ミステリ読みまくり日記 〜書評(ネタバレあり)

通勤時間に読む、日本のミステリとその他小説をとりあえず書き留める
 

カテゴリー:ま行の作家

2017年02月14日

書評781 宮部みゆき「希望荘」

こんにちは、曹源寺です。

本日(2/14)、東芝が第3四半期の決算発表を延期することを発表しました。すでに債務超過ではないかと噂されており、法的整理も秒読みなんて言われていますが、真偽のほどはさておき、自分が社会人になった四半世紀前を見渡しますと、なんと多くの有名企業が潰れたり大リストラしたり外資の手に落ちたりしたものかと、なんともいえない気持ちになります。
2000年以降の大型倒産だけを見ても、
金融:千代田生命保険、協栄生命保険、東京生命保険、ライフ、武富士、ロプロ(日栄)ほか
建設:日産建設、青木建設、殖産住宅相互、佐藤秀、ダイア建設、穴吹工務店ほか
住宅:セザール、ゼファー、ダイナシティ、アーバンコーポレーション、モリモト、日本綜合地所ほか
製造:赤井電機、新潟鐵工所、日本重化学工業、福助、山水電気、エルピーダメモリほか
流通:そごう、はるやまチェーン、第一家庭電器、マイカル、マツヤデンキほか
運輸:日本航空、スカイマーク、第一中央汽船
サービス:第一ホテル、ノヴァ、55ステーション、インデックス、ラ・パルレほか
書ききれませんわ。

倒産ではありませんが、製造業ではものすごい勢いで勢力図が変わりました。
日産自動車(仏ルノーグループへ)とか三菱自動車工業(脱輪攻撃→大規模リコール→リコール隠しで大変)とか三洋電機(パナソニックの子会社に)とかシャープ(鴻海精密工の傘下へ)とかアイワ(ソニーと合併)とかケンウッド(日本ビクターと合併)とかミノルタ(コニカと合併してカメラはソニーへ)とか
こっちもきりがないわww

IBMに入社してもパソコン事業部にいた人は切り離されて今LENOVO社ですし、ソニーだってVAIO事業は別会社になっています。何というか盛者必衰の理とはまさにこういうことを指すのでありますね。

こんな話を娘にしていたら、「要するに、大企業に頼らずに生きていければいいのね」ということで、大学に入ったら資格を取るらしいです。日本という国がある限りは大丈夫という資格でも取ってくれれば親としては言うことありません。


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内容(小学館HPより)
探偵・杉村三郎シリーズ、待望の第4弾!
その部屋には、絶望が住んでいた――。
宮部ファン待望の14か月ぶりの現代ミステリー。特に人気の「杉村三郎シリーズ」の第4弾です。
本作品は、前作『ペテロの葬列』で、妻の不倫が原因で離婚をし、義父が経営する今多コンツェルンの仕事をも失った杉村三郎の「その後」を描きます。
失意の杉村は私立探偵としていく決意をし、探偵事務所を開業。ある日、亡き父・武藤寛二が生前に残した「昔、人を殺した」という告白の真偽を調査してほしいという依頼が舞い込む。依頼人の相沢幸司によれば、父は母の不倫による離婚後、息子と再会するまで30年の空白があった。果たして、武藤は人殺しだったのか。35年前の殺人事件の関係者を調べていくと、昨年に起きた女性殺人事件を解決するカギが……!?(表題作「希望荘」)
 表題作の他に、「聖域」「砂男」「二重身(ドッペルゲンガー)」の4編を収録。


曹源寺評価★★★★
杉村三郎シリーズがなぜかこじれて「探偵・杉村三郎」となってしまいました。このことに違和感を持つ人は少なくないのではないかと思いますが、面白ければ文句は言いますまい。
宮部みゆきセンセーが描く探偵もの、人探しものは好きなんですよ。何と言っても「火車」の圧倒的な存在感がありますからね、読んでいくのが本当にワクワクします。他のセンセーと何が違うのかなあと考えてみたのですが、おそらくは依頼人、捜索人、探偵、そして関係者、

それぞれにドラマがあって真実が見えた時にすべてつながる

一本の線ができあがるような感覚。人間臭さというかちょっとだけドロッとしたような裏話というか、そんな背景を見せつつも最後は筋の通ったラストに仕上げていく。それが多少陰鬱なラストであったとしても、すべてが救われないかというとそんなことはない。そして、主人公も読者も推理する「おそらくはこういう見立て」が、実は全然違っていて、それでもすべてがすっぽりとはまっているというストーリーテリングはものすごい技巧であったりするわけです。ちょっと抽象的なところもありますが、そんな感じです。
本書はこれに主人公の杉村三郎が持つ、実直で人当たりの良い人物が行う探偵という仕事が、これまでの探偵像とは異なる雰囲気をかもし出しているのもいいですね。
本書は連作短編4作品(中編に近い)が収録されていますが、個人的には表題の「希望荘」が良かったです。あと「砂男」も。砂男は前作「ペテロの葬列」で妻子と別れた後の杉村が、どのようにして探偵事務所を開くまでになったのかを事件とともに綴っていますので、本来であれば本編が最初にこなければいけないはずなのです(あえてそうしていないところが宮部みゆきセンセーです)。
宮部センセーの探偵モノのシリーズというのがひとつくらいあっても良いのではないかと思いますので、ぜひこの杉村三郎シリーズを続けていただきたいと思います。切なる願いです。





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2017年02月10日

書評780 前川裕「イアリー」

こんにちは、曹源寺です。

昨日ニュースになった「信長読本」騒動ですが、なんかもうすごいですね。
「信長読本」ミスだらけ 岐阜市は三重県?(2/9岐阜新聞Web)
岐阜市が編集に協力した歴史雑誌「岐阜信長 歴史読本」に地図の表記や年号の間違い、誤字脱字など約30カ所もの不備があることが8日、分かった。市は「これほどたくさんの間違いがあるのは遺憾」として、発行元の出版社「KADOKAWA」に対応を求めている。
史跡・観光スポットを紹介する地図で、岐阜市が三重県、羽島郡岐南町と笠松町が愛知県と記載されていた。ホテル名の間違いや「廃グレードホテル」との記述もあった。「美濃人物伝」では人物名と紹介文が入れ違い、金華山のコーナーでは昭和4年が1828年と記してあった。
岐阜市教育委員会は校正補助をしたが、確認時とは違う状態で印刷された箇所もあった。KADOKAWAに対し「十分な確認を怠っており大変残念」とコメント。図書館や学校向けに購入した240冊は「この状態での配布は考えられない」としている。
同社の担当者は取材に「連絡いただいた人には正誤表を送る。現段階での回収は考えておらず、重版となれば直すべき所は直したい」と答えた。
雑誌は先月30日に発売。全国の書店で販売されており、すでに2千部近くを売り上げるほどの好評ぶり。


この後、KADOKAWAは刷り直しを表明しています。さすがに30ヵ所のミスは洒落にならなかったわけで。
それにしても酷いですね。出版社がネットの掲示板レベルに落っこちているという現実を目の当たりにしました。「廃グレードホテル」なんて書かれた方はたまったもんじゃありませんし、「三重県岐阜市」とか日本の出版社じゃ考えられないレベルの事故です。校正、校閲が機能していない出版社など無用の長物でしかないと思います。

でも、この手の本は編集プロダクションに丸投げしているケースが大半だろうなぁ。編プロが校閲費用ケチったのかもしれないなぁ。ケチったおかげで契約切られたりしたら可哀相だなぁ。数百万円の損害は間違いないもんなぁ。
など、いろいろと思うところはありますが、KADOKAWAしょうがねえなあという気持ちと、編プロさんがどうか無事でありますようにと願う気持ちが交錯しています。

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内容(KADOKAWA HPより)
大学教授の私が妻の葬儀を終えた夜、自宅のインターホンが鳴った。「奥様はご在宅ですか?」。モニターに映っていた女の姿は、私が外に出たときには消えていた。それから、私の周囲では不審な出来事が続き――。


