ミステリ読みまくり日記 〜書評(ネタバレあり)

通勤時間に読む、日本のミステリとその他小説をとりあえず書き留める
 

カテゴリー:か行の作家

2016年10月18日

書評752 鏑木蓮「炎罪」

こんにちは、曹源寺です。

先週末はこのニュースが衝撃的でした。
中央大 連続出場87でストップ 44秒差で伝統守れず(デイリースポーツ10/16)
「陸上・箱根駅伝予選会」(15日、東京)
50校が参加して各校上位10人の合計タイムで争われ、最多14度の総合優勝を誇る中大は11位に終わり、88回連続91度目の出場はならなかった。1位の大東大、2位の明大、中大と44秒差で10位に食い込んだ日大など10校が通過。来年1月2、3日に行われる本大会には、2大会連続総合優勝の青学大を含むシード校と、オープン参加の関東学生連合を加えた21チームが参加する。

箱根路を彩ってきた伝統の赤たすきが途切れた。順位発表で10位までに「中央大」の名前が読み上げられなかった瞬間、メンバーは顔を押さえ、うなだれた。1925年の第6回大会から続いていた本大会出場を逃し、エースの町沢大雅(4年)は「伝統を守れず、本当に申し訳ない」と肩を落とした。

選手の自主性を強みにしてきたが、いつしかそれは“緩さ”に変わっていた。互いに厳しさを持ち込めず、他校のレベルが上がる中で低迷。4月から母校を率いる元世界選手権マラソン代表の藤原正和監督(35)は、7月に主将を1年生の舟津彰馬に変更するなど荒療治を敢行した。

1年生主将は先輩にも臆することなく「練習でもラストでペースを上げたりした」と改革に努めたが、全体100位以内に4人しか入れず、涙。続けて「悔しさは今日の涙で出し切った。次は断トツの結果を出せるように」と復活を期した。

59〜64年には6連覇の黄金時代も築いた伝統校。藤原監督は「力不足。新しい伝統を一から始めたい」と再興を誓った。


正月に中大が走っていない駅伝を観ることになるとは思いもしませんでしたが、ここ数年の低迷振りを見るとついに落ちるところまで落ちたなあという印象でもあります。

伝統校のうえに胡坐を欠き、自主的な練習に終始して規律が緩みっぱなしになる。他校は科学的なトレーニングだけでなく、心理的サポートやコーチングの導入など多角的な取り組みを行ってきました。実に対照的でありました。
また、日曜日のご意見番ことハリー張本氏も「内紛があった」と論じています(これに関しては野村修也教授が否定していますが)。これは、変えなきゃだめだと言っている層と伝統を守れと言っている層がぶつかっていただけで、内紛というより単なる意見の対立でしょう。

個人的にはこれでよかったのではないかと思います。いっぺん、落ちるところまで落ちたらよろしい。危機感というのは崖の上にいても理解できない人がいるのです。
優勝争いからも10年以上遠ざかっていましたので、これを機に藤原監督の抵抗勢力を一気に排除して、若い主将とともに3年がかりで立て直して欲しいと思います。

来年上がれなかったらマジヤバイとかいう意見も多いですが、立った1年で立て直せるかどうかは微妙ですね。舟津主将が4年生になるときが本当の勝負だと思って、長い目で見守ってあげたいところです。来年も結果が出せなかったとしても藤原監督をすぐに更迭するような愚は犯さないで欲しいものです。

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内容(講談社HPより)
京都市内にある自傷患者専門クリニック兼自宅が全焼。精神科医・山之内一蔵が焼死体として発見され、妻・和代とは連絡がとれないままである。
警察はクリニックの患者で山之内医師とトラブルのあった連続放火犯・長門に疑いの目を向けるも決め手に欠け、さらには自殺説、行方不明の妻犯人説など様々な推理が飛び交い捜査が難航した。
混乱の中、下京署の片岡真子は山之内医師周辺のある事故に目を向け、思わぬ推理を展開するが……。
「お嬢」と呼ばれた京言葉の女性刑事が情熱で事件に挑む警察ミステリー!
デビュー10周年・乱歩賞作家・鏑木蓮が放つ渾身作!!

曹源寺評価★★★★★
鏑木センセーもデビュー10周年ですか。早いものですね。鏑木センセーは乱歩賞受賞作家ですが、ちょうどこの10年くらいの間の乱歩賞出身作家は個人的に好き嫌いがありまして、鏑木センセーの作品はすべてを読んでいるわけではありません。なんというか、重要な局面のはずがあまりに簡単に素通りしてしまったり、登場人物の書き分けが中途半端だったり、という文体のイメージがありまして積極的に入り込めないんですね。
で、本書です。京都府警の女刑事、片岡真子が活躍するシリーズ第2弾なんですが、案の定第1弾の「時限」(当初のタイトルは「エクステンド」)が記憶にありませんでしたわ。。。
それでもめげずに読み進めます。緊張したり興奮したりすると京都弁が丸出しになってしまう真子は刑事の勘を大事にするタイプ、つまり直情的な刑事さんです。京都弁は文字に書き起こすとちっとも優雅でないですね笑
精神科医師が焼死体で発見されその妻が行方不明な事件。一見すると心中事件のようにも見えるが物的証拠も目撃者もなく妻の足取りもつかめない。些細なことでも突き詰めていく真子の熱血捜査からついに糸口が見つかるが、そこには驚くべき事実が隠されていた。。。
みたいな、なんだか沢口靖子主演の2時間ドラマみたいな展開ですね。そういえば「京都地検の女」とかいうドラマがありましたね。まさにあんな感じです。小説ならばもうちょっと脇を固めないと面白みが薄れます。真子以外のキャラクターも確立されているようですが、活躍するほどではないのでもっとキャラを出しても良いのかもしれません。
まあ、そもそもなんで京都弁を操る熱血だけがとりえの女刑事というキャラクターで勝負しようと思ったのかが良くわかりません。これくらいだとフツーすぎると思ってしまう自分がいけないのかもしれませんが、警察小説はすでに未知の領域に突入していますよね。遠藤武文センセーの「裏店」シリーズとか、川瀬七緒センセーの「法医昆虫学捜査官」シリーズなどのように

主人公がぶっ飛びすぎているキャラクターがどんどんと

出てしまっているというのがいけないのだと十分承知していますが、

このくらいのキャラクターだともう物足りません。

ヤバイな。
でもストーリーやラストはそれなりに納得できますよ。犯人を追い込む最期の落としどころなどはうまいなあと思います。





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2016年10月14日

書評751 河合莞爾「800年後に会いにいく」

こんにちは、曹源寺です。

すっかり涼しくなって、ビールのおいしい季節が過ぎ去ってしまいました。そんなところにこんなニュースが。
サッポロの請求棄却=「ゴクゼロ」酒税返還問題―不服審判所(10/14時事通信)
サッポロビールが第三のビールとして発売した「極ZERO(ゴクゼロ)」をめぐり自主納付した酒税115億円の返還を求めている問題で、同社は14日、国税不服審判所から請求棄却の裁決書が届いたことを明らかにした。国税当局がサッポロの異議申し立てを棄却した判断について、審査を求めていた。
国税不服審判所は、国税当局の処分に不服がある場合に申し出る機関で、弁護士や公認会計士などが審判官を務める。請求棄却を受け、サッポロは「外部の専門家の意見を聞いて今後の対応を決める」とコメントした。


これって、サッポロビール側が科学的・技術的に「第三のビール」であることを証明したにもかかわらず、国税当局がごねて返還していないだけの話だと思っていました。
それがなぜ国税不服審判所にて請求棄却となったのか、記事にはその理由が書かれていないので分かりませんが、なんとなくごね得の匂いがプンプンしますね。酒税の盲点を突いた第三のビールですが、消費者のニーズに合わせて技術改良した結果ですから何の問題もないはずです。個人的には本物のビールの風味が好きなのであまり飲んでいませんが。

そういえば、11日はWHO(世界保健機関)が炭酸飲料に20%以上の課税をすれば肥満や糖尿病、虫歯などの患者が減少する効果があるとしてニュースになりました。いわゆる肥満税ですね。
やめてほしいです。ビールと同じで、こんなのはアスパルテームやフェニルアラニン、エリスリトールなどの人口甘味料に取って代わられるだけです。人口甘味料まみれの飲料など飲みたくもありません。エリスリトールは取りすぎると下痢などの症状に見舞われます(貴志佑介センセーの「クリムゾンの迷宮」ですな)。

つまり、ビールにしても砂糖にしても、課税強化したところで代替策があるものについては税収増が見込めないばかりか、文化を破壊し、人体への悪影響を及ぼすことになるわけです。肥満を減らしたければ白米から玄米へのシフトを進めれば良いと思います。玄米をうんと安くして、精米に税金を取るとか、小麦粉も全粒粉と精白粉で価格差をつけるとか。まあ、それでも抜け道ができそうですが。

となると、課税を強化したければ逃げ道のない分野に限るということになりますが、独身税を設けても偽装結婚が増えるだけとかいろいろありそうですね。
取れるところから搾り取ろうとする国税当局はもう少し想像力を働かせてから課税してください。それができなければ課税強化などしないでください。

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内容(幻冬舎HPより)

西暦2826年にいる、あたしを助けて」。彼女の「真実」を知った時、あなたはきっと涙する。 かつてない、恋愛SFミステリー誕生! クリスマスイブの夜、残業をしていた飛田旅人のPCに突然、謎の少女からメッセージが届く。「このままでは死んでしまう。あたしにスズランを届けて」。再生された動画ファイルの作成日付は、2826年12月24日とあった。メイと名乗るその少女は何者なのか。そしてなぜスズランが必要なのか。「メイに会いたい。でもどうやって?」。思い悩む旅人に、上司で天才技術者の菜野マリアが、800年後の未来に行くためのあっと驚く、思いもよらない方法≠提案する――。彼女≠フ真実を知った時、あなたはきっと涙する。いまだかつてない、恋愛SFミステリー誕生!


