ミステリ読みまくり日記 〜書評(ネタバレあり)

通勤時間に読む、日本のミステリとその他小説をとりあえず書き留める
 

カテゴリー:か行の作家

2017年08月18日

書評828 今野敏「アンカー」

こんにちは、曹源寺です。

北朝鮮がグアムへのICBM発射を一旦取りやめました。米トランプ大統領は「賢い選択をした」などと褒め称えて(皮肉って)いますが、戦争の危機が去ったわけではなく、かの国が危険な国であることも依然として変わらないのです。
一番怖いのは、腰抜けになった首領など要らぬ!といって北朝鮮の軍部がクーデターを起こすことではないかと思います。もしクーデター発生→金正恩暗殺→軍事政権発足、になったら今度は中国が乗り込んでくるだろうと思います。
北「これからは軍部が政権を運営する。まずは米国にICBM撃っちゃるで」
中「待てやコラ聞いてねえぞ」
米「やれるもんならやってみろ」
北「撃ったで〜」
米「てめえやりやがったな、戦争だ!」
中「待て待て、いま傀儡政権作るから」
米「いや待てぬ、侵攻開始」
中「そういえば正男いないんだった。どうしよう」
米「うおおおおおおおおおおおおおおおお」
中「あああああああああああああああああ」
北「グエー死んだンゴ。でもその前に核ボタンポチー」

金正恩がパフォーマンス的に威圧しているのはわかりますし、経済的にも武力的にも米国とは比べ物にならないほど弱いのも知っていますが、北が威圧行動をとればとるほど各国からの制裁は厳しくなってくるでしょう。そうなれば、北朝鮮人民の不満が爆発するとか、軍部が腰抜け将軍に辟易して暴走するとか、そういうリスクのほうがどんどん顕在化していくわけで、むしろ危機は深まっているのではないかと危惧してしまいます。
「戦争になんかなるわけない」「戦争戦争と国民をあおるな」「もっと対話しろ」などと脳内お花畑な方々がテレビで発言したりネットで書き込んだりしていますが、我々はさまざまな可能性を考慮して行動すること、つまりリスクヘッジの考え方を持つことを忘れないようにしなければなりません。

戦争とは、こっちから仕掛けなくても向こう側から仕掛けてくることがある、という当たり前の考え方さえ否定するような人の意見には耳を貸す必要はないと考えるべきです。

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内容(集英社HPより)
『ニュースイレブン』名物記者・布施と警視庁の刑事・黒田は、10年前に大学生が刺殺された未解決殺人事件を追う。関西の系列局から来た栃本も加わり、捜査は意外な展開へ! 「スクープ」シリーズ第4弾!


曹源寺評価★★★★
いつの間にか「スクープ」シリーズも第4弾に突入です。「スクープ」「ヘッドライン」「クローズアップ」と続いてきたこのシリーズは、今野センセーの作品群からはちょっとだけ異彩を放っているように思います。それはなんといっても警視庁刑事の黒田とテレビ局報道記者の布施がコンビ(!?)を組むという、なんとも奇妙な取り合わせであり、普段は飄々としながら数々のスクープをぶち上げてきた布施の人間味であり、現場百篇ならぬ「資料百篇」を地で行く粘りが信条の黒田刑事であります。警察と報道という両極端にいる二人が相乗効果を発揮して事件を解決に導くというスタイルは読ませる要素が盛りだくさんです。
今回は10年前に町田市で発生した未解決の殺人事件を、警視庁特命捜査対策室に勤務することになった黒田、谷口の両刑事が担当、そこに布施も独自の嗅覚で迫ろうとするが、東都報道ネットワーク(TBN)の深夜枠報道番組「ニュース11」のデスクである鳩村はそこにニュース性を感じず、番組として取り上げようとはしなかった。ニュース11にはちょうど関西から視聴率回復のために送り込まれた栃本がサブデスクとして就任、鳩村と栃本はそりが合わず、そこにメインキャスターの鳥飼も異を唱えるようになり、、、
スクープを連発する布施が独自の嗅覚でとらえたのは、町田市で10年前に発生した殺人事件。この未解決事件で奔走する黒田・谷口の両刑事の活躍と、ニュース11内でこのニュース(大ごとになる前の話として)を取り上げるべきか否かという報道の在り方についての問題、この2つのストーリーを連動させながら展開していくので、中だるみなし、一気に読ませる勢いで進んでいきます。
未解決事件のほうは最近のトレンドでしょうか、ふとしたきっかけで解決まで到達することがありますが、現実はそう甘くはありません。まあ、こういう解決もあるんだろうなあという程度で流せば良いのかなあと思います。
もうひとつの「報道の在り方」のほうは、いろいろと考えさせてくれますね。前作「クローズアップ」でもそうでしたが、報道と視聴率、報道とバラエティ、客観性と主観性、これらの境界線をどこに引くべきなのかという命題について、鳩村は考えさせられます。

読者も考えさせられます

が、本書で言及されているのは「アメリカでは報道番組とバラエティが区別されている」ものの「報道番組のアンカー(本書のタイトルでもありますが、)が自由に意見を述べている」という現実についてです。
日本もこれをまねて、テレビ朝日では1985年10月に、久米宏がアンカー的な役割で番組を構成した「ニュースステーション」を作りました。TBSでは筑紫哲也がこれに倣って1989年10月、「NEWS23」を開始しました。よく思い返せば、報道番組が独自色を強めていったのはこのあたりからではないでしょうか。アンカーマンの存在が番組の「色」を作り出しているという流れが今は固定されています。しかしそれは同時に、過激な一方通行の報道を生み出したとも言えるのかもしれません。
本書では言及されていませんが、電波は公共のものであって、それはバラエティだろうが報道だろうが関係ないんですね。テレビ局は公共の電波を借りて(しかも極端に安価で)番組を流しているわけで、そこに公正中立が求められるのは当たり前の話なんですよ。
ですから、個人的な感想になりますが、電波オークションが実施されるとか、放送法に厳格な罰則規定が盛り込まれるとか、クロスオーナーシップの禁止とか、放送関連の法整備をもう少し突き詰めていかないと、アメリカのようなアンカーマンによる独自の報道番組構成などは認めるべきではないと思っています。
こんな話は本書のストーリーとは全く関係ないことではありますが、「報道の在り方」に言及する以上は現在ネットなどでも議論されている上記のようなテーマを見過ごされては困るので、とりあえず書いておきました。





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2017年08月15日

書評827 河合莞爾「スノウ・エンジェル」

こんにちは、曹源寺です。

今日8月15日は終戦の日です。なぜか「終戦記念日」と呼ぶ勢力がいますが、記念という単語には「思い出となるように残しておくこと。また、そのもの。」(大辞泉)という意味がありまして、別に思い出として残しておきたくもないんですが、なぜか記念日にしている奴らがいます。さらに言うと、「終戦」ではなくて「敗戦」ですから正確には「敗戦の日」というのが正しい使い方ではないかと思います。

似たような話には、広島の原爆死没者慰霊碑に刻まれている文章がありますね。
「安らかに眠って下さい 過ちは繰返しませぬから」
というやつです。過ちってなんでしょうか。広島市のホームページにはいろいろと説明書きがありますが、こんな文章があります。
戦争という過ちを再び繰り返さないことを誓う言葉である
うーん、本来は原子爆弾という人類が抱えた大きな宿業のことを指していたのではないかと思いますが、いつの間にか戦争そのものにすり替わっていますね。まあ、原爆とした場合、過ったのは米国ということになりますから、どこかの誰かさんにとっては都合の悪い意味合いになってしまうのかもしれません。

ちょっとした言葉遣いの違いで、本来持っているはずの意味が微妙にずれていく

ということが、ここ最近は多いなあと思ってしまうのですが、みなさんもそんな経験ありませんか?
小賢しい。うん、小賢しいという単語がしっくりくるなあ。
悪意を持って大衆を騙そうとしているヤツがいるということを、我々はしっかりと認識しておくべきだと強く思います。

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内容(祥伝社HPより)

やがて世界は白い天使に覆(おお)われる――
蔓延(まんえん)する違法薬物の陰で進む“完全な麻薬(スノウ・エンジェル)”の開発。
犯人5名を“射殺”した元刑事と非合法捜査を厭(いと)わぬ女麻薬取締官が潜入捜査で炙(あぶ)り出す、“依存”の闇と驚愕(きょうがく)のW計画とは?
起こりうる近未来の薬物犯罪を描く、黙示録的警察小説!
我に依存せよ、我に服従せよ。
服従しないものには死を――
「天使様、お助け下さい」――歩行者天国に暴走車を突っ込ませた後、通行人を殺害した男が、謎の呟(つぶや)きを残して百貨店の屋上から飛び降りた。新種の合成ドラッグ〈スノウ・エンジェル〉が原因と睨(にら)む厚生労働省の麻薬取締官・水月笙子(みづきしょうこ)は、その根絶を狙い、ある男に捜査協力を求めた。神西明(じんざいあきら)、元刑事。9年前に相棒を殺され、犯人5人を“射殺”、そのまま逃亡して首謀者・マシューを追い続ける男だった……。


曹源寺評価★★★★
河合センセーの最新刊は元刑事と麻薬取締官のお話でした。
神西明は相棒を殺されて犯人5人を射殺後逃走、偽名を使って日雇い労働者として事件の首謀者を追う日々だった。その神西をスカウトしたのが水月笙子で、新種の合成ドラッグ「スノウ・エンジェル」を突き止めようとしていたのだ。
過去を捨てた神西は囮捜査として最適な人物だった。売人の伊佐と仲良くなり、伊佐の手助けをすることで卸元の白竜に近づけることができると考えた神西は、大きな取引を持ち掛けることで白竜と面会できるようセッティングした。神西はスノウ・エンジェルを根絶することができるか。
河合センセーといえば、島田荘司センセーばりのトリックものや鏑木刑事を主人公とした警察小説が耳目を集めましたが、本書はなんとなく大沢在昌センセーのようなちょっとハードボイルド系の作風に仕上がっています。
でも、なんだかちょっと既視感があるなあと思ったら、「デビル・イン・ヘブン」の前日譚ですってよ。どおりで、「聖洲」という湾岸地域の名称とか、カジノ法案の話とか、首謀者「マシュー」のことだとか、デビル〜の世界観が出ているわけだわ。でも、マシューってなんだっけ?忘れちったわ。
もしかしたら、本書を先に読んで、その後に「デビル・イン・ヘブン」を読んだら面白いのかもしれないですね。
元刑事・神西の活躍はそれこそ大沢作品の

鮫島警部ばりにカッコイイ

のですが、その造形描写はもう少し特徴的なものがあっても良いのかなあと思います。
ラストはちょっと思わせぶりなところもありますが、続編に期待してしまって良いのでしょうか。





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2017年08月01日

書評824 黒井卓司「フェイスレス」

こんにちは、曹源寺です。

トランプ米大統領がCNNをはじめとした一部メディアに対して使った「フェイクニュース」という単語がありますが、これは「メディアのねつ造」という意味でつかわれ始めたものであります。

これに対して日本では、メディアのほうが「ネットにおけるデマ、作り話」という意味で使うようになっています。

朝日新聞の記者が先日こんな新書を出したことで、ネットでは笑いものになっています。

平和博「信じてはいけない 民主主義を壊すフェイクニュースの正体 (朝日新書)」 [新書]


「今年一番のギャグ」「自伝乙」「鏡見ろよ」「正に朝日新聞そのもの」などの書き込みが半端ないです。
本来の意味を勝手に書き換えようとする気マンマンですね。
まあ、ネットに嘘があふれかえっているのはみんな知っています。だからこそ「嘘を嘘と見抜ける人でないと(掲示板を使うのは)難しい」という有名な格言ができたわけです。ですから、みんな知っているんですよ。わかっているんですよ。わかってて使っているんですよ。
問題はネットではなくて、既存のメディアがネットを使えない人を対象に意図的にフェイクを混ぜてニュースを流し始めていることなんですよね。こうなるともう自分が直接目にしたものだけを信じるしかないという、末期的な状況になってくるんですね。ネットに限らずテレビも新聞も、信じられない情報ばかりが垂れ流される世界というこの世紀末な状態。こんな状態が長く続くはずはありませんので、いずれ何らかのしっぺ返しがくるのは間違いないでしょう。

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内容(KADOKAWA HPより)
世界が枝分かれし、人類滅亡のカウントダウンが始まる。超弩級サスペンス!
設定の見事さとそれを上回る大興奮の展開。物語も才能も凄まじい。──山田宗樹(『百年法』『代体』)
枝分かれした「もう一つの世界」が生み出した恐るべき生体兵器。人類滅亡までのカウントダウンがはじまる。
「もう一人の自分」に出会ったとき、世界は音をたてて崩壊する……一気読み必至の予測不能サスペンス!
 製薬会社の研究員・透は、同じ研究チームの北岡の婚約者・可奈恵に秘かに想いを寄せていた。だが北岡の車で帰宅中にタイヤがバースト。可奈恵と透は一命を取りとめるが、北岡だけが亡くなってしまう。
 それから9年後。アメリカである実験が行われていた。アリの殺虫剤のテストという名目だったが、そのアリは被験者15名をあっという間に噛み殺してしまう。──実はこの世界は、誰にも気づかれないまま二つに枝分かれしていた。しかしネバダ核実験場にある“チューブ”を通じて、アメリカと「もう一つのアメリカ」は秘密裏に交流していたのだ。そしてチューブを通過したアルゼンチンアリが「向こうの世界」で交配し誕生したのが、この恐るべき殺人アリだった。
 一見、何の関係もない2つの出来事。だがそれが1つの線で結ばれたとき──世界を揺るがす陰謀が透を呑み込み、彼の運命は大きく変わっていく。


