ミステリ読みまくり日記 〜書評(ネタバレあり)

通勤時間に読む、日本のミステリとその他小説をとりあえず書き留める
 

2017年08月25日

書評830 長岡弘樹「血縁」

こんにちは、曹源寺です。

フェイクニュースの見本が届きましたのでご紹介します。

東京新聞の8月23日付のニュースです。
米軍ヘリ、ベイブリッジに低空接近 市民団体が撮影 真横飛行「危険だ」(2017年8月23日 07時06分)
横浜港で米軍ヘリコプターが低空飛行し、横浜ベイブリッジを支えるケーブル付近まで接近したのを、市民団体「リムピース」の星野潔(きよし)さん(49)が撮影した。航空法では、橋最上部の三百メートル以上を飛ぶことなどが義務付けられているが、米軍には適用されない。今回の飛行目的は不明で、星野さんは「橋のケーブルの真横付近という低空を通過し、危険だ。横浜港は米軍の訓練空域でもなく、許されない」と話している。 (辻渕智之)
星野さんによると、ヘリは三日午後一時ごろ、南側から横浜港に飛来した。米海軍厚木基地(神奈川県)所属の第五一海上攻撃ヘリコプター飛行隊の多用途艦載機MH60Rとみられる。
米軍施設「横浜ノースドック」付近の上空を通過した後、南東に約二キロ離れたベイブリッジ方向に楕円(だえん)軌道を描くように二回飛行し、二回目には橋に低高度で接近。その後、ノースドックに着地し、最終的に南側へ飛び去った。
星野さんが横浜港を望む地点から撮影した画像には、最上部が百七十五メートルのベイブリッジのケーブル付近を飛ぶヘリがとらえられている。また橋までの水平方向の距離について、星野さんは「数十メートルの近さだった」と証言している。
ノースドックで離着陸するヘリやドックに入る艦艇の監視のため、リムピースのメンバーは十年以上前から週三回ほど横浜港に通っている。今回のヘリの高度の低さや橋までの距離の近さは異例だったという。
もし同様の飛行を日本のヘリがすれば、航空法違反の可能性がある。国土交通省によると、港の上空は原則「航空機から半径六百メートル内の最も高い障害物から三百メートル」が最低安全高度とされる。しかし、特例法によって米軍には適用されない。
今回の飛行目的は不明だが、外務省によると、米軍施設間の移動のための飛行は、日米地位協定で認められている。一方、訓練目的の場合、横浜港を含めた首都圏に訓練空域が設けられていないため、原則的には行えない。仮に低空飛行訓練を行うケースでは、航空法と同一の規制を適用して安全性を確保することを日米間で合意している。
米軍厚木基地の広報担当は取材に「運用上の詳細はコメントできない」と回答。防衛省は「移動にかかわる飛行だったとの認識だ」と答えた。
米軍では、新型輸送機オスプレイの墜落など事故が相次ぎ、懸念が高まっている。星野さんは「ヘリが橋に接触すれば、通行中の車を巻き込む惨事にもなりかねない。米軍機が日本各地で勝手に訓練し、市民生活に脅威を与えているのではないか」と訴える。


この記事に東京新聞政治部がツイッターでフォローしているのですが、そこのリツイートを読むとこの記事がいかに胡散臭いものであるのかが、非常によくわかります。

すなわち、この写真は「望遠レンズによる圧縮効果」というのがはたらいていて、実際には数十メートルまで接近しているわけではないだろうというのが事実ではないか、という指摘です。ヘリコプターの大きさと橋を比較して三角関数で距離を計測した方によると、ヘリと橋の実際の距離は930メートルくらいだそうです。

おそらくですが、どこぞの市民団体とやらが東京新聞の懇意にしている記者あたりにこの写真を持っていって記事を書かせたのだろうと推測できます。記者のほうも写真を見ただけで圧縮効果など知りもせずに記事にしてしまった、というあたりが真実ではないかと思います。

事実でないことをさも事実であるかのように記事にして拡散すること、これをフェイクニュースと言わずして何をフェイクと言うのでしょうか。
すでに世の中は「新聞の間違いをネットが正す」という方向になっているのでありました。新聞に自浄作用はありませんので、間違い(この場合はねつ造と言ってもよいでしょう)を間違いであると認識できずにいる方も多数おられます。東京新聞49万部に対してリツイートはせいぜい250です。政治ブログなどで拡散されていますから、ネットでは20万人くらいの目には止まっただろうと思いますが、半分以上の新聞読者は真実を知らされないまま「米軍のヘリは危ないなあ。オスプレイはもっと危ないに違いない」などと思い続けているかと思うと、本当に新聞社によるフェイクニュースは罪深いなあと思います。