曹源寺評価★★★★
前川センセーの最新刊はまたしても大学教授が主人公のホラー系小説でありました。ホント好きですね、この設定。ちなみにこれまでの著作のうち、英語のタイトルを整理しておきましょう。
クリーピー:creepy:ぞっとするさま、ぞくぞくするさま
アトロシティー:atrocity:極悪非道、残忍性、残虐行為
ハーシュ:harsh:耳障りな、不快な、ざらざらした
アパリション:apparition:幻影、幽霊、(突然現れる)おばけ
インザダーク:in the dark:暗闇の中
クリーピー スクリーチ:creepy screech:(スクリーチ)恐怖・苦痛などのために)聞き苦しい鋭い叫び声をあげる、キーキー鳴く、
そして本書のイアリー:eerie:不気味な、ぞっとするような
です。英語の勉強になりますね。
今回は前川センセー恒例の「ご近所サイコパス」に加えて、同時進行で大学内の総長選挙に暗躍する黒幕という不気味な存在がクローズアップされてきます。
恒星学院大学教授の広川は妻に先立たれて間もなかったが、ご近所でごみ収集所に男性の遺体が捨てられるという事件が発生する。また、主人が自殺したとされる近所の家にはその妻と思しき女性がいたが、広川は奇妙な違和感を覚える。
広川の勤める大学では総長選挙が控えており、文学部から総長を輩出したい教授たちが策謀を練るが、広川は乗り気がしない。ひとつ違いの石田教授が策略を練るが、広川はどんどんと巻き込まれていくことに。
この総長選挙に暗躍する石田とのやりとりがなんとなくサイコパスっぽくていいですね。小説全体から滲み出るこの薄暗さ、不気味さがなんともいえません。
勤務先で起こっている出来事と、ご近所で起こっている不思議な事件が後半からラストにかけて収束していくのですが、「クリーピー」から読破している自分としてはこのあたりのまとめ方が作品を重ねていくうちに研ぎ澄まされていくのがよく分かります。なんといっても、

ラストの意外性はいままでの作品とは趣を異にしている

ところがいいですね。
本書全体に漂う陰鬱な設定、主人公にしてみれば職場でも家でも安息の場がないという絶望、悪意の渦に巻き込まれていくやるせなさ、そして事件が解決したのに実は何一つ解決していないのではないかと思わせるサイコな人物像。そしてなにより

怖えぇ、という感想で閉じられる読後感。

前川センセーの作品がどんどん面白くなってきました。今後にも大いに期待しましょう。





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2016年12月27日

書評769 深木章子「猫には推理がよく似合う」

こんにちは、曹源寺です。

先日のブログでは、あの池上彰(呼び捨て)がグラフの印象操作をして視聴者を騙したと書きましたが、今度は経済産業省の統計そのものが改ざんされていたとして記事になりました。

経産省、繊維統計を改ざん 請負業者が告発 回答数を水増し、年内に廃止へ (2016/12/26 日経)

経済産業省は26日、繊維製品の在庫量などを調べる「繊維流通統計調査」で長年、実態と異なる数値を記載していたと発表した。40超の品目ほぼ全てで改ざんがみられ、10年以上前の数値がそのまま記載され続け、実際の数値と最大で10倍程度の差が生じた例もある。11月に経産省から業務を請け負う業者の告発があり、不正が発覚した。
同統計は1953年から実施しているが、同省は不正発覚を受け年内で廃止する。政府は統計の精度を高める取り組みを進めているが、同省の対応はあまりにずさん。経産省によると、繊維業の所管部署が調査の回答企業数を水増しし、2016年9月分は有効回答数258社に対し、調査票を配った733社の95%以上が回答したことにしていた。
各項目の数値も調査票が十分回収できていた当時の数値を“横置き”してそのまま使い続けていた。不正開始時期は不明だが、経産省が発足した01年当時の数値のままだった項目もある。
13年4月には、回答が全く得られない項目などで6年かけて数値をゼロに減らすと担当部署で決定。事実を公表せずに修正をしようとしたことになる。同日会見した風木淳参事官は「事態を深刻に受け止めている。事実確認を徹底し、内規に従い早急に関係者を処分する」とした。

(以上)

これを受けて、経済産業省も当該のページで改ざんがあったことを認めています(リンク)。

繊維流通統計は繊維卸の企業に対して繊維製品の在庫量などを調査しているもので、これとは別に製造業者に調査を行っている「生産動態統計」がありますので、比較してみると面白そうですね。どれだけ改ざんがあったのかが分かるかもしれません。

それにしても、政府統計がこんな具合だと、我々は何を根拠にして比較分析すれば良いのかが分からなくなってしまいます。政府統計の改ざんは世に与える影響がでか過ぎますので、当事者は厳罰に処して欲しいと思います。
また、これとは別に、もう調査してもあまり意味のない統計なども見受けられますので、そんなのはとっとと廃止して欲しいです。それと、厚生労働省、農林水産省の統計は発表が遅すぎです。こんだけITが発達しているのになんでこんなに遅いの?というくらい遅いです。普通の人なら役人ってバカなの?と思うレベルです。

先日来、河野太郎議員が自身のブログでさまざまな団体に向けて興味深い感想を述べておられます。河野議員は個人的に好きな方ではありませんが、このメッセージは共感できるというか、ちょっと驚くレベルです。
たとえば、12月23日の「いろいろイロハな皆様へ」というタイトルの書き込みでは、日本年金機構の運営する年金事務所において、ペーパーのファイル管理がアイウエオ順ではなくイロハ順であるところが全体の半分以上あるという衝撃的な暴露がなされています。

役人体質の本領を垣間見た気がしますが、同時に、本当に頭の良い人が公務員になることによる“損失”は計り知れないなあとも思います。自分は公務員にならなくて本当に良かったと今でも思っていますが、世の中的には安定の職場として公務員がもてはやされているのも事実です。
自分はこんなイロハ順のファイル管理を後生大事に続けているような職場は真っ平ごめんですし、これに盲目的に従っている本来なら頭の良い人たちがバカな運用を続けていることにもちょっと憤慨したりします。

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内容(KADOKAWA HPより)
“しゃべる猫”との妄想推理合戦がなぜか現実に!? 猫×本格ミステリ!


曹源寺評価★★★★
2016年の「このミス」で20位に食い込んだのが本書であります。
それにしてもWADOKAWAの紹介が相変わらず雑すぎて草生えるwwwこれだけかよw
深木センセーは現役の弁護士センセーでいらっしゃいますので、かなりリアルな被弁活動の現場を描写していただける貴重な作品が多いです。ただ、それだけにドロドロとした作品が多いのも事実であります。
本書はご多聞に漏れず弁護士事務所が舞台ですが、いきなり猫がしゃべりだすのでこれまでの路線とはかなり異なる内容かと期待させてくれます。
田沼清吉法律事務所に勤務する椿花織は田沼の愛猫であるひょう吉とともに、日中を事務所の中で過ごしている。法律事務所に相談に訪れる人は多種多様で、離婚相談、遺産相続、傷害事件と示談、横領事件、などなどで、半ば隠居状態のおじいちゃん弁護士であってもそれなりに多忙な日々である。このひょう吉が花織と人間の言語で会話します。花織はひょう吉と呼ばずにスコティーという名前をつけます。スコティーはミステリを書く(!)わけですが、その構成にあたって花織と論争していくのが前半のストーリーです。

なんだか話が進んでいるのか進んでいないのか

よくわからんところに突発的に事件は発生します。
後半はこのよくわからん前半部分を解き明かしていく展開になっていて、少しずつですが霧が晴れていくのがとても楽しいです。
こういう仕立て方があるのか、とちょっと驚いたわけですが、前半と後半でがらりとその展開を変えていく手法は本格ミステリの世界ではしばしば見受けられますね。自分は専らジャンルが先鋭化してしまいましたので、なんだかとても久しぶりでした。
読後感も良いですし、猫が好きならなおさら読むべし! ですね。





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2016年10月04日

書評748 前川裕「クリーピー スクリーチ」

こんにちは、曹源寺です。

以前にも書きましたが、日本弁護士連合会(日弁連)という団体がありまして、時折「会長声明」などというわけの分からんリリースをしていることで世間を騒がせているのですが、今回は福井市で行われる人権擁護大会において「死刑制度の廃止を含む刑罰制度全体の改革を求める宣言案」なるものを審議するとしてまたしても世間を騒然とさせています。

分かりやすく言うと、日弁連が死刑廃止を正式に世に訴えるということです。

ちなみに、日弁連は強制加入団体でありまして、弁護士登録した人は強制的に日弁連に加入しなければいけません。これは法律で定められています。

第四十七条  弁護士、弁護士法人及び弁護士会は、当然、日本弁護士連合会の会員となる。

強制加入団体であるにもかかわらず、思想まで強制させようとする非民主主義な団体、それが日弁連。
法を順守するために設立したにもかかわらず、法を自分たちの都合で変えさせようと働きかける団体、それが日弁連。