曹源寺評価★★★★
横溝正史か島田荘司ばりの「奇妙な死体」から始まるミステリを発表し続けてこられた河合センセーですが、いきなりSFモノに挑戦した!というので驚きとともに読んでみました。
大学4年生にして就職浪人寸前の飛田旅人(とびたたびと)は、怪しげな求人広告に惹かれて青山のオフィスビルを訪ねる。そこはセキュリティソフトウェアの開発会社であったが、人工知能の開発も手がけるような天才的な専務、菜野マリアがいて旅人は恋に落ちる。

なんだ恋愛系かよ〜苦手なんだよな〜

と思い、ダラダラした導入部に嫌気が差してきたのですが、
クリスマスイブの夜に残業をしていた旅人に、謎の動画が配信される。そこに映った少女のメッセージが「800年後の自分にスズランを届けて欲しい」というものであった。旅人は果たして彼女のリクエストを叶える事ができるのか?

ありゃ、時空を超えるのか、SF系やね

今までの著作と全然ちがうわねー、こんなジャンルをよく書き分けられるなぁと感心。
800年後に行くその手段に

あぁ、これは新たなサイエンスやねぇ

とさらに感心。そんなところに原発を狙うテロリストのニュースが日本中を駆け巡る!

ファ!?一気にサスペンスやんけ!

物語が一気に引き締まります。そんでもって、時空を超える話と原発の話がどう絡んでくるのか、全く先が予測できなくなり、読むスピードが加速します。
そこからは一気です。ラストまでグイグイと読ませてくれました。恋愛SFミステリという触れ込みは伊達じゃありません。

(以下、多少ネタバレ)
質量保存の法則により、宇宙の物質の総量は一定である→だからタイムトラベルすることは不可能→だから「情報」だけがタイムトラベルすれば解決!とかいう論法にはさすがにやられましたが、私立文系でもなんとかついていけましたのでフツーの人でも読みこなせると思います。





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2016年08月30日

書評738 今野敏「防諜捜査」

こんにちは、曹源寺です。

先日、テロとの戦い(というかテロへの予防)が戦争よりもはるかに重要になっているという主旨のコメントを書き殴りましたが、昨日はちょうど朝日新聞と毎日新聞が社説で共謀罪の成立に疑問符を投げかけています。

テロ準備罪 本当に必要性はあるか(8/30毎日新聞社説)
「テロ等組織犯罪準備罪」の新設を政府が検討している。国会で3度廃案になった「共謀罪」の内容を、成立要件を絞って盛り込むものだ。9月召集の臨時国会で、組織犯罪処罰法改正案を提出予定という。
(中略)
一方、日本の刑法では、一定の重大犯罪について、予備罪や準備罪などで、未遂より前の段階で処罰ができる規定が既にある。法律家の中には、テロに絡む犯罪でも既存の法の枠内で摘発ができ、条約締結は可能だとの意見がある。共謀罪の必要性は、改めて議論する際の重要な論点だ。
政府は今回、適用対象を絞り込む方針だ。また、合議に加え、犯罪の準備行為が行われることも要件に加えるとみられる。
だが、定義の仕方によっては、幅広い解釈が可能になる。廃案になった法案と同様、対象罪種は600を超えるとみられる。既遂の処罰を原則とする刑法の原則は大きく変わる。テロをめぐる環境変化を踏まえても副作用は大きい。


「共謀罪」法案 政権の手法が問われる(8/30朝日新聞社説)
またぞろ、というべきか。
安倍内閣が、人々の強い反対でこれまでに3度廃案になった「共謀罪」法案を、「テロ等組織犯罪準備罪」法案に仕立てなおして、国会に提出することを検討しているという。
(中略)
実際に行動に移さなくても、何人かで犯罪をおこす合意をするだけで処罰する。それが共謀罪だ。マフィアなどの国際犯罪組織を取り締まる条約を結ぶために、日本にも創設することがかねて議論されてきた。
(中略)
東京五輪をひかえ、テロ対策や国際協力の看板をかければ、多少の懸念があっても大方の理解は得られると、政権が踏んでいるのは容易に想像できる。
もちろんテロの抑止は社会の願いだ。だからこそ権力をもつ側はよくよく自制し、人権の擁護と治安というふたつの要請の均衡に意を砕かねばならない。


いずれも共謀罪から進展させた「テロ等組織犯罪準備罪」の法案成立に牽制球を投げる内容となっています。自分はテロへの予防という意味においては、この新法こそが重要だと思っています。犯罪を企てている連中を指をくわえてみているわけにはいかなくなっているのが現代です。そもそも、80年代後半の冷戦終結時にさえ、「テロのネットワーク化」という単語は存在していました@パイナップルアーミーってすげえ〜
両社説はかなりオブラートにくるんだ表現で「副作用」だの「意を砕かねば」だのといった曖昧さで終えていますが、ニュアンスとしては「反対」の立場に読めます。
ちなみに政党では社民党が明確に反対しています。

この「テロ等組織犯罪準備罪」と「スパイ防止法」のセットでまずは「テロの予防」に注力すべしと思っていますが、こうした反対勢力の声も日増しに大きくなりそうですから道のりは遠いのかもしれません。
しかし、重ねて主張したいのはやはり「戦争よりもテロに気をつけよう」という時代の流れこそをしっかりと国民共通の認識として持つべきである、ということであります。


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内容(文藝春秋HPより)
国益とプライドをかけた防諜戦争の行方は…?
ロシア人ホステスの轢死事件が発生。事件はロシア人の殺し屋による暗殺だという証言者が現れた。倉島警部補シリーズ、待望の最新刊!


曹源寺評価★★★★
凍土の密約」「アクティブメジャーズ」などで展開する「倉島警部補シリーズ」の最新刊であります。

ホントこのセンセーは何作シリーズを持っていらっしゃるのか、、、

今野センセーにしては数少ない公安モノというジャンルですので、所轄署の刑事モノとは毛色が異なります。警視庁の外事一課に所属する倉島警部補は公安を背負って立つ次期エースの呼び声高く、ついに「作業班」メンバーとして招集される。作業班とは公安の中でも自ら仕事をつくり、領収書の要らない金を使って事件を未然に防いだり解決に導いたりする役割を担うメンバーを指す。倉島は「ゼロ」の研修を受けて晴れて作業班の一員となったが、そこにロシア人が電車にはねられ死亡したというニュースが飛び込んだ。不審な匂いを感じ取った倉島は早速作業に取り掛かる。。。
ちなみに、「ゼロ」とは「サクラ」あるいは「チヨダ」とも呼ばれる公安捜査のための実践的訓練を積む特殊学級を指す隠語です。一番リアルかつ詳しく書かれた作品は麻生幾センセーの「ZERO」だと思います。名作です。
この倉島が公安のエースとして成長していく様子を中心にストーリーが展開していくのが本書シリーズのキモでありますが、いよいよ作業班となった倉島はチームを組織してそのリーダーとして采配を振るう立場になります。最初は慣れないチーム運営も、伊藤や片桐といった優秀な部下を引き抜き、また自称ライバルの西本もチームに加わるなどしていよいよ事件の全貌解明に注力していきます。
いつものようにどんでん返しがあるわけでもなく事件のからくりもそれほど大げさではありませんので、ストーリーはそれほどでもありません。このシリーズのよさは今野センセーの描く公安モノという希少性と、倉島の実直たる捜査の顛末を楽しむのが目的だと思います。





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2016年08月26日

書評737 呉勝浩「蜃気楼の犬」

こんにちは、曹源寺です。

8月もあと一週間を切ってしまいました。小学生の時分には夏休みの宿題が溜まっていて泣きながら片付けた記憶しかありませんので、8月の最終週は嫌な想い出しかありません(笑

個人的な感想ですが、例年8月になると想起されるのは終戦記念日(敗戦記念日と言ったほうが良いですね)とJAL123便の事故です。敗戦から71年が経過し、いったいいつまで日本は反省を繰り返さなければならないのでしょうかとよく考えるようになっています。なんだか誰かが「日本は永久に謝っていろ!」と画策しているような気がしてなりません。そろそろ「どこで区切るのか」について真剣に検討したほうが良いのではないかと思います。

いまの世界情勢を考えると、怖いのは戦争ではなくてテロリズムです。戦争とテロを比較してみればよく分かりますが、テロはいつ何時発生するのか分かりません。知っているのはテロリストだけです。しかも無差別だったりします。大勢の人が集まる場所で銃撃に遭う、爆弾が爆発する、立て篭もりが発生して人質になる。こんな怖いことはありません。そこには覚悟もなければ準備もない。ただただ理不尽に殺されるだけです。

戦争は違います。外交の行き着く先に戦争があるわけで、国民には覚悟と準備ができます。そして国際法があって無差別殺戮などは彼我の戦力差が圧倒的にならない限りは発生しませんし、一般国民が蹂躙された場合は仕掛けたほうに世界的な非難を浴びるおまけがつきます。

つまり、今の世の中では戦争よりもテロのほうがよっぽど危険だということになります。でも、戦争反対を叫ぶ人たちはテロ反対とは叫ばないんですね。なぜでしょうか。
そして思うのですが、「テロと戦う」という政府高官の話が出たりしますが、テロとは戦わないで「予防」してほしいと思います。予防こそがテロと戦うことになる、というならそれはごもっともですが。

テロを未然に防ぐ。そのために何が必要なのか。こうした視点から議論が沸き起こることを切に願います。

JAL123便墜落事故についてはまた別途。

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内容(講談社HPより)
正義など、どうでもいい。 俺はただ、可愛い嫁から幸せを奪う可能性を、迷わず排除するだけだ。明日も明後日も。 県警本部捜査一課の番場は、二回りも年の離れた身重の妻コヨリを愛し、日々捜査を続けるベテラン刑事。周囲の人間は賞賛と若干の揶揄を込めて彼のことを呼ぶ――現場の番場。 ルーキー刑事の船越とともに難事件の捜査に取り組む中で、番場は自らの「正義」を見失っていく――。 新江戸川乱歩賞作家が描く、新世代の連作警察小説。