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内容(集英社HPより)
出頭という言葉を聞くと、芹沢はあの出来事を思い出す。刑務官が押さなければならない、死刑執行の3つのボタン──「ラストストロー」。家族にまつわる七編の短編を通して、人生の機微をうがつ。


曹源寺評価★★★★★
長岡センセーといえば短編。
簡潔な文章でも情景描写や人物描写は鋭く、きちんと前半に伏線を張っておいて後半に回収することを欠かさないので読みやすく、そして多少の後味の悪さも手伝って麻薬のように手を出してしまう。それがセンセーの持ち味だと思っています。
本書もまた短編集であります。
「文字盤」「苦いカクテル」「オンブタイ」「血縁」「ラストストロー」「32-2」「黄色い風船」の7編が収録されています。
いずれも傑作揃いではないかと思います。個人的に最も気に入ったのはタイトルにもなった「血縁」でしょうか。年の離れた姉に搾取されて育った妹を主人公に、ある事件を通じて複雑な姉妹関係を描いたお話です。
ふだん、短編集というのはさらっと読んですぅっと忘れてしまうことが多いのですが、本書はなぜか心にグッと沁みわたってしまいました。特に、ホラーチックな結末を迎える「オンブタイ」、刑務官の心情を描いた「ラストストロー」「黄色い風船」の2作はなかなかに良かったです。黄色い風船は読後感もさわやかで、本書全体を締め括るに最適な一作だったと思います。

やはり、短編ミステリでは長岡センセーの筆力が冴えわたる

なあと改めて感じさせてくれる、ファンなら必読の書と言えましょう。





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2017年08月22日

書評829 誉田哲也「増山超能力師大戦争」

こんにちは、曹源寺です。

「コンコルド効果」というワードをご存知でしょうか。
日本語では「埋没費用効果」と言いますが、意味は「今までに投資した金銭や時間、人的資源、努力などが無駄になるからと、そのまま続けても損失にしかならないことが分かっていながらやめることができない状態」を指します。
超音速旅客機コンコルドが、赤字続きだったのに運航中止できなかったことになぞらえてこのような呼び名になったそうです。

「やめたくてもやめられない状態」というものが世の中にはゴロゴロありそうですが、単に「伝統だから」「長年続けているから」というだけでやめられないのは「コンコルド効果」とは少し意味合いが違ってくるのかもしれません。しかし、時代にそぐわなくなっているものや存在意義を失っているもの、もういい加減やめたらどうなの?と思えるものは逆に「なんでまだやってんの?」と言いたくなりますね。

その代表格が「夏の甲子園」と「24時間テレビ」ではないかと思うのです。

夏の高校野球(以下、甲子園)は高校生を使った感動ポルノ(感動の押し売り)、24時間テレビは障がい者(障碍者という漢字が嫌いなので百歩譲って)を使った感動ポルノであります。
甲子園はまあ、他のスポーツと同様にインターハイだと思えば良いのですが、インターハイならインターハイとして時代とともに変わっていけば良いのだと思います。坊主頭の強要、炎天下での強行スケジュール、かたくなな一会場制(サッカーなど他のスポーツは複数会場制です)、神聖なイメージの醸成等々、全部大人の都合で維持されている制度です。
24時間テレビも然り。もはや何のために走っているのかさっぱり分からない100キロマラソン、一般人から募金を集め出演者にギャラを支払う謎のシステム(海外のチャリティー番組は文字通りチャリティーで出演者はただ働きですね)、障がい者にアイドルの格好をさせてステージで躍らせるという何の見世物やねん状態、24時間ぶっ続けでやることの意味さえも失われた構成(かつては24時間というスケールにインパクトがありましたが、もはやそれは微塵もないですね)等々、完全に偽善番組のレッテルを貼られて久しいのに何一つ変えようとしないのは完全に「大人の都合」によるものでしょう。

