ミステリ読みまくり日記 〜書評(ネタバレあり)

通勤時間に読む、日本のミステリとその他小説をとりあえず書き留める
 

2017年12月05日

書評856 竹内明「スリーパー 浸透工作員 警視庁公安部外事二課 ソトニ」

こんにちは、曹源寺です。

先週、流行語大賞2017が発表されました。2017年は「忖度」と「インスタ映え」だそうです。昨年の「日本死ね」あたりからネット民の反発がすごくて、「ユーキャン○ね」まで発展してきましたが、今年もまた「忖度」で政治ネタを持ってきましたね。
さらに、トップ10には「フェイクニュース」がランキングされてより一層の物議をかもしています。
デイリー新潮の記事がありました。

流行語大賞「フェイクニュース」の説明もまたフェイクだった(2017/12/5)
毎年大きな話題となる「ユーキャン 新語・流行語大賞」。2017年の大賞は「忖度」「インスタ映え」で、それに続くトップテンの中には「フェイクニュース」が選ばれた。
この言葉が選ばれること自体には異論を挟む人は少ないだろう。なにせ大統領が頻繁に使っていたくらいである。
が、問題はその説明。同賞のホームページでは、「フェイクニュース」について、以下のような説明が掲載されている。
「ネット上でいかにもニュース然として流布される嘘やでっち上げ。2016年のアメリカ大統領選挙では『ローマ法王がトランプ候補の支持を表明』『クリントン候補がテロ組織に資金を渡した』など、いかにも報道サイトっぽい雰囲気のウェブサイトに掲載され、それがあたかも事実のように拡散した」

この説明を読んで、違和感を持つ人も多いのではないか。フェイクニュースは、ネット上で流布するもの限定の概念だったっけ? と。たしかトランプ大統領は、CNNなど既存メディアに対して「フェイクニュースだ!」と言っていたはず……。

その名も『フェイクニュースの見分け方』(烏賀陽弘道・著)には、「言葉の定義を明確にすることは、論点を明確にすることでもある」とある。つまり、何かを調べる際に、まず言葉の定義をきちんとしておくことが大切だというのだ。また、同書では「公開情報にあたることが大切だ」ともアドバイスしている。

そこで誰でもすぐにアクセスできる英語版のウィキペディアで「fake news」を見てみよう。
すると、最初に次のように書いてある。
「フェイクニュースとは、従来型の印刷物や放送、またはネットを介して伝えられる、意図的な誤情報、悪質な情報で、イエロージャーナリズムやプロパガンダの一種である」
少なくとも、「本家」アメリカでは「ネット上」の情報に限定していないことは明らかだろう。ところが、「流行語大賞」に限らず、日本では「フェイクニュース」というと「ネット」と結びつける論調が見られるのも確かだ。
もちろん、ネット上には怪情報が溢れていることは事実であるが、一方で新聞など大手メディアの誤報をいち早くネットユーザーが指摘することも珍しくない。『フェイクニュースの見分け方』の中で、著者は次のように述べている。
「よく『どの新聞なら信用できますか』という質問を受ける。あるいは『どのテレビ局なら』『どの雑誌なら』『どの番組なら』と聞かれる。そういう時、私はこう答えることにしている。『情報は料理です。媒体は料理を運ぶ器です。みなさんが食べるのは料理であって器ではありません』
ある料理を『美味しい』と気に入ったとき、覚えておくべきは料理を作った板前・シェフであって、皿を焼いた陶工ではない。
信用できる発信者を見つけたなら、その人がどんな媒体に移ろうと、発信する情報を追いかければ良い。
発信する情報が事実である精度が高ければ、別に報道記者でなくてもいい。研究者や弁護士など『高リテラシー職業』の人でなくてもいい。普通の市井の人でいい。肩書や職業はあまり関係がない。インターネット時代は、そういう人も事実を公に発信できる」
多くの場合、「フェイクニュース」と「ネット」を結び付けたがるのは、新聞などオールドメディア出身者である。してみると、「新語・流行語大賞」の説明で「フェイクニュース」=ネット上の情報、となっていたのは、そういう人たちへの「忖度」ゆえなのだろうか。


ユーキャンの説明に違和感を覚えた方は多かったと思いますが、怖いのは違和感を覚えずに「フェイクニュースとはネットに流布されているウソの情報である」という定義づけがいつの間にかなされていて、それを鵜呑みにしてしまっている人がそれなりにいるのではないかという点にあります。

