ミステリ読みまくり日記 〜書評(ネタバレあり)

通勤時間に読む、日本のミステリとその他小説をとりあえず書き留める
 

2017年05月16日

書評802 呉勝浩「白い衝動」

こんにちは、曹源寺です。

本日の書評で紹介する「白い衝動」では、人を殺したくてしょうがないという衝動を抱えた少年が登場します。人と違った反応を示すことで社会生活が困難になってしまうことを「パーソナリティ障害」と呼びますが、単にその人が生活しにくいというだけならまだしも、他人に危害を与えかねないほどの衝動を持ってしまうと、その処方箋は「隔離」か「洗脳」といった手段しか残されていないのではないかと考え込んでしまいました。
パーソナリティ障害には「妄想」や「脅迫」といったものだけでなく、統合失調型のものもあれば反社会性といったものもあるようですね。反社会性の障害には「平気で嘘をつく」「法律を守らないことに躊躇しない」「罪の意識がない」といった特徴があるようです。
パーソナリティ障害について調べてみると、どうやら人口の2%程度いるといった推計があるようですが、反社会性パーソナリティ障害だけに限ったらどのくらいの数になるのでしょうか。1%もいたらやばそうですね。
でも、知能や学習能力とはあまり関係ないという説もありますので、「隠れ反社会性パーソナリティ障害」みたいな人もいたりするのかもしれません。
もしかしたら、「平和のためなら断固として戦う!」とか「私は差別と黒人が嫌いです」とか一行で矛盾したことを言っている人たちはこうした障害をお持ちなのかと思ってしまいました。ほかにも職業的にこの障害をこじらせている人たちがいるような気もします。どんな職業かは書きませんが、もしかしたらこうした障害をこじらせやすい職業もあったりするのかもしれません。

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内容(講談社HPより)
小中高一貫校でスクールカウンセラーとして働く奥貫千早のもとに現れた高校1年の生徒・野津秋成は、ごく普通の悩みを打ち明けるように、こう語りだす。
「ぼくは人を殺してみたい。できるなら、殺すべき人間を殺したい」
千早の住む町に、連続一家監禁事件を起こした入壱要が暮らしていることがわかる。入壱は、複数の女子高生を強姦のうえ執拗に暴行。それでも死に至らなかったことで、懲役15年の刑となり刑期を終えていた。
「悪はある。悪としか呼びようのないものが」
殺人衝動を抱える少年、犯罪加害者、職場の仲間、地域住民、家族……そして、夫婦。
はたして人間は、どこまで「他人」を受け入れられるのか。
社会が抱える悪を問う、祈りに溢れた渾身の書き下ろし長編。


曹源寺評価★★★★
2015年の乱歩賞受賞作家、呉センセーもまた受賞後に積極的な執筆活動をされているお一人です。ただ、その内容は一貫しているわけではなく、前向きに言えば、さまざまなジャンルに挑戦しているように思えます(逆に、薬丸岳センセーなどはテーマが首尾一貫していますが、たまに違うテーマで書き下ろしたりされるとオカシイとか言われてしまって可哀相ではあります)。
本書は殺人衝動を抑えて苦しんでいる高校生、野津秋成と向き合うスクールカウンセラーの奥貫千早を主人公に、ちょっとだけミステリを加えた社会派作品に仕上げています。
テーマは奥深く、
「社会に受け入れられない衝動を持つ人物は、社会とどう向き合っていくべきなのか」
あるいは
「社会に受け入れられない衝動を持つ人物と、近隣住民はどう向き合うべきなのか」
そして
「普通と異常の境界線はどこにあるのか」
みたいな深く考えさせられる問いかけも含んでいます。
そんな作品ではありますが、自分は多少なりとも心理学をかじってきていますので内容についていけるものの、心理学を知らない人はちょっと専門的な部分に突っ込んでいるので分かりにくいところもありそうです。
本書には二人の異端な人物が登場します。一人が上述の野津秋成で、もう一人は連続一家監禁事件を引き起こして15年の刑期を終えて出所した入壱要です。入壱は殺人こそ犯していないものの、その犯した所業はちょっとムナクソ悪いのです。しかし、刑期を終えた人間は一般社会に戻る権利があるのも事実です。この人物像があの神戸連続殺人事件の少年Aとかぶるので、出所したとはいえ被害者の心情的には娑婆に出てきやがってこの野郎!と思ってもしょうがない部分がありましょう。そんなヤツが近所に引っ越してきたら、やはり反対運動が起こるのも分かる気がします。
そんな騒動が本書のなかでも巻き起こりますガ、騒動の渦中で野津と向き合う千早は彼をどのように導くべきなのか、苦悩を重ねます。そして騒動は新たな局面を迎えます。
導入部からはとっても猟奇的な展開を期待してしまいますが、実際には