まあ、いずれのコンテンツもテレビ番組としては視聴率を稼いでいるのでしょう。数字が落ちない限りは変わらないのかもしれません。

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内容(文藝春秋HPより)
ドラマもヒット。スピンオフ作品も公開予定
超能力にまつわる機械を開発していた技術者が行方不明に。増山が調査を始めると、所員や家族に魔の手が……。大好評シリーズ第二弾。


曹源寺評価★★★★
テレビドラマ化もされた本書シリーズに、第2弾が登場しました。うれしいですねこういうの。
前作は増山圭太郎率いる超能力師それぞれのメンバーにスポットを当てていて、どちらかというとほんわかした作風でありましたが、本書はだいぶシリアスな展開を迎えます。しかも長編です。
超能力を持つ人間とそうでない人間がいる近未来の世界、という設定でスタートしていて、ものすごく現実的な展開をしていくのが特徴的な本書ですから、超能力を測定したり数値化したりするのは当然の成り行きですね。さらに一歩踏み込んでいけば、超能力を科学の力で再現しようとするのも必然であります。
本書はこうした動きを中心に、産業スパイとか防衛産業とかそんな領域にまで足を踏み入れています。
ただ、「大戦争」というほど超能力対決がビシバシ描かれているかというと、全然そんなことはありません。それに、第1弾を読んでいない人にとっては少しわかりづらいところもあるかもしれません。そもそもの世界観を解説している箇所はほとんどありませんので、やはり第1弾から読むことをお勧めします。
また、ストーリー展開もどうしても説明チックになってしまうので、決してスピード感あふれるようなお話でもないです。
本書の世界観は、

超能力を国家資格にすることで非超能力者との共存を図ろうと模索している超能力師たちの奮闘

というのが根底にあるのだろうと思います。ですから、ある意味非常に社会学的で哲学的なお話なのだろうと。派手なアクションを期待するとあとでがっかりしますので、上記のような社会背景を理解したうえで読むほうが良いだろうと思います。
あと、ドラマはココリコ田中が主人公増山を演じていますが、個人的には谷原章介が脳内再生されてしまいます。あと、増山の師匠格である高鍋リサーチ代表の高鍋逸雄は鹿賀丈史ではなくもっとゴツイ・・・古田新太とかですかね。でも、ドラマの原作再現に対する忠実さは他のドラマにはないくらい高いレベルだと思います。





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2017年08月18日

書評828 今野敏「アンカー」

こんにちは、曹源寺です。

北朝鮮がグアムへのICBM発射を一旦取りやめました。米トランプ大統領は「賢い選択をした」などと褒め称えて(皮肉って)いますが、戦争の危機が去ったわけではなく、かの国が危険な国であることも依然として変わらないのです。
一番怖いのは、腰抜けになった首領など要らぬ!といって北朝鮮の軍部がクーデターを起こすことではないかと思います。もしクーデター発生→金正恩暗殺→軍事政権発足、になったら今度は中国が乗り込んでくるだろうと思います。
北「これからは軍部が政権を運営する。まずは米国にICBM撃っちゃるで」
中「待てやコラ聞いてねえぞ」
米「やれるもんならやってみろ」
北「撃ったで〜」
米「てめえやりやがったな、戦争だ!」
中「待て待て、いま傀儡政権作るから」
米「いや待てぬ、侵攻開始」
中「そういえば正男いないんだった。どうしよう」
米「うおおおおおおおおおおおおおおおお」
中「あああああああああああああああああ」
北「グエー死んだンゴ。でもその前に核ボタンポチー」

金正恩がパフォーマンス的に威圧しているのはわかりますし、経済的にも武力的にも米国とは比べ物にならないほど弱いのも知っていますが、北が威圧行動をとればとるほど各国からの制裁は厳しくなってくるでしょう。そうなれば、北朝鮮人民の不満が爆発するとか、軍部が腰抜け将軍に辟易して暴走するとか、そういうリスクのほうがどんどん顕在化していくわけで、むしろ危機は深まっているのではないかと危惧してしまいます。
「戦争になんかなるわけない」「戦争戦争と国民をあおるな」「もっと対話しろ」などと脳内お花畑な方々がテレビで発言したりネットで書き込んだりしていますが、我々はさまざまな可能性を考慮して行動すること、つまりリスクヘッジの考え方を持つことを忘れないようにしなければなりません。

戦争とは、こっちから仕掛けなくても向こう側から仕掛けてくることがある、という当たり前の考え方さえ否定するような人の意見には耳を貸す必要はないと考えるべきです。

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内容(集英社HPより)
『ニュースイレブン』名物記者・布施と警視庁の刑事・黒田は、10年前に大学生が刺殺された未解決殺人事件を追う。関西の系列局から来た栃本も加わり、捜査は意外な展開へ! 「スクープ」シリーズ第4弾!