曹源寺評価★★★★★
書店で気になったので読んでみました。黒井卓司センセー、初読です。
黒井卓司センセーは1960年生まれ。2011年の日本ホラー小説大賞最終候補作「さよならが君を二度殺す」でデビュー、だそうです。
本作はホラーというよりはSFサスペンス、いやSFファンタジーですね。
「平行世界が完全に分岐しなかったため、こちらの世界とあちらの世界が一か所でつながっている状態」という設定だけで、最近の異世界ブームに乗っているファンにはたまらないお話の予感がプンプンしそうです。そこに、「両方の世界の生物をかけ合わせると瞬間進化する」という、さらに恐ろしい設定がおまけでついてきます。
そんな世界を舞台にして、日本とアメリカで巻き起こる事件がテンポよく進んでいきます。主人公の早川透とその友人である北岡直樹、直樹の婚約者である可奈恵、そしてもう一つの世界から来た「F」。壮大な設定ですが、その割にストーリーは(ネタバレ注意)


ただの三角関係のもつれ

だったりするので、ちょっと拍子抜けです。
うーん、個人的にはアメリカ映画のような大きな展開を期待したのですが、彼らの行動のモチベーションがあまりたいしたことなくてがっかりです。
それと、ラストもイマイチ締まらないなあという印象です。なんだか、少年漫画の最終回みたいなラストです。
もし自分が作者だったらどうするか、なんて妄想がいっぱいできそうな作品です。自分だったらおそらく、絶望感たっぷりのラストにするかもしれません。
だれも救われないような、、、人類が殺人蟻に滅ぼされるような、、、





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2017年07月07日

書評817 呉勝浩「ライオン・ブルー」

こんにちは、曹源寺です。

Yahoo!ニュースが刺激的なタイトルをつけてニュースにした記事がありました。

メディアは主観的であれ−−オランダから世界をめざす、ジャーナリズムの新たなかたち(7/6Yahoo!ニュース)
オランダに、世界のメディア関係者が注目するネットメディアがある。2013年に創設された「デ・コレスポンデント」だ。広告を一切入れず、読者からの購読料のみで運営。人口1700万の小国オランダで、月額6ユーロ(約770円)の有料購読者数は5万人を超えた。なぜ、彼らはこれほどの支持を集めることができたのか。創設期からのメンバーで、デ・コレスポンデントの記事を初めて書籍化し、20カ国でベストセラーとなっている『隷属なき道』(文藝春秋)の著者、ルトガー・ブレグマン氏に聞いた。

以下はリンク先で読んでいただければと思いますが、この記事の主旨は、客観的な報道を捨てろと言っているわけではなくて、そこに問題があればきちんと調査報道するべきである、という極めて正しいことを言っているにすぎません。

近い将来問題になる可能性がある事象や、すでに起こっている小さな問題などをしっかりと記事にしているメディアは経済誌が先行しているように思いますがこれは自分だけでしょうか。ヒアリのように、記事化されることで全国に問題意識が波及することは良くありますし、それこそが報道の使命だと思いますが、そうした記事はおまけのようになってしまっているのが現代のメディアではないかと思います。

いつもこのブログで主張していることですが、別に会員制とか有料配信とかで記事を書く分には「主観的」であっても全く問題はないと思います。要するに、読みたい人がそれを買って読めば良いだけの話です。
しかし、テレビ=電波だけはダメです。電波に乗せるということは国民の財産を利用するということにほかなりません。国民の財産である以上は、一方的な垂れ流しをすることは特定の個人や団体に利する場合があるため、その取り扱いに十分な配慮がなされるべきであると考えます。

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内容(KADOKAWA HPより)
乱歩賞作家が放つ、衝撃の交番警察ミステリ!
関西某県の田舎町・獅子追の交番に異動した澤登耀司、30歳。過疎化が進む人口わずか4万人の町から、耀司の同期で交番勤務していた長原信介が姿を消した。県警本部が捜査に乗り出すも、長原の行方は見つからなかった。突然の失踪。長原は事件に巻き込まれたのか。耀司は先輩警官・晃光に振り回されながら長原失踪の真相を探っていく。やがて、町のゴミ屋敷の住人だった毛利宅が放火され、家主・淳一郎の遺体が見つかった。耀司は、長原が失踪直前に毛利淳一郎に会いに行っていたことを掴むが……。

曹源寺評価★★★★★
地方の過疎の町にある交番を舞台にしたミステリであります。交番のお巡りさんを主人公にした作品は数あれど、ここまで全体的に重苦しい作品は希少ではないかと思います。だいたい交番の巡査となれば地域課所属ですから、殺人事件とか謀略とかは無縁というのが前提で、町のちょっとしたトラブルとか人と人のふれあいとか人情とか、そういったものがテーマになることが多いわけですが、本作は田舎の闇みたいなものがテーマになっております。
冒頭もいきなり業火に焼き尽くされる住宅火災のシーンから始まり、さらに、一人の巡査が行方不明になり、小さな町のしがらみとか人間模様とかがいびつなかたちで揺れ動いていたり、町の有力者とか田舎やくざとかもいっぱい出てきたりして

過疎の町の悪いところを凝縮したような

ストーリー展開に、なんとも重苦しい気分になります。
田舎町で警察が力を持っている理由というのが本書を読むとよく分かったりもします。事件そのものをもみ消すことができる警察はやはり、人の口に戸は立てられない田舎とはいえ、味方にしておけば心強いわけです。地元の有力者とやくざと警察が組めば、おそらく最強の取り合わせになること請け合いでしょう。そんな田舎の町で発生した殺人事件など、あっという間にお宮入りですね(笑えない
ミステリというよりは犯罪小説であり、それ以上に暗黒小説のようでもあります。ラストもエグイです。読後感も重いです。
さわやかさゼロの警察小説として(読みたい人は)読んでほしいです。
ちなみに、ライオン・ブルーとは警察官の制服の色だそうです。そして、ブルー・ライオンはフランスの自転車自動車メーカー、プジョーのことであります。





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2017年06月27日

書評814 川瀬七緒「フォークロアの鍵」

こんにちは、曹源寺です。

東京都議会議員選挙の公示が23日(金)になされました。7月1日(土)まで選挙活動期間となっています。
誰を応援するとかしないとか、個別の活動をブログで展開することはありませんが、自分の中ですごく大切にしていることはあります。
それは、

都政と国政は別

ということであります。
「貧困対策をー」とか「条例で○○を無料にー」とかはいいですね、都政の範疇です。しかし、「加計学園ガー」とか「安倍独裁政権ガー」とか言われても、都政関係ないですわ。ましてや「憲法を守ろう」とか「戦争反対」とか「米軍基地ガー」とか連呼されても、まったく耳に入りませんわ。

仮に都議会議員選挙で都民ファーストの会が圧勝したり、自民党が惨敗したりしたらマスゴミは「安倍政権の足もとが揺らいでいます」「政権に大きな打撃となる見込みです」みたいな報道に終始するのが目に見えていますが、何度も言うように

都政と国政は別

なんですよ。過去にも社会党と共産党が支持した美濃部亮吉都知事(1967〜1979年!!)なんてのもいたわけで、その頃の国政はどうだったのかというと、安定の自民党政権だったわけですね。まあ、当然やりにくい部分はあったと思います。実際、いまの首都圏外郭環状道路なんて凍結されましたから、40年経った現在まで尾を引いているという負の側面は否定できないでしょう。また、負けたら「自民党総裁」としての責任論は湧き出ることになるのは止むを得ない話です(実際には自民党都議連の責任でしょうが)。
だからといって、国政の政権まで揺るがされるものではないわけで、その辺の境界線を強引にひっぺがして何でもかんでも政府の責任だとかまで極大化しようとする輩には決して惑わされることのないようにしていきたいものです。

だいぶ話がズレましたが、選挙演説で都政と関係ないことばかり主張しているような候補者には聞く耳を持つ必要はないということでよろしいかと。

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内容(講談社HPより)
羽野千夏は、民俗学の「口頭伝承」を研究する大学生。“消えない記憶”に興味を持ち、認知症グループホーム「風の里」を訪れた。出迎えたのは、「色武者」や「電波塔」などとあだ名される、ひと癖もふた癖もある老人たち。なかでも「くノ一」と呼ばれる老女・ルリ子は、夕方になるとホームから脱走を図る強者。ほとんど会話が成り立たないはずの彼女が発した「おろんくち」という言葉に、千夏は妙な引っ掛かりを覚える。記憶の森に潜り込む千夏と相棒の大地。二人を待っていたものは……!


曹源寺評価★★★★
ちょいとグロい「法医昆虫学捜査官」シリーズなどをお持ちの川瀬センセーは、時折「桃ノ木坂互助会」のようなちょいと変わった作風の作品を出されることがありまして、本書もまたちょっと変わったテーマで書き上げてこられたので読んでみました。
大学院で民俗学を専攻する羽野千夏は、口頭伝承の研究を目的に認知症の人のためのグループホーム「風の里」に通うことになった。そこで見たのは強烈な個性を持った入居者たちと、職員の過酷な労働実態、そして成功体験をもとにがんじがらめのルールで入居者を縛り上げる運営者の姿であった。
ある日、千夏はいつも壁を向いてつぶやいては夕方になると脱走を図るルリ子が発する言葉「おろんくち」に引っかかり、調べてみることにした。
一方、大学附属高校に通う立原大地は親からの強烈なプレッシャーから逃れようとして学校をサボるようになった。現実逃避する中で楽しかった思い出に浸ると浮かんでくるのは山梨県の祖父母の家の光景だった。地域のSNSに書き込みされていた「おろんくち」という言葉に反応した大地は、書き込みに返事をしたことで。。。
なーんだ、民俗学の口頭伝承で残っている言葉の謎を追うミステリかいな。最初は自分もそう思っていました。中盤まではややスローな展開であることは否めません。
しかし、後半からはなんとなくですがズレていくのです。ルリ子の見た風景とは何だったのか。時折発せられる単語だけを頼りに推理を重ね、現地と思しき場所に辿り着いたとき、そこで彼女らが目にしたものは

やべえ、やっぱり川瀬作品だったわこれ

油断していたではないか!なにこの急速にグロい展開は!
思わずちびりそうになるんですがこれ。勘弁してくださいよー。トラウマ植えつけられるレベルで怖いですわー。

長閑な民俗学から一気にホラー作品に早変わりです

そして、そのホラーな気分を引きずりながら最終章に突入すると、ここからはさらにミステリな展開になります。ホラーなところから最後までは息もつかせぬ展開で、コテンパンにやられてしまいました。なるほど、「おろんくち」の謎はここに帰結するのかと思うと、民俗学自体が壮大な伏線になっていると言っても過言ではないですね。
老人介護業界が抱えている問題や、センセーがおそらく主張したいであろう「心と病は別」というテーマなどは作品のスピード感をスポイルしているという見方もあるかもしれませんが、個人的にはほどよい味付けではないかと思います。ただ、認知症の方々がラストのほうでは健常者バリバリな発言をされているのはちょっと違和感がありました。
でも、もしかしたら本書もシリーズ化したら面白いのかもしれないですね。





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2017年06月13日

書評810 黒川博行「果鋭」

こんにちは、曹源寺です。

そういえば、今月の5日にサウジアラビアとエジプト、バーレーン、UAE、イエメンの5カ国がカタールとの国交を断絶しました(その後、モルディブも加わって6カ国に)。これって国際的にはすげえニュースなはずですが、国内ではあまり大きな扱いになっていません。中東の危機は日本の危機に直結する大きな問題ですので、引き続きウォッチしていきたいですね。
国交が途絶えると、陸路、空路、海路のすべてが封鎖され、国境も封鎖されます。そして外交官は国外に追放されます。上空を飛ぶ飛行機も迂回しなければいけません。
断交とはそういうものです。
話し合っても分かり合えないということは往々にして起こりうるという、ごく当たり前のことが分からない人たちというのも存在します。現にこうやって国交を断絶させている国々に対して「話し合いが足りないのだ!もっともっと話し合え!」というのは愚かなことです。話し合ったから決裂したのであって、結論が出たから断交したのであります。
逆に言えば、決裂するまで話し合っていないほうがおかしい、ということも言えるのではないでしょうか。ビジネスの世界では普通に決裂しますよね。価格が折り合わなかったり、納期が間に合わなかったりで。それと同じことが外交にも言えるのですが、脳みそがお花畑な人たちは「話し合えばなんでも分かり合える」と思っているのかもしれません。分かり合う必要はなくて、結論が出せればそれでよいのではないかと思います。
戦争反対を口にする人のなかには「戦争が何の前触れもなくいきなり起こる」と思っている人がたまにいるようですが、断交は戦争の一歩か二歩手前の場合が多いのであります。
こうした動きのほうが北朝鮮の話題とか共謀罪などといって騒いでいるよりよっぽど「戦争の危機」であると思うのですが。