曹源寺評価★★★★
自分は呉センセーをあまり高く評価しておりませんが、それは「大風呂敷を敷いて読者を期待させておいて、なんだかこじんまりと終わるのが残念」という書評が続いたからであります。
しかし本書は連作短編、大風呂敷を敷いている暇もないスピーディな展開を余儀なくされるわけですから、このくらいのほうがストーリーがコンパクトにまとまり、読みやすい仕上がりになっているのも道理でありましょう。
県警(何県かは知らない)捜査一課のベテラン刑事である番場が主人公となり、若手ルーキーの船越刑事と組んで事件にあたる連作短編が本書です。
「月に吠える兎」
「真夜中の放物線」
「沈黙の終着駅」
「かくれんぼ」
「蜃気楼の犬」
の5作が収録されています。
「現場の番場」と呼ばれるようなベテラン刑事、番場の私生活(2周りも年下の女房と結婚したこと)を絡めて、心情の移り変わりと刑事としてのプライド、誇り、矜持を揺さぶる描写はやや抽象的ではありますが、その揺れ動く様は良い味付けになっていると思います。作風というか本書がかもし出す雰囲気はやや横溝、やや島田荘司、そしてやや結城充考といったところでしょうか。
自分は連作短編好きですが、なかでも本書のように最後の作品が前4作のまとめになっているような、すべてがつながっていた!みたいな作品は特に好きです。

呉センセーは連作短編で勝負すべきである

と本書を読んで切に感じました。ということで、呉センセーに対する見方は本書でだいぶ変わりましたのでもう無碍にはしません。今後のご活躍を祈念致します。





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2016年08月23日

書評736 今野敏「マル暴総監」

こんにちは、曹源寺です。

リオ五輪が終わって、今年のスポーツ観戦の興味はプロやきうにシフトしつつありますが、セ・リーグはもうほぼ広島カープでしょう。むしろパ・リーグのほうが混戦になってきました。9月の中旬くらいまでは楽しめそうですね。

さて、気になったニュースがありましたので一個だけ取り上げます。
日本の新聞ではありませんが、朝鮮新報が書いたこんな記事です。
「3.29通知」撤回と、適正な補助金交付求める/神奈川県弁護士会が会長声明神奈川県弁護士会の三浦修会長は17日、「学校法人神奈川朝鮮学園に係る補助金交付に関し、政府通知の撤回及び適正な補助金交付を求める会長声明」を発表した。声明は、文部科学省が今年3月29日に発表した「朝鮮学校に係る補助金交付に関する留意点について」と題する通知について、「各地方自治体により実施されている朝鮮学校への補助金交付を抑制する効果をもたらしかねないものであり、極めて問題があると言わざるを得ない」と指摘。(以下、略)

神奈川県弁護士会のホームページにアップされた声明はこちらから
学校法人神奈川朝鮮学園に係る補助金交付に関し, 政府通知の撤回及び適正な補助金交付を求める会長声明」(8/16)

日本のマスコミはこれを取り上げていないみたいですが、ものすごく疑問符の多い内容となっています。
・そもそもなぜ弁護士会というただの任意団体が政治的声明を発表するのか
・なぜ「会長コメント」などというスタイルで声明が発表されるのか
・このコメントは弁護士会加盟者の総意なのか。反対している人はいないのか
・なぜ憲法89条に違反する可能性の高い補助金交付を弁護士会が求めているのか

うーん、謎だらけですわ。神奈川県内の弁護士先生たちはこういうコメントについてどう思っていらっしゃるのか真剣に聞いてみたいのですが。

実はこの問題は神奈川県だけではなくて、たしか京都府でも同じような事例があって、弁護士会会長がコメントしたことに別の弁護士が噛み付いて提訴するだの何だの騒ぎになりました。この地方の弁護士会とやらがどんな組織なのか、自分は良く知りませんが、仮にも法曹の世界に身を置く集団が法律に反する行動を促すようなコメントを正式にリリースするということが自分には俄かに信じられませんでした。
たとえば、JAがTPPに反対する声明を発表するのはまだ分かるんですよ。JA加入者の経済的利害が大筋で一致しますし、大抵は何らかの大会(会合)を開いて声明案を採択したという合議をもってリリースしているケースがほとんどですから。
ところが、弁護士会とやらはこうした手続きとか合議とかをもってこうした声明を発表しているわけでもなさそうです。何と言っても「会長のコメント」ですから。
つまり、弁護士会は会長になると勝手に声明を発表しても良いというルールになっているとしか思えないのです。いいのか?本当にいいのかそれで?民主主義社会において民主的な手続きに則っていないことをしているのは日本共産党くらいだと思っていましたが、どうやら違うようです。本当にありがとうございました。

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内容(実業之日本社HPより)
警視総監は暴れん坊!?
チンピラが路上で睨みあっているとの通報を受けて、現場に駆けつけた北綾瀬署のマル暴刑事・甘糟。人垣に近こうと思ったそのとき「待て、待て、待て」と大きな声がかかり、白いスーツを来た恰幅のいい男が割って現れた。翌日の夜、チンピラのひとりが刺殺体で発見される。捜査本部が立ち上がり甘糟とコワモテの先輩刑事・郡原も参加するが、捜査線上に浮かんだ意外すぎる人物に翻弄されることに――。
“史上最弱の刑事”甘糟の奮闘ぶりに笑って泣ける〈マル暴〉シリーズ、待望の第2弾。〈任侠〉シリーズの阿岐本組の面々も登場!


曹源寺評価★★★★
上記にあるとおり、史上最弱の刑事とされる北綾瀬署の生活安全課刑事、甘糟の活躍を描く「マル暴甘糟」に続くシリーズ第2弾です。
所轄の生活安全課はかつての4課、すなわち組織犯罪対策課や少年課などが統合されてできた組織ですので、弱そうな警察官はあまりいません。そんなところに何の因果か配属されてしまった甘糟が活躍(というほどではなくて、むしろ語り部ではありますが)するのが本書シリーズです。
今回は殺人現場の近くで目撃された白いスーツの男を捜す役回りを押し付けられるも、この男の正体が判明するや、、、
というちょっとしたドタバタストーリーで、ミステリというほどでもありませんが、まあ楽しく読めました。
そういえば、主人公が弱くて語り部的な立場、その相棒が無双で超有能、という設定は警察小説ではあまりないと思いますが、なぜなのか?
おそらく、警察小説においては主人公がヒーローでなければならないような、そんな雰囲気が求められているのではないかと思います。主人公がそこそこ強く、その相棒はもっと強いという設定はいくつもありますね。あと、主人公は語り部だけどまとも、相棒は変人で強いという設定とか。
ちょっとコメディーを入れるなら本書のような設定のほうが良いんでしょうね。本書の場合は甘糟が弱いながらも少しずつ成長を遂げていて、さらに先輩刑事の郡原が切れ者なのでストーリーに一本スジが通っていて読みやすいです。あと、任侠学園シリーズの阿岐本組が登場するコラボレーションもなかなかでした。





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2016年07月26日

書評730 川瀬七緒「女學生奇譚」

こんにちは、曹源寺です。

ネットニュース配信の一角を占めるJ-CASTですが、街ネタを配信する「Jタウンネット」というサイトも運営していまして、こちらでは東京都知事選挙の泡沫候補にもスポットを当てた記事を配信しています。

主要3候補「以外」の都知事選(1)高橋尚吾さん 「選挙は戦いじゃない」他候補の応援演説続ける(7/25)

主要3候補「以外」の都知事選(2)後藤輝樹さん 軍服ポスター、「放送禁止」政見放送、素顔(7/26)


いいですねぇ、こういう情報が欲しいのですよ都民は。
無党派層が4割を占める東京都では、選挙終盤においても態度を明確にしない人が多いため、票読みが難しいわけですが、だからといって主要候補だけを報道の対称にしている大手マスゴミはこうした泡沫候補には一切焦点を当てることをしません。キワモノだというのは理由にならないんですよ。予備選挙でもあれば別ですが、そういう制度ではないのですべての候補者が機会平等であるべきですよね。
確かに、後藤候補なんてキワモノですよ。マック赤坂候補だって絶対当選圏には入ってこないというのも分かってはいるんです。
しかし、いみじくも公共の電波を借りている放送局は多くの人に広く知らしめる義務があるはずです。

山口候補は泡沫候補に呼びかけて合同で立会演説会を開催しました。
私の政策も知って!=候補12人が街頭演説会【都知事選】(時事通信7/25)

こういうことをしなければ話題にしてもらえないという現状は、果たしてどうなのかなあと思います。山口敏夫なんて完全にオワコンですが、こういう粋な計らいをされるとちょっとグッときますね。逆にこうした場にも登場しない鳥越はどんどん評価を落としています。些細なことかもしれませんが、こうした評判の積み重ねは選挙にとっては大事ですね。

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内容(徳間書店HPより)
フリーライターの八坂駿は、オカルト雑誌の編集長から妙な企画の依頼をされる。「この本を読んではいけない……」から始まる警告文と古書を、竹里あやめという女が持ち込んできたのだ。その古書の本来の持主である彼女の兄は数ヶ月前に失踪、現在も行方不明。このネタは臭う……八坂は、タッグを組むカメラマンの篠宮、そしてあやめとともに謎を追う。いたずらか、狂言か、それとも――。最後まで目が離せない、サスペンスミステリー!