曹源寺評価★★★★
いつの間にか「スクープ」シリーズも第4弾に突入です。「スクープ」「ヘッドライン」「クローズアップ」と続いてきたこのシリーズは、今野センセーの作品群からはちょっとだけ異彩を放っているように思います。それはなんといっても警視庁刑事の黒田とテレビ局報道記者の布施がコンビ(!?)を組むという、なんとも奇妙な取り合わせであり、普段は飄々としながら数々のスクープをぶち上げてきた布施の人間味であり、現場百篇ならぬ「資料百篇」を地で行く粘りが信条の黒田刑事であります。警察と報道という両極端にいる二人が相乗効果を発揮して事件を解決に導くというスタイルは読ませる要素が盛りだくさんです。
今回は10年前に町田市で発生した未解決の殺人事件を、警視庁特命捜査対策室に勤務することになった黒田、谷口の両刑事が担当、そこに布施も独自の嗅覚で迫ろうとするが、東都報道ネットワーク(TBN)の深夜枠報道番組「ニュース11」のデスクである鳩村はそこにニュース性を感じず、番組として取り上げようとはしなかった。ニュース11にはちょうど関西から視聴率回復のために送り込まれた栃本がサブデスクとして就任、鳩村と栃本はそりが合わず、そこにメインキャスターの鳥飼も異を唱えるようになり、、、
スクープを連発する布施が独自の嗅覚でとらえたのは、町田市で10年前に発生した殺人事件。この未解決事件で奔走する黒田・谷口の両刑事の活躍と、ニュース11内でこのニュース(大ごとになる前の話として)を取り上げるべきか否かという報道の在り方についての問題、この2つのストーリーを連動させながら展開していくので、中だるみなし、一気に読ませる勢いで進んでいきます。
未解決事件のほうは最近のトレンドでしょうか、ふとしたきっかけで解決まで到達することがありますが、現実はそう甘くはありません。まあ、こういう解決もあるんだろうなあという程度で流せば良いのかなあと思います。
もうひとつの「報道の在り方」のほうは、いろいろと考えさせてくれますね。前作「クローズアップ」でもそうでしたが、報道と視聴率、報道とバラエティ、客観性と主観性、これらの境界線をどこに引くべきなのかという命題について、鳩村は考えさせられます。

読者も考えさせられます

が、本書で言及されているのは「アメリカでは報道番組とバラエティが区別されている」ものの「報道番組のアンカー(本書のタイトルでもありますが、)が自由に意見を述べている」という現実についてです。
日本もこれをまねて、テレビ朝日では1985年10月に、久米宏がアンカー的な役割で番組を構成した「ニュースステーション」を作りました。TBSでは筑紫哲也がこれに倣って1989年10月、「NEWS23」を開始しました。よく思い返せば、報道番組が独自色を強めていったのはこのあたりからではないでしょうか。アンカーマンの存在が番組の「色」を作り出しているという流れが今は固定されています。しかしそれは同時に、過激な一方通行の報道を生み出したとも言えるのかもしれません。
本書では言及されていませんが、電波は公共のものであって、それはバラエティだろうが報道だろうが関係ないんですね。テレビ局は公共の電波を借りて(しかも極端に安価で)番組を流しているわけで、そこに公正中立が求められるのは当たり前の話なんですよ。
ですから、個人的な感想になりますが、電波オークションが実施されるとか、放送法に厳格な罰則規定が盛り込まれるとか、クロスオーナーシップの禁止とか、放送関連の法整備をもう少し突き詰めていかないと、アメリカのようなアンカーマンによる独自の報道番組構成などは認めるべきではないと思っています。
こんな話は本書のストーリーとは全く関係ないことではありますが、「報道の在り方」に言及する以上は現在ネットなどでも議論されている上記のようなテーマを見過ごされては困るので、とりあえず書いておきました。





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posted by 曹源寺 at 16:31| Comment(0) | か行の作家 | このブログの読者になる | 更新情報をチェックする
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