哲学的な内容を多分に含んでいます

ので、乱歩的な何かを期待している人にはあまりお勧めできません。しかし、犯罪者と犯罪予備軍、そして一般の市井の人々の間にある、超えてはいけない一線がどこにあるのか、さらに、普通でない人たち(これをマイノリティを呼ぶべきなのかは分かりませんが)と社会のあり方などについてはいろいろと考えさせられる作品であることは間違いないと思います。





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2017年05月12日

書評801 太田愛「天上の葦(上)(下)」

こんにちは、曹源寺です。

本日の書評で紹介する作品「天上の葦」では、太平洋戦争の東京大空襲が回想シーンで出てきます。
民間人への無差別爆撃というのは戦争法で禁じられているにもかかわらず、戦後の東京裁判でも採り上げられることなく現在に至っています。わずか数時間で東京都民10万人が爆死あるいは焼死という、とんでもない殺戮でありましたが、かの戦争における悲惨なシーンでは「沖縄地上戦」「広島・長崎への原爆投下」「バターン死の行進」「アッツ島玉砕」「ガダルカナルの戦い」「サイパン陥落」「カミカゼ特攻隊」といった多くの戦争の悲惨さを綴るキーワードとともに埋もれてしまっているような気がするのは自分だけでしょうか。本書の回想シーンは結構生々しい描写ですので注意が必要ですが、東京大空襲の悲惨さは(米国の狡さだけではなく、B29からビラを撒いて事前警告している事実、大本営が疎開を大々的に行わなかった事実、新聞もそれを黙殺した事実、などなどすべてひっくるめて)語り継がれて然るべしだと思います。

自分の母親は1934年(昭和9年)生まれの新宿区民だったのですが、終戦間際には山梨の甲府だか勝沼だかの方へ疎開しました。終戦後に帰ってきたら案の定焼け野原で、そこには見知らぬ輩が勝手に土地を占領していたそうです。母の父(つまり祖父)はお人よしだったので、その土地を諦め、神奈川県南部に移り住んだと聞きました。あーもったいねー。

小説のネタとして「かの戦争」が採り上げられることは往々にしてありますが、さすがに2017年にもなると当時の生き証人を出すには御年90歳を超えるご老体を登場させねばならず、だいぶ苦しい展開を余儀なくされてきていますね。90歳代の方々が数多く登場する小説というのもどうなのかと思いますし、そろそろ限界な気がしなくもないです。

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内容(KADOKAWA HPより)
(上巻)
生放送に映った不審死と公安警察官失踪の真相とは?感動のサスペンス巨編!
白昼、老人が渋谷のスクランブル交差点で何もない空を指さして絶命した。正光秀雄96歳。死の間際、正光はあの空に何を見ていたのか。それを突き止めれば一千万円の報酬を支払う。興信所を営む鑓水と修司のもとに不可解な依頼が舞い込む。そして老人が死んだ同じ日、ひとりの公安警察官が忽然と姿を消した。その捜索を極秘裏に命じられる停職中の刑事・相馬。廃屋に残された夥しい血痕、老人のポケットから見つかった大手テレビ局社長の名刺、遠い過去から届いた一枚の葉書、そして闇の中の孔雀……。二つの事件がひとつに結ばれた先には、社会を一変させる犯罪が仕組まれていた!? 鑓水、修司、相馬の三人が最大の謎に挑む。感動のクライムサスペンス巨編!
(下巻)
日常を静かに破壊する犯罪。 気づいたのは たった二人だけだった。
失踪した公安警察官を追って、鑓水、修司、相馬の三人が辿り着いたのは瀬戸内海の離島だった。山頂に高射砲台跡の残る因習の島。そこでは、渋谷で老人が絶命した瞬間から、誰もが思いもよらないかたちで大きな歯車が回り始めていた。誰が敵で誰が味方なのか。あの日、この島で何が起こったのか。穏やかな島の営みの裏に隠された巧妙なトリックを暴いた時、あまりに痛ましい真実の扉が開かれる。
―君は君で、僕は僕で、最善を尽くさなければならない。
すべての思いを引き受け、鑓水たちは力を尽くして巨大な敵に立ち向かう。「犯罪者」「幻夏」(日本推理作家協会賞候補作)に続く待望の1800枚巨編!


