ミステリ読みまくり日記 〜書評(ネタバレあり)

通勤時間に読む、日本のミステリとその他小説をとりあえず書き留める
 

2017年08月29日

書評831 中山七里「ネメシスの使者」

こんにちは、曹源寺です。

本日の早朝に北朝鮮がミサイルを発射しました。ミサイルは日本の領土を横切って北海道・襟裳岬の東1,180キロの海に、3つに分裂して落下したとのことです。朝、テレビをつけたらJアラートの画面に凍り付いた人も多かったのではないかと思います。
日本人の多くは戦争などしたくはないと思っているし、国として戦争という外交手段を放棄しているわけですから戦争などありえないと思っているでしょう。自分もそうです。
そして多くのマスコミは「戦争に近づくな」「相手を挑発するな」「こちらから仕掛けるなど言語道断」などと戦争回避に血眼です。
誰だって戦争なんて嫌ですよもちろん。でもですね、「戦争というのはあっちからやってくることもある」という当たり前のことをどこも書かないんですよ。だから今回みたいに不意にミサイル撃ってこられるとあたふたしてしまうわけです。日本人はもう少し危機感を持つべきだと思います。
今回の発射も、もし日本でなかったらとっくに宣戦布告と見なされて戦争になっているくらいの事案です。少なくとも、喧嘩をふっかけられることのないようにしたいところです。例えて言うなら、六本木の繁華街をうろついているチンピラは、体重100キロを優に超えているマッチョな黒人青年に喧嘩を売ることがないわけで、つまりはそういうことです。

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内容(文藝春秋HPより)
ドンデン返しの帝王が「死刑制度」を問う
無期懲役の判決を受けた殺人犯の家族が殺された。遺族による復讐か、現在の司法に対するテロか……渡瀬刑事が追う。社会派ミステリ。


曹源寺評価★★★★★
社会派ミステリ。いいですね、この響き。個人的にはこの社会問題を題材にしたミステリというジャンルが一番好きかもしれません。
中山センセーは「岬洋介シリーズ」や「弁護士・御子柴礼司シリーズ」などを通じて、どんでん返しはもとより法的グレーの世界や法解釈による齟齬などの問題を暗に指摘する作品を出しておられます。本書もまた、「死刑制度」を問う一冊として、非常に考えさせられる内容になっています。
中山作品では欠かせない存在になってきた埼玉県警の渡瀬警部が本書の主軸です。熊谷市の郊外である女性の変死体が見つかったところからストーリーは始まります。その女性は息子が連続殺人犯として逮捕、起訴され、世間の糾弾を浴びてこの土地に移り住みひっそりと暮らしてきたのだった。死体の横には「ネメシス」のメッセージが残されていた。犯人の意図は何なのか。そして、ネメシスは犯罪加害者の家族を再び狙いだすのだった。。。
「ネメシス」は古代ギリシャの「復讐の神」であります。復讐という意味のほかにも「義憤」という意味も込められています。
おや、そういえば中山センセーは「テミスの剣」という作品も出されていますね。テミスは同じく古代ギリシャの法律・掟の神の呼び名であります。本書と「テミスの剣」は一対の端を成す作品ですかね。
本書で指摘されるのは

「改悛の情も更生の見込みもない凶悪な受刑者に温情判決は必要なのか」
「犯行と量刑のバランスを失った判決は加害者、被害者ともに禍根を残すだけではないのか」
「あえて死刑にしないことで加害者家族はいつまでたっても恨まれ続けやしないか」
「死刑にしないことによる死刑以上の罰という考え方は成立するのか」

ほかにも、市民感情に近づけたものの判例重視の壁を一向に破ることができないでいる現行の裁判員制度の問題や、矯正・更生が主旨の刑務所に何らの効果も期待できないでいる現状など、司法制度にまつわるマイナス面をこれでもかと読者にぶつけてくるのです。
まるで、

中山センセーは法曹関係者になんか恨みでもあるんじゃないか

というくらいの投げっぷりです。
そういえば、「作家刑事毒島」では出版業界に思いっきり毒を投げつけていましたが、本作や「テミスの剣」などでは司法に議論をふっかけていますね。中山センセーはあちこちに喧嘩を売って金を取るスタイルを信条としているのかもしれません。面白いのでもっとやってください。