違うんですね。
フェイクニュースを垂れ流しているのはマスゴミのほうであるということをしっかりと広めていく必要があるなあと痛感します。本当にひどいわ。


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内容(講談社HPより)
母上様、あなたはどうして日本を捨て、北にやってきたのですか――。
報道記者としても活躍する著者が放つ、リアル諜報ミステリ。
東京で、就活中の大学院生として、ごく普通の生活を送る青年・倉本龍哉。だが、彼の名前や戸籍、経歴は、すべてある国家によって用意され、与えられたものだった。
豊かで平穏な日本での日常と、家族の暮らす祖国のギャップ。エリート工作員としての誇り。周囲には決して悟られぬよう、日本社会に「浸透」(チムツ)する緊張……。
だが母親から、「日本でしてほしい」と頼まれた、ある願いが龍哉の運命を変えていく。
一方、「公安警察の狂犬」として外国スパイに恐れられながら、日本の上層部に巣食う潜入者=モグラの影に切り込み、警察組織を追われた外事二課のエース・筒見慶太郎は、指令を受けて訪れたバングラデシュ・ダッカのスラムで罠にかかり、殺人の嫌疑をかけられる。
交錯する筒見と龍哉の運命。日本と北朝鮮、対立する国家の狭間で引き裂かれた人々の思い。激闘の果てに、ふたりが辿り着いた驚愕の真実とは。
「目を醒ませ。本当のお前は、誰なのか――」


曹源寺評価★★★★
「外事二課」通称ソトニ。ソトニシリーズというのでしょうか、現役のTBS記者である竹内センセーが出したシリーズ第1弾の「背乗り」は、北朝鮮のスパイが日本人の戸籍を乗っ取って日本人に成りすましているという設定でその工作っぷりを暴露して話題となりました。本書は「背乗り」「マルトク」に続く第3弾ということになります。
竹内センセーの著作は悪の巣窟北朝鮮!というテーマで一貫されています。本書もまた公安vs北朝鮮という構図は変わりませんが、北の工作員の活動っぷりがあまりにもリアルなので驚かされること請け合いです。
ストーリー紹介は上記に譲りますが、あちこちで事件が起こり、一見バラバラのように動いて見えるピースが、実は一本の糸でつながっているということが中盤以降徐々にわかってきます。バングラディシュの殺人事件、国内で活動する背乗りの工作員、警察庁理事官の妻の不貞、筒見の元部下の裏工作、等々。中盤からラストにかけては怒涛の一気読みでありました。
ただ、事件というか工作そのものに重きを置かれていますので、何故にそういうことになったの?という疑問符が浮かぶ場面が少なくありません。

ディテールがイマイチなのに面白い

のは、やはりあちこちに仕掛けられているちょっとしたどんでん返しが良いスパイスになっているのでしょうか。
事件の構図はやや複雑ですが、ひも解いてみるとよくできているなあという感想です。だからこそ細かなところまでは書ききれなかったのでしょう。場面もあちこち飛ぶので頭の中を整理しながら読む必要があります。
衝撃的なラストも含めて、本書はシリーズ中でも最高の出来ではないかと思います。





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2017年12月01日

書評855 伊坂幸太郎「AX」

こんにちは、曹源寺です。

北朝鮮籍の漁船が相次いで漂着している件の真相は、どうやらこういうことらしいですね。
・北朝鮮は近海の漁業権を中国に売り払ってしまったので日本のEEZまで来るしかなくなっている
・それで母船がいくつものオンボロ船を(文字通り)率いて大和堆まで漁に来るようになった
・大和堆は荒れやすい海域なので、オンボロ船は母船から切り離される
・オンボロ船は燃料もそんなに積んでいないので自力で帰還できない
・運が良ければ日本のどこかに漂着するが、大抵は沈む
・乗組員はほとんどが軍人で漁の素人である

だから装備もわずかだし、一度切り離されれば大量に難破船が生まれるわけですね。なぜ軍人が漁をしているかと言うと、偉大な首領様が軍に栄養のある魚を食べさせるように指示したとかしないとか。おまけに軍人なら給料の範囲でこき使えるからだとか。