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内容(幻冬舎HPより)
右も左も腐れか狸や! 元刑事の名コンビがマトにかけたのはパチンコ業界。 出玉の遠隔操作、極道顔負けの集金力、警察との癒着……。 我欲にまみれた20兆円産業の闇を突く。 堀内信也、40歳。元々は大阪府警の刑事だが、恐喝が監察にばれて依願退職。不動産業界に拾われるも、暴力団と揉めて腹と尻を刺され、生死の境をさまよった。左下肢の障害が残り、歩行に杖が欠かせなくなる。シノギはなくなり、女にも逃げられる……。救ったのは府警時代の相棒、伊達誠一。伊達は脅迫を受けたパチンコホールのオーナーを助けるため、堀内に協力を求めてきた。パチンコ業界――。そこには暴力団、警察も入り乱れ、私腹を肥やそうとする輩がうごめいていた。堀内は己の再生も賭け、伊達とともに危険に身をさらしながら切り込んでいく。


曹源寺評価★★★★
悪果」「繚乱」に続く大阪の元悪徳警察官、堀内&伊達のコンビが活躍するシリーズ第3弾です。この「堀内&伊達」シリーズと「疫病神」シリーズが黒川センセーの本領発揮ではないかと思うのですが、この2つのシリーズに共通するのは「悪には悪で」というガチンコの駆け引きであり、裏社会のルールに則りながらもしつこいくらいに金に群がる構図であり、身体(時には命)を張って勝負に出るという男の世界であります。
前作のラストでチンピラに撃たれ、杖をつくはめになった堀内と、競売物件でサバキを精力的に行っている伊達。半ば引きこもりのようになってしまった堀内に対して、伊達は何かと世話を焼いてくれます。
伊達のあいさつは「堀やん、メシ食いに行こ」であります。
その伊達がいわゆる「シノギ」の案件を堀内とともに譲り受け、人の弱みに付け込んで金を脅し取ろうとしている奴らと対峙するといういつものパターンであります。
今回はパチンコ業界を舞台に、裏で悪徳の限りを尽くしている輩どもを成敗(!という名のゆすり、たかり、脅し)していく痛快なストーリーとなっています。
まあ、パチンコ業界が警察とずぶずぶの関係であるとか、北朝鮮への送金ルートになっているとか、出玉の調整がコンピュータ化されていて「遠隔操作」も日常的になっているとか、もう自分のなかでは旧知の事実でありましたが、それでも黒川センセーは綿密な取材に裏打ちされた膨大な「業界の闇」をさくっと切り取っていただきました。非常に分かりやすいです。

それにしてもこの二人のフットワークの軽さといったら、、、、、

警察の看板がなくても怖いもの知らず、悪い奴には容赦しない、この二人も十分に「悪」なのですが、そこはラストにきちんと帳尻が合うようにできております。
決してハッピーエンドになることはありませんが、かといってムナクソ悪いバッドエンドでもない。登場人物のほとんどが悪人なので、マイナス×マイナス=プラスのような図式で、それはそれで納得できる結末でありました。





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2017年05月26日

書評805 黒川博行「喧嘩(すてごろ)」

こんにちは、曹源寺です。

明治がお菓子のロングセラー商品「カール」を中部以東で販売終了すると発表しました。明治はついこの前もロングセラー商品「カルミン」を製造中止していますので、これからも製造をやめる商品が出てきそうですね。
さっそく、メルカリやヤフオク!では転売ヤーが湧いてきていまして、そこに需要があるとみなされれば個人で売り買いに走る輩がたくさん出現していることが良く分かります。

ネット社会になって久しいですが、この転売ヤーに限らず、ブログのアフィリエイトで稼ぐ人やYouTubeで動画配信して稼ぐ人、キュレーションサイトに記事を書き連ねている人やツイッターに自分で描いたマンガを貼り付けている人などなど、インターネットでは個人で稼ぐ仕組みがだいぶ確立されてきたように思います。
それゆえに、リアル社会とネット社会の間にある種の隔たりができつつあるのではないかとも思います。たとえば、転売ヤーの個人取引においては課税がなされることはなく、この売り上げもGDPに加算されることもないわけで、一昔前ならこれは「アングラ経済」と呼ばれてもおかしくはない経済活動なわけです。個人消費の停滞とかデフレ再びとか言われつつありますが、このアングラ部分はもう無視できない存在になっているのではないかと危惧するわけです。
そろそろ財務省や国税庁あたりは課税方法を編み出してきそうな気がしますが、それはさておき、モノの売買が実体経済に隠れているのとは対照的に、情報の世界ではネットとリアルがごっちゃごちゃになってきた印象があります。

たとえば、加計学園の問題(何が問題なのかよく共有されていないのも問題ですが)に関する報道では、客観的な報道が
文科省から文書がリーク→元事務次官が本物と認める→野党が証人喚問を要求
という流れですが、その本質(というか書きたい本音)は
総理あるいは官邸が特区認定に恣意的な働きかけをしたのではないかという疑惑がこれで深まった
というものです。
しかし、一方ではこういう報道もあります。
文科省事務次官が組織的な天下りに関与していた→辞めさせられる→意趣返しとばかりに文書をリーク→でも文書の出所を明言しない→国家公務員の守秘義務違反じゃね?
また、
事務次官は出会い系バーに入り浸っていた→こんな信頼の置けない奴のリークなどフェイクかもしれないね
という主観的報道もあったります。

これまではだいたい、報道が客観的であるのに対してネットでの意見表明や書き込みが主観的あるいは感情的であることが多かったのですが、最近は報道のほうが感情的だったりするように思うわけです。
それに記事の内容もある種の「為にする」記事であることのほうが目につきます。この「為にする」報道に対してネットの書き込みのほうが客観的だったりすることがけっこうあったりしまして、すごく冷静に考えれば今回の件も、報道のほうが過熱気味でネットのほうが冷静にツッコミを入れているような、そんな気がします。

これをどう捉えたら良いのか、そろそろ社会学の先生あたりから論文が出てきそうな感じですが、個人的にはこれまでネットを見下してきたマスコミが、いつの間にかネットから見下されるようになっていた、という論調で2、3本書けそうな気がします。

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内容(KADOKAWA HPより)
売られた喧嘩は買う。わしの流儀や――。
直木賞受賞作『破門』、待望の続編。
建設コンサルタントの二宮は、議員秘書からヤクザ絡みの依頼を請け負った。
大阪府議会議員補欠選挙での票集めをめぐって麒林会と揉め、事務所に火炎瓶が投げ込まれたという。
麒林会の背後に百人あまりの構成員を抱える組の存在が発覚し、仕事を持ち込む相手を見つけられない二宮はやむを得ず、組を破門されている桑原に協力を頼むことに。
選挙戦の暗部に金の匂いを嗅ぎつけた桑原は大立ち回りを演じるが、組の後ろ盾を失った代償は大きく──。


曹源寺評価★★★★★
「疫病神」シリーズの最新刊です。前作の「破門」は2014年上半期の直木賞を受賞しました。建設コンサルタントの二宮と本職の893である桑原のコンビが巻き起こす騒動をコミカルに、かつ大胆に描いたこのシリーズは黒川センセーの出世作でもあります。
桑原は前作の最後にタイトルの通り二蝶会を「破門」になりましたので、正確にはカタギということになりますが、逆にカタギのくせに本職に喧嘩を売るというとんでもない立ち回りを続けていきますので、本書のほうが前作よりもエキセントリックです。
いつ後ろから刺されてもおかしくない状況で、悪辣な政治家秘書を脅し、議員事務所にカチコミを入れ、拉致し、殺しの現場をあつらえて(芝居ですが)相手をとことん追及する、というとんでもないカタギが桑原という男です。

「人間、首まで土に埋めたらなんでもいうことを聞く」

という桑原のセリフ、これを書ける人はもう黒川センセーしかいないのではないかと思いました。
関西ヤクザの真髄を見るかのようなこの立ち回り、痺れるほど面白いのですが、二宮との掛け合いをはさんでいるのでシリアスさがスポイルされてとってもコミカルになっているところが本書の良い所でもあろうかと思います。
それにしても、暴対法以降の厳しい環境下において、彼らの行動は大きく制限されています。金に困っている団体も多いと聞きます。そんななかで彼らの資金源となっているのは何かというと、社会福祉法人らしいです。どんなシノギなのか知りたいので、ぜひ今度はこの辺の業界をテーマにして黒川センセーに書き上げていただきたいと思います。





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2017年05月16日

書評802 呉勝浩「白い衝動」

こんにちは、曹源寺です。

本日の書評で紹介する「白い衝動」では、人を殺したくてしょうがないという衝動を抱えた少年が登場します。人と違った反応を示すことで社会生活が困難になってしまうことを「パーソナリティ障害」と呼びますが、単にその人が生活しにくいというだけならまだしも、他人に危害を与えかねないほどの衝動を持ってしまうと、その処方箋は「隔離」か「洗脳」といった手段しか残されていないのではないかと考え込んでしまいました。
パーソナリティ障害には「妄想」や「脅迫」といったものだけでなく、統合失調型のものもあれば反社会性といったものもあるようですね。反社会性の障害には「平気で嘘をつく」「法律を守らないことに躊躇しない」「罪の意識がない」といった特徴があるようです。
パーソナリティ障害について調べてみると、どうやら人口の2%程度いるといった推計があるようですが、反社会性パーソナリティ障害だけに限ったらどのくらいの数になるのでしょうか。1%もいたらやばそうですね。
でも、知能や学習能力とはあまり関係ないという説もありますので、「隠れ反社会性パーソナリティ障害」みたいな人もいたりするのかもしれません。
もしかしたら、「平和のためなら断固として戦う!」とか「私は差別と黒人が嫌いです」とか一行で矛盾したことを言っている人たちはこうした障害をお持ちなのかと思ってしまいました。ほかにも職業的にこの障害をこじらせている人たちがいるような気もします。どんな職業かは書きませんが、もしかしたらこうした障害をこじらせやすい職業もあったりするのかもしれません。

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内容(講談社HPより)
小中高一貫校でスクールカウンセラーとして働く奥貫千早のもとに現れた高校1年の生徒・野津秋成は、ごく普通の悩みを打ち明けるように、こう語りだす。
「ぼくは人を殺してみたい。できるなら、殺すべき人間を殺したい」
千早の住む町に、連続一家監禁事件を起こした入壱要が暮らしていることがわかる。入壱は、複数の女子高生を強姦のうえ執拗に暴行。それでも死に至らなかったことで、懲役15年の刑となり刑期を終えていた。
「悪はある。悪としか呼びようのないものが」
殺人衝動を抱える少年、犯罪加害者、職場の仲間、地域住民、家族……そして、夫婦。
はたして人間は、どこまで「他人」を受け入れられるのか。
社会が抱える悪を問う、祈りに溢れた渾身の書き下ろし長編。


曹源寺評価★★★★
2015年の乱歩賞受賞作家、呉センセーもまた受賞後に積極的な執筆活動をされているお一人です。ただ、その内容は一貫しているわけではなく、前向きに言えば、さまざまなジャンルに挑戦しているように思えます(逆に、薬丸岳センセーなどはテーマが首尾一貫していますが、たまに違うテーマで書き下ろしたりされるとオカシイとか言われてしまって可哀相ではあります)。
本書は殺人衝動を抑えて苦しんでいる高校生、野津秋成と向き合うスクールカウンセラーの奥貫千早を主人公に、ちょっとだけミステリを加えた社会派作品に仕上げています。
テーマは奥深く、
「社会に受け入れられない衝動を持つ人物は、社会とどう向き合っていくべきなのか」
あるいは
「社会に受け入れられない衝動を持つ人物と、近隣住民はどう向き合うべきなのか」
そして
「普通と異常の境界線はどこにあるのか」
みたいな深く考えさせられる問いかけも含んでいます。
そんな作品ではありますが、自分は多少なりとも心理学をかじってきていますので内容についていけるものの、心理学を知らない人はちょっと専門的な部分に突っ込んでいるので分かりにくいところもありそうです。
本書には二人の異端な人物が登場します。一人が上述の野津秋成で、もう一人は連続一家監禁事件を引き起こして15年の刑期を終えて出所した入壱要です。入壱は殺人こそ犯していないものの、その犯した所業はちょっとムナクソ悪いのです。しかし、刑期を終えた人間は一般社会に戻る権利があるのも事実です。この人物像があの神戸連続殺人事件の少年Aとかぶるので、出所したとはいえ被害者の心情的には娑婆に出てきやがってこの野郎!と思ってもしょうがない部分がありましょう。そんなヤツが近所に引っ越してきたら、やはり反対運動が起こるのも分かる気がします。
そんな騒動が本書のなかでも巻き起こりますガ、騒動の渦中で野津と向き合う千早は彼をどのように導くべきなのか、苦悩を重ねます。そして騒動は新たな局面を迎えます。
導入部からはとっても猟奇的な展開を期待してしまいますが、実際には