曹源寺評価★★★★
川瀬センセーといえば「法医昆虫学捜査官」シリーズというややグロなミステリでちょいブレイクした乱歩賞出身作家ですが、今回はグロではなくホラーチックな作品でありました。
オカルト雑誌に寄稿するフリーライターの八坂と、タッグを組むカメラマンの篠宮。二人は編集長の依頼で竹里あやめから奇妙な古書とその本の間に挟まれていた謎のメモの解読を要請される。
その古書は依頼人であるあやめの兄が持っていたもので、兄は失踪していた。古書を読み始めた八坂は隠された手がかりから情報を集めるが、彼の周辺では怪しい動きも、、、
全体に流れる雰囲気がややオカルト的で、こんなジャンルにまで手を伸ばしている川瀬センセーの力量がハンパねえっす。
昭和3年発行の古書「女學生奇譚」はもちろん、舞台装置のひとつでしかないのですが、その内容を引用したというかたちで一部が収録されています。これがまた当時の風俗をうまく表現していて時代感溢れています。
この本に流れている一風変わった雰囲気は、横溝的というか乱歩的というか島田荘司的というか、ちょっと暗めですが味わい深いですね。キャラクター造型もなかなかに凝っているので、このメンバーで別のお話を書いて欲しいレベルです。特に主人公の八坂は遺伝子の異常により扁桃体が機能しない「ウルバッハ・ビーテ病」により、まったく恐怖を感じない体質であるという設定です。しかも一卵性双生児で弟がいて、、、
このへんのくだりがあっさりしているので、

なおさら興味をそそるのですよ。

あと、余談になりますが、この本を持って電車に乗るとタイトルを見た人から

奇異な目で見られること請け合いです。

「女學生」という単語は中年男性と相性が悪いです。気をつけましょう。





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2016年06月14日

書評720 今野敏「臥龍 横浜みなとみらい署暴対係」

こんにちは、曹源寺です。

イギリス連邦という国がありまして、世界史を学んだ方はこの国の酷さをよくご存知かと思いますが、まあぐう畜ぶりが半端ないくらい世界中に禍根を残しながらも19世紀の覇者であるがゆえに、今もなお多大なる影響力を誇示している国であります。
自分もUKロックは大好きです。ビートルズにはじまり、デビット・ボウイ、U2、ポリス→スティング、コールドプレイ、、、みんなイギリスですね。あ、U2はアイルランドか。

そんなイギリスですが、EU離脱の是非を問う国民投票が6月23日に実施されます。さあみなさん、張った張った!離脱ならポンド下落、残留なら爆上げ間違いなし!円でもいいよっ!
って、おそらくは世界中で大博打でしょうなぁ。
イギリスの場合は通貨も違うし大陸とは距離があるしで、残留するメリットがそんなに多くはないのかもしれないですね。
ネットの調査では離脱派がリードしているそうですが、本当に離脱になったらドイツ爆死、中国暴動、ユーロ爆下げ、国内株ストップ安、、、ですかね。
リーマン・ショック以上のインパクトがありそうでちょっと怖いですわ。


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内容(徳間書店HPより)
ハマの用心棒こと、みなとみらい署暴対係係長諸橋夏男と相棒の城島勇一は、居酒屋で暴れまわった半グレたちを検挙する。大陸訛りがあることから、東京の下町あたりを縄張りとする中国残留日本人二世や三世らが横浜に進出してきたのではと危惧する諸橋。そんな折、関西系の組長羽田野が殺害された――。大好評「横浜みなとみらい署」シリーズ、最新刊!


曹源寺評価★★★★
「さすがにハマの用心棒と言われるだけのことはある」「俺はその名前で呼ばれるのが大嫌いなんだ」でおなじみの、「横浜みなとみらい署」シリーズです。
主人公の諸橋夏男は暴対係の係長、相方の城島は係長補佐でいつもコンビを組んでいます。今回は中華街で半グレをボコッたらその翌日に関西の3次団体組長が殺されるという事件が発生し、顔なじみ(?)のヤクザがしょっ引かれるという事態になります。この事件経緯に疑問を持つ諸橋が、真相を解き明かそうとすると、、、
本シリーズでは地元の博徒上がり(?)の侠客である神野義治とその懐刀である岩倉真吾が必ず登場してきますが、暴力団に両親を殺された過去のある諸橋は、相手がどんなに懐の大きな男であっても容赦しません。この刑事とヤクザの微妙な距離感がたまらなく好きですわ。お互いの事情は分かっていて、そのうえで共闘できるときは情報を交換し、知恵を出し合う。いいですね。

男の世界ですわ。

今回はこれに神奈川県警のキャリア監察官である笹本が加わります。不祥事には滅法厳しい、ゆえに間違ったことには口を挟まずにはいられない。捜査方針が誤った方向に進みそうになった時、県警捜査一課とみなとみらい暴対係の対立を修正するのがこの笹本であります。
証拠の少ない事件では「スジ読み」というのが非常に大切になってきますが、間違ったスジ読みは捜査にとって害悪でしかなく、冤罪の温床にもつながっていきます。相手がヤクザだから問題なし、という考え方は人権問題にもなりかねません。リアルな社会では未解決事件が後を絶ちませんが、初動捜査の遅れやスジ読みの誤りが原因であることはしばしばです。本書はこうした捜査の見立てについて、警鐘を発してくれています。
仮説を立てて、それを立証していくというプロセスはビジネスの世界(マーケティングなど)でも良く使われる手法ではありますが、仮説を「結論」に置き換えて、その結論に見合う証拠を追い求めていくような動きをすると、大抵は失敗します。その結論が正しいかどうかを検証するプロセスが抜け落ちるからです。こうした場合はだいたいどこかで矛盾が発生してしまいます。警察小説から学ぶことも多いですね。なんか本でも書けそうですわ。「警察小説に学ぶマーケティングの罠」とかね。





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2014年04月01日

書評521 河合莞爾「ドラゴンフライ」

消費税が8%になりました。ニュース番組では駆け込み需要の話がてんこ盛りでしたね。みんなであれだけ買い込んだら4月以降の景気が冷え込むのは当たり前ですので、5月になってから「やっぱり落ち込んでんじゃねぇか!」とわめくのはやめましょうね。というか、今回は国民のみなさまのほうが冷静で、報道やってる人間のほうが煽り立てているような、そんな気もします。

このコピペを見ると落ち込むなぁ。

働いたら罰金    →所得税
買ったら罰金    →消費税
持ったら罰金    →固定資産税
住んだら罰金    →住民税
飲んだら罰金    →酒税
吸ったら罰金    →タバコ税
乗ったら罰金    →自動車税・ガソリン税
入ったら罰金    →入浴税
起業したら罰金   →法人税
死んだら罰金    →相続税
継いでも罰金    →相続税
贈ったら罰金    →贈与税
貰っても罰金     →贈与税
生きてるだけで罰金 →住民税
若いと罰金      →年金
老けても罰金    →介護保険料
株買ったら罰金   →売却益税
配当貰っても罰金  →配当税
契約したら罰金   →印紙税
輸入したら罰金   →関税
ぐうたら過ごしたら賞金→ナマポ

まあ、税金払っているサラリーマンとしては、わが町の行政にはデカい面していますけどね。図書館で本借りまくっているのも、当然の対価だと思うようになりました。

内容(角川書店HPは閉鎖中なのでBOOKデータベースより)
多摩川の河川敷で発見された猟奇死体。臓器を抜き取られ、黒焦げにされた遺体の下からはトンボのペンダントヘッドが発見された。警視庁捜査第一課の警部補・鏑木が率いる4人の特別捜査班は再結成し、手掛かりを元に群馬県の飛龍村へ向かう。そこはトンボの里として有数の沢がある村で、被害者はトンボ研究に熱心だった村出身の青年・遊介と判明する。だが彼の死後、幼馴染みの盲目の女性・泉美に遊介本人からの電話が掛かってきていた。鏑木たちは群馬県警と協力して不可解な謎の解明に乗り出すが…。村で起きた20年前の事件、ダム建設、3人の幼馴染み、幻の巨大トンボ―複雑に絡まる糸から鏑木たちが導き出す「真実」とは!?






曹源寺評価★★★★
デッドマン」で横溝正史ミステリ大賞を受賞した河合センセーの2作目となりますが、本書は「デッドマン」の続編というか、登場人物が同じであります。
この同じメンツというのが警視庁捜査一課の通称「鏑木班」の面々でして、これがやたら個性的で、ちょっとしたドラマを観ているかのような作りこみが特徴的です。これを「もっとシリアスなほうが良い」とか「本格ミステリではない」とか「映像を意識しすぎ」などと酷評するのはたやすいですが、ストーリーテリングを重視したと解釈することも可能です。要は面白ければいいです。とても読みやすいうえに、事件が二転三転していきますので、読者を飽きさせないコツをセンセーは良くご存知でいらっしゃる。
前作同様、猟奇的な殺人現場からスタートするのは

島田荘司センセーの影響

をたぶんに受けているのかもしれませんが、そこからの警察の地道な捜査による一歩一歩真相に近づいていく動きあたりはさすがっ!という感じです。随所に見られるドラゴンフライ=トンボのエピソードなども秀逸です。2作しか読んでいませんが、ちょっと河合ファンになりました。








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2012年03月13日

書評372 今野敏「転迷 隠蔽捜査4」

福岡に転勤していた実弟が戻ってきます。春は人事異動の季節ですね。我が社においても大々的な人事異動が毎年発令されますが、昔よりも活発になっていて、非役職者の地方転勤が増えています。会社がわざわざ住居をあてがって、そのうえ単身赴任だったら手当もつけてしまう(当然といえば当然ですが)のをみると、人事異動にかけるコストもバカにならないなあと思うわけです。
このコストに見合った業績が当然のことながら求められているのですが、果たして、本当に回収できているのか?ヒジョーに疑問であります。
ウチの業務が地域性の強い側面を持っていることもさることながら、東京から地方への一方通行の異動が多いためでしょうか、地域力みたいなものがスポイルされていやしないか。ちょっと心配です。自分もいつ異動になるかわかりませんが、どこに行ってもなんとかやっていけるように地力だけはつけておきたいですね。


内容(新潮社HPより)
同時発生した四つの難問の連鎖。クリアできるか、竜崎伸也――。
相次いで謎の死を遂げた二人の外務官僚。捜査をめぐる他省庁とのトラブル。娘の恋人を襲ったアクシデント……大森署署長・竜崎伸也の周囲で次々に発生する異常事態。盟友・伊丹俊太郎と共に捜査を進める中で、やがて驚愕の構図が浮かび上がる。すべては竜崎の手腕に委ねられた! 緊迫感みなぎる超人気シリーズ最強の第五弾。






曹源寺評価★★★★★
読書ジャンルが偏っている自分は皆川博子さんという作家先生を寡聞にして知りませんでしたが、作家歴40年を超える大ベテランでいらっしゃいます。自分の不勉強を恥じるばかりです。

しかも御年81歳!