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2017年08月25日

書評830 長岡弘樹「血縁」

こんにちは、曹源寺です。

フェイクニュースの見本が届きましたのでご紹介します。

東京新聞の8月23日付のニュースです。
米軍ヘリ、ベイブリッジに低空接近 市民団体が撮影 真横飛行「危険だ」(2017年8月23日 07時06分)
横浜港で米軍ヘリコプターが低空飛行し、横浜ベイブリッジを支えるケーブル付近まで接近したのを、市民団体「リムピース」の星野潔(きよし)さん(49)が撮影した。航空法では、橋最上部の三百メートル以上を飛ぶことなどが義務付けられているが、米軍には適用されない。今回の飛行目的は不明で、星野さんは「橋のケーブルの真横付近という低空を通過し、危険だ。横浜港は米軍の訓練空域でもなく、許されない」と話している。 (辻渕智之)
星野さんによると、ヘリは三日午後一時ごろ、南側から横浜港に飛来した。米海軍厚木基地(神奈川県)所属の第五一海上攻撃ヘリコプター飛行隊の多用途艦載機MH60Rとみられる。
米軍施設「横浜ノースドック」付近の上空を通過した後、南東に約二キロ離れたベイブリッジ方向に楕円(だえん)軌道を描くように二回飛行し、二回目には橋に低高度で接近。その後、ノースドックに着地し、最終的に南側へ飛び去った。
星野さんが横浜港を望む地点から撮影した画像には、最上部が百七十五メートルのベイブリッジのケーブル付近を飛ぶヘリがとらえられている。また橋までの水平方向の距離について、星野さんは「数十メートルの近さだった」と証言している。
ノースドックで離着陸するヘリやドックに入る艦艇の監視のため、リムピースのメンバーは十年以上前から週三回ほど横浜港に通っている。今回のヘリの高度の低さや橋までの距離の近さは異例だったという。
もし同様の飛行を日本のヘリがすれば、航空法違反の可能性がある。国土交通省によると、港の上空は原則「航空機から半径六百メートル内の最も高い障害物から三百メートル」が最低安全高度とされる。しかし、特例法によって米軍には適用されない。
今回の飛行目的は不明だが、外務省によると、米軍施設間の移動のための飛行は、日米地位協定で認められている。一方、訓練目的の場合、横浜港を含めた首都圏に訓練空域が設けられていないため、原則的には行えない。仮に低空飛行訓練を行うケースでは、航空法と同一の規制を適用して安全性を確保することを日米間で合意している。
米軍厚木基地の広報担当は取材に「運用上の詳細はコメントできない」と回答。防衛省は「移動にかかわる飛行だったとの認識だ」と答えた。
米軍では、新型輸送機オスプレイの墜落など事故が相次ぎ、懸念が高まっている。星野さんは「ヘリが橋に接触すれば、通行中の車を巻き込む惨事にもなりかねない。米軍機が日本各地で勝手に訓練し、市民生活に脅威を与えているのではないか」と訴える。


この記事に東京新聞政治部がツイッターでフォローしているのですが、そこのリツイートを読むとこの記事がいかに胡散臭いものであるのかが、非常によくわかります。

すなわち、この写真は「望遠レンズによる圧縮効果」というのがはたらいていて、実際には数十メートルまで接近しているわけではないだろうというのが事実ではないか、という指摘です。ヘリコプターの大きさと橋を比較して三角関数で距離を計測した方によると、ヘリと橋の実際の距離は930メートルくらいだそうです。

おそらくですが、どこぞの市民団体とやらが東京新聞の懇意にしている記者あたりにこの写真を持っていって記事を書かせたのだろうと推測できます。記者のほうも写真を見ただけで圧縮効果など知りもせずに記事にしてしまった、というあたりが真実ではないかと思います。

事実でないことをさも事実であるかのように記事にして拡散すること、これをフェイクニュースと言わずして何をフェイクと言うのでしょうか。
すでに世の中は「新聞の間違いをネットが正す」という方向になっているのでありました。新聞に自浄作用はありませんので、間違い(この場合はねつ造と言ってもよいでしょう)を間違いであると認識できずにいる方も多数おられます。東京新聞49万部に対してリツイートはせいぜい250です。政治ブログなどで拡散されていますから、ネットでは20万人くらいの目には止まっただろうと思いますが、半分以上の新聞読者は真実を知らされないまま「米軍のヘリは危ないなあ。オスプレイはもっと危ないに違いない」などと思い続けているかと思うと、本当に新聞社によるフェイクニュースは罪深いなあと思います。

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内容(集英社HPより)
出頭という言葉を聞くと、芹沢はあの出来事を思い出す。刑務官が押さなければならない、死刑執行の3つのボタン──「ラストストロー」。家族にまつわる七編の短編を通して、人生の機微をうがつ。


曹源寺評価★★★★★
長岡センセーといえば短編。
簡潔な文章でも情景描写や人物描写は鋭く、きちんと前半に伏線を張っておいて後半に回収することを欠かさないので読みやすく、そして多少の後味の悪さも手伝って麻薬のように手を出してしまう。それがセンセーの持ち味だと思っています。
本書もまた短編集であります。
「文字盤」「苦いカクテル」「オンブタイ」「血縁」「ラストストロー」「32-2」「黄色い風船」の7編が収録されています。
いずれも傑作揃いではないかと思います。個人的に最も気に入ったのはタイトルにもなった「血縁」でしょうか。年の離れた姉に搾取されて育った妹を主人公に、ある事件を通じて複雑な姉妹関係を描いたお話です。
ふだん、短編集というのはさらっと読んですぅっと忘れてしまうことが多いのですが、本書はなぜか心にグッと沁みわたってしまいました。特に、ホラーチックな結末を迎える「オンブタイ」、刑務官の心情を描いた「ラストストロー」「黄色い風船」の2作はなかなかに良かったです。黄色い風船は読後感もさわやかで、本書全体を締め括るに最適な一作だったと思います。