当然ですが、これに反発する弁護士センセーもいらっしゃるわけで、
日弁連の死刑廃止宣言案に反対 被害者支援弁護士ら声明(朝日新聞10/4)
日本弁護士連合会が7日に福井市で開く人権擁護大会で死刑制度廃止の宣言案を提出することについて、犯罪被害者の支援に取り組む弁護士らでつくる「犯罪被害者支援弁護士フォーラム」が3日、「犯罪被害者の人権や尊厳に配慮がない」などとして採択に反対する声明を発表した。
声明では、弁護士の中でも死刑に対しては様々な考えがある中で、「強制加入団体である日弁連が一方の立場の宣言を採択することは、日弁連の目的から逸脱し、個々の弁護士の思想・良心の自由を侵害する」と指摘。「凶悪犯罪の被害者遺族の多くは加害者に死をもって償って欲しいと考えており、宣言は被害者の心からの叫びを封じるものだ」と批判している。
また、人権擁護大会では委任状による議決権の代理行使はできず、現地に出向いた人しか意思表示ができない。出席するのは約3万7千人の弁護士のうち数パーセントとみられ、声明では、こうした場での宣言の採択にも問題があるとしている。フォーラムの事務局長を務める高橋正人弁護士は「犯罪被害者から弁護士への信頼がなくなり、支援活動がしにくくなる恐れもある」と話した。



気骨あるセンセーもいらっしゃるのは救いですが、日弁連のやり方がなんだか独裁政権のようになっていましてとても香ばしいですね。

死刑の賛否などそう簡単に結論が出るものではないでしょう。欧米では死刑廃止の傾向が強いですが、イスラム圏やアジアでは死刑制度が根強いですし、その欧米も死刑の前に現場で警官が銃をぶっ放して殺しているわけですからある意味死刑ですよ。むしろ冤罪の可能性も高い死刑です。

こんな議論をするくらいなら、いっそのこと弁護士法を改正して
「加害者寄り」の旧・日弁連 と
「被害者寄り」の新しい加入団体(新・日弁連)
を作って、どちらかに加入するように変えても良いんじゃないですかね。そんで、犯罪加害者は旧・日弁連に弁護してもらって、被害者は新・日弁連に訴えてもらう。

なんだか盛り上がりそうで我ながら良いアイデアですわ!

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内容(光文社HPより)
琉北大学の職員・島本龍也は、学生の御園百合菜から指導教授のセクハラの相談を受けた。だが百合菜は、大学内の女子トイレで惨殺死体となって発見される。しかも事件は、獣のような金切り声を現場に残す女子学生連続殺人へと発展していった。かつて猟奇殺人事件を解決した琉北大学教授の高倉孝一もまた、事件の渦中に巻き込まれていく。日常に潜む闇の恐怖が忍び寄る!


曹源寺評価★★★★★
前川センセー自身が現役の大学教授ということもあって、センセーの書くお話はだいたいが大学関係者を主人公あるいは語り部に据えておられます。デビュー作の「クリーピー」がいつの間にか映画化されてびっくりしましたが、続編まで出るとはさらにびっくりです。
琉北大学の女子トイレで次々と起こる殺人事件。犯人は最初に殺害された百合菜にセクハラで訴えられていた教授なのか?という展開だけではなく、この連続殺人事件と並行してストーカー化する大学職員の島本龍也のストーリーという二本が同時進行していくところが本書の見どころではないかと思います。
犯人は誰か、という謎解きの部分はやや(というかかなり)あっさりし過ぎていて前フリも伏線もあったもんじゃありませんので正直言ってあまり面白くないです。
しかし、前川センセーの著作をデビュー作の「クリーピー」からずっと読み続けていた自分としましては、

本作が一番怖い

と思いました。それは何と言っても、センセーの描写力がどんどん進化していて思わず感情移入してしまいそうなほどだったという点が理由です。
ストーリーの出来は「クリーピー」のほうが上かもしれませんが、よりリアルな、読ませる作品としての出来栄えは本書のほうが上ではないかと思います。





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2016年06月10日

書評719 宮下奈都「羊と鋼の森」

こんにちは、曹源寺です。

参院選の季節が近づいてまいりました。
民進党(旧民主党)の新しい選挙ポスターができたそうです。
「2/3をとらせない」 民進党、参院選ポスター発表(6/9 FNNニュース)
民進党は9日、参議院選挙のポスター3枚を発表した。
うち1枚は、「まず、2/3をとらせないこと。」と大きく書かれ、参議院で憲法改正の発議に必要な3分の2の議席を、「改憲勢力」に確保させないよう訴えた。
民進党の岡田代表は「憲法9条改正を、安倍首相は当然考えている。そういう状況を作り出さないことが、最低限」と述べた。(以下、略)


なんともネガティブな目標ですな。
民進党(旧民主党)はこんなことも発表しています。
2016参院選 民進が「マニフェスト」やめます!(6/8産経新聞)
民進党は8日、参院選公約について、従来の「マニフェスト(政権公約)」の表現を使わず「重点政策・国民との約束」との標題にすることを決めた。
党幹部は「政権選択選挙ではないので『政権公約』の表現はなじまない」と説明するが、看板倒れに終わった旧民主党政権のマニフェストのイメージを払(ふっ)拭(しょく)する狙いがありそうだ。岡田克也代表らが15日に記者会見して発表する。
参院選ポスターのキャッチコピーは、改憲勢力による3分の2以上の議席獲得阻止を訴える「まず、3分の2をとらせない」などを軸に最終調整する。


まあ、できないことをできると言って国民を騙すよりはよほどマシかもしれませんが、この2つの記事を読む限りでは、政策的に後退している印象は拭えませんね。そもそも「こども手当ての拡充」とか「保育士の給与アップ」とか「最低賃金1,000円」とか、言っていることはだいたい労働政策や福祉政策であって、経済政策や外交政策がほとんどありません。ないのが民進党(旧民主党)なのでしょう。
みなさんも民進党(旧民主党)の候補者に出会ったら、「経済政策は何ですか?」と聞いてみましょう。おそらくまともな回答は得られないと思います。もし「えーっと、最低賃金を〜」とか言い出したら、「いやいや、最低賃金は労働政策でしょう。聞いているのは経済政策ですよ」と切り替えしてあげましょう。
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内容(文藝春秋HPより)
ゆるされている。世界と調和している。
それがどんなに素晴らしいことか。
言葉で伝えきれないなら、音で表せるようになればいい。
「才能があるから生きていくんじゃない。そんなもの、あったって、なくたって、生きていくんだ。あるのかないのかわからない、そんなものにふりまわされるのはごめんだ。もっと確かなものを、この手で探り当てていくしかない。(本文より)」
ピアノの調律に魅せられた一人の青年。
彼が調律師として、人として成長する姿を温かく静謐な筆致で綴った、祝福に満ちた長編小説。


曹源寺評価★★★★★
2016年の「本屋大賞」を見事に受賞したのが本書であります。本屋大賞の受賞作は人生を豊かにさせてくれる作品が選出されることが多いですね。本書もまたそんな一冊でありました(全然ミステリではありませんがご容赦を)。
高校時代に体育館のピアノを調律する調律師の姿に魅かれて卒業後、専門学校に通い、晴れて調律師となった青年、外村。彼の成長する姿を通じて、読者にさまざまなものを問いかけてくれる内容に仕上がっています。
調律との出会い、調律師になるとの決意、ピアノと向き合うこと、お客の要望とそれを実現する腕前、コミュニケーション、目指すべき場所、調律師にとって大切なこと、などなど。
特に、

音を言葉で表現することの、何と言う難しさよ

確かにそうですわ。「もうちょっとすっきりとした音で」とか「やわらかめで」とか言われても、それをどう調律するのか。ラーメンじゃねえんだよ、と。
まさにタイトルのとおり、羊のフェルトとピアノ線の鋼でできた森の中に彷徨いかけてしまいそうになる主人公。いやあ、調律の世界は奥が深すぎますわ。

で、本書はところどころにグッとくるセリフとか表現があったりします。175ページに素晴らしい描写がありましたので、引用します。

「ピアノで食べていこうなんて思ってない」
和音は言った。
「ピアノを食べて生きていくんだよ」


うーん、と唸る自分がいましたよ。
このセリフにグッときてしまいました。高校生の女の子が言えるセリフではありません。いや、逆に高校生だから言えるのかもしれません。「ピアノ」のところを「(自分の趣味)」に置き換えれば、誰にだって当てはまるというか、誰がしゃべってもかっこいいセリフになりそうです。さしずめ、自分の場合はこうなりますな。
「テニスで食べていこうなんて思ってない」
曹源寺は言った。
「テニスを食べて生きていくんだよ」

