。たまに盛り上がるのは「文春砲」くらいなもので、なんというか「モラル的におかしいけど徹底的に追求するには至らない」みたいな話が多すぎますね。
う〜ん、話が抽象的すぎてうまく伝えられないなあ。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

内容(KADOKAWA HPより)
日本の犯罪史を本質を抉るノンフィクション
戦後を代表する重大事件がいかにして起こり、人々にどう受け止めてきたのか。また、その後の日本にどのように影響を与えたか。犯罪史を総括する。


曹源寺評価★★★★
先日読了した「人間の闇」の姉妹作です。一橋センセーは本書のほかにも「マネーの闇」を上梓されていて、角川新書「闇シリーズ3部作」とでもいうかたちになっています。
本書ではロッキード事件、佐川急便事件、リクルート事件といった政財界関連の疑獄事件にはじまり、オウム真理教関連事件とロシアのつながり、古いところでは国鉄3大事件(下山事件、三鷹事件、松川事件)や帝銀事件、また、豊田商事事件の残党と「指南書」の行方など、昭和から平成にかけて世間をにぎわせた事件を幅広く取り上げています。
「国家」というタイトルですが、実際に国家というか政権というか純粋に政治マターといえるのはいわゆる疑獄事件関連に留まりますが、逆に「国家が手を出せないタブー」というのもある意味「国家の闇」と言えなくもないですね。本書後半に書いてある○○利権関連などはもうすでに誰も手を出すことができなくなっているのかと思うと暗澹たる気持ちになります。闇深すぎるわ。。。
読了して思うのは、一橋センセーの取材範囲の広さと、仮説組み立てのうまさが際立っているということです。取材範囲が広いゆえに、他の未解決事件との関連性などにも言及されていまして、

まさか豊田商事事件とライブドア事件がつながっているとは思いませんよ。

つまり、我々一般庶民が事件を聞きかじっていても、それはほんのわずかな踏み跡でしかなくて、

ナスカの地上絵のように、地面にはいつくばっているだけの人間には全体像が理解できない

のでありましょう。
その地上絵の、ほんの一部でも一般庶民に理解してもらおうとする一橋センセーの取材活動に、心から敬意を表したいと思います。せっかくですから、センセーの古い著作から読み返そうかと思います。





にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

いつもご覧いただき、ありがとうございます。
応援よろしくお願いします。。
banner2[1].gif
posted by 曹源寺 at 16:54| Comment(0) | TrackBack(0) | あ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする

2016年08月02日

書評732 一橋文哉「人間の闇」

こんにちは、曹源寺です。

東京都知事選挙は小池百合子の圧勝に終わり、増田と鳥越は男を下げました。それ以上に男を下げたのは石原伸晃都連会長でした。政治家の発言というものは一般人のそれとは大きく異なり、あっという間に伝播し、多くの人に影響を与えるのだということが良くわかります。
都議会自民党はどうやらクソだということらしいので、これを機会にある程度の膿を出さないといけません。小池氏の手腕に期待しましょう。

最近思うのは、こうした腐れ組織、クソッタレな既得権益団体、トンデモ思想にかぶれて毒を撒き散らしている団体、こうしたものが日本を腐らせているのだなあということであります。
一般企業であれば客が離れ、人材が離れ、組織は瓦解していきます。時代の波に取り残された企業もやがては淘汰されていきます。
しかし、役所や議会は別です。決して潰れることはありません。そこに権力などを与えられているわけですから増長しないわけがないんです。権力は必ず腐る。これは古今東西の不変の真理です。ある程度の新陳代謝がないと本当に腐れていくんですね。
都議会のみならず、全国の地方議会もいろいろありそうです。そろそろメスを入れるべき時が来たのかもしれません。

にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村


内容(KADOKAWA HPより)