哲学的な内容を多分に含んでいます

ので、乱歩的な何かを期待している人にはあまりお勧めできません。しかし、犯罪者と犯罪予備軍、そして一般の市井の人々の間にある、超えてはいけない一線がどこにあるのか、さらに、普通でない人たち(これをマイノリティを呼ぶべきなのかは分かりませんが)と社会のあり方などについてはいろいろと考えさせられる作品であることは間違いないと思います。





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2017年04月25日

書評798 今野敏「サーベル警視庁」

こんにちは、曹源寺です。

今日にも北朝鮮からミサイルが飛んでくるのではないかと、ネットでは戦々恐々とされている人が多いみたいですが、どうやら米国と中国は経済圧力を強めて金正恩を亡命させ、正男の息子を使って傀儡政権を樹立させたいようですね。
でもその前に軍部がクーデターを起こす可能性も残っているとは思いますので、警戒だけは怠らないほうが良いのではないかと思います。

さて、こうした有事に対しては、かつて朝日新聞が「一発だけなら誤射かもしれない」と記事に書いて猛烈に炎上した過去がありますが、これに関して政治部次長の高橋純子氏が紙面「政治断簡」のコーナーでこんな記事を書いてきました。

作家の百田尚樹氏は「もし北朝鮮のミサイルで私の家族が死に、私が生き残れば、私はテロ組織を作って、日本国内の敵を潰していく」「昔、朝日新聞は、『北朝鮮からミサイルが日本に落ちても、一発だけなら誤射かもしれない』と書いた。信じられないかもしれないが、これは本当だ。今回、もし日本に北朝鮮のミサイルが落ちた時、『誤射かもしれない』と書いたら社長を半殺しにしてやるつもりだ」とツイッターに投稿した。あらタイヘン。そんな記事本当に書いたのかしら。「北朝鮮」「一発だけ」「誤射」でデータベース検索したが、結果は0件。永遠のゼロ件。百田氏の過去のインタビューなどから類推すると、おそらく2002年4月20日付朝刊「『武力攻撃事態』って何」のことだと思われる。
Q ミサイルが飛んできたら。
A 武力攻撃事態ということになるだろうけど、1発だけなら、誤射かもしれない。
北朝鮮を含め具体的な国や地域名は出てこない。一般論として、武力攻撃事態の線引きは難しいということをQ&Aで解説する記事だった。


作家の百田尚樹センセーはツイッターでこれに反論しています。

百田尚樹?
@hyakutanaoki
私を名指しで非難しつつ、「一発だけなら誤射かもしれないという記事は一般論」とごまかしているが、02年4月の記事は、北朝鮮のミサイルを念頭に置いた「ハーグ規範」が採択された直後のもの。
つまり誰が読んでも、北朝鮮のミサイルが日本に着弾したことを想定した記事。
朝日さん、汚いよ。


百田センセーの正論は当時の記事をみればわかりますが、補足しますとこのQ&Aの次にあるのは「不審船」のQ&Aです。誰がどう読んでも北朝鮮のミサイルであると理解するはずです。

朝日新聞の悪行はとどまるところを知りませんが、特にこの高橋純子なる政治部次長は過去にもいろいろとやらかしているので、あえて個人名で批判してみました。
たとえば、週刊ダイヤモンドがこんな記事を載せたことがあります。

政治コラム「だまってトイレをつまらせろ」でわかる朝日新聞の落日(2016/3/12DIAMOND ONLINE)
朝日新聞社には、高橋純子さんという政治部の次長サンがいる。りんりんリーチの高橋純子さんではない(※こちらは女性プロ雀士です。麻雀ゲーム『極』では、リーチをかけるとき、りんりんリーチと叫びます)。
朝日のほうの高橋純子次長サンだが、この方がお書きになる記事は毎度毎度、実に難解で、朝日の編集局や校閲はよくこんな原稿を通したなあ、と思ってしまう内容ばかりなのである。次長サンのスタンスは「アンチ安倍政権」で凝り固まっているが、はっきり言って、何が言いたいかわからない文章をお書きになる。
先月28日、高橋次長サンは『だまってトイレをつまらせろ』なるタイトルのコラムを書いた(顔写真入り)。
〈(前略)ある工場のトイレが水洗化され、経営者がケチってチリ紙を完備しないとする。労働者諸君、さあどうする。
 @代表団を結成し、会社側と交渉する。
 A闘争委員会を結成し、実力闘争をやる。
まあ、この二つは、普通に思いつくだろう(中略)ところが、船本洲治という1960年代から70年代初頭にかけて、山谷や釜ケ崎で名をはせた活動家は、第三の道を指し示したという。
 B新聞紙等でお尻を拭いて、トイレをつまらせる(中略)。
わたしは、「だまってトイレをつまらせろ」から、きらめくなにかを感受してしまった。
 生かされるな、生きろ。
 わたしたちは自由だ〉
この「生かされるな、生きろ」ってセンテンスは、いったいどこから出てきたのか不明なのだが、船本洲治氏が残した言葉なのかしら? ちなみに、高橋次長サンは記さなかったけど、船本洲治という「活動家」は山谷、釜ケ崎の労務者問題に取り組んでいますが、地域センターを爆破した疑いで指名手配されています。テロリストじゃないですか。彼は逃走中の1975年、皇太子殿下(当時)の訪沖に反対し、嘉手納基地の前で焼身自殺を遂げます。船本氏は29歳でした。
(以下は長いのでリンク先でどうぞ)

政治的にはややリベラルな姿勢のダイヤモンドですら、アサヒの政治部次長にこんな人がいるなんて、と驚きを隠せないという記事です。しかもこれ1年前の記事ですから、この高橋次長は政治部にずっと居座っているわけですよ。元々支離滅裂な文章を書くので有名な人なようですが、こういう人でも昇進できるというか、こんな記事を書く人でないとアサヒでは昇進できないのではないかと思わせてくれますね。実際、出版部門が分社化されていますが、あちらにいる人のほうがこと文章においては優秀な人が多いような気もします。

まあ、ミサイルが本当に飛んできたときのアサヒの言い訳が今から楽しみです(その時に自分が生きていればの話ですが)。

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内容(角川春樹事務所HPより)
明治38年7月。国民たちは日露戦争の行方を見守っていた。そんなある日、警視庁第一部第一課の岡崎孝夫巡査が、警察署から上がってきた書類をまとめていると壁の電話のベルが鳴った。不忍池に死体が浮かんでいるという。鳥居部長、葦名警部とともに現場へ向った。私立探偵・西小路臨三郎もどこからともなく現れ捜査に加わることに――。殺された帝国大学講師・高島は急進派で日本古来の文化の排斥論者だという……。そして、間もなく陸軍大佐・本庄も高島と同じく、鋭い刃物で一突きに殺されているとの知らせが――。元新撰組三番隊組長で警視庁にも在籍していた斎藤一改め、藤田五郎も加わり捜査を進めていくが、事件の背景に陸軍省におけるドイツ派とフランス派の対立が見え始め――。今野敏が初めて挑んだ、明治時代を舞台に描く傑作警察小説の登場!


曹源寺評価★★★★
今野敏センセーは人気絶頂なのにチャレンジングなことをしてくれるので好きですわ。今度は明治時代の警視庁を舞台にした警察小説です。明治38年といえば1905年。日露戦争の真っ只中であります。
時代考証すれば、3月に奉天会戦、5月に日本海海戦、9月にポーツマス条約という年です。戦勝に沸きながらも講和条約で揉めて政府批判が沸き起こる年でもあります。
そんな時代の殺人事件を警察小説として描いたのが本書です。なぜか元新撰組の斉藤一が登場してきますが、それ以外にも小泉八雲とか「黒猫先生」(最後まで実名が出ませんがたぶんあの大作家)などが名前だけですが登場してきます。
明治中盤は江戸や瓦解(維新)をひきずりつつも脱亜入欧を進めている最中ですから、いわゆる急進派と穏健派(保守派)が対立していたり、自由民権運動と社会主義が生まれていたりと、思想的な対立があちこちで始まっていたわけですね。
当時の警察は内務省の管轄にあって旧薩摩藩の流れを汲んでいるのは警察小説ファンなら当たり前の知識ですが、まだ思想弾圧などは行われていなかったのかもしれないですね。ただ、本書の主人公(語り部)である岡崎巡査は米沢の出身、べらんめえ口調の親分肌で上司の鳥居部長も薩長出身ではありません。いわゆる反主流派なのかもしれません。ほかにも理論派の葦名警部、目立たない服部課長、角袖(カクソデ→デソクカ→デカの語源ですね)の荒木、さらには伯爵の孫にして私立探偵の西小路臨三郎などなど。このメンバーのキャラクター造型がなかなかに楽しくて、本書だけでは書ききれないほどの造型ですから、

絶対に続編を狙っている

のが良くわかります。
続編、大歓迎です。もしかしたら、隠蔽捜査シリーズのように人気シリーズに化けるかもしれませんね。





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2017年04月21日

書評797 京極夏彦「書楼弔堂 破暁」

こんにちは、曹源寺です。

麻生副総理兼財務大臣が米国で増税に触れた発言をしたということで読売新聞が記事にしています。

麻生氏「上げやすい景気状況に」消費増税に意欲(4/20YOMIURI ONLINE)
【ニューヨーク=有光裕】麻生副総理兼財務相は19日、ニューヨーク市内で講演し、2019年10月に予定される消費税率の10%への引き上げについて、「上げやすい景気状況になりつつあることは確かだ」と語った。
10%への引き上げは2度延期されており、「三度目の正直」での実現に意欲を示した。
麻生氏は「今までとは状況が全然違う。少しずつ消費が伸びており、今年の後半には、そうした姿が出てくると思う」と語った。
一方、麻生氏は環太平洋経済連携協定(TPP)について「米国なしで11か国でTPPをやろうという話は、5月のアジア太平洋経済協力会議(APEC)で出る」と述べた。米国はTPPからの離脱を通知しており、日本として米国を除く11か国での発効を目指す方針を示したものだ。


財務省は消費税率10%の実現に執念を燃やしていることが良くわかる記事です。
もういい加減、プライマリーバランスとか言って欲しくないですし、この情勢で増税しようなどと考えるのはおばかとしか言い様がないのですが、いま政府がやるべきことは、
・法人税率を引き下げたのだからその分をしっかり給与所得などに振り分けるよう企業の活動を促すこと
・東京の一極集中を避けて地方にも投資拡大を推進させること
・子育て環境を整備して雇用と人口増加を旗振りすること
ではなかろうかと思いますが、そうした施策がどうにも置き去りにされているようでなりません。

財務省は増税したあとに税収が増えていないことを知っていて、それでも増税をしようとする勢力です。それに乗っかっている麻生大臣もクソと言えますが、経済を知り尽くしているはずの経済学者もこれに乗っかろうとしているのはなおさら許せません。
ちょっと消費が伸びたくらいで増税とか言い出されたら、余計に消費が伸び悩むのではないかとも思ってしまいます。政府自民党の失言が多いと話題になっていますが、これもまた失言といわざるを得ないでしょう。

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内容(集英社HPより)
扠、あなた様はどのようなご本をご所望ですか─。
立ち止まって眺めるに、慥かに奇妙な建物である。櫓と云うか何と云うか、為三も云っていたが、最近では見掛けなくなった街燈台に似ている。ただ、燈台よりもっと大きい。本屋はこれに違いあるまい。他にそれらしい建物は見当たらないし、そもそも三階建てなど然う然うあるものではない。しかし到底、本屋には見えない。それ以前に、店舗とは思えない。板戸はきっちりと閉じられており、軒には簾が下がっている。その簾には半紙が一枚貼られている。近寄れば一文字、弔――。と、墨痕鮮やかに記されていた。


