ミステリ読みまくり日記 〜書評(ネタバレあり)

通勤時間に読む、日本のミステリとその他小説をとりあえず書き留める
 

2017年05月26日

書評805 黒川博行「喧嘩(すてごろ)」

こんにちは、曹源寺です。

明治がお菓子のロングセラー商品「カール」を中部以東で販売終了すると発表しました。明治はついこの前もロングセラー商品「カルミン」を製造中止していますので、これからも製造をやめる商品が出てきそうですね。
さっそく、メルカリやヤフオク!では転売ヤーが湧いてきていまして、そこに需要があるとみなされれば個人で売り買いに走る輩がたくさん出現していることが良く分かります。

ネット社会になって久しいですが、この転売ヤーに限らず、ブログのアフィリエイトで稼ぐ人やYouTubeで動画配信して稼ぐ人、キュレーションサイトに記事を書き連ねている人やツイッターに自分で描いたマンガを貼り付けている人などなど、インターネットでは個人で稼ぐ仕組みがだいぶ確立されてきたように思います。
それゆえに、リアル社会とネット社会の間にある種の隔たりができつつあるのではないかとも思います。たとえば、転売ヤーの個人取引においては課税がなされることはなく、この売り上げもGDPに加算されることもないわけで、一昔前ならこれは「アングラ経済」と呼ばれてもおかしくはない経済活動なわけです。個人消費の停滞とかデフレ再びとか言われつつありますが、このアングラ部分はもう無視できない存在になっているのではないかと危惧するわけです。
そろそろ財務省や国税庁あたりは課税方法を編み出してきそうな気がしますが、それはさておき、モノの売買が実体経済に隠れているのとは対照的に、情報の世界ではネットとリアルがごっちゃごちゃになってきた印象があります。

たとえば、加計学園の問題(何が問題なのかよく共有されていないのも問題ですが)に関する報道では、客観的な報道が
文科省から文書がリーク→元事務次官が本物と認める→野党が証人喚問を要求
という流れですが、その本質(というか書きたい本音)は
総理あるいは官邸が特区認定に恣意的な働きかけをしたのではないかという疑惑がこれで深まった
というものです。
しかし、一方ではこういう報道もあります。
文科省事務次官が組織的な天下りに関与していた→辞めさせられる→意趣返しとばかりに文書をリーク→でも文書の出所を明言しない→国家公務員の守秘義務違反じゃね?
また、
事務次官は出会い系バーに入り浸っていた→こんな信頼の置けない奴のリークなどフェイクかもしれないね
という主観的報道もあったります。

これまではだいたい、報道が客観的であるのに対してネットでの意見表明や書き込みが主観的あるいは感情的であることが多かったのですが、最近は報道のほうが感情的だったりするように思うわけです。
それに記事の内容もある種の「為にする」記事であることのほうが目につきます。この「為にする」報道に対してネットの書き込みのほうが客観的だったりすることがけっこうあったりしまして、すごく冷静に考えれば今回の件も、報道のほうが過熱気味でネットのほうが冷静にツッコミを入れているような、そんな気がします。

これをどう捉えたら良いのか、そろそろ社会学の先生あたりから論文が出てきそうな感じですが、個人的にはこれまでネットを見下してきたマスコミが、いつの間にかネットから見下されるようになっていた、という論調で2、3本書けそうな気がします。

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内容(KADOKAWA HPより)
売られた喧嘩は買う。わしの流儀や――。
直木賞受賞作『破門』、待望の続編。
建設コンサルタントの二宮は、議員秘書からヤクザ絡みの依頼を請け負った。
大阪府議会議員補欠選挙での票集めをめぐって麒林会と揉め、事務所に火炎瓶が投げ込まれたという。
麒林会の背後に百人あまりの構成員を抱える組の存在が発覚し、仕事を持ち込む相手を見つけられない二宮はやむを得ず、組を破門されている桑原に協力を頼むことに。
選挙戦の暗部に金の匂いを嗅ぎつけた桑原は大立ち回りを演じるが、組の後ろ盾を失った代償は大きく──。