曹源寺評価★★★★★
この「隠蔽捜査」シリーズは早くも5冊目となりました。「4」なのに5冊目とはこれいかに。
あいだに「3.5」で主人公竜崎伸也の同期生である警視庁刑事部長の伊丹俊太郎が主人公となっているスピンオフ作品があるからですね。
本シリーズの最大の特徴は、なんといっても主人公竜崎の「公務員としての姿勢」「警察官としての矜持」「やるべきことの優先順位や意義を瞬時に把握する管理職としての能力」が(半ば度を過ぎているとしても)多くの中高年に感銘を与えているのではないかと推察します。もちろん、自分もその一人です。合理精神の固まりのような竜崎は、古くから続く慣行や根回しや人情みたいなまだるっこしいことを極端に嫌います。そして、古い慣習にとらわれながら竜崎と対決した多くの相手がいつのまにか竜崎のことを心酔することになるあたりが、

実に痛快であります。

これだけ個性的な警察官僚を描いた作品は数少ないですし、本書は今野作品のなかでもきわめて痛快な出来であります。決してスーパーマンではないけれど、彼の持つシンプルな思考やすばやい行動力、それに冷静沈着な立ち振る舞いや判断力、部下を安心させる説得力、どれをとっても超人的です。問題は相手の人情の機微を理解しないことだったりしますが、これも竜崎のちょっとおちゃめな部分として逆に可愛らしく映るように描写されているあたりが、これまた良いんですね。
今回は厚生労働省の麻薬取締官と対決するくだり(これは本当に秀逸です!)があったり、外務省との駆け引きがあったりで、省庁縦割りの弊害を暗喩しているところなんかもニクイですね。
そして、今回は殺人、ひき逃げ、放火など4つの事件が同時多発するため、事件がめまぐるしく展開します。読んでいて忙しないのですが、最後はお見事!という感じで終わるため、非常にスッキリします。本書の終わり方もなんだか竜崎の心境の変化を読み解く上で非常に興味深い終わり方になっていて、大森署の署長としての竜崎が今後、どうなっていくのか楽しみです。








曹源寺評価★★★★★
読書ジャンルが偏っている自分は皆川博子さんという作家先生を寡聞にして知りませんでしたが、作家歴40年を超える大ベテランでいらっしゃいます。自分の不勉強を恥じるばかりです。

しかも御年81歳!

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2012年01月10日

書評359 貴志祐介「鍵のかかった部屋」

食べログのやらせ問題に端を発した「ステマ」なる単語が飛び交う今日この頃ですが、ステルスマーケティングなどとエラそうなことを言っても、ネットでの口コミなんてもうずっと前からみんなやっていることじゃないですか。Amazonの評価だってそうだし、「@コスメ」を運営するアイスタイルなんて会社は化粧品の口コミだけで会社が成り立っているんですから。
ましてや、このブログだってステマといえばステマかもしれないですね。疑いだしたら切りがありません。
いや別に、やらせの片棒を担ぐつもりは毛頭ありませんが、ネットでの風評だの何だのなんてえのはそれこそいつも言っているように「リテラシー」をもって臨まないと、それこそいいように毟り取られるだけだということですね。


内容(角川書店HPより)
著者がしかけた4つの超絶密室トリック、貴方は解くことができるか!?
防犯コンサルタント(本職は泥棒?)・榎本と弁護士・純子のコンビが、4つの超絶密室トリックに挑む。表題作ほか「佇む男」「歪んだ箱」「密室劇場」を収録。防犯探偵・榎本シリーズ、待望の最新刊登場!






曹源寺評価★★★★
貴志祐介氏といえばホラーですが、この防犯探偵榎本径シリーズは本格ミステリに挑んだ作品としてそれなりに評価されているようですね。一部には酷評もあるようですが。自分としては、よくもまあこんなトリックを考え付くもんだなあと半ば呆れるような感心するような気分ですが、いわゆる密室ものというのは得てしてこんな奇天烈なトリックに満たされているようですね。
本書もさまざまな仕掛けで密室づくりがなされていますが、実現可能性としてはどうなんでしょう?表題の「鍵のかかった部屋」のトリックは本当に可能なんでしょうか?誰かに教えて欲しいです。
本書は密室トリックとその解決にかなりのページを割いているため、本来の主人公である榎本の人となりの描写(泥棒みたいな、とか、胡散臭い、とかで終始している)があまりなくてやや消化不良の感がなきにしもあらずですが、それを差し引いても密室の謎解きとしては

まだこの手法が残されていたのか〜

という驚きに包まれること請け合いです。
とはいっても、自分は密室ものにそれほど精通しているわけではありません。。。エラそうなことを言ってスンマセン。。。








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2011年12月15日

書評355 香納諒一「心に雹の降りしきる」

先週末にその同窓会に行ってきましたよ。結構地元に残っているメンバーが揃っていて、女の子も結婚しているくせにみんな午前3時まで騒ぎまくってすごいパワーでした。
大工、ペンキ屋、木材屋、公務員、、、野郎たちもサラリーマンやっていると会わなそうな職種の面々がズラリで新鮮でしたわ。昔ワルかったヤツが実家継いで社長やっているとか、勉強全然できなかったけれど自治体から表彰される腕前の職人になっていたとか、柔道ハンパなく強かったヤツが県警のお偉方になっていたとか、もうね、ひとつひとつが驚きでしたよ。

28年ぶりだったから、再来年に30周年ということで大々的に招集かける話になり、なぜか地元民でもないのにスタッフ状態になってしまったわ。。。orz


内容(双葉社HPより)
年前に行方不明になった少女の遺留品が発見された。まったく期待せずに捜査を再開した県警捜査一課の都筑だが、数日後、情報をもたらした探偵・梅崎の死体が発見される。梅崎はいったい何を掴んでいたのか? 都筑は足取りを追う……。






曹源寺評価★★★★
「このミステリがすごい!2012年版」で堂々の9位にランクインした作品です。
香納諒一というお方はおそらく、読者を選ぶのではないかと思われますが、多くの著作に共通する「心に傷を負った刑事によるハードボイルドタッチのミステリ」が好きな人には堪らない作品であることは間違いないでしょう。
本書もまた、そんなダメ刑事のお手本である山下県警捜査一課都筑刑事が、角材で殴られ、首を絞められ、ボコボコに殴られて車のトランクに押し込められながらも執念の捜査で複数の事件を解決に導いていく様は、スリルとスピードに溢れた筆致で読者を引き込んでくれます。
ダメ刑事や偏屈刑事を描かせたら右に出る人はいないのではないか(永瀬隼介氏もけっこううまいですね)と言わせんばかりの

屈折ぶりがたまりません。

あぁ、偉大なるマンネリ。だがそれがたまらんのです。
その複数の事件というのが、7年前の少女失踪事件、元新聞記者の探偵が死体で見つかった事件、探偵社の社長も死体で見つかった事件、誰かを強請ってホテル住まいを続けていた男が死んだ事件、元県知事の贈収賄疑惑事件、DV夫から逃げ回っている母娘を匿う件、とまあこんなに盛りだくさんで果たしてすべてきちんと終わらせられるのか?というくらい慌しく事件が進行していきます。ですから、クライマックスが二度、三度と続いてくるわけでして、「あぁ、そういえばまだこの事件が残っていたわ」と一息つく暇がないくらいスピーディな展開です。ですから、読むのに疲れます。疲れますが、読了した時の気分は

ちょっと爽やか

であります。
ひとつ難があるとすれば、謎解きが唐突すぎて読者に考えさせていないことでしょうか。もうちょっと伏線張っていたら、このミス2位くらいになってもおかしくないと思います。








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2011年12月09日

書評354 川瀬七緒「よろずのことに気をつけよ」

Facebookで中学時代の同級生に出くわしたら、同窓会のお知らせがやってきましたよ。。20ン年も会っていない人たちばかりでいまからワクワクですが、自分のいた中学校は40名学級が10クラスで400名いましたので、同じクラスや部活動でなかった人たちは全然知らんがな状態ですよ。そんな奴らと再会しても話弾まないだろうし、同じクラスだったヤツがどれだけ来るのか分からんしで、期待と不安が入り乱れてコサックダンスを踊っています。


内容(講談社HPより)
第57回江戸川乱歩賞受賞作
被害者は呪い殺されたのか?
変死体のそばで見つかった「呪術符」とは。殺人と呪いの謎に文化人類学者が挑む!
呪術研究が専門の文化人類学者・仲澤大輔の許へ、砂倉真由という少女が訪ねてくる。彼女の祖父は1ヵ月前に何者かに惨殺されていた。事件後に自宅の縁の下で見つけたという札を彼女は差し出した。札に捺された三人分の血判を見て、本物の呪術符だと仲澤は断言する。真由は驚き、仲澤に事件の真相を暴く手助けを依頼するが――。