曹源寺評価★★★★★
京極作品は「死ねばいいのに」以来、本当に久しぶりでした。センセーは1963年生まれですから自分と世代的にはあまり変わりません。なのに、なぜこのような文体が書けるのか。こんな文章、他の誰にもマネはできません。文壇界に衝撃的なデビューを飾ったのも分かるような気がしますね。紛れもなく天才です。
さて、本書は明治20年代の東京を舞台に、元旗本にして潰れた煙草製造業に従事していた高遠彬を語り部として、都内のはずれ(これがどこなのか)に棟を構える書店、弔堂(とむらいどう)にまつわる短編を集めた作品です。初版は2013年11月、文庫化が2016年12月です。
連作短編の形式でつごう6話が収録されています。
弔堂は当時の日本橋丸善にも引けを取らないほどの棚を持つ大型書店という設定ですが、一見しただけでは書店と分からない3階建ての塔のような外観から、ふらっと立ち寄るような書店ではありません。中も薄暗くて、目が慣れるまでは書庫のラインナップが分かりにくいですが、初めて棚を見た人は総じて驚くような圧倒的な品揃え。元僧侶の主人と美形の小僧さんがもてなしてくれます。
明治中期は新聞にようやく輪転機が入ってきたような時代ですから、まだ本は貴重品で大量生産されてはおりません。貴重であるがゆえに、貸本屋のほうが主流な時代に主は売ることを選んでいます。それはなぜなのか。
主人曰く、誰かに所有してもらうことが本の供養になるという。うーん、これだけでも深いなあ。本は読まれてこそその役割を全うするものであって、棚に飾られているだけでは死んでいるも同然だと喝破しているのです。
本書の底流にあるテーマは「本とは何か」というものでしょうか。本と“いんふぉめーしょん”の違いは何か、とか、人生を大きく変える本とは、とか、本を「供養」するとはどういうことなのか、とか、いろいろと考えさせてくれます。
それは、現代の粗製乱造される本への(あるいは版元への)警鐘にも聞こえ、また、本を粗末に扱うことへの戒めにも見えます。
つまり、現代を生きる我々にも

本に対してどのように向き合っていくべきなのか

を問いかけてくれているのだと思います。
続編が出ていますので、そちらも読んでみようと思います。





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2017年04月14日

書評796 今野敏「継続捜査ゼミ」

こんにちは、曹源寺です。

以前、強制加入団体である日弁連が政治的活動をするのはどうなんでしょう?という疑問を書き込んだことがあるのですが、ちょうど産経新聞が連載記事でこの疑問を追及していました。4月4日の朝刊にはどーんと1面で掲載されました。

【弁護士会第1部(1)】
政治集団化する日弁連「安倍政権、声を大にして糾弾」…反安保で振り回した「赤い旗」
(4/7産経WEST)

これ、(1)〜(4)までつながっていますので、興味のある方はご覧ください。具体的な事例を挙げて日弁連の政治介入を批判しています。産経、やりおるのう。

日弁連を批判した書籍はあまり見かけないんですよ。地元の図書館で探しても、司法試験制度を批判する本はあっても日弁連の政治活動について批判する本はありませんでした。
実際、京都の弁護士センセーが日弁連の意見表明を批判してホームページからの削除を求めた裁判は棄却されました。上記記事からの引用ですが、
同地裁は今年2月27日の判決で、強制加入団体の性格を踏まえ「政治的中立性を損なうような活動をしたりすることがあってはならない」と判示。その上で一連の意見表明が「法理論上の見地」から出たとする日弁連の主張を認め、南出の請求をいずれも退けた。
ということで、法理論が正しければ政治的主張が認められるとも言えそうな判決が出ています。
この産経の記事に対してはある弁護士センセーがツイッターで「我々は憲法を護り、人権を護るために活動しているのだからこの程度の主張は認められる」という趣旨のつぶやきを書き込んでいました。

えーっと、何言っているのか良くわからないんですが。
弁護士の活動というのは原告、被告のいずれにもありえるわけで、どちらかが正しくてどちらかが間違っていたとしても、その両方に被弁活動というのが発生するわけですよね。しかも、最高裁判決によって事例確定されたものでもない事件や事案については、どちらかに肩入れするようなことがあってはいけないのではないかと普通に思うのですがどうなんでしょう。
上のツイートについても、「強制加入団体なのに政治的発言はおかしい」と言っていることに対する反論にはなっていません。論点を微妙にすりかえるのは弁護士の常套手段でしょうかね。

まあ、いずれにしても、産経新聞が半ばタブー視されていた日弁連をおおっぴらに批判し始めたということで、マスゴミもたまにはやるじゃねえかと思った次第。

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内容(講談社HPより)
史上もっとも美しい捜査チーム誕生!
かつてない新感覚・警察小説!!
元ノンキャリ刑事の大学教授と少数精鋭のイマドキ女子大生が挑むのは、継続捜査案件、つまり「未解決事件(コールドケース)」。キャンパスで起こる様々な事件は、やがて、ある大事件に結びつき……。


曹源寺評価★★★★
刑事畑を長く勤め、警察学校の校長を歴任した小早川一郎。知人の伝手で三宿女子大学の准教授として再就職し、晴れて教授に昇進した小早川は、「継続捜査ゼミ」を開講した。そこに集まった5人の学生はいずれもさまざまな分野に精通する切れ者であった。継続捜査、すなわち未解決事件をゼミの題材として討論を重ねてもらおうとしたら、意外にも彼女たちは優れた才能を発揮し、、、
とまあ、女子大を舞台にしてゼミを通じて事件を解決していこうとする、これまでにないお話が今野センセーという大御所から生まれたのであります。
これを警察小説と呼んで良いのか分かりませんが、まあそのカテゴリに入れるのは良いのかもしれません。そう考えると

これは新しい警察小説や!

と言えなくもないですね。女子大生がゼミの一環で事件を解決する。なんだか面白いですね。
でも、内容はというと、今野センセーにありがちなご都合主義が随所に見られますのでちょっとそりゃいくらなんでもないんじゃないですかねぇ〜、というシーンのオンパレードではあります。
これ書いていくとネタバレが激しすぎるのでやめますが、ここまで酷いと

警察を馬鹿にするレベル

になってしまいませんかね。未解決事件がこんなにあっさりと解決してしまってはいけないのではないかと小一時間説教かましたいです。
同じ継続捜査モノでは佐々木譲センセーが「地層捜査」シリーズ(これと「代官山コールドケース」)を出しておられますが、こちらのほうがシリアスでリアルです。なにせ、何の手がかりもない未解決事件を手探りで追い始めるところからスタートして、少しずつ前に進んでいくのがたまらないんですわ。
本書は軽く読むには良いと思いますが、警察の本格捜査とかを期待してはいけないでしょう。





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2017年03月14日

書評789 神家正成「七四」

こんにちは、曹源寺です。

3月10日から13日にかけて、新聞各紙がいっせいに同じような社説を掲載したと話題になりました。

【毎日新聞】大使帰国1カ月 正常化へ日韓で努力を[3/10]

【北海道新聞/社説】韓国大統領罷免、政治空白の解消を急ぐ時だ。新政権発足に備え、大使を帰任させるべき[03/11]

【京都新聞/社説】韓国は重要なパートナー。日韓関係の再構築へ踏み出すためにも大使を帰任すべき[03/11]

【山陰中央新報】韓国の次期政権とのパイプづくりのためにも、帰任に向けての条件整備を検討する時期に来ている[3/11]

【西日本新聞/社説】政争の中で、日韓関係をうまく制御し、日韓合意を維持することが重要課題。司令塔となる駐韓大使の帰任を[03/12]

【河北新報/社説】韓国の安定は、北朝鮮に連携して対処する上で不可欠。新政権との対話を見据え、駐韓大使の帰任を急ぐべき[03/12]

【福井新聞】約束が守られなければ日韓関係は前途多難だが、次期政権とのパイプづくりを強めるためにも大使の帰任を検討する時期 [3/13]

【中國新聞/社説】日韓関係は悪化している。次期政権とのパイプづくりを図り、合意履行を求める必要がある。駐韓大使帰任の時[03/13]

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中身をご覧いただければお分かりですが、結論の大半は「朴大統領も罷免されたことだし、そろそろ大使の帰任を検討してもよい頃合ではないか」というものであります。つまり、帰国している駐韓大使を早く戻せと言っているのですね。

この横並び体質というか、社説のくせに金太郎飴のような記事を平然と載せていることが本当に気持ち悪いなあと思います。まあ、種を明かせば共同通信あたりの記事をそれぞれの社が少しだけ文章をいじくって配信しているだけなんですがね。

社説の中身自体がどうこうではなくて(もちろん、それもありますが)、この剽窃まがいの行為が堂々となされているのが新聞社の体質であるということ、通信社が親元となって横並びの記事がずらりと揃うカルテルのような行為が業界の当然の慣わしになっているということ、他の業界ならありえないことが普通になっていて誰もそれを恥じようとしないことが怖いなあと思うのです。


内容(宝島社HPより)
自衛隊内の警察組織である警務隊に所属する、女性自衛官・甲斐和美三等陸尉。突然の命令を受けた彼女は、事件の起きた富士駐屯地に急行する。
圧倒的リアリティで読ませる、ミリタリー捜査サスペンス!
自衛隊内の犯罪の捜査および被疑者の逮捕を行なう部署である中央警務隊。隊長・大曽根より、突然の命を受けた甲斐和美三等陸尉は、富士駐屯地に向かい、第百二十八地区警務隊の捜査に協力することになった。それは単なる自殺と思われた事件だったが、内部からの告発により、殺人の可能性があるという……。完全密室である七四式戦車(ナナヨン)の車内で見つかった遺体。自殺したと思われる人間の執務席の内線電話機から、自殺ではなく殺人との内部告発。甲斐和美は富士駐屯地に急行し、自衛隊組織の暗部に迫っていく――。元自衛官&『このミステリーがすごい!』大賞優秀賞受賞作家が描く、ミリタリー捜査サスペンス!

曹源寺評価★★★★★
このミス大賞でデビューした作家センセーの作品をあまり真剣に追ってはいませんので、神家センセーも初読ですが、本書は装丁がかっこいいので書店でも目立っていました。タイトルもかっこいいですね。
自衛隊を舞台にしたミステリといえば福田和代センセーあたりがお得意でしょうか。あとは今野敏センセーも作品があったように思います。最近では未須本センセーの「推定脅威」などが面白かったです。福井晴敏センセーもデビュー作から「市ヶ谷」について触れていますが、かの作品群はちょっと特殊ですね。
さて、本書の舞台は陸上自衛隊富士駐屯地です。
主人公は警務隊に所属する甲斐和美三等陸尉です。警務隊は自衛隊内部にある警察組織のようなもので、内部で発生した不祥事や犯罪を取り締まる役割を担っています。本作は戦車の中で発見された凍死体が自殺ではなく他殺であるとの告発を受けて警務隊が動き出すという設定。戦車を密室に仕立てたのは珍しいと思いますですが、ほかに事例はあるのでしょうか。この事件の解明のために甲斐が派遣されます。
同時進行で、自衛隊納入向けにソフトウェアの開発を受託する企業を経営する坂本が、元請の芝浦ソフトウェア(東芝っぽいね)から突然の取引停止を告げられる。納得の行かない坂本は自らの出身でもある陸自に単身、乗り込んでいくが、、、
このふたつの事件がクロスして、最後はひとつにシンクロしていきますが、これに坂本自身の過去の記憶として、陸自時代の演習場における事故とか少年工科学校時代のエピソードとかが混ぜ込まれていますので、話があっちこっちに飛んで飛びまくっています。
ただでさえ複数のストーリーがあるところに、「自衛隊とはなんぞや?」と問いかけるような哲学やら薀蓄やらがこれでもかっ!と積み上げられてしまっているものですから大変です。自衛隊の階級制度や昇進昇格のルート、少年工科学校(いまは高等工科学校と言うらしいですね)の実態、戦車の構造、組織の詳細などなど、

こんなにいらない

というくらい細部にわたって描写されるので、しっかり読めばその臨場感にどっぷり浸れること間違いなしでしょう。
しかし、本筋のミステリの方はとんと進まないものですから、ちょっとじれったいです。本筋の味付けであるべきはずの薀蓄が、ちょっと多すぎておなかいっぱいになってしまうのは果たしてどうなんでしょう。ステーキを腹いっぱい食べたいのに、前菜のサラダとポテトがてんこ盛りな状態といえば分かりやすいでしょうか。文字をみっちり詰め込んだ400ページを超える単行本、これは

時間がない人にはお勧めできません。

しっかり読んでこその濃密な軍事ミステリといえるでしょう。





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2017年02月21日

書評783 今野敏「去就 −隠蔽捜査6−」

こんにちは、曹源寺です。

最近は大手ファミレスが24時間営業をやめるというニュースがありました。
過剰サービスに歯止めをかけようとする動きが活発になってきたのは果たして良いことなのか、それとも悪いことなのか、議論の分かれるところだと思います。

個人的な感想をいえば、賃金が上がらなければサービスをレベルダウンされてもしょうがないと思います。
「お客様は神様です」の時代は終わったのではないかとも思います。客の側がつけ上がるケースは後を絶ちませんので、少しサービスが悪いくらいが当たり前、という風潮にしても良いのではないかと。
「客がつけ上がるケース」というのが本当にみっともないレベルで発生しています。ちょっと接客が遅いだけで「土下座しろ!」とか、お前本当に日本人かよ?と疑うレベルですね。
日本流の「おもてなし」も過剰なものは排除して、すこしスッキリとさせたほうがスマートになるのではないでしょうか。

とりあえず
・コンビニとファミレス、ファストフードは24時間営業を禁止
・どうしても夜に営業したければ、その店舗は昼間の営業を禁止
あたりから始めてみてほしいものです。

これだけでも社会は大きく変わるのではないかと思います。

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内容(新潮社HPより)
続発するストーカー殺傷事件を防ぐべく、大森署にも対策チームが新設された。だがその矢先に管内で女性連れ去り事件、さらに殺人が勃発。ストーカーによる犯行が濃厚になる中、捜査の過程で署長・竜崎は新任の上役と対立してしまう。家庭でも娘にストーカー騒動が発生、公私で勇断を迫られた竜崎の去就は……激震走る第八弾。


曹源寺評価★★★★★
今野センセーもまさかここまでのロングランになるとは思ってもいなかった「隠蔽捜査」シリーズでありますが、ついに8作目(スピンアウトを含む)に突入です。やはり、主人公・竜崎の超合理主義ともいえる、官僚社会、階級社会にあって型破りなキャラクターが多くの共感を得たことが成功要因であろうと思います(みんな思っています)。
幼馴染の警視庁刑事部長、伊丹や第二方面本部の野間崎管理官、大森署の戸高刑事などなど個性的な脇役も固まり、

こうなるともうキャラクターが勝手にしゃべりだすレベル

で話が書けるみたいですね。「ST」シリーズや「安積班」シリーズに匹敵する(あるいはそれ以上の)今野センセーの代表作品になりました。
今回は家族と仕事の両方でストーカー騒動が巻き起こるというストーリーです。家族のほうは広告代理店に勤務する娘の婚約者が半ばストーカー化して大変という話、事件のほうは管内で殺人事件が発生、容疑者がストーキングしていた女性を連れて立て篭もるという話。いずれも竜崎の決断力が試されます。
署長という立場からの目線が多いため、事件は決して臨場感溢れるものではありません。むしろ安楽椅子探偵のようにさまざまな情報が入ってくるところを整理し、まとめ、自分の解釈で仮説を打ち立てなければならないわけです。
今回も事件の構図が従来の常識から外れ、そのために警察が振り回されることになります。そしてそのリカバリーを独自の判断で行うわけですが、そこにひと悶着ありまして表題の「去就」ということになるわけです。
タイトルから考えれば

ついに竜崎伸也も異動か!?