曹源寺評価★★★★★
「疫病神」シリーズの最新刊です。前作の「破門」は2014年上半期の直木賞を受賞しました。建設コンサルタントの二宮と本職の893である桑原のコンビが巻き起こす騒動をコミカルに、かつ大胆に描いたこのシリーズは黒川センセーの出世作でもあります。
桑原は前作の最後にタイトルの通り二蝶会を「破門」になりましたので、正確にはカタギということになりますが、逆にカタギのくせに本職に喧嘩を売るというとんでもない立ち回りを続けていきますので、本書のほうが前作よりもエキセントリックです。
いつ後ろから刺されてもおかしくない状況で、悪辣な政治家秘書を脅し、議員事務所にカチコミを入れ、拉致し、殺しの現場をあつらえて(芝居ですが)相手をとことん追及する、というとんでもないカタギが桑原という男です。

「人間、首まで土に埋めたらなんでもいうことを聞く」

という桑原のセリフ、これを書ける人はもう黒川センセーしかいないのではないかと思いました。
関西ヤクザの真髄を見るかのようなこの立ち回り、痺れるほど面白いのですが、二宮との掛け合いをはさんでいるのでシリアスさがスポイルされてとってもコミカルになっているところが本書の良い所でもあろうかと思います。
それにしても、暴対法以降の厳しい環境下において、彼らの行動は大きく制限されています。金に困っている団体も多いと聞きます。そんななかで彼らの資金源となっているのは何かというと、社会福祉法人らしいです。どんなシノギなのか知りたいので、ぜひ今度はこの辺の業界をテーマにして黒川センセーに書き上げていただきたいと思います。





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2017年05月23日

書評804 佐藤究「QJKJQ」

こんにちは、曹源寺です。

ここ20年くらいで大きく変化した世の中の風潮のなかに、嫌煙権があります。どこでもタバコが吸えた時代はとうの昔に終わっており、受動喫煙対策も本格化しつつありますので愛煙家にとっては窮屈極まりない時代になりました。
自分も新入社員の時代にはオフィスのデスクで吸えたものでしたが、いまは全館禁煙です。オフィス街ではタバコが吸える建物のほうが少なくなっているかもしれませんね。

さて、自民党内における受動喫煙対策の会合で大西英男衆議院議員が「(がん患者は)働かなければいいんだよ」と発言したことが騒動に発展しました。自民党議員の舌禍事件として取り沙汰されています。
大西議員は陳謝したものの「働かなくていいのではないかというのは、ごくごく少数の喫煙可能の店でのことについてだ。がん患者が働かなくてもいいという趣旨ではない」として発言は撤回しない考えです。

これ、舌禍事件ですかね?
発言の趣旨は「喫煙可能な店で肺がん患者が働く必要はない」であって、「小麦アレルギーの人がパン屋で働く必要はない」と言っているのと同じだと思うのですが。
「お酒を飲めない人がバーテンダーをやる必要はない」
「ヘルニア持ちの人が引っ越しの仕事をする必要はない」
「花粉症の人が林業をやる必要はない」
「泳げない人がライフセーバーの仕事をする必要はない」
これらは仕事をすることによってその人の体調を壊し、あるいは症状を悪化させ、場合によっては他人にも迷惑をかけることになる事例です。職業選択の自由とか言う以前に、やったらダメでしょうという話です。
大西議員は言葉足らずだったとは思います(ヤジとしても品がないです)が、これをもって議員辞職せよとか撤回するまで許さないとかいうのは言葉狩りでしかないのではと思います。

受動喫煙対策も、小規模事業者にとっては客が減る可能性が指摘されていますので、自民党としてもどこかで抜け道がないと支持層からそっぽを向かれそうですね。個人的には、タバコを吸えるお店の名称に必ず「シガーバー」とつけなければいけないとか、そういうルールでも定めてはどうかと思います。「シガーバー和民赤坂店」とか「シガーバー塚田農場渋谷店」とか「シガーバーすしざんまい築地店」とか。
嫌煙家は絶対に来なくなると思います。