曹源寺評価★★★★
「完盗オンサイト」と並び、今年度の乱歩賞を受賞した作品です。どっちが良かったかというと、本書の方ですかね。こちらのほうが話のテンポやストーリー構成、登場人物などの面で一枚上手だったような気がします。
なぜ犯人は相手を呪い殺すつもりだったのに殺人を実行したのか?という難しい謎に迫っていくのですが、真相に迫っていく過程はなかなか読み応えがあります。また、周辺の人物についても個性的なプロットが良く出ていて、読む人を惹きつけるテクニックがあると思います。
事件の真相については、何十年も呪い続けるエネルギーの源泉とやらは一体どこにあるのか?とワクワクしながら読みましたが、なんだか少し拍子抜けな気がしないでもないです。人を恨み続けるって普通の人にはかなりエネルギーが必要なのではないか?と思いますが、その理由がこれっていうのはどうなんですかね。
しかし、特に主人公の仲澤大輔は今後も活躍してくれそうなキャラクターですね。もう少し毒があっても良いのかもしれませんが。
それにしても、乱歩賞については巻末に必ず審査員による評価がついてくるのですが、今回はみんな結構辛辣でした。本作については

京極夏彦氏がかなりダメ出し

していてワロタwww。そりゃあ呪術に関してはセンセーの右に出る人はいないでしょうに。仲澤大輔を京極堂こと中禅寺秋彦の域に持ち上げるためには、著者自身の修行が必要になるかもしれませんが、せっかく呪術関連で受賞したわけですから、そこは磨き上げてさらに上を目指していただければ読者としてもうれしいです。








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2011年11月18日

書評350 玖村まゆみ「完盗オンサイト」

ブータン国王夫妻が来日されていて、イケメン夫婦ということで報道が過熱していますが、なんだかワイドショー的で嫌だなあと感じているのは自分だけでしょうかねえ。
晩餐会に出席せずに政治資金パーティーを優先させた一川防衛大臣などは責められて当たり前ですが、こうした時だけブータンという国を採り上げるのは、ちょっと違うのではないかと。
つまり何が言いたいのかというと、もっと普段から海外の話題を採り上げてくれませんかねえということです。印象操作など無用ですが、あんなに日本のことを気にかけてくれる、メンタリティの近い国なら、こちらももっと浸透させたいなあと思うわけです。台湾とかトルコとかブルネイとかインドとかポーランドとか、親日国ならいっぱいありますから。

内容(講談社HPより)
第57回江戸川乱歩賞受賞作
どこまで真剣? ホントにできるの? 550歳の人質を皇居からいただいちまえ!
報酬は1億円。皇居へ侵入し、徳川家光が愛でたという樹齢550年の名盆栽「三代将軍」を盗み出せ。前代未聞の依頼を受けたフリークライマー水沢浹(とおる)は、どうする? どうなる? 不気味な依頼者、別れた恋人、人格崩壊しつつある第3の男も加わって、空前の犯罪計画は、誰もが予測不能の展開に。
最後に浹が繰り出す、掟破りの奇策とは?
アイデアは馬鹿馬鹿しく、動機は不条理。特異な才能の出現を感じた――<東野圭吾氏>






曹源寺評価★★★★
第57回の江戸川乱歩賞受賞作のひとつです。乱歩賞というのは推理小説作家への登竜門ということで長年の伝統があり、毎年受賞作を楽しみにしております。しかーし、本書は果たしてミステリなのか?という素朴な疑問が持ち上がります。
「なぜ」というストーリーがあまりないんですね。いや、あるんだけどなんというか重々しい殺人だとか逃亡だとか謀略みたいなものが一切ないので軽く感じてしまうのでしょうか。むしろ冒険モノとかファンタジーモノといった趣です。いや、一応「盗む」というストーリーがあるから「クライムノベル」と呼んで差し支えないでしょうか。でも、これを乱歩賞にしてしまった選考委員はどうなのよ?
といっても、受賞作にはいつもいつも辛らつな評価が巻末に掲載されていますが、今回は一層厳しい評価がそこには載っていましたわ。「前置きが長い」とか「ゼネコングループのトップがこんなのってありえねー」とかいろいろあります。
本書のキモは「なぜ主人公の水沢浹は皇居に侵入して盆栽を盗むと決意したのか?」という点でしょうか。そこにある仕掛けがなかなか洒落ていて、思わず

「なーるほど」

と叫んでしまう鮮やかさがあります。選考委員は恐らく、こうした奇想天外な展開に膝を打ったのではないかと想像します。
乱歩賞はその内容にあら捜しをすると結構いろいろ出てくるのですが、そうした批判を受けつつも、それ以上のパワーで相手を打ちのめすものがあればデビューは可能であるということを知らしめた意味で、本書は新しい地平を開いたと言っても良いのではないかと思います。








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2011年11月08日

書評348 神山裕右「炎の放浪者」

本日の日経新聞1面横に、本紙論説委員長芹川洋一氏のTPPに関する論説が掲載されています。タイトルは「国を開かないでどうする」。なかなか刺激的ですね。
っておいっ、日本は鎖国でもしてんのか?ナナメ過ぎて笑えるレベルですね。内容もお粗末です。
このTPPに関する議論をあちこち読んでみて思うのは、「自由貿易」や「第3の開国」といったフレーズの裏側にある、「国としての主権」を問わざるをえないほどの譲歩(というか放棄)であります。すなわち、TPPはネガティブリスト方式ですから、「これとこれはダメ」ということはできますが、言わないものについては基本的にFreeとなります。後になって「やっぱりこれはダメ」というのができないわけです。また、「これは自由貿易の妨げになるから排除ね」といわれて「いやこれは安全の問題から国内ではこういう法律ができているのでダメです」と切り返しても、「No!国際法廷に訴えるからそのつもりで」とやられて最終的には敗訴→自由化という流れになるケースが圧倒的に増えると思われます。
(最も恐れるのは、BSE牛や遺伝子組み換え食品などが自由貿易の名のもとに大量流入することでしょう。検疫なんて名目だけになってしまいそうです)
つまり、「日本としては国益を考えてこういう法律を作っているのだろうけれど、TPPに参加したからには無しだよ」と言われても受け入れろと言っているに等しいわけです。
主権侵害というか、不平等条約というか、TPPはそこまでやるわけですから、自由化するメリットがどこにあるのかと糾したくなるわけです。貿易は「自由化」ではなく「公正化」(=フェアトレード)が正しい姿ではないのかと、マジで思う今日この頃です。


内容(講談社HPより)
帰るべき場所のために戦う人々に捧げる物語。
14世紀初頭、端麗王フィリップ四世が統治するフランス。パリに暮らす鍛冶屋ジェラールは、ある日突然、妻と共に投獄される。無実の罪を訴える彼に王の腹心が出した解放の条件は、神殿騎士団逮捕直前に失踪した、一人の神殿騎士を探し出して捕らえるというものだった。妻を囚われたジェラールに選択肢は無く、わずかな手がかりを頼りに、謎の騎士を追う旅に出る――。
妻を救うため、男は理不尽を受け入れ、旅に出た。幾多の苦難を乗り越え、使命を果たした彼が最後に見たものは――。
江戸川乱歩賞作家・神山裕右の才能がついに放たれた、慟哭のサスペンス。






曹源寺評価★★★★
えー、「カタコンベ」で最年少の江戸川乱歩賞を受賞した神山氏ですが、その後「サスツルギの亡霊」を上梓してから、とんとご無沙汰していました。氏は一体今まで何をしていたのでしょうか?
「カタコンベ」が洞窟モノで、「サスツルギ〜」が南極モノという、ちょっと変わった舞台でしたので、新たなジャンル開拓か?なんて思っていたのですが、本書はなんと中世のフランスが舞台ですよ。ちょっとがっかり。
それでも、なかなか読み応えのある内容でした。主人公のジェラールはイスラム教徒の父を持つ「混血児」のため、さまざまな迫害を受けてきた。そのジェラールが神殿騎士アンドレを探す旅に出るというストーリーですが、決闘シーンや騙し騙されの展開などはなかなか読む人を惹きつける内容に仕上がっています。浅学にして当時の宗教的背景など分からない自分でも、キリスト教とイスラム教の対立やユダヤ人迫害などの歴史が散りばめられていて、でもそれは読むのに苦痛ではなく、作者の筆力の賜物ではなかろうかと思われます。
でもね、面白いんですが何かが欠けているように思うのですよ。それは一体何なのか。人物描写よし、ストーリーよし、人間関係よし、時代背景よし。あれ、結構いいじゃない。おかしいな。
ん?そうか、これだ。

ラストのあっさり感だ。

なんだか非常に大事な場面のはずなのに、とてもあっさりし過ぎていて「あれ、終わっちゃったよ」みたいな感じ。
それももうひとつあった。

感情移入できない

というやつだ。こればっかりは設定からしてしょうがないような気がしますが、イスラム教徒でもなくキリスト教徒でもない、ましてやユダヤ教徒でもない自分(を含む大多数の日本人)の持つ宗教感覚が、イスラムとキリストの間で揺れ動く主人公の気持ちを推し量ることなどできるわけもありません。
まあ、中世のヨーロッパなんでそのへんは割り切って読むしかないですね。








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2011年10月26日

書評346 今野敏「化合」

電子書籍市場が盛り上がり始めて、2011年は「電子書籍元年」などと持て囃されました。しかし、市場は果たして本当に盛り上がっているのでしょうか?
シャープは電子書籍端末「GALAPAGOS」から撤退(完全撤退ではないみたい)、ソニーも専用端末「Reader」の販売がイマイチということで、媒体はスマホに軍配が上がったかのような印象です。
では、中身の方はどうでしょう?未だに規格が統一されておらず、売れ筋コンテンツも電子化されず(京極夏彦氏みたいな例はホントに稀)で、版元さんよ本当にやる気あるの?ってな感じですね。
そんな折、ついにAmazonが本格参入開始か?という記事が出ましたね。
“黒船”キンドル襲来に戦々恐々 アマゾン、電子書籍で日本参入
amazonサイトでは、著作者が版元の力を借りずに自力で電子書籍をリリースすることができるようになるみたいです。出版業界オワタね。


内容(講談社HPより)
筋書きで真犯人は見つからない。
「落ちるな。必ず証拠を見つけ出すから」
何度でも足を運ぶ。それが刑事の誇り。
時は1990年、科学捜査の夜明けを迎えようとしていた。
板橋区内の公園でイベントサークル主宰者が刺殺された。乱れた男女関係、バブル期の借金を取り立てる金融屋、男が執着して通った六本木のキャバクラ嬢……。
スピード解決を目指すエリート検事は容疑者を固めた。検事主導の捜査本部に、若き警視庁捜査一課刑事は抗えるのか。






曹源寺評価★★★★
最近の今野センセーは読みやすさが増す一方で、なんだか突っ込みどころ満載の作品が多かったように思います。本書もよくよく考えると「これ、変じゃね?」的な場面に出くわすことがあります。本書の場合は(ややネタバレ)「どうして被害者はこの時間にこの場所にいたのか?」という基本的な捜査事項が、なぜか後回しにされてしまい、捜査を主導する検事に逆らえずに別の筋読みをされてしまうという内容です。
だから普通は勘取りでそういうのからツブすから、謎として残るということは

警察ではありえないんじゃね?