と思うのは必然ですね。警察という巨大組織において、竜崎のような人材を「合理性に執着するただの変人」と捉えるのか、あるいは「旧来の悪習をぶち破ることができる逸材」と捉えるのかによって、その未来は大きく変わっていくのだろうと思います。
これをわが身に置き換えて、いわんや一般企業においては、ということになりましょうか。世の中は「ダイバーシティ」とか言いながら、異端児をはじき出そうとする悪しき日本的慣習(これを村八分と言います)が根強く残っております。農耕民族のムラ社会というのは共同体としての一体感を強要するわけですから、我々日本人の中にDNAレベルで存在しているのかもしれません。一方、同じ日本的慣習のひとつに「お上には逆らわない」というのもありまして、竜崎のような管理職が上にいたなら、その部下は素直に従うことでしょう。本書に登場する第二方面本部の野間崎管理官は中間管理職の悲哀を体現しつつも、竜崎の判断や行動に少しずつ共感するようになってきました。
その意味においては、「組織は上から変わる」というのは間違いないわけで、これからも多少変わり者だけど強いリーダーシップを発揮するこの竜崎伸也というキャラクターに活躍して欲しいものであります。






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2017年01月27日

書評777 垣根涼介「室町無頼」

こんにちは、曹源寺です。

先日は昭和の名優、松方弘樹氏がお亡くなりになりました。「遠山の金さん」はそれほどではありませんでしたが、「元気が出るテレビ」の松方さんは好きでした。ご冥福。

小さい頃にテレビという箱の中で強烈な印象を放っていた俳優さんといえば、個人的には丹波哲郎さんだったと思います。いま思い返してもかっこいいです。目力が他の俳優さんとは圧倒的に違いましたね。
あの目力を継承している俳優さんって誰かいるのかなあと思ったら、V6の岡田准一さんがこれに近いですね。「海賊とよばれた男」では20代から90代までの主人公を演じたということで話題になりましたが、終戦の1945年に60歳という主人公、國岡鐡造を演じる岡田の眼は丹波哲郎のそれであります。岡田准一さんがシブい中年になったとき、どんな演技を見せてくれるのか楽しみです。

さて、そんなテレビ界ですが自分はあまりテレビを観ません。それでもちょっと話題になったりしたドラマはTverとかでチェックしたりもします。近年は時代劇が廃れてしまったわけですが、大河ドラマやちょっと話題になった小説からの映像化作品はあるわけです。先日は映画になった「超高速!参勤交代」を観ましたが、軽くてテンポの良いストーリーがとても面白かったです。今日の書評に置いた「室町無頼」も読み物としては最高に楽しい本でした。さすが直木賞の候補に挙がるだけのことはあります。本書は戦国時代突入の前、幕府の力が弱まり飢饉も重なって各地で土一揆が発生する時代を背景に、棒術で世間を渡り歩いた青年が主人公です。動乱の時代を生き抜くため、あるいは強大な敵を前にして、「修行して強くなる」というストーリーはドラゴンボールのそれですが、自分の少年時代は香港映画がそれに当たります。そうです、ジャッキー・チェンです。いまのアラフィフ男子なら「酔拳」のマネをしなかった人はいないのではないかと思います。この「修行して強くなる」という成長物語は恋愛ドラマと同じくらい普遍性の高いテーマだと思うのですが、あまり連続ドラマなどで取り上げられることはありませんね。恋愛や人間関係を通して成長する話はあっても、修行を重ねてライバルを打ち破る話は漫画とアニメの専門領域になっています。
いまこそ、時代劇を通じて「修行して強くなる」主人公の成長物語をドラマ化するチャンスではないかと思うのですが、いかがでしょう。

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内容(新潮社HPより)
応仁の乱前夜、富める者の勝手し放題でかつてなく飢える者に溢れ返った京の都。ならず者の頭目ながら骨皮道賢(ほねかわどうけん)は権力側に食い込んで市中警護役を任され、浮浪の徒・蓮田兵衛(はすだひょうえ)は、ひとり生き残った用心棒を兵法者に仕立てようとし、近江の古老に預けた。兵衛は飢民を糾合し、日本史に悪名を刻む企てを画策していた……。史実に基づく歴史巨篇。


曹源寺評価★★★★★
2016年の直木賞候補にもなった本作は、「光秀の定理」で時代小説デビューされた垣根涼介センセーの新作であります。あぁ、ついに垣根センセーも時代小説のほうに行ってしまわれたのですねぇ。。
でも、垣根センセーの本質的なところというのは、やはりアウトローを描くという点にあるのではないかと思います。「ヒートアイランド」「ワイルド・ソウル」などでみせてくれたアウトローには本当しびれました。しかし、アウトローを描くなら時代小説のほうがよい、とセンセーが考えておられてもそれは当然の帰結であるといわざるを得ません。なんといっても刀一本で世間を渡り歩くことができる時代ですから。
そんなアウトローでも、垣根センセーの描くアウトローはこれまたちょっと違うわけですよ。本書では武家の出身だが取り潰しに遭い流民となった才蔵を主軸に据え、彼の生き様を描いていきます。修行に明け暮れて、いつの間にか無敵になる棒術の達人、実にいいですね。まるで、

ドラゴンボールにおける孫悟空の修行時代

を彷彿とさせてくれます。
また才蔵のほか、歴史に残っている実在の人物として骨皮道賢、蓮田兵衛を置いて後に乱世となる室町時代後期の世相を浮かび上がらせてくれています。
この道賢と兵衛がまたいい味を出してくれます。まるで、

北斗の拳のラオウとトキ

のように、生まれてくる時代と場所を間違えなければひとかどの人物になったであろう二人です。
ドラゴンボールに北斗の拳なんて、ジャンプ世代を意識したわけではないでしょうに。あ、垣根センセーご自身がジャンプ世代ですね。こんなの面白くないわけがありません。

しかも、ただ強くなるだけではありません。強くなる=無敵の構図は普遍的であり本書もまた然り、ですが、本書では「際(きわ)」という単語が出てきます。
(以下、多少ネタバレ)
際とはつまるところ、人間としての限界と言い換えることができるものでしょうか。たとえば、どんなに一流のプロ野球選手であっても、シーズン打率で4割を残すのは無理です。でも、3割30本というひとつの指標はありまして、ここに到達することができる選手は1年に一人か二人です。剣術や棒術も然りで、極めるところにあるものは完璧超人ではなくて人間としてできうるギリギリの線に届いたところ、それこそが「際」であるというのでしょう。

本作は映像化するなら映画ではなくて民放の連続ドラマでやってほしいですが、こうした「際」の話みたいなサイドストーリーをうまく取り込めないと面白さは半減してしまいそうです。





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2016年12月20日

書評768 川瀬七緒「潮騒のアニマ 法医昆虫学捜査官」

こんにちは、曹源寺です。

先日フジテレビで放送された「池上彰緊急スペシャル」において、露骨な印象操作が行われたとしてネットで炎上している話題がありました。
画像】 池上彰が「日本の格差の深刻さ」で使用したグラフが酷すぎる話題に(痛いニュースより)
ikegami.jpg
「縦軸がね…」
「目盛り壊れちゃう〜」
「こんなことしだしたら終わりやね 」
「目盛りがガバガバじゃねぇかお前んグラフゥ! 」
「縦軸合わせたら日本もちょっと下がってるくらいやんけ」
「こんなことして恥ずかしくないのか池上」
「これ流石にやばない? 」
「これBPOやろ」
「ガイジグラフかな」
「ひどいな、こんなひどい内容でドヤってんのかこいつ」
「アメリカの格差に比べたら日本の格差なんてカワイイもんやな」

(以下略)

縦軸と横軸を見比べれば一目瞭然ですが、このグラフ、以前から指摘しているとおりのやり方ですね。これ、捏造と言って良いのか、あるいは印象操作という言い方しかできないのか、良く考えてみたいところです。

ただ、ひとつ言えるのは、池上彰(もう呼び捨て)が言うところの「アメリカが横ばいで、日本はアメリカよりひどい」というのは間違いなく嘘であるということですね。つまり、嘘をつきたくて印象操作しましたよ、と言っているに等しいわけです。
この番組を観た人のうち、何割の人が騙されて、何割の人がこの嘘を見抜いたのか。ぜひとも知りたいところです。でも、おそらくはまだ「あの池上彰が印象操作などするはずがない!」と思っている人も多いのではないでしょうか。もう、彼のことは色眼鏡でしか見ることができませんね。

しかも、このデータ2010年までしかないし。一体、6年前のデータに何を語らせようとしているのか。使えないデータで嘘を吐く。こういうことをしているからテレビが信用できなくなっているわけなんですが、当事者はまだそのことを理解していないということが良くわかる事例でした。

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内容(講談社HPより)
伊豆諸島の「神の出島」でミイラ化した女性の遺体が発見され、警視庁から岩楯警部補が派遣された。首吊りの痕跡から、解剖医は自殺と断定。死亡推定月日は3ヵ月以上前とされた。第一発見者によれば、島のハスキー犬がミイラを引きずってきたらしい。遅れて島に入った法医昆虫学者・赤堀涼子が、事前に解析した微物と、現場周辺を調べて出した結論は……。


曹源寺評価★★★★★
法医昆虫学捜査官シリーズ、待ちに待った第5弾の発刊です。
このシリーズ、大好きなんですよね〜
見た目がお子様で愛嬌たっぷりの大学准教授、赤堀涼子。堅物だけど赤堀の理解者になってしまった相棒の捜査一課岩楯警部補。このコンビが難事件に挑むこのシリーズは、最初に読んだとき「かなりグロいわ〜でも面白え〜」という感想でしたが、新作を重ねるたびにキャラクター造型と相まって独特の難事件が目白押しとなり、読者にスリルと興奮を与えてくれるようになりました。
死体の蛆虫から死亡推定時刻を割り出し、蛆虫の繁殖具合から事件発生場所を特定する。虫は嘘をつかないという厳然たる事実から科学的に捜査を進めていく。しかもその捜査官が天衣無縫で常人には計り知れないほど怖いもの知らずというこのギャップ。まあ、グロいだけだと読者がドン引きするでしょうから、ちょうど良い味付けになっているのかもしれません。
さて、第5弾となった本書では、東京都の離島である新島のさらに離島である神ノ出島(架空?)を舞台にした事件です。犬がくわえてきた首吊り自殺の死体、他殺とは思いにくいその死体はなぜかミイラ化していた。一体どこで死んだのか、そしてなぜ短時間でミイラ化したのか。赤堀が発見した現場は、、、なんと、、、
ギャーッ!!
今回はウジではなくてアカカミアリでした。ウジじゃなくて安心、でもちょっと物足りない?ヤバイな、

完全に毒されていますわ。

いつもの謎かけから、ストーリーはどんどん発展していきます。話がでかくなっていくいつものパターンではありますが、磨きがかかるグロい死体(変な表現ですが)と、きちんと回収するストーリーと、いつものキャラクターがそれぞれいい味を出しながら活躍していく様は、もう素晴らしいの一言ですね。

もはや「新宿鮫」シリーズくらいの安定っぷりです。

このシリーズにファンが相当数いらっしゃるのもうれしい限りです。映像化なんぞに期待はしておりません(というか誰もできないでしょうこの赤堀役は)ので、コアなファン層がじわじわと広がっていけばそれだけで十分満足です。