つあぁぁ。かっこええ。
ちなみに、和音というのは物語に登場するふたごの長女のことです。彼女がピアニストを目指すとはっきり決めた場面でのセリフです。

情景描写もさることながら、こうしたピアノや音楽、調律に絡んだ表現力が素晴らしくて、読み終えるのがもったいないくらいでした。

(以下、多少ネタバレ)ストーリー自体はなんてことはなくて、事件が起きるわけでも、誰かが死ぬわけでもない(婆ちゃんが死にますが)。裏切りも憎しみもありません。あるのは少しの後悔と反省、そして気付きという名の成長と大いなる決意、新たな出会いと一歩前へ踏み出す勇気であります。老若男女を問わず、ピアノを知らなくても楽しく読める素晴らしい作品でありました。





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2012年04月06日

書評377 皆川博子「開かせていただき光栄です―DILATED TO MEET YOU―」

ウチの会社は例年の半分ですが新入社員が入社してきました。彼らの正式な配属は5月になってからですが、昨年度と同様、自分のいる部署には恐らく一人も入ってきません。残念です。
ウチの会社はもともと営業重視の風潮がありますので、頭でっかちの人間には勤めにくい環境かもしれませんが、ここのところは旧帝大やら早慶上理やらがわんさと入ってきていました。そんな高学歴な人でもコミュ力のない人はたまにいますね。今年の新人は少数精鋭で採用したと信じて、期待することにします。

内容(ハヤカワ・オンラインHPより)
開かれたのは、躰、本、謎。作家生活40年のキャリアを誇る著者の集大成にして新境地! 18世紀ロンドン。増える屍体、暗号、密室、監禁、稀覯本、盲目の判事……解剖医ダニエルとその弟子たちが辿りついた真実とは?
18世紀ロンドン。外科医ダニエルの解剖教室から、あるはずのない屍体が発見された。四肢を切断された少年と顔を潰された男性。増える屍体に戸惑うダニエルと弟子たちに、治安判事は捜査協力を要請する。だが背後には、詩人志望の少年の辿った稀覯本をめぐる恐るべき運命が……解剖学が先端科学であると同時に偏見にも晒された時代。そんな時代の落とし子たちがときに可笑しくときに哀しい不可能犯罪に挑む。






曹源寺評価★★★★★
読書ジャンルが偏っている自分は皆川博子さんという作家先生を寡聞にして知りませんでしたが、作家歴40年を超える大ベテランでいらっしゃいます。自分の不勉強を恥じるばかりです。

しかも御年81歳!

博学にして深い洞察力に裏打ちされたミステリとしても一流ですが、ただの謎解きではなく、18世紀のイギリスを舞台にしたロマンティックな時代小説でもあります。
外科医にして解剖教室を開くダニエル・バートンとその弟子たちが、自分たちの教室から発見された死体をめぐって推理を働かせるストーリーと、地方から出てきた詩人志望の少年ネイサン・カレンの周辺で起こる不幸な出来事が交錯して始まります。
最初は読みにくいです。自分はタダでさえカタカナの名前を覚えられなくていつも翻訳物で苦労させられるのですが、なんつうか世界に入りにくい。キャラクターはそれなりに際立っているのですが、なかなか頭に入らない。解剖シーンも精緻すぎてちょっとグロいレベルです。途中でやめようかとも思いましたが頑張って80ページは読みましょう。
するとなんということでしょう。いつのまにか本書の世界に浸っている自分がいました。ちょっと新鮮な驚きです。中盤からはもうどっぷりと浸れます。

読了まで浸りっぱなしです。

これはやはり作者の筆力でしょう。時代背景を精密に描写する表現力だったり、ユーモアを聞かせた会話の妙だったり(盲目の治安判事ジョン・フィールディングのやりとりだけは間に「眼」を担当する付き人アンのセリフが入ったりするので分かりにくいのですが)、ベテランならではのうまさが光ります。
そして終盤にかけてのどんでん返しのオンパレード。誰のセリフを信じてよいのやら、困ってきますが、後半の主役の一人は治安判事のジョンであります。ジョンのセリフに張られた伏線を、あざやかに回収していく展開は爽快の一言です。2011年の「このミス」4位は伊達ではありませんでした。








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2012年02月28日

書評368 万城目学「偉大なる、しゅららぼん」

先週は水曜日から発熱し、金曜日の午前に病院で検査を受けてインフルエンザ陰性を確認してから会社に行ったら、案の定ぶり返して土日も全部寝込んでしまいました。
5日間も床に臥せったのは久しぶりだったわ。。。2回も検査して2回ともインフル陰性というのに、なぜかタミフルを渡され、家族からも隔離され、テレビも本もパソコンも、なんにも触れない日々が続きました。こんなに日常からかけ離れた生活もある意味新鮮でしたが、やはり長くは持たないですね。。。
なんというか、情報から隔離された生活とか、隠遁生活とか、たぶん今はできないだろうということが良く分かりました。。。


内容(集英社HPより)
代々、琵琶湖から特殊な力を授かってきた日出家。それは、生まれてすぐに湖のご神水をいただくことによって宿る 他人の心に入り込み、相手の精神を操れるという、不思議な力だった。
高校入学をきっかけに、本家のある琵琶湖の東側に位置する石走に来た涼介。本家・日出家の跡継ぎとして、お城の本丸御殿に住まう淡十郎の“ナチュラルボーン殿様”な言動にふりまわされる日々が始まった。ある日、淡十郎は校長の娘に恋をするが、その直後、彼女は日出家のライバルで同様に特殊な「力」をもつ棗家の長男・棗広海が好きだと分かる。恋に破れた淡十郎は棗広海ごと棗家をこの街から追い出すと宣言。両家の因縁と三角関係がからみあったとき、力で力を洗う戦いの幕が上がった――!






曹源寺評価★★★★★
読書ジャンルが偏っている自分は皆川博子さんという作家先生を寡聞にして知りませんでしたが、作家歴40年を超える大ベテランでいらっしゃいます。自分の不勉強を恥じるばかりです。

しかも御年81歳!

曹源寺評価★★★★★
この人の描く世界は本当にユニークですね。本書も

万城目ワールド全開!

ってな感じで、荒唐無稽なお話なのに惹き込まれるという奇妙な体験をさせられることになります。
まあ、本当に荒唐無稽な、アニメ的な、非日常的な、という形容詞がいくつか思い浮かぶような、そんな超能力者の一族のお話なのですが、なにがすごいかというと、その設定の妙であったり、キャラクター造型であったりするわけです。
たとえば、「生まれてすぐに琵琶湖の水を入れたコップを近づけ」て能力の有無を確認し、認められれば「ある法則に従って名前をつけられ」「二度付けは禁止」(なんのことかは中盤まで読まないと分からない)だったりとか、「日出家と棗家が一千年を通じて牽制しあっている」が直接戦うことができないのは別の理由がある、とか、逆にお互いが力を合わせると「しゅららぼん」になる(これもなんのことかは3分の2くらいまで読まないと分からない)とか。
しまいにゃ、琵琶湖の水が割れてモーゼ状態ですよ、もう。
キャラクターもすごいです。グレート清子とか総本家の長男である淡十郎とか、主人公の涼介が普通であることが却って周りのキャラを際立たせる要因にもなっていますが、人物の書き分けの妙がここにありますね。お見事です。淡十郎はなんだかどこぞの国の3代目首領さまの顔をちょっとイメージしてしまいましたよ。
京都・鴨川の鬼、奈良の鹿、大阪の城ときて今度は琵琶湖の水です。万城目氏の描く世界にどっぷり浸るのは楽しいですね。次は日本のどこにフォーカスしてくださるのか、本当に楽しみです。









曹源寺評価★★★★★
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しかも御年81歳!