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内容(講談社HPより)
市野亜李亜(いちのありあ)は十七歳の女子高生。猟奇殺人鬼の一家で育ち、彼女自身もスタッグナイフで人を刺し殺す。猟奇殺人の秘密を共有しながら一家はひっそりと暮らしていたが、ある日、亜李亜は部屋で惨殺された兄を発見する。その直後、母の姿も消える。亜李亜は残った父に疑いの目を向けるが、一家には更なる秘密があった。
「平成のドグラ・マグラ」
「ものすごい衝撃を受けた」
選考委員たちにそう言わしめた、第62回江戸川乱歩賞受賞作。


曹源寺評価★★★★
2016年の江戸川乱歩賞受賞作品です。
90年以降の乱歩賞受賞作品はすべて読了してきましたが、その歴代の受賞作のなかでも本書はある意味衝撃的でありました。
父、母、兄、そして自分の一家4人がすべて猟奇殺人鬼という設定。
ここからしてもう異端です。
地上3階地下1階の我が家には処刑部屋があり、各々殺したいときにその部屋に連れ込んで惨殺する。なんともおどろおどろしい設定です。あぁ、なんだかとっても乱歩的ですね。
こういう奇抜な設定で思い出すのは2000年の受賞作「脳男」でしょうか。ロボットも顔負けのmm単位で精密な動きを行うことができる主人公の「脳男」。ある評者は「この設定だけでもう勝ちだ」と絶賛していたのを思い出しました。
そんな一家にある日、兄が部屋で惨殺され、母も失踪するという事件が起こります。そこからはストーリーが二転三転し、この一家の秘密が明らかになっていきます。
リアリティには欠けますが、それは初期設定のせいだけではありません。真実が明らかになったと思ったら新たな真実が浮かび上がる。普通ならひっくり返さないところをひっくり返す。登場人物の言動や行動にも仕掛けがあったりして、最後まで気の抜けない展開でありました。

幻想と現実の境界線で揺れ動く主人公。

読者もまたその揺れ動く姿に幻惑されます。

この手の作風が好きな方にはたまらない作品になっているのではないかと思います。
佐藤センセーは1977年生まれ。「佐藤憲胤」の名でデビューしていましたが、乱歩賞受賞で改めて佐藤究(きわむ)としてデビューという経歴です。
本書はあの新潮社の中瀬ゆかり氏が「久しぶりに天才現る」と大絶賛しただけでなく、乱歩賞審査委員会の面々のうち有栖川有栖センセーが「平成のドグラ・マグラ」と評したほか、今野敏、池井戸潤、辻村深月の各センセーが褒めていました。
なるほど、こういう世界観でほかの作品も読んでみたいと思わせるような新人の登場かもしれません。次回作にも期待してみたいと思います。





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2017年05月19日

書評803 石持浅海「殺し屋、やってます」

こんにちは、曹源寺です。

森友学園に続き、今度は加計学園の疑惑ということで盛り上がっています(別の意味で)が、学校法人というのはある意味一般人にはうかがい知ることのできない闇が広がっていそうで怖いですね。
特に大学誘致や学部誘致に関しては公明正大な手続きなのか、それとも「利権」としてうごめく何かがあるのか、非常に分かりにくい世界のように思えます。
獣医学部が50年もの間、新設されてこなかったという経緯もまた、怖いものを感じてしまうわけですが、では獣医師というのはどんな「業界」なのか、調べてみました。

農林水産省の資料によると、平成26年(2014年)現在の獣医師の届出件数は39,098人だそうです。少なっ!
どの位少ないかというと、弁護士の人数が36,415人(2015年)ですから、だいたい近い数字ですね。文系最難関の国家資格と同等の人数しか活躍していないマーケットということになりますので、獣医師の皆さんはエリートと呼んで差し障りないと思います。

日本獣医師会という団体がありまして、そこが発表している獣医師の需給に関する資料では、毎年1,000人程度の獣医師が誕生して、同じくらいの人数が引退・廃業しているらしいので、現状ではおおむね需給が安定しているという状況だそうです。
しかし、2040年の将来推計では最大で3,500人が不足するといったデータも公表しています。つまり、今は安定しているけれども近い将来は獣医師が不足する可能性があるよ、と言っているわけです。もちろん、逆に1,000人程度が余る可能性もあると指摘しています。