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2016年12月16日

書評767 今野敏「真贋」

こんにちは、曹源寺です。

統合型リゾート施設整備推進法案が15日の未明に衆議院を通過しました。この法案、通称名はIR推進法というのですが、IRというとどうしてもインベスターリレーションのほうを想起してしまうので困ったものです。だからといって、カジノ法というのも何なのかなあと思います。カジノ法とか言っている奴は先の「戦争法」と何の変わりもありません。法案を偏狭なレッテル貼りで呼び捨てにするのはいい加減にやめましょうね。

で、この法案審議の際、ギャンブル依存症の話が出ては消え、という感じでしたが、とにかくパチンコ依存症のことを議員も新聞もテレビも全然報道しませんでした。新たにカジノができるようにするのは、ギャンブル依存症を助長させるだけであるから反対!という意見は読売新聞社説(12/16)など複数の媒体が社説等で論じていますが、ギャンブル依存症がそんなにたくさんいるなら、なぜパチンコを規制しようとしないのか、競馬や競輪などの公営ギャンブルだって規制対象にすればいいじゃないか、と思うのですが、そうした議論は一切ありません。

国会では唯一、山本太郎議員が参議院で「パチンコ・スロット規制もやらず他のバクチを合法化ってないだろ、誰の為にやってる?セガサミーか?ダイナムか?外資か?」と叫び、喝采を浴びています。山本議員と初めて意見が合いました♪
でもこのこともまた新聞やテレビでは報じられていません。あぁ、本当にこの分野は闇が深そうですね。

個人的には
パチンコ→ギャンブル依存よりも北の国への送金疑惑があるから禁止の方向で
カジノ→世界中から金持ちが集まらないと経営が成り立たないので小口の客なぞ相手にされないから問題なし
その他の公営ギャンブル→オートレースから潰れていくかもね

くらいの意見しかありません。公営ギャンブルは変に規制して893さんの収入源になったり地下化したりするくらいなら、お上が運営していたほうがマシかなあとも思いますが。


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内容(双葉社HPより)
盗犯を担当する警視庁捜査三課のベテラン刑事・萩尾と、その部下の女性刑事・秋穂。テレビドラマ化もされた話題作『確証』で活躍した刑事達が帰ってきた! 窃盗事件の報に臨場する萩尾と秋穂。その手口を見て、常習窃盗犯・ダケ松の仕業だと見抜く。やがて、ダケ松が逮捕される。面会した萩尾は、その供述に疑問を持つ。どうやらダケ松には弟子がいるらしい……。国宝が展示される陶磁器展が絡み、二転三転する捜査。果たして真犯人は? その手口は? 錬達の警察小説。


曹源寺評価★★★★★
確証」で登場した警視庁捜査第三課の萩尾秀一警部補とその部下、武田秋穂のコンビが本書で再び登場しました。
捜査第三課は空き巣や万引き、スリなど窃盗事件全般を取り扱うセクションです。「泥棒」事件を追うので刑事警察の基本中の基本を体現していますが、その一方で、殺人や放火などを追う捜査第一課と比べるとどうしても地味なセクションに見られます。
このベテラン刑事萩尾は現場を見れば犯人が分かるくらいの職人刑事であります。そして、その部下である秋穂も実に優秀です。
今回は百貨店の催事会場で展示された国宝、曜変天目をめぐる捜査のお話です。世田谷区内で窃盗事件が発生、金目のものの場所を長年の勘で見破る手口から、窃盗の常習犯である「ダケ松」こと松井栄太郎が逮捕される。ダケ松の供述に不審を抱いた萩尾は彼の口から出た百貨店の催事情報に興味を示し、調査に当たると、、、
捜査第三課の名コンビは相変わらずですが、今回は捜査第二課の舎人警部補が登場し、その特異なキャラクターでストーリーに一味ヒネリを加えていただいてます。学芸員の資格を持ち、焼き物に関しては真贋の鑑定もできる有能ですが、周囲の捜査員とはなかなか打ち解けない変わり者。そんな彼はいつも単独行動をしています。
窃盗犯にありそうな師弟関係、窃盗犯と密接につながる故買屋、国宝級の美術品を巡る動き、など捜査第三課という地味(失礼!)なセクションにおいてちょっと変わった捜査内容をネタに仕込んできたこの作品は、意外性だけではなく捜査の新たな視点をも提示していると言う点において

なかなかに稀有な作品であると言えましょう。

ただ、展開は相変わらずの今野節であります。内容の半分はセリフでできていますので、まあ読みやすいったらないですね。暇つぶしにはもってこいなんですが、いかんせんあっという間に読み終わりますので場合によっては暇つぶしにもならないですわ。





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2016年10月18日

書評752 鏑木蓮「炎罪」

こんにちは、曹源寺です。

先週末はこのニュースが衝撃的でした。
中央大 連続出場87でストップ 44秒差で伝統守れず(デイリースポーツ10/16)
「陸上・箱根駅伝予選会」(15日、東京)
50校が参加して各校上位10人の合計タイムで争われ、最多14度の総合優勝を誇る中大は11位に終わり、88回連続91度目の出場はならなかった。1位の大東大、2位の明大、中大と44秒差で10位に食い込んだ日大など10校が通過。来年1月2、3日に行われる本大会には、2大会連続総合優勝の青学大を含むシード校と、オープン参加の関東学生連合を加えた21チームが参加する。

箱根路を彩ってきた伝統の赤たすきが途切れた。順位発表で10位までに「中央大」の名前が読み上げられなかった瞬間、メンバーは顔を押さえ、うなだれた。1925年の第6回大会から続いていた本大会出場を逃し、エースの町沢大雅(4年)は「伝統を守れず、本当に申し訳ない」と肩を落とした。

選手の自主性を強みにしてきたが、いつしかそれは“緩さ”に変わっていた。互いに厳しさを持ち込めず、他校のレベルが上がる中で低迷。4月から母校を率いる元世界選手権マラソン代表の藤原正和監督(35)は、7月に主将を1年生の舟津彰馬に変更するなど荒療治を敢行した。

1年生主将は先輩にも臆することなく「練習でもラストでペースを上げたりした」と改革に努めたが、全体100位以内に4人しか入れず、涙。続けて「悔しさは今日の涙で出し切った。次は断トツの結果を出せるように」と復活を期した。

59〜64年には6連覇の黄金時代も築いた伝統校。藤原監督は「力不足。新しい伝統を一から始めたい」と再興を誓った。


正月に中大が走っていない駅伝を観ることになるとは思いもしませんでしたが、ここ数年の低迷振りを見るとついに落ちるところまで落ちたなあという印象でもあります。

伝統校のうえに胡坐を欠き、自主的な練習に終始して規律が緩みっぱなしになる。他校は科学的なトレーニングだけでなく、心理的サポートやコーチングの導入など多角的な取り組みを行ってきました。実に対照的でありました。
また、日曜日のご意見番ことハリー張本氏も「内紛があった」と論じています(これに関しては野村修也教授が否定していますが)。これは、変えなきゃだめだと言っている層と伝統を守れと言っている層がぶつかっていただけで、内紛というより単なる意見の対立でしょう。

個人的にはこれでよかったのではないかと思います。いっぺん、落ちるところまで落ちたらよろしい。危機感というのは崖の上にいても理解できない人がいるのです。
優勝争いからも10年以上遠ざかっていましたので、これを機に藤原監督の抵抗勢力を一気に排除して、若い主将とともに3年がかりで立て直して欲しいと思います。

来年上がれなかったらマジヤバイとかいう意見も多いですが、立った1年で立て直せるかどうかは微妙ですね。舟津主将が4年生になるときが本当の勝負だと思って、長い目で見守ってあげたいところです。来年も結果が出せなかったとしても藤原監督をすぐに更迭するような愚は犯さないで欲しいものです。

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内容(講談社HPより)
京都市内にある自傷患者専門クリニック兼自宅が全焼。精神科医・山之内一蔵が焼死体として発見され、妻・和代とは連絡がとれないままである。
警察はクリニックの患者で山之内医師とトラブルのあった連続放火犯・長門に疑いの目を向けるも決め手に欠け、さらには自殺説、行方不明の妻犯人説など様々な推理が飛び交い捜査が難航した。
混乱の中、下京署の片岡真子は山之内医師周辺のある事故に目を向け、思わぬ推理を展開するが……。
「お嬢」と呼ばれた京言葉の女性刑事が情熱で事件に挑む警察ミステリー!
デビュー10周年・乱歩賞作家・鏑木蓮が放つ渾身作!!

曹源寺評価★★★★★
鏑木センセーもデビュー10周年ですか。早いものですね。鏑木センセーは乱歩賞受賞作家ですが、ちょうどこの10年くらいの間の乱歩賞出身作家は個人的に好き嫌いがありまして、鏑木センセーの作品はすべてを読んでいるわけではありません。なんというか、重要な局面のはずがあまりに簡単に素通りしてしまったり、登場人物の書き分けが中途半端だったり、という文体のイメージがありまして積極的に入り込めないんですね。
で、本書です。京都府警の女刑事、片岡真子が活躍するシリーズ第2弾なんですが、案の定第1弾の「時限」(当初のタイトルは「エクステンド」)が記憶にありませんでしたわ。。。
それでもめげずに読み進めます。緊張したり興奮したりすると京都弁が丸出しになってしまう真子は刑事の勘を大事にするタイプ、つまり直情的な刑事さんです。京都弁は文字に書き起こすとちっとも優雅でないですね笑
精神科医師が焼死体で発見されその妻が行方不明な事件。一見すると心中事件のようにも見えるが物的証拠も目撃者もなく妻の足取りもつかめない。些細なことでも突き詰めていく真子の熱血捜査からついに糸口が見つかるが、そこには驚くべき事実が隠されていた。。。
みたいな、なんだか沢口靖子主演の2時間ドラマみたいな展開ですね。そういえば「京都地検の女」とかいうドラマがありましたね。まさにあんな感じです。小説ならばもうちょっと脇を固めないと面白みが薄れます。真子以外のキャラクターも確立されているようですが、活躍するほどではないのでもっとキャラを出しても良いのかもしれません。
まあ、そもそもなんで京都弁を操る熱血だけがとりえの女刑事というキャラクターで勝負しようと思ったのかが良くわかりません。これくらいだとフツーすぎると思ってしまう自分がいけないのかもしれませんが、警察小説はすでに未知の領域に突入していますよね。遠藤武文センセーの「裏店」シリーズとか、川瀬七緒センセーの「法医昆虫学捜査官」シリーズなどのように

主人公がぶっ飛びすぎているキャラクターがどんどんと

出てしまっているというのがいけないのだと十分承知していますが、

このくらいのキャラクターだともう物足りません。

ヤバイな。
でもストーリーやラストはそれなりに納得できますよ。犯人を追い込む最期の落としどころなどはうまいなあと思います。





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2016年10月14日

書評751 河合莞爾「800年後に会いにいく」

こんにちは、曹源寺です。

すっかり涼しくなって、ビールのおいしい季節が過ぎ去ってしまいました。そんなところにこんなニュースが。
サッポロの請求棄却=「ゴクゼロ」酒税返還問題―不服審判所(10/14時事通信)
サッポロビールが第三のビールとして発売した「極ZERO(ゴクゼロ)」をめぐり自主納付した酒税115億円の返還を求めている問題で、同社は14日、国税不服審判所から請求棄却の裁決書が届いたことを明らかにした。国税当局がサッポロの異議申し立てを棄却した判断について、審査を求めていた。
国税不服審判所は、国税当局の処分に不服がある場合に申し出る機関で、弁護士や公認会計士などが審判官を務める。請求棄却を受け、サッポロは「外部の専門家の意見を聞いて今後の対応を決める」とコメントした。


これって、サッポロビール側が科学的・技術的に「第三のビール」であることを証明したにもかかわらず、国税当局がごねて返還していないだけの話だと思っていました。
それがなぜ国税不服審判所にて請求棄却となったのか、記事にはその理由が書かれていないので分かりませんが、なんとなくごね得の匂いがプンプンしますね。酒税の盲点を突いた第三のビールですが、消費者のニーズに合わせて技術改良した結果ですから何の問題もないはずです。個人的には本物のビールの風味が好きなのであまり飲んでいませんが。

そういえば、11日はWHO(世界保健機関)が炭酸飲料に20%以上の課税をすれば肥満や糖尿病、虫歯などの患者が減少する効果があるとしてニュースになりました。いわゆる肥満税ですね。
やめてほしいです。ビールと同じで、こんなのはアスパルテームやフェニルアラニン、エリスリトールなどの人口甘味料に取って代わられるだけです。人口甘味料まみれの飲料など飲みたくもありません。エリスリトールは取りすぎると下痢などの症状に見舞われます(貴志佑介センセーの「クリムゾンの迷宮」ですな)。

つまり、ビールにしても砂糖にしても、課税強化したところで代替策があるものについては税収増が見込めないばかりか、文化を破壊し、人体への悪影響を及ぼすことになるわけです。肥満を減らしたければ白米から玄米へのシフトを進めれば良いと思います。玄米をうんと安くして、精米に税金を取るとか、小麦粉も全粒粉と精白粉で価格差をつけるとか。まあ、それでも抜け道ができそうですが。

となると、課税を強化したければ逃げ道のない分野に限るということになりますが、独身税を設けても偽装結婚が増えるだけとかいろいろありそうですね。
取れるところから搾り取ろうとする国税当局はもう少し想像力を働かせてから課税してください。それができなければ課税強化などしないでください。

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内容(幻冬舎HPより)

西暦2826年にいる、あたしを助けて」。彼女の「真実」を知った時、あなたはきっと涙する。 かつてない、恋愛SFミステリー誕生! クリスマスイブの夜、残業をしていた飛田旅人のPCに突然、謎の少女からメッセージが届く。「このままでは死んでしまう。あたしにスズランを届けて」。再生された動画ファイルの作成日付は、2826年12月24日とあった。メイと名乗るその少女は何者なのか。そしてなぜスズランが必要なのか。「メイに会いたい。でもどうやって?」。思い悩む旅人に、上司で天才技術者の菜野マリアが、800年後の未来に行くためのあっと驚く、思いもよらない方法≠提案する――。彼女≠フ真実を知った時、あなたはきっと涙する。いまだかつてない、恋愛SFミステリー誕生!