曹源寺評価★★★★
テレビドラマの脚本家から小説デビューして三作目となった太田愛センセーの本作でありますが、今回もまた上下巻1,800枚の書き下ろしということで濃密な作品に仕上がっておりました。
デビュー作の「犯罪者 クリミナル」から登場人物が変わっていないというのもすごいことです。いつものように鑓水、修司の探偵コンビに加えて、現役警察官の相馬、カメラマンの鳥山といった面々が事件に遭遇し、これを解決していきます。
秩父の介護施設にいた老人・正光がなぜ天を指して渋谷のスクランブル交差点で倒れたのか。なぜ、正光の死の直前の行動を探る人がいるのか。このあたりの謎はとても映像的で、太田センセーらしい仕掛けが満載です。同時進行で警察官が行方不明になっているという事件を絡めてきますが、これがどうやってつながっていくのか、という展開にもワクワクです。
事件の鍵を瀬戸内海の離島に求め、濃密な人間関係を背景としたコンゲーム的な場面もありますが、こうした演出もなんとなくテレビっぽい気がします。
テレビや新聞といった媒体の特性を熟知している太田センセーは、さらにネットとのBUZZ効果も狙って主人公に騒動を引き起こそうとしているのですが、このあたりの描写はもろに

リアルすぎて生々しいので

現実の世界とリンクして考えてしまいそうです。
ちょうど、テレビドラマではフジ系列の「CRISIS(クライシス)」があの金城和紀センセー作品として放映されており、5月9日の放送ではヤクザ同士の抗争にみせかけて組を潰した政治家が、公安のリークによって児ポ法で逮捕されるという筋書きの回でありました。さらに、今週発売の週刊新潮にはジャーナリストの山口敬之氏が準強姦容疑をもみ消したといった記事が出たりしまして、なんだかとても陰謀の匂いがあちこちに漂っておりました。
本書もまた(ネタバレですが)、


公安の筋書きによる壮大な陰謀を描いたものでありましたので、なんとまあ世の中には陰謀が溢れかえっているのかとあきれてしまいます。

ストーリーに話を戻しますと、中盤の離島のシーンはもっとスペクタクルな展開をイメージしていたので、ちょっと冗長な感じがなくもないですが、それ以外は軽やかなテンポでぐいぐいと読ませてくれました。
評価はもしかしたら多少分かれるかもしれませんが、個人的には満足です。





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2017年05月09日

書評800 柚月裕子「慈雨」

こんにちは、曹源寺です。

GW中はすっかり更新をさぼってしまいました。ほとんど家にいたのですが、プチリフォームみたいなことばかりしていて、毎日ヘロヘロになっていました。
5月最初の投稿は祈念すべき800回目の更新ということになります。888888888888