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2011年09月30日

書評341 麻耶雄嵩「隻眼の少女」

Facebookで思いがけない人から友達申請きたりするとうれしいものですね。ヨメの高校時代の同級生から友達キター!って、良く分からないっすね。それって友達か?まあいいや。
中学時代の友人を見つけたので早速友達申請っと。写真見たけどコイツ全然変わってねえわー、とか、ふむふむコイツはいま逗子などというおしゃれな場所に住んでいやがるのか、とか、なんかそういうのを見つけただけで心が和む今日この頃です。


内容(文藝春秋HPより)
新本格界のグラディエーターが放つ超絶ミステリーの頂点
寒村でおきた殺人事件の犯人と疑われた大学生・静馬を救った隻眼の少女探偵・みかげ。事件は解決したが、18年後に再び悪夢が…
自殺する場所を求め寒村の温泉宿を訪れた大学生の種田静馬は、少女の首切り事件に遭遇する。犯人の罠により殺人犯と疑われた静馬を見事な推理で救った、水干姿の隻眼の少女探偵・御陵みかげ。静馬は助手見習いとして、みかげと共に事件の謎に挑む。みかげは父を失いながらも難事件を解決するが、18年後に同じ村で再び惨劇が……。本格ミステリ界のグラディエーターが放つ、超絶の問題作登場です!






曹源寺評価★★★★
このミステリがすごい2011年版で堂々の4位を獲得した本書ですが、食わず嫌い(感覚でしかないのですが)で手が伸びていませんでした。ようやく読みましたが、なんというかどんでん返しの連発であっけに取られてしまい、

読後感が放心状態

という奇妙な体験をしてしまいました。「へっ?何これ?」みたいな感じです。
古い因習のある寒村という横溝的な設定はまあ嫌いじゃないですし、水干(すいかん)を着た片目が義眼の少女という設定も新しいヒロイン像としてはイケてるのではないかと思います。そして、読者をミスリードするさまざまな仕掛けもテクニックとしては十分にアリだとは思います。
しかし、これは個人的感覚なので異論もあるかと思いますが、あまり納得できない点もいくつかあって、それが読後感を悪くさせています。ストーリーだけならまあそれほどでもないのですが、やはり連続殺人事件、しかもうら若き乙女が18年で5人も殺されるという凄惨な事件としては、読後感が悪くて当然なのですが、なんかこうしっくりこないのも事実であります。それは
・伏線を回収できていない→岩倉という人物が登場しますが、彼が何者でどういう役回りであったかというのが最後までよくわからない。ただのミスリード役?
・登場人物のアリバイや事件現場の証拠がなさすぎて、読者は犯人を特定できない→文章をじっくり読んでもダメ。まあ、こういうのは結構ありがちですが、こうした場合は大概にして探偵のロジックがそれを補強することになります。でもね、「暗闇でライターを使ったのは懐中電灯の場所が見えなかったから。だから犯人は眼鏡を落としたに違いない。つまり、犯人は眼鏡をかけている人だ!」といった論理は何というか現実離れしすぎていて、こういう推理小説は個人的には嫌いな部類に入るんですわ。
・犯人の動機と殺人現場の大いなるミスマッチ→多少ネタバレになりますが、犯人がなぜこれほどまでに猟奇的な殺人事件を仕組んだのかという点において、鉈でクビをチョンパする必然性はどこにあるの?とか、どこからどこまでが計画でどこからが偶発なの?とか、犯人の最後の独白から読み取れるものが薄すぎてよく分かりません。
それに最近は「これでもかっ!」というくらいのどんでん返しがないと読者を驚かせることができなくなっていて、作者も捻りに捻ってから結末に持っていこうとする傾向が強いのではないかと感じていますが、果たしてそれで良いのか?という疑問は拭えません。捻るなら伏線を回収しなければ納得できなくなるだけですし、わざわざ読後感をスポイルさせてまで捻るというのもどうかと思います。








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2011年08月09日

書評330 森詠「彷徨う警官」

初めてオートキャンプというものに挑戦しましたよ。無印良品が運営するキャンプ場なので、初心者でも安心♪みたいな感じですが、ここのところ天候が不安定だったおかげでものすごいゲリラ豪雨に遭遇しました。さあ設営しようかという矢先だったものだから、なにもできずにクルマの中に閉じ込められて小1時間。予定が大幅に狂ってご飯炊けずorz。BBQだけはできたけれど、米食えずorz。
翌日はカラッと晴れて楽しかったっす。いい想い出ができて良かったっす。
最近思うんですが、城山三郎先生が書いた「どうせ、あちらへは手ぶらで行く」というタイトルの本が文庫になったことで電車の中吊り広告にデカデカとあるもんですから、やたらと眼に留まるわけです。「あぁ、そうか。そうだねその通りだね。だったら、あの世に持って行ける想い出をいっぱい作ろう」という気分になっています。いや、別にまだ死ぬわけではないですが、こんな世の中ですから、いつ死んでも悔いのないようにしておきたいですNEC_0115-1.JPG


内容(毎日新聞社HPより)
高校時代に恋人を殺害された男は警官の道を選ぶ。立ちふさがる時効の壁を越えることはできるか。実力派作家、久々の本格警察小説。






曹源寺評価★★★★
警察小説よりも戦争モノのほうが有名な森詠先生ですが、自分としては本書が初の試みでありました。時効となった殺人事件を執念で単独捜査する刑事のお話です。その殺人事件も実は、単なる強盗殺人ではなくて、893やらマフィアやらが背後でうごめくきな臭い事件でもあり、さらには公安事案でもあるというかなり複雑なプロットであります。
それでも十分に読みやすく、ストレートな展開でくどさがないのが良いですね。主人公の北郷雄輝が実直で熱血な刑事を演じ、それをサポートする上司や同僚も頼もしい。クセのある刑事がほとんどいないというのも警察小説にしては珍しいくらいです。
それゆえに、

とても現実離れした展開

になっているのが少々気がかりではあります。なにが現実離れしているかというと、
・時効となった事件の単独捜査を上司が応援している(←黙認ならまだわかるが、これはないでしょ)
・元刑事に捜査上の秘密をべらべらとしゃべりまくり(←おまけに捜査会議にも出すなんて・・・)
・(ネタバレ)偽札の原版というネタは、このCTPの時代にありえないでしょ(ルパンかよというツッコミがどうしても浮かんでしまう)
・組織に兄を殺された弟チンピラがやけに従順(大事な取引道具を警察に渡して「これで兄の仇を」とかありえねー)すぎてワロタ
なんだか

本ボシ以外はみんな良い人に見える

という奇妙な小説になっています。まあ、ラストはなかなか迫力あって良いですが。
あと、死んだ高校時代の恋人を想起するシーンでユーミンの「ひこうき雲」を使うのは反則じゃー。泣いてしまうやんけー。ひこうき雲はなー、ユーミンが高校生の時に死んだ同級生のことを歌ったものやでー。知っている人はこの曲を聞いただけで泣いてしまうんや。
80年代までのユーミンは結構「死」について描かれた曲が意外とあるので、よく聴くと泣けるんです。「雨に消えたジョガー」とか「コンパートメント」とか「水の影」とか。(多感な時期にこれを聴いたもんだから、睡眠薬を飲んで自殺すると白夜の荒野に行ってしまうんだとか、死んだら一人でボートに乗るのか、それともゴンドラに乗るのかはっきりしろ!とか本気で思っていたりする)だから、ずるいです。








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2011年07月15日

書評324 松浪和夫「刑事魂」

池井戸センセー、直木賞受賞オメ!下町ロケットは面白かったっす。

それにしてもFacebookはスゴいすね。友達の友達が実は友達だったとか、大学以来20年ぶりに連絡が取れた友達がいたり、友達の元カノから連絡が来たりと、毎日驚かされます。
友達登録しておけば、めったに連絡しなくてもなんだかつながっているような気分になりますし、たまに開けば誰かが写真をアップロードしていたり、その写真に「いいね!」なんてクリックしてみたり、うーん平和やのう。

内容(講談社HPより)
スピード感溢れるノンストップ警察小説
人質救出か、犯人逮捕か?
県警本部長の娘が誘拐された。名交渉人(ネゴシエーター)・三島の相手は犯人と、こともあろうに犯人逮捕優先を主張する本部長。二つの敵に立ち向かう三島を支えるのは、父譲りの刑事魂。
疾駆する刑事魂――
本部長の娘が誘拐され、誘拐事件の名交渉人・三島は、冷や飯食いの立場から捜査の最前線に呼び戻されたが、娘の命より犯人逮捕を優先させる本部長と、正面から対立する。
くるくる変わる犯人側の要求に、ほぼ単身で立ち向かう三島は、署内でますます孤立していく。そして行きつく先に待っていたのは――驚愕の事実!