ですから、青山繁晴議員が国会で「天然痘ウイルスをばらまきにやってきたら防げないぞ」と実に怖いことをおっしゃいましたが、ちょっと大げさだったかもしれません。しかし、武装難民のシミュレーションと考えれば実践的でよかったのかもしれませんね。

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内容(KADOKAWA HPより)
最強の殺し屋は――恐妻家。 殺し屋シリーズ最新作!
【伊坂幸太郎史上最強のエンタメ小説<殺し屋シリーズ>、『グラスホッパー』『マリアビートル』に連なる、待望の最新作!】
最強の殺し屋は――恐妻家。
物騒な奴がまた現れた!
新たなエンタメの可能性を切り開く、娯楽小説の最高峰!
「兜」は超一流の殺し屋だが、家では妻に頭が上がらない。
一人息子の克巳もあきれるほどだ。
兜がこの仕事を辞めたい、と考えはじめたのは、克巳が生まれた頃だった。
引退に必要な金を稼ぐため、仕方なく仕事を続けていたある日、爆弾職人を軽々と始末した兜は、意外な人物から襲撃を受ける。
こんな物騒な仕事をしていることは、家族はもちろん、知らない。
書き下ろし2篇を加えた計5篇。シリーズ初の連作集!


曹源寺評価★★★★
伊坂幸太郎センセーの殺し屋シリーズ最新刊です。殺し屋シリーズは人気が高く、自分も大好きです!
「グラスホッパー」では「蝉」や「鯨」、「マリアビートル」では「檸檬」や「蜜柑」といった個性的な殺し屋さんたちが騒動を巻き起こしてくれます。
本書では「兜」が主人公です。ふだんは文房具の営業マンだが、超一流の殺し屋である。そして、恐妻家でもある。日ごろから妻の言動に注意し、また自分の言動も妻の逆鱗に触れぬよう注意深く振る舞う。高校生の息子を持つ父でもある。つまり、殺し屋であり、サラリーマンであり、夫であり、父である。それぞれの立場をしっかりと見極め、そして演じている。殺し屋稼業もおさらばしたいが、連絡役(仲介役)の医師がそれを許さない。抜けるには違約金がいるらしい。その違約金をねん出するために今日も兜は殺し屋に精を出す。
5作を収録した連作短編の形式ですが、最後の2作が書下ろしとなっていて、短編のようで実は長編だったみたいな感じに仕上がっています。この書下ろし2作が全体のストーリーを大きく補強していますので、いつもの伊坂作品、つまり

絶妙な伏線の回収と骨太なラストのコンビネーション

につながっています。
また、他の2作より登場人物が多くないので、シンプルでわかりやすいと思います。
なによりワクワクするのは、章割りの冒頭に押してある印鑑です!殺し屋シリーズだけのオリジナル(死神シリーズもそうだっけ?)ですが、自分はこれ見ると非常にグッとくるんですよ。さあ読むぞ!という気分にさせてくれます。

koroshiya.jpg

本書だけでも十分面白いのですが、過去の殺し屋さんも名前だけ出てくることがありますのでこのシリーズをご存じない方はぜひ「グラスホッパー」からお読みください。どっぷりと浸れますよ。





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2017年11月28日

書評854 柚月裕子「盤上の向日葵」

こんにちは、曹源寺です。

先週あたりから北朝鮮籍の船が石川県、新潟県、秋田県、青森県に相次いで漂着しているのですが、これが果たして亡命なのか漁の途中で転覆したものなのか、はたまた工作船なのか、よくわかっていないという状況のようです。よくわかっていないのではなくて、警察(公安)が情報を止めている可能性のほうが高そうですが。報道もなんとなく歯切れが悪いですよね。
個人的に思うのは、漁であるならばもうちょっとそれなりの設備がありそうなものですし、亡命というならいっぺんにこんなにやってくるのが奇妙です。さらに、上陸してきた人によると、1か月くらい漂流していたという説もあるそうですが、1か月の漂流ってすごいことですよね。普通なら病院に直行するレベルの話ですが、どうもそうではないみたいですから、やっぱり何らかの目的があって日本を目指してきたというのが真実ではないかと推測します。船の数と水死体の数がまったく合いませんので、すでに数名〜数十名が上陸している可能性は否定できないですね。