となるわけです。
それでも今野センセーが絶大な人気を誇るのは、なんといっても「主人公のキャラが立っているわけでもないのになんだろうこの臨場感」といった評価や「人間と人間のぶつかり合いがストーリーの中にまぶされていて深い」「一気読みさせるこのテンポのよさはハンパない」などに代表される、ストーリーテラーとしての実力ではないかと思います。
自分も一気読みでした。あっという間の2時間、ムダのない作りこみには恐れ入りました。
ところで、本書のタイトルはなぜ「化合」なのか?ネットの辞典では『[名](スル)2種以上の元素が化学反応を起こして結合し、新しい物質を生じること。』とありましたが、じゃあ本書では何と何が化学反応を起こしたの?うーん、良く分からん。自分はてっきり「化かし合い」のことかねえと思っていたのですが。
それに、主人公の菊川って聞いたことがあるような・・・と思っていたら「ST」シリーズの菊川吾郎じゃねーの?それに1990年ということは、ST誕生前の菊川ってことね?
ググってみたら本当だったわ。舞台が90年でなければならない理由が、まだDNA鑑定が不十分で証拠として正式採用されていない時代という設定らしいんですね。確かに、検察の「起訴主義」とか「自白偏重主義」とは相容れないわけですから、90年に設定しなければならないわけです。でも、今野センセーの描く90年はバブルがもう完全に崩壊しているみたいでしたが、実際には90〜91年くらいはまだズタボロではないですね。不動産やノンバンクがごろごろ斃れるのは95年くらいからでしょうか。90年なんてまだバブリーな人がいっぱいいましたね。そういう意味では、90年という設定に納得はできても、内容にはちょっと???マークがついてしまいました。









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2011年10月04日

書評342 垣根涼介「月は怒らない」

学習院大学の岩田規久男教授がある講演で70分ばかりお話されていたのを聴きに行きました。
教授曰く「復興増税はするな」
曰く「20〜30兆円の復興国債を発行し、日銀に同額の買いオペを実行させろ」
曰く「国債発行は将来世代への負担増加にはつながらない」←ココ重要!
曰く「実質金利が相対的に高くなるので円高になっている。まずはデフレを解消せよ」
曰く「ハイパーインフレが怖いなら、財政規律をしっかり取ればいいだけの話」
うーん、真っ当すぎて感動しました。
国債発行は将来世代への負担増につながるから、将来へのツケを残さないためにもいま増税すべきだ、という理屈がまかり通っています。
逸れに対して自分は「いや、1,000年に1回の大災害なんだから、極論を言えば1,000年かけて将来世代が負担してもいいんじゃないの?」という理屈で対抗しようとしていたのですが、そうではなかったです。「国債の引き受け手が国内(の機関投資家)であれば、その債権者である日本人に配当利子がつくのだから、負担になるというのは間違い。これが国外の引き受け手であれば話は違うが、今は国内で消化できるのだからやればいい」というのが正しい解釈でした。

昨今の増税論議など一蹴する勢いの岩田教授を自分は断然支持します!


内容(集英社HPより)
ミステリアスな女と男3人の四角関係の果て
化粧もしない。服も地味。美人でもない戸籍係の女にどうしようもなく魅かれていく3人の男。その理由は? 男たちの視点を通して、女の正体が徐々に焙り出される。人間の繋がりの意味を問う挑戦作。






曹源寺評価★★★★
垣根氏にしてはやや平坦な小説と言えるかもしれませんが、じっくり読むとかなり哲学的というか心理学的というか、いろいろと考えさせられるお話に仕上がっていて結構楽しめました。
舞台は東京・吉祥寺です。吉祥寺ですが市役所戸籍係の女である三谷恭子の家は恐らく三鷹市下連雀6〜7丁目あたりでありましょうか。吉祥寺駅から吉祥寺通りを南下して徒歩25分くらいかかる場所と推測されます。
同じ吉祥寺に住む大学生の弘樹と、たまたま市役所に立ち寄ったことがきっかけで付き合うようになったチンピラ(というか金融業というかサルベージ屋というか)の梶原、それに市役所前の派出所に勤務する警察官の和田。この3人が恭子という謎多き女に惹かれてしまうわけですが、恭子は3股かける(実際には二股ですが)んですわこれが。まあ、当然バレるんですが、この辺のストーリーはあくまで伏線というかおまけみたいなものでして、恐らくメインは「人と人が惹かれあうために必要なものは何か」かもしれません。あるいは「心の奥底に潜んでいる何かが相手を真のパートナーとして認めうるのではないか」といった仮説だったりするのかもしれません。その何かがなんなのかは分かりませんが。
本書ではこの3人の男が交錯しながらお互いに自分の立ち位置を見つめなおします。さらに、毎週日曜日に井の頭公園の池でカメにえさをやり続けている老人・オオキドという人物が登場します。

この老人との会話が実にいいですね。

これがなかったらまったくつまらない三文小説ですが、このおかげでかなり引き締まった内容になっていると思います(ただ、このオオキドと恭子の会話を横で聞いているホームレスの男というのが登場しますが、この会話を聞いているだけの存在というなんとも間抜けな設定です。まあ、オオキドが短期記憶障害という病気なのでオオキドを主体に書くことができなかったためと思われます)。
ラストの方の会話が秀逸です。

オオキド「失礼ですが、どうしたんですか、その傷」
恭子「ちょっと、転んでしまって」
オオキド「で、ちゃんと立てましたか」
はい、と元気よく彼女は答えた。

前段がないと何のことやらさっぱり分からない会話ではありますが、この会話こそが本書のキモであるかもしれません。恭子もおそらくはオオキドとの会話のなかで、自分自身の中にあった迷いや逡巡が解消されたのだと思います。だから、このラストはそうした迷いを吹っ切ることができたのかどうかを問うたものでありましょう。
自分も酒飲んで酔っ払うとこうした形而上学のような話しっぷりになることがありまして、周りからは「ウザイ」と思われているようです。たまに理解者がいるとうれしくてエスカレートしますが。だから、こうした会話に隠された真の意味を探すといった作業は嫌いではありません。








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2011年09月21日

書評339 古賀茂明「日本中枢の崩壊」

すんごいねえ台風。
首都圏直撃は何年ぶりだろうか。震災の時は帰宅難民になって徒歩で帰ったけれど、今日は会社の近くでのんびり復旧を待つことにしました。
地震、大雨、台風、、、日本はなんか試されていますな。とりあえず生き抜こう。やることいっぱい作っておけば、そう簡単にはあの世に行くまいと思っていますので、まずは仕事をいっぱい入れることにしています。


内容(講談社HPより)
「日本の裏支配者が誰か教えよう」
経産省の現役幹部が実名で証言!!
福島原発メルトダウンは必然だった……政府閉鎖すら起こる2013年の悪夢とは!? 家族の生命を守るため、全日本人必読の書
経産省が握りつぶした「東電処理策」を巻末に全掲載
発電会社と送電会社を分離する発送電分離。このテーマについて本気で推進しようとした官僚が何人かいた。あるいは核燃料サイクルに反対しようとした若手官僚もいた。しかし、ことごとく厚い壁に跳ね返され、多くは経産省を去った。私も十数年前、発送電分離をパリのOECDで唱えたことがあるが、危うく日本に召喚されてクビになるところだった。その理由とは何だったのか――。――<「序章」より>






曹源寺評価★★★★
テレビに講演に引っ張りだこの古賀茂明氏ですが、理路整然とした語り口や誠実な受け答えはテレビ向きなのかもしれませんね。頭の良い人という印象は誰もが持つのではないでしょうか。
そんな古賀氏を一躍有名にしたのが本書であります。やはり読まねばと思い、買ってしまいました。
古賀氏の主張は「省益で動く官僚を、国益で動く官僚にせよ」という根幹があり、そのために「民間からも登用できる回転ドア制度」を導入したり、「労働基本権を導入する代わりに身分保障をなくす」仕組みにしたり、と公務員改革制度の導入にかなり意欲的です。
しかし、先日のニュースではついに辞表を出したとか出さないとか。こういうニュースを見ると、つくづく

日本人は内部からの変革ができない民族

だなあと思います。
「公務員は身分ではなく、職業である」という、当たり前の理屈でさえも、霞ヶ関では通用しないという時代錯誤な感覚。「人材の墓場」とはよく言ったものです。古賀氏にはぜひ外部から(=政治家として、ということになりましょうか)改革を推進していただきたいと思います。
古賀氏の主張すべてに諸手を挙げて賛成とは思いませんが、「増税は愚策」とか「東電は解体」とか「公取委は強くあるべし」とか「壊す公共事業を推進」などといったアイデア・主張はごもっともであります。政策で競い選ぶ政治家、という観点からすれば、民主党の議論のなさ、自民党の旧来すぎる主張などと比較して至極斬新であります。
政治の話はSNSなどでもタブー視されがちですが、もっと国民的議論ができる環境に早くなってもらいたいものだなあと痛感します。








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2011年08月16日

書評332 今野敏「警視庁FC」

この前の日曜日、夕方の西の空に放射線状に縞模様を作った雲があって、今流行の「地震雲」かと思っていたら、満月も赤くなっていて怖かったわ。
地震を感知する「みゆ吉」さんのブログもなんだか怪しげな更新をしているし、こりゃもう一回くらいデカイのが来るんじゃないすか?