曹源寺評価★★★★
久しぶりの松浪和夫センセーです。氏はもともと「非常線」などの名作を著してこられた警察小説の代打の切り札みたいな方でいらっしゃいますが、本当に久しぶり過ぎて読者から忘れ去られてはいないかちょっと心配なくらいです。
その久しぶりの警察小説は切り札らしくヒット、いや、二塁打くらいはいきますね。ホームランかというとそうではないかな。誘拐事件を追う刑事とそのチームに対して、被害者の親という構図はありきたりですが、本書はこの被害者の親が県警本部長という図式なので、なるほどこういう確執が生まれるのねというのが良く分かるし、意欲的な作品に仕上がっているのも良く分かります。
誘拐は最も割に合わない犯罪といわれていますが、それはやはり身代金の受け渡しが簡単にはいかないというのが最も大きな課題、いや問題だと思うからであります。それに大完封をはずせだの、新札はダメだの言っても、お札に特殊なインキを吹き付ければ出所を探ることはできましょうし、人質に居場所や顔を見られてはいけないし、グリ森犯は裏取引できたなあと思います(ホントかどうかは知らん)。
本書は裏金作りを20年以上拒否し続けてきたが故に警察学校の教官(といっても雑用)に干されていた正義の警官・三島が、交渉人となって再び事件現場に戻ってくる、というストーリー。本部長との確執、裏金を告発しようとするオンブズマン、本部長に恨みを持つと思われる犯人グループ、捜査方針をめぐって対立する現場と本部、など、盛りだくさんの内容です。
それにしても、主人公三島の熱血ぶりに半ば感激するとともに半ば呆れます。

刑事魂ありすぎ

です。
(ネタバレ注意)なにしろ、取引現場に向かうため、追っ手(警察のほう)を振り切ろうとして

味方の刑事を車で突き飛ばしたり、

停車中のトラックに追突させる

という暴挙に出ます。「なんとしても遥(本部長の娘)の命を助けなければ」という執念で脳みそが破壊されてしまったかのような数々の行動に、ある意味ドン引きです。
それでもラストの展開は鮮やかです。多少無理矢理感がないわけではありませんが、スピーディな展開と格闘シーンを含めたクライマックスは警察小説の醍醐味みたいな気分を味わうことができました。








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2010年05月19日

書評241 道尾秀介「球体の蛇」

先日、某ビジネス誌編集から要請されて寄稿した記事が掲載されました。ちょっとうれしかった。でも、途中からかなり書き直しを命ぜられたので、なんだか自分の文章だという気がしない。政権に対する評価を書いてくれと言われて書いたら、その部分はバッサリカットされたし(涙)。
そして、よくよく考えてみたら、自分の義父は100冊も出版していて、ちょっと載ったくらいで騒いでいる自分がなんとも恥ずかしい。とてもじゃないけれど太刀打ちできません。まるで巨象とアリ、プロ野球とリトルリーグ、フェデラーとスクール生、Qちゃんと市民ランナーぐらいの差ですわ。
Qちゃんといえば、民主党からの誘いを蹴って出馬しないと明言していましたね。立派です。政治家は政治の勉強をした人がなるべきである、とはまさに至言。いや、ホントは当たり前の発言なんですが、ここ20年くらいはずっとタレント候補が幅を利かせていましたので、この発言はかえって新鮮ですね。もう、タレント候補に票を入れるのは金輪際やめましょう。

内容(角川書店HPより)
1992年秋。17歳だった私・友彦は両親の離婚により、隣の橋塚家に居候していた。主の乙太郎さんと娘のナオ。奥さんと姉娘サヨは7年前、キャンプ場の火事が原因で亡くなっていた。どこか冷たくて強いサヨに私は小さい頃から憧れていた。そして、彼女が死んだ本当の理由も、誰にも言えずに胸に仕舞い込んだままでいる。
乙太郎さんの手伝いとして白蟻駆除に行った屋敷で、私は死んだサヨによく似た女性に出会う。彼女に激しく惹かれた私は、夜ごとその屋敷の床下に潜り込み、老主人と彼女の情事を盗み聞きするようになる。しかしある晩、思わぬ事態が私を待ち受けていた……。
狡い嘘、幼い偽善、決して取り返すことの出来ないあやまち。矛盾と葛藤を抱えながら成長する少年を描き、青春のきらめきと痛み、そして人生の光と陰をも浮き彫りにした、極上の物語。







曹源寺評価★★★★★
最近の道尾作品は、人間の心のひだをえぐるようなきわどい作品が増えてきました。本書も然りで、前半部分はエグイなあ、エグイなあと思いながらページをめくらなくてはいけません。物語のスピードも前半は遅い、遅すぎるくらい。しかし、後半になるとテンポがドンドン良くなります。そして、伏線を張っていたものが徐々に明らかになっていきます。この辺は前作「龍神の雨」にも近いものを感じますね。そして、衝撃のラスト(というほどではないのかも)が待ち受けています。主人公に感情移入できないのは、もし自分がこの主人公だったらどないしょ、という想定を、本能的に拒んでいるからにほかなりません。だから、ダメです、基本的に。本書はなんだかスッキリしませんでした。









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2010年02月02日

書評221 道尾秀介「龍神の雨」

久しぶりに東京にも雪が降りましたが、あっという間に消えてしまいましたね。子供たちは喜びもつかの間で、小さな雪だるまを造っただけで終わってしまいました。
最近、アウトドアに興味津々です。先日もヤフオクでテントを落札してしまいました。オフシーズンだから引き合いも少ないだろうと見込んで入札したら、やはりかなり安い金額で落札できました。最近は近所にBBQのできる公園があるということも知りましたので、花見のシーズンに向けて準備を整えていきたいと思います。こうやって書いていると、本当にやりたくなってきましたBBQ。よし、20人くらい集めるか。

内容(新潮社HPより)
降りしきる雨よ、願わくば、僕らの罪のすべてを洗い流してくれ――。
すべては雨のせいだった。雨がすべてを狂わせた。血のつながらない親と暮らす二組の兄弟は、それぞれに悩みを抱え、死の疑惑と戦っていた。些細な勘違いと思い込みが、新たな悪意を引き寄せ、二組の兄弟を交錯させる。両親の死の真実はどこに? すべての疑念と罪を呑み込んで、いま未曾有の台風が訪れる。慟哭と贖罪の最新長編。







曹源寺評価★★★★★
久しぶりの道尾作品でしたが、やはりこの人は只者ではないですね。本書は紹介文章にあるとおり、慟哭の内容です。半分くらいまでは読むのがつらくなるほど暗い内容です。本当に暗く、やるせない、哀しい、痛みだけが襲うような内容です。しかし、そこから話は急展開していきます。あれ、あれ、という感じでいつのまにかミステリ色が強まって、マジで?みたいな展開になっていきます。この辺はあの名作「シャドウ」に近いものを感じましたね。うわーそうきたかー、みたいな感じです。そしてクライマックスからラストへ。大団円とまではいかないにしても、必然的な帰結に向かうところはさすがに終わり方を心得ている道尾氏ならではの仕上がりです。
本書はこの前の直木賞にノミネートされただけあって、非常に濃い内容です。個人的には直木賞受賞作の「廃墟に乞う」よりもこっちを推します。本書のほうが濃密であることは間違いありません。まあ、道尾氏はこの後絶対直木賞獲るでしょう。それだけの力量があります。










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2009年12月05日

書評210 三橋貴明「マスゴミ崩壊〜さらばレガシーメディア〜」

今週は「笑っていいとも!」に、あの田母神俊雄大先生が登場したので、思わずHDDに録画してしまいました。
やっぱり一度、講演を聴きに行かないといけないですね。

この本は最近まで読んでいませんでしたが、今思えば、麻生政権でこの人を更迭したのはいかにもマズかったですね。中途半端にブレるとよくないということが良く分かる事例です。

ブレない、そう、ブレてはいけないんです。自分の中に確固たる信念を持って生きるというのは、やってみると本当に大変ですが、自分もこうありたいと最近は強く思うようになりました。頑固親父にでもなろうかしら。

内容(扶桑社HPより)
人気経済評論家による渾身のメディア論
『ヤバ韓』、『崩壊する世界 繁栄する日本』、『ジバング再来』などヒット作を連発中の人気作家によるメディア論。日本が抱える諸問題の真因は、マスメディアにあった!?