やはり、短編ミステリでは長岡センセーの筆力が冴えわたる

なあと改めて感じさせてくれる、ファンなら必読の書と言えましょう。





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2017年08月22日

書評829 誉田哲也「増山超能力師大戦争」

こんにちは、曹源寺です。

「コンコルド効果」というワードをご存知でしょうか。
日本語では「埋没費用効果」と言いますが、意味は「今までに投資した金銭や時間、人的資源、努力などが無駄になるからと、そのまま続けても損失にしかならないことが分かっていながらやめることができない状態」を指します。
超音速旅客機コンコルドが、赤字続きだったのに運航中止できなかったことになぞらえてこのような呼び名になったそうです。

「やめたくてもやめられない状態」というものが世の中にはゴロゴロありそうですが、単に「伝統だから」「長年続けているから」というだけでやめられないのは「コンコルド効果」とは少し意味合いが違ってくるのかもしれません。しかし、時代にそぐわなくなっているものや存在意義を失っているもの、もういい加減やめたらどうなの?と思えるものは逆に「なんでまだやってんの?」と言いたくなりますね。

その代表格が「夏の甲子園」と「24時間テレビ」ではないかと思うのです。

夏の高校野球(以下、甲子園)は高校生を使った感動ポルノ(感動の押し売り)、24時間テレビは障がい者(障碍者という漢字が嫌いなので百歩譲って)を使った感動ポルノであります。
甲子園はまあ、他のスポーツと同様にインターハイだと思えば良いのですが、インターハイならインターハイとして時代とともに変わっていけば良いのだと思います。坊主頭の強要、炎天下での強行スケジュール、かたくなな一会場制(サッカーなど他のスポーツは複数会場制です)、神聖なイメージの醸成等々、全部大人の都合で維持されている制度です。
24時間テレビも然り。もはや何のために走っているのかさっぱり分からない100キロマラソン、一般人から募金を集め出演者にギャラを支払う謎のシステム(海外のチャリティー番組は文字通りチャリティーで出演者はただ働きですね)、障がい者にアイドルの格好をさせてステージで躍らせるという何の見世物やねん状態、24時間ぶっ続けでやることの意味さえも失われた構成(かつては24時間というスケールにインパクトがありましたが、もはやそれは微塵もないですね)等々、完全に偽善番組のレッテルを貼られて久しいのに何一つ変えようとしないのは完全に「大人の都合」によるものでしょう。

まあ、いずれのコンテンツもテレビ番組としては視聴率を稼いでいるのでしょう。数字が落ちない限りは変わらないのかもしれません。

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内容(文藝春秋HPより)
ドラマもヒット。スピンオフ作品も公開予定
超能力にまつわる機械を開発していた技術者が行方不明に。増山が調査を始めると、所員や家族に魔の手が……。大好評シリーズ第二弾。


曹源寺評価★★★★
テレビドラマ化もされた本書シリーズに、第2弾が登場しました。うれしいですねこういうの。
前作は増山圭太郎率いる超能力師それぞれのメンバーにスポットを当てていて、どちらかというとほんわかした作風でありましたが、本書はだいぶシリアスな展開を迎えます。しかも長編です。
超能力を持つ人間とそうでない人間がいる近未来の世界、という設定でスタートしていて、ものすごく現実的な展開をしていくのが特徴的な本書ですから、超能力を測定したり数値化したりするのは当然の成り行きですね。さらに一歩踏み込んでいけば、超能力を科学の力で再現しようとするのも必然であります。
本書はこうした動きを中心に、産業スパイとか防衛産業とかそんな領域にまで足を踏み入れています。
ただ、「大戦争」というほど超能力対決がビシバシ描かれているかというと、全然そんなことはありません。それに、第1弾を読んでいない人にとっては少しわかりづらいところもあるかもしれません。そもそもの世界観を解説している箇所はほとんどありませんので、やはり第1弾から読むことをお勧めします。
また、ストーリー展開もどうしても説明チックになってしまうので、決してスピード感あふれるようなお話でもないです。
本書の世界観は、

超能力を国家資格にすることで非超能力者との共存を図ろうと模索している超能力師たちの奮闘

というのが根底にあるのだろうと思います。ですから、ある意味非常に社会学的で哲学的なお話なのだろうと。派手なアクションを期待するとあとでがっかりしますので、上記のような社会背景を理解したうえで読むほうが良いだろうと思います。
あと、ドラマはココリコ田中が主人公増山を演じていますが、個人的には谷原章介が脳内再生されてしまいます。あと、増山の師匠格である高鍋リサーチ代表の高鍋逸雄は鹿賀丈史ではなくもっとゴツイ・・・古田新太とかですかね。でも、ドラマの原作再現に対する忠実さは他のドラマにはないくらい高いレベルだと思います。





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