グリコ事件、世田谷事件、他、戦後を代表する重大事件がいかにして起こり、日本人にどう影響を与えたか。未解決事件の本質の闇を覗く。


曹源寺評価★★★★
つい先日、相模原市の介護施設において元職員による大量殺人事件が発生しました。抵抗できない重度障害者を真夜中に刺し殺すという大変ムナクソ悪い事件です。大量殺人事件といえば明治の津山三十人殺しをはじめ、深川通り魔事件、宮崎勤事件、埼玉愛犬家連続殺人事件、酒鬼薔薇聖斗事件、北九州監禁殺人事件、大阪教育大学附属池田小事件、池袋通り魔殺人事件、土浦連続殺傷事件、下関通り魔殺人事件、そして秋葉原連続殺傷事件、と思いつくだけでもこんなにあります。通り魔事件多すぎ。

今回の事件は通り魔のように「無差別」に人を殺して回る事件とは性質が違うと思いますが、「差別殺人事件」とは誰も言わないですね。無差別殺人は時に模倣犯を生み出しましたので、差別殺人を大々的に報道すると同じように模倣犯を生み出しかねないから自粛しているのかもしれません。
たとえば、糖尿病で人工透析患者にでもなれば年間500万円以上の医療費がかかりますが、人工透析は自己負担ゼロです。糖尿病患者310万人のうち、人工透析は10万人。人工透析にかかる国費はざっと5,000億円です。
「暴飲暴食を重ねた奴の医療費など国が出すのはおかしいやろ!」
というような意見がまかり通れば、人工透析患者を刺し殺してもええやろ、といった極論が正当化されることになります。糖尿病は暴飲暴食だけが原因ではありませんので、こんな意見でもネットで盛り上がろうものなら大変な世の中になってしまいます。

本書に戻りますが、事件の裏を探り真相に迫るジャーナリスト、一橋文哉センセーが過去の重大事件を紐解き、事件に至る犯人の心理描写や証言、生い立ちなどの背景からその病理の根源に迫るノンフィクションを書き上げたものです。
マスコミや警察が発表しているような上っ面だけの背景では分からなかった「闇」の部分を浮かび上がらせているのが、本書を読むと良くわかります。たとえば、世田谷一家4人殺害事件では、上層部が秘密保持を重視しすぎて現場に伝わらず、犯人が逃走する前の時間帯の目撃証言を集めていた(!)とか、秋田児童連続殺害事件の畠山鈴香被告は小学校時代からのいじめ被害者で、その内容が(実に東北らしい)えげつないものだった、とか、実際には事件当日の供述が曖昧なまま審理が進んでいたことなどなど、不可解だったりムナクソ悪い話だったりいろいろですが、上っ面だけのテレビ新聞とは異なる非常にディープな内容がそこにはありました。

未解決事件という単語だけで普段からゾクゾクするような自分ですが、考えてみれば解決済みの事件であっても実際には謎な部分が残っているような話はあちこちにあります。オウム真理教の村井副代表が視察された事件は、犯人の徐裕行は2007年に出所しています。本当は誰に頼まれて村井を殺したのか?彼は明確にヒットマンを否定していますが、真相はどこにあるのでしょうかね。
また、新潟少女監禁事件なんて、2000年に逮捕、2003年に実刑判決で懲役14年だから、未決拘留期間を考慮すると実質的に犯人の佐藤宣行は出所していることになりますね。
(((((((( ;゚Д゚))))))))ガクガクブルブルガタガタブルブル

マジで怖いんですが。






にほんブログ村 本ブログ 書評・レビューへ
にほんブログ村

いつもご覧いただき、ありがとうございます。
応援よろしくお願いします。。
banner2[1].gif
posted by 曹源寺 at 17:32| Comment(0) | TrackBack(0) | あ行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
最近の記事
カテゴリ
過去ログ
検索
 
最近のコメント
書評802 呉勝浩「白い衝動」 by 本が好き!運営担当 (05/17)
書評785 東野圭吾「人魚の眠る家」 by 藍色 (04/05)
書評754 佐藤弘幸「税金亡命」 by 曹源寺 (02/01)
書評777 垣根涼介「室町無頼」 by 本が好き!運営担当 (02/01)
書評754 佐藤弘幸「税金亡命」 by 佐藤弘幸 (11/17)
タグクラウド
<< 2017年08月 >>
    1 2 3 4 5
6 7 8 9 10 11 12
13 14 15 16 17 18 19
20 21 22 23 24 25 26
27 28 29 30 31    
リンク集