曹源寺評価★★★★
最近、非常に人気の高いエコノミスト(というかコンサルタントですね彼は)の三橋貴明氏ですが、マスコミもといマスゴミ批評の本を出しているとは露知らず、思わず買ってしまいました。
内容的にはそれほど目新しいものではなくて、もう新聞社の経営状況が悪いのは周知ですし、テレビ局も赤字転落したのはいまさら感がしないでもありません。フツーに読み始めると「なんだ、またか」みたいなデジャブに襲われます。ただ、三橋氏の論調で気になったのは、マスコミは「プロダクトアウト」だけしか行っておらず、「マーケットイン」の思想がゼロであること、そしてこれだけ「情報の非対称性」が薄れたにもかかわらず(そういえば三橋センセー、“かかわらず”は“関わらず”ではありません、念のため)いまだにネットを眼の敵にしていること、などは確かに氏をして「レガシーメディア」と呼ばしめてなるほどとうなづかざるを得ない箇所があったわけです。
この辺が中小企業診断士ならではの目線ですね。マスコミ関係者の内部告発的な本は、このあたり(つまりビジネスモデルとしてのマスコミ論)への言及がイマイチですので、ある意味新鮮です。










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2009年04月16日

書評172  湊かなえ「告白」

今月から娘が朝5時に起床して勉強を始めました。朝のほうがはかどるからというのが理由ですが、まあ確かに夜勉強するよりは効率的かもしれません。
冬はキツイですが、このくらいの季節だと結構気持ちイイもんで、朝5時はもうかなり明るく、余裕があれば散歩してもいいかな、なんて思わせるような気分です。そのうち犬でも飼って毎朝公園に行くなんてのも良いかもね。


内容(双葉社HPより)
我が子を亡くした女性教師が、終業式後のホームルームで犯人である少年を指し示す−。ひとつの事件をモノローグ形式で「級友」「犯人」「犯人の家族」からそれぞれ語らせ真相に迫る。







曹源寺評価★★★★★
2009年の本屋大賞を受賞しました。おめでとうございます。昨年の本屋大賞が伊坂幸太郎氏の「ゴールデンスランバー」でした。この本屋大賞というのは良い作品がずらりと並びますので、かなり参考になる賞だと思います。直木賞、乱歩賞、そしてこの本屋大賞、この3つが個人的には良いのではないかと思います。
で、本作ですが、いやあこれはすごいですわ。新人とは思えない技量、スリリングな展開に舌を巻きます。もともとは「聖職者」というタイトルで、第1章だけの作品として第29回小説推理新人賞を受賞した作品だったのを、加筆して加筆して単行本に仕上げてみたら、あらまあ大変凄い作品になってしまいました!という感じですかね。
この第1章というのが曲者でして、我が子を殺された女性教師の独白だけで構成されています。一人の登場人物が延々と語るだけというのは、かなりの筆力を要求されることは疑いないことだと思いますが、これがとても良く出来ています。最初読んだときは、この第1章だけでストーリーが完結しているので少し違和感を覚えたのですが、なるほど、もともとはここまでが当初の作品だったのだなあと思うと、確かにこれだけでひとつのお話ですから、「うわ、すげえ」と思いながらも、「あれ、でもこの後どうなっちゃうの?」という疑問が湧いてくるわけです。これは偶然の産物とはいえ、この後の展開を良くここまでうまく仕上げたなあと感心してしまいます。
結局誰も救われないという(ちょっとネタバレ)ラストですが、それでいてちっとも絶望感だけに終始しないという読後感は、他の作品ではなかなか味わうことが出来ないものだと思いました。










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2009年04月08日

書評171 万城目学「プリンセス・トヨトミ」

桜、満開ですね。家の近くの公園はもう平日の夜も花見客で一杯のようです。駅には大勢のグループが花見支度で集合していますので、歩きにくくてしょうがないです。
会社の裏にも桜が沢山咲いていますが、そういえば会社で花見をしなくなったなあ。新入社員のときなんて、午後3時に「おまえ、場所取って来い」なんて言われてブルーシート敷いて仕事もしないでボケーっとしていた、なんてエピソードもありましたが、そう思うと、昔のほうがなんだかのんびりしていたんですね。今じゃ考えられません。


内容(文藝春秋HPより)
女子になりたい中学生・大輔と彼を守ってきた幼馴染の茶子(ちゃこ)。彼らが暮らす空堀(からほり)商店街に、会計検査院の調査官3人の手が伸びる
5月末日の木曜日、大阪が完全に止まる。あらゆる種類の営業活動、商業活動、地下鉄、バス等の公共機関も一切停止。しかしそのことは大阪人以外は全く知らない。その発端となったのが、会計検査院からやってきた個性豊かな調査官3人と、空堀商店街にあるお好み焼屋の中学生の息子に、その幼馴染の女子。彼らが、大阪人に連綿と引き継がれてきた、秘密の扉を開けてしまうのだった……。歴史と古典を巧みに取り入れた突飛な着想と独特のユーモアで人気を博す著者が京都、奈良を舞台にした物語の次は、いよいよ大阪。万城目マジックをご堪能下さい







曹源寺評価★★★★★
あの万城目学がまたまたやってくれました。京都を舞台にした「鴨川ホルモー」、奈良を舞台にTVドラマにもなった「鹿男あをによし」に続く第3弾は、大阪が舞台となりました。本書の帯にはデカデカと「大阪全停止」なんて書かれていまして、果たして何のことやらと思いつつも、読んでみたらまあ、例の万城目ワールドが炸裂ですよ。どうやったらこんなお話が思いつくのか、彼の脳みそを分解してみたいですわ。
会計検査院という目立たない役所と、大阪城に近い商店街とその中学校が舞台となっていますが、このふたつがまずフツーの人には結びつかないでしょう。そして、彼らが交錯したときに始まる壮大な仕掛けに唖然とさせられます。「社団法人OJO」とか「長濱ビル」「辰巳金吾」などのキーワードが結びついたとき、「なんつーお話やー!」と正直、度肝を抜かれました。これは彼の最高傑作と言って良いのではないでしょうか。前作などよりもはるかに面白いです。いまのところ、自分の中では今年のベスト5に入ります。いや、ベスト3くらいかな。お勧めです。










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2009年03月24日

書評169 道尾秀介「鬼の跫音」

今日はWBCで日本が見事2連覇を達成しました!オメデトウ!!
これだけ大きなニュースになると、やっぱり日本人はなんだかんだ言って野球好きな民族であることが良く分かりますね。
野球のイチローはやっぱりヒーローだったわけですが、民主党の一郎はそんなに首相になりたいのかねえというくらい醜態を晒していますね。同じ日に対照的な二人の一郎がとっても印象的な今日のニュースでした。


内容(角川書店HPより)
鈴虫だけが知っている、過去の完全犯罪。蝶に導かれて赴いた村で起きた猟奇殺人事件。いま最も注目を集める新鋭・道尾秀介が満を持して送り出す、初の連作短編集!







曹源寺評価★★★★
道尾氏の最近の作品はミステリ色が強く、「ラットマン」や「カラスの親指」はストーリーテラーとしての力量をまざまざと見せ付けられた作品に仕上がっていましたので、彼がホラー作家でもあったことをすっかり忘れていました。彼のホラーは「背の眼」などに見られるような、本来はミステリタッチなホラーなのかなあと思っていましたら、本作は違いました。短編ですがまさしくホラーです。怖いです。まるで悪夢を見ているような怖さがあります。読み終わってからもしばらく奇妙な余韻が残る作品てありますよね。本書もまさしくそのひとつです。
「鈴虫」「ケモノ」「よいぎつね」「箱詰めの文字」「冬の鬼」「悪意の顔」の6作品が収録されていますが、自分としては「ケモノ」に痺れました。そして、「冬の鬼」に驚きました。「ケモノ」は刑務所作業製品である椅子の脚に刻まれていたメッセージを追う浪人生という設定ですが、受刑者と自分の境遇が重なったときの驚きとあきらめみたいなものがなんとも言えず奇妙な後味だけが残るという作品です。「冬の鬼」は日記を逆から読むようになっていて、どうなっているんだと思いながら読み進めていくと、あーなるほどこういうことだったのね、という短編ならではの展開でしたがうまいことやりおるわい、と道尾氏の筆力に改めて感動した次第。やはりこの人はスゴイなあと思います。5年後には伊坂幸太郎氏と並んで、文壇界を背負って立つ人物であることに間違いないと思うわけです。









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2009年02月04日

書評162 万城目学「鹿男あをによし」

浅間山が噴火しましたね。櫻島も噴火しました。関東地方でも明け方に震度2くらいの地震があってその都度目が覚めました。暖冬のときは地震が起きやすいというのもあながちウソではなさそうです。備えだけはあった方がよさそうですね。

ちょうど読んでいたのが、この本でした。ナマズが暴れているので早く鎮めてください、なんて現実と小説がごちゃ混ぜ状態です。

内容(幻冬舎HPより)
「さあ、神無月だ――出番だよ、先生」。二学期限定で奈良の女子高に赴任した「おれ」。ちょっぴり神経質な彼に下された、空前絶後の救国指令!?「並みの天才じゃない」と金原瑞人氏激賞!