まあ、もし仮に工作員が多数上陸していたとしても、もともと日本はスパイ天国です。いまさら上陸してきたとしても果たしてどうなのよとは思います。しかし、彼らがアタッシェケースに小型の核爆弾でも持っていたらどうなんでしょう。もしかしたら、すでに手遅れなのかもしれません。
そんななかで、こんなニュースも。
北朝鮮有事など 緊急事態への備え指示 警察庁長官(11/27テレビ朝日)
警察庁長官が全国の都道府県警察のトップに対し、北朝鮮有事に備えるよう指示しました。
警察庁・坂口正芳長官:「緊急事態の発生時に迅速かつ的確に重要施設の安全確保と、国民の保護等の措置を講じることができるような十分な備えをされたいのであります」
都道府県の警察のトップが集まる「全国警察本部長会議」は27日午後、東京・千代田区で行われました。そのなかで警察庁の坂口長官は、核・ミサイルなど北朝鮮の脅威が増しているとして、北朝鮮有事など緊急事態の発生時に備えるよう指示しました。


うーん、どうやら本格的にテロへの備えをした方が良い時期に来たのかもしれません。
有事には人の多いところや大規模インフラが狙われやすくなります。そんなところに爆弾でも落とされたら備えても意味がありませんが、そういう場所に極力近づかないという手はあるかと思います。
自分は死ぬことに恐れはありませんが、戦争で死ぬと生命保険が降りませんので子供たちに悪いと思ってしまいます。テロや戦争では生き残った方が周囲に迷惑をかけなくて済むかなと。

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内容(中央公論新社HPより)
実業界の寵児で天才棋士。男は果たして殺人犯なのか? 今、二人の刑事が決戦の地・天童市に降り立った。著者渾身の将棋ミステリー!


曹源寺評価★★★★★
将棋ミステリというジャンルがあるのか分かりませんが、将棋や囲碁などを題材にした作品はそれなりにあるもので、古くは斎藤栄センセーの「殺人の棋譜」あたりが有名でしょうか。最近では竹本健治センセーが「涙香迷宮」のなかで囲碁に触れたストーリーを展開されていたりします。ちなみに、歌野晶午センセーの「密室殺人ゲーム王手飛車取り」は将棋とは全く関係ありません。関係ないのにタイトルに将棋ですからね、将棋とミステリは相性が良いのでしょうか。
柚月裕子センセーは「合理的にあり得ない」で将棋について少しだけ触れていますので、本書はそうしたところからヒントを得て一作の長編として書き上げてこられたのだろうと思います。
さて、本書のストーリーは身元不明の死体が発見された事件から捜査が始まります。埼玉県警の2人の刑事、石破と佐野が遺留品である将棋の駒の持ち主を執念によって探し出し、身元を割り出して犯人に迫っていくというものです。佐野刑事は奨励会に所属していたこともあるという変わり種ですが、刑事としての技量と執念は先輩の石破に譲ります。果たして将棋の駒から身元は割れるのか?二人は日本中を探し回ります。それはまるで

駒を訪ねて三千里

と言っても過言ではない、そんな長い旅の果てにひとつの結末を迎える展開になっています。
また、同時にこの駒の由来に属するエピソード的なサイドストーリーとして、一人の男の物語が進行していきます。幼少に母を亡くし、父にはネグレクトされるという不幸な生い立ちと、彼の才能を見抜いてサポートする恩師。将棋に魅入られて将棋の世界に足を片方踏み入れながらも、いったんは恩師と決別し大学に進学する。しかし、一人の真剣師と出会うことで人生が一転するようになる。一手一手に命を懸ける真剣師の気迫あふれる打ち筋に魅入られたその男は、実業の世界から再び将棋の世界に足を踏み入れることに。
こうやってさらっと書くと、たいして面白そうではありませんが、実はこのサイドストーリーこそが事件の背景と真実に迫る大きなカギとなっており、なによりその描写は事件捜査よりも迫力があります。
現場に残された唯一の遺留品から犯人像を割り出し、地道に追いかけていくというストーリーは松本清張の刑事ドラマを観ているかのようであります。しかし

本書のキモはその捜査ではなくて、

一人の男が歩んだ、いや、導かれたという表現が正しいでしょう、過酷で数奇な運命の物語であります。
謎解きは深くありませんのでミステリとしての面白さはそれほどではないかもしれませんが、本書は一人の男の哀しい最期に愕然とさせられること間違いなしです。大きな失望感とともに一気読みすべき作品でありました。





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posted by 曹源寺 at 17:20| Comment(0) | や行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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