これは、犬や猫などのペットに対する診療回数が増加する、あるいは政府の政策目標に対して家畜に対応できる産業獣医師の需要が増加する、といったことが要因として挙げられていますが、日本獣医師会はこの需要予測に対して否定的なコメントを付け加えています。
つまり、「犬や猫がそんなに増えるわけねえだろ、産業獣医師が必要になる傾向は分からなくもないけど」というニュアンスです。

つまり、獣医師会全体では獣医学部の増設には慎重な姿勢であるという感じです。医師の世界と同様、地域的な偏在も伺えますし、医師免許を取得したにもかかわらず獣医師として活躍していない人も3,500人程度いるみたいですので、こうした問題の解決も迫られているようですね。

たとえば、医学部でも地域偏在という問題がありますが、この問題解決のために国は自治医科大や産業医科大を設置し、学費を無料にする代わりに卒業後は地方医療機関への従事を義務付けているような施策があります。
獣医学部を設置している大学はわずかに16校しかなく、四国だけでなく甲信越や北陸にもありませんし、中部には岐阜大学、近畿には大阪府立大学にしかありません。

こうした獣医師の「業界」をちょっと覗いただけでも、いまの加計学園問題の騒動がいかに本質とずれているのかがよく分かります。免許制の業界はそれなりの待遇を得られる反面、国家への貢献が求められる仕事ではないかと思いますので、現状の問題、課題の解決を優先させてほしいですし、そのための議論を国会で行っていただきたいと思います。


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内容(文藝春秋HPより)
安心・安全のシステムで、殺し屋、やってます。
コンサルティング会社を営む男、富澤允。
彼には裏の仕事があった。
650万円の料金で人殺しを請け負う「殺し屋」だ。
依頼を受けたら引き受けられるかどうかを3日で判断。
引き受けた場合、原則2週間以内に実行する。
ビジネスライクに「仕事」をこなす富澤だが、標的が奇妙な行動が、どうにも気になる。
なぜこの女性は、深夜に公園で水筒の中身を捨てるのか?
独身のはずの男性は、なぜ紙おむつを買って帰るのか?
任務遂行に支障はないが、その謎を放ってはおけない。
殺し屋が解く日常の謎シリーズ、開幕です。


曹源寺評価★★★★
安定の短編ミステリ作家、石持センセーの新刊(でもないですね)は殺し屋が主人公の連作短編でした。
普通に大学を出て普通に仕事をしているけれども、なぜか殺し屋を副業にしている主人公の富澤、連絡係の塚原と伊勢殿を挟み、依頼者とは直接コンタクトをしないことで身の安全と感情移入による失敗を防いでいる。一回の殺人の報酬は650万円で、前金300万円を受け取り実行後に残金を受け取る仕組みだ。なぜ650万円なのかは本書を読んでいただきたい。納得するようなしないような。
そう、石持センセーの作品はだいたいが

読んで納得できそうでできない

という展開が多いのですが、それはだいたいにおいて「殺害の動機がおかしい」というものでありました。今回は違います。なにせ殺し屋に動機は要りませんから。
本格ミステリにおいて、よく殺害の動機よりもそのテクニックに重きを置かれている作品を目にしますが、自分はもっと人間的な、というかドラマ的な、そこにストーリーを見出さないとあまり納得できない性質なものですから、トリック重視のミステリはあまり読みません。
石持センセーもよくトリック重視の作品を出されるのですが、まだ納得できるのは「状況的にこの推理意外ありえない」というところまで理屈で攻めてくる点にあると言えるのではないかと思います。
本書もまた、理屈で攻めてくる推理を分かりやすく展開されているので、「あぁ、そういうことね」と納得させられてしまうのであります。
>>なぜこの女性は、深夜に公園で水筒の中身を捨てるのか?
>>独身のはずの男性は、なぜ紙おむつを買って帰るのか?
紹介文にあるこの謎は、なるほど読めば納得できますが、よくよく考えてみればあくまでも状況証拠でしかない話だったりするので、後になって「もしかしたらセンセーに騙されているのではないか」と疑ったりもします。
ですから、本書の場合(というか石持作品全般そうですが)あまり深く考えずに読むのが正しい読み方ではないかと思います。





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