えー、このところ森友学園問題やら北朝鮮問題やら、世間をにぎわせてきた話題は着地点が見当たらないまま浮遊しているようなものが多くて、マスゴミさんはさぞ悩んでいらっしゃると思いますが、そんななかで今度は安倍首相が(というか政府が)改憲を期限付きで実行すると明言し始めました。
ただ、その手法は「憲法第9条の1項と2項を維持して、新たに自衛隊を合憲とするべく3項を追加する」といった手法だったり、あるいは「高等教育無償化を明記する」といった野党も反対しないだろうという改憲案だったりするわけです。
ちょっと姑息な気がしないでもないですが、まずは改憲の実績を作ろうとする試みはダメとは言いにくいですね。なにせ、70年間も放置されてきたわけですから。
衆参両議院でいずれも改憲に必要な3分の2以上の議席を確保している現在、「改憲するか否か」の議論ではなくて、「どこをどうやって改憲するか」の議論になるのは当然といえば当然です。この背景を無視して「議論が深まっていない」とかいろいろ抜かして改憲そのものを阻止しようとする勢力が妨害工作を仕掛けようとするのは目に見えていますが、少なくとも「議論を深めよう」とする動きだけは止めないでいただきたいものです。
マスゴミにお願いしておきたいことは、議論を深めるということは一方的な意見のみを紹介するのではなく、両論をきちんと併記して、その判断は読者あるいは視聴者にゆだねて欲しいということです。
まあ、新聞社は自分たちの意見を載せるのは良いですが、テレビはダメでしょう。電波は国民の財産であるということを忘れずに。

個人的には、自衛隊の存在が違憲であるとする判断も憲法学者らに根強くあるという現状において、せめて自衛隊の存在を認め、自衛権を明記する、ということくらいはやってほしいと思っています(だから3項の追加などという手段はちょっとどうかと思うのです)。


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内容(集英社HPより)
16年前の幼女殺害と酷似した事件が発生。かつて刑事として捜査にあたった神場は、退職した身で現在の事件を追い始める。消せない罪悪感を抱えながら──。元警察官の魂の彷徨を描く傑作ミステリー。


曹源寺評価★★★★★
孤狼の血」で「第69回日本推理作家協会賞」「本の雑誌が選ぶ2015年度ベスト10」第2位、「2016年度このミステリーがすごい!」第3位にランクインした柚月センセーですが、自分もこの作品で一気にファンになってしまいました。「孤狼の血」は映画化もされるそうですね。
こういう時流に乗ってしまった作家というのは、だいたい次もはずさないものですね。本書はやはりミステリ色満載の作品ですが、異色なのは定年退職した元警察官が四国八十八箇所の巡礼を行いながら、現在進行中の犯罪を通して自分を見つめなおしつつも事件を解決に導いていくという、なんとも珍しい設定となっているところでしょうか。
事件は主人公の地元・群馬で発生していますが、主人公の神場はお遍路真っ最中であります。そして、お遍路の最中に出会った人たちや、妻との会話を通して過去の事件、過去の自分と向き合います。そこには駐在所に半ば島流し的に送り込まれても耐え忍び、県警の捜査一課に抜擢されて定年を迎えた神場の姿が見えます。その一方で、16年前の女児誘拐事件ではまだ信憑性の薄いDNA鑑定に頼りすぎて誤認逮捕=冤罪を生み出してしまったのではないかという疑念を抱えながら生きてきた葛藤も浮かび上がってきます。
そして現在、16年前と同じような女児誘拐殺人事件が発生してしまい、過去の苦悩と戦いながら巡礼を続ける神場、そして神場の娘と交際している優秀な元部下の緒方刑事。神場に事件解決を託された緒方もまた、自分の父親になろうとする男の犯した過去を糾弾せざる得ない立場に苦悩します。
事件をひとつの大きな柱とするならば、こうしたサイドストーリーは単なる味付けに過ぎない場合が多いのですが、本書はこれらこそが重厚なテーマを持った問いかけであり、単なる味付けに終わらない骨太なヒューマンドラマとして描かれています。
食べ物に例えるなら、ローストビーフですね。ソースのないローストビーフは大してうまくないですが、たまねぎ系のさっぱりしたソースが加わると至高の味になるのと同じです。本書も事件そのものは大して珍しくもないのですが、そこに数十年間熟成を重ねた太いエピソードが混ざることによってストーリー全体をものすごい深いものにしているわけです。

過去のエピソードがあまりにもドラマチックでグッとくるストーリー

ですので、お遍路さんの動きそのものがあまり面白くもないのに、全体としてはカッチリとまとまっているのは、構成もさることながら、柚月センセーの筆力もまた素晴らしいからにほかならないのでしょう。泣けるとか、そういうのではないけれども、グッとくるものがある。そんな作品でした。





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posted by 曹源寺 at 16:16| Comment(0) | TrackBack(0) | や行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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