曹源寺評価★★★★
横溝正史か島田荘司ばりの「奇妙な死体」から始まるミステリを発表し続けてこられた河合センセーですが、いきなりSFモノに挑戦した!というので驚きとともに読んでみました。
大学4年生にして就職浪人寸前の飛田旅人(とびたたびと)は、怪しげな求人広告に惹かれて青山のオフィスビルを訪ねる。そこはセキュリティソフトウェアの開発会社であったが、人工知能の開発も手がけるような天才的な専務、菜野マリアがいて旅人は恋に落ちる。

なんだ恋愛系かよ〜苦手なんだよな〜

と思い、ダラダラした導入部に嫌気が差してきたのですが、
クリスマスイブの夜に残業をしていた旅人に、謎の動画が配信される。そこに映った少女のメッセージが「800年後の自分にスズランを届けて欲しい」というものであった。旅人は果たして彼女のリクエストを叶える事ができるのか?

ありゃ、時空を超えるのか、SF系やね

今までの著作と全然ちがうわねー、こんなジャンルをよく書き分けられるなぁと感心。
800年後に行くその手段に

あぁ、これは新たなサイエンスやねぇ

とさらに感心。そんなところに原発を狙うテロリストのニュースが日本中を駆け巡る!

ファ!?一気にサスペンスやんけ!

物語が一気に引き締まります。そんでもって、時空を超える話と原発の話がどう絡んでくるのか、全く先が予測できなくなり、読むスピードが加速します。
そこからは一気です。ラストまでグイグイと読ませてくれました。恋愛SFミステリという触れ込みは伊達じゃありません。

(以下、多少ネタバレ)
質量保存の法則により、宇宙の物質の総量は一定である→だからタイムトラベルすることは不可能→だから「情報」だけがタイムトラベルすれば解決!とかいう論法にはさすがにやられましたが、私立文系でもなんとかついていけましたのでフツーの人でも読みこなせると思います。





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2016年08月30日

書評738 今野敏「防諜捜査」

こんにちは、曹源寺です。

先日、テロとの戦い(というかテロへの予防)が戦争よりもはるかに重要になっているという主旨のコメントを書き殴りましたが、昨日はちょうど朝日新聞と毎日新聞が社説で共謀罪の成立に疑問符を投げかけています。

テロ準備罪 本当に必要性はあるか(8/30毎日新聞社説)
「テロ等組織犯罪準備罪」の新設を政府が検討している。国会で3度廃案になった「共謀罪」の内容を、成立要件を絞って盛り込むものだ。9月召集の臨時国会で、組織犯罪処罰法改正案を提出予定という。
(中略)
一方、日本の刑法では、一定の重大犯罪について、予備罪や準備罪などで、未遂より前の段階で処罰ができる規定が既にある。法律家の中には、テロに絡む犯罪でも既存の法の枠内で摘発ができ、条約締結は可能だとの意見がある。共謀罪の必要性は、改めて議論する際の重要な論点だ。
政府は今回、適用対象を絞り込む方針だ。また、合議に加え、犯罪の準備行為が行われることも要件に加えるとみられる。
だが、定義の仕方によっては、幅広い解釈が可能になる。廃案になった法案と同様、対象罪種は600を超えるとみられる。既遂の処罰を原則とする刑法の原則は大きく変わる。テロをめぐる環境変化を踏まえても副作用は大きい。


「共謀罪」法案 政権の手法が問われる(8/30朝日新聞社説)
またぞろ、というべきか。
安倍内閣が、人々の強い反対でこれまでに3度廃案になった「共謀罪」法案を、「テロ等組織犯罪準備罪」法案に仕立てなおして、国会に提出することを検討しているという。
(中略)
実際に行動に移さなくても、何人かで犯罪をおこす合意をするだけで処罰する。それが共謀罪だ。マフィアなどの国際犯罪組織を取り締まる条約を結ぶために、日本にも創設することがかねて議論されてきた。
(中略)
東京五輪をひかえ、テロ対策や国際協力の看板をかければ、多少の懸念があっても大方の理解は得られると、政権が踏んでいるのは容易に想像できる。
もちろんテロの抑止は社会の願いだ。だからこそ権力をもつ側はよくよく自制し、人権の擁護と治安というふたつの要請の均衡に意を砕かねばならない。


いずれも共謀罪から進展させた「テロ等組織犯罪準備罪」の法案成立に牽制球を投げる内容となっています。自分はテロへの予防という意味においては、この新法こそが重要だと思っています。犯罪を企てている連中を指をくわえてみているわけにはいかなくなっているのが現代です。そもそも、80年代後半の冷戦終結時にさえ、「テロのネットワーク化」という単語は存在していました@パイナップルアーミーってすげえ〜
両社説はかなりオブラートにくるんだ表現で「副作用」だの「意を砕かねば」だのといった曖昧さで終えていますが、ニュアンスとしては「反対」の立場に読めます。
ちなみに政党では社民党が明確に反対しています。

この「テロ等組織犯罪準備罪」と「スパイ防止法」のセットでまずは「テロの予防」に注力すべしと思っていますが、こうした反対勢力の声も日増しに大きくなりそうですから道のりは遠いのかもしれません。
しかし、重ねて主張したいのはやはり「戦争よりもテロに気をつけよう」という時代の流れこそをしっかりと国民共通の認識として持つべきである、ということであります。


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内容(文藝春秋HPより)
国益とプライドをかけた防諜戦争の行方は…?
ロシア人ホステスの轢死事件が発生。事件はロシア人の殺し屋による暗殺だという証言者が現れた。倉島警部補シリーズ、待望の最新刊!


曹源寺評価★★★★
凍土の密約」「アクティブメジャーズ」などで展開する「倉島警部補シリーズ」の最新刊であります。

ホントこのセンセーは何作シリーズを持っていらっしゃるのか、、、

今野センセーにしては数少ない公安モノというジャンルですので、所轄署の刑事モノとは毛色が異なります。警視庁の外事一課に所属する倉島警部補は公安を背負って立つ次期エースの呼び声高く、ついに「作業班」メンバーとして招集される。作業班とは公安の中でも自ら仕事をつくり、領収書の要らない金を使って事件を未然に防いだり解決に導いたりする役割を担うメンバーを指す。倉島は「ゼロ」の研修を受けて晴れて作業班の一員となったが、そこにロシア人が電車にはねられ死亡したというニュースが飛び込んだ。不審な匂いを感じ取った倉島は早速作業に取り掛かる。。。
ちなみに、「ゼロ」とは「サクラ」あるいは「チヨダ」とも呼ばれる公安捜査のための実践的訓練を積む特殊学級を指す隠語です。一番リアルかつ詳しく書かれた作品は麻生幾センセーの「ZERO」だと思います。名作です。
この倉島が公安のエースとして成長していく様子を中心にストーリーが展開していくのが本書シリーズのキモでありますが、いよいよ作業班となった倉島はチームを組織してそのリーダーとして采配を振るう立場になります。最初は慣れないチーム運営も、伊藤や片桐といった優秀な部下を引き抜き、また自称ライバルの西本もチームに加わるなどしていよいよ事件の全貌解明に注力していきます。
いつものようにどんでん返しがあるわけでもなく事件のからくりもそれほど大げさではありませんので、ストーリーはそれほどでもありません。このシリーズのよさは今野センセーの描く公安モノという希少性と、倉島の実直たる捜査の顛末を楽しむのが目的だと思います。





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2016年08月26日

書評737 呉勝浩「蜃気楼の犬」

こんにちは、曹源寺です。

8月もあと一週間を切ってしまいました。小学生の時分には夏休みの宿題が溜まっていて泣きながら片付けた記憶しかありませんので、8月の最終週は嫌な想い出しかありません(笑

個人的な感想ですが、例年8月になると想起されるのは終戦記念日(敗戦記念日と言ったほうが良いですね)とJAL123便の事故です。敗戦から71年が経過し、いったいいつまで日本は反省を繰り返さなければならないのでしょうかとよく考えるようになっています。なんだか誰かが「日本は永久に謝っていろ!」と画策しているような気がしてなりません。そろそろ「どこで区切るのか」について真剣に検討したほうが良いのではないかと思います。

いまの世界情勢を考えると、怖いのは戦争ではなくてテロリズムです。戦争とテロを比較してみればよく分かりますが、テロはいつ何時発生するのか分かりません。知っているのはテロリストだけです。しかも無差別だったりします。大勢の人が集まる場所で銃撃に遭う、爆弾が爆発する、立て篭もりが発生して人質になる。こんな怖いことはありません。そこには覚悟もなければ準備もない。ただただ理不尽に殺されるだけです。

戦争は違います。外交の行き着く先に戦争があるわけで、国民には覚悟と準備ができます。そして国際法があって無差別殺戮などは彼我の戦力差が圧倒的にならない限りは発生しませんし、一般国民が蹂躙された場合は仕掛けたほうに世界的な非難を浴びるおまけがつきます。

つまり、今の世の中では戦争よりもテロのほうがよっぽど危険だということになります。でも、戦争反対を叫ぶ人たちはテロ反対とは叫ばないんですね。なぜでしょうか。
そして思うのですが、「テロと戦う」という政府高官の話が出たりしますが、テロとは戦わないで「予防」してほしいと思います。予防こそがテロと戦うことになる、というならそれはごもっともですが。

テロを未然に防ぐ。そのために何が必要なのか。こうした視点から議論が沸き起こることを切に願います。

JAL123便墜落事故についてはまた別途。

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内容(講談社HPより)
正義など、どうでもいい。 俺はただ、可愛い嫁から幸せを奪う可能性を、迷わず排除するだけだ。明日も明後日も。 県警本部捜査一課の番場は、二回りも年の離れた身重の妻コヨリを愛し、日々捜査を続けるベテラン刑事。周囲の人間は賞賛と若干の揶揄を込めて彼のことを呼ぶ――現場の番場。 ルーキー刑事の船越とともに難事件の捜査に取り組む中で、番場は自らの「正義」を見失っていく――。 新江戸川乱歩賞作家が描く、新世代の連作警察小説。


曹源寺評価★★★★
自分は呉センセーをあまり高く評価しておりませんが、それは「大風呂敷を敷いて読者を期待させておいて、なんだかこじんまりと終わるのが残念」という書評が続いたからであります。
しかし本書は連作短編、大風呂敷を敷いている暇もないスピーディな展開を余儀なくされるわけですから、このくらいのほうがストーリーがコンパクトにまとまり、読みやすい仕上がりになっているのも道理でありましょう。
県警(何県かは知らない)捜査一課のベテラン刑事である番場が主人公となり、若手ルーキーの船越刑事と組んで事件にあたる連作短編が本書です。
「月に吠える兎」
「真夜中の放物線」
「沈黙の終着駅」
「かくれんぼ」
「蜃気楼の犬」
の5作が収録されています。
「現場の番場」と呼ばれるようなベテラン刑事、番場の私生活(2周りも年下の女房と結婚したこと)を絡めて、心情の移り変わりと刑事としてのプライド、誇り、矜持を揺さぶる描写はやや抽象的ではありますが、その揺れ動く様は良い味付けになっていると思います。作風というか本書がかもし出す雰囲気はやや横溝、やや島田荘司、そしてやや結城充考といったところでしょうか。
自分は連作短編好きですが、なかでも本書のように最後の作品が前4作のまとめになっているような、すべてがつながっていた!みたいな作品は特に好きです。

呉センセーは連作短編で勝負すべきである

と本書を読んで切に感じました。ということで、呉センセーに対する見方は本書でだいぶ変わりましたのでもう無碍にはしません。今後のご活躍を祈念致します。





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posted by 曹源寺 at 12:00| Comment(0) | TrackBack(0) | か行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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