ホント、気をつけなきゃ。。。


内容(毎日新聞社HPより)
警視庁地域部地域総務課の楠木が言い渡された特命「警視庁FC」。FCとは“フィルム・コミッション”の略で、映画やドラマの撮影に対して、警視庁がさまざまな便宜を図るという。
「刑事なんてまっぴらだ」。そんな楠木にとって安全で簡単な仕事とも思われたが、警備についた撮影現場で、謎の変死体が見つかる。警察のウラとオモテ。虚偽入り乱れる数々の証言と化かし合い。そこには、組織をも巻き込んだ壮大な企てがあった−−。






曹源寺評価★★★★
こ、これは・・・これはかなり奇作というか怪作というか、

Strangeな小説

であります。世に出ている警察小説のなかでもここまでどんでんな作品はなかなかお目にかかれない、警察小説の旗手と呼ばれる今野センセーだからこそ描けたのではないか、そんな作品です。
フィルム・コミッションは自治体が町おこし・村おこしの目的で映画ロケを誘致する活動ですが、すなわちFCは地方警察本部が手がける事案でもあります。東京、すなわち警視庁がFCのお手伝いをするということ自体はあまり現実的ではないかもしれません。その他、交通機動隊や本庁の総務課とか四課(いわゆるマル暴関係)の刑事とか、さまざまな部署から応援として集まったFC室という存在そのものもなんとなく胡散臭いわけです。さらには、主人公の楠木がまるでやる気のない人物で、事件にかかわるなど真っ平御免という体たらく。そのくせ、周りからは「切れ者」という評価がついて回ってくるという、まあこの辺はなかなか面白い設定ではありますが、こうした前提条件が非現実的すぎて最初は戸惑います。
FC配属メンバーが映画ロケ地の警護を行っていたところ、事件が発生する。映画の助監督が首を絞められて殺されたというのだ。目撃者はおらず、殺人の影には暴力団の関与やプロデューサーの失踪も疑われている。おまけに関係者の証言もあいまいで、謎が謎を呼ぶ展開です。
ネタバラシはしませんが、3分の2くらいまで読み進めると話の大筋は見えてきます。ラストはなかなか推理しにくいかもしれませんが、どうなんでしょう、これって・・

禁じ手だったりしませんか?

夢オチ並みとまでは言いませんが、この手のオチというのが果たして本当に正しく評価されるべきものなのか、自分には分かりませでした。








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2011年08月12日

書評331 貴志祐介「ダークゾーン」

軽井沢に行くと必ず買ってくるのが「よなよなエール」であります(ホームページは多少ウザイ)。エールビールはフルーティな香りに加え、どっしりした味わいがあって大ファンになっています。近所でも売っていますが、エビスビールより高いので普段買うにはちょっと躊躇します。お土産だから買う、見たいな感じでしょうか。
だから、逆にスーパードライみたいなビールをおいしいと思えなくなっています。濃い味系のビールのほうが嗜好に合うということでしょう。
でも、これだけ暑い日が続くと、350mlなんて一気飲みですから、よなよなエールはもったいない!1本目はフツーのビールにして、2本目からよなよなエールにしています。
最近はお店でも取り扱うところが出てきていますので、味のわかる人とビール談義でもしながら飲みたいですね。

内容(祥伝社HPより)
神の仕掛けか、悪魔の所業か。
地獄のバトルが今、始まる!
戦え。戦い続けろ。
各賞撃破!
1997年日本ホラー小説大賞、2005年日本推理作家協会賞長編賞
2008年日本SF大賞、2010年第1回山田風太朗賞
エンターテインメント界の鬼才が贈る最新長編!
「覚えてないの? ここ、端島(はしま)じゃない」
その名前に触発されて、いくつかの情景が意識に現れようとした。しかし、その映像はぐにゃりと歪(ゆが)み、闇の中に溶け去ってしまう。まるで、この島に関する記憶は、絶対に思い出してはいけない禁忌(きんき)であるかのように。
「そうか……そうだった。
俺も、たしかに、ここへ来たことがある」
長崎(ながさき)市の沖合にある、遺棄(いき)された海底炭坑の島――端島。コンクリートの護岸に囲まれて、建物が密集した独特の外観から、軍艦島(ぐんかんじま)という通称で知られている。だが、何のために、こんな島へ来たのかは、思い出せない。まして、なぜ、ここで戦わされているのかは、見当もつかなかった。(本文より)






曹源寺評価★★★★★
もはやホラー界の巨匠になりつつある貴志祐介センセーですが、こりゃまた奇天烈な作品を出してきましたよ。長崎県に浮かぶ廃墟の島、端島。通称名は「軍艦島」ですね。あの内田康夫センセーが「棄霊島」というタイトルで軍艦島を舞台にした殺人事件を作品にされていますが、本書は場所が軍艦島でも内容は異次元の話です。すなわち、これ人間将棋であります。
元棋士で夢破れてタダの人になった主人公の塚田裕史は、眼が覚めると軍艦島にいた。そこには18人の異形の味方と、同じく18人の敵がいて、赤いオーラを放つ赤軍と青いオーラの青軍に分かれて肉弾戦を繰り広げるというゲーム(!?)の中であった。18人は塚田の知人・友人であるが、いずれも腕が鎌のようになっていたり、空を飛んだり、毒をもつ触手がついていたりと、特徴ある姿に形を変えていて、塚田本人は4つの眼を持つ王将(キング)であった。相手の青軍もほとんどが知人であり、青の王将もまた友人であった。7戦のうち4勝すれば生き残れるが、最終的に敗れた方は消滅するというルールになっている。本書のいたるところに登場する「戦え、戦い続けるのだ」というフレーズがちょっとウザイですが、島を舞台にして王将の指示で戦闘が開始されます。
それぞれの駒(というか戦士というか)は将棋(というよりはチェスに近いか)のようにAはBより強いがCに弱く、BはCに強いがAに弱い、みたいな関係が成立しているため、駒の配置や戦い方に工夫がないとやられてしまいます。
なるほど、その描写は

まさしく人間将棋。

戦いのシーンは将棋なんてもんじゃなくかなりグロいですが、さりげなく描くのが貴志センセーの真骨頂でもあります。「満員電車の中で全員が刃物を振り回している」なんて表現は、普通に怖いです。
しかし、なんだろうねぇこの違和感。章立てが「第1局」から「第8局」まであって、その間に「断章」がそれぞれ入るんですが、なんだかうまくリンクしていないような感じです。ラストも「あれっ?」って感じです。うまく言えませんが、「最初からこの結末を用意していたのか?」というちょっとした疑問や、貴志センセーらしくない中途半端感というか。もうちょっと違う結末を期待してしまったために少し残念。ただ、「悪の教典」もそうでしたが、なんだか

異様に後を引く

んですよね、貴志センセーの作品は。「青の炎」も後を引きましたね。そう、青の炎に近いかな、読後感は。読み終わってからいろいろなことを考えさせられるようになるのが貴志作品の良さでもあります。ファンなら読むべし。ファンじゃなければほかにも良い作品はあるでよ。








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2011年07月08日

書評322 今野敏「エチュード」

毎年恒例のブックフェアを視察に、お台場のビッグサイトに行ってきますた。
例年、初日は芋洗い状態なんですが、今年はちょっと人の入りが悪いです。となりの電子出版EXPOのほうが人が入っていました。

NEC_0074.JPG

ついにPANASONICも電子書籍デバイスに参入ということで、いよいよ本格化するかなあと思いながらも、じゃあ昨年の「電子書籍元年」って何よ?ということにもなりまして、盛り上がりそうで一向に盛り上がらない電子書籍市場は今年コケたら来年はないんじゃないの?とちょっと心配になりましたよ。
でもまあ、こういう記事も出ているのでちょっとは安心か。
日本経済新聞2011/7/3朝刊
新潮社、講談社、学研ホールディングスの3社は今後発刊する新刊書をすべて電子化することを決めた。新潮社は今年2月に出版した新刊を8月に電子化して配信を始める。講談社や学研ホールディングスも作家との交渉に入った。3社合計で月に400点以上が電子化される見通し。インターネット利用者を取り込んで書籍離れに歯止めをかける。


内容(中央公論新社HPより)
繁華街で相次いで発生した通り魔殺人事件で、警察は誤認逮捕を繰り返す。警視庁捜査一課・碓氷弘一は心理調査官・藤森紗英を相棒に巧妙な「犯人すり替え」トリックの真相に迫る。






曹源寺評価★★★★
現行犯逮捕なのに誤認逮捕?というトリックを軽快かつ鮮やかに書き下ろしたのがこの「エチュード」です。今野センセーの相変わらずのサクサクぶりに、2時間あっという間の読了でした。特にラスト3分の1くらいからは展開が非常にスピーディで、心理調査官藤森嬢のプロファイリングはなかなかのものだと思います。また、主人公碓井や脇を固める刑事(特に「梨田洋太郎」のあだ名が「洋梨」だもんね。こういうの好きだなあ)のキャラ造型はいつもながら感心させられます。こうした要素が絡まりあって昇華しているのが今野作品の人気の秘密ではないかと、個人的には思います。
しかし、本書はこうしたすぐれたストーリーとは別に、

突っ込みどころが満載でもあります。

実際にこんなトリックが完結するのか?という素朴な疑問にはじまり、目撃者が多数いるはずなのに何で他の目撃者探しをしないの?とか、
現場に残された凶器の指紋を調べれば誤認逮捕ってすぐに分かるだろ常考
といったツッコミがどうしても頭から離れません。
そのへんのまどろっこさが却って読書ペースを速めさせる(つまり、はやく続きが読みたいと思わせる)要因になっているとしたら、今野センセーは稀代の悪人ということになりましょうか。








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