曹源寺評価★★★★
フジテレビのドラマですっかり有名になってしまった作品ですので、いまさらストーリーを云々するのも変ですが、原作とドラマで設定が少し違うところがありますので、その辺だけは押さえておきたいと思います。
まず、学校で席が隣りの藤原先生は、ドラマでは綾瀬はるかが演じていましたが、原作では男性になっていましたのでちょっと驚きでした。
それから、主人公が鹿に「しるし」をつけられたあと、テレビではいきなり鏡に映る自分が鹿に変身していましたが、原作では耳から少しずつ鹿に変身していくのでこの辺はどういう意図でそうしたのか良く分かりません。
あとはラストでしょうか。ラストは原作のほうが良いですね。この辺はネタバレになるので書きません。
原作は良くできていると思います。「鴨川ホルモー」もそうでしたが、よくもまあこんなお話を思いつくもんだなぁ、と感心しきりです。
いずれにしても、ドラマを先に見てしまうとやはりダメですね。リチャードなんかもう児玉清ですよ完璧に。頭の中で浮かぶキャラクターがドラマに支配されるのがどうにも気に入らないので、ドラマをやる前に読むべきでした。これからは絶対そうします。










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2008年12月16日

書評154 道尾秀介「カラスの親指 by rule of CROW’s thumb」

腰痛です。むちゃむちゃ痛いです。まっすぐ立つことができません。先日は膝をやって、今度は腰です。しかも、肘までテニスエルボー気味です。ホントにヤバイなあ、体ボロボロだぁ。

内容(講談社HPより)
大丈夫。まだ間に合うから。
注目の道尾秀介 最新作!
「こうしてると、まるで家族みたいですよね」
“詐欺”を生業としている、したたかな中年2人組。ある日突然、彼らの生活に1人の少女が舞い込んだ。戸惑う2人。やがて同居人はさらに増え、「他人同士」の奇妙な共同生活が始まった。失くしてしまったものを取り戻すため、そして自らの過去と訣別するため、彼らが企てた大計画とは!?







曹源寺評価★★★★
最近、切れ味を増してきている道尾氏の最新刊です(といっても発刊したのは7月です)。今年度のミステリランキングでも各社が上位に入れてきました。道尾氏はこのほかに「ラットマン」を今年出されていて、各社の評価はラットマンの方が上でした。しかし、自分は本書を推します。本書の方が「だまされた」感が大きかったですね。あの「シャドウ」で見せた、読者をだますテクニックがここでも抜群の切れ味で出てきます。このだまされ感が、なぜか感動的なラストにつながるのだからこの人の作品からは眼が離せないのです。
話は、詐欺師の中年男がふとしたことから同業の男と一緒に住むようになり、そこに若い女性も転がり込んでくるという、なんだかファミリードラマみたいな筋書きですが、そこは詐欺師なだけにスリリングな展開が次から次へとやってきます。そして、もやもやを抱えていた主人公の心のつっかえ棒が取れたとき、どんでんなラストが待ち受けているといった寸法です。
あとですね、本書でちょっと感動した場面がありました。勝手に引用するのはまずいので、さわりだけ言いますと、主人公とその同居人の男性の間で交わされる会話で「お母さん指と小指をくっつけてみてください」という内容のくだりがあります。「おぉ、なるほど」と言わずにはいられなかったので、気になる人はぜひ読んでみてください。自分はこういうの、結構好きです。










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2008年10月25日

書評144 王城舞太郎「ディスコ探偵水曜日」

円高、株安がすごいですね。円が買われるから株が下がるという日本独特の構図がありますから、負の連鎖になってしまうわけですね。最後の頼みは日銀さまですが、これ以上金利を下げることができない現状では日銀さまもお手上げでしょうか。それとも何か秘策でも練っておられるのでしょうか。。。
仕事柄、「景気はどうなるんですかね」と聞かれることが多いのですが、「いやもう当面はだめでしょう」と少し悲観的に答えるようにしています。ちょっとズルイかもしれませんが、年初の株価予想で「1万8,000円〜2万円」などとのたまっていたどこぞのエコノミストのようにはなりたくありませんので。

内容(新潮社HPより)
愛、暴力、そしてミステリ。舞城史上、最大のスケールで描く最高傑作。
迷子捜し専門の米国人探偵・ディスコ・ウェンズデイ。あなたが日本を訪れたとき、〈神々の黄昏〉を告げる交響楽が鳴り響いた――。魂を奪われてしまった娘たち。この世を地獄につくりかえる漆黒の男。時間を彷徨う人びと。無限の謎を孕む館・パインハウス。名探偵たちの終わり無き饗宴。「新潮」掲載+書下ろし1000枚。二十一世紀の黙示録、ここに完成。







曹源寺評価
すみません、挫折ですっっ。第二章まで読んだのですが、耐え切れなくなって諦めました。これはある意味すごい本です。最後まで読むことができる人はホント尊敬します。話し言葉のような感情たっぷりの文章に非現実的なストーリーが次々に押し寄せるこの描きっぷりは普通の人ではないねこの人、って感じです。句読点なしで一気に4行くらい描いてあったりするんですが、なんだかクラクラしてきます。たぶん体が拒否反応を示しているのでしょう。「のめりこむな」と。仕事が忙しい時期だったこともあってじっくりと読めなかったのもタイミングとしては良かった(悪かった?)のかもしれません。週刊文春の書評では「今年度最大の奇書」と評していましたが、なるほどと思います。
よって評価はなし。










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2008年06月11日

書評119 万城目 学「鴨川ホルモー」

もう1ヵ月近く前の話ですが、壊れたデジカメを買い換えようと駅前のヤマダ電機やヨドバシカメラに行ったんです。最近とみに貧乏な私は30,000円前後のコンパクトでも躊躇してしまい、なかなか踏ん切りがつかずにいました。
先日はヤマダ電機がオープニングセールということで、通常32,800円の810万画素のデジカメがなんと、14,800円という破格値で売っていまして、「あと3台」というセールスマンの声を聞きながら一応ヨメに電話してから買おうと思ったら、電話をしている最中に売り切れてしまいましたもうやだ〜(悲しい顔)
これは、と思ったら即決しないとダメですね。いい勉強になりました。


内容(産業編集センターHPより)
第4回ボイルドエッグズ新人賞受賞作
このおもしろさ、このエネルギー!並みの天才に書ける作品じゃない。鬼や式神を使って大学生が戦争ごっこ?おいおい……などと思ってはいけない。驚くほどあざやかな青春小説なのだ!金原瑞人氏絶賛!
ホルモー? ホルモンではなく、ホルモー?かつての王城の地、ここ京都で脈々と受け継がれてきた「ホルモー」とはなんぞや!?主人公安倍は大学に入学して間もなく、京都青竜会と名乗る謎のサークルから勧誘を受ける。その新歓コンパで、安倍は同じ新入生の女子に一目ぼれしてしまう。一方で徐々に明らかになる サークルの隠された目的とは……。壮大なる歴史的スケールで冴えない大学生の悲喜こもごもの日常を描く、伸びやかで爽やかな青春小説!







曹源寺評価★★★★
この万城目学氏は前から気になっていた作家でしたが、なかなか読むタイミングに恵まれずにいました。最近になってようやく読むことができたのですが、いやいや、面白いですね。独特の世界観があります。京都大学青竜会という謎のサークルに身を置いた主人公、安倍の災難と成長、恋愛を描いていますが、これがまたエンタメ感抜群のできばえです。
ネタバレですが、まあ、今度映画化されるそうですので書いてしまいますが、「ホルモー」とは「オニ」と呼ばれる魑魅魍魎どもを操りながら、京都産業大学、立命館大学、龍谷大学のチームと対戦するというお話です。この「オニ」もべつにホラーチックなところが微塵もなくてどちらかというと「カワイイ揺れるハート」感じな描写なので、なんだか軽いです。でも、「ホルモー」にはちゃんとルールも存在していて、なぜ「ホルモー」と呼ぶのか、みたいな謎めいた伏線もしっかり張ってあったりして、軽いお話の中にもワクワクするような展開が待っているというのがすんばらしいのです。よくもまあ、こんな物語を作りましたねえ、というのが率直な感想です。貴志祐介氏といい、この万城目学氏といい、京都大学出身の人の脳みそはフツーの人とちょっと違うというのが